微研ジャーナル友 3 学 術 胃がんのリスクを検査する - ABC 検診を用いたこれからの胃がん対策- 乾内科クリニック / 認定 N PO 法人 日本胃がん予知・診断・治療研究機構 乾正幸(副院長) 大和田進 乾純和 1 はじめに 2 胃がんリスク(ABC)検診 平成 25 年 2 月 21 日にヘリコバクター・ピ 胃がんリスク(ABC)検診(以下、ABC 検診) ロリ感染胃炎に対する除菌治療が保険適用拡大 とは‘血清 ABC 分類’(詳細は後述)を応用 されました。これは政府が感染対策による胃が した胃の健康度チェックです(図1:次頁)。 ん撲滅に軸足を移したことを意味しています。 現在、多くの自治体や企業がこの ABC 検診を 最近ではピロリ菌に関する話題がマスメディア 住民検診や個別検診として採用しています。そ で取り上げられる機会も増え、胃がんの原因が れはなぜでしょうか? 理由は大きく二つあ ピロリ菌感染であるという認識が広まってきて り、一つは科学的事実に裏付けされた合理的な います。一昔前はほとんどの日本人がピロリ菌 方法であること、もう一つは医療資源的・経済 に感染していたため、無差別に胃 X 線などの 的な理由が挙げられます。 画像検診(胃がん検診)を行っても多くの胃が 三木(認定 NPO 法人日本胃がん予知・診断・ んを発見することができました。しかし胃 X 治療研究機構理事長ほか)は胃がんのハイリス 線による胃がん検診を導入してからも毎年約 5 クである萎縮性胃炎のスクリーニング法として 万人が胃がんで亡くなっている現状 1) もあり、 血清ペプシノゲン(PG)法を提唱しました 5)。 これは今までの胃がん検診による胃がん対策の この PG 法は PG I 値、PG I/II 比を用い胃がん 限界を示しています。WHO の下部組織である のハイリスク群を囲い込むハイリスク検診であ 国際がん研究機関(IARC)は 1994 年にピロ り、陽性者に対し定期的に内視鏡検査を行うこ リ菌を“胃がんの明らかな発癌物質”と位置付 とで胃がんの早期発見を目指すものです。その 2) けています 。その後、様々な研究から胃がん 後、病因論(ピロリ菌感染)に基づき血清抗 の主原因がピロリ菌感染であり、ピロリ菌未感 H.pylori IgG(HP)抗体と血清 PG 値を同時測 染者からの胃がん発生は稀であることがわかっ 定し、HP 抗体価 10U/mL 以上を HP 陽性(E てきました 3,4)。これらの事実を生かして胃が プレート‘栄研’)、PG I ≦ 70ng/mL かつ PG I/II ん対策を行えば日本から胃がんを撲滅すること 比≦ 3.0(LZ テスト‘栄研’)を PG 法陽性とし、 が可能になるのです。そのキーになる検査法が 胃がんリスクを A、B、C、(D)群に層別化で ‘胃がんリスク(ABC)検診’であり、本稿で きることがわかってきました。それが‘血清 はこれを実践的に説明していきます。 6) ABC 分類’ です。我々の検討では、HP 抗体 (-) PG 法 (-) の A 群は胃がんの低リスク群、除菌 VOL.37 No.3 2014 4 微研ジャーナル友 学 術 図1 あなたの胃はどのタイプ? -血液で胃の健康度をチェックしましょう- 後の HP 抗体 (-)PG 法 (-) の EA 群と HP 抗体 胃がん(画像)検診が集約化され、胃がんのリ (+)PG 法 (-) の B 群は中等度リスク群、HP 抗 スクがほとんどない人への放射線被曝が回避で 体 (+)PG 法 (+) の C 群および HP 抗体 (-)PG き、胃がん(画像)検診に関わるマンパワーの 7) 法 (+) の D 群は高リスク群でありました 。 節減にも繋がります。また、胃がんのリスク群 また井上(現川崎医大准教授)は人間ドックの に対しては保険診療として内視鏡検査、除菌治療、 受診者に対する 10 年間の追跡調査で A 群か フォローアップへと誘導することができます。 ら胃がん発生がなかったことを報告していま す 8)。 この血清 ABC 分類を応用した ABC 検診は、 ピロリ菌未感染者を除外し胃がんのリスク群を 絞り込むことができます。そうすることにより VOL.37 No.3 2014 3 胃がんリスク(ABC)検診に 関する最近の話題 a)ABC 検診はいわゆる‘胃がん検診’で はありません 微研ジャーナル友 5 胃がんのリスクを検査する - ABC 検診を用いたこれからの胃がん対策- ABC 検診は直接胃がんを発見する‘胃がん 除菌後の A 群(EA 群)は純粋な A 群とは違い 検診’ではなく、胃がんになりやすいかどうか 胃がんリスクが残存しています。胃がんの残存 を調べる検診です。今までの胃 X 線などによ リスクは除菌前後の胃粘膜の状態に依存するた る画像検診が二次予防(早期発見・早期治療) め 10)、除菌後も定期的な内視鏡検査が必要と を目的としたものであるのに対し、ABC 検診 なります。 は一次予防(胃がんにならないようにする)に プロトンポンプインヒビター(PPI)服用中 つながります。したがって ABC 検診を今まで は PG 値が上昇したり、胃切除後や腎不全では の胃がん検診と同様に死亡率減少効果をもって PG 値の低下や HP 抗体の陰性化がみられたり 評価するのではなく“ピロリ菌感染症対策”と するため ABC 検診の適応外になります。その して捉えることが必要です。 場合は、その他の検査を組み合わせて総合的に b)厳密には A 群=ピロリ菌未感染ではあ りません 胃がんのリスクを評価する必要があります。ま ABC 検診は HP 抗体価と PG I 値、PG I/II 比 服用している場合は、それらの薬を 2 週間以 でグループ分けしますが、それぞれのカットオ 上休薬した上でピロリ菌の検査を行うことが必 フ値の近傍はグレーゾーンであり偽陽性や偽陰 要です。 性の原因になります。特に HP 抗体や PG 法が 偽陰性になった場合は、本来ピロリ菌未感染で d)D 群でもピロリ菌に持続感染している 可能性があります あるはずの A 群にピロリ菌の持続感染群や既 D 群は HP 抗体 (-)、PG 法 (+) であり、高 感染群が混入してしまう可能性があります。 度の胃粘膜萎縮と腸上皮化成によってピロリ菌 c)ABC 検診を用いて正しく胃がんリスク を評価するためのポイント 自体が胃に棲めなくなった状態であると考えら まず、問診でピロリ菌の除菌の既往を確認す 院機構)は D 群 24 例の検討で、従来の D 群 ることが必要です。次に、HP 抗体価や PG 値 の考え方(ピロリ菌が棲めなくなった)に合致 がグレーゾーンの場合には、他のピロリ菌感染 する症例は 24 例中 1 例(4.1%)のみであり、 診断法や内視鏡検査を行い総合的に感染診断や 54.1%(13/24) が ピ ロ リ 菌 持 続 感 染 例、 胃がんリスクの評価を行う必要があります。E 25.0%(6/24)が自己免疫性胃炎例であったと プレート‘栄研’の HP 抗体価は 10U/mL 未満 報告しています 11)。当クリニックでも D 群の が陰性ですが、最近の知見では真の陰性は 3U/ 解析を行いましたが寺尾らの報告とほぼ同じ結 mL 未満である可能性が高いと考えられていま 果でありました。すなわち D 群であっても半 す。つまり HP 抗体価は 3U/mL 以上 10U/mL 数くらいは持続感染している可能性があるた 未満がグレーゾーンです。また、PG II 20ng/ め、尿素呼気試験など他のピロリ菌検査を追加 mL 以上や PG I/II 3.1 以上 4 以下もグレーゾー する必要があります。 ンであり、PG II や PG I/II の基準値の運用の見 e)真の胃がんリスクを評価するには血清 直しも検討されています。実際に高崎市では PG 法による偽陰性を減らすために、PG I/II 4 ABC 分類と内視鏡所見を照合する必要が あります 以下を陽性(三木基準では 3 以下が陽性)と 先に述べたように血清 ABC 分類にはどうし 9) た PPI などのピロリ菌の静菌作用がある薬剤を れていました。しかし、寺尾ら(加古川市民病 し運用しています 。 ても偽陰性や偽陽性が存在します。しかしピロ ピロリ菌除菌成功後は E(Eradication)群と リ菌に感染していれば必ず胃粘膜に変化を来す して A ~ D 群とは別に扱う必要があります。 ため内視鏡などの画像でその変化を捉えること VOL.37 No.3 2014 6 微研ジャーナル友 学 術 ができます。内視鏡的に胃がんのリスクを評価 糞便中抗原測定などを追加して正確な感染診断 するための方法が我々の提唱する内視鏡 ABC を行います。 分類 10,12) です(図2)。内視鏡 ABC 分類では ピロリ菌の未感染、感染、既感染を Sydney 内 4 若年者に対するピロリ検診 視鏡診断基準や RAC、木村-竹本の内視鏡萎 日本人のピロリ菌感染率は低下してきてお 縮などの程度を grading して総合的に診断しま り、高崎市では若年者のほとんどが A 群であ す。特にピロリ菌未感染粘膜の内視鏡診断は比 り(図4)、現在の高校生のピロリ菌感染率は 較的容易です。内視鏡 ABC 分類の胃がんリス 5% 程度であると報告されています 13)。ピロ クは血清 ABC 分類の胃がんリスクと整合して リ菌には 5 歳未満で感染することが多く、そ いるため、内視鏡 ABC と血清 ABC が一致し の後の長期持続感染により萎縮性胃炎が引き起 ていればそれが真の胃がんリスクと考えられま こされ胃がんなどの様々な疾患が発症してきま す(図3)。内視鏡 ABC と血清 ABC が一致し す。しかし、ピロリ菌に感染していても萎縮の ない場合は、HP 抗体や PG 法の偽陰性・偽陽 ない胃粘膜からの胃がんの発症は少なく、その 性の可能性が高いため、内視鏡 ABC 分類を優 段階で除菌をすることによって胃がんの予防効 先して胃がんリスクを評価し、尿素呼気試験や 果が高いことがわかっています 14,15)。したがっ 図2 内視鏡 A B C 分類 Sydney 内視鏡基準を参考に RAC(regular arrangement of collecting venules), 木村 - 竹本の内視鏡 的萎縮などを g r a d i n g して総合的に判定する。内視鏡 A B C 分類の胃がんリスクは血清 A B C 分類の胃がん リスクと整合している。 大和田進 , 乾純和 , 乾正幸 : 内視鏡 ABC 分類 . Helicobacter Research 15:583-584, 2011 より改変 VOL.37 No.3 2014 微研ジャーナル友 7 胃がんのリスクを検査する - ABC 検診を用いたこれからの胃がん対策- 図 3 血 清 A B C 分 類 と 内 視 鏡 AB C 分 類 が 一致している内視鏡所見 それぞれの A ~ D が真の胃がんリスクとなる。 内視鏡 B 血清 C 血清 D = 内視鏡 A = = 血清 B = 血清 A 内視鏡 C 内視鏡 D 乾正幸 , 乾純和 . 大和田進 : 経鼻内視鏡スクリーニングの実態と問題点 住民検診の立場から . 胃と腸 47: 927-937, 2012 より改変 図4 高崎市における血清 ABC 分類の年齢別頻度(EA 群を含む) E B 群、E C 群、E D 群は受診者全体のそれぞれ 3.5%、1.7%、1.2% であるため B 群、C 群、D 群に加算して 示している。 吉川守也 , 乾純和 , 大和田進 , 他 : 胃癌リスク検診の現状 ―高崎市住民検診における試み . 臨牀消化器内科 28: 1117-1123, 2013 より改変 VOL.37 No.3 2014 8 微研ジャーナル友 学 術 て若年者に対しては ABC 検診ではなく、より た厳密なピロリ菌感染診断が行われています。 簡略なピロリ菌検診で効果が期待できるので 実はこのピロリ菌陰性胃がんの 0.66% という割 す。図5に我々が提唱するピロリ菌感染率を考 合は、男性の乳がんとほぼ同じ割合です 17)。つ 慮した検診と日常診療の関わり方を示します。 まり、ピロリ菌未感染胃がんが存在するからと 高崎市では 2011 年度から血清 HP 抗体による いってピロリ菌未感染者に従来の胃がん検診を ‘20 歳のピロリ検診’を導入し、今年からは‘25 行い続けることは、男性に対して乳がん検診を 歳、30 歳、35 歳の節目検診’も導入しました。 毎年行うようなものなのです。 今後はより高い一次予防効果を期待し中学生に 対するピロリ菌検診も検討中です。 また、ピロリ菌の感染ルートとして母子感染 6 ピロリ菌治療に関わる日常診 療の問題点 が重要視されています 16)。子供をもつ夫婦や ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除 子育てに関わる人はピロリ菌検査を行い、感染 菌治療の保険適用拡大により、ABC 検診や除 していれば除菌することが大切です。そうする 菌治療をはじめとするピロリ菌感染症対策に多 ことによって、後世にピロリ菌を伝えず日本か くの人が関わるようになってきました。これか ら胃がんがなくなっていくことに繋がるので らは感染診断、除菌治療、除菌判定、除菌後の す。 フォローアップに至るまでの広い知識の普及と 専門医との密接な連携が求められてきます。こ 5 ピロリ菌陰性の胃がん の項では問題点に対するポイントを簡潔に述べ 胃がんの主な原因がピロリ菌感染症であるこ ていきます。 とはわかっていますが、ピロリ菌に感染してい a)感染診断 ない胃がんはどのくらいあるのでしょうか? 内視鏡検査を用いない感染診断法(抗体法、 広島大学の松尾らはピロリ菌陰性胃がんの割合 抗原法、尿素呼気試験)では背景胃粘膜の評価 は 0.66%(95%CI:0.41-1.01)と報告していま ができないため既感染症例が未感染群と判定さ 3) す 。これは胃がんが 100 例あったら 99 例ま れてしまう可能性があるので注意が必要です。 ではピロリ菌感染胃がんであり、0.66% だけ ABC 検診では抗体法に加え胃粘膜萎縮のマー ピロリ菌未感染の胃がんがあり得るということ カーである PG 値を同時測定することにより、 です。もちろんこの検討では複数の検査を用い 胃がんの高リスク群である HP 抗体陰性化症例 図5 ピロリ菌感染率を考慮した検診と日常診療の関わり VOL.37 No.3 2014 ※赤字は保険診療 微研ジャーナル友 9 胃がんのリスクを検査する - ABC 検診を用いたこれからの胃がん対策- (D 群)を拾い上げることができます。 けでなく、その後のピロリ菌感染診断が正確に b)画像診断 行われず適切な治療やフォローアップが受けら ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対して保 れない可能性があるのです。いかにこの未判定 険診療で除菌を行う時には内視鏡検査が必須で 者を減らしていくかが今後の課題です。 す。前述のように内視鏡 ABC 分類と血清 ABC e)除菌不成功例への対応 分類を照合することで胃がんのリスクをより正 三次除菌治療は今のところ保険適用はなくレ 確に推定することができます。また、ピロリ菌 ジメンもまだ確立していません。しかしシタフ 感染を考慮した新たな内視鏡的胃炎分類「Up ロキサシン (STFX) を用いたレジメンや高用量 dated 京都分類」も現在実用化に向け準備が進 PPI + AMPC 療法などの良好な成績が報告され められています(筆者らも胃炎分類作成委員と てきています 20)。多施設共同研究による RCT して参加しています)。胃 X 線検査によるピロ では STFX を用いたレジメンの三次除菌成功率 リ菌感染診断の研究会も立ち上げられており、 が 70% と報告 21) されており、今後より高い これからは画像によるピロリ菌感染診断が欠か 除菌率の三次除菌レジメンの登場が期待されま せない時代になってきています。今や画像検査 す。 の際にピロリ菌感染の有無を診断し被検者に また、ペニシリンアレルギー患者には標準の フィードバックしなければ道義的、法律的な問 除菌療法は行えません。当クリニックでは PPI 題が生じかねないのです。 倍量+ CAM + MNZ の 3 剤併用療法を自由診 c)除菌治療 療で行い良好な結果を得ています。 現在保険診療で認められている一次除菌は f)除菌後のフォローアップ PPI +クラリスロマイシン(CAM)+アモキシ 除菌後の適正なサーベイランスとしての内視 シリン(AMPC)の 3 剤併用療法で、二次除菌 鏡検査の間隔については専門家の間でも意見が は PPI +メトロニダゾール(MNZ)+ AMPC 分かれるところです。前述のように胃がんのリ の 3 剤併用療法です。保険診療ではこの一次 スクは除菌前の胃粘膜の萎縮の程度と除菌後の 除菌治療薬と二次除菌治療薬の順番を変えるこ 胃粘膜の再生程度に左右されますので 10)、除 とはできません。 菌が成功しても胃粘膜の状態や PG 値が改善し d)除菌判定 ない症例は胃がんのリスクが高いと考えられま 除菌判定は除菌治療薬服用終了後 4 週以降 す。また、高塩分摂取者、アルコール多飲者、 に行いますが、尿素呼気試験か糞便中抗原測 喫煙者、胃がんの家族歴がある場合なども高リ 18) を 6 ~ 8 週以降に行うことが望ましいと スクです。内視鏡 ABC 分類で C、D 群と判定 されています。抗体法による判定は半年先にな された場合は前癌病変や潜在癌がある可能性が るためコンプライアンスの低下にも繋がるので 高いので、胃粘膜萎縮の程度が改善されてくる 実用的ではありません。 までは定期的に内視鏡検査を行うべきです。見 また除菌判定に関わる大きな問題として、除 逃し病変の拾い上げも考慮 22) すると、少なく 菌薬を服用しても除菌判定を行わない‘未判定 とも除菌後 5 年間は毎年内視鏡検査を行った 者’の存在があります。当クリニックでは詳細 ほうが良いと考えられます。 定 な I.C. のもと除菌判定を行っていますが、一次 除菌例の約 13% が未判定となっています 19)。 この未判定の問題は、除菌が失敗していた場合 7 ABC 検診を用いたこれからの 胃がん対策 に患者本人の胃がんのリスクが軽減されないだ 日本におけるピロリ菌の感染率は年々低下し VOL.37 No.3 2014 10 微研ジャーナル友 学 術 てきており、あと数十年もすれば日本でのピロ 防として除菌治療を行い、二次予防として定期 リ菌感染者は稀となり胃がんに遭遇する機会は 的な内視鏡検査で胃がんの早期発見を行うのです ほとんどなくなると考えられています。しかし (表1) 。感染診断から除菌後のフォローアップ 団塊の世代が高齢化してくる 2030 年頃までは までを‘ピロリ菌感染症対策’として主治医と 胃がん対策は重要な課題です。 専門医とがネットワークを構築し囲い込むこと 昨年、厚労省研究班による‘胃がん検診ガイ によって、胃がんの発症や胃がん死亡の減少が ドライン 2013 年版ドラフト’において胃 X 期待できるのです。 線検査のみが公費検診で推奨されるとの記事が 新聞に掲載されました。しかし胃 X 線検査を 8 おわりに 正確に撮影・読影できる医師は全国的に減少し ABC 検診は今の時代に即した科学的かつ効 ており、受診者のニーズも変化してきています。 率的な検診です。胃がん撲滅に向け‘胃がんリ 日本胃がん予知・診断・治療研究機構は、この スク(ABC)検診マニュアル’も現在改訂中 ‘胃がん検診ガイドライン 2013 年版ドラフト’ です(南山堂より今秋発売予定)。多くの人に に対する声明文 23) を提出しています。 ABC 検診を受けてもらい、主治医と専門医と では、日本の現状に即した胃がん対策とはど が協力し責任をもってフォローしていくことに のようなものなのでしょうか? 胃がんの主な よって日本から胃がんをなくすことができるの 原因がピロリ菌感染であると特定され、除菌が だと考えます。 胃がんの予防や抑制に有効であることが示され ているのですから、ABC 検診を中心とした胃 【参考文献】 がん対策が最も効果的なのです。除菌後も画像 1) 厚生労働省:人口動態統計年報 主要統計表 . 診断を中心としたフォローアップが必要になり http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/ ますが、それには肝炎総合対策が参考になり suii10/ 。 肝 炎 総 合 対 策 で は、 肝 炎 ウ イ ル ス 2) Schistosomes, liver flukes and Helicobacter チェックにより未感染者を除外し、肝がんの一 pylori. IARC Working Group on the Evaluation of 次予防としてインターフェロン治療を行い、二 Carcinogenic Risks Humans. Lyon, 7-14 June 次予防として定期的なフォローアップで肝がん 1994 IARC Monogr Eval Carcinog Risks Hum の早期発見を行っています。その結果、現在で 61:1-241, 1994 は肝がん死亡が減少に転じています。これをそ 3) Matsuo T, Ito M, Takata S, et al: Low prevalence のまま胃がん対策に置き換えると、ABC 検診 of Helicobacter pylori-negative gastric cancer でピロリ菌未感染者を除外し、胃がんの一次予 among Japanese. Helicobacter 16: 415-419, 2011 ます 24) 表1 肝がん対策を参考としたこれからの胃がん対策 VOL.37 No.3 2014 微研ジャーナル友 11 胃がんのリスクを検査する - ABC 検診を用いたこれからの胃がん対策- 4) Uemura N, Okamoto S, Yamamoto S, et al: 15) 大和田進 , 乾純和 , 乾正幸 , 他 : 胃がん検診 Helicobacter pylori Infection and the Development の 見 直 し に よ る 経 済 効 果 胃 が ん リ ス ク of Gastric Cancer. N Eng J Med 345: 784-789, (ABC)検診とピロリ菌検診・除菌による見直し . 2001 日本臨牀 70: 1731-1737, 2012 5) Miki K, Morita M, Sasajima M, et al: Usefulness 16) 今 野 武 津 子 , 横 田 伸 一 , 藤 井 暢 弘 : of gastric cancer screening using the serum Helicobacter pylori の主要な感染経路は母子感 pepsinogen test method. 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