PPI 中の微小循環モニタリングの有用性 佐世保市立総合病院 技局臨床工学室 ○矢谷慎吾 草葉祥太 草野公史 小柳邦治 川脇雄次 【緒言】当院では年間約 100 例の EVT を施行しており、治療効果を定量的に評価するため に PPI 症例に対して皮膚潅流圧(SPP)を術前・術後に計測している。しかし、実際の術 中イベントによる末梢循環の評価は定量化できていないのが現状であった。今回新たに ネクシス社製 NL-101 を導入し、PPI 中の微小循環モニタリングを行い、術中イベントと 血流量変化の関係性を定量評価したので報告する。 【NL-101 での皮膚潅流圧測定の実際】ネクシス社製 NL-101 では「SRPP モード」と「IVR モ ニター」の 2 種類の選択モードがあり、実際の皮膚潅流圧測定では「SRPP モード」を使 用する。計測画面を図 1 に示す。本装置は 2ch 同時測定が可能となっており、足背・足 底の同時計測により計測時間の短縮が可能である。これにより患者が抱く測定に対する ストレスを大幅に軽減できるのではないかと考えられる。 図 1:SRPP モードでの皮膚潅流圧測定の実際 【計測方法】PPI 施行肢の足背部と足底部に専用のレーザー血流プローブを装着し、微小循 環モニタリングを開始する。専用のプローブ装着によって得られた血流量グラフに術中 イベントを入力し、PPI 施行肢の血流量の変化をモニタリングした。 【評価項目】PPI 中のイベントとして、①造影剤注入②血管拡張薬注入③IVUS カテーテル 挿入④バルーンカテーテル拡張⑤ステント拡張⑥穿刺部圧迫止血の 6 項目に対し、イベ ント前後を比較し血流量がどの程度増減するかを評価した。全症例において使用した薬 剤・部材は、造影剤:オイパミロン 370、血管拡張薬:ニトロール・アルプロスタジル、 IVUS カテーテル:Eagle eye platinum とした。 【結果】まず血流量が増大した群に関してだが、①造影剤注入では図 2 に示すように注入 直後より血流量が増大を認めるが、その後はすぐに消失し元の血流に戻ることが確認さ れた。造影剤の注入に関しては最短でも 1 分程度は効果が持続するが、病変部位によっ ても持続時間は一定ではないため血流速に依存している可能性があるのではないかと示 唆された。 図 2:造影剤注入前後の血流量変化グラフ ②血管拡張薬注入(ニトロール)では造影剤注入と同様に 図 3 に示すように拡張薬注入直 後の 2 分間で血流量増大を認めるが、その後すぐに消失し元の血流に戻ることが確認さ れた。最短でも約 1 分程度は効果が持続するが、ニトロール投与のタイミングが多くの 症例で最終造影前であり、造影剤による影響が大きく左右する場合もある。また血流速 が速いため、持続効果時間としての評価において断定はできない場合もある。 図 3:血管拡張薬(ニトロール)注入前後の血流量変化グラフ ②血管拡張薬(アルプロスタジル)注入ではニトロール注入と同様に 図 4 に示すように注 入直後に血流量増大を認める。本薬剤は膝下動脈以下の病変にて最終造影前に注入する が、効果時間が最短で 1 分程度とニトロールとあまり変わらないが、血流量の増幅に関 してはニトロールより多い印象である。 図 4:血管拡張薬(アルプロスタジル)注入前後の血流量変化グラフ ④バルーンカテーテル拡張では、図 5 に示すようにバルーン拡張中は末梢血流が遮断され るため血流量は一時的に低下するが解除後には大幅に増大することが確認された。ステ ント留置前の状態の拡張であっても良好な血流量の増大を認めるが、留置後の追加拡張 でより良好な血流量の増加を認めた。 図 5:バルーンカテーテル拡張前後の血流量変化グラフ ⑤ステント拡張では、図 6 に示すように側副血行路を介して流れる血流が多い場合には、 血流量が増大しない例もあったが基本的には増大する傾向にあったと確認された。ステ ント留置に関しては、Balloon expandable STENT の場合は直後に血流量が増大するが、 Self expandable STENT の場合には増大しない例もあった。 図 6:ステント拡張前後の血流量変化グラフ 次に、血流量が変わらない群に関してだが、③IVUS カテーテル挿入では図 7 に示すように 膝下動脈以上の病変では血管内腔に対してカテーテルサイズが小さいため血流量には依 存しなかった。膝下病変に関しては、血管内腔が極小であることや完全閉塞病変である ことが多く、定量化は不能であると考えられるが、基本的には内腔が保たれていれば血 流評価は可能であると考えられる。 図 7:IVUS カテーテル挿入前後の血流量変化グラフ 次に、血流量が低下する群に関してだが、⑥穿刺部圧迫止血にでは図⑧に示すように圧迫 を行うことにより血流量の低下を認める。これは上部からの順行性血流が低下すること により末梢循環の血流速度の低下を認めることに依存していると考えられる。また、圧 迫止血を行う際には、ロール固定の強度を血流モニタリングすることによって調節可能 となり、固定の際の末梢血流の確保と止血の両面において有効ではないかと考えられる。 図 8:穿刺部圧迫止血前後の血流量変化グラフ 【考察】これらの結果より当院では、圧迫止血を血流量の変動を参考に行うなどの取り組 みを行っている。微小循環モニタリングを導入することで、PPI 中のイベントと血流量の 変化を定量評価することは可能であると考えられる。また、 「これからの医療における臨 床工学技士の役割」として、このような新たな診断装置を駆使することで、総合的な治 療計画の立案や医師へのアドバイスを行える環境構築を行うことが重要ではないかと考 える。
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