Tychonoff の定理と選択公理 alg-d http://alg-d.com/math/ac/ 2014 年 8 月 15 日 定義. (X, OX ) を位相空間とする. 1. X がコンパクト ⇐⇒ 部分集合 U ⊂ OX が X = ∪ U を満たすならば,ある非負整数 n とある U0 , · · · , Un ∈ U が存在して X = U0 ∪ · · · ∪ Un . ∪ ∩ ∪ ∩ ※ 集合 A に対して A := A, A := A である. A∈A A∈A 2. F ⊂ AX が有限交差性 (finite intersection property) を持つ ⇐⇒ 任意の整数 n ≥ 0 と任意の F0 , · · · , Fn ∈ F に対して F0 ∩ · · · ∩ Fn ̸= ∅. 補題 1. 位相空間 X に対して次の命題は同値. 1. X がコンパクト 2. F ⊂ AX が有限交差性を持つ =⇒ ∩ F ̸= ∅ 証明. 補集合を考えれば明らか. 定義. X を位相空間とする. 1. (I, ≤) を有向集合とするとき,{xi }i∈I (xi ∈ X) を X の有向点列という. 2. x ∈ X が X の有向点列 {xi }i∈I の集積点 (cluster point) ⇐⇒ x の任意の開近傍 U ⊂ X と任意の i ∈ I に対して,ある j ≥ i が存在して xj ∈ U となる. 3. X の有向点列 {xi }i∈I が x ∈ X に収束する ⇐⇒ x の任意の開近傍 U ⊂ X に対してある i ∈ I が存在して,任意の j ≥ i に対 1 して xj ∈ U となる. 定義. (I, ≤), (J, ≤) を有向集合とし,{xi }i∈I を X の有向点列とする.順序を保つ写像 i : J −→ I が「任意の i0 ∈ I に対してある j ∈ J が存在して i0 ≤ i(j)」を満たすとき, 有向点列 {xi(j) }j∈J を {xi }i∈I の部分有向点列という. 次の有向点列に関する性質は認めることにする. 命題. X を位相空間とする. 1. x ∈ X が X の有向点列 {xi }i∈I の集積点である ⇐⇒ x に収束する {xi }i∈I の部分有向点列が存在する. 2. X がコンパクト ⇐⇒ X の任意の有向点列が集積点を持つ. ⇐⇒ X の任意の有向点列が収束する部分有向点列を持つ. 定理. 以下の命題は (ZF 上) 同値. 1. 選択公理 2. コンパクト空間の直積はコンパクト.(Tychonoff の定理) 3. コンパクトな T1 空間の直積はコンパクト. 4. 開集合が有限個な空間の直積はコンパクト. 5. 開集合が丁度 3 個な空間の直積はコンパクト. ∏ 証明. (1 =⇒ 2) {Xλ }λ∈Λ をコンパクト空間の族とする.X := Xλ がコンパクト λ∈Λ であることを示すために,X の有向点列 ξ = {fi | i ∈ I} を取る.Σ ⊂ Λ に対して ξ|Σ := {fi |Σ | i ∈ I} と書く.(各 fi ∈ X は写像 Λ −→ おく.) ∪ λ∈Λ Xλ であることに注意して { } ∏ A := g Σ ⊂ Λ, g ∈ Xλ , g は ξ|Σ の集積点 λ∈Σ と定義し,A に包含関係 ⊂ で順序を入れる.A に Zorn の補題を適用する為に,部分全順 序 C ⊂ A を取る.h := ∪ g∈C g ,Σ := ∪ dom(g) と置く.h ∈ g∈C ∏ Xλ は ξ|Σ の集積点で λ∈Σ ある. ∏ . . . ) 任意の開近傍 U ∋ h と i ∈ I を取る.U = Uλ ,有限個の λ を除いて λ∈Λ Uλ = Xλ ,としてよい.Uλ ⊊ Xλ となる λ 全体を λ1 , · · · , λn とする.このときあ 2 ∏ る g ∈ C が存在して λ1 , · · · , λn ∈ dom(g) となる.g ∈ Uλ であり,g が λ∈dom(g) ξ|dom(g) の集積点だから,ある j ≥ i が存在して fj |dom(g) ∈ ∏ Uλ となる.こ λ∈dom(g) のとき定義から明らかに fj |Σ ∈ U である.よって h が ξ|Σ の集積点であることが分 かった. 故に h ∈ A となるから,h が C の上界である.従って Zorn の補題により A の極大元 g が存在する. Σ := dom(g) ⊊ Λ と仮定する.µ ∈ Λ \ Σ を取る.g は ξ|Σ の集積点だから,g に収束 する部分有向点列 η = {fφ(j) | j ∈ J} が存在する.このとき η(µ) := {fφ(j) (µ) | j ∈ J} は Xµ の有向点列である.今 Xµ はコンパクトだったから,η(µ) の集積点 a ∈ Xµ が存在 e := Σ ∪ {µ} として ge ∈ する.このとき Σ ∏ Xλ を e λ∈Σ { ge(λ) := g(λ) a (λ ∈ Σ) (λ = µ) と定めれば g e ∈ A である. . . . ) ge が ξ|Σ eと e の集積点であることを示せばよい.その為に任意の開近傍 U ∋ g ∏ Uλ ,有限個の λ を除いて Uλ = Xλ ,としてよい.Uµ = Xµ i ∈ I を取る.U = λ∈Λ の時は簡単に分かる.Uµ ⊊ Xµ とする.η が g に収束するから,ある j0 ≥ i が存在 して j ≥ j0 に対して fi |Σ ∈ ∏ Uλ である.一方 a = ge(µ) が η(µ) の集積点だった λ∈Σ e ∈ U である. から,ある j ≥ j0 が存在して fj (µ) ∈ Uµ となる.よって fi |Σ よって g e ⊋ g だから g の極大性に矛盾する.故に dom(g) = Λ であり,g は ξ の集積 点である. (2 =⇒ 3) 明らか (3 =⇒ 1) {Xλ }λ∈Λ を非空集合の族とする.どの Xλ にも含まれない元 ∞ ∈ / ∪ λ∈Λ Xλ を用意し,Yλ := Xλ ∪ {∞} とする.各 Yλ の位相を OYλ := {U ⊂ Yλ | Yλ \ U は有限集合 } ∪ {∅, {∞}} で定義する.各 (Yλ , OYλ ) はコンパクトである. . . . ) {Ui }i∈I を Yλ の開被覆とする.OYλ の定義から,Yλ \ Ui0 が有限集合となるよ うな i0 ∈ I が存在する.Yλ \ Ui0 = {y1 , · · · , yn } と書く.{Ui }i∈I が開被覆である 3 ことから yk ∈ Uik となる ik が存在する.この時 Yλ = Ui0 ∪ Ui1 ∪ · · · ∪ Uin .従って Yλ はコンパクト. また明らかに Yλ は T1 空間でもある.故に仮定 3 から直積空間 Y := ∏ λ∈Λ Yλ も コンパクトである.OYλ の定義から,Xλ = Yλ \ {∞} ⊂ Yλ は閉集合.閉集合の族 {πλ−1 (Xλ )}λ∈Λ は有限交差性をもつ. . . . ) 任意の λ1 , · · · , λn ∈ Λ に対し πλ−1 (Xλ1 ) ∩ · · · ∩ πλ−1 (Xλn ) ̸= ∅ となることを示 1 n せばよい.各 Xλ は空でないから,xλ1 ∈ Xλ1 , · · · , xλn ∈ Xλn が取れる.λi 以外の λ ∈ Λ に対しては xλ := ∞ として x := (xλ ) ∈ Y を考える.明らかに πλi (x) ∈ Xλi だから x ∈ πλ−1 (Xλ1 ) ∩ · · · ∩ πλ−1 (Xλn ). 1 n よって補題 1 の条件 2 から ∅ = ̸ ∩ πλ−1 (Xλ ) = λ∈Λ ∏ Xλ である. λ∈Λ (2 =⇒ 4) 開集合が有限個の空間はコンパクトなので明らか. (4 =⇒ 5) 明らか. (5 =⇒ 1) 3 =⇒ 1 の証明において,Yλ の位相を OYλ := {∅, {∞}, Yλ } で定めればよい. 定理. 任意の整数 n ≥ 3 に対して 選択公理 ⇐⇒ 開集合が丁度 n 個な空間の直積はコンパクト. 証明. Yλ := Xλ ⊔ N として { } OYλ := ∅, N, Yλ , {4}, {4, 5}, · · · , {4, 5, · · · , n} と定めればよい. 定理. 任意の整数 n ≥ 3 に対して,以下の命題は (ZF 上) 同値. 1. 選択公理 2. 互いに同相なコンパクト空間の直積はコンパクト. 3. 互いに同相な,開集合が丁度 n 個ある空間の直積はコンパクト. 証明. 1 =⇒ 2 と 2 =⇒ 3 は明らか. 4 (3 =⇒ 1) 選択公理は 非空集合の族 {Xλ }λ∈Λ で全ての Xλ の濃度が等しいもの,に対して ∏ Xλ ̸= ∅. λ∈Λ と同値だった (集合に関する命題を参照) ことから明らか. しかし,直接選択公理を示すことも出来るので,その証明を書いておく.簡単のため n = 3 とする.{Xλ }λ∈Λ を互いに素な非空集合の族とする. ∪ X := λ∈Λ Xλ , Y := X × NX として Y の位相 Oλ を Oλ := {∅, Y, (X \ Xλ ) × NX } で定める.λ, µ ∈ Λ とすると |Xλ × NX | = |Xµ × NX | である. . . . ) ⟨x, f ⟩ ∈ X × NX に対し g = g(x, f ) ∈ NX を { 2f (y) (y ̸= x のとき) g(y) := 2f (y) + 1 (y = x のとき) と定める.a ∈ Xµ を取り φ : Xλ × NX −→ Xµ × NX を φ(x, f ) := (a, g(x, f )) で 定める.すると φ は単射である.よって |Xλ × NX | ≤ |Xµ × NX | となる.同様にし て ≥ も言えるから Bernstein の定理より = が分かる. そこで,全単射 F : Xλ × NX −→ Xµ × NX により写像 G : (Y, Oλ ) −→ (Y, Oµ ) を F (x, f ) F −1 (x, f ) G(x, f ) := (x, f ) (x ∈ Xλ のとき) (x ∈ Xµ のとき) (それ以外のとき) Y = (Xλ × NX ) ⊔ (Xµ × NX ) ⊔ (Xν × NX ) ⊔ · · · F G F −1 id Y = (Xλ × NX ) ⊔ (Xµ × NX ) ⊔ (Xν × NX ) ⊔ · · · と定める.すると G は同相写像である.故に族 {(Y, Oλ )}λ∈Λ は仮定 3 の条件を満たす ので ∏ (Y, Oλ ) はコンパクトである.閉集合の族 {πλ−1 (Xλ × NX )}λ∈Λ は有限交差性を λ∈Λ 持つから, ∅ ̸= ∩ πλ−1 (Xλ × NX ) = λ∈Λ ∏ λ∈Λ 5 Xλ × NX となり,故に ∏ Xλ ̸= ∅ である. λ∈Λ ※ 「コンパクト Hausdorff 空間の直積はコンパクト」は選択公理と同値でないことが 知られている.(BPI (= Boolean Prime Ideal Theorem) と同値である.) また「コ ンパクトの可算直積はコンパクト」は可算選択公理からでは証明できないことも知ら れている. 参考文献 [1] Horst Herrlich, Axiom of Choice,Springer, 2006 [2] Ofelia T. Alas, the Axiom of Choice and two particular forms of Tychonoff Theorem, Portugaliae Math., 28 (1969), 75–76, http://purl.pt/2594 [3] Paul R. Chernoff, A Simple Proof of Tychonoff’s Theorem Via Nets, Amer. Math. Monthly, Vol. 99, No. 10 (1992), 932–934, http://www.jstor.org/stable/ 2324485 6
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