「ILQ Design Center」 1.はじめに

解析的手法に基づく逆LQ(ILQ)最適サーボ系の
自動設計ツール 「ILQ Design Center」
芝浦工業大学 工学部 電気工学科
教授 高見 弘
〒135-8548東京都江東区豊洲3-7-5
Tel: 03-5859-8212
E-mail : [email protected]
1.はじめに
(1)最適制御の定義
次式の線形時不変システムに対する最適制御問題を考えます.
x  Ax  Bu
...................................................... (1)
y  Cx
ここで,  を実数集合とし,n次の実数ベクトルの集合を n ,n×m次の実数行列の集合を
nm で表せば, x n :初期値 x  0   x0 とする状態変数, u m :制御入力, y m :出
力であり, A nn , B nm , C mn :係数行列を表します.
(1)式の線形時不変システムに対して,二次形式の評価関数
J


x Qx  u
T
T
Ru  dt , Q  QT  0 , R  RT  0 ....................... (2)
0
を最小にする入力 u を求める制御問題を最適レギュレータ(LQ;Linear Quadratic)問題と
いいます.ここで, Q nn , R mm は重み行列であり,記号 T は転置を表します.
対  A, B  が可安定ならば,評価関数(2)式を最小にするLQ問題の解が常に存在し,その解
と最小値 J min は次式で与えられます.
u   R1BT P0 x ..................................................... (3)
J min  x0T P0 x0 ....................................................... (4)
ここで,P0は次のリカッチ方程式
PA  AT P  PBR1BT P  Q  0 ......................................... (5)
の最小正定解です.(1)式と(3)式の閉ループ系が安定すなわち
Re   A  BR1BT P0   0 .............................................. (6)
となるための必要十分条件は, Q  C T C に対し,対  C , A が可検出であることです.ここ
で, Re は実部を求める演算子,  
 は固有値求める演算子を表します.
上記で得られた最適制御は,1)ゲイン余有:無限大,2)ゲイン減少の許容範囲:50%,
3)位相余有:±60°なる特性を持つので,システムの特性変動に対するロバストな安定性
とパラメータ変動に対する低感度特性を提供します.
(2)LQ問題から逆LQ問題へ
LQ問題は(5)式のリカッチ方程式を解くことで最適解を得ることができますが,リカッチ
方程式の求解は煩雑であり,重み行列と閉ループ系の応答が不明瞭であり,シミュレーシ
ョンなどによって満足できる応答仕様が得られるまで繰り返し最適ゲインの検討を行わな
ければなりません.そのため,産業界で多用されているPID制御に比べて見通しが悪く,現
場で使いづらいといわれています.
逆LQ設計法(ILQ設計法)は,大阪大学基礎工学部 藤井隆雄名誉教授が考案したLQ問題
を逆から解く手法(逆LQ問題)で,リカッチの方程式を直接解くことなく,指定極で与え
る簡単な極配置計算から解析的に最適解を求めることができます。したがって,閉ループ
系の仕様変更に対しても柔軟に対応可能で,実用的で扱いやすい設計手法です。ここで,
ILQ設計法の特徴を以下にまとめます.
1) 各入出力間の伝達関数が漸近的に個別に設定できます。
2) 最適解が解析的に得られ,最適性が保障されます。
3) 現場でのゲイン調整が簡単に行えます。
ILQ設計法は,次の2ステップの手続きから最適解を導きます.
(STEP 1) サーボ系の設計問題をレギュレータ問題へ置き換え,最適レギュレータ問題
の最適解がある重みに対して張る多次元空間とその構造に着目して基本解
(基準最適ゲイン)を導きます.すなわち,重みが与える最適解に対する自
由度を利用して,閉ループ系の指定極に対してゲイン調整パラメータを変数
とする解集合を導出し,ゲイン調整パラメータによる閉ループ系の漸近的な
非干渉化を与えることで,上記の特徴1)を付加します.
(STEP 2) 与えられた閉ループ系の解集合がリカッチ方程式の解を満足するようにゲイ
ン調整パラメータの制約条件(下限値)を導きます。
(3)ILQ Design Centerについて
以上のように,ILQ設計法は,PID制御と同等の設計手順で最適制御の性能を有する制御
系が構築できる優れた最適制御系の設計理論です.筆者はこの理論を専門のパワーエレク
トロニクス機器の制御への応用に取り組んできました.さらに,ILQ最適制御系を解析的に
自動で設計するツール「ILQ Design Center」の開発に2000年ごろより取り組み,自身の研
究開発に役立ててきました.「ILQ Design Center」を用いれば,満足できる最適制御系を
数時間程度で設計できる可能性をもっています.実際,筆者の研究室の学部学生がわずか
半日で実用的な最適制御系の設計からシミュレーションまで完了した例があります.もち
ろん,最適制御理論を十分理解したうえで設計に当たる必要があります.すなわち,得ら
れた解が現実には実現不能な解を与えている場合があり,これを見抜くには正確な最適制
御理論の理解が不可欠です.
使い方を誤らなければ,本設計ツールは最適制御を実装する上で強力なツールであるこ
とを確信しています.皆様には一度このツールに触れていただいてその有用性を感じてい
ただきたく存じます.最適制御は奥が深く筆者もまだ勉学の途上段階であり,先輩方,読
者諸賢のご指摘,ご指導,ご鞭撻を賜ることができましたら幸いです.
2014年2月吉日
著者しるす