Liens 第 3 号 2014.06

Liens
~リアン~
第3号
1.
2014.06
治療統計
『2008~2013 患者ステージ別割合』
2.
治療事例報告
『放射線・化学療法と併用して再発に対して効果が見られた例』
3.
Research Papers
『がんの免疫回避機構』
4.
シリーズ
『第 2 回
5.
免疫細胞
NK 細胞』
がん・免疫療法に関する記事抜粋
『大腸がんを抑える生理物質PGD2を発見』
6.
Q&A
『検査結果にある『α1AG』って何?』
1. 治療統計
『2008~2013 患者ステージ別割合』
ステージⅣ原発部位別トップ 5
順位
1
2
3
4
5
部位
肺(19.6%)
大腸(17.4%)
胃(12.2%)
膵臓(11.3%)
乳房(9.6%)
2008~2013 に受診された患者さんのステージ
位別トップ 5 を表に示しています。トップ 5 は、
別割合をグラフで表しています(原発部位不明を
創刊号に掲載した『原発部位別治療実績』の上位
除く)。ステージⅠ及びⅡの割合は、それぞれ
と同じ部位となっています。現状では、標準治療
5.9%、7.1%と少ないです。これは、いわゆる早
を受けられない方、強い副作用により化学療法を
期がんであれば、手術など標準治療を実施する場
拒否された方など、がんが進行した状態の方が多
合が多く、第 1 選択肢として BAK 療法を受診す
く治療しています。
ることは少ない為と考えられます。しかし、BAK
療法は術後再発予防に対して効果があることは実
証されています。ステージⅡで術後再発転移がな
1) Interventional study of immune cell BAK(BRM
い 25 名に BAK 療法を実施した結果、96 ヶ月の
-activated killer) therapy based on serum a1 aci
1)
延命効果があると報告されています 。
-d glycoprotein (a1AG) levels in patients with hi
進行がんと呼ばれるステージⅢ及びⅣの割合は、
-ghly advanced cancer. T.Ebina Progress in Medi
それぞれ 15.8%、71.1%であり、全体の 8 割以
cine 第 8 号 別刷 Vol.31 NO.8 2011.8
上を占めています。さらに、ステージⅣの原発部
1
2. 治療事例報告
『放射線・化学療法と併用して再発に対して効果が見られた例』
≪事例 NO.4≫
年
齢
70 代
性
別
男性
原 発 部 位
肺がん
再発・転移
肺
併 用 療 法
放射線療法
化学療法
2007 年 1 月に健康診断にて異常陰影指摘され、精
が軽減した。その後、継続してイレッサによる治
査の結果、肺がんと診断される。開胸手術にて、
療を実施したが、翌年 9 月に右肺上葉 S3 部位に再
右下葉切除及び、左 S1、S2 の部分切除をした。
発した為、BAK 療法と化学療法(イレッサ:BAK 療
最終病理検査にて pT4.N0.M0、stageⅢB と診断
法日は服用中止)の併用治療を開始した。BAK 療法
された。術後は定期的な画像検診を実施していた。
は 2 週に 1 回のペースで 2014 年 4 月までに 12
2012 年 4 月にフォローアップの CT 検査結果で左
回実施した。2014 年 4 月の PET/CT による治療
肺上葉 S1+2、S5 部位、縦隔・右肺門リンパ節、
効果判定において、完全寛解(CR)と診断された。
胸椎に再発と診断された。同月から放射線療法(ト
この例は術後再発に対して放射線療法のトモセラ
モセラピー)を連続 5 回照射で実施した。同年 7 月
ピーにより、画像上で確認できる大きな腫瘍を縮
の経過観察で、PET 検査を実施し、トモセラピー
小させ、化学療法(イレッサ)と BAK 療法の併用に
により再発部位への PET 集積は軽減した。しかし、
より画像上で残存を確認できた小さな腫瘍を消失
腫瘍の残存が示唆された為、同月より化学療法
させて寛解に導いた例です。また、BAK 療法は他
(イレッサ)の併用を開始した。同年 10 月の
療法との併用可能であることを示す一例となった。
PET/CT 検査による治療効果判定で、左肺上葉
S1+2 部位の集積は CT 画像上で形態変化が見られ
たが、右肺門リンパ節及び胸椎の再発部分は集積
2
3. Research Papers
『がんの免疫回避機構』
免疫機構は、ウイルスや菌などの侵入、体内で発
BAK 療法において①に関しては、培養し増殖させ
生するがん細胞などの異常細胞に対して、常に排
る細胞がキラーT 細胞だけではなく、非特異的にが
除するよう働いています。しかし、がん細胞も独
ん細胞を攻撃できる NK 細胞やγδT 細胞を含む為、
自に免疫回避機構を構築します。よく知られてい
MHC class Ⅰ分子を欠損しているがん細胞も攻撃
る免疫回避機構としては、①MHC class Ⅰ分子の
可能です。②~④に関しては、免疫細胞療法全体の
欠損、②抑制性免疫細胞の誘導、③免疫抑制性サ
今後の課題であり、様々な研究がされている状況
イトカインの産生、④免疫抑制性共シグナル分子
です。
の発現などが報告されています。
①の MHC class Ⅰ分子は、キラーT 細胞(CTL)が
がん細胞を攻撃する際に必要となる目印の1つで
すが、様々ながんにおいて 16~50%程度の発現の
低下・欠失が見られると報告されています
1)
。こ
1) HLA class I antigen downregulation in h
れにより、キラーT 細胞の攻撃を回避します。
-uman cancers: T-cell immunotherapy reviv
②としては、がんはがん周囲の微小環境において、
-es an old story. Hicklin DJ ら,Mol Med Toda
免疫を抑制して止める働きをする制御性 T 細胞
-y. 1999 Apr;5(4):178-86
(Regulatory T cells:Treg)や NK 細胞の阻害、制
2) Regulatory T-cell Trafficking: From Thymi
御性 T 細胞の増加に作用するミエロイド由来抑制
-c Development to Tumor-Induced Immune
細胞(Myeloid-Derived Suppressor Cells:MDSC)
Suppression. Adam W. Mailloux ら, Crit Rev
などの免疫抑制に関与する細胞を誘導することが
Immunol. 2010; 30(5): 435–447.
知られています
2) 3)
。
3) Targeting Immune Suppressing Myeloid-
③にある免疫抑制性サイトカインとは、ヒトの体
Derived Suppressor Cells in Oncology. John-
にもともと備わっている免疫反応が過剰になり、
ny Kao, Crit Rev Oncol Hematol. Jan 2011;
正常な部分まで攻撃してしまうことを回避する為
77(1): 12–19.
の抑制機構に関与する物質です。この物質のトラ
4) TGF-β and immune cells: an important r
ン ス フ ォ ー ミ ン グ 増 殖 因 子 (Transforming
-egulatory axis in the tumor microenvironm
growth factor-beta: TFG-β)やインターロイキン
-ent and progression. Li Yang ら,Trends Im-
10(Interleukin-10:IL-10)をがん細胞が産生して
munol. Jun 2010; 31(6): 220–227.
いることが報告されています
4)
。
5) B-7 family molecules in the tumour micr
また、④のようにがん細胞は細胞表面に
-oenvironment. Zou W ら,Nat Rev Immunol
Programmed death-ligand 1(PG-L1)などの免疫
2008;8:467-477.
抑制性共シグナル分子を発現し、活性化 T 細胞と
結合することでその活性を阻害することも知られ
ています 5)。
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4. シリーズ 免疫細胞
『第 2 回
NK 細胞』
NK 細胞とは、Natural Killer(ナチュラルキラー:
ます(グラフ②)。つまり、NK細胞の細胞傷害活性
生まれつきの殺し屋)細胞の略で、血液中を流れて
の低下は、がん細胞の増殖を止められない1つの
全身をパトロールし、ウイルスに感染した細胞や
要因となり、がんの発症に関与すると考えられま
がん細胞を見つけ次第攻撃するリンパ球の一種で
す。
す。
BAK 療法では、増殖させ、細胞傷害活性を強化し
NK 細胞は 1970 年代初期に Herberman 博士や仙
た NK 細胞を利用しています。
道富士郎博士らによって発見されました。キラーT
細胞(CTL)による腫瘍細胞への傷害性の研究中に、
グラフ①
キラーT 細胞とは異なるメカニズムで腫瘍細胞を
傷害する現象が確認されたことから NK 細胞の存
在が明らかになりました。
NK 細胞には、キラーT 細胞とは異なる特徴があり
ます。まず 1 つは、がん細胞などの異常細胞の認
識方法が異なります。キラーT 細胞は、樹状細胞な
どの抗原提示細胞(APC)からがん細胞の目印(がん
抗原)の情報を受け取り、その目印ともう 1 つの目
印(MHC class Ⅰ分子)の両方を認識して初めて攻
出典:http://www1.ocn.ne.jp/~amiyacon/mesimakobu/kinoko_gan_hakkekkyu.htm
撃します。しかし、がん細胞の 1~5 割は進行する
と目印(MHC class Ⅰ分子)を隠すと言われていま
グラフ②
す。これにより、キラーT 細胞はがん細胞を攻撃で
きなくなります。ところが、NK 細胞は、抗原提示
細胞からがん細胞の目印(がん抗原)を受け取るこ
となく、特殊な探知機(NKG2D)でがん細胞などの
異常細胞に特異的に発現するアンテナ(MICA/B)
を認識して同時に攻撃することが可能です。
体内の NK 細胞の数は、生まれたときは少なく加齢
とともに増え、20 代で血中リンパ球の約 10~
資料:独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター
15%となり、50 代で 20%程度となります。しか
し、NK 細胞のがん細胞に対する細胞傷害活性は、
15 歳~20 歳でピークを迎え、加齢とともに低下
していきます(グラフ①)。これとは反対に、日本の
がん年齢階級別罹患率は 50 歳前後で増加を始め
4
5. がん・免疫療法に関する記事抜粋
『大腸がんを抑える生理物質PGD2を発見』
日本人で急増している大腸がんの予防は急務であ
村田幸久准教授は「多くのプロスタグランジンが
る。大腸がんの治療や予防の新しい手がかりにな
炎症を促進する中で、PGD2 は炎症・発がん抑制
る成果が出た。炎症が起きた時に、大腸組織に浸
作用を持つ非常に珍しい生理活性物質だ。マウス
潤してくる免疫細胞の一種(マスト細胞)が生理活
の実験だが、ヒトでも同じことが起きているだろ
性物質のプロスタグランジン D2(PGD2)をつくり、
う。実験で治療や予防の可能性を示しており、大
この PGD2 が腸炎の重症化やそれに続く大腸がん
腸がん予防などの創薬の標的になりうる」と指摘
の発症を強く抑えることを、東京大学大学院農学
している。
生命科学研究科の村田幸久(むらた たかひさ)准教
授と大学院生の岩永剛一(いわなが こういち)さん
らがマウスで見つけた。薬の投与で PGD2 の働き
を刺激すれば、大腸炎の症状が改善されて、大腸
がんの発症が抑えられることもマウスの実験で証
明した。5 月 30 日付の米医学誌キャンサーリサー
チのオンライン版に発表した。
大腸がんは日本人が最も多く発症するがんのひと
図 1. PGD2 は大腸の発がんを抑えて生存率を上げるデータ。
つで、急増している。そのリスクは、炎症性の消
左が大腸のポリープ(小さな○)の数が PGD2 で減る様子。
化器疾患や、生活習慣に由来する慢性的な腸の炎
右は PGD2 の活性が異なるマウスの生存率。
症によって大きく上がる。炎症の慢性化を防げば、
大腸がんを抑えられる可能性は十分にある。
研究グループは、炎症が起きた時に細胞膜のリン
脂質からつくられる生理活性物質の PGD2 に着目
して、マウスで調べた。合成酵素を欠いて PGD2
をつくれないようにしたマウスは、正常な野生型
マウスに比べて腸炎の下痢などの症状が悪化し、
生存率も低下した。PGD2 を合成できないマウス
の大腸では、ポリープの形成が促進され、がん化
が進行していることがうかがえた。
図 2. 免疫細胞の一種、マスト細胞が PGD2 をつくって
野生型マウスでは、炎症に伴って組織に浸潤して
炎症と発がんを抑える仕組み。
きた免疫細胞のマスト細胞で PGD2 が盛んにつく
(いずれも提供:東京大学)
られて、PGD2 が大腸の炎症とがん化を強く抑制
していることがわかった。腸炎を誘発したマウス
に薬を投与して PGD2 の働きを刺激すると、腸炎
*Science Portal2014.6.4 掲載
と大腸がんがともに抑えられた。
5
6. Q&A
~患者さんから寄せられた質問・疑問にお答えしていきます~
検査結果にある
『α1AG』って何?
α 1AG と は 『 ア ル フ ァ 1- 酸 性 糖 蛋 白 ( 英 : α 1-Acid
glycoprotein)
』という物質のことです。これは外傷や炎症な
どにより変動する物質(急性相反応物質)の一種で、主に肝臓
で作られ、一部は単球・リンパ球・多核白血球で作られます。
基準範囲は 42.0~93.0mg/dL です。
『α1AG は、血管が物質を通す能力を抑制している』と考え
られています。それにより免疫細胞が血管を出ることができ
ず、がん細胞まで到達できないのです。また、α1AG に含ま
れる IAP(免疫抑制性蛋白質)には、さまざまな免疫抑制作用
があると報告されています。
このことから、α1AG の数値が高い場合、免疫抑制作用や組
織の損傷、感染、炎症があるとみることができます。
免疫細胞療法は、その名の通り免疫細胞を使って行う療法で
す。そのため、α1AG の数値が高いと、折角身体に増やした
免疫細胞の働きが抑制される可能性があります。
7.
但し、最初からα1AG が高い値であっても、治療により改善
されます。
また、数値が低い場合は、肝障害や栄養不良を示しています。
α1AG は、他の検査結果と合わせて、病態を知っていくため
の大切な項目の一つです。
6
編集後記
梅雨空の季節となりました。今年はエルニーニョ現象
により、長梅雨・冷夏となる予想だそうです。寒暖の
差により夏風邪などひかれないよう体調管理にお気を
付け下さい。
さて、今月は皆様に『あんしんガイドブック』をお届
けしております。BAK 療法をより知っていただき、納
得して治療していただきたいと思い、作成しておりま
す。
来月号では、
『あんしんガイドブック』の目的、使用方
法について解説したいと思います。
発行元
BRI 生物製剤研究所
〒989-3212 仙台市青葉区芋沢字権現森山 82-14
Tel:022-277-1575 Fax:022-277-1575
E-Mail:[email protected]
担当:高橋