エンコーダ 集 ハードウェア 特 HEVC 4K・8Kサービスを実現する超高臨場感映像技術 HEVCハードウェアエンコーダ技術 おおにし たかゆき よこはり か ず や い け だ み つ お いわさき ひ ろ え 大西 隆之 横張 和也 高精細で臨場感あふれる映像を提供可能な4K・8K映像サービスを実現 するために,膨大な映像データを高い圧縮効率で効率的に符号化できる最 新の映像符号化標準H.265/MPEG-H (HEVC)の適用が有力視されています. 本稿では,4K映像のリアルタイム符号化を実現するHEVCハードウェアエ ンコーダ技術について紹介します. 超高精細映像サービスへの期待 近年,さまざまなデバイス技術の進 展 に よ り,HDTV(High Definition Television)を超える高精細な映像を 撮影 ・ 表示できる4Kカメラ,4Kディ 池田 充郎 岩崎 裕江 さ の たかし /佐野 卓 そ か /蘇 佳 さ が た あつし /嵯峨田 淳 し み ず あつし /清水 淳 NTTメディアインテリジェンス研究所 まな伝送メディアを用いた映像配信を て,高精細 ・ 高品質映像のリアルタイ 行うためにも,高い圧縮効率を実現す ム放送通信サービスの実現に向けた技 るHEVCシ ス テ ム の 開 発 が 急 務 と 術の研究開発を進めてきました. 1 なっています. チ ッ プHDTV MPEG- 2 エ ン コ ー ダ リアルタイムエンコーダの必要性 LSI「VASA」は,映像素材を伝送す るデジタルテレビジョン中継網サービ スに,H.264エンコーダLSI「SARA」 スプレイ,4Kタブレットなどが急速 映画やドラマといった蓄積型のコン に普及しつつあります.こうしたデバ テンツ配信にとどまらず,迫力あるス は, 「ひかりTV」のデジタル放送IP イスの普及に伴い,高精細映像の放送 ポーツ中継やコンサートのライブ映像 再送信サービスを実現する装置に採用 や配信を目指す次世代の映像サービス など,リアルタイムならではの魅力あ されるなど,デジタルTVの放送 ・ 配 に大きな期待が集まっています.とり る高精細コンテンツを放送 ・ 配信する 信サービスの普及 ・ 拡大に大きく貢献 わけ4KTVに関しては,主要なTVメー ためには,映像を実時間で符号化し伝 してきました.こうした技術の蓄積の カからすでに多くの機種が発売され, 送する仕組みが不可欠です.また,番 もとに,次世代4K ・ 8K* 1 映像に対応 一般家庭への普及が進んでいます.ま 組制作にあたって必要となる映像素材 するためのHEVCハードウェアエン た,4K映像を活用したライブビュー の伝送用途では,リアルタイム性はも コーダ構成技術の開発を加速していま イングやイベント中継なども,4Kプ ちろんのこと,低遅延,小型,低消費 す(図 1 ) . ロジェクタのある映画館などで体験で 電力,高い色再現性など多くの性能が きるようになっています. 求められます.これらの要求を満たす 最新の符号化標準HEVC しかし,現在主流となっている映像 ためには,高いリアルタイム性を保ち HEVCは, 2013年 1 月に第 1 版(バー 符 号 化 の 国 際 標 準H.264/MPEG- 4 つつ,安定した符号化 ・ 配信が可能な ジョン 1 )が発行された最新の映像符 AVC(H.264)を用いたシステムでは, ハードウェア型のエンコーダが必要と 号化国際標準です(3).現在,ハイエン 高精細な4K映像を扱うために要する なります. ドのプロフェッショナル用途に向けた データ量(ビットレート)が大きいと いう問題があるため,H.264の約 2 倍 の符号化効率を誇る新しい映像符号化 これまでの映像符号化ハードウェア 技術 国際標準H.265/MPEG-H(HEVC)を これまでNTT研究所では,世界初 採用したシステムの実現が強く望まれ の 1 チップHDTV MPEG- 2 エンコー ています.さらに,4Kコンテンツを ダLSI(1)や,同じくHDTV対応のH.264 各家庭で視聴可能とするべく,さまざ エンコーダLSI(2)の開発などを通じ 高い色再現性(4:2:2/4:4:4信号)や, *1 4K ・ 8K: 4Kはハイビジョン(HDTV)と比 べて縦横それぞれ倍の3840×2160画素,8K は縦横さらに倍の7680×4320画素の解像度 を備えた映像.横幅がそれぞれ約4000画 素 ・ 8000画素あることから4K ・ 8Kと呼ばれ ます.1秒当りの映像の枚数(フレームレー ト)も,HDTVの倍にあたる毎秒60フレー ムに強化されます. NTT技術ジャーナル 2014.2 51 4K・8Kサービスを実現する超高臨場感映像技術 アナログ デジタル SDTV HDTV MPEG2 デジタルTV 中継網ボード ポータブルHDTV エンコーダ (ICCE2001) エンコーダ PCI ボード H.264 ISIL-II(2007) (Cool Chips X) ISIL(2002) (CICC2003) SuperENCII (2000) UHDTV HEVC MPEG-2/H.264 トランスコーダ HDTV H.264 デコーダ HDTV MPEG-2 デコーダ HDTV MPEG-2 エンコーダ HDTV H.264 エンコーダ エンコーダ PCカード (ICCE2000) SuperENC(1998) ENC-C/-M(1995) (Hot Chips 10) (Hot Chips 7) HDTV H.264 VASA(2002) (Hot Chips 14) SARA(2007) (Hot Chips 19) SARA/D(2008) (Cool Chips XI) 図 1 映像符号化ハードウェア技術の変遷 ビットレートに応じた品質を段階的に 表 最新符号化標準HEVCとH.264との比較 提供する階層符号化などに対応した第 2 版(バージョン 2 )の策定が行われ ています.HEVCの符号化性能は,ワ H.264 ピクチャの分割単位 HEVC 16×16画素 (マクロブロック) 16×16 〜 64×64画素 (符号化ツリーユニット) 予測ブロックサイズ 4 × 4 〜 16×16画素 4 × 4 〜 64×64画素 イントラ予測方向 8 方向 33方向 デジやDVDで使われているMPEG- 2 動き補償予測ブロック形状 正方形,長方形 と比べるとわずか 4 分の 1 のデータ量 周波数変換ブロックサイズ 4 × 4 , 8 × 8 画素 ンセグやスマートフォンなどで現在広 く使われているH.264の 2 分の 1 ,地 正方形,長方形 (非対称動き予測) 4 × 4 〜 32×32画素 で,同等の映像品質を実現できるとさ れています.映像の情報量が飛躍的に ロック形状などの組合せが大幅に強化 など,トータルで効率の良い符号化を 増大する4Kや8Kの放送 ・ 配信を現実 されています.例としてH.264との比 実現しています. 的な帯域で実現するためには,高い圧 較を表に示します.画像の特徴に応じ 縮効率を持つHEVCの採用が不可欠 て,例えば画面中の青空などの一様な です. 領域では大きな領域を一括して符号化 HEVCでは,ブロックサイズやブ HEVCは,符号化の基本的な枠組み することで不要な画面分割によるオー ロック形状などの幅広い組合せにより は従来と変わらないものの,画像に含 バヘッドを削減する一方,人ごみなど 高圧縮を実現することが可能になった まれる冗長性をより効率的に削減する の複雑な動きを持った領域は,個々の 反面,映像を符号化するエンコーダの べく,画面をブロック状に分割して符 動きに合わせて画像領域を細かく区切 演算量が膨大になり,非常に厳しい負 号化していく際のブロックサイズやブ ることで動きを詳細に予測符号化する 荷がかかることになります.符号化品 52 NTT技術ジャーナル 2014.2 HEVCエンコーダ設計上の課題 特 集 更できる構成としました. 質をなるべく損なうことなく,限られ 化処理のアルゴリズムに注力して開発 た組合せの評価で符号化効率の高い解 を進めることができます.符号化アル を見つけ出すことがエンコーダの性能 ゴリズムに変更を加えた場合でも,新 回路規模と画像品質のバランスを取り 向上に不可欠です.とりわけ,ハード たなハードウェア回路を容易に自動生 ながらハードウェアを順次実装 ・ 改良 ウェアエンコーダの設計にあたって 成することが可能です. していくことにより,設計に要する時 は,高いリアルタイム性を実現するた めに,演算回路の規模と画像品質との (2) 映像コーデック開発プラット これら 2 つのアプローチを用いて, 間を削減しながらHEVCハードウェ アエンコーダの性能を高めていくこと フォーム が可能になりました(4).一例として, トレードオフを図りながら,符号化効 SystemCで記述したハードウェア 率の高い組合せを効率的に選択する仕 回路を実際に動作させることのできる 4K映像をリアルタイムに符号化 ・ 復 組みを実現する必要があります. 映像コーデック開発プラットフォーム 号するHEVCイントラコーデックを, を開発しました(図 2 ) .ハードウェ 映像コーデック開発プラットフォーム ア 回 路 の 書 き 換 え が 可 能 なFPGA 上で実現した例を示します(図 3 ) . (Field Programmable Gate Array) モ ジ ュ ー ル 上 のFPGAそ れ ぞ れ で たっては,設計に先立ってソフトウェ を実装したモジュールを最大 4 基搭載 HDTVサイズのHEVCイントラ符号 アシミュレーションによって符号化性 し,SystemCから生成されたハード 化* 2 ・ 復号をリアルタイムで処理可 能の評価を行う方法が一般的です.し ウェア回路を書き込んでリアルタイム 能な回路を構成し,4K映像を十字に かし実際にハードウェア化した際に回 動作させることができます.メイン 分割して入力することで4Kの符号化 路規模の見積りが困難である,シミュ ボードには映像や符号化データの入出 レーションの実行時間が長くかかり, 力端子を設置するとともに, 4 基のモ 多数の映像での画質評価が難しい,と ジュールを接続するFPGAを別途搭 いった問題がありました.そこで私た 載し,モジュール間の接続も柔軟に変 HEVCハードウェア設計手法 ハードウェアエンコーダの開発にあ *2 イントラ符号化:同一の画面内の情報のみ で予測符号化を行う方式.H.264やHEVCで は,符号化対象ブロックの周辺の画素値を 基に,画素値を一定の方向に伸長して予測 する方法が用いられます. ちは,シミュレーションだけではなく 実機による画質評価を行いつつ,符号 化効率の向上のためにハードウェア構 設計データ 成を柔軟に変更しながら最適なアーキ テクチャを求めていくことが不可欠と FPGAモジュール(× 4 ) いう考え方のもと,以下の 2 つのアプ 2 層構造 ローチを行っています. 映像データ モジュール間接続FPGA ボード ビットストリーム (1) SystemCを活用した開発手法 SystemCは,ソフトウェア開発で 一般的なC言語によるソースコードか ら,ハードウェア回路を自動的に生成 ボード することができるハードウェア設計言 語です.従来のハードウェア設計言語 であるRTL(Resister Transfer Level) と比べて,演算器の構成やクロックの 扱いなどハードウェアに特有の設計が 自動化されているため,設計者は符号 FPGAモジュール(× 4 ) 図 2 映像コーデック開発プラットフォーム NTT技術ジャーナル 2014.2 53 4K・8Kサービスを実現する超高臨場感映像技術 4K映像(十字分割) 映像コーデック 開発プラットフォーム (エンコーダ) 映像コーデック 開発プラットフォーム (デコーダ) 4Kモニタ 図 3 4 K HEVCイントラコーデックの動作 を行っています. 今 後 も 同 様 の 開 発 手 法 を 使 い, HEVCエンコーダLSIに向けたハード ウェアアーキテクチャをさらに改良し ていく方針です. 今後の展開 ディスプレイ技術やカメラ性能のさ らなる向上によって,高精細映像の活 用環境はさらに広がっていくことと考 えられます.高品質かつ圧縮性能にす ぐれたリアルタイム符号化技術がます ま す 求 め ら れ る と 予 想 さ れ る 中, 4K ・ 8K映像サービスのキーデバイス となるエンコーダ技術の研究開発を強 力に推進し,高品質映像放送 ・ 配信 サービスの拡大に貢献していきたいと 考えています. 54 NTT技術ジャーナル 2014.2 ■参考文献 (1) J. Naganuma, H. Iwasaki, K. Nitta, K. Nakamura, T. Yoshitome, M. Ogura, Y. Nakajima, Y. Tashiro, T. Onishi, M.Ikeda, and M. Endo: “VASA: Single-chip MPEG- 2 422P@HL CODEC LSI with Multi-chip Configuration for Large Scale Processing beyond HDTV Level,” Hot Chips 14, Aug. 2002. (2) K. Nitta, M. Ikeda, H. Iwasaki, T. Onishi, T. Sano, A. Sagata, Y. Nakajima, M. Inamori, T. Yoshitome, H. Matsuda, R. Tanida, A. Shimizu, K. Nakamura, and J. Naganuma: “An H.264/AVC High422 Profile and MPEG- 2 422 Profile Encoder LSI for HDTV Broadcasting Infrastructures,” 2008 IEEE Symposium on VLSI Circuits, pp.106-107, Honolulu, HI, June 2008. (3) G. Sullivan, J. Ohm, W. Han, and T. Wiegand: “Overview of the High Efficiency Video Coding (HEVC) Standard,” IEEE Transactions on Circuits and Systems for Video Technology, Dec. 2012. (4) K. Yokohari, K. Nitta, M. Ikeda, and A. Shimizu: “Parallel Design Methodology for Video Codec LSI with High-Level Synthesis and FPGA-Based Platform,” 50th Design Automatic Conference (DAC 2013),Austin, U.S.A., June 2013. (後列左から)佐野 卓/ 嵯峨田 淳/ 池田 充郎/ 清水 淳/ 岩崎 裕江 (前列左から)横張 和也/ 大西 隆之/ 蘇 佳 4K ・ 8K映像サービスのキーデバイスと なる高画質なリアルタイムHEVCエンコー ダの技術開発を進め,次世代映像サービス のタイムリな実現に貢献したいと考えてい ます. ◆問い合わせ先 NTTメディアインテリジェンス研究所 画像メディアプロジェクト TEL 046-859-8954 FAX 046-859-2829 E-mail onishi.takayuki lab.ntt.co.jp
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