機能物質科学研究所 報告第10巻第1号 pp.45’y50 (1996) Nafion−H触媒下ベンジルアルコールを用いるベンゼン及び トルエンのベンジル化反応 田中 幹*・石本佳子**・松田 俊夫** 又 賀 駿太郎・田tt代 昌 士 Nafion−H Catalyzed Benzylation ot’C B enzene and Toluene with Benzyl Alcohol Kan Tanaka, Keiko lshimoto, Toshio Matsuda, Shuntaro Mataka and Masashi Tashiro Nafion−H catalyzcd Fric(icl一・Craks compctitivc bcnzylation ofbenzene and tolucne with benzyl alcohol rcvcaled that diphcnylmethanc(DPM)and mc山yldiphenylme出anes(Mc−DPMs)wcre fomed by two pa1hways;dir㏄11y from benzyl alcohol and indirectly vid’ dit)cnzyl ethcr (DBE) a/g intcnncdiatc. 1.緒 言 2.標準物質の合成と検量線作成 近年、固体触媒であるNafion−Hが有機合成化学の トルエンのベンジル化反応において、パラー、オル 諸分野で触媒として使用される様になり、本触媒に関 トー及びメターメチルジフェニルメタン(Mc一・DPM)が する優iれた総説もある1)。一方、Fricdcl・Craftsベンジ 生成することはよく知られている3}。従って、本研究 ル化反応は典型的なアルキル化反応として良く知ら を遂行するためには、これらの定量を行う必要がある。 れているが、最近、01ah及びYamaIoら2)は、本触媒 そこでまず、標準物質であるp一,o一, m−Mc−DPM類の 下におけるベンジルアルコールとベンゼンとの反応 合成を行った(Tablc 1)。 において、目的としたジフェニルメタン(Dl)M)以外 AICI,一CH,NO2触媒はベンジル化反応において異性 にジベンジルエーテル(DBE)が生成することを見い 化を伴わないことがOlahらにより明らかにされてい 出している。しかし、このDB EがDPMの前駆体で る3)。Run 1の結果から分かるように、Ldから目的と あるかどうかの詳細な検討は行っていない。 した純粋なp−Mc−DPMが得られている。しかし、注 意すべきことは、特に大量合成する場合に、反応後十 今回、著者らは先に述べたDBEの生成に興味をもち 標記の研究を行った。 分水洗いしてから、生成物の蒸留を行わないと異性化 反応や副反応を伴うことがある。事実、ほとんど純粋 受理日 1996年7月29日 なp−Mc−DPMを含む粗生成物を十分水洗せずそのま 本論文を名誉教授 竹下齋先生に献呈する. ま蒸留したところ、DPM 48%,Mc−DPM 52%(p−Me− *九州大学大学院総合理工学研究科分子工学専攻 DPM l 5.6%,o−Mc−DPM 5.8%,m−Mc−DPM 30.6%)の **東和大学工学部工業化学科 混合物が得られた。 一 45 一 Nafion−H Catalyzed Benzylation of Benzene and Toluene with Benzylalcohol Table 1 Reaction of benzcne with methylbenzyl chlorides 1;a−Lc under various conditions.‘) Me/(;)hCH2cl Mρ一CH・0 catalyst ◎ Me−DPM ユa:para一 ユb:o曲。一 ユ9:meta一 Isomer distribution Catalyst Run 1 Temp. Time 1 ortho meta La r.t. I h La r.t. 5 h 冷ICIゴCH3NO2 2 3 La 90℃ 20 h Nafion−H 4 Lt r.t. I h TiCl, 5 ユ」∼ r.t. 20 min FeC13 6 Lc r.t. I h TiCl, 7 Lt r.t. 5 m in FcCl, para O O 100 1.4 O 98,6 TiC1, 0 O 100 99.4 O O,6 100 O O O.8 98.5 O O 100 O a)1/bcnzenc=1/100(mol/mol). このことは、少量のAIC』が粗生成物中に存在し、蒸 の低い触媒でも、少量の異性体が生成することが見い 留の際に高温に加熱され、異性化及び副反応が起こっ 出された(Run 2)。 Table・1の結果から分かる様に、 o一 たことを示唆している。事実、AICI,触媒によるDPM 及びm−Mc・DPMの合成にはFcC13が最も優れt」触媒 類の異性化はよく知られている4)。 である。 また、Nafion−H触媒を川いた場合は反応時問が長 さて、以上.に述べたDPM,Mc・DPM類, DBE及びベ く、本触媒はp−Mc−DPMの合成には適当でないと思 ンジルアルコールの㏄による定量分析に必要な内 われる(Run 3)。興味あることに、 TiCt,のような活性 部標準物質としてビシクロヘキシルを選び、それぞれ に対する検量線を作成した(Figurcs 1・6)。 4 4 RA2=1.000 RA2 =1.000 受 妥 署 3 署 3 豆. 豆 萱 盤 2 2 s i ら $ 醜 聲1 1 U’ aO 一 o o o 1 2 3 o 4 1 2 3 4 p−Me−DPM {g} 0−Me−DPM (g) Fig.1 Calibration curve of p−Me−DPM. Fig.2 Calibration curve of o−Me−DPM. 一 46 一 九州大学機能物質科学研究所報告 第10巻 第1号(1996) 4 4 RA2=1.000 RA2=1.000 委 .o 3 1 2 $ 焉呈 ヌ 3 U { 2 話 琶 で 号 奮 ao 1 Di a¢ 1 0 o 0 竃 2 3 4 O l 2 3 4 m−Me−DPM (g) DPM (g) Fig.4 Calibration curve of DPM. Fig.3 Ca:ibration curve ot m−Me−DPM. O.5 1。O R^2=O,993 _ RA2=1.OOO 妻 風。・4 蓋0’8 り ゆ あ ゴ藝 0.3 . 圭; O.6 リ へ ぎ。2 薯。,4 回忌 . 慧 a。 E.1 誌。.2 紹 O.0 0.O O.0 0,1 0.2 0.3 0.4 0.5 0,6 0.O O.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 DBE(g) ・ . benzyl alcohoi(g) Fig.5 Calibration curve of DBE. Fig.6 Calibration curve of benzyl alcohol。 3・.Nafion−H触媒を用いるFricdcl・Craksベンジル ンの競争反応 化反応 まず・Olah, Yamatoらの報告した結果との比較検討 3−1.ベンジルアルコールに対するベンゼンとトルエ を行うために、標記の競争反応を行なった(Tablc 2)。 Table 2 Compctitivc rcaction of benzcne and tolucnc with benzyl alcohol in the prcscnce of Nafion−H a【90℃.a)●b》 〈}C H2.H 甑2PM:察:説鳳...........。,一一 i)roduct(%)の Isomcr distribution Time DPM Me−DPM DBE 60min 19.9 70.3 9.8 90’min 20.6 72.3 120,min 21.6 12h 22.6 ortho mcta para Kr/ Kti 47.8 5.4 46.8 3.8 7.1 47.0 5.6 47.4 3.8 73.6 4.8 46.7 5.7 47.6 3.7 77 ,4 0 46.4 5.7 47.9 3.7 a) Molar ratio of benzyl alcohol 1 bcnzenc / tolvene = 1 1 30 / 30. b) Ratio ofNafion−H/ bcnzyl alcohol = O.2 Z 1 (wt/ wt). c) Rclativc yield detcrmined by GC. 一 47 一 Nafion−H Catalyzed Benzylation of Benzene and Toluene with Benzylalcohol この結果から分かる様に、反応初期にはDBEの生成 3−2.DBEに対するベンゼンとトルエンの競争反応 DBEとベンゼン及びトルエンとの反応を90℃で が認められたが、反応の経過ともにその収率は低下し 反応時間12時間では消失している。このことはDBE 行った結果をFig.7及びFig.8にまとめた。 がDPMやMc−DPMの中一体である可能性を示唆し いずれの場合にも、ベンジルアルコールを用いた場合 ている。このことに関しては後述したい。さて、平均 に比べて反応は遅い。このような現象はTablc 3に示 K♂K,値は3.75であったが、先に提案した相対反応 す競争反応においても観察された。即ち、反応6時間 性を示すRr値s)は次の様になる。 Rr=6α!N・ KT/KB=(6×47.41100)x3.75=10.7となり、この 後でも22.7%のDBEが回収されているが、 Mc・ DPMの異性体分布、及び先に述べた相対反応性を示 値はOlahの提案しているπ錯体の安定性3)をより正 すRr値には大きな差は認められなかった。 確に表現していると思われるが、詳細については今後 さらに検討する必要がある。 Nafion−H DBE DPM ◎ Nafion−H DBE Me−DPM CH3 ◎ 100o 100 DPM Me−DPM 80 800 婆・・0 ( 琶 g ぢ 60 ω コ 3 0 8 40 a 40 」 匹 200 20 DBE DBE 0 0 o 200 100 o 200 400 time (min) time (min) Fig.8 Reaction of Toluene with DBE Fig.7 Reaction of Benzene with DBE Table 3 Nafion−H catalyzed competitive benzylation of bcnzcnc and toluenc with dibenzyS cthcr at 90 ℃.“)’b} DBE Nafion−H DPM ◎/δ∋ Rccovcred Time DBE(Olo) Me−DPM Isomcr distribution Product (90) DPM Me−DPM 十 ortho meta para Kr/Kii 42.5 6.5 51.0 3.1 120 min 79.2 5.0 15.8 61.7 9.6 28.7 180 min 54.1 IL3 36.4 42,4 6.0 51.6 3.1 42.7 5.7 51.6 3.4 42.8 5.7 51.5 3.2 60 min 6h 22.7. 17.7 59.6 24 h 0 23.7 76.3 425 6,0 51.5 3,0 a) Molar ratio ofdibenzyl cthcr/ bcnzene 1 tolucnc = 1 1, 30 / 30. b) R’atio of Nafion−H / dibenzyl cther = O.2 1 1 (wt l wt). 一 48 一 九州大学機能物質科学研究所報告 第10巻 第1号(1996) 合物の㏄分析における保持時間をTablc 4に示す。 4.まとめ なお、ガスクロマトグラフィーは、Yanaco G 6800型 ㏄を用いた。 以上述べた結果から、Schcmc lに示した反応経路 を提案する。すなわち、DBEはベンジルアルコールの 測定条件:Mcthyl silicone capillary column O.32 mm ベンゼン及びトルエンとの反応でDPM及びMe− I.D × 50 m × 1.0 A Film, Oven 162 ℃, lnjection DPMの生成と競争的に生じるものであって、 DPM 282 ℃, Dctcctor 300 ℃, Carricr Hc, O.9 ml/m in. やMc−DPMの前駆体として常に生成しているのでは ない。また、一旦生成したDBEはベンゼンやトルエ ンとゆっくり反応して、DPMやMc−DPMを生成する Table 4 Retention time. Matcrial Relention time(min) ことを確認した。さらに、Nafion−Hはアルコールをア Bcnzyl alcohol 8.7 ルキル化剤として用いる反応に有効であるが、塩化ア m−Xylyl chloride 10.1 o一一Xylyl chloricle 10.1 p−Xylyl chloride 1 0.6 Bicyclohcxyl 19.1 ’ルキルを用いる反応に不適当であることが明らかと なった。 なお、Nafion−Hはジメチルエーテルなどの生成に 活性であることが知られているが6)、このことは上記 の反応におけるDBEの生成をよく説明している。 ‘ DPM Me−DPM NK pt)ill;xH3 DBE DPM 25.9 m−Mc−DPM 35.4 o−Me−DPM 36.4 p−Me−DPM 37.3 DBE 54.3 5.2検量線の作成 /Q p−Mc−DPMの場合を例として述べる。 50m1のメスフラスコ.にp−Mc−DPMを1.002 g秤 量し、メシチレンを標線まで加え、これをp−Mc−DPM 標準溶液とした。同様にして、ビシクロヘキシル Scheme 1 (1.002g)のメシチレン標準溶液を作成した。 ホー 5.実験の部 の混合液を作り、それらをGC分析して、本文で述べ ルピペットを用いて上記の標準溶液から種々の割合 た検量線を作成した。 5.1標準物質の合成 一般的操作を以下に示す。 5.3ベンジルアルコー・一一ルを用いるベンジル化反応 冷却管、窒素ガス導入管、及び滴下ロートを付けた 以下にその一例を示す。 三角フラスコに、ベンゼン(78 g,1000mmol)と ベンジルアルコール(1.08g,10 mmoi)、ベンゼン FcC13 (1.9 g,12mmo1)を加え、5分間i撹拝した後、 (23.4g,300 mmo1)、トルエン(27.6 g, 300 mmol)及 m一メチルベンジルクロライド(11.2 g,8mmol)を3 び、内部標準物質のビシクロヘキシル(1.001g)の混 分間かけて滴下した後、反応混合物を室温で4分問撹 拝した。反応後、反応混合物を氷水に投入し、有機層 合物を90℃に加温した後、Nafion−H(220 mg)を加 をエーテルで抽出し、Na,SO、で乾燥した後、減圧下に に投入し、先に述べたと同様の処理により、㏄分析 エバボレータを用いてエーテルを留去して、粗生成物 用の試料を得た。 え、所定の時間反応した。反応後、反応混合物を氷水 を得た。これを㏄分析に付し、また、蒸留により目 的物を単離精製した。完全に触媒を除去するためには、 先に得られた有機層をあらかじめ、活性アルミナのカ 5.4 DBEを用いるベンジル化反応 DBE(1.98 g,10・mmol)を用いて、上記と同様の反応 ラムに通すか、または、活性アルミナと粗生成物とを 石油エーテル等の溶媒中でしばらく撹拝した後に、先 に述べた処理をするとよい。なお、本研究で用いた化 一 49 一 を行い、㏄分析試料を得た。 Nafion−H Catalyzed Benzylation of Benzene and Toluene with Benzylalcoho1 6.文献 1.(a)小田良平,化学,24,577(1979).(b)G.A. Olah, P. S. Lyer, G. K. S, Prakash, Synthsis, .1.2tSS86,’ 513. (c) 大和武彦,和光純薬時報遥2,1(1991),亘2,13・(1994). (d)大和武彦、有機合成化学協会誌,箪,487(1995). 2. (a) T. Yamato, C.Hjdcshima, G. K. S. Prakash, G. A. Olah,.Lαg. Chc肌,区i,2089(1991). (b) T. Yamato, M. Fukumo to, N. Sak aue, T. Furusawa, M. Tashiro, Synthesis, .1.292.19 1, 699. 3. G. A, Olah, S. Kobay‘dshi, M. Tashiro, J. Am. Chcm. Soc., 2t4L, 7448 (1972). 4. 0. Tsuge, M. Tas hiro, Bull. Chcm. Soc. Jpn., Zt, 184 (1965). 5. Relative rcactivity: Rr =6 a IN × K,,/KB ; a; relative ・ratio ofmain product, N; number ofthe po’sition of main product. This conccpt will be published in near future. 6. J. Kaspi, D. D. Montgomcry, G. A. Olah, 」. Org. Chcm., fLt,3147 (1978). ‘ 1 一 50 一
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