カルボキシメチルスターチナトリウム、 カルボキシメチルスターチナトリウム、 結晶セルロース、硬化油、 結晶セルロース、硬化油、 ヒプロメロース ヒプロメロース −昔も今もプロスタグランジン製剤は重要な薬剤− 大阪市立大学大学院医学研究科消化器内科学 そう痒 教授 荒川哲男 先生 倦怠感 プロスタグランジン(PG)E1誘導体であるミソプロストール(商品名:サイトテック錠 100・錠200)が,日本で発売されて20年が経過した。その間に 除菌療法の保 険適用を筆頭に,消化性潰瘍を取り巻く環境は大きく変化したが,そのような状況にお いても,ミソプロストールはその作用機序や適応症において他の抗潰瘍薬とは異なる位 置付けの薬剤であり続けている。また,NSAIDsによる消化管傷害は上部消化管だけで なく小腸にも認められることが明らかとなり,NSAIDs潰瘍への対策は見直されるべき 時期となっている。 そこで,エビデンスに基づいた消化性潰瘍の治療や予防の変遷を振り返りつつ,現在 におけるミソプロストールの処方意義について,大阪市立大学大学院医学研究科消化器 内科学の荒川哲男教授に解説いただいた。 、 気密容器 2014年2月作成 CYT152-14B-10-MR1 −昔も今もプロスタグランジン製剤は重要な薬剤− PGの外的補充はNSAIDs潰瘍に 対する合理的な治療法 1989年に日本リウマチ財団が実施した疫学調査において, 小腸粘膜傷 害の機 序はNSAIDsによるPG合成阻害に 加え,攻撃因子である腸内細菌が腸壁に侵入して炎症反 応を惹 起 することによると考えられて います。我 々は, 証明しています5)。細菌膜の成分がある種の受容体に結合 15.5%であることが示されました 。当時,一般の胃潰瘍有 し,炎症が惹起されることもわかっていますので,それら 病率は約2%と報告されていたのに対し非常に頻度が高い を部分的に阻止すれば,潰瘍発症が抑制できるのではな ことが明らかとなり,NSAIDs潰瘍が注目されました。 いかと考えられます。 様々なリスクを考慮した薬剤選択を さらに,ミソプロストールがNSAIDsやLDAによる小腸粘 膜傷害発生を有意に抑制することも報告されています8)9)。 超 高齢 社会となった現 在では,整 形 外 科 やリウマチ 外 来でのNSA IDs投与対 象の高 齢 化 が目立ちます。ま NSAIDs自体が悪玉の腸内細菌を増やすことも実 験的に リウマチ患者におけるNSAIDs起因性胃潰瘍の有病率が 1) 動運動の亢進はかえって好都合ともいえます。 各ガイドラインにおけるミソプロストールの評価 胃潰瘍診療ガイドライン,関節リウマチの治療ガイドラ た,心 疾 患や 脳 血 管 障 害 に 対 するLDAの 使 用 頻 度も 年々高くなっています。NSA IDs/ LDA潰瘍の治療・発 症抑制薬については個々のエビデンスに基づき,患者ご イン,消化性潰瘍診療ガイドラインでは,NSAIDs潰瘍の とに 様々なリスクを考慮した薬 剤選 択 が 求められます。 治療及び予防の項にPG製剤,PPIあるいは高用量H2受容体拮 NSAIDs/LDAによる小腸粘膜傷 害 発症リスクを考慮す NSAIDs潰瘍に対するミソプロストールのエビデンス 抗薬の併用があげられています。なかでも胃潰瘍診療ガイドラ ると,NSAIDs/LDAによる消化性潰瘍の治療・発症抑 インには,NSAIDsによる胃潰瘍の予防に関して最もその有効 制において,今後もミソプロストールは重要な役割を果た しましたが,死亡者数は3,000 ∼ 4,000人と依然として横 NSAIDsを6ヵ月以上服用する関節リウマチ患者8,843例 性が示されている薬剤がミソプロストールであり,200μg1日 していくのではないかと考えています。 ばい状 態です。おそらく死亡に至る潰瘍はNSAIDsや低 を対象に,NSAIDs起因性の消化管合併症に対するミソプ 2回から3回投与でも有意にNSAIDsによる潰瘍を予防する 用量アスピリン(LDA)によるものがほとんどではないかと ロストールの発症抑制効果の大規模臨床試験(MUCOSA ことから,低用量の併用が望ましいと記載されています。 考えられます。 スタディ)が行われました。その結果,ミソプロストールは 上部消化管だけでなく,消化管全体のNSAIDs/LDA NSAIDsはプロスタグランジン(PG)の合成阻害によって プラセボ 群に比べ,穿 孔,閉 塞を90%,吐下血,潰 瘍 病変の発症抑制・治療の面からミソプロストールは第一に 抗炎症作用を発揮すると同時に,消化管粘膜を保護する からの出血を51%,その他の重篤な上部消化管合併症を 推奨される薬剤といえます。上部消化管傷害のハイリスク 1)塩川優一ほか:リウマチ;31:96,1991 PGも低下させ,潰瘍を発症させます。したがって,PG補 40%,それぞれ抑制しました(図2)6)。また,ミソプロストー 患者でPPIの投与が 望まれる場 合も,NSAIDsやLDAに 3)Wallace JL,et al.:Gastroenterology;141:1314,2011 充はNSAIDs潰瘍に対して,非常に理にかなった治療法 ルは200μg1日2回から3回投与でも,有意にNSAIDs よる小腸傷害発生の可能性を考慮した薬剤も一緒に使うべ 4)Watanabe T,et al.:Dig Liver Dis;45:390,2013 であるといえます。 による胃潰瘍の発症を抑制することが 報告されています きで,PPIとミソプロストールの併用によって消化管全体の 6)Silverstein FE,et al.:Ann Intern Med;123:241,1995 PGのサイトプロテクション作用 (胃粘膜保護作用) は,1979年 (図3) 。PG製剤のもつ薬理作用から,下痢などの消化 NSAIDs/LDA病変を治療するという考え方も今後 示して に発表されました。さらに,PGE1誘導体のミソプロストー 器 症状を発 現することがあります。NSAIDsを長期服用 ルは,胃壁にあるPGE親和性受容体を介して胃酸分泌を抑 する患者の多くは高齢者で,体格も小柄であることから, 制する作用も有していることもわかりました。その結果, 1日400μg投与で十分効果を発揮すると思います。また 1993年に防御因子増強,攻撃因子抑制の両方の作用を兼 高齢 者,特に女性では腸の蠕 動運 動機能が 低下する弛 ね備えたNSAIDs潰瘍のための薬剤として登場しました。 緩 性便秘の傾向が強いので,ミソプロストールによる蠕 また, が消化性潰瘍の成因の1つであることが 明らかとなり,日本でも2000年に除菌療法が保険適用と なりました。これにより消化性潰瘍の有病者は劇的に減少 7) いく必要があります。 2000年のカプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡の登 場による小腸の可視化に伴い,小腸においてもNSAIDsに よる病変が発見されるようになりました。小腸病変の発症 頻度は,NSAIDs服用群で71%とコントロール群(10%)に 比べ高頻度であることが報告されています(図1)2)。また, NSAIDs潰瘍は出血しやすいという特徴がありますが,小 腸においても同様です。 上部消化管ではプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸 分泌抑制薬は効果がありますが,胃酸が関与しない小腸 でのNSAIDs傷害にはPPIは無効であり,むしろ悪化させ るともいわれています3)。我々がリウマチ患者を対象に行った 研究でも,PPIの使 用により重 症のNSAIDs起因性 小腸 傷害リスクが有意に高まることがわかっています4)。 NSAIDs服用群 コントロール群 n=21 n=20 発赤 2 1 びらん 8 1 大きなびらん/潰瘍 5 0 合計(%) 15(71) 2(10) NSAIDs3ヵ月服用 (カプセル内視鏡による評価) 小腸病変出現頻度は,NSAIDs服用群で71%であり, コントロール群の10%と比較して非常に高頻度である。 (Graham DY,et al.:Clin Gastroenterol Hepatol;3:55,2005) 図1 NSAIDsによる小腸病変の発症頻度 5)Watanabe T,et al.:Gut;57:181,2008 7)Raskin JB,et al.:Ann Intern Med;123:344,1995 8)Fujimori S,et al.:Gastrointest Endosc;69:1339,2009 重篤な潰瘍合併症 重篤な上部消化管合併症 (吐血,出血,下血・潰瘍)(吐血,下血 (病変確認されず) ) 51% 90% (p=0.021) 40% p<0.01 p<0.01 胃潰瘍発症率 <大規模臨床試験 MUCOSAスタディ> 穿孔,閉塞 2)Graham DY,et al.:Clin Gastroenterol Hepatol;3:55,2005 9)Watanabe T,et al.:Clin Gastroenterol Hepatol;6:1279,2008 ミソプロストールによる重篤な NSAIDs起因性消化管合併症の発症抑制 小腸の可視化により再注目されるNSAIDs潰瘍 文 献 的 : NSAIDsを長期服用する関節リウマチ(RA)患者における重篤な消化管合併 症(穿孔,閉塞,出血,潰瘍)に対するミソプロストールの発症抑制効果 方 法 : 無作為二重盲検試験,664施設,NSAIDsを6ヵ月間服用すると考えら れる52歳以上のRA患者(平均年齢68歳)8,843名 投与 薬 剤 : NSAIDs継続投与下,ミソプロストール200μg あるいは100μg×4回/日 またはプラセボを6ヵ月間投与 ミソプロストールは穿孔や閉塞,出血などのNSAIDsによる 重篤な消化管合併症の発症を抑制する。 (Silverstein FE,et al.:Ann Intern Med,123,241,1995) 図2 NSAIDsによる重篤な消化管合併症に対するエビデンス N.S. 29 (8.1) 10 0 プラセボ (n=454) (p=0.012) 目 51 (15.7) N.S. 13 6 (3.9) (p=0.049) MUCOSA (Misoprostol Ulcer Complications Outcomes Safety Assessment)スタディ 20 ミソプロ ストール 200μg ×2回/日 (n=462) 対 方 結 ミソプロ ストール 200μg ×3回/日 (n=474) (4.0) ミソプロ ストール 200μg ×4回/日 (n=228) 象 : NSAIDs投与を3ヵ月以上必要とする慢性関節炎患者1,623名 法 : プラセボ対照多施設二重盲検比較試験 (NSAIDs継続投与下,ミソプロストール またはプラセボを12週間投与) 果 : ミソプロストール2∼3回/日はNSAIDs潰瘍の発生予防に有用でした。 副作用による投与中止例は2回/日(12%),3回/日(12%)が,4回/日(20%) より低い結果でした。 ミソプロストールは200μg1日2回から3回でも 有意にNSAIDsによる胃潰瘍を予防する。 (EBMに基づく胃潰瘍診療ガイドライン第2版.じほう社,2007) (Raskin JB,et al.:Ann Intern Med;123:344,1995) 図3 投与回数別の効果比較
© Copyright 2024