新製品と新技術 新型次世代台車「efWING」の開発 1.efWING の概要 レーションによる輪重横圧の計算を求められ 川崎重工業は、世界で初めて CFRP 製の る。 リーフスプリングを持つ次世代の鉄道車両用 2011 年に主要構造部に CFRP を使用した *1 台車「efWING 」を開発した。efWING は、 民間航空機が旅客運行を開始し、航空機業界 従来の台車では鋼製であった台車枠の主構造 では日本が誇る新素材 CFRP が注目を浴びて に CFRP を採用し、更にこの CFRP 製フレー いる。鉄道車両でも、新幹線の先頭部やカバー ムにサスペンション機能を持たせて 1 次サス にも採用が拡大しており、台車への採用にも ペンションを不要としている。これにより、 弾みがついた。 台車枠の重量を従来比で 1 両当たり約 900 ㎏ の軽量化を達成し、ランニングコストの低減 3. 基本構造 と CO2 排出量の削減に貢献できる。 従来台車においては、1 台車内には 4 つの 車輪が車軸に組み込まれ、前後 2 セットの輪 2. 開発のいきさつ 軸となる。1 次サスペンションを介して台車 鉄道車両には厳しい重量制限があり、台車 枠があり、台車枠にモータ・ギアやブレーキ も軽量化を要求される。しかし近年、センサー などが組み込まれる。その上に一対の空気バ などの保安部品も多く装着され、台車の重量 ネが配置され、その上部に車体が乗る構造で は増加する傾向にある。有限要素法 (FEA) に ある。今回、図 1 に示す通り、台車枠の両サ よる強度解析や板厚最適化計算を行い、板厚 イドにある側バリと軸バネを廃して CFRP 製 を最少とする設計や軽量穴をあけて軽量化を のバネに置き換える配置とした。 図ることも限界となっている。従来の延長上 ではこれ以上の軽量化は容易に達成できない ので、設計思想そのものを変える必要がある。 更に、走行安全性の要求も高まり、静的・動 的な輪重変動の厳しい要求、車両運動シミュ 川崎重工業株式会社 車両カンパニー 技術本部台車設計部 図1 西村 武宏 CFRP バネは 3 層構造であり、上下の層が CFRP で曲げ荷重を負担し、中間層の GFRP 21 鉄道車両工業 470 号 2014.4 新製品と新技術 がせん断荷重を支えるよう設計した。CFRP また、材料として鉄道車両に採用する以上、 バネはボルトやピンで固定することの無い構 難燃性の試験が必項となり、使用する材料で 造であり、CFRP のバネの両端は軸箱上に 車材燃試において不燃性の結果が出た。商品 乗っているだけである。円弧形状の中央圧子 化への大きな道が開けた。 は、ゴムを介して別体とし横バリ下面に固定 されている。CFRP バネの中央に中央圧子を 乗せ台車枠を構成する。CFRP バネは軸箱、 横バリの両方共に固定されず、乗っているだ けの簡素な構造となっている。そのため、前 後の車輪に線路不整に起因する高さの差が発 生しても、CFRP バネが半円の中央圧子に対 して回転し、線路不整差を吸収することに寄 与する。重量は 1 本当たり 50 ㎏であり、1 台車で約 450 ㎏の軽量化 ( 従来比 ) を達成し 図2 た。 ========================================= 2012( 平成 24) 年 5 月、次の試作台車の 2 *1: environmentally friendly Weight-Saving 台車を完成させた。その写真を図 3 に示す。 Innovative New Generation Truck 完成後には、静荷重試験や別途単品での疲労 *2: Transportation Technology Center, Inc. 試験を実施し性能を確認している。 ========================================= 4. 開発の経緯 2011( 平成 23) 年から CFRP バネの開発 を進めた。 在来線の荷重条件を基に軸距2,100㎜の軸 箱上に乗るように両端支持の 3 点曲げをベー スに設計を展開した。また、軸箱の前後・左 図3 右剛性は従来通り軸ハリ式の軸箱支持装置と し、この部分においては大きな開発要素は入 2012( 平 成 24) 年 6 月、 ア メ リ カ の コ ロ れず、将来の商品化の段階で受け入れやすい ラド州にあるアメリカ鉄道協会運輸技術セン 構成とした。 ター(TTCI*2)にて走行試験を実施した。 試作台車は在来線向け狭軌のボルスタレス 図 4 に走行試験を実施した車両編成写真を 台車であり、図 2 に示す形状となった。弊社 示す。 内の回転試験器で試験を実施し、200 ㎞ /h 1 両目が牽引する機関車、2 両目が計測器 まで回転させて引張加振など外乱を与えても を積んだ測定車、3 両目が比較対象の既存車 問題なく走行できることを確認した。 と既存台車、4 両目が既存車体と efWING 台 更に、バネ単体は満車荷重の 2.7 倍相当の 車の組み合わせである。efWING を装着した 静荷重に耐えることも荷重試験で実証した。 状態を図 5 に示す。 鉄道車両工業 470 号 2014.4 22 けないことを要求するアメリカでの厳しい試 験基準に従った試験である。本試験において、 efWING は、輪重の抜け量を従来台車の半分 以下であることを実証できた。これは、前述 の円弧上の中央圧子と CFRP バネの接触部で シーソーのように荷重バランスをとるためで ある。この高い輪重抜け性能が efWING の 大きな特徴と言える。その試験結果を図 6 に 示す。 図4 走行試験は全 20 日間にわたり、全走行距 離 4,469 ㎞ を 達 成 し た。TTCI に は 複 数 の ループ線があり、1 番大きな高速路線は全周 が 21.7 kmある。最高速度は機関車の限界 速度である 160 ㎞ /h で走行を繰り返した。 また、最少カーブが R145 であり、8 番分岐 もある。更に、左右のレールの上下不整を合 わせている Pitch and Bounce、半波長ずれ ている Twist and Roll、左右不整を合わせ ている Yaw and Sway があり、それらすべ ての区間を走行し、輪重と横圧を測定できる PQ 輪軸で動的な測定を行った。 図5 一連の試験の結果、efWING がアメリカ連 邦運輸局の鉄道車両の走行安全性に対する規 走行試験の前に輪重抜け試験を実施した。 定 49CFR213.333 の全ての要求を満足し、 これは、1 台車内の任意の 1 車輪が線路不整 アメリカの鉄道において安全に走行できるこ により、落ち込んだり伸び上がったりした場 とが証明された。これら試験結果の代表デー 合、車輪とレールの間の上下荷重 ( 輪重 ) が抜 タを図 7 に示す。 図6 23 鉄道車両工業 470 号 2014.4 図7 新製品と新技術 5. デザインの追及 ン賞に応募し、栄えある金賞を受賞した。今 開発当初より、バネに赤いラインを入れる 回、審査委員からは「日本が誇る新素材技術 などバイクをイメージしたデザインを目指し と構造開発によって、高性能で機能的な美し た。車輪の円周に同じく赤いリングマークを さをもった台車が生まれたことを高く評価し 入れて意匠性を高め、台車の存在をアピール たい。」など、コメントをいただいた。従来、 できるデザインとした。従来にない台車を設 車両の先頭形状やカラーリング、室内のデザ 計したからこそ、従来にないカラーリングで インにおいては数々のデザイン賞を頂いた鉄 印象付けるように配慮した。 道車両であるが、今回の台車でのデザイン関 更に、CFRP バネの露出部には飛石防止対 連の受賞は初めての快挙である。 策や保護を目的としてカバーを設ける設計と している。折角のバネのカラーリングが見え 6. 今後の展開 なくなるので、カバーにそのデザインを転写 efWING (2 台車 ) が熊本電鉄殿で 3 月 14 するだけではなく、複数のデザイン案を検討 日から営業運転に使用されている。その写真 した。車種の違いや客先の違いによってデザ を図 8 に示す。 インを変えて対応できるよう考慮している。 熊本電鉄殿で営業運転に使用できるまでご 色も黒と赤の 1 セットではなく、緑や青など 支援・ご協力頂いた皆様にこの場を借りて感 の複数の色を準備し、客先のカンパニーカ 謝を述べるとともに、efWING が鉄道車両技 ラーとマッチングしたデザインを提案してい 術の革新となり、日本及び世界の鉄道事業者 きたい。 に普及できるよう取り組んでいく。 更に、当初から計画していたグッドデザイ 図8 平成26年4月9日、日刊工業新聞社主催「第43回日本産業技術大賞」の表彰式が開催され、 川崎重工業株式会社の「鉄道車両用新型台車『efWING』」が、文部科学大臣賞を受賞され ました。 誠におめでとうございました。 鉄道車両工業 470 号 2014.4 24
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