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301
境界面温度を考慮した分子気体潤滑ダイナミクス
(t-MGL 理論による線形解析)
Thermo-molecular Gas-film Lubrication Dynamics Considering Boundary Temperature
(Linearized Analysis by t-MGL Equation)
○学 岡村 祐輝(鳥取大),
学 中筋 敦志(鳥取大),
学 若林 諒
◎正 松岡 広成(鳥取大),
◎正 福井 茂寿(鳥取大)
(鳥取大)
Yuuki OKAMURA,Tottori University,4-101 Minami,Koyama,Tottori,680-8552 Japan
Atsushi NAKASUJI,
ibid.
Ryo WAKABAYASHI,
ibid.
Hiroshige MATSUOKA,
ibid.
Shigehisa FUKUI,
ibid.
Key Words : Head Disk Interface (HDI),Thermo-molecular Gas-film Lubrication (t-MGL),Dynamic Behavior,
Heat Assisted Magnetic Recording (HAMR), Thermal Creep Flow
1. はじめに
コンピュータ用のハードディスク装置では,超微小すきま
の気体潤滑作用によりナノメータオーダーの浮上が達成さ
れているが,さらなる高記録密度化のため,熱アシスト磁気
記録(HAMR)の検討やスライダ加熱方式(TFC)の実用化が行
われている(1)-(4).本研究では,傾斜する 2 平面の境界面に温
度分布が存在し、走行する下面が振動する場合の分子気体潤
滑特性を,境界面温度分布を考慮した分子気体潤滑(t-MGL)
方程式を用いて線形解析した.
3. 微小近似による空気膜特性の線形解析
3.1 境界面温度を考慮した分子気体潤滑(t-MGL)方程式の
線形解析手法
図 1 に示すようなモデルを考える.スライダの傾き,デ
ィスクの振動振幅,無次元等価境界面温度の最大値W0 をそ
れぞれ微小として,無次元すきま H および無次元等価境界面
温度W を以下の式で表す.
(2)
H  1   1  X    cos t ,   1,  1
2. 境界面温度を考慮した分子気体潤滑(t-MGL)方程式
動的特性を表わす時間項を含み,境界面温度分布を考慮し
た分子気体潤滑(Thermo-molecular Gas-film Lubrication :
t-MGL)方程式は,次式で表される(3)(4).
ここで,  W は無次元等価境界面温度の空間分布を表し,図

X

PH 3 P
P 2 H 3  W
PH

 QT  D 

Qp  D 
2
1



X
1  W
1  W  X
W



  PH 

  


t  1  W 


(1)
ここで,P(= p / pa,pa:大気圧)は無次元圧力,H (=h/h0, h0 : 最
小すきま)は無次元すきま, t (=0t,0:基準角振動数)は無次
元時間,W(=TW/T0-1)は無次元等価境界面温度,(= 6Ul/pah02)
はベアリング数,(=120l2/pah02)はスクイズ数,X (= x/l) は
無次元座標,Q(
D)(=QP/QPcon) は 圧 力 流 れ の 流 量 係 数 比 ,
P
Q(
D)(=QT/QPcon)は熱ほふく流の流量係数比,QPcon は連続流
T
D)を含
の流量係数,D は逆クヌッセン数である.なお, Q(
T
む項は熱ほふく流の流量を示し,気体の粒子性を表すパラメ
ータであるクヌッセン数 Kn(= /h)が無視できず,かつ境
界面に温度勾配が存在する場合に,低温部から高温部に向か
って生ずる分子気体力学に特有な流れ (1)による流量である.
Z
Region I
II III
Ho
0
Disk
UIII
(3)
0
 W  X    X  X 1  /  X 2  X 1 
 X  1 / 1  X
 
2
 
(Region : I )
(Region : II )
(4)
(Region :III)
また,圧力 P の近似解を次式で表す.
P  1  W 0 PW 0  X    P  X    P  X , t 
(5)
境界面温度分布を考慮した分子気体潤滑方程式(1)に,式
(2),(3),(5)を代入すると,W0,,のオーダーの式および
境界条件は,以下となる.
d W
d  dPW 0

(6)
O 
:
Q
  P 
0


TP
dX  dX
dX
2
d P
dP
O  :

 
dX 2
dX
W0

W 0
W


 2 P
P
P
        sin t
X 2
X
t
境界条件:X=0,X=1 のとき PW0 = P= P= 0
ただし,
   / Qp  D0  ,    / Qp  D0  , QTP  QT  D0  / Qp  D0 
O   :
(7)
(8)
(9)

セン数である.
X
1
1
1(b)に示すような,局所的な逆 V 字形状を考える.

W0
Hi
W 0
であり,修正ベアリング数,修正スクイズ数,熱ほふく流の
ポアズイユ流れに対する流量係数比である.なお,
D0  pa h0 /( 2RT0 ) は代表量によって決まる特性逆クヌッ
W
Slider
 W   W 0  W  X  ,
0
X
X1 X2 1
~
–cos t
(a) Model of disk vibration
Fig. 1 Model
(b) Applied temperature
3.2 発生圧力の線形解
境界面の温度分布により発生する静的圧力 PW0,スライダ
の傾きにより発生する静的圧力 P,ディスクの振動により発
生する動的圧力 Pの線形解は,それぞれ式(6)~(8)および境界
条件式(9)により,以下の式で表される.
文献
(1)
温度による静的圧力 PW0
・領域 I (0 ≤ X X1)
q
PW 0 ( X )  0 exp( X )  1

・領域 II (X1 ≤ X X2)


exp( X1 )
PW 0 ( X )  q0 
 QTP  1 exp( X )

X 2  X1

X

Q   X1  1 
  q0  TP

X 2  X1  
X 2  X1 
(10)
(3)
(4)
(11)
・領域 III (X2 ≤ X 1)
1
Q 1 
PW 0 ( X )   q0  TP  exp   X  1

1 X 2 

( P–1)
(12)
ここで, q0 は質量流量に対応する値で,以下の通りである。
exp() 1 exp   X 
2




 exp   X 2  1  1 exp ( X 2  X 1 )  1 



1 X 2
X 2  X1


スライダの傾きによる静的圧力 P
ディスクの振動による動的圧力 P
P  X , t   Re  S   cos t  Im  S   sin t
2
  1 X
k
s
 ks 

2 2
0
 kMGL  m
2
 02cMGL
W
f = 120 Hz
Region I
W0
0 = 2f
X
–cos ~t
II III
0.8 0.9 1
X
–0.01
1
0.8 0.9
0.5
Nondimensional position, X
U = 1.0 m/s
= 0.25
( P–1)
2
 cos 0t   
1
0
=0
0.02
4. スライダの挙動解析
線形解析より得られた動的圧力Pを積分することで,空
気膜反力のばね定数および減衰係数を導出することができ
る.それらを,kMGL,cMGL として,サスペンションばね定数:
ksに繋がれたスライダ質量:mが並進変位 z のみで運動す
るモデルを考える.この場合,すきま変動h(スライダの変
位 z とディスクの変位の差)は次式で与えられる.
2
0
Disk
U
0
0.03
2
 m
Ho
0
(a) t  0
3.3 発生圧力の解析結果
図 2 は,振動しながら走行するディスク面上の傾斜スライ
ダに,局所的な逆 V 字形の温度分布が存在する場合の発生圧
力 P-1(=W0PW0+P+P)を示したものである.下面の走行速
度が速くなるにつれて,スライダ後端の温度印加部に,逆 V
字形の圧力が顕著に現れる.
h  
l = 1.0 mm
h0 = 10 nm
III
(14)
e1 X 2  e1 X  e 1 2    e 2  
S
1
e1 2  1
  2  4i  
  2  4i  
1 
, 2 
  1 X
0.01
Slider
Hi
III
–0.02
0
(13)
1  e
Z
Heat spot
 e
(15)
また,すきま変動とディスクの振幅比|h/|を図 3 に示す.
2 つの特徴的な応答状態として, 0  ks / m で反共振,
0  (ks  kMGL ) / m で共振を得る.
5. まとめ
本研究では,超微小すきまを介して対向する傾斜平板間に,
局所的な逆 V 字形の温度分布が存在し,下面が微小振動する
場合の,空気膜特性の線形解析手法を確立した.また,動的
圧力によるスライダの挙動を,すきま変動を導出し,定性的
に示した.
Nondimensional Pressure,
P  X   X 
 1 X 
e
~
t=
0.01
0
–0.01
–0.02
0
Z
l = 1.0 mm
h0 = 10 nm
Slider
Hi
Ho
III
0
Disk
W
f = 120 Hz
0 = 2f
1
U
Region I
W0
0
X
–cos ~t
Heat spot
II III
0.8 0.9 1
X
III
1
0.8 0.9
0.5
Nondimensional position, X
(b) t  
Fig. 2 Nondimensional pressure distributions
(W0 = = = 0.01)
ks
z
III
Spacing fluctuation |  h/ |
q0 
 QTP  1
= 0.25
=0
0.02
1
1
Q   1 
X   q0  TP

1 X 2

1 X 2 
~
t=0
U = 1.0 m/s
0.03
Nondimensional Pressure,

(2)
福井茂寿, “MEMS への空気軸受の適用”, トライボロジスト, 第
49 巻第 2 号, (2004), pp. 134-140.
若林諒, 北川直哉, 山根清美, 松岡広成, 福井茂寿, “局所的な境
界面温度分布を考慮した浮動ヘッドの分子気体潤滑解析”, 日本
機械学会 2012 年度年次大会, 金沢大学,(2012), S162015.
Fukui, S., Yamane, K. and Matsuoka, H., “Novel Laser-Assisted Micro
Levitation Mechanism for Magneto-Optical Recording”, IEEE Trans.
Mag, Vol. 37, No. 4, (2001), pp. 1845-1848.
Fukui, S. and Kaneko, R., ”Analysis of Ultra-Thin Gas Film Lubrication
Based on Linearized Boltzmann Equation: First Report-Derivation of a
Generalized Lubrication Equation Including Thermal Creep Flow”,
ASME J. Tribol., Vol. 110, (1988), pp. 253-262.
m
10
Slider
0
kMGL
cMGL
~
–cos t
Disk
0 
10
0 
ks
m
ks  kMGL
m
–5
–4
m = 0.510 kg
h0 = 10 nm
U = 1.0 m/s
l = 1.0 mm
ks = 4.9 N/m
0 = 2f
= 0.25
=0
10
–8
10
–6
–4
–2
10
10
10
Frequency f [kHz]
0
10
2
Fig. 3 Spacing fluctuation vs. frequency
10
4