LPガス取引適正化と料金問題について

LPガス取引適正化と料金問題について
資源エネルギー庁石油流通課は昨年 9 月 15 日(社)エルピーガス協会の理事会におい
て、家庭用LPガス小売価格の問題点を指摘し、小売価格の下方硬直性、超過利潤問題の
改善策(案)について説明し、併せて同会会員及び各都道府県協会等の会員各社に対し改
善措置を検討することを依頼した。
LPガス取引適正化と小売価格の下方硬直性の問題については、本誌でも過去何度も指
摘してきた問題である。思い起こせば、平成 11 年 6 月の公正取引委員会による「LPガ
ス販売業における取引慣行等に関する実態報告書」、7 月の行政改革推進本部規制改革委員
会の論点公開など、LPガスの競争促進に関する指摘が相次いだのを受け、エネ庁は同年
10 月「LPガス取引適正化・料金透明化アクションプラン」を発表、翌平成 12 年には「L
Pガス料金問題検討会最終報告」がとりまとめられた。
一方、LPガス業界は、アクションプランを受けて旧日連が「LPガス販売指針」を策
定し、今年 5 月にはエルピーガス協会が改定版を発行し、販売モラルの徹底を図ることに
している。
さて、今年 6 月にはエネルギー基本計画が改定され、LPガスに対する位置づけが定ま
ったが、どうもエルピーガス協会が取り上げている取引適正化と経済産業省が指摘する取
引適正化には大きな溝があるように思えてならない。エネルギー基本計画で示された「取
引適正化を通じた流通網の維持」とは何か、ある意味、LPガス業界のガラパゴス化が進
んではいないだろうか。
1.エネルギー基本計画とLPガス取引適正化
昨年 6 月 18 日に閣議決定された「エネルギー基本計画」において、LPガスは「分散
型エネルギー供給源で、災害時対応にも優れ、化石燃料の中で比較的CO2排出が少ない
クリーンなエネルギーであり、重要なエネルギー源として引き続き低炭素社会の実現にも
資する利用を促進する。その際、備蓄の着実な推進や、家庭用等小口需要に対する配送の
低炭素化を進めることが重用である」と位置づけられた。天然ガスと比較すると、後塵を
拝した感は否めないが、条件付の利用促進であるといえようか。
さて、この基本計画で、LPガス業界が最も真摯に受け止めなければならないのが、第
3章第1節にある「2.国内における石油製品サプライチェーンの維持(2)全国に渡る
石油製品・LPガス流通網の維持」に係わる記述である。
本文は次のとおり。「さらに、LPガスについては、充てん所の統廃合・交錯配送の解
消等の配送の低炭素化を進めるとともに、取引適正化等を通じた流通網の維持を図る」
この意味するところは、流通の合理化、経営の合理化、つまるところ業界の集約化であ
り、また、取引の適正化とは、料金の透明化、料金体系の多様化、新たなサービス展開に
よる顧客利益の増進である。更に換言するなら、「流通の合理化を図り、安全・価格・,
サービスに優れ、顧客の利益の増進を図ることのできる、健全な競争環境のなかで勝ち抜
いたものにより流通網は維持される」のである。
「取引適正化等を通じた流通網の維持」とは、LPガス事業者の既得権益を優先するよ
うな非競争的な商習慣を維持するということではない。あくまでサプライチェーンの維持
は、健全な競争環境が大前提となっているのである。
このエネルギー基本計画に込められた経済産業省の思想は、
「第3章第8節エネルギー産
業構造の改革に向けて」に集約されている。その中から一部を紹介しよう。
1.エネルギー産業を取り巻く環境変化~「エネルギー産業についても中長期的に様々な
構造変化が予想される。電気については、民政部門を中心に電化のさらなる進展が見込ま
れ、エネルギー供給の中心的役割を担っていくと考えられる。ガスは民生部門では競争激
化と産業向けではさらなる需要拡大が見込まれ、コジェネレーションが分散型エネルギー
の主な役割を担っていく」
2.エネルギー産業の構造改革の方向性~「複数のエネルギーを扱い、顧客や地域の特
性に応じて、最適に組み合わせて供給できる総合エネルギー企業体(ガス・アンド・パワ
ー、オイル・アンド・ガス等)の形成を促していくことも重用である。そして、これらの
事業や企業が有機的に連携し、国内外の需要家のニーズを満たす競争が活発化していくこ
とが見込まれる」
日本のエネルギー政策は大きな転換点を迎えている。改訂エネルギー基本計画は、全く
新たな「エネルギー基本計画」と捉えるべきなのである。
一方、
(社)エルピーガス協会は、昨年 6 月「LPガス販売指針(取引適正化・料金情
報提供の自主的取決め)」を改定し、法令遵守、販売モラルの徹底を図る旨、会員に周知
している。
改定の主な内容は、①取引適正化について特定商取引法改正の追加、②料金情報の提供
について、独禁法の不当廉売の指針内容の追加、③販売事業者の変更について、取外工事
等の国家資格を追加、④配管を巡るトラブル防止については、無償配管の廃止の徹底、の
4点である。
LPガス業界にとっての取引適正化の主眼は、首都圏で横行する消費者を巻き込んだL
Pガス販売・勧誘に関するトラブル、いわゆる「ビン倒し」対策であり、そこには健全な
競争を促す販売コストの引き下げや、料金引き下げに向けた経営努力といった思想はなく、
非価格競争の推進による現行料金水準を正当化するためのものではあるまいか。
保安と安定供給はLPガス販売の大前提であり、サービス以前の問題である。販売指針
では「消費者はそれらを重要なサービスの提供として認めてくれるはずです」との認識で
ある。これで顧客利益の増進を図ることができるであろうか。
LPガス業界にとっての取引適正化はLPガス事業者のためのものであって、エネル
ギー基本計画で想定する取引適正化とは大きなギャップがある。LPガス業界は非競争
的な独自の商習慣のもとに発展してきたが、エネルギー間競争の波に呑まれ、過疎化や
省エネ機器の普及により販売量は減少の一途である。厳しい経済情勢のなかで消費者が
望むサービス(安価・安全・多様なサービス)に対応する意思も能力もないのであれば、
2030 年時点の一次エネルギー供給見通しにおいて、化石燃料で唯一横ばいが想定された
LPガスも早晩下方修正されることになるであろう。
2.LPガス料金の下方硬直性と超過利潤エネ庁の指摘と業界の反応
資源エネルギー庁石油流通課は、9 月 15 日に開催された(社)エルピーガス協会理事
会において、家庭用LPガス価格の問題点を指摘し、それに対する改善策について要請し
た。その内容は次のとおり。
家庭用LPガス小売価格の問題点
1.従来から、LPガスの小売価格に関しては、下方硬直性(仕入れ価格の下落時に値
下げをしないこと)があると指摘されてきた。
この問題について(社)エルピーガス協会の「LPガス販売指針」では、定期的に料
金水準を見直すことは、努力義務としている。
一部の販売事業者では、仕入れ価格の変動を受けて、同じトレンドでの価格改定が行わ
れていると思われる。また、都市ガスなどと同様の原料費調整制度を導入し、原料価格の
変動とリンクした価格改定を行っている販売事業者もいる。
しかし、平成 20 年の輸入価格乱高下以降の価格動向を踏まえると、業界全体としてみ
れば、下方硬直的な体質は改善されてないといわざるを得ない。
2.エネルギー基本計画で指摘されている家庭用燃料電池の導入やLPガスへの燃料転
換など、「低炭素社会の実現にも資する利用」の増加を現実のものにするためには、LP
ガスの販売事業者・販売価格に対する消費者からの信頼を得ることが不可欠ではないか。
一般国民の温室効果ガス排出量への注目度が高まりをみせており、早晩、光熱費の支
出にも関心を向けるようになることが予想される。
すでに、一部の大手販売事業者では、公益事業と同様の原料費調整制度を導入している。
簡易ガス事業を兼業する事業者も、この制度を導入するポテンシャルを有している。これ
ら消費者からの信頼を得やすい事業者との競争上の観点からも消費者に分かりやすい料
金改定の仕組みを導入し、定期的な料金改定を行うようにすることを真剣に検討すべきで
はないか。
小売価格の下方硬直性、超過利潤問題の改善策案
改善措置①
消費者への超過利潤の還元(小売価格を現在の輸入価格と同等だった過
去の小売価格と同水準にもどすだけでは、超過利潤が販売事業者の手元に残る)
改善措置②
仕入価格の変動に定期的に連動させる料金制度(例えば、簡易ガス事業で
導入している原料費調整制度)の導入
小売価格と仕入価格とを連動させるような契約にする場合には、指標となる金額の変動
を契約の相手方である消費者が確認できるもの(例えばCPやCIF)にする必要がある。
改善措置の具体的内容は、自らの取引実態に応じて個々の事業者が決めるべきものであ
る。また、エネルギー間競争があることや、2,500 万件のLPガスユーザーからLPガス
業界に対する不信感を持たれないようにするため、改善措置の速やかな実行が望まれる。
石油流通課は、今回の問題点を指摘するに当たり、最近の小売価格の動向、小売事業者
のマージンの推移、更には、平成 21 年度石油ガス販売業経営実態調査結果から流通合理
化の取組実態や経費の状況、経常損益率など、詳細な資料を提示し、これまでになく踏み
込んだ文言となっている。
これに対するLPガス業界の反応は、非常に鈍いといわざるを得ない。
平成 22 年度某地方液化石油ガス懇談会(エルピーガス振興センター、経済産業局主催)
において、石油流通課は各県の消費者代表、行政担当官を前にして、上記の問題について
指摘し、各県エルピーガス協会の代表に対し、どのように指導し、また、この問題につい
ての会員への周知を行ってきたのか問い質したが、
「料金問題は個々の事業者の問題であり、
料金の指導は公取の問題もあり、できない」、
「周知は理事会等で行っている」などと各県
ほぼゼロ回答に近いものだった。
また、異なる全国会議においても、超過利潤との指摘に憤慨し、「CPの高騰や保安コ
ストの上昇により業界の経営は厳しく、経済産業省の印象とは異なる」との反論もみられ
た。
確かに、LPガス販売事業者は以前に比べると厳しい経営を強いられている。電化攻勢
や人口減少・過疎化による消費者数の減少、高効率機器の普及による消費原単位の減少な
ど販売量は落ち込み、それをカバーするには、必死で燃転を図って給湯器等のガス器具を
販売するしかないわけだが、営業力のない事業者は小売料金の値上げ(仕入れが下がって
も料金を下げない)で対応するしかないのだ。しかし、それは自分で自分の首をしめてい
るようなもので、ガス料金の高騰はガス器具の販売を困難にし、更に消費者離れによる販
売量の減少を招くといった悪循環をもたらすことになる。
今回の石油流通課の指摘は、LPガス小売価格の料金水準を問題にしているのではない
ことをLPガス業界は認識すべきだ。あくまで小売価格の透明性の問題であり、輸入価格
(CP・為替レート)の変動という事業者の努力の及ばない部分については外部化し、仕
入れ価格の変動、上げ下げを明確化して料金に反映してほしいということである。
平成 21 年度のLPガスお客様相談所に寄せられた相談件数は 5,702 件と前年度に比べ
659 件の増加、そのうち 1,593 件(28%)が価格に関してで、販売店の移動 1,730 件と
合わせると全体の 6 割に達している。
LPガス価格の高騰は最近の地方のニュースにも取り上げられ、消費者の関心も高まり
つつある。LPガス業界は下方硬直性の問題に真摯に取り組むべきなのではないか。
3.アクションプラン・料金問題検討会 10 年で業界の何が変わったか
1 月積みプロパンCPが史上最高値を更新し、935 ㌦となった。プロパンCPの値上げ
は 5 ヶ月連続で合計 360 ㌦の上昇、LPガス元売仕切は円高の影響もあり 10~2 月で計
28,000 円/㌧どころの値上がりになる見通しである。
業界関係者によると、2 月以降、LPガス小売料金については、20~40 円/m3 どこ
ろの値上げを検討している販売事業者が多いもようだ。
石油情報センターの液化石油ガス市況調査(速報版)をみても、全国平均価格は 11
月で下げ止まり、12 月以降、値上がりに転じている。
一方LPガススポット市況は、年明け後急落し、2月CPの急落が視野に入り、さらに
先物はバックワーデーション(先安)となっている。
大手事業者などすでに原料費調整制度を導入している事業者は粛々と原料費の変動を
料金に転嫁するだけのことであるが、いまだに導入していない事業者はいつから、どれ
だけ値上げし、更にその先にどれだけ値下げできるのか、いまは料金表の改定と書面の
交付の準備で大童であろう。
ただ、今回の値上げについて,言及すれば、2008 年 7 月にプロパンCP905 ㌦を記録
した際に値上げし、その後のCP急落時に値下げをしていない事業者が値上げする根拠
は乏しい。なぜなら、昨秋以降の急激な円高により、2008 年 7 月の円建てCP(TT
S平均は前月月間)が 97,677 円/㌧であるのに対し、2011 年 1 月は 78,961 円/㌧と
当時を大きく下回っているためだ。加えて、石油流通課が要請する超過利潤の還元まで
含めると、値上げを実施することは消費者に対する欺瞞になりはしないだろうか。
やむを得ず 1 月CPを受けて値上げを実施するのであれば、CP急落後の値下げは必
ず実施すべきである。杞憂かもしれないが、保安コストの上昇を理由に値下げを拒むこ
とはあってはならない。保安コストの上昇は基本料金に係わる問題であり、従量料金の
値上げとは区別するべきものだからだ。まして、供給機器(メーター、調整器,ホース等)
の期限管理ができていないような事業者には、基本料金を満額取る資格すらない。
さて、料金問題検討会最終報告においてLPガス料金透明化に向けての提案がなされ
て 10 年が経過した。そこで示された、三部料金制、原料費調整制度、メニュー料金等
の料金体系がどの程度導入されたであろうか。
大手卸売事業者の直売部門では多くが原料費調整制度を導入しているし、ガス器具販
売に熱心な事業者は、ハイブリッドカウンターを利用するなどメニュー料金を取り入れ
ているところも少なくない。
電化対策は、最新型ガス器具の販売以外にはなく、そのためにはメニュー料金等によ
る提案をもって消費者に経済的なメリットも提示することが肝要である。しかしながら、
こうした努力によっても消費者数の増加につながらないところが、LPガス業界の限界
であり、経営努力のモチベーションを下げる原因となっているのかもしれない。
だからといって、非価格競争を否定するものではない。地方の零細事業者であっても、
地域に密着し、高齢者等との密接なコミュニケーションにより信頼を勝ち取っている事業
者も多い。これもサービスの一種であり、消費者もサービスの対価として納得してガス料
金を支払っているのだ。
今冬のCPの高騰は原料費調整制度を導入する最大のチャンスとなる。現在の高騰した
CP価格を基準原料価格に設定すれば、春には調整額の引き下げで始めることができるた
めだ。さあ、導入の準備を始めよう。いつまでも石油流通課にいわれ放題では情けないで
はないか。
平成 2 年を 100 とした物価指数の推移
総合指数
電
気
都市ガス
LPガス
1990 年 100.0
100.0
100.0
100.0
1995 年 107.0
98.2
99.0
110.7
2000 年 108.6
93.6
103.6
120.4
2005 年 106.3
85.7
104.0
124.4
2010 年 106.6
89.3
114.1
144.9