第3章 現状の分析・評価と課題抽出 (PDF:5.1MB)

第3章 現状の分析・評価と課題抽出
第
1
章
は
じ
め
に
↓
第2章
海南市と水道事業の概要
↓
第3章 現状の分析・評価と課題抽出
第3章 現状の分析・評価と課題抽出
↓
第
4
章
水
需
要
予
測
↓
第5章
将来像及び目標の設定
↓
第 6 章
実 現 方 策 の 立 案
↓
第
7
章
お
43
わ
り
に
第3章
第3章 現状の分析・評価と課題抽出
「水道事業ガイドライン(社団法人 日本水道協会)」に沿って、直近の平成20∼24年度の5
年間における水道統計データ等より導き出せる業務指標PI(Performance Ingicater)を算定
し、定量的に海南市水道事業の分析、評価を行います。
海南市の水道は地域特性から、海南上水道と下津上水道に分かれているため、それぞれの上水
道に対して、水道事業ガイドラインに示されるPI全137項目の中から、算出可能な項目について
PIを算定しました。
以下では、新水道ビジョンに示される「強靭」、「持続」及び「安全」の3つのキーワード及
び「地域水道ビジョン作成の手引き」に示される評価項目に沿って、特徴的な項目について説明
します。
新水道ビジョンに示される水道の理想像
PIの算定結果について、以下に留意点を示します。
▼ 業務指標の目標は、「高い方がよい」場合は(↑)、「低い方がよい」場合は(↓)、「ど
ちらともいえない」場合は(−)で表します。
▼ H20∼24年度数値の傾向について、上昇傾向の場合は 、下降傾向の場合は 、
概ね横ばいの場合は → 、傾向性が明らかでない場合は − で表します。
▼ 評価は、当該規模(3∼10万人)の水道事業体の中央値(H23年度)に対して、良い傾向の
場合は ◎、同程度の傾向の場合は ○、良くない傾向の場合は ▲、評価が難しい場合は −
と表します。
▼ PI算定結果のうち、データの信頼性が低いと考えられる指標については、*で表しています。
※ 中央値とは、全水道事業数を1,400あるとすれば、低い方または高い方から並べ、ちょうど真中にある700
番目の事業体のPI値を表します。
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
3.1 「強靭」∼ 危機管理への対応は徹底されているか ∼
水道施設、機械電気設備、管路はいずれも経年化が進んでおり、多くが更新時期を迎えていま
す。これらの更新に併せて、地震対策として耐震化を図っていく必要があります。また、現在実
施中の簡易水道統合に併せて基幹的施設の整備を行います。
1)需要(給水人口、給水量)
◆ 給水人口は、海南上水道では未普及地域の解消などによる増分もあって概ね3万5千人程度で横
ばいとなっています。下津上水道では年々人口減少が続いており、現在では1万2千人程度となって
います。両上水道の合計では給水人口は約4万7千人であり、全体では徐々に減少しています。
◆ 給水量は近年、海南上水道で日最大16,000m3/日、日平均14,000m3/日程度となってお
り、下津上水道ではその1/3程度となっています。両上水道の合計では日最大約22,000m3/日、
日平均約18,000m3/日となっており、人口と同様に徐々に減少傾向です。
2)供給能力(給水能力、水道施設容量、有収率)
◇ 施設能力は、海南上水道で計画1日最大給水量21,500m3/日に対して、近年では日最大で
16,000m3/日程度、下津上水道で計画1日最大給水量7,455m3/日に対して、近年では日最大で
5,500m3/日程度となっており、それぞれ供給能力に25%程度の余力を有しています。
◆ 配水池容量は海南上水で9,039m3、下津上水で3,051m3であり、日平均の需要に対してそ
れぞれ約0.6日(14時間)と約0.7日(17時間)となっており、12時間以上の容量を確保できて
いるものの平均的な事業体の配水池容量に比べるとやや小さくなっていますが、計画中の東部配水
池(1,800m3)が竣工すれば、海南上水道においての配水池容量が約16時間分に拡大します。
(PI:2004)
◆ 有収率は、海南上水道で近年は概ね80%程度で横ばいであり、下津上水道では徐々に改善して
いるものの70%台と低くなっています。(PI:3018)
海南上水
下津上水
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
海南上水
下津上水
3)水道の普及状況
◇ 近年、水道未普及地域の解消を図ってきたことから、普及率は市全体で約96%まで向上してき
ており、わが国全体の水道普及率(約97%)に近い値となっています。
4)老朽化施設とその更新計画
◆ 室山浄水場などの浄水施設や送水ポンプ等の機械電気設備に経年化しているものが多く、法定
耐用年数を超過しているものが過半数に達しています。(PI:2101∼2102)
◆ 法廷耐用年数40年を超えた管路は全体の約10%あり、紀の川導水管などの基幹管路も老朽化
しています。今後は多くの管路が一挙に更新時期を迎えますので、計画的な管路更新が必要となっ
てきます。(PI:2103)
海南上水
下津上水
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
海南上水
下津上水
5)耐震化の進捗状況
◆ 耐震対策が施されていると判断できる浄水場やポンプ所等の耐震化率はゼロとなっています
が、今後、耐震診断を行って耐震性能を把握し、耐震化を進めていきます。(PI:2207∼2208)
◇ 配水池の耐震化率は、海南上水道で約50%と耐震性が高くなっている一方、下津上水道では耐
震化率はゼロとなっており、今後、耐震診断を行って耐震性能を把握し、耐震化を進めていきま
す。(PI:2209)
◆ 耐震性のある管種や継手を有する管路の耐震化率(良質地盤に布設されている一定の耐震性を
有する管路も含む)は、海南上水道で約20%、下津上水道で約30%となっており、今後、計画的
に向上させていく取組みが求められています。(PI:2210)
6)応急給水体制、応急復旧体制
◇ 災害時には、県や日本水道協会等と連携し、水道施設が被災した場合の給水体制を確立しま
す。応急給水は給水車や車載用給水タンクを搭載した車両の出動により対応します。また、配水池
に緊急遮断弁を設けることによって、飲料水を備蓄できるような対策も進めています。
◇ 応急復旧体制としては、海南市地域防災計画に則り、応急復旧用資機材を備蓄するとともに、
水道事業者間の連携強化により対応します。
◇ 海南市地域防災計画に則って、水道独自の地震時等災害発生時における災害対策マニュアルで
ある水道事業危機管理マニュアルを作成中であり、災害時等においてより円滑に行動できるよう防
災訓練も実施していきます。
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
「強靭」に関する業務指標(PI)【海南上水道】
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
「強靭」に関する業務指標(PI)【海南上水道】(つづき)
「強靭」に関する業務指標(PI)【下津上水道】
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「強靭」に関する業務指標(PI)【下津上水道】(つづき)
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
3.2 「持続」∼ 水道サービスの持続性は確保されているか ∼
海南市水道事業の経営状況は、繰入金により収益の不足が補填されて収支バランスが保たれて
いますが、これから老朽施設等への更新投資が大きくなることと給水収益が減少傾向にあること
から、さらに財政への負担が大きくなる見通しです。
1)経営・財務(収支、資本、企業債償還、料金、財源)
◇ 収益的収支(営業収支、経常収支、総収支)は近年、常に収入が支出を上回る状態が続いてお
り、収支比率は100%を上回っています。(PI:3001∼3003)
◆ 累積欠損金は増加傾向にあり、営業収益に対して概ね10%程度の累積欠損金が計上されてお
り、直近の平成24年度では13%となっています。(PI:3004)
◆ 収益的収入、資本的収入ともに繰入金により不足分を賄っており、特に資本勘定繰入金が大き
くなっています。(PI:3005、3006)
◆ 過去に投資した費用に関する企業債利息と償還金の給水収益に対する割合は同規模の事業体と
比較しても大きく、減価償却費についても近年増加傾向にあります。(PI:3009∼3012)
◇ 供給単価、給水原価ともに150∼160円/m3程度といずれも平均的な事業体の約170円/m3
より安くなっており、供給単価(収益)が給水原価(費用)を上回っているので、料金回収率は
100%を超えています。(PI:3013∼3015)
◆ 上水道と簡易水道において料金体系が異なっており、上水道よりも安価な料金設定となってい
ますが、簡易水道の事業統合に併せて料金も統一する予定です。
◆ 過去5年間では料金改定は行われていません。1ヶ月当たりの水道使用料金は、全国平均的な料
金設定となっていますが、水需要が減少傾向ですので、給水収益は減少する見通しです。そのた
め、今後の投資に必要な財源確保の観点も踏まえて、適正な料金水準の検討が必要です。
(PI:3016、3017)
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
2)需要者サービス
◇ 料金収納方法については、従来の窓口での収納に加えて、コンビニエンスストアでの振り込み
や、口座振替、集金も行っています。
◇ 水道事業に関する広報は海南市HPのほか、広報誌「水流」を年2回発行し、各種情報の提供を
行っています。(PI:3201)
◇ 小学校の社会見学として、水道施設の見学を行っています。(PI:3204)
3)技術者の確保
◇ 海南市水道部に従事する職員数は臨時職員などを除いた正規職員で23名であり、うち技術職員
は14名いるので技術職員率は全体で61%と平均的な事業体の約50%に比べて高くなっています。
また、技術職員については50歳を越える職員が多く、ベテラン職員が多くなっています。
(PI:3105)
4)環境対策(省エネルギー、廃棄物の有効利用等)の実施状況
◆ 海南・下津両上水道において、配水量1m3当たりの電力消費量は平均的な事業体より大きく
なっています。(PI:4001)
◆ 小水力発電や太陽光発電等の再生可能エネルギーの有効利用、発生した浄水汚泥の有効利用な
どといった環境対策は現在のところなされていません。(PI:4003∼4004)
◇ 管路布設工事等に伴って発生した建設副産物のうち、海南上水道では100%リサイクルに活用
しています。(PI:4005)
海南上水道
下津上水道
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
5)管理委託
◇ 水道施設の運転管理は基本的に職員にて実施していますが、海南上水道の導水と浄水のみ委託
化し、検針事務は個人委託契約をしています。(PI:5008)
6)施設・管路事故
◆ 老朽化した送配水管や給水管における事故によって、断水や濁水の発生が見られます。
(PI:5103、5106、5109)
7)海外からの研修生受け入れ、海外への専門家派遣への協力状況
◆ 現在、国際貢献に関する取り組みは行っておりませんが、海南市の水道に見合った活動につい
て、今後、検討していきます。
室山浄水場全景
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
「持続」に関する業務指標(PI)【海南上水道】
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
「持続」に関する業務指標(PI)【海南上水道】(つづき)
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
「持続」に関する業務指標(PI)【海南上水道】(つづき)
※PI5103 管路の事故割合が高いのは、事故未然防止の修繕等もカウントしているため
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
「持続」に関する業務指標(PI)【下津上水道】
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
「持続」に関する業務指標(PI)【下津上水道】(つづき)
※PI5103 管路の事故割合が高いのは、事故未然防止の修繕等もカウントしているため
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
3.3 「安全」∼ 安全な水の供給は保証されているか ∼
水質の安全性は全般的に良好な状況であると言えます。
1)水質基準の適合状況
◇ 水質検査は、7つの水系毎に原水、浄水出口、給水栓水の3地点において定期的に実施していま
すが、常時、水質基準に適合した水を供給できています。現在のところ、特に濃度が高く基準値に
近い水質項目などはありません。(PI:1104∼1114)
2)異臭味被害の状況
◇ かび臭について、現在のところほとんど問題はありませんが、紀の川上流域では異臭味被害の
出ている事業体もありますので、今後とも注意が必要です。(PI:1105)
海南上水道
下津上水道
3)水源の水質、水質事故の発生状況
◇ 海南市水道の水源は、海南上水道が紀の川、下津上水道が有田川(加茂浄水場は浅層地下水が
水源)となっており、いずれも通常は清浄な原水水質で事故等は発生していません。しかし、紀の
川については上流域における環境変化に起因する水質変動が懸念されています。
◇ 現在、下津上水道の下津浄水場では有田川を水源とする工業用水道から受水していますが、安
定した水源の確保のため、有田川の水利権取得に向け、手続きを進めています。
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
4)浄水能力
◇ 浄水処理方法は、海南上水道で急速ろ過方式でありろ過能力は21,500m3/日となっていま
す。下津上水道は緩速ろ過方式でろ過能力は7,455m3/日であり、現在のところ水量、水質両面で
原水が適切に浄水処理できています。
5)貯水槽水道の指導等の状況、直結給水の推進状況
◆ 海南市の両上水道には受水槽を有する貯水槽水道が125箇所ありますが、貯水量の備蓄等の危
機管理面を考慮すると受水槽がある方が有利とも考えられます。そのため、適切な受水槽管理につ
いて指導して水質管理を徹底します。(PI:1115)
6)鉛製給水管の布設状況
◆ 健康影響のあると言われる鉛製給水管については、海南地区では昭和50年以降は建替え時等に
順次VP管に更新していますので、残存数は少なくなってきています。また、下津地区では正確な数
は把握されていませんが、古い家屋などでは鉛管が残存していると思われます。(PI:1117)
室山浄水場 急速ろ過池
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
「安全」に関する業務指標(PI)【海南上水道】
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「安全」に関する業務指標(PI)【下津上水道】
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第3章 現状の分析・評価と課題抽出
3.4 問題点及び課題のまとめ
これまでに現況把握、分析評価を行った内容を基に、現状の問題点と課題について整理します。
分 類
問題点等
課 題
①現状では、配水池容量が比較的小さく、平時
のみならず非常時における備蓄量が小さくなっ
ています。
配水池容量の増大
②水道施設や機電設備、管路ともに経年化が進
みつつあります。(室山浄水場、紀の川導水管他)
計画的な老朽施設の更新
③有収率が低く、老朽管などからの漏水が懸念
されています。
漏水調査、管路更新
④地震や風水害などの災害リスクが高まってい
ます。
防災対策(予防対策、応急対策)
⑤上水道と簡易水道において料金体系が異なっ
ています。
上水道への簡易水道統合時における水
道料金の統一
⑥水需要の減少により、給水収益の減少が予測
されます。
料金体系の見直し、財源確保、支出削
減
⑦職員数が減少しており、技術職員が高齢化し
ています。
技術者の確保、水道技術の伝承、第三
者委託
⑧水量1m3当たりに要する電力消費量が大き
く、環境負荷が大きくなっています。
再生可能エネルギーの導入や高効率シ
ステムの導入検討
⑨紀の川水源において、水質の変動に注意する
必要があります。
水源監視の強化、原水水質に適した浄
水方法の検討
⑩有田川水源は工業用水より原水を受水してお
り、市独自の水源でありません。
有田川水源の水利権取得
⑪貯水槽水道の直結給水が進んでいません。
他機関と連携した受水槽の管理・指導
強 靭
持 続
安 全
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