(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №317 海面処分場の保有水の pH 対策に関わる検討 中央開発株式会社 束原 純 中央開発株式会社 前田 直也 中央開発株式会社 ○太田 勇希 論 文 要 旨 海面最終処分場は,内陸に設置されている処分場と異なり,内水の移動が極めて緩慢で,廃棄物の埋立が完了し廃止 するまでの期間が長期におよぶことが想定される。また,海面最終処分場は人口の集中した地域に隣接している場合が 多く,港湾施設等跡地の高度利用が計画されており,さらには有害物質の流出等のリスクを軽減させる必要があり,廃 棄物層の早期安定化を図ることが求められている。そこで,対象とする海面最終処分場では,集水暗渠等の保有水集排 水設備を設置し,保有水を積極的に集排水することにより,保有水の水質改善と廃棄物層の安定化,処分場の早期廃止 を図っている。これにより,COD や T-N 等の水質についてはある程度の効果が見込まれている。しかし,pH について は廃止基準を上回るアルカリ側で横ばい状態が,長期に渡り継続することが懸念されている。 本調査では,海面最終処分場に導入されている集水暗渠の pH 挙動に係る機能を,種々の室内試験(模擬砕石槽によ る実験・CO2 の取り込みによる pH 低下効果の確認試験・シリアルバッチ試験・カラム試験・大型カラム試験)により 求め,集水暗渠内の保有水の pH 挙動および支配要因について検討し,pH 低下効果に関する検証を行った。 キーワード:海面最終処分場,地下水調査,廃棄物,シリアルバッチ試験,カラム試験 ま え が き 海面最終処分場では,水平方向集水暗渠等の保有水等集 質に類似させた「模擬水 A」と「模擬水 B」を表 1.1 に示 す濃度となるように作成した。 排水設備を導入することにより,保有水(処分場内の地下 水)の水質改善と廃棄物層の安定化,処分場の早期廃止を グリ石部 図っている。処分場廃止のためには,集排水管出口での保 有水水質が廃止基準を下回る必要があるが,pH について は廃止基準を上回るアルカリ側で横ばい状態が,長期に渡 り継続することが懸念されている。 そこで, 海面最終処分場に導入されている集水暗渠の pH 集水暗渠 挙動に係る機能を,種々の室内試験(模擬砕石槽による実 験・CO2 の取り込みによる pH 低下効果の確認試験・シリ 図 1.1 集水暗渠の標準断面 アルバッチ試験・カラム試験・大型カラム試験)により求 表 1.1 模擬保有水の組成 め,集水暗渠内の保有水の pH 挙動および支配要因につい 組成 て検討を行った。本論文では,検討した室内試験の試験方 法および試験結果について報告を行う。 1.模擬砕石層による実験 模擬水Aの濃度 模擬水Bの濃度 CaCl2 0.021(mol/L) 0.011(mol/L) NaCl 0.142(mol/L) 0.042(mol/L) KCl 0.028(mol/L) 0.008(mol/L) 1.1 調査目的 保有水が廃棄物層を通じ,集水暗渠に流入する過程にお 1.3 試験方法 いて,集水暗渠周囲に設置されたグリ石部(図 1.1 参照) 集水暗渠周囲のグリ石部を再現した実験槽を用意し,グ で空気との接触が起こった場合の pH 挙動を把握すること リ石部を通って集水暗渠に流れ込む保有水の流れを再現 を目的とした実験を行った。 できるように実験装置を作製した(図 1.2,写真 1.1 参照) 。 1.2 試験試料 次に,模擬水を実験槽内に流下させる設定流量は,保有水 海面最終処分場で採取した保有水の分析結果より,保有 の集水暗渠内への流入量を想定し,実験槽出口での流量が 水に含まれる主要元素は Ca,Na,K,Cl である。その水 4.6,3.2,1.3L/分の 3 段階となるように,実験装置の調整 - 1 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №317 弁を随時調整した。 11.3 実験槽内を流下させた模擬水を,実験槽の出口から一定 流量毎に採水し,pH を分析した(表 2.1 参照) 。 11.1 なお,実験槽の出口の高さまで満水にした状態での模擬 10.9 水の量は 26L であった。 10.7 N2 4.6(L/分) 実験槽(100×20×50cm) 出口 採水 P 砕石層 40cm 3.2(L/分) 10.5 1.3(L/分) 10.3 模擬水 初期水質 30cm 出口からの 流出開始時 出口から 26L流出時 出口から 39L流出時 図 1.3 模擬水 A における pH の変化 流量調整 10.5 図 1.2 模擬実験槽と模擬水の流れの概略 4.6(L/分) 10.3 3.2(L/分) 1.3(L/分) 10.1 9.9 上部 側面(出口側) 9.7 側面(入口側) 9.5 模擬水 初期水質 写真 1.1 実験槽の上部,側面の様子 出口からの 流出開始時 出口から 26L流出時 出口から 39L流出時 図 1.4 模擬水 B における pH の変化 表 1.2 分析用試料採取時期 流量 (L/分) 実験槽出口から 流出開始時点 出口から26Lの 模擬水流出時点 出口から39Lの 模擬水流出時点 4.6 0分後 5分40秒後 8分30秒後 2.CO2 による pH 低下効果の確認試験 2.1 調査目的 3.2 0分後 8分10秒後 12分10秒後 保有水の空気からの CO2 の取り込みによる pH の低下効 1.3 0分後 20分00秒後 30分00秒後 果を把握することを目的に,空気との接触面積および水位 が pH 低下に及ぼす影響を検討した。 1.4 試験結果 模擬水 A の pH の結果を図 1.3 に,模擬水 B の pH の結 2.2 試験試料 果を図 1.4 示す。 海面最終処分場の集水暗渠内の 2 箇所(A 地点と B 地点) 模擬水 A の初期値の pH から砕石層を通水した後のpH より採取した保有水を試験対象試料とした。表 2.1 に保有 の変化は 0.08~0.37 であり,模擬水 B(初期から通水後の 水の主要項目を示す。 表 2.1 採取試料した保有水の主要水質 pH の変化 0.11~0.28)と比較して大きい。これより,pH が高い保有水ほど砕石層を通水させることによる pH の変 地点 pH EC mS/cm IC mg-C/L TOC mg-C/L 化が大きいことが確認された。また,どの流量においても, A 11.3 20.3 2.7 99.2 流出開始時点の pH の値が最も低い値を示し,比較して砕 B 11.1 15.9 1.3 105.7 石層内が模擬水で満水となった後の流出量 26L 時点と 39L 2.3 試験方法 時点では pH の低下幅が小さくなることが分かった。これ 表 2.2 に示す様に,同一表面積の容器で水位を変化させ は,砕石層内を空気と接触しながら出口まで到達する際の た試料と同一容量で表面積を変化させた試料を 5 種類ずつ pH 低下効果に比べ,満水になり表層部のみが空気と接触 準備した。さらに,各試料について,静置条件(条件Ⅰ) しながら出口に到達する状態での pH の低下効果の方が小 と振幅 5cm,回転速度 15rpm で振とうする条件(条件Ⅱ) さいことが要因と考えられる。 で,分析する経過時間(0 時間,20 時間,44 時間,68 時 以上より,集水暗渠管周囲のグリ石部分では,保有水と 間,92 時間,116 時間,164 時間,210 時間)分用意し, 空気との接触時間が十分なく,pH の低下効果は限定的で 風速 0.5m/s のクリーンブース内で暗所,20±3℃の条件の下 あると考えられる。 に置いた。分析項目は,pH,EC,TOC,蒸発量とした。 - 2 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №317 0.12 表 2.2 試料条件(各容器表面積と保有水容量による水位) 条件x 条件y 表面積が同じ容器(20.4cm2)により保有水位 を変化させた場合の設定水位と容量 容量を一定(200mL)にし,容器表面積 を変化させた場合の設定水位と表面積 2 試料番号 水位(cm) 容量(mL) 試料番号 水位(cm) 表面積(cm ) xa 2.5 50 ya 2.3 86.5 xb 4.9 100 yb 4.7 43.0 xc 9.8 200 yc 9.8 20.4 xd 14.7 300 yd 15.2 13.2 xe 19.6 400 ye 19.7 表面積一定 [OH-]減少速度(mmol/L/h) [OH-]減少速度(mmol/L/h) 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0.00 0.0 0.2 0.4 0.6 表面積変化 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0.00 0.0 0.1 表面積/容量 (1/cm) 10.2 0.2 0.3 0.4 0.5 表面積/容量 (1/cm) AxⅠ y = 0.162 x + 0.007 R² = 1.000 AyⅠ y = 0.261 x + 0.001 R² = 1.000 AxⅡ y = 0.180 x + 0.013 R² = 0.960 AyⅡ y = 0.227 x + 0.013 R² = 0.991 BxⅠ y = 0.120 x + 0.006 R² = 0.996 ByⅠ y = 0.230 x + 0.007 R² = 0.998 BxⅡ y = 0.143 x + 0.014 R² = 0.998 ByⅡ y = 0.181 x + 0.017 R² = 0.965 図 2.2 保有水容量,表面積と[OH-]減少速度の関係 2.4 試験結果 3.シリアルバッチ試験とカラム試験 A 地点における pH の経時変化を図 2.1 に示す。水位が 低いほど,表面積が大きいほど pH の低下は早い傾向にあ 3.1 調査目的 る。また,静置より振とう条件の方が水位による pH の差 海面最終処分場内に降った雨は廃棄物層に浸透して保 は小さくなる傾向が認められた。いずれの試料においても 有水となり,廃棄物層内を飽和流れによって集水暗渠に流 210 時間の実験期間中に pH9 以下となり,静置より振とう 入する。 このような過程で集水暗渠に流入する保有水の pH 条件のほうが pH 低下速度は速い傾向が見られた。 を主とした長期的な水質挙動を把握するためにシリアル 次に,各試料の pH=9 に至るまでの時間と減少した OH バッチ試験およびカラム試験を実施した。 イオン濃度より, [OH-]減少速度(mmol/L/h)を求め, 3.2 試験試料 表面積/容量(=1/水位)との関係を図 2.2 に示す。これ 海面最終処分場の保有水位以下の廃棄物層からボーリ より,高い相関があることが確認される。また,表面積が ングで採取した埋立物を試料として用いた。表 3.1 に試験 一定の場合,静置より振とう条件の方が近似線の傾き,切 試料の物理的性質と処分場の主要埋立物の割合を示す。採 片ともに高い値となり,保有水容量の小さい試料ほど振と 取試料は,窒素ガス濃度 95%以上に保ったグローボックス うによる液面の拡散効果が大きく現れ,二酸化炭素の溶け 内で 20 日間風乾燥を実施後,塊を乳棒で粉砕し,4.75mm 込む速度が速くなったことが推察される。一方,表面積を ふるいに通過させて,粒径 4.75mm 未満の試験試料を得た。 表 3.1 試験試料の詳細 変化させた場合には,表面積が小さいほど振とうによる液 21.0 含水率(%) 面の拡散効果があるが,表面積が大きくなるにつれ,その 3 効果が小さくなる傾向が伺えた。 土粒子密度(g/cm ) 2.674 乾燥密度(g/cm3) 1.08 主要埋立物の割合(%)…計100% AxⅠa AxⅠc AxⅠe 13 12 AxⅠb AxⅠd AyⅠa AyⅠc AyⅠe 13 12 11 10 10 pH 9 8 7 7 6 30 60 90 120 150 180 210 AxⅡa AxⅡc AxⅡe 12 AxⅡb AxⅡd その他 58 16 えることで液固比を段階的に増加させ,大量の溶媒が試料 0 30 60 90 120 150 180 210 表面積一定(条件x)-静置(条件Ⅰ) 表面積一定(条件x)-静置(条件Ⅱ) 13 焼却灰 4 シリアルバッチ試験とは,溶出操作の後に溶媒を入れ替 6 0 鉱さい 22 (1)シリアルバッチ試験 9 8 汚泥 3.3 試験方法 pH 11 AyⅠb AyⅠd AyⅡa AyⅡc AyⅡe 13 12 と接触した場合の溶出量の変化を推定する試験である。図 3.1 に示すような手順及び条件で試験を実施し,操作毎に AyⅡb AyⅡd 得られたろ液は,pH,EC を分析するとともに,固液分離 操作 1,6,10 回目(L/S=10 においては 1,3,5 回目)に 10 得られたろ液について分析※)を行った。 pH 11 10 pH 11 9 9 8 8 7 7 6 (2)カラム試験 試験装置は図 3.2 に示す,アクリル製カラム 2 本を用い 6 0 30 60 90 120 150 180 210 0 30 60 90 120 150 180 210 表面積一定(条件y)-静置(条件Ⅰ) 表面積一定(条件y)-静置(条件Ⅱ) 図 2.1 pH の経時変化 て,充填密度が処分場の飽和領域における埋立物の乾燥密 度と同程度となるように埋立物を充填させた。これらの埋 立物を充填した 2 本のカラムに対して,図 3.2 に示す通水 条件で 36 日間通水した.カラム上部から流出する浸透液 - 3 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №317 11.0 について,pH を自動測定(3 時間毎)するとともに,1~4 L/S=10 日間隔で EC の測定を行った。また,通水開始 0,7,14, 10.5 L/S=100 21,35 日目にそれぞれ約 20 時間浸透水を 1L 容ポリエチレ L/S=200 pH ※) ンビンに採水し,それについて分析 を行った。 ※)分析項目:TOC,COD,TN,NH4+-N,Cl-,SO42-,Ca,Mg,Na,K 10.0 9.5 9.0 試料200g(L/S=10),20g(L/S=100),10g(L/S=200)を 2L容ポリエチレンビンへ分取 0 500 1000 1500 2000 L/S 0.40 初期重量測定 [OH-](mmol/L) ※1時間(L/S=10)または, ※ 30分(L/S=100,200)振とう ※(振幅5cm,振とう回数10rmp) ※初期重量まで蒸留水注入 ・L/S=10→5回 ・L/S=100,200→10回) 残 さ L/S=10 固液分離 0.30 L/S=100 L/S=200 0.20 0.10 0.00 上澄み(孔径0.45μ mのメンブランフィルターにより吸引ろ過) 0 500 1000 1500 2000 L/S 各分析へ(ろ液) 図 3.3 シリアルバッチ試験結果 (2)カラム試験 図 3.1 シリアルバッチ試験の手順 カラム試験で得られた pH および pH より換算した OH -濃度の結果を図 3.4 に液固比(L/S)対する変化として示 出入り口 外径 φ 8mm タケノコ口状 す.蒸留水を媒体とした場合,pH の低下は認められず, 人工海水を媒体とした場合は比較的短期間で pH=9 に達す カラム本体,有効内径φ50mm ることが確認された。これは,人工海水の緩衝能が働いた ことと,海水中に含まれる IC がアルカリ成分を中和した 多孔タイプ 有効内寸 300mm ことの両方が原因と思われる。また,蒸留水を媒体とした プレート 場合,pH ではその低下が認められなかったが,OH-濃度 としてスケールを拡大すると,バラツキを無くしながら緩 頂部・底部 蓋(パッキン+ボルト止) 内部テーパー形状 テーパーの深さ3~4mm やかに減少することが確認された。以上より,相当な時間 を要するが,カラム試験による pH 低下の可能性が示唆さ 溶 媒 蒸留水および人工海水 通 水 方 向 上向 通 れており,シリアルバッチ試験とは異なる傾向を示す。 満水状態で19時間放置 12.0 設 定 流 量 35mL/h 11.0 変 ±10mL/h以内(目詰まり時除く) 動 前 幅 充 填 密 度 蒸留水 10.0 3 1.3g/cm pH 水 図 3.2 カラム試験概略図および諸条件 人工海水のpH8.4 9.0 3.4 試験結果 8.0 (1)シリアルバッチ試験 7.0 蒸留水のpH7.2 0 シリアルバッチ試験で得られた pH および pH より換算 海水 10 20 30 40 L/S した OH-濃度の結果を図 3.3 に液固比(L/S)対する変化 4.00 OH-(mmol/L) として示す。溶出を繰り返すことによる pH の低下は限定 的であり,L/S=2000 でも pH9 以下に達するのは困難であ ることが確認された。また,EC の結果より,溶出される イオンは L/S が 1000 を超えるとほぼ一定になる。以上よ り,各成分がほぼ濃度が一定となった L/S より L/S を増加 蒸留水 3.00 海水 2.00 1.00 0.00 した場合,OH-濃度の減少は僅かに認められるが,その減 0 少は限定的であり,降雨によるに洗い出しでは pH が低下 10 20 30 L/S しないことがわかる。 図 3.4 カラム試験結果 - 4 - 40 (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №317 (3)試験方法による結果の比較 表 4.1 大型カラム試験の諸条件 pH の挙動についてシリアルバッチ試験とカラム試験(蒸 項 目 留水)を比較すると,どちらの試験においても保有水が廃棄 飽和槽 カラム容器 物層内を降雨の洗い出しによって集水暗渠に流入する過 大型カラム試験 不飽和槽 φ490mm,h1400mm 約264L(廃棄物層188L, 下部砕石層57L,上部砂層19L) カラム内容量 程において pH9 以下に達するのは困難であることが確認 3 湿潤密度:1.56g/cm 3 乾燥密度:1.20g/cm 充填密度 された.また,L/S=40 まで実施したカラム試験における OH-濃度グラフの傾きは,シリアルバッチ試験の L/S=40 に至るまでの OH-濃度のグラフの傾きと同程度であり,シ 飽和槽 リアルバッチ試験によりカラム試験を再現可能であるこ 注水 不飽和槽 海面埋立 陸上埋立 注水 とが確認された.しかし,シリアルバッチ試験における 砂 OH-濃度の変化は L/S が 50 を超えるとその傾きが緩やか 砂 N2 になることから,カラム試験の L/S=40 以降の推移を予測 する場合,その低下速度は L/S の増加に従って緩やかにな 焼却灰 採水 焼却灰 1400 ることを考慮する必要があると考えられる. N2 4.大型カラム試験 砕 石 4.1 調査目的 砕 350 石 採水 海面最終処分場内に浸透した降雨が非滞水層を流下す 490 図 4.1 大型カラム試験の概要 る過程での pH 挙動を把握することを目的として,廃棄物 層のうち飽和層,不飽和層を模擬した大型カラム試験を実 食紅水透水部 施した。 4.2 試験試料 海面最終処分場に埋立て処分された廃棄物(焼却灰)を バックホウで保有水位以浅から採取し,試験試料とした。 4.3 試験方法 (1)試料調整および作成方法 食紅水 不透水部 内径 49cm ,高さ 140cm の塩ビ製大型カラム(図.4.1, 写真 4.1 参照)に,含水比調整した現地採取廃棄物を現地 乾燥密度に合わせ 10cm 毎に締固めて充填した。このとき, 写真 4.1 大型カラム試験装置(右:試験後の断面の様子) 飽和および不飽和層を模擬した試験を実施するために,容 表 4.2 通水条件 器を 2 本用意した。諸条件を表 4.1 に示す。 項 目 (2)通水条件 溶 媒 通水方向 通 水 前 通水条件は表 4.2 に示すように,過去 5 年間の多雨期の 降雨量の平均 773mm を約 1 ヶ月で与える計画とし, 100mm/日程度の雨(蒸留水)を降雨強度 10mm/h 程度で 2 設定流量 充填密度 回/週与えた。年間降雨量相当を与えた後は,50mm/日程度 飽和槽 大型カラム試験 不飽和槽 蒸留水 下部からの注水 土層内を飽和 上部からの散水 砕石部のみ飽和 10mm/h程度で100mm/日を2回/週 3 1.56g/㎝ 4.4 試験結果 の降雨を 2 回/週与えた。なお,飽和槽は下部から水圧によ (1)大型カラム試験結果 って注水し,不飽和槽は上部から散水した。 大型カラム試験における pH および EC の結果を図 4.2 に (3)採水および分析方法 示す。図 4.2 には先のカラム試験の結果も合わせて示した。 採水はカラムから流出する浸出液について,pH および EC を測定するとともに, 1L 溶ポリエチレンビンに採水し, TOC,IC,COD,TN,NH4+-N,Cl-,SO42-,Ca,Mg, Na,K を分析した。このとき,1,7,14,24,34,55 日目 に,浸出水を孔径 0.45μm により吸引ろ過して採水した。 pH は当初 7~8 程度であったが,飽和槽では実験開始から 7 日目に 10.6 となり,その後は 11 前後の高い値で推移す る。不飽和槽では 50 日目までは 8 前後,以降は 9 前後の 値で推移した。EC は,両槽とも試験当初は 2~7mS/cm の 範囲でバラツキを示す。30 日以降は飽和槽では 4mS/cm, 不飽和槽では 6mS/cm から徐々に低下し,最終的には - 5 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №317 1.8mS/cm となり,その後安定した。水槽内の保有水量と排 当初は pH が低下したが,砕石槽が満水となった後は CO2 水量の関係から,飽和槽では廃棄物層と浸透水の接触時間 の取り込み量が減少し,pH の低下幅が低くなる傾向とな (水槽内の保有水滞留時間) が 1 週間以上あるのに対して, った。保有水が集水暗渠周囲のグリ石部で空気と接触する 不飽和槽では 1 日以内である。飽和槽と不飽和槽の pH の ことによる pH の低下効果は限定的であると推測される。 差は,この保有水滞留時間の差が影響していると考えられ (2)CO2 の取り込みによる pH 低下効果の確認試験 る。注水量および排水量については,図 4.3 に示すように [OH-]減少速度は,表面積/容量(=1/水位)と相 両槽とも約300L 注水し, ほぼ同程度の排水量が得られた。 関が高く,表面積が大きいほど,水深が浅いほど[OH-] 減少速度は高くなることが分かった。つまり,pH の低下 12.0 11.0 速度を大きくするためには,表面積/容量を大きくとり, 10.0 pH 9.0 飽和 液面の拡散効果を促すことで CO2 の溶け込みを促進する 不飽和 8.0 カラム試験 7.0 必要がある。 6.0 0.0 0.2 0.4 0.6 L/S 0.8 1.0 1.2 1.4 (3) シリアルバッチ試験・カラム試験 10.0 飽和 8.0 廃棄物層内を飽和流れによって集水暗渠に流入する過 不飽和 カラム試験 EC 6.0 (mS/cm) 程における保有水の pH は,長期的にアルカリ側で推移す 4.0 2.0 る挙動を示した。pH を OH-濃度で表わすと緩やかに減少 0.0 0.0 0.2 0.4 0.6 L/S 0.8 1.0 1.2 1.4 傾向が認められたが,pH 低下には非常に長期間を要する 図 4.2 大型カラム試験結果 ことから,降雨による洗い出しによるのみでは,pH の低 下は困難であることが確認された。 300 飽和 不飽和 250 (4) 大型カラム試験 200 累積 150 注水量 (L) 100 飽和領域における pH は長期にわたり高い値(pH=11 程 50 0 1日目 30日目 50日目 度)で推移することが示された。一方,不飽和槽の pH は低 70日目 い値で推移することから,廃棄物層内における保有水の滞 300 飽和 不飽和 250 留時間が pH の値に大きく影響しているとが推察された。 200 累積 150 排水量 (L) 100 本検討により,廃棄物層内の保有水が飽和流れにより, 50 0 1日目 30日目 50日目 集水暗渠に流入する現状の集排水システムのみでは pH の 70日目 図 4.3 大型カラム試験結果の注水量と排水量 低下は困難であることが推察された。一方で,保有水と空 気との接触による pH 低下が確認され,pH 低下には CO2 (2) 試験方法による結果の比較 カラム試験と大型カラム試験の L/S に対する pH の挙動 の溶け込みを促進させることが重要であると考えられる。 を比較すると,大型カラム試験の飽和槽とカラム試験は同 あ と が き 程度の高い値を示す。EC はカラム試験,大型カラム試験 今回実施した種々の試験により,集水暗渠の pH 挙動に とも同様に,L/S の低い段階で低下する傾向が認められた。 カラム試験の EC は,大型カラム試験と比較して高い値で 係る機能を検証した。その結果,pH の低下は非常に長期 推移するが,これは,蒸留水の通水時間の違いによるもの 的ではあるが,空気との接触(CO2 の溶け込み)による pH と考えられる(L/S≒1 に対して必要な通水時間は,カラム 低下効果が確認された。今後は,さらに pH の低下効果に 試験 1 日程度,大型カラム試験 70 日程度) 。 関する検証を行い,対策方法を確立していきたいと考えて いる。 5.今後の課題 本調査では,海面最終処分場に導入されている水平方向 集水暗渠の pH 挙動に係る機能を,種々の室内試験(模擬 砕石槽による実験・CO2 の取り込みによる pH 低下効果の 確認試験・シリアルバッチ試験・カラム試験・大型カラム 試験)により求め,集水暗渠内の保有水の pH 挙動および 支配要因について検討した。以下に各試験の結果をまとめ る。 (1)模擬砕石槽による実験 参考文献 1) 樋口 進ほか:海面最終処分場の集水暗渠モデルによる pH 等挙動試験;第 23 回廃棄物資源循環学会研究発表会論 文集,2012,pp.513~514 2) 束原 純ほか:海面処分場の廃止に向けた浸出水 pH 低 下に関する調査事例;第 48 回地盤工学研究発表会,2013, pp.2175~2176 3) 束原 純ほか:集水暗渠モデルによる pH 等挙動調査; 第 49 回地盤工学研究発表会,2014 模擬水が CO2 を取り込みながら出口まで到達した流出 - 6 -
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