この回の予稿

応用物理学特別演習
平成 26 年 11 月 25 日
固体物理学研究室
松浦和摩
Quantum ground state and single-phonon
control of a mechanical resonator
A. D. O’Connell, M. Hofheinz, M. Ansmann, Radoslaw C. Bialczak, M. Lenander,
Erik Lucero, M. Neeley D. Sank, H. Wang, M. Weides, J. Wenner, John M. Martinis
& A. N. Cleland
Department of Physics, University of California, Santa Barbara, California 93106, USA.
Nature,Vol 464,697-703,(2010)
量子力学では調和振動子のエネルギーは  単位で量子化され、En   n  1 2   と表
される。共振器においては、 n はフォノンの数であり、基底状態は n  0 、すなわち、
フォノンゼロ状態である。フォノンゼロ状態は理論的にはよく知られているが、実験的
に観測するのは極めて難しい。その要因は、
(1) フォノンの周波数  に対して kBT   なる低温状態を実現しなければなら
ないこと
(2) 測定で量子状態を壊さないような工夫が必要であること
である。本論文は、この2つの問題を解決し、初めて、調和振動子の基底状態の観測に
成功した研究である。
本論文では、調和振動子としてピエゾ素子からなる機械共振器を用いた。共振器の共
振周波数は f r  v 2t ( v :フォノンの速度、 t :共鳴器の厚さ)で近似できるので、共
振器のサイズを 100 nm 程度まで小さくすることで、必要な背景熱を 0.1K のオーダーに
することができる。これは mK 程度まで冷却できる希釈冷凍機で実現可能なため、条件
(1)をクリアすることができる。さらに、超伝導磁束量子ビットを用いることで量子
デコヒーレンスを抑えた測定を可能にし、条件(2)もクリアできる。本論文では、こ
れらを用いることで、フォノンの基底状態を確認することに初めて成功した(図 1)。ま
た、共振器と超伝導磁束量子ビットの間の相互作用によるエネルギーの交換を観測し、
これを時間的に制御することによって共振器内にフォノンを1つ励起することにも成
功した(図 2)。
図 1:フォノンゼロ状態を確認した図
図 2:共振器と超伝導磁束量子ビットの間の
エネルギーの交換を示した図
応用物理学特別演習
平成 26 年 11 月 25 日
フォトニクス研究室
道田 洋司
Mueller matrix polarimetry for improved
liver fibrosis diagnosis
Matthieu Dubreuil,1 Philippe Babilotte,1 Loic Martin,1 David Sevrain,1 Sylvain Rivet,1
Yann Le Grand,1 Guy Le Brun,1 Bruno Turlin,2 and Bernard Le Jeune1
1
Universite de Brest, UEB, EA 938 Laboratoire de Spectrometrie et Optique Laser, 6avenur Le Gorger,
C.S. 93837, 29238 Brest Cedex 3, France
2
Department of Pathology, Hopital Pontchailou, 35033 Rennes, France
Corresponding author: [email protected]
OPTICS LETTERS 37 , 1061-1063 (2012)
肝臓の線維化とは肝臓組織に線維コラーゲンが沈着する現象であり、線維化が進行すると
肝硬変へと至る。肝臓の線維化における従来の評価法は Metavir score(F0-F4:F4 ほど線
維化が進んでいる)と呼ばれる指標であり、この指標は人間の目による細胞組織の観察で定
められたため定量的ではなく、評価を行う上では不十分であった。また正常な組織にも多く
存在する「血管周りのコラーゲン」と「線維化に関するコラーゲン」を目で見て区別するこ
とは難しく、正確な診断に支障をきたすという問題もあった。
本論文ではミューラー行列偏光計(図 1)を用いて肝組織のミューラー行列を測定し、肝
臓の線維化を定量的に評価する新たな方法を提案している。ここでミューラー行列とは 4×4
の 16 要素からなる偏光特性(複屈折、二色性、偏光解消など)を完全に記述することができ
る行列である。評価の方法は、ミューラー偏光計を用いて肝組織のミューラー行列を測定し、
そこから求めた偏光解消により「血管周りのコラーゲン」と「線維化コラーゲン」を区別し
た。さらに、線維化コラーゲンの複屈折に対して統計的手法を施すことにより線維化の程度
を定量的に見積った。図 2 はこの評価法を元に線維化の程度が異なる被検体の偏光特性結果
をプロットしたものである。図 2 より右上に行くほど線維化が進んでいることが見て取れる。
このように本論文によるアプローチで肝組織の線維化の程度を数値化することが可能となっ
た。
図 1. 光学系
図 2. 被検体の偏光特性結果
応用物理学特別演習
平成 26 年 11 月 25 日
半導体量子工学研究室
村上 大輔
A highly efficient single-photon source
based on a quantum dot in a photonic nanowire
Julien Claudon1†*, Joёl Bleuse1†, Nitin Singh Malik1, Maela Bazin1, Périne Jaffrennou1,
Niels Gregersen2, Christophe Sauvan3, Philippe Lalanne3 and Jean-Michel Gérard1
Nanophysique et Semiconducteurs1, Technical University of Denmark2,
Laboratoire Charles Fabry3
Nature Photonics 4,174-177 (2010)
【背景・目的】 量子暗号通信の運用において必要な単一光子源として、
半導体量子ドット(QD)の発光過程の高効率化・外部環境への取り
出し効率の増大に関する研究が精力的に行われている。これまでマイ
クロキャビティ等の付加によるパーセル効果を利用するアプローチ
が取られているが[1]、極めて高い加工精度が必要であり、更に帯域幅
が狭く、光子源自体の不均一性への対応に課題がある。そこで今回は
外部への高効率な単一光子の取り出しが広帯域において可能である、
図 1:サンプルの構造
先端を細めたナノワイヤ中にQDを内包した構
造を作成し、単一光子の取り出し効率及び純度
を定量的に評価した。
【実験・結果】 InAs-QDを内包するGaAsナノワ
イヤ(d~200nm,l~2.5μm)の先端部分をテーパー
化した。下面はミラー(Au)を配置し、射出方
向を上面のみに限定した。パルス光励起を行い、
QDの発光をAPDと分光器で取得した。図2(a)は
InAs-QDの発光スペクトルであり、XとXXは励
起子と励起子分子の発光ピークを示している。
図2(c)は発光強度が飽和する~4 Wの励起強度
(図2(b))で測定したピークXに対する二次の光
子相関測定結果(赤)を示している。観測した単一
光子は極めて高純度[g2(0)<0.008]であり、取
図 2:(a)発光スペクトル (b)励起強度依存性
り出し効率は60%以上と見積もることができる。 (c)ピーク X の自己相関関数(二次): 赤,実験結
[1] Moreau, E. et al. Appl. Phys. Lett. 79, 2865–2867
果 黒,理論式
図 2: