. 環境政策の計量経済分析: 自動車市場における減税・補助金の定量評価 . 北野泰樹 1 2014 年 3 月 28 日 効率的な政策ツール研究会(財務省) 1 一橋大学イノベーション研究センター.[email protected] 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 1 / 50 はじめに 日本の自動車市場における環境政策 • エコカー減税:環境性能に優れた自動車に対する税の減免措置 ▶ 自動車取得税,自動車税,自動車重量税 ▶ 2009 年に大幅改訂. • エコカー補助金:環境対応車普及促進対策費 ▶ ▶ 北野泰樹 2009 年導入(スクラップインセンティブ:車齢 13 年以上を超えた自動 車を破棄する場合には,エコカー認定の基準が緩く,さらに補助金額が 大きくなる) 2012 年導入(スクラップインセンティブなし) 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 2 / 50 普通乗用車の平均車齢 8.00 7.00 6.00 5.00 4.00 3.00 2.00 1.00 0.00 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 エコカー補助金が導入された 2009 年から 2010 年にかけて,1993 年以来初めて平均車齢は減少. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 3 / 50 「効率的」な政策の見つけ方 費用効果分析(Cost-Effectiveness Analysis) • 同じ予算でより効果を得られるプロジェクトを選択 • 一定の効果を実現する下で,予算の低いプロジェクトを選択 ▶ ▶ どれだけの予算が望ましいか,どれだけの効果が望ましいかは示せな い.費用便益分析に基づく評価が必要 ただし,政策の候補を絞り込むことは可能. 費用便益分析(Cost-Benefit Analysis) • 純便益の高いプロジェクトを選択. ▶ 全ての効果を金銭化して評価. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 4 / 50 費用便益分析の基本プロセス (Boardman et al.) 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 選択可能なプロジェクトを確定 (Specify the set of alternative projects.) 便益を受ける主体,費用を負担する主体を決定 (Decide whose benefits and costs count.) 効果を特定し,その効果を測る指標を選択 (Identify the impacts categories, catalogue them, and select measurement indicators.) プロジェクト期間を通じた効果を定量的に予測 (Predict the impacts quantitatively over the life of the project.) すべての効果を金銭的価値で評価 (Monetize (attach dollar values to) all impacts.) 便益と費用の割引現在価値を計算 (Discount benefits and costs to obtain present value of each alternative.) 各選択肢の純現在価値を計算 (Compute the net present value of each alternative.) 感度分析の実施 (Perform sensitivity analysis.) プロジェクトの推薦 (Make a recommendation.) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 5 / 50 4. プロジェクト期間を通じた効果を定量的に予測 各期間において,それぞれの選択肢に関してすべての効果を定量化. • (社会,準社会)実験による効果の予測 ▶ 例:地球温暖化と二酸化炭素排出量の関係 ▶ 例:職業訓練は労働生産性の改善に貢献するか ▶ 問題点:データの利用可能性 • モデルを使った効果の予測 ▶ ▶ 例:需要関数と供給関数を推定して,政策の効果をカウンターファク チュアルシミュレーションにより予測. 問題点:モデルの仮定に依存. • 両者の組合せが望ましい. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 6 / 50 5. すべての効果を金銭化 効果のそれぞれを金銭化 費用便益分析では,支払意思額 (willingness-to-pay, WTP) で金銭化を 行うのが一般的. • 支払意思額は市場需要関数から求められる.(第 3 章で詳述) ▶ 需要関数を推定する必要がある. • 市場が存在しない場合や有効に働かない場合:直接その金銭的価値を 測定できない場合,その価値をシャドープライスを用いてプラグイン ▶ ▶ さまざまな方法がある. (間接市場法 (顕示選好):類似市場法,トレード オフ法,中間財法,資産評価法,ヘドニック法,旅行費用法,防御支出 法; 仮想評価法 (表明選好)) 例:統計的生命価値 (Value of Statistical Life, VSL):日本での推定結果は おおよそ 2 億 6 千万円.(安全に対する支払意思額) • Cf. 「命をお金に変えたくない」 → 費用効果分析 ▶ 交通事故を無くすために自動車の利用を禁止すべき?比較可能な指標を 用いて評価をすることは重要. • Cf. 多目的分析,定性的費用便益分析 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 7 / 50 7. 各選択肢の純現在価値を計算 純現在価値 (Net Present Value, NPV): N PV = PV(B) − PV(C) NPV が最も大きいプロジェクトが望ましい.ただし,通常は現実に ありうる選択可能なプロジェクトすべてを確かめることはできない. (最適なプロジェクトは他にありうる.) Figure : 便益と費用 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 8 / 50 費用効果分析(Cost-Effectiveness Analysis) 効果を金銭換算できない,あるいはしたくないケース. プロジェクトが分割可能ならば,CE 比率(Cost/Effect)が最小,も しくは EC 比率(Effect/Cost)が最大となるプロジェクトが望ましい. プロジェクトが分割可能でない,つまり,プロジェクトの規模が重 要である場合, • 「一定の効果を実現するもので費用が最小」,あるいは • 「一定の費用以下で効果が最大」 といった基準でプロジェクトを選定. 一定の費用と効果の水準については合意があるわけではないが,政 策の候補を絞り込むことは可能. • 政策 A:費用 1 億円,効果 100 人(事故死者の減少数),政策 B:費 用 10 億円,効果 500 人 → どちらが良いかは言えない. • 政策 A:費用 1 億円,効果 100 人(事故死者の減少数),政策 B:費用 10 億円,効果 100 人 → A の方が望ましい.(支配される選択肢を除外) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 9 / 50 費用効果分析(Cost-Effectiveness Analysis) 費用の取り扱い:通常は予算 Cf. 費用便益分析では,補助金(税収)は費用(便益)ではない. • 政府から民間への金銭の移転なので,それ自体は費用ではない. • ただし,補助金拠出のために税を徴収する場合,超過税負担(税等に よる市場の歪み)の問題があるので,超過税負担にかかるシャドープ ライスを用いて費用便益分析に組み入れるのが望ましい. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 10 / 50 報告の内容 エコカー減税,補助金が自動車市場に与えた影響を定量的に評価. カウンターファクチュアルシミュレーション:異なる政策(燃費基 準,補助金額)を導入した場合の効果 • 費用効果分析 ▶ 効果:新車の平均燃費,費用:予算 ▶ (効果の設定は適当か?) 計量経済分析 • 構造推定モデル:Berry, Levinsohn and Pakes(1995, Econometrica), Goldberg and Verboven(2001, Review of Economic Studies), Petrin(2004, Journal of Political Economy) • Cf. Ackerberg, Benkard, Berry, and Pakes, “Econometric tools for analyzing market outcomes.” Handbook of Econometrics vol. 6I 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 11 / 50 分析の流れ (差別化された財の) 需要関数の推定 • 詳細は後述 限界費用の推定 (再現) • 寡占競争市場 • 利潤最大化の 1 階の条件:価格 = 限界費用 + マークアップ 推定された需要関数,限界費用を用いて,費用効果分析 • シミュレーション 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 12 / 50 日本の自動車市場 寡占競争市場 • トヨタ,ホンダ,日産,三菱,マツダ,スバル,スズキ,ダイハツ • 輸入車 ▶ ▶ 国産車の販売台数は約 300 万台 輸入車は約 20 万台.その内,アメリカの 3 社の販売台数は 4000 台 程度. 2000 年代から様々な形で環境政策が導入 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 13 / 50 差別化された財の需要関数 差別化された財:財同士に代替関係はあるが,全く同質ではない • e.g. 自動車 (プリウス,ヴィッツ,マーチ,シビック,フィット, . . .) 市場に J 種類の財があるケースの需要関数の推定 ln(q1 ) ln(q2 ) .. . = α1 + β11 ln(p1 ) + β12 ln( p2 )+ = α2 + β21 ln(p1 ) + β22 ln( p2 )+ .. . ... ... .. . ln(q J ) = α J + β J1 ln(p1 ) + β J2 ln(p2 )+ . . . • J 個の自己弾力性:β j j = ∂ ln(q j ) , ∂ ln( p j ) 北野泰樹 +β J J ln(pJ ) + ϵ J j = 1..., J • (J − 1) × J 個の交差弾力性:βi j = • ( J 個の定数項:α j , j = 1, . . . , J ) +β1J ln(pJ ) + ϵ1 +β2J ln(pJ ) + ϵ2 .. . ∂ ln(qi ) , ∂ ln(p j ) 環境政策の計量経済分析 i , j, i, j = 1 . . . , J 2014 年 3 月 28 日 財務省 14 / 50 差別化された財の需要関数の推定に係る問題点 J 2 問題:推定するパラメターの数が多すぎる. • e.g. J = 100 だと 10000 個のパラメターを推定する必要がある. • データの制約があり,通常はムズカしい.(自由度の問題) J 2 問題の解決法 → 財の代替関係に制約を置く. 通常,需要関数の背後にある効用関数に制約を置くこと対処. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 15 / 50 J 2 問題の解決 代表的なモデル • CES(Constant Elasticity of Substitution) モデル ▶ 推定で用いられることは少ない (が,理論研究では頻繁に用いられる). ▶ ただし,カリブレーションモデルで用いられることはある.(Cf. 金本, 蓮池,藤原「政策評価ミクロモデル」) • AIDS(Almost Ideal Demand System) モデル (Multi-stage budgeting モ デル) ▶ ▶ J(J+1) 推定するパラメター数は 2 (スルツキー行列の対称性)(正確にはも うちょっと少ない) 通常は,消費者の財の購買行動を層化した Multi-stage budgeting モデル を用いる. • 離散選択モデル (Discrete choice model) ▶ ロジットモデル (Logit model):推定するパラメターの数は 1 つ! → 代替関係に非常に強い制約を課してしまう:無関係な選択肢からの独 立性 (Independence of Irrespective Alternatives, IIA) ▶ 入れ子ロジットモデル (Nested Logit model):財をグループ分け → 代替関係がグループ間で異なることを許容する. ▶ ランダム係数ロジットモデル (random coefficient logit model): → 代替関係が財間の品質の近さに依存することを許容する.(入れ子ロ ジットモデルを特殊ケースとして包含するモデル) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 16 / 50 需要:データ, 分析方法 自動車の車種別データ (2005-2009 年) • 価格,販売台数 (新車登録台数),品質 (排気量,燃費, . . .) 集計データ (Aggregate data) のみが利用可能. • 集計データ ▶ 車種(モデル)レベルのデータ ▶ 推定方法:一般化積率法 (Generalized Method of Moment, GMM) ▶ 個人属性の違いに伴う選択行動の違いを考慮に入れるのが困難.一方, 市場規模でのデータなので,市場全体の分析を行う上では優れている. • 個人データ (Individual data) ▶ ▶ ▶ 個人の選択行動に関するデータ:どういう性質 (所得,年齢,性別, . .) を持つ個人がどの車種 (プリウス,ヴィッツ, . . .) を購入したかに関する データ 推定方法:最尤法 個人属性の違いに伴う選択行動の違いを明らかにすることには優れてい る.一方で抽出調査となるため,市場全体の分析を行う上では問題有. • cf. Berry, Levinsohn and Pakes(2004, Journal of Political Economy): Combination of micro and macro data 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 17 / 50 需要:データ, 分析方法 スクラップインセンティブ:各家計の保有する自動車の車齢に応じ て補助金の金額及び対象車種が変化 → 個人属性の違いに応じた選択 行動の違いを捉える必要がある. 集計データの下で,個人属性の違いによる選択行動の違いを考慮. • 個人属性の分布 に関する情報を用いる.→ 所得分布,車齢分布 ▶ 北野泰樹 離散選択モデル:財 j のシェア (市場で財 j が選ばれる確率) を導出. ∫ ui j = vi j (µi , x j ; θ) + ϵi j → Pi j (µi , x j ; θ) → s j = Pi j (µi , x j ; θ)dFµ (µ) 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 18 / 50 需要: 離散選択モデル 消費者は最も高い効用をもたらす選択肢を選択: max j ui jt . 選択肢の集合 • インサイドオプション: J t = {Prius, Vit z(Yaris), March, Fit, . . . } • アウトサイドオプション: 買わない 消費者 i が t 時点でモデル j:を選んだ時の効用 ui jt = vi jt + ϵi jt |{z} |{z} 確定項 確率項 vi jt = δ jt + µi jt • δ jt : モデル j から得られる平均的な効用 (消費者に共通) • µi jt : → モデル j から得られる消費者 i の効用で,その消費者の特性 (characteristics) に依存 ▶ ここでは所得と車齢に係る異質性を考える. • ϵi jt : 消費者 i の(研究者には観察できない)嗜好の異質性,あるいは 選択のランダムネスを捉える項.ある確率分布に従う. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 19 / 50 選択構造 Consumer i Outside Option: Not Purchase (includes “purchase in future”) Compact cars Sedan & Wagon Minivan SUV Specialty cars … … … … … 拡張可能:ブランドごとの入れ子,あるいはランダム係数ロジット 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 20 / 50 GEV モデル:Nested Logit Model ϵi jt は (前項の選択構造を生み出すような) 一般化極値分布 (Generalized Extreme Value, GEV) に従うと仮定. → 消費者 i がモデル j を選ぶ確率: si jt = si jt/ g( j) sig( j)t • g( j): モデル j が属するグループ (コンパクト,セダン&ワゴン,etc) • si jt/g( j) : グループ g( j) を選んだ下で,消費者 i がモデル j を選択する (条件付)確率 si jt/ g( j) = ∑ evi j /λ = evi j /λ evilt /λ e Iig( j)t ∑ evilt /λ = ln l∈g( j) Iig( j)t l∈g( j) • si g( j)t : 消費者 i がグループ g( j) を選択する確率: sig( j)t = 北野泰樹 evi0t eλIig( j)t ∑ + g∈G eλIig 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 21 / 50 GEV モデル:Nested Logit Model λ:パラメター, (効用最大化問題と整合的であれば)0 から 1 の間の 値を取る. • λ = 1:ロジットモデルと一致. • λ → 0:グループ内のモデルは完全代替. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 22 / 50 平均効用 δ jt = x jt β + ξ jt , x jt : モデル j の特性ベクトル • 排気量 (Engine displacement),燃費 (fuel cost (= oil price/fuel economy)), 馬力 (horse power), . . . ξ jt : (研究者には)観察できないモデル j の品質,需要のショック • デザイン, 色, ... • CM の有無, ... → 推定上の誤差項: パラメター β は ξ jt に係るモーメント条件より 推定. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 23 / 50 異質性 µi jt = −αit [(1.05 + T1 jt ) p jt − S jt (ait ) + T2 jt ] αit = yαit :価格感応度 (price sensitivity) yit : 消費者 i の所得 p jt : モデル j の価格 ait : 消費者 i の所有する自動車の車齢 T1 jt : 自動車取得税 T2 jt : 自動車税,自動車重量税 • ここでは,購入時点で支払う税額(ただし,これら税は毎年かかる, 自動車重量税は次回車検までの金額を納付するので,3 年分),減税 の対象. S jt (ait ): エコカー補助金 250000 if ait ≥ 13, t = 2009, and the car j meets fuel economy standards in Table 3, S jt (ait ) = 100000 if ait < 13, t = 2009, and the car j meets ♠ in Table 2, 0 otherwise. α: パラメター 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 24 / 50 集計 (Aggregation) 所得分布 P y と車齢分布 P a を用いて集計:モデル j が市場で選択さ れる確率を導出 ∫ ∫ s jt = si jt dP y (y)dP a (a) a y モデル j の需要関数: q jt = M t s jt M t :マーケットサイズ.家計数(購買主体は家計) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 25 / 50 補助金・減税 燃費基準 Weight – 703kg 703 – 828kg 828 – 1016kg 1016–1266kg 1266–1516kg 1516–1766kg 1766–2016kg 2016–2266kg 2266kg– Fuel Economy Standards 21.2 18.8 17.9 16.0 13.0 10.5 8.9 7.8 6.4 Fuel Economy Standards+10% 23.3 20.7 19.7 17.6 14.3 11.6 9.8 8.6 7.0 Fuel Economy Standards+15% 24.4 21.6 20.6 18.4 15.0 12.1 10.2 9.0 7.4 Fuel Economy Standards+20% 25.4 22.6 21.5 19.2 15.6 12.6 10.7 9.4 7.7 Fuel Economy Standards+25% 26.5 23.5 22.4 20.0 16.3 13.1 11.1 9.8 8.0 減税,補助金の基準 • 補助金:車齢 13 年以上の自動車をスクラップする場合,燃費基準を満 たしている自動車が補助の対象で金額は最大 25 万円,スクラップ無 の場合,燃費基準+15%を満たしている自動車が対象で最大 10 万円. • 減税:Table 2 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 26 / 50 車齢分布 Car age 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13+ 2005 1022998 3360166 3371919 3384903 3380193 3287717 3105332 3209156 3548638 3380220 2822653 2287247 6615036 北野泰樹 2006 1000633 3323627 3344078 3301118 3337076 3272803 3184605 2952492 3074905 3279890 3053283 2459407 7163363 2007 893269 3089041 3305518 3273161 3247963 3230018 3163291 3029445 2829798 2854238 2999782 2702221 7611664 2008 903196 2899000 3066885 3222259 3209111 3126308 3104485 2983129 2895774 2626986 2614486 2642966 8174404 環境政策の計量経済分析 2009 631084 2753322 2883932 3006745 3172801 3118174 3021215 2966970 2857176 2720941 2419562 2323367 8923956 2010 884592 2618982 2738161 2826529 2972044 3095997 3057364 2928299 2884513 2698472 2554663 2181251 8978053 2014 年 3 月 28 日 財務省 27 / 50 需要関数の推定:識別条件 ξ jt に係るモーメント条件 • 内生性: ξ jt は価格と正の相関. • 観察可能な品質と観察不可能な品質・需要のショックは独立: E(ξ jt |x t ) = 0 BLP’s contraction mapping • δ j 外のパラメターを所与としたもとで,平均効用 δ の計算方法. • δ j (α, λ) と書ける: ξ jt (α, β, λ) = δ jt (α, λ) − x jt β • 非線形一般化積率法 (Nonlinear GMM) に基づく推定. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 28 / 50 需要関数の推定:推定結果 Linear Model (i) OLS S.E. Non-Linear Model (iii) GMM Coef. S.E. (ii) GMM Coef. S.E. Variables Coef. Car Space HP/Weight Engine Displacement (CC) Wheelbase Fuel Cost Eco-car dummy Constant 0.377 -0.009 0.204 0.598 -0.220 0.254 -7.580 0.047 0.026 0.094 0.234 0.018 0.072 0.553 *** −α λ -0.001 0.597 0.001 0.025 ** ** *** *** *** 0.299 0.085 0.266 0.819 -0.191 0.762 -11.051 0.058 0.034 0.157 0.340 0.023 0.104 0.852 *** ** * ** *** *** *** 0.348 0.149 1.476 0.830 -0.187 -10.571 0.059 0.038 0.420 0.172 0.029 0.767 *** *** *** *** *** * *** -0.005 0.892 0.002 0.040 *** *** -16.289 0.808 3.884 0.014 *** *** *** 価格の係数は負,燃費の係数はマイナス λ は 0 から 1 の間(統計的に有意に異なる) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 29 / 50 供給:限界費用 政策評価では需要と供給 (限界費用) を明らかにする必要がある. • 需要の推定はこれまでに述べた通り. • 限界費用は? 企業が各モデルを生産する際に要する限界費用は通常はデータとし て得ることが出来ない. 利潤最大化の 1 階の条件: • 価格 = 限界費用 + マークアップ • マークアップ:需要関数の推定結果から導出できる. ▶ Cf. 独占企業の場合 ( P(Q) は逆需要関数) P − (−P′ Q) = |{z} MC |{z} | {z } 価格 マークアップ 限界費用 ′ ▶ P は逆需要関数の傾き,Q は販売量. • 寡占競争市場の場合,競争形態に係る仮定が必要 ▶ 価格競争,数量競争,カルテル, . . . ▶ Cf. 限界費用に係る情報があれば,競争形態を明らかにできる(モデル の予測する限界費用と実際の限界費用の比較) :競争政策上,重要. (研究者が観察できない) 限界費用を再現できる. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 30 / 50 供給:多数財の寡占競争 企業 f 利潤関数: πft ∑ p jt q jt − c jt (q jt ) = |{z} | {z } j∈J f t 収入 費用 J f t :企業 f が生産するモデルの集合 利潤最大化の一階の条件(価格競争を仮定) : ∑( ) ∂q lt ∂π f t = 0, ∀ j ⇔ q jt + plt − c′lt = 0, ∀ j ∂ p jt ∂ p jt l∈J ft 行列表記: mc t = p t − |{z} |{z} 限界費用 価格 ∆−1 s t t |{z} マークアップ ′ ′ ′ mc t = (c , . . . , c ) : 限界費用ベクトル Jt t 1t p t = (p1t , . . . , pJ t t )′ : 価格ベクトル s t = (s1t , . . . , s J t t )′ : シェア(= 数量/マーケットサイズ)ベクトル 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 31 / 50 マークアップ ∆ t : J t × J t , ( j, r) 要素は ∆∗ × H jrt .ただし, jrt • ∆∗ : 代替行列,( j, r) 要素は以下の通り. t ∆∗ jrt = [ ( 1−λ ) ] ∫ ∫ 1 si jt/ g( j) − si jt dP y (y)dP a (a) if j = r a y αi (1.05 + T1 jt )si jt λ[(− )λ ] ∫ ∫ 1−λ s )s + s dP if j , r, r ∈ g( j) − α (1.05 + T = y (y)dP a (a) i jt 1 jt irt i jt/ g( j) λ ∫a ∫y i ∂p jt − αi (1.05 + T1 jt )sirt si jt dP y (y)dP a (a) otherwise ∂s rt a y • H t : 所有行列 (ownership matrix), ( j, r) 要素は以下の通り. H jrt 1 if { j, r} ⊂ J f t , ∀ f = 0 otherwise つまり, j と r が同じ企業で生産されているならば,1. (価格競争) ▶ ▶ 北野泰樹 Cf. すべての企業がカルテルを結んでいるのならば,すべて 1 を取る. Cf. 合併の分析では, j と r が合併する企業内で生産されているのなら ば,1 を取るとして評価. 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 32 / 50 シミュレーション (1): 減税・補助金の効果(2009 年) (i) No policy Sales (units) (ii) Tax incentives only ∆Sales (units) (%) (iii) Tax incentives and subsidy ∆Sales (units) (%) Daihatsu Honda Mazda Mitsubishi Nissan Subaru Suzuki Toyota 5493 361727 132802 50450 370893 80576 60141 1188878 201 49462 2178 3411 15760 -2119 -1210 74406 3.7 13.7 1.6 6.8 4.2 -2.6 -2.0 6.3 1573 137874 20257 11782 61727 -34 1251 231044 28.6 38.1 15.3 23.4 16.6 0.0 2.1 19.4 Total 2250960 142089 6.3 465474 20.7 販売台数の増加数はホンダとトヨタが非常に多い. 一部の企業は政策の影響はほとんどない. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 33 / 50 シミュレーション (2): 補助金額・支給基準の変更 実際の補助金政策は効果的だったか? カウンターファクチュアルシミュレーションの実施 • 2 つのパラメターに注目:燃費基準と補助金額 (10 万円,25 万円) • 燃費基準,補助金額を比例的に変化(グリッドを 10%とする): γ f e ∈ {0.1, 0.2 . . . , 2.5}, γ sub ∈ {0, 0.1, . . . , 5.0}. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 34 / 50 シミュレーション (2): γ sub = 1(燃費基準のみ変更) γ fe 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 Average fuel Economy (km/l) 19.025 19.025 19.026 19.029 19.079 19.234 19.325 19.455 19.461 19.432 19.432 γ fe 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 Average fuel Economy (km/l) 19.404 19.336 19.336 19.305 19.022 19.022 19.019 18.897 18.897 18.897 実際の補助金に係る燃費基準は若干緩い. 1 台当りの補助金額を一定とすれば,30%ほど厳しい燃費基準の方 がより低い平均燃費を実現. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 35 / 50 シミュレーション分析 (3): 費用効果分析 費用効果分析 (Cost-Effectiveness analysis) • 一定の補助金額(予算)の下で,最大の効果(平均燃費)をもたらす 政策(組合せ)の選択. ▶ 実際の総補助金支出(モデルの予測,09 年 4 月–10 年 3 月) 2533 億円 • 一定の効果を実現する下で,費用が最小となる政策の選択. ▶ 平均燃費:19.234km/l 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 36 / 50 補助金総額を一定 γ fe γ sub 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 0.7 0.7 0.7 0.7 0.8 1.0 1.3 1.7 2.0 2.4 2.4 Average Fuel Economy 18.985 18.985 18.985 18.988 19.042 19.234 19.462 19.900 20.143 20.433 20.432 γ fe γ sub 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.8 3.0 3.0 3.2 4.3 4.3 4.4 5.0 5.0 0.0 Average Fuel Economy 20.680 20.647 20.647 20.648 20.254 20.254 20.338 18.900 18.900 18.897 補助金額一定の下で最大の効果を実現する政策は (γ f e , γ sub ) = (1.6, 2.8) 燃費基準を 60%厳しく設定し,補助金額を 2.8 倍に設定. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 37 / 50 最適政策下での利潤の変化 (1) Daihatsu Honda Mazda Mitsubishi Nissan Subaru Suzuki Toyota Total (i) Actual rule ∆π (bil. JPY) (%) 0.49 19.64 66.03 31.77 7.33 10.26 5.72 17.62 28.28 12.49 -1.02 -2.09 -0.10 -0.36 151.10 16.73 257.82 16.94 (ii) Optimal rule ∆π (bil. JPY) (%) 0.04 1.58 61.57 29.63 -1.75 -2.46 1.09 3.36 0.14 0.06 -4.47 -9.13 -1.12 -3.87 185.41 20.53 240.91 15.83 (iii) (i) - (ii) ∆π (bil. JPY) 0.45 4.46 9.08 4.63 28.14 3.44 1.01 -34.31 16.90 トヨタの利潤が犠牲となるようなルールが設定されていた. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 38 / 50 最適政策下での利潤の変化 (2) γ fe 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2 2.1 2.2 γ sub 0.7 0.7 0.7 0.7 0.8 1.0 1.3 1.7 2.0 2.4 2.4 2.8 3.0 3.0 3.2 4.3 4.3 4.4 ∆π (bil. JPY) 137.53 137.53 137.48 137.16 150.89 151.47 140.92 135.63 135.74 129.21 129.00 134.57 133.52 133.52 138.21 101.38 101.38 97.12 Total subsidy payment (bil. JPY) 221.7 221.7 221.6 221.0 246.4 253.3 237.9 246.3 243.5 245.3 244.8 252.2 247.3 247.3 244.9 241.4 241.4 242.6 ∆π/Subsidy 0.620 0.620 0.620 0.621 0.612 0.598 0.592 0.551 0.558 0.527 0.527 0.534 0.540 0.540 0.564 0.420 0.420 0.400 利潤の増分は実際の政策のケースで最大 グリッドの取り方があらい. • ∆π/subsidy は最大ではない. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 39 / 50 平均燃費を一定 γ fe 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 γ sub 2.3 2.3 2.3 2.3 1.9 1 0.8 0.7 0.7 0.7 0.7 Total Subsidy Payment (bil. JPY) 1078.9 1078.9 1078.6 1076.3 765.2 253.3 126.7 72.9 57.1 40.8 40.7 γ fe 1.6 1.7 1.8 1.9 2 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 γ sub 0.7 0.8 0.8 0.9 2.1 2.1 2.1 - Total Subsidy Payment (bil. JPY) 35.3 34.8 34.8 36.8 45.0 45.0 39.6 - 補助金額一定の下で最大の効果を実現する政策は (γ f e , γ sub ) = (1.7(1.8), 0.8) 燃費基準を 70%(80)%厳しく設定し,補助金額を 0.8 倍に設定. • 70%と 80%で補助金の対象車種は変わらない 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 40 / 50 まとめ 計量経済分析に基づく環境政策の定量的評価と効率的な政策の探索 効率的な政策の選択は,基本的には政策の効果の予測が必要. • 費用便益分析が標準的な方法だが,費用効果分析でも政策の絞り込み は可能. いくつかの課題 • 効果の設定. ((市場全体での)二酸化炭素排出量など) • 費用便益分析 • 自動車の耐久消費財的性質を考慮. (Gowrisankaran and Rysman(2012, Journal of Political Economy), Schiraldi(2011,RAND Journal of Economics)) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 41 / 50 補足:非関税障壁をめぐる議論 –貿易と環境– 日本のエコカー政策に対し,アメリカ BIG3(GM,クライスラー, フォード) は偽装された保護主義政策であると批判. • 自動車の販売: 国土交通省の型式指定制度に基づく公式燃費を含む諸 性能の報告が必要. ▶ 例外規定: 輸入車の場合,年間販売台数が 2000 台以下の車種について は,PHP(Preferential Handling Procedure,輸入自動車特別取扱制度) 制 度の下,公式燃費を報告することなしに輸入,販売可能. • エコカー認定: 日本の燃費測定方法に基づく公式燃費で認定. ▶ アメリカ各社の自動車は PHP 制度に基づく輸入がほぼすべてを占めて いたので,一つもエコカー認定されていなかった. ▶ ただし,自国の燃費測定方法に基づく燃費は有している. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 42 / 50 偽装された保護主義 (Disguised Protectionism)? US Trade Representative(USTR) → 日本の公式燃費以外で測定され た燃費でも補助の対象とすることを要請. • 外国の基準で計算された燃費でエコカー認定を開始 • PHP 制度で輸入された車種についてもエコカー補助金の対象 (ビッグ 3 の生産する 8 車種が補助金の対象) USTR は一度は日本の決定を歓迎したが,対象車種の少なさを批判. • 燃費の計算方法の変更を要求 • EPA city mileage → EPA combined mileage • 実質的には,補助のための燃費基準の緩和を要求. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 43 / 50 貿易政策の理論 貿易政策を自由に用いることが出来る状況では,各国は (1) 交易条件 (輸出財と輸入財の相対価格) 改善,あるいは (2) 自国企業の競争条件 が有利となるように,貿易政策を策定するインセンティブを持つ. • 最適関税の理論 • 戦略的貿易政策 (Brander and Spencer(1985, JIE)) ただし,各国が自由に貿易政策を策定してしまうと,いわゆる囚人 のジレンマに陥ってしまう (こともある). • 各国が協調して関税障壁を削減することが望ましい.(WTO,FTA, EPA) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 44 / 50 WTO,FTA 下の貿易政策 GATT・WTO 体制: 関税率は徐々に低下 → 貿易政策を自由に用いることが出来ない. → 各国は 最恵国待遇 (Most Favored Nation) の原則の下,加盟国間 で差別的な関税率を設定することができない. • 最恵国待遇原則:WTO 加盟国はすべての加盟国からの輸入品につい て,無条件に最も低い関税率を適用する,つまり加盟国間で関税率に ついての差別を行わないことを要求する原則 ▶ ▶ 例外 (1):アンチダンピング関税,相殺関税,セーフガード 例外 (2):自由貿易協定 (Free Trade Agreement, FTA), . . . → WTO 交渉でさらなる関税障壁の削減が要求されている. 自由貿易協定 (FTA),経済連携協定 (EPA) → 加盟国間での関税障壁の撤廃 (削減) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 45 / 50 偽装された保護貿易政策 関税障壁の削減,また貿易政策の利用の制約は,貿易政策上の目的 の達成のため,貿易政策の代わりに国内政策を用いるインセンティ ブを生じさせる. • 交易条件の改善:Copeland(1990, CJE), Ederington(2001, AER), Ederington(2002, IER) • 不完全競争下における国内企業の競争条件の改善:Conrad(1993, JEEM), Barrett(1994, JPubE), Kennedy(1994, JEEM) → 偽装された保護貿易政策 もちろん,貿易政策上の問題を解決するのに国内政策を用いるのは 非効率.(貿易政策と国内政策は不完全代替) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 46 / 50 貿易政策と国内政策 貿易政策と国内政策はどのように用いるのが効率的か • 交易条件改善などの目的のためには,貿易政策 (関税など) • 環境問題 (外部性) の改善のためには,環境政策 (ピグー税など) で対応するのが最適となる. • Markusen(1975, JIE), Ederington(2001, AER), Ederington(2002, IER) よって,貿易政策上の問題を解決するために環境政策を用いるのは 非効率. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 47 / 50 偽装された保護貿易政策への対応 WTO 体制 → 内国民待遇 (National Treatment) の原則により,各国は外国企業 を差別し,自国企業が有利となるような形で国内政策を用いること は出来ない. • 内国民待遇原則:WTO 加盟国は内国税を課したり,国内規制を行う ときに,輸入品を国産品と同等に扱うことを要求する原則. 経済連携協定 → 関税障壁の削減に係る協議だけでなく,国内政策 (規制等) に係る 協議を行う必要がある. • 各国は自国にとって有利な政策を採用したい. 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 48 / 50 GATT20 条:一般例外条項 環境政策関連 • Exceptions can be applied if measures are: ▶ (b) necessary to protect human, animal or plant life, ▶ (g) relating to the conservation of exhaustible natural resources if such measures are made effective in conjunction with restrictions on domestic production or consumption, but are not applied in a manner which would constitute means of “arbitrary or unjustifiable discrimination” and “a disguised restriction on international trade”. 自動車のケース • 大気は有限天然資源 – エコカー関連政策は例外条項 (g)に適合 (川瀬 (2011)) ▶ Panel Report, United States – Standards for Reformulated and Conventional Gasoline, pp. 6.36-6.37, WT/DS2/R (Jan. 29, 1996). • 自動車は主要な温室効果ガス排出源. ▶ 運輸部門の CO2 排出量は日本の総排出量の約 20%,内自家用車は 50% (国土交通省) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 49 / 50 貿易と環境に関連する WTO の事例 Thai Cigarette (1990) Tuna-Dolphin (1991) US Corporate Average Fuel Economy (CAFE) Standards (1994) • 各社の販売された新車の平均燃費に対する規制:27.5 miles/galon を 超える場合には課税がなされる. • EU が GATT に提訴:内国民待遇に違反. ▶ 当時の EU 各国の自動車メーカーは高級車のみを販売. ▶ CAFE 基準を満たすのは非常に困難.実際,アメリカのこうした自動車 の環境規制からの税収の多く (80%) は EU の自動車メーカーによる支払. ▶ 軽トラックなどが CAFE を計算する際に除外されていた. • GATT は EU の提訴を棄却 ▶ Product regulations are GATT-consistent as long as they did not explicitly discriminate on the basis of country of origin and were necessary to public health or environment. Shochu-Whisky(1995) • 日本の酒税は GATT 違反. Reference: Esty(1994), Vogel(1997) 北野泰樹 環境政策の計量経済分析 2014 年 3 月 28 日 財務省 50 / 50
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