〔生化学 第8 5巻 第6号,pp.4 0 5―4 1 3,2 0 1 3〕 !!! 特集:次世代シグナル伝達研究―先駆的基礎解析と臨床・創薬への展開― !!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! ポリユビキチン鎖を標的とした NF-κB の新たな調節機構 柴 田 佑 里,井 上 純 一 郎 ユビキチン修飾は,タンパク質分解,DNA 修復,メンブレントラフィック,シグナル 伝達など,様々な生命現象に関わる翻訳後修飾として知られている.転写因子 NF-κB 活 性化経路では,シグナル伝達におけるポリユビキチン鎖の機能解析が進んでおり,NF-κB 活性化時にポリユビキチン化される分子とそのポリユビキチン鎖の役割,ポリユビキチン 化タンパク質の制御機構に関する研究が盛んに行われている.NF-κB 活性化には IKK 複 合体調節サブユニット NEMO のポリユビキチン化が重要であるが,近年,我々は p4 7 (NSFL1C)がポリユビキチン化 NEMO の量を制御し,IKK 複合体活性化を抑制すること を明らかにした.p4 7は,既知の NF-κB 抑制分子 CYLD や A2 0とは異なる様式で IKK 複 合体活性化を抑制するのだが,本稿ではその抑制機構について紹介する. 1. は じ め に 2. NF-κB について nuclear factor-κB(NF-κB)は,炎症性サイトカイン,ケ NF-κB は五つのファミリー分子 p6 5(RelA) ,RelB,c- モカイン,抗アポトーシス分子,増殖因子などの発現を制 Rel,p5 0/p1 0 5(NF-κB1) ,p5 2/p1 0 0(NF-κB2)で 構 成 さ 御する転写因子で,炎症反応,免疫応答,細胞分化や増殖 1) れている(図1A) .NF-κB ファミリー分子は,N 末端側 といった様々な生命現象に関与している1).その一方で, の Rel ホモロジードメイン(RHD)を介してホモあるいは 制御不全による恒常的な NF-κB 活性化は炎症性疾患やが ヘテロ二量体を形成し,DNA に結合する.転写活性化ド んの原因となるため,NF-κB の活性化は一過性となるよ メインは p6 5,RelB,c-Rel のみに存在し,p5 0や p5 2には うに厳密に制御される必要がある2,3). 存在しない.そのため,転写活性化能を示す NF-κB には タンパク質の翻訳後修飾は,細胞内シグナル伝達におい 少なくとも一つの p6 5,RelB,c-Rel が含まれている必要 て重要な機能を果たしている.NF-κB 活性化経路では主 がある.また,p5 0や p5 2は前駆体 p1 0 5,p1 0 0として産 に二つの翻訳後修飾,リン酸化とユビキチン化がシグナル 生された後,限定分解を受けて成熟する(図1A) . 伝達に必要である4).本稿では,NF-κB 活性化経路におけ 不活性化時,NF-κB の RHD には,アンキリンリピート るポリユビキチン鎖の機能を,これまでの知見を中心に概 を介して inhibitor of NF-κB(IκB)ファミリーや NF-κB 前 説するとともに,近年我々が報告したポリユビキチン鎖を 駆体(p1 0 0,p1 0 5)が結合している.その結果,RHD 内 標的とする NF-κB の新たな制御機構について紹介する. の核移行シグナルが遮蔽されて,NF-κB は細胞質内に繋 留される.NF-κB の活性化は,IκB ファミリーの分解また 東京大学医科学研究所分子発癌分野(〒1 0 8―8 6 3 9 東京 都港区白金台4―6―1) A novel NF-κB regulatory mechanism targeting a polyubiquitin chain Yuri Shibata and Jun-ichiro Inoue(Division of Cellular and Molecular Biology, The Institute of Medical Science, The University of Tokyo,4―6―1Shirokanedai, Minato-ku, Tokyo 1 0 8―8 6 3 9, Japan) は NF-κB 前駆体の限定分解が引き金となって誘導される が,その活性化経路は古典的経路(canonical pathway)と 非古典的経路(non-canonical pathway)の二つに大別する ことができる(図1B) .古典的経路の活性化は,キナーゼ 活性をもつ IκB kinase(IKK)α と IKKβ,調節サブユニッ ト NF-κB essential modulator(NEMO)から構成される IKK 複合体によって厳密に制御されている4).腫瘍壊死因子 α 4 0 6 〔生化学 第8 5巻 第6号 (TNF-α)やインターロイキン1(IL-1)などのサイトカイ kinase(NIK)によって IKKα ホモ二量体が活性化する. ン,リポポリ多糖(LPS)などの細菌由来分子,ウイルス IKKα は p1 0 0のリン酸化を誘導し,このリン酸化を指標 由 来 の RNA や DNA に よ っ て IKK 複 合 体 は 活 性 化 し, として p1 0 0が p5 2へと限定分解され る と,主 に RelB, IκBα のリン酸化,プロテアソームによる分解を誘導する. p5 2で構成される NF-κB が活性化する5).古典的経路は刺 その結果,主に p6 5,p5 0で構成される NF-κB の核移行シ 激後数分で活性化が誘導され,炎症性サイトカイン,ケモ グナルが露出して核内に移行し,標的遺伝子の転写を促進 カインなどの発現を促進する.一方,非古典的経路の活性 する.一方,非古典的経路の活性化は IKKα のホモ二量体 化は古典的経路と比べて遅く,活性化に数時間を要する. に よ っ て 制 御 さ れ て い る.receptor activator of NF-κB 非古典的経路はケモカインやリンパ系器官の形成に必要な (RANK)リガンド,CD4 0リガンド,B cell-activating factor 遺伝子の発現を制御している. (BAFF) , リンホトキシン β(LT-β)刺激後, NF-κB-inducing 図1 NF-κB ファミリーと NF-κB 活性化経路 (A)NF-κB ファミリーと IκB ファミリーの模式図.RHD:Rel ホモロジードメイン,TAD:転写活性化ドメイン,LZ:ロイ シンジッパー,GRR:グリシンリッチ領域.p1 0 5,p1 0 0は C 末端から GRR 付近まで限定分解されて,p5 0,p5 2に成熟する. (B)NF-κB 活性化経路の模式図. 4 0 7 2 0 1 3年 6月〕 3. ユビキチン修飾系について 鎖状に連なったポリユビキチン鎖が修飾される場合は,ポ リユビキチン化と呼ばれる.ポリユビキチン鎖は,ユビキ ユビキチン修飾系は,ユビキチン活性化酵素(E1) ,ユ チンのリシン残基を介して,ユビキチン同士が繰り返し結 ビキチン結合酵素(E2) ,ユビキチンリガーゼ(E3)の連 合することで形成される.ユビキチンには7個のリシン残 続的な酵素反応によって,ユビキチンが基質分子に付加さ 基(K6,K1 1,K2 7,K2 9,K3 3,K4 8,K6 3)が存在する. れる反応である(図2) .この反応は,ATP 依存的に活性 質量分析計を用いた解析により,生体内では7個それぞれ 化したユビキチンが,E1活性部位のシステインとチオエ のリシン残基を介したポリユビキチン鎖の存在が示されて ステル結合を形成することで開始する.その後,E1に結 いるが8),これらポリユビキチン鎖のうち K4 8結合型, 合したユビキチンは E2活性部位のシステインに転移す K6 3結合型ポリユビキチン鎖の機能解析が進んでいる. る.そして,最終的に E3が E2と基質分子に結合して, K4 8結合型ポリユビキチン鎖はプロテアソームによるタ 基質分子のリシン残基側鎖の ε-アミノ基とユビキチンの C ンパク質分解の標識として機能し,K4 8結合型ポリユビキ 末端間にイソペプチド結合を形成する6).基質のリシン残 チン化タンパク質はプロテアソームに認識されて分解され 基に1分子のユビキチンが結合する場合はモノユビキチン る9).一方で,K6 3結合型ポリユビキチン鎖は分解の標識 化と呼ばれ,モノユビキチン化はメンブレントラフィック にはならず,シグナル伝達や DNA 修復に関与する10).他 7) やヒストン制御に関与する .一方,多数のユビキチンが 図2 ユビキチン修飾系 の型のポリユビキチン鎖に関しては,K1 1結合型ポリユビ 4 0 8 〔生化学 第8 5巻 第6号 キチン鎖はプロテアソームによるタンパク質分解と NF- (TIR)ド メ イ ン に myeloid differentiation primary gene8 8 κB 活性化に関与することが報告されているが11),K6結合 (MyD8 8)が 結 合 す る(図3) .そ の 後,MyD8 8に IL-1 型,K2 7結合型,K2 9結合型,K3 3結合型ポリユビキチン receptor-associated kinase(IRAK) 1,IRAK4が結合した後, 鎖の機能は依然として明確になっていない.また,近年, この複合体に TNF receptor-associated factor6(TRAF6)が リシン残基側鎖のアミノ基に加えて,ユビキチン N 末端 リクルートされる4).TRAF6はユビキチンリガーゼとして メチオニン(Met1)の α-アミノ基を介したポリユビキチ 機能し,E2の Ubc1 3/Uev1A とともに K6 3結合型ポリユ ン鎖が報告され,これは直鎖状ポリユビキチン鎖と呼ばれ ビキチン鎖を形成する15).これまでに,TRAF6は TRAF6 1 2) ている .直鎖状ポリユビキチン鎖は K6 3結合型,K1 1結 合型と同様に NF-κB 活性化に関与する(詳細は徳永の稿 1 3) 自 身16), transforming growth factor-β-activated kinase 1 1 7) (TAK1) ,NEMO の K6 3結合型ポリユビキチン化を誘導 を参照) .現在までに,ポリユビキチン鎖の立体構造解 することが報告されている18).TAK1のアダプター分子 析が積極的に行われており,各ポリユビキチン鎖は異なる TAK1-binding(TAB)2/3や NEMO のユ ビ キ チ ン 結 合 ド 立体構造をとることが明らかとなっている14).立体構造の メインを介して,ポリユビキチン鎖を足場にシグナル複合 違いによって,各ポリユビキチン鎖は異なるタンパク質に 体が形成される結果,TAK1の活性化,IKK 複合体の活性 認識され,異なる経路で機能すると考えられている.どの 化が誘導される4).リン酸化 IκBα のポリユビキチン化は リシン残基を介してポリユビキチン鎖が形成されるかに SCFβ-TrCP ユビキチンリガーゼが触媒する.この場合,IκBα よってポリユビキチン鎖の機能が全く異なり,ユビキチン は K4 8結合型ポリユビキチン化を受け,その後プロテア は多彩な役割を果たすことができる. ソームで分解される1). 4. NF-κB 活性化経路におけるポリユビキチン鎖の 役割 一方,TNFR1にリガンドの TNF-α が結合すると,受容 体 下 流 に TNFR1-associated death domain protein(TRADD) , TRAF2/5,cellular inhibitor of apoptosis protein(c-IAP)1/ 次に,NF-κB 活性化経路においてポリユビキチン鎖が 2,receptor-interacting protein kinase 1(RIP1)がリクルー どのように機能しているのか,IL-1受容体(IL-1 receptor: トされる4).c-IAP1/2はユビキチンリガーゼとして機能 IL-1R) /Toll 様受容体(Toll-like receptor:TLR)と¿型 TNF し,RIP1の K1 1および K6 3結合型ポリユビキチン化を誘 受容体(TNF receptor1:TNFR1)の二つのシグナル伝達 導する11,19).すると,IL-1R/TLR 経路同様に,ポリユビキ 経路について説明したい.リガンドが受容体に結合する チン鎖を足場としてシグナル複合体が形成され,TAK1, と,IL-1R と TLR の 細 胞 内 領 域 に 存 在 す る Toll-IL-1R IKK 複合体が活性化する. 図3 IL-1R/TLR シグナル伝達経路と TNFR1シグナル伝達経路 4 0 9 2 0 1 3年 6月〕 さらに,IL-1R/TLR や TNFR1シグナル伝達経路では, p4 7は3 7 0個のアミノ酸からなる約4 0kDa のタンパク IKK 複合体活性化における NEMO の直鎖状ポリユビキチ 質で,もともと ATP アーゼ p9 7(VCP)の補助因子とし ン化の重要性が明らかとなっている.直鎖状ポリユビキチ て同定された24).p4 7は三つのドメインから構成されてお ン鎖はユビキチンリガーゼ linear ubiquitin chain assembly り,N 末端 に ubiquitin-associated(UBA)ド メ イ ン,中 央 complex(LUBAC)に よ り 形 成 さ れ る.LUBAC は, に shp1, eyc and p4 7(SEP)ドメイン,C 末端に ubiquitin TRADD,TRAF2,c-IAP1/2依 存 的 に TNFR1に リ ク ル ー regulatory X(UBX)ドメインを有している25).p4 7はユビ トされ,NEMO の直鎖状ポリユビキチン化,IKK 複合体 キチン結合ドメインである UBA ドメインを介してユビキ 活性化を誘導する13).上述のように,NF-κB 活性化経路で チンと結合する.SEP ドメインは p4 7ショウジョウバエホ は非分解性のポリユビキチン鎖がアダプターとして機能 モログの eyc,p4 7出芽酵母ホモログ shp1,p4 7に保存さ し,シグナル伝達複合体形成に寄与している. れている配列で,他のタンパク質に類似する配列は存在し NF-κB 活性化を抑制するためには,ポリユビキチン化 ない.SEP ドメインは p4 7の多量体化に関与すること, タンパク質を制御する必要があるのだが,その制御はどの UBX ドメインは p9 7との結合に必要であることが示され ような機構で行われているのか.これまでに,脱ユビキチ ている26).また,これまでの解析から,p4 7は p9 7と協調 ン化酵素 A2 0や CYLD が NF-κB 活性化を抑制する分子と してゴルジ体の膜形成に関与することが示されていた して報告されている.CYLD は K6 3結合型および直鎖状 が24),NF-κB 活性化経路への関与は明らかとなっていな ポリユビキチン鎖を特異的に切断することで,IKK 複合 かった.IKK 複合体の活性化には非分解性のポリユビキ 体活性化を負に制御する10,20).A2 0も CYLD 同様に,IKK チン鎖が重要であることから,ユビキチン結合ドメインを 複合体の抑制には脱ユビキチン化活性が必要であると考え 有する p4 7は IKK 複合体活性化の制御に関与しているの られてきたが,近年,A2 0は脱ユビキチン化活性非依存的 ではないかと考えて,このタンパク質に注目した. 2 1, 2 2) .し ま ず,p4 7が IKKα,IKKβ,NEMO の う ち,ど の IKK たがって,NF-κB 活性化経路におけるポリユビキチン化 複合体構成因子に結合するか検討した.HEK2 9 3T 細胞に タンパク質の制御は,現在考えられているモデルよりも複 Flag タ グ 付 加 p4 7と HA タ グ 付 加 IKKα,IKKβ ま た は 雑である可能性が高い. NEMO を強制発現させた後,抗 HA 抗体を用いた共免疫 に IKK 複合体活性化を抑制することが報告された 5. 新規 IKK 複合体結合タンパク質の同定 IKK 複合体は7 0 0∼9 0 0kDa の大きな複合体を形成する 沈降実験を行った.その結果,p4 7は IKKα,IKKβ とは結 合せず,NEMO に結合することが明らかとなった(図4 A) .さらに,抗 NEMO 抗体を用いた共免疫沈降実験によ が,刺激依存的に IKK 複合体に結合する分子の全容は明 り,内在性の p4 7と IKK 複合体が刺激依存的に結合する らかとなっていない.そこで,IKK 複合体活性化制御に ことを確認した(図4B) .以上の結果から,p4 7はサイト 関わる新たな分子を探索するために,活性化した IKK 複 カイン刺激依存的に NEMO を介して IKK 複合体に結合す 合体に含まれる分子を質量分析により解析した.その結 ることが示唆された. 果,新規 IKK 複合体結合タンパク質として p4 7(NSFL1C) を同定した23). 図4 p4 7は NEMO を介して IKK 複合体に結合する (A)p4 7と各 IKK 複合体構成因子の結合.HEK2 9 3T 細胞に Flag タグ付加 p4 7と HA タグ付加 IKKα, IKKβ,NEMO を強制発現させた後,抗 HA 抗体を用いて共免疫沈降を行った.その後,抗 Flag 抗体を 用いたウェスタンブロッティングにより各 IKK 複合体構成因子に結合している p4 7を検出した. (B)内在性 p4 7と IKK 複合体の結合.HeLa 細胞を TNF-α(1 0ng/ml)で表記の時間処理した後,抗 NEMO 抗体を用いて共免疫沈降を行った.その後,抗 p4 7抗体を用いたウェスタンブロッティングによ り IKK 複合体に結合している p4 7を検出した. 4 1 0 〔生化学 第8 5巻 第6号 6. p4 7の NF-κB 活性化経路における機能 ΔUBA,p4 7-ΔUBA/SEP)を作製し,野生型 p4 7 (p4 7-WT) と p4 7変異体の NF-κB 抑制能を NF-κB レポーターアッセ p4 7が IKK 複合体活性化制御に関与するか検討するため イにより確認した.p4 7-ΔUBX は p4 7-WT と同程度に NF- に,siRNA を用いて内在性 p4 7の発現を抑制し,サイトカ κB 活性化を抑制したのに対して,UBA ドメインを欠損さ イン刺激後の IκBα のリン酸化,分解をウェスタンブロッ せた p4 7-ΔUBA,p4 7-ΔUBA/SEP は NF-κB 抑制能が顕著 ティングにより確認した.その結果,p4 7の発現を抑制す に低下した(図6B) .この結果から,p4 7のユビキチン結 ると,TNF-α 刺激により誘導される IκBα のリン酸化が増 合能が NF-κB 活性化の抑制に必要であることが示された. 大し,それに伴い IκBα の分解が亢進していた(図5A) . p4 7の p9 7結合能は NF-κB の抑制には必要ないのだが, 興味深いことに,CYLD や A2 0が欠損したマウス胎仔繊 p9 7が NF-κB 活性化制御に関与しないことは,siRNA を 維芽細胞(MEF)においても,p4 7ノックダウンによる IKK 用いて内在性 p9 7の発現を抑制した実験により確認してい 複合体活性化の亢進が観察された(図5B) .この結果から, る23). p4 7は CYLD,A2 0とは異なる経路で IKK 複合体活性化を 上述の結果と,p4 7が結合する NEMO はサイトカイン 抑制することが考えられる.次に,p4 7の発現を抑制した 刺激依存的にポリユビキチン化されることから,p4 7は 際の NF-κB 活性化を評価するために,NF-κB 標的遺伝子 UBA ドメインを介してポリユビキチン化 NEMO に結合す (IL8,TNFA)の転写産物量をリアルタイム PCR により測 るのではない か と 仮 説 を 立 て た.組 換 え UBE1(E1) , 定した.内在性 p4 7の発現を抑制した場合,TNF-α 刺激 Ubc1 3/Uev1A(E2) ,TRAF6(E3) ,NEMO(基 質)を 用 によって誘導される IL8,TNFA の産生量が増加した(図 いて,in vitro において NEMO のポリユビキチン化を誘導 5C) .以上の結果から,p4 7は IKK 複合体を標的として した後,ポリユビキチン化 NEMO と p4 7が結合するか確 NF-κB 活性化を負に制御することが示された. 認した.p4 7はポリユビキチン化されていない NEMO に 7. p4 7による IKK 複合体活性化抑制機構 は結合せず,ポリユビキチン化依存的に NEMO に結合し た(図6C) .さらに,p4 7-ΔUBA や UBA ドメインに三つ p4 7が IKK 複合体活性化を抑制するメカニズムを解析す の点変異を加えた p4 7変異体(p4 7-V1 5A/L3 4A/Y4 2A)は るために,p4 7のどの機能ドメインが NF-κB 活性化の抑 ポリユビキチン化 NEMO に結合できなくなることから, 制に必要であるか検討を行った.図6A に示すように, p4 7は UBA ドメインを介してポリユビキチン化 NEMO に p4 7の各ドメインを欠損させた変異体(p4 7-ΔUBX,p4 7- 結合することが示唆された.さらに,p4 7が結合するポリ 図5 p4 7は IKK 複合体,NF-κB 活性化を負に制御する (A)siRNA を用いて内在性 p4 7の発現を抑制した HeLa 細胞を TNF-α(1. 0ng/ml)で表記の時間処理した.その後,抗リン酸化 IκBα 抗体と抗 IκBα 抗体を用いたウェスタンブロッティングにより,IκBα のリン酸化と分解を検出した. (B)野生型または Cyld,A2 0 欠損 MEF に siRNA を導入して,内在性の p47の発現を抑制した.TNF-α(3. 0ng/ml)で表記の時間 処理した後, 抗リン酸化 IκBα 抗体と抗 IκBα 抗体を用いたウェスタンブロッティングにより, IκBα のリン酸化と分解を検出した. (C)siRNA を用いて内在性 p4 7の発現を抑制した HeLa 細胞を TNF-α(1 0ng/ml)で表記の時間処理した.その後,リアルタイム PCR を行って,NF-κB 標的遺伝子の転写産物量を測定した.***P<0. 0 1,**P<0. 0 2,*P<0. 0 5. 4 1 1 2 0 1 3年 6月〕 図6 p4 7のユビキチン結合能が IKK 複合体の抑制に必要である (A)p4 7変異体の模式図. (B)siRNA を用いて内在性 p4 7の発現を抑制した HEK2 9 3T 細胞に野生型 p4 7または各 p4 7変異体,NF-κB レポーター を導入した.その後,細胞を TNF-α(1. 0ng/ml)で処理し,ルシフェラーゼアッセイにより NF-κB 転写活性を測定し た.NS:not significant.***P<0. 0 1,**P<0. 0 2,*P<0. 0 5. (C)組換え UBE1(E1) ,Ubc1 3/Uev1A(E2) ,TRAF6(E3) ,NEMO(基質)を用いて,in vitro において NEMO のポリ ユビキチン化を誘導した.抗 NEMO 抗体を用いた免疫沈降によりポリユビキチン化 NEMO を回収し,ポリユビキチン 化 NEMO に組換え野生型 p4 7または p4 7変異体が結合するかどうか結合実験を行った. (D)組換え p4 7と各型のポリユビキチン鎖(Ub2∼Ub7)を混合して,in vitro において結合実験を行った.その後,NiNTA アガロースを用いて p4 7を回収し,p4 7に結合しているポリユビキチン鎖をウェスタンブロッティングにより検出 した. ユビキチン鎖の型に特異性があるかどうか検討するため 現量が回復した23).この結果から,p4 7はリソソーム依存 に,in vitro において組換え p4 7と K4 8結合型,K6 3結合 的な経路を介して NEMO の分解を誘導することが示唆さ 型,直鎖状ポリユビキチン鎖(ジユビキチンからヘプタユ れた.また,内在性 p4 7の発現を抑制すると,TNF-α 刺 ビキチン:Ub2∼Ub7)が結合するか確認した.p4 7は K4 8 激により誘導されるポリユビキチン化 NEMO が蓄積し(図 結合型テトラユビキチンに結合するものの,NEMO が修 7B) ,E6 4D とペプスタチン A 処理でも同様の結果が得ら 飾を受ける型の K6 3結合型,直鎖状ポリユビキチン鎖に れた(図7C) .さらに,NEMO とリソソームマーカータ 優先的に結合することが明らかとなった(図6D) . ンパク質 lysosomal-associated membrane protein1 (LAMP-1) こ れ ま で の 結 果 か ら,p4 7は ポ リ ユ ビ キ チ ン 化 し た の局在を共焦点蛍光顕微鏡により確認し,TNF-α 刺激依 NEMO の発現量を制御することにより IKK 複合体活性化 存的に NEMO がリソソームに局在することも明らかにし を抑制することが推察された.そこで,p4 7が各 IKK 複合 て い る23).以 上 の 結 果 よ り,p4 7は ポ リ ユ ビ キ チ ン 化 体構成因子の発現量に影響を与えるかどうか検討するため NEMO のリソソーム分解を誘導して,IKK 複合体活性化 に,HEK2 9 3T 細胞に p4 7と各 IKK 複合体構成因子を強制 を負に制御することが明らかになった(図7D) . 発現し,その発現量を確認した.p4 7は IKKα,IKKβ の発 また,多くのがん細胞では,NF-κB 制御機構の破綻が 現量に影響を与えなかったが,p4 7強制発現によりポリユ 原因となって,恒常的に NF-κB が活性化している.そこ ビキチン化 NEMO の量が減少した(図7A) .このとき, で,そのようながん細胞において p4 7の発現量がどのよう プロテアソーム阻害剤 MG1 3 2処理では NEMO の発現量 になっているか検討を行った.その結果,NF-κB が恒常 は回復しなかったが,リソソーム阻害剤 E6 4D とペプスタ 的に活性化している成人 T 細胞白血病細胞において,p4 7 チン A で処理すると,p4 7によって減少した NEMO の発 の発現が低下していることを見いだした23).この結果か 4 1 2 〔生化学 第8 5巻 第6号 図7 p4 7はポリユビキチン化 NEMO のリソソーム分解を誘導する (A)HEK2 9 3T 細胞に Flag タグ付加 p4 7(0. 1,0. 3,1. 0μg)と各 IKK 複合体構成因子(0. 1μg)を発現させた後,ウェスタンブ ロッティングにより各 IKK 複合体構成因子の発現量を検出した. (B)siRNA を用いて内在性 p4 7の発現を抑制した HeLa 細胞を TNF-α(1 0ng/ml)で表記の時間処理した.その後,抗 NEMO 抗体 を用いて免疫沈降を行い,ポリユビキチン化 NEMO をウェスタンブロッティングにより検出した. (C)HeLa 細胞をリソソーム阻害剤 E6 4D(5. 0μg/ml) /ペプスタチン A(1. 0μg/ml)またはプロテアソーム阻害剤 MG1 3 2(1 0μM) で処理した後,細胞を TNF-α(1 0ng/ml)で表記の時間処理した.抗 NEMO 抗体を用いて免疫沈降を行い,ポリユビキチン化 NEMO をウェスタンブロッティングにより検出した. (D)p4 7による IKK 複合体抑制機構の模式図. ら,p4 7の発現低下が恒常的な NF-κB 活性化,細胞悪性 る選択的オートファジーが注目されている28).これまで, 化につながる可能性が示唆された. オートファジーは非選択的に細胞質成分を分解すると考え 8. 今 後 の 展 望 られてきたが,ポリユビキチン化タンパク質が選択的に オートファゴソームに封入され,分解されることが明らか これまで K6 3結合型ポリユビキチン化タンパク質の制 となってきている.実際に,T-cell receptor(TCR)下流の 御は脱ユビキチン化酵素が担っていると考えられてきた. NF-κB 活性化経路において,K6 3結合型ポリユビキチン しかし,本研究の結果から,脱ユビキチン化酵素によるポ 化 Bcl-1 0が選択的オートファジーにより分解されること リユビキチン鎖の切断に加え,ユビキチン化タンパク質の が示されている29).今後も,ポリユビキチン化タンパク質 分解も K6 3結合型ポリユビキチン化タンパク質の制御に の制御に関して興味深い展開が期待される. 重要な役割を果たしていると考えられる.本研究以外で また,p4 7に関しては in vivo における機能の解析が今 も,K6 3結合型ポリユビキチン鎖がリソソームを介したタ 後の課題である.p4 7欠損マウスを作製し,炎症応答や発 ンパク質分解に関与している可能性が示唆されている.6 3 がんにおける p4 7の役割を調べたいと考えている. 番目以外のリシンをアルギニンに置換し,K6 3結合型ポリ ユビキチン鎖のみが形成されるユビキチンを細胞に導入す 文 献 ると,ポリユビキチン化タンパク質がリソソームに蓄積す ることが示されている27).また,リソソームを介したタン パク質分解経路としてオートファジーがよく知られている が,近年,基質が選択的にオートファゴソームに封入され 3 4. 1)Hayden, M.S. & Ghosh, S.(2 0 1 2)Genes Dev.,2 6,2 0 3―2 2)Pasparakis, M.(2 0 0 9)Nat. Rev. Immunol.,9,7 7 8―7 8 8. 3)Perkins, N.D.(2 0 1 2)Nat. Rev. Cancer,1 2,1 2 1―1 3 2. 2 0 1 3年 6月〕 4)Liu, S. & Chen, Z.J.(2 0 1 1)Cell Res.,2 1,6―2 1. 5)Sun, S.C.(2 0 1 0)Sci. Signal.,3, pe1 8. 6)Pickart, C.M.(2 0 0 1)Annu. Rev. Biochem.,7 0,5 0 3―5 3 3. 7)Haglund, K., Di Fiore, P.P., & Dikic, I.(2 0 0 3)Trends Biochem. Sci.,2 8,5 9 8―6 0 3. 8)Xu, P., Duong, D.M., Seyfried, N.T., Cheng, D., Xie, Y., Robert, J., Rush, J., Hochstrasser, M., Finley, D., & Peng, J. (2 0 0 9)Cell,1 3 7,1 3 3―1 4 5. 9)Komander, D. & Rape, M.(2 0 1 2)Annu. Rev. Biochem., 8 1, 2 0 3―2 2 9. 1 0)Chen, Z.J. & Sun, L.J.(2 0 0 9)Mol. Cell,3 3,2 7 5―2 8 6. 1 1)Dynek, J.N., Goncharov, T., Dueber, E.C., Fedorova, A.V., Izrael-Tomasevic, A., Phu, L., Helgason, E., Fairbrother, W.J., Deshayes, K., Kirkpatrick, D.S., & Vucic, D.(2 0 1 0)EMBO J.,2 9,4 1 9 8―4 2 0 9. 1 2)Kirisako, T., Kamei, K., Murata, S., Kato, M., Fukumoto, H., Kanie, M., Sano, S., Tokunaga, F., Tanaka, K., & Iwai, K. (2 0 0 6)EMBO J.,2 5,4 8 7 7―4 8 8 7. 1 3)Tokunaga, F. & Iwai, K.(2 0 1 2)Microbes Infect., 1 4, 5 6 3― 5 7 2. 1 4)Kulathu, Y. & Komander, D.(2 0 1 2)Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 1 3,5 0 8―5 2 3. 1 5)Deng, L., Wang, C., Spencer, E., Yang, L., Braun, A., You, J., Slaughter, C., Pickart, C., & Chen, Z.J.(2 0 0 0)Cell, 1 0 3, 3 5 1― 3 6 1. 1 6)Lamothe, B., Besse, A., Campos, A.D., Webster, W.K., Wu, H., & Darnay, B.G.(2 0 0 7)J. Biol. Chem.,2 8 2,4 1 0 2―4 1 1 2. 1 7)Yamazaki, K., Gohda, J., Kanayama, A., Miyamoto, Y., Sakurai, H., Yamamoto, M., Akira, S., Hayashi, H., Su, B., & Inoue, J.(2 0 0 9)Sci. Signal.,2, ra6 6. 1 8)Sebban-Benin, H., Pescatore, A., Fusco, F., Pascuale, V., 4 1 3 Gautheron, J., Yamaoka, S., Moncla, A., Ursini, M.V., & Courtois, G.(2 0 0 7)Hum. Mol. Genet.,1 6,2 8 0 5―2 8 1 5. 1 9)Bertrand, M.J., Milutinovic, S., Dickson, K.M., Ho, W.C., Boudreault, A., Durkin, J., Gillard, J.W., Jaquith, J.B., Morris, S.J., & Barker, P.A.(2 0 0 8)Mol. Cell,3 0,6 8 9―7 0 0. 2 0)Komander, D., Reyes-Turcu, F., Licchesi, J.D., Odenwaelder, P., Wilkinson, K. D., & Barford, D.(2 0 0 9)EMBO Rep., 1 0, 4 6 6―4 7 3. 2 1)Skaug, B., Chen, J., Du, F., He, J., Ma, A., & Chen, Z.J. (2 0 1 1)Mol. Cell,4 4,5 5 9―5 7 1. 2 2)Tokunaga, F., Nishimasu, H., Ishitani, R., Goto, E., Noguchi, T., Mio, K., Kamei, K., Ma, A., Iwai, K., & Nureki, O.(2 0 1 2) EMBO J.,3 1,3 8 5 6―3 8 7 0. 2 3)Shibata, Y., Oyama, M., Kozuka-Hata, H., Han, X., Tanaka, Y., Gohda, J., & Inoue, J.(2 0 1 2)Nat. Commun.,3,1 0 6 1. 2 4)Kondo, H., Rabouille, C., Newman, R., Levine, T.P., Pappin, D., Freemont, P., & Warren, G.(1 9 9 7)Nature,3 8 8,7 5―7 8. 2 5)Yuan, X., Simpson, P., McKeown, C., Kondo, H., Uchiyama, K., Wallis, R., Dreveny, I., Keetch, C., Zhang, X., Robinson, C., Freemont, P., & Matthews, S.(2 0 0 4)EMBO J., 2 3, 1 4 6 3― 1 4 7 3. 2 6)Kaneko, Y., Tamura, K., Totsukawa, G., & Kondo, H.(2 0 1 0) FEBS Lett.,5 8 4,3 8 7 3―3 8 7 7. 2 7)Tan, J.M., Wong, E.S., Kirkpatrick, D.S., Pletnikova, O., Ko, H.S., Tay, S.P., Ho, M.W., Troncoso, J., Gygi, S.P., Lee, M.K., Dawson, V.L., Dawson, T.M., & Lim, K.L.(2 0 0 8)Hum. Mol. Genet.,1 7,4 3 1―4 3 9. 2 8)Reggiori, F., Komatsu, M., Finley, K., & Simonsen, A.(2 0 1 2) Int. J. Cell Biol.,2 0 1 2,2 1 9 6 2 5. 2 9)Paul, S., Kashyap, A.K., Jia, W., He, Y.W., & Schaefer, B.C. (2 0 1 2)Immunity,3 6,9 4 7―9 5 8.
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