1 糖尿病とカルシウム・骨代謝 特 集 糖尿病に潜む骨折危険性 ―糖尿病関連骨粗鬆症の病態と管理― 1 特 集 糖尿病に潜む骨折危険性 ―糖尿病関連骨粗鬆症の病態と管理― 糖尿病と カルシウム・骨代謝 骨芽細胞系細胞 Ca↑ 骨芽細胞系細胞 リン↓ PTH RANK 2D 1,25(OH) 福本誠二 OPG 破骨細胞形成,活性↑ 東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 RANKL リン 再吸収↓ 25(OH) D 分化, 融合 Ca 再吸収↑ 破骨細胞 前駆細胞 骨芽細胞系細胞 破骨細胞 骨は生体の支持組織,内臓の保護組織として機能することに加え,カルシウム(Ca)やリンの貯蔵庫としてミ ネラル代謝にも必須の役割を果たしている.このうち血中 Ca 濃度は,Ca 調節ホルモンである副甲状腺ホルモン 図 1 PTH の作用 PTH は骨と腎を標的臓器とし,血中 Ca 濃度の上昇とリン濃度の低 下を惹起する. ( parathyroid hormone;PTH)と 1,25 - 水酸化ビタミン D[1,25(OH)2 D]の作用により,狭い範囲に厳密にコ 図 2 RANKL-RANK 系 RANK:receptor activator of nuclear factor -κB, RANKL : RANK ligand, OPG: osteoprotegerin RANKL と RANK の結合により,破骨細胞の形成や活性が促進される.OPG は,RANKL のデコイ受容体として機能する. ントロールされている.糖尿病,あるいは高血糖は,PTH 分泌に影響を与えることにより,Ca 代謝や骨代謝に も作用しうることが報告されている.さらに近年,骨は内分泌臓器としても機能し,糖代謝にも影響を及ぼす 皮膚,食物 A ビタミン D ビタミンD2 ことが明らかにされている.以下本稿では,糖尿病が Ca や骨代謝に及ぼす効果と共に,骨が糖代謝にどのよう 硬組織である骨は,体内の Ca の約 99 %,リンの約 85 % 2D, 1,25(OH) 高 Ca 血症, FGF23 2D 1,25(OH) る.PTH と 1,25(OH) 2 D は,この骨や腎などに対する作 用により, ともに血中Ca濃度を上昇させるように作用する. このうち血中 Ca 濃度の変化に敏速に反応し,Ca 濃度調 CH2 HO を含有し,Ca やリンの膨大な貯蔵庫としても機能してい 1) H 25(OH)D PTH,低リン血症 1 型糖尿病に加え,2 型糖尿病患者においても骨折頻 ビタミン D3 H に作用するかにつき,概説する. はじめに B CH2 HO 図 4 ビタミン D ビタミン D2 は植物由来,ビタミン D3 は動物由来である. ビタミン D 受容体 図 3 ビタミン D 代謝経路 ビタミン D は,1,25(OH) 2 D に変換され作用する. 度が高いことが明らかにされた .この機序として,糖尿 節に中心的役割を担っているのが PTH である. 病,あるいは高血糖が,PTH 分泌や骨芽細胞機能,骨基 PTH は,腎臓と骨を主な標的臓器とし,G 蛋白共役受 質蛋白などにさまざまな影響を及ぼすことが考えられてい 容体のひとつである PTH1 受容体に結合することにより, (図 1) .これに加え PTH は,骨芽細胞のアポトーシスの .この ホルモンである 1,25(OH)2 D に変換される(図 3) る.ただし, 糖尿病と Ca 代謝や骨代謝の関連の詳細には, 作用を発揮する.腎臓において PTH は,近位尿細管でリ 抑制や骨芽細胞分化の促進など,骨芽細胞系細胞に多様 25(OH)D の 1α- 水酸化反応が 1,25(OH)2 D 産生の律速 現状でも不明な点も多く残されている. ンの再吸収を抑制するとともに,1,25(OH) 2 D 産生を促 進する( Ca 代謝の概要 図1 ) .また PTH は,遠位尿細管での Ca 再吸 2) な影響を及ぼすことも報告されている . 段階であり,前述の PTH や低リン血症により促進され, 一方 1,25(OH) 2 D は,ビタミン D が肝臓と腎近位尿細 逆に 1,25(OH)2 D 自身や高 Ca 血症,線維芽細胞増殖因 ) .皮膚 子 23(fibroblast growth factor 23;FGF23)により抑 収を亢進させる.さらに PTH は,骨芽細胞系細胞に作 管で水酸化を受けることにより産生される( 用し,receptor activator of nuclear factor- κB ligand で紫外線の作用のもとに産生されるビタミン D3 や,食物 制されるなど,厳密な調節を受けている. ( 中に存在し腸管から吸収されるビタミン D2,D3 は 1, 25(OH)2 D は,ステロイド受容体スーパーファミリー (RANKL)発現の促進を介して破骨細胞形成や活性を促 図3 図4 ) , ) .したがって PTH 作用により骨から血中 まず 肝 臓 で 25 位 に 水 酸 化 を 受 け 25 - 水 酸 化 ビタミン の一員であるビタミン D 受容体に結合することにより,作 成 人 の 体 内 に は, 約 1 kg の Ca と 約 600 g の リン に Ca やリン酸などが動員される.ただし血中リン濃度を D[25(OH)D]となる.この肝臓でのビタミン D の 25 -水 用を発揮する.1,25(OH) 2 D は腸管での Ca やリンの吸収 が 存 在 する. 骨 は, 骨 芽 細 胞 が 産 生 する Ⅰ 型 コラー 規定する最も重要な因子は,腎尿細管でのリンの再吸収 酸化反応は厳密な調節を受けておらず,基質依存性に を促進すると共に,腎遠位尿細管では Ca 再吸収を促進 ゲンを 主 とする 骨 基 質 蛋 白 に, ハイドロキシアパタイト である.したがって PTH の骨と腎臓への作用の総和と 進行するものと考えられている.さらにこの 25(OH)D する( (PO4) (OH) 結晶が沈着することにより形成される. [Ca10 6 2] して,血中 Ca 濃度の上昇とリン濃度の低下が認められる は,腎臓近位尿細管で 1α位に水酸化を受け,活性型 らの産生を抑制し,さらに高濃度では,PTH と同様,骨 進する( 6 ● 月刊糖尿病 2014/8 Vol.6 No.7 図2 図5 ) .また腎近位尿細管では,1,25(OH)2 D は自 月刊糖尿病 2014/8 Vol.6 No.7 ● 7
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