大気常時監視測定局の適正配置調査(第2報)

大気常時監視測定局の適正配置調査(第2報)
大気環境部
1
2
小平 智之
大塚 香穂里
荒川 涼
1
2
( 地球温暖化対策課 県東環境森林事務所)
1 はじめに
年度から 2 カ年の計画で調査を行った。
かつて大気環境を取り巻く状況としては、化石燃料の
本稿はその取りまとめとして、一般環境測定局(以下、
燃焼に伴う硫黄酸化物やばいじん、窒素酸化物による汚
「一般局」
という。
)
における検討結果について報告する。
染が深刻な問題となっていた。これら大気汚染への対策
として昭和37年にばい煙規制法が制定され、昭和42年8
2 調査方法
月に公害対策基本法(平成5年11月、環境基本法の施行に
2.1 大気常時監視測定結果の収集
より廃止)が公布、
昭和43年に根本的な見直しが行われた
平成20年度から平成22年度の3カ年分の Ox、SO2、NOx、
後、大気汚染防止法(以下、
「法」という。
)が制定され
SPM 及び NMHC について、各測定局、測定項目毎に時間値
た。しかし、その後も大気汚染の改善は見られず、昭和
単位でデータを収集し解析に用いた。
45年に公害問題の早急な改善と汚染の防止を徹底するた
県内の大気汚染常時監視測定局の一般局の分布を図1
め、法の大幅な改正が行われ、現在の法の原型が策定さ
に示す。
れた。
2.2 栃木県の現在の大気環境の状況の確認
本県の大気状況を把握するため、平成20年度から平成
22年度の3カ年分のOx、SO2、NOx、SPM及びNMHCについて、
測定局毎に各年度の平均濃度を算出した。
法の中では、大気汚染状況の常時監視に関する条項が
定められており、昭和45年の法改正から都道府県及び政
令市に大気汚染物質の常時監視測定が義務付けられた。
また、平成13年5月公布の「大気汚染防止法第22条の規定
に基づく大気の汚染の状況の常時監視に関する事務の処
理基準について」
(以下、
「事務処理基準」という。
)を受
け、
本県では平成13年8月の栃木県環境審議会答申に基づ
き、大気常時監視体制を整備し、自動測定機による大気
2.3 県内の測定局間の濃度相関及び風の相関
Ox、SO2、NOx、SPM及びNMHCの濃度及び風向風速のベク
トルについて測定局間の相関係数を算出した。相関係数
の算出には平成20年度から平成22年度までの1時間値を
用いた。
常時監視が実施されてきた。
その後、数度にわたり事務処理基準の改定が行われて
きたが、直近では平成22年3月の改定により、これまでの
測定局数の算定方法以外に、発生源の状況、人口分布、
気象条件等に応じて行政区域内をいくつかの類似した属
性を有する地域に分類することを可能とする規定が新た
に追加された。また、平成の大合併により市町村数が減
少し、平成16年4月に46市町村であったのが平成23年4月
には27市町まで減少するなど、大気の汚染状況の変化に
伴う常時監視体制の在り方やそれぞれの自治体の構成等
も変化してきた。
このような状況下で、公害防止技術の進歩や自動車排
出ガス規制の強化、VOC 規制など、大気環境保全のため
の様々な取組がなされてきた。その結果、二酸化硫黄
(SO2)や、二酸化窒素(NO2)、一酸化炭素(CO)、浮遊粒子
状物質(SPM)、
非メタン炭化水素(NMHC)については大幅な
改善傾向がみられ、概ね環境基準を達成するようになっ
たが、依然として、光化学オキシダント(Ox)については
善の傾向が見られていない。
今回、本県の大気汚染の実態を把握するためにより適
した測定局の配置を検討することを目的として、平成 23
- 83 -
図 1 県内の大気汚染常時監視測定局の分布
表 1 事務処理基準に基づく、大気汚染常時
監視局数
なお、風向風速のベクトル相関係数 2)(以下、
「風の相
関係数」という。
)は、風に関する気象条件の類似性の指
標となるもので、以下の式を用いて算出した。
2.4 測定局のグループ化
Ox、SO2、NOx、SPM 及び NMHC の各濃度の時間値につい
て、クラスター分析 2)を用いてグループ化を行った。そ
れぞれの項目について、平成20年度、平成21年度及び平
成22年度(一測定局あたりのデータ数:24時間×365日
=8,760個)の年度毎並びに3年間分を併せたもの(一測定
局あたりのデータ数:24時間×365日×3ヶ年=26,280個)
の各データを用いた。
2.5 工業団地面積、化学物質排出把握管理促進法による
届出排出量(以下、
「PRTR排出量」という)及び道路交通
センサス
本県の発生源の状況を把握するため、平成22年度の工
業団地面積、大気中へのPRTR排出量及び道路交通センサ
スについて、光化学スモッグ注意報発令地域区分毎に算
出し、解析を実施した。
測定項目
SO 2
栃木県(宇都宮市除く)
宇都宮市
6
2
測定項目
SO 2
栃木県(宇都宮市除く)
宇都宮市
9
3
測定項目
SO 2
栃木県(宇都宮市除く)
宇都宮市
3
1
必要数
SPM
Ox
NOx
CO
NMHC
19
6
19
6
3
1
9
3
現状
SPM
Ox
NOx
CO
NMHC
25
9
19
4
21
7
5
2
9
3
Ox
NOx
CO
NMHC
0
-2
2
1
2
1
0
0
19
6
増減数
SPM
6
3
3 結果及び考察
3.1 事務処理基準による統廃合の方向について
事務処理基準に基づく、本県における大気汚染常時監
視局数、現状数及び増減数を表1に示す。
この増減数は一般局及び自排局の合計数であるが、こ
の調査においては、
PM2.5を除く全測定項目で一般局を調
査対象としたため、現状が必要数よりも多いSO2、SPM及
びNOxの測定局の統廃合について検討した。
なお、COについては、一般局数が本県、宇都宮市とも
に1局ずつであるため、統廃合を行わないこととした。
3.2 測定項目による統廃合の検討
3.2.1 SPM
既報 3)で検討したとおり、クラスター分析によるグル
ープ化は不可能であった。
各測定局間の濃度及び風の相関係数を検討した結果を
表2に示す。
表 2 SPM 濃度及び風の相関係数
0.68
足利市役所
0.67
0.66
0.50
0.52
0.53
0.67
0.60
0.60
0.62
0.60
0.59
0.55
0.60
0.62
0.64
0.58
0.60
0.61
0.55
0.58
0.73
0.78
0.56
0.59
0.62
0.83
0.72
0.68
0.74
0.69
0.69
0.72
0.73
0.72
0.78
0.71
0.76
0.75
0.70
0.69
0.70
0.67
0.52
0.54
0.54
0.71
0.62
0.57
0.63
0.61
0.58
0.61
0.64
0.64
0.65
0.58
0.64
0.63
0.56
0.61
0.59
栃木市役所
0.51
佐野市役所本庁舎
(県安蘇庁舎)
0.68
0.64
鹿沼市役所
0.40
0.65
0.50
日光市日光総合支所
0.18
0.31
0.20
0.39
日光市今市小学校
0.37
0.45
0.44
0.65
0.57
日光市藤原総合支所
0.19
0.28
0.36
0.42
0.28
0.43
小山市役所
0.57
0.79
0.68
0.51
0.09
0.35
0.21
真岡市役所
0.46
0.67
0.54
0.64
0.24
0.51
0.48
0.69
大田原市総合文化会
館
0.36
0.52
0.52
0.52
0.07
0.39
0.49
0.51
0.55
矢板市役所
0.41
0.56
0.55
0.64
0.28
0.62
0.47
0.49
0.62
0.74
那須塩原市黒磯保健
センター
0.33
0.45
0.48
0.51
0.15
0.42
0.54
0.43
0.56
0.81
0.67
県南那須庁舎
0.34
0.43
0.36
0.36
0.19
0.33
0.25
0.30
0.38
0.43
0.46
上三川町役場
0.46
0.68
0.57
0.65
0.12
0.43
0.37
0.76
0.79
0.54
0.56
0.52
0.21
益子町役場
0.43
0.50
0.52
0.47
-0.01
0.36
0.23
0.67
0.74
0.42
0.46
0.41
0.28
0.76
那珂川町小川庁舎
0.40
0.52
0.50
0.50
0.13
0.41
0.47
0.50
0.62
0.68
0.69
0.64
0.54
0.49
0.50
宇都宮市中央
0.42
0.63
0.55
0.71
0.28
0.56
0.46
0.62
0.75
0.56
0.64
0.54
0.31
0.76
0.62
0.57
宇都宮市泉が丘小学
校
0.44
0.61
0.52
0.69
0.26
0.56
0.34
0.63
0.74
0.49
0.60
0.50
0.32
0.76
0.68
0.56
0.84
宇都宮市雀宮中学校
0.43
0.72
0.58
0.74
0.27
0.55
0.36
0.68
0.77
0.53
0.63
0.51
0.31
0.83
0.67
0.56
0.82
宇都宮市瑞穂野北小
学校
0.44
0.65
0.59
0.72
0.18
0.56
0.40
0.67
0.77
0.54
0.62
0.53
0.34
0.83
0.77
0.57
0.82
0.81
0.84
宇都宮市細谷小学校
0.38
0.53
0.51
0.73
0.15
0.56
0.44
0.56
0.68
0.56
0.62
0.57
0.23
0.76
0.68
0.48
0.78
0.77
0.75
0.81
宇都宮市清原
0.45
0.59
0.54
0.65
0.19
0.53
0.37
0.65
0.76
0.50
0.59
0.50
0.31
0.80
0.76
0.56
0.81
0.83
0.80
0.86
0.78
宇都宮市河内
0.44
0.60
0.52
0.67
0.32
0.61
0.37
0.58
0.72
0.52
0.65
0.50
0.39
0.66
0.60
0.61
0.80
0.84
0.76
0.75
0.68
足利市役所
栃木市役所
日光市日光総 日光市今市小 日光市藤原総
小山市役所
合支所
学校
合支所
真岡市役所
0.67
佐野市役所本
庁舎(県安蘇 鹿沼市役所
庁舎)
左下:風の相関係数
0.58
0.69
0.71
0.74
0.67
0.71
0.77
0.72
0.69
0.67
0.69
0.69
0.78
0.69
0.72
0.71
0.73
0.65
0.71
0.65
0.70
0.53
0.47
0.58
0.62
0.62
0.53
0.48
0.50
0.54
0.56
0.50
0.52
0.51
0.53
0.46
0.52
0.69
0.54
0.49
0.58
0.63
0.62
0.52
0.48
0.52
0.55
0.58
0.52
0.53
0.53
0.56
0.48
0.54
0.59
0.50
0.67
0.70
0.74
0.58
0.52
0.54
0.62
0.63
0.55
0.57
0.56
0.59
0.50
0.57
0.77
0.66
0.71
0.68
0.68
0.76
0.74
0.71
0.80
0.73
0.78
0.78
0.69
0.72
0.71
0.63
0.64
0.62
0.71
0.72
0.77
0.68
0.75
0.69
0.72
0.77
0.63
0.74
0.70
0.78
0.82
0.71
0.59
0.63
0.75
0.73
0.65
0.64
0.66
0.66
0.63
0.65
0.80
0.72
0.67
0.69
0.78
0.76
0.70
0.71
0.70
0.71
0.63
0.72
0.69
0.62
0.65
0.77
0.73
0.66
0.67
0.66
0.66
0.62
0.66
0.64
0.72
0.77
0.73
0.67
0.66
0.69
0.64
0.68
0.67
大田原市総合
矢板市役所
文化会館
0.40
0.73
那須塩原市黒
磯保健セン 県南那須庁舎 上三川町役場 益子町役場
ター
右上:SPM 濃度相関係数
- 84 -
0.66
0.75
0.70
0.75
0.75
0.67
0.66
0.69
0.74
0.73
0.67
0.69
0.74
0.63
0.71
0.66
0.74
0.68
0.68
0.70
0.64
0.68
0.67
0.80
0.80
0.80
0.75
0.75
0.78
0.74
0.76
0.70
0.69
0.75
0.78
0.70
0.70
0.74
0.81
0.70
0.77
0.74
0.62
0.71
0.67
0.77
那珂川町小川
宇都宮市泉が 宇都宮市雀宮 宇都宮市瑞穂 宇都宮市細谷
宇都宮市中央
宇都宮市清原 宇都宮市河内
庁舎
丘小学校
中学校
野北小学校 小学校
- 85 -
表 6 NOx 濃度及び風の相関係数
グループ②
グループ①
0. 43
鹿沼市役所
0. 42
0. 30
0. 17
0. 41
宇都宮市中央
0. 49
0. 46
0. 39
0. 41
宇都宮市雀宮中学校
0. 82
0. 57
0. 51
0. 58
宇都宮市細谷小学校
0. 78
0. 67
0. 48
宇都宮市河内
日光市今市小学校
0. 65
真岡市役所
0. 64
0. 51
大田原市役所( 大田原
市総合文化会館)
0. 52
0. 39
0. 55
那須塩原市黒磯保健
セン タ ー
0. 51
0. 42
0. 56
県南那須庁舎
0. 36
0. 33
0. 38
鹿沼市役所
日光市今市小学
校
真岡市役所
0. 81
0. 43
0. 33
0. 40
大田原市役所( 大
那須塩原市黒磯
田原市総合文化
保健セン タ ー
会館)
県南那須庁舎
0. 76
0. 80
宇都宮市中央
0. 51
佐野市役所本庁舎
( 県安蘇庁舎)
0. 68
0. 57
足利市役所
Ox、NMHC、SPM、 SO2、NOxの 5 つの常時監視項目につ
いて各測定局の適正な配置を行うための検討を行った。
Ox、NMHCについては、事務処理基準と同数またはそれ
0. 75
0. 76
宇都宮市雀宮中
学校
0. 47
栃木市役所
小山市役所
4 まとめ
0. 81
0. 71
0. 76
0. 68
宇都宮市細谷小
学校
宇都宮市河内
グループ③
足利市役所
3.2.3 NOX
クラスター分析によるグループ分けの結果を図2に示
す。矢板市役所、清原及び上三川町役場は濃度分布に地
域特性が見られたことから、その他のグループに分類さ
れた測定局について、各グループの濃度及び風の相関係
数を表6に示した。
グループ①においては、大田原市総合文化会館が、那
須塩原市黒磯保健センターと濃度、風ともに相関が強い
傾向にあり、いずれかの測定局を統廃合することが適切
と考えられた。
宇都宮市中央、雀宮中学校及び河内については、相互
に濃度、風ともに相関が強い傾向にあった。このことか
ら、いずれかの測定局を1局または2局統廃合することが
適切と考えられた。
グループ③においては、
表3における県南部及び県南西
部のみから構成されており、局数に余裕のある県南西部
の方が統廃合に適していると考えられる。また、足利市
役所及び佐野市役所本庁舎(県安蘇庁舎)は、濃度、風
ともに比較的相関が強い傾向にあることから、いずれか
の測定局を統廃合することが適切と考えられた。
0. 77
0. 70
0. 67
0. 52
0. 69
0. 76
0. 64
0. 79
栃木市役所
0. 69
0. 68
佐野市役所本庁
舎( 県安蘇庁舎)
小山市役所
以下であることから、統廃合を実施せずに測定局を維持
継続することが適切と考えられた。
SPMについては、宇都宮市中央を残し、泉が丘小学校及
び瑞穂野北小学校を、大田原市総合文化会館または那須
塩原市黒磯保健センターのいずれかの測定局を、また、
上三川町役場または益子町役場を統廃合することが適切
と考えられた。
SO2については、足利市役所または佐野市役所本庁舎
(県安蘇庁舎)のいずれかを、さらに日光市今市小学校
または那須塩原市黒磯保健センターを統廃合することが
適切と考えられた。
NOxについては、大田原市総合文化会館または那須塩原
市黒磯保健センターのいずれかの測定局を、宇都宮市中
央、
雀宮中学校または河内のいずれかの測定局を1局また
は2局を、また足利市役所または佐野市役所本庁舎(県安
蘇庁舎)のいずれかの測定局を統廃合することが適切と
考えられた。
5 参考文献
1) 窒素酸化物総量規制マニュアル[新版] (平成12 年、
公害研究対策センター)
2) 白土新太郎、第50回大気環境学会年会 講演要旨集
423、平成21年9月
3) 栃木県保健環境センター大気環境部, 大気常時監視
測定局の適正配置調査(第1報),100-104, 2012
- 86 -