軸受鋼の円筒プランジ鏡面研削に関する研究 ―極微小

博士論文
軸受鋼の円筒プランジ鏡面研削に関する研究
―極微小切込ドレッシングが加工面品位に及ぼす影響−
Study on Cylindrical Plunge Mirror Grinding of Bearing steel
―Influence Ultrafine Infeed Dressing on Surface Integrity of Ground Surface―
国立大学法人 横浜国立大学大学院
工学府
大坂
剛士
(Takeshi OSAKA)
2014 年 9 月
目次
第1章
緒
言
1-1 背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1-2 軸受の製造方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1-2-1
軸受の軌道面研削
1-2-2
軸受の軌道面超仕上げ
1-2-3
軸受の製造における問題点
1-3 鏡面研削方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1-3-1
微粒砥石による鏡面研削
1-3-2
切れ刃トランケーションされた砥石による鏡面研削
1-4 摺動部品に及ぼす表面品位の影響・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1-5 表面品位の改質メカニズムとその方法・・・・・・・・・・・・・・・14
1-6 本論文の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
1-7 本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
第2章
極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
2-1 表面粗さに及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
2-2 砥粒切れ刃間隔に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
2-3 研削抵抗に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
2-4 研削熱に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
2-5 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
第3章
超精密円筒研削盤の開発および実験条件
3-1 実験装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
3-1-1
超精密円筒研削盤
3-1-2
砥石およびドレッサ
3-2 実験条件の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
3-2-1
ドレス条件
3-2-2
研削条件
3-3 測定項目・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
第4章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
4-1 切込速度と研削性能の関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
4-2 ドレッシング切込量と研削性能の関係・・・・・・・・・・・・・・・52
4-3 加工,砥石表面の観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
4-3-1
加工表面写真
4-3-2
砥石表面のレプリカ観察
4-4 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
第5章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に
及ぼす影響
5-1 残留応力に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
5-1-1
ドレッシング切込量と残留応力の関係
5-1-2
砥粒押しつぶし体積
5-2 金属組織に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69
5-2-1
加工面の腐食観察
5-2-2
X 線による組織解析
5-3 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74
第6章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が
加工面品位に及ぼす影響
6-1 ワークの回転方向と研削性能の関係・・・・・・・・・・・・・・・・76
6-2 砥石周速と研削性能の関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
6-2-1
表面粗さの解析
6-2-2
研削性能と表面品位
6-3 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87
第7章
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
7-1 円筒プランジ鏡面研削の加工コスト・・・・・・・・・・・・・・・・89
7-1-1
工具費
7-1-2
労務費
7-1-3
設備費
7-1-4
加工コスト
7-2 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97
第8章
結
言
8-1 本研究のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99
8-2 今後の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103
公表論文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
記号
Λ
:油膜パラメータ
b
:疲労度インデックス
⊿B
:半価幅減少量
⊿RA
:残留オーステナイト減少量
α
:疲労度による材料定数
Rz
:最大粗さ
Ra
:算術平均粗さ
u
:三次元的平均間隔
θ
:砥粒先端角
vw
:工作物周速
vs
:砥石周速
dw
:工作物直径
ds
:砥石直径
n
:平均砥粒切れ刃数
W0
:砥粒切れ刃 1 個が占める平均体積
k
:形状係数
dg
:平均砥粒径
g
:砥粒切込深さ
a
:砥粒切れ刃間隔
⊿
:工作物 1 回転あたりの半径切込量
De
:等価砥石直径
ρ
:単位体積あたりの砥粒個数
c
:砥粒体積率
C
:単位面積あたりの砥粒個数
b’
:砥粒作用幅
λ
:平均砥粒間隔
Sa
:砥粒 1 粒の切削断面積
R
:盛り上がり係数
j
:単位砥石表面積あたりの有効切れ刃数
lg
:砥粒接触弧長さ
p
:工作物面圧力
μ’
:砥粒と工作物間の動摩擦係数
ft
:砥粒切れ刃に作用する切削方向分力
fn
:砥粒切れ刃に作用する法線分力
Ft
:接線研削抵抗
Fn
:法線研削抵抗
Cg
:研削抵抗比
qw’
:砥粒 1 粒から単位時間・単位幅あたりの工作物への入熱量
Qw ’
:単位時間・単位幅あたりの工作物への入熱量
Rw
:工作物への入熱割合
Ft’
:単位幅あたりの接線研削抵抗
Fn’
:単位幅あたりの法線研削抵抗
θd
:ドレッシング進入角
S
:ドレス周速比
B
vd
B
B
B
:ドレッシング周速
dd
:ドレッサ直径
ad
:ドレッシング切込量
P
:正味消費動力
λw
:研削パラメータ
λwt
:接線研削パラメータ
Z’
:研削能率
vc
:切込速度
V c’
:押しつぶされる単位幅あたりの体積
gc
:砥粒押しつぶし深さ
ac
:砥粒中の最大切れ刃間隔
第1章
緒
言
第1章
1-1
緒
言
背景
エンジンシリンダーや軸受などの摺動部品の多くは,適度な硬度・靭性と高精度が必要
である.適度な硬度・靭性を得るために熱処理が行われ,その後に高精度を得るために固
定砥粒加工が行われる.
固定砥粒加工の例を Fig.1-1 に示す.固定砥粒加工は硬い鉱物で切れ刃の役割をする砥粒
を結合材と気孔で形作られる砥石を用いた加工である.多くの切れ刃を有するため高能率
に,また 1 つの砥粒が加工中に摩耗や脱落,破砕して切れ刃の役割をしなくなってもその
他の砥粒が残るので高精度に加工できる.また砥石の作用面全域において摩耗や脱落,破
砕が起こり高能率・高精度が得られなくなると,ドレッサによって砥石を加工するドレッ
シングと呼ばれる工程を行うことで,切れ刃を修正する目直し,砥石の形状修正を行う形
直しが行われる.そのため,工具である砥石の交換頻度を少なくすることができる.また,
砥石を運動させながらその運動軌跡を工作物に転写する運動転写の固定砥粒加工では,ド
レッシング工程を行わず,自工程中での自生発刃による目直し,形直しが行われることも
ある.
Fig.1-1 Bonded abrasive process
とくに摺動部品は細かい粗さを求められる.そのため,摺動部品の製造方法の多くは,
研削工程後に超仕上げやホーニングなどのラップ工程が行われる.
2
第1章
1-2
緒
言
軸受の製造方法
摺動部品の典型的な例である転がり玉軸受の熱処理後の一般的な機械加工工程を Fig.1-2
に示す.
側面はスルーフィード研削加工で仕上られ,外面はセンタレス・スルーフィード研削加
工で行われる.スルーフィード研削は入口側が開き,出口側が閉じたハの字型に設置され
た 2 つの砥石の間を通過することで切込が入るため,連続的に加工できる.そのため 1 個
あたりのタクトタイムを短くできる.
しかしながら,内面や大きな複雑形状を持つ平面,外面は加工できない.そのため軌道
面は工作物 1 つごとに切込を入れるインフィード研削が行われる.軌道面研削工程は定位
置切込で寸法を作り込むとともに,定期的なドレッシングで形状や真円度を作り込む.
その後に,超仕上げ加工が行われ,粗さを作り込む.
Face grinding
Outer grinding
Race grinding
Outer ring face
Outer ring outside
Outer ring race
Internal grinding
Super finish
Ouer ring race
Outer
ring
Inner ring race
Inner ring face
Inner ring bore
Inner ring race
Inner
ring
Through-feed grinding
In-feed grinding
Fig.1-2 Production process of ball bearing parts
3
Super-finish
第1章
1-2-1
緒
言
軸受の軌道面研削
軸受の軌道面,内面の多くはセンタレス・インフィード研削で,ダウンカット研削であ
る.ダウンカット研削とするのは,研削方法がシューセンタレス研削であるためである.
シューセンタレス研削の模式図を Fig.1-3 に示す.
A) Internal grinding
B) External grinding
Fig.1-3 Centerless in-feed grinding
工作物円周はシューと呼ばれる 2 つの支持部で支持され,工作物平面を工作物支持軸の
平面方向に押し付けられる.工作物平面を工作物支持軸の平面方向に押し付けて支持する
方法として,機械的に押し付ける方法と工作物支持軸を磁化させて引き付ける方法がある.
この様に支持された工作物は工作物支持軸から回転駆動力を与えられ,工作物支持軸との
回転中心と工作物の中心が偏芯している.これにより,ワーク全周におけるモーメントの
総和によって回転中心からワーク中心に向かう方向に対して,回転方向に 90°傾けた方向
に力が働く.この力を円周上の支持部である 2 つのシューの小さな角度の間に向くように
偏芯を設定し,工作物を 2 つのシューに押し付ける.したがって,工作物と 3 つの支持部
(工作物支持軸と 2 つのシュー)の間にはすべりが生じている.そのため,2 つのシューは
耐摩耗に優れた材料が選定され,工作物支持軸の平面にはバッキングプレートと呼ばれる
治工具が取り付けられて工作物支持軸は摩耗しないようになっている.
いずれの支持部と工作物とがすべりが生じているため,機械加工における母性原理が緩
和される.母性原理とは工作物(子)が工作機(母)の機械精度の影響を受けて,工作機
の精度と同程度の工作物の精度になってしまうことである.いずれもすべりが生じており,
刻々と支持部が変化されるので平均化効果が得られ,工作機よりも高精度な工作物を製造
4
第1章
緒
言
することが可能となる.さらに内面研削においてはシューと砥石とで工作物を挟み込んで
肉厚一定に加工できるので,同軸度を小さくできる.
また,ラフに工作物を設置してもバッキングプレートからの駆動力を受けることで 2 つ
のシューに押し付けられ,平面と 2 つのシューの 3 点で支持されるので,加工ポイントま
での搬送(ローディング:loading)を簡便化できる.すなわち,ローディング時間の短縮
ができ,タクトタイムの短縮が可能である.
このようなメリットのため,軸受の研削方式としてシューセンタレス研削が用いられる.
このシューセンタレス研削ではダウンカット研削が行われる.シューセンタレスでアップ
カット研削を行うと,工作物には回転方向と反対方向に接線研削抵抗が生じる.この接線
研削が工作物の回転駆動力を超えると,ワークが反対方向に回転され,モーメントの総和
も逆転して,工作物が 2 つのシューから外れようとしてしまう.とくに,工作物の回転駆
動力は工作物とバッキングプレート間に生じる摩擦力なので,十分高いものとは言えない.
したがって,シューセンタレス研削ではダウンカット研削を行うのが,一般的である.
この 2 つのシューのセット角度は真円度を作り込むのに非常に重要である.内面研削の
とき真円度は外面と同じになる.一方で,外面研削のときは自励びびり振動の再生効果(再
生びびり)1-1)を作らないようにセッティングされる.
ドレッシングは個数管理によるスキップで行われ,ドレッシングはトラバースや総型に
よる単純切込を行うことが多い.ドレッシングまでの研削体積は形状,粗さの悪化や研削
焼けの有無などの出来栄えが悪化する前に行われ,経験的に決められる.
1-2-2
軸受の軌道面超仕上げ
軌道面超仕上げ工程は Fig.1-4 に示すように定圧加工による運動転写による加工である.
表面粗さを作り込む一方で,除去体積は経験的に決められる.さらに砥石形状は工作物
円周と溝形状の組み合わせによる複雑形状であるため,自工程での自生発刃で砥石を工作
物の軌道面形状に倣わせる“なじませ工程”が必要である.このなじませを行われた工作
物は形状不良を起こしていないかを確認が必要で歩留まりが悪くなってしまう.軌道面形
状は運動転写で作り込み,そのときの砥石形状は平均化効果で作られるため,軌道面の前
工程である研削工程での出来栄えに依存する.とくに溝形状方向に砥石を揺動させるので,
溝形状が複雑になると砥石の自生作用を積極的に起こさせなければならず,精度確保が難
しくなる.
砥石と工作物は面接触するため,自生作用を積極的に起こしている砥石にもかかわらず,
能率は高い.
5
第1章
緒
言
Fig.1-4 Super finish of inner ring
1-2-3
軸受の製造における問題点
近年の少ロット多品種化にともない,セッティング時間が長いスルーフィード研削で行
われていた内外輪の平面研削,外輪外径研削が内外面の軌道面,内輪内径のようなインフ
ィード研削で行われることが増えてきている.さらには,外輪外径と溝や内輪溝と内面を 1
台の研削盤で研削する複合化が行われてきている.このように同じ研削工程であれば,置
き換えや複合化が容易で,工作物の形状・大きさなどの図面データや生産数から最適な工
程設定が行うことができる.
一方で,超仕上げは専用機が必要であり,最適な工程設定の検討する余地は少ない.そ
もそも,超仕上げは加工中の自生発刃によって砥石の形状修正を行うため少量の加工には
不向きである.高機能軸受として軌道面形状が複雑な形をするものも増えてきている.研
削は総型ロータリドレッサや NC によるドレッシング・研削で達成しうるが,単純な運動
軌跡の平均化効果を利用した超仕上げでは形状が崩れてしまう.
これらのことから,超仕上げから円筒プランジ鏡面研削への置き換えによる工程集約が
望まれている.とくに,加工された面を重要な機能として利用する摺動部品においては,
機能についても考えて,検討しなければならない.
6
第1章
1-3
緒
言
鏡面研削の方法
鋼材の鏡面研削方法として,微粒砥石や切れ刃トランケーション(砥粒平滑化)された
砥石を用いた研削の 2 つが研究開発されている.
1-3-1
微粒砥石による鏡面研削
微粒砥石を用いた研削によって鏡面を得ようとする研究として,超微粒レジンボンド砥
石#3000 を用いた鏡面研削 1-2)や,微粒ビトリファイドボンド砥石 1-3)を用いた鏡面研削の
例がある.
レジンボンドは適度な弾性があり,また砥粒の保持されている表面積が大きいため,従
来の研削盤の切込分解能であるミクロンレベル切込の研削,ドレッシングを行っても,砥
粒脱落することはない.その反面,研削熱や研削抵抗,ドレッシング抵抗によって砥粒の
埋没や回転が起こり易くて取り扱いが難しい.さらに無気孔なので切りくず排出のための
チップポケットを作るために目立てが必要となり,工程が複雑になる.
一方,脆性材料であるビトリファイドを用いた砥石は有気孔なので目立てが不要で,高
能率研削の多くで使われているように研削熱,研削抵抗,ドレッシング抵抗に対して,安
定性が高い.しかしながら,レジンと比較して弾性と砥粒保持の表面積が小さいので砥粒
が脱落しやすい.とくに従来の研削盤では分解能や回転精度がミクロンレベルのため,砥
粒径に対して大きな切込を実施せざるを得ず,また回転精度のために砥石の一部ではさら
に大きな切込量になってしまい,砥粒径に対して切込量の割合が増えて脱落を起こしやす
い.そのため,微粒(#600,#800 の数十ミクロンレベル)のビトリファイドボンド砥石に
よる研削を実施した例はあるが,極微粒(数ミクロンレベル)のビトリファイドボンド砥
石の使用例はない.
極微粒ビトリファイドボンド砥石を使用すると,目立て工程を要せずに鏡面研削が可能
であると考える.しかしながら従来の研削盤のようなミクロンレベルの分解能や回転精度
ではなく,実切込量が 0.1∼0.01m オーダーであることが必要で,それを可能にするだけ
の分解能と回転精度を持つ研削盤が必要である.
1-3-2
切れ刃トランケーションによる鏡面研削
切れ刃トランケーション(cutting-edge truncation)とは砥石表面を平滑化する方法で,
表面創成に関わる有効切れ刃面積を増やし,かつ砥粒の先端形状を平滑化する 1-4).切れ刃
トランケーションのモデル図を Fig.1-5 に示す.通常,大きな砥粒径では小さな砥粒径より
も有効切れ刃面積が小さいので表面粗さが大きいが,切れ刃トランケーションを行うと有
7
第1章
緒
言
効切れ刃の面積を増やすことでき,砥粒が平滑化されので,大きな砥粒径でも鏡面が得る
ことができる.大きい砥粒径で小さい粗さを得ることができるため,高能率と高精度の両
立が容易である.
Fig.1-5 Model of cutting edge truncation1-4)
例えば,砥石一回転当りに除去する体積がチップポケットの体積より大きいと目づまり
が起こるため,チップポケットの体積を大きくとれる大きい砥粒径は高能率を得ることが
できる.砥石表面積あたりの有効切れ刃面積が同じでも,砥粒径が大きいとチップポケッ
トの砥石径方向の大きさが大きくなり,チップポケットの体積が大きくなることがわかる.
そのため,大きい砥粒径では通常のドレッシングで高能率,切れ刃トランケーションドレ
ッシングで高精度を得るといったように同じ砥石で用途に応じて使い分けや,高能率研削
と鏡面研削のような高精度加工の両立が容易である. 一方で,微粒研削は砥石径方向のチ
ップポケットが小さいために, 高能率と高精度の両立が困難である.
切れ刃トランケーションを行う方法には特別なドレッサや設備,砥石を必要とするもの
がある 1-4)1-5)1-6).例えば,微粒ドレッサを用いた方法や砥石を方法がある.これらの方法
は粗研削工程と仕上研削工程を行う際には,それぞれに適した装置を備えなければならず,
複合化するためには機械構造が複雑になってしまう.
切れ刃トランケーションのための装置を有せず複合化を実施する方法として,ドレッシ
ングリードを小さくすることで切れ刃トランケーションする方法が考えられている 1-7).し
かしながら,脆性材料である砥粒は,通常の切込量では脆性モードでドレッシングされる
ので十分な砥粒平滑化ができないことが考えられる.そのため,超音波振動を用いた方法
や摩耗をさせて延性モードを実施した例がある.著者は脆性材料工作物の研削のために,
8
第1章
緒
言
切込量を小さくして延性モード研削を行うことができたのと同じように,微小切込による
延性モードドレッシングを考えた.
脆性材料の典型であるガラスの切込深さによる加工モードの変遷を Fig.1-6 に示す
1-8).
Fig.1-6 は工作物をわずかに傾斜させて設置し,単粒による切削加工痕を上面から見た写真
とそのプロファイルを示している.切込量が十分に小さいと弾性変形を起こし,切込量が
大きくしていくと加工部のみが除去される延性モードで加工され,さらに大きくなると加
工部の周辺まで除去される脆性モードで加工されている.この加工と同じように砥粒を小
さい切込でドレッシングすることで,延性モードドレッシングが行えるのではないかと考
えられる.
また,切れ刃トランケーションは砥粒切れ刃密度を大きくすることができるので,その
砥石で加工することによって加工面粗さを小さい鏡面が得られるとともに,バニシ作用に
よる高い圧縮残留応力が得られることがわかっている.しかしながら,砥粒径が小さくな
ると砥粒径の大きいものより多くの砥粒数を持つので,同一のドレッシング条件でも小さ
い砥粒径の砥石が小さい粗さを得られることが知られており,切れ刃トランケーションの
効果が異なることが考えられる.
Fig.1-6 Ductile regime machining of optical glass1-8)
9
第1章
1-4
緒
言
摺動部品に及ぼす表面品位の影響
摺動部品の典型である転がり軸受の機能に及ぼす軸受鋼の表面品位は Table1-1 に示すよ
うに材料,表面粗さ,微細構造,残留応力などがある.
Table 1-1 Surface integrity
Surface integrity
Material
Texture
Crystal grain
Variable parameter
Material
Mechanical property
Transformation
Mechanical property
Roughness
Film thickness, frictional resistance
Structural pattern
Film thickness, frictional resistance
Grain size
Yield point, hardness
Crystal lattice distance
Residual stress
Crystal orientation
Orientation of mechanical property
摺動部品は 2 面間で接触するので,材料が重要なことは明らかである.同じ材料でも組
織が異なれば機械的性質が変化する.
表面粗さは弾性流体潤滑(Elasto-hydrodynamic Lubrication:EHL)理論において重要
な油膜パラメータに影響する 1-9).摺動面の間には油・グリースを入れて使用され,油膜が
形成される.そのときの油膜厚さと表面粗さの関係を模式的に表すと Fig.1-7 のようになる.
油膜厚さが同じでも,表面粗さが小さいと 2 面が完全に分離されるが,表面粗さが大きい
と表面突起間で接触する.接触すると潤滑の効果,表面の損傷に関して劣ることは明らか
である.
そこで,EHL の研究・応用面では油膜厚さを接触する表面粗さで割った値である油膜パ
ラメータ(Λ)を用いて評価される.その油膜パラメータと油膜形成の関係は Fig.1-8 のよ
うに,油膜パラメータが大きいと長寿命になり,小さいと短寿命になる.つまり,表面粗
さが小さいと油膜パラメータを大きくでき,長寿命領域で使用が容易になる.
Fig.1-7
Oil film and surface roughness1-9)
10
第1章
緒
言
Fig.1-8 Effect of oil film on bearing performance1-9)
転がり寿命の疲労寿命を予知して,残存寿命を調べるために X 線装置が用いられる.X
線装置によって軌道面の残留応力,回折線半価幅,残留オーステナイト量の変化を測定し
て,それらと転がり寿命の関係は Fig.1-9 になる.転がり疲労が進行すると,残留オーステ
ナイト量が減少し,残留応力は圧縮残留応力が増加し,回折線半価幅が減少する.これは
転がりによる応力で残留オーステナイトがマルテンサイト変態することで,密度差から圧
縮残留応力になり,半価幅が減少する.
Fig.1-9 Change in X-ray measurements1-9)
このような関係を用いて,転がり疲労の進行状況を示す疲労度インデックスが考えられ
ている.疲労度インデックスは次式で求めることができる 1-10).
11
第1章
b  B  RA
緒
言
[1-1]
ここで b は疲労度インデックス,⊿B は半価幅減少量,⊿RA は残留オーステナイト減少量,
αは疲労度による材料定数である.
転がり寿命は軌道面の X 線装置による測定で調べることができるが,油膜パラメータに
よって疲労の仕方が異なることが知られている.
油膜パラメータが大きく,転がり接触点に十分な厚さの油膜が形成されていると,転が
りの方向の前方では圧縮,後方では引張が生じるため,せん断応力が生じる.転がり接触
によって,せん断応力は表面下のある深さで最大値を示し,破損の起点となる最初のクラ
ックが内部に発生する.このような内部疲労によって軌道面が破損する場合の疲労度と表
面深さの関係の例を Fig.1-10 に示す.
一方で,油膜形成が不充分な潤滑状態では表面の疲労度が上昇し,内部疲労が大きく現
れる前に破損する.そのときの疲労度と表面深さの関係の例を Fig.1-11 に示す.この表面
疲労の原因は潤滑状態の不充分ばかりか摺動面への異物混入もある.当然,表面疲労によ
る軸受の破損は内部疲労による破損より先に生じる.
Fig.1-10 Progress of sub-surface fatigue1-9)
Fig.1-11 Progress of surface fatigue1-9)
微細構造は Fig.1-12 のように濡れ性が変化することが知られており,油膜厚さに影響を
及ぼすことが容易に推察される 1-11).また,摺動部品においては油たまりになって潤滑不足
12
第1章
緒
言
になりにくいプラトー構造や接触面積を減らすことで起動トルクを減少させるディンプル
構造などが考えられている.
Wenzel 状態
Cassie-Baxter 状態
Fig.1-12 Wettability by difference of micro structure
前述したように,転がり接触によるせん断応力は表面下のある深さで最大値を示す.こ
のとき転がり方向の微細な凹凸によって,せん断応力の最大値とその深さが変化するため,
転がり方向の微細構造も重要である.
同じ材料,結晶組織でも部品特性が異なることがある.結晶粒径が小さいと Hall-Petch
の法則から降伏点や硬さが変化する.結晶格子間隔が短くなると圧縮残留応力,長くなる
と引張残留応力が発生することで,疲労強度が変わる.また,機械的性質は結晶方位によ
って異なることが知られている.結晶方位が揃うとマクロで考えてランダムだとして等方
性であった機械的性質が,方向性を有するようになる.
結晶の変化でよく知られているのは残留応力である.結晶格子間隔で残留応力は発生す
る.残留応力と寿命との関係を Fig.1-13 に示す.マイクロクラックが入ったときに引張残
留応力はクラックを開こうとする方向に作用するので,寿命が短くなる,一方で,圧縮残
留応力はそのクラックを閉じようとする方向に働き,寿命が短くなる.
Fig.1-13 Effect of residual stress on bearing life
しかしながら,Fig.1-9 のように圧縮残留応力の発生が残留オーステナイト量の減少であ
る場合は,転がり寿命は短くなる.
13
第1章
1-5
緒
言
表面品位の改質メカニズムとその方法
近年,表面品位の改質が注目を浴びている.その理由として構造強度は母材で,表面機
能は改質されて働くので適材適所の選定が可能,部品の一部にのみ機能を付与するのでコ
ストが減るなどのためである.鋼材の表面品位改質の例を述べる.
材料を変化させる方法として,2 つある.新たな材質を持ち込んで表面改質する方法とし
てコーティングのように新たな材料だけで構成する場合や工具や雰囲気と加工表面を化学
的に変化させる方法である.また外から持ち込まず,組織を変態させて異なる組織にする
ことで機能を変更させる方法も考えられている.例えば,加工熱で熱処理を試みた研究も
ある.これらの材料を変更する場合は機械的性質を全般的に変える.
表面粗さは工法や加工条件で変化することは広く知られており,また微細構造も Fig.1-14
に示すように工法によって異なる.研削は多刃の工具のため工具軌跡はトロコイド曲線の
重ね合わせで,一方で切削加工は 1 つの刃による加工のため工具軌跡は直線になる.さら
に超仕上げは固定砥石による加工なので,切削の工具軌跡と同様に工具軌跡が直線になる.
このように微細構造が異なることで表面機能に影響を及ぼす可能性が示唆されている 1-12).
Grinding
Turning
Processing model
Micro structure in
rotation direction
Micro structure in
width direction
Fig.1-14 Micro structure by various processing
14
Super finish
第1章
緒
言
意図的に微細構造を作ることで表面機能を改質した例として,超精密マイクロ切削によ
って Cassie-Baxter 状態の撥水性構造を作った研究
1-11)やフェイトム秒レーザによってリ
ングオンディスクの平行すべり面の油膜厚さを安定させる周期構造を作った研究
1-13)があ
る.
結晶の改質方法として,強加工が知られている.強加工の例として塑性変形やショット
ピーニング,バニシ加工などがある.強加工の結果,結晶が分断されることで結晶粒径が
小さくなったり,塑性変形によって変形しやすい方向に結晶方向が揃ったり,結晶格子間
隔を変えて残留応力を生じさせたりする.
ショットピーニングは高圧空気や羽根車の遠心力でミクロンからミリオーダーの粒子を
噴射・投射して加工する表面を叩き,鍛錬する加工方法である.叩きつけられた表面では
微細な塑性変形が起こって結晶を分断して加工硬化や圧縮残留応力を生成する.多くの場
合,加工面に対して直行方向に叩きつけられて表面上では方向性を持たない.投射角度や
粒子径を変えること表面品位の改質効果に差異が生じる 1-14).
バニシ加工はローラを金属表面に圧縮回転接触させ,金属層に微細な塑性変形を生じさ
せて結晶を分断して加工硬化させ,さらに圧縮残留応力を生じさせる方法である.
これらの方法は成形された後に行われるため,工程数が増える.そこで成形工程と同時
に表面改質工程を行う方法も考えられている.新たな製造工程を追加せずに,組織や残留
応力を変えて部品機能を高める方法として切削の冷却液や工具形状,さらには切削条件の
変更で考えられてきている 1-15).工具の送り方向が塑性変形に関与するため,加工面の表面
機能には方向性を有する.また工法によって表面品位の違いが異なり,機能に影響を及ぼ
すことが知られている 1-16).同一工法による表面品位への影響を調べた例として,研削でも
砥材の変更で残留応力を変化させて,機能を向上させた研究
1-16)もあり,研削加工の範囲
内でも組織や残留応力を変化させられる.
以上のように,加工方法,加工条件によって残留応力が変化するが,その発生メカニズ
ムに注意しなければならない.残留応力の発生メカニズムの模式図を Fig.1-15 に示す.加
工熱によって表面のみが熱膨張し,その状態で表面が加工されると,加工後に加工熱が冷
却される際に熱膨張していた加工表面が収縮しようとする.しかしながら,内部拘束され
るために十分に収縮することができないので,表面金属組織の結晶格子間隔が広くなって
おり,引張の残留応力が発生する.一方で,表面を押しつぶす作用が働くと内部拘束され
ているので表面のみが押しつぶされて体積が減少する.すなわち表面金属組織の結晶格子
間隔が狭くなり,圧縮の残留応力が発生する.このように加工中に別々の改質メカニズム
が作用すると,Fig.1-16 で示したように両方の影響を受けて改質されることがある.
15
第1章
Fig. 1-15 Influence of processing on residual stress
Fig. 1-16 Influence of processing on residual stress
16
緒
言
第1章
1-6
緒
言
本論文の目的
摺動部品の典型である転がり軸受は長寿命化のため細かい粗さが必要である.そのため
転がり軸受の製造方法は研削工程後に超仕上げが行われる.超仕上げは専用機が必要で,
加工中に自生作用で砥石の形状修正を行うため,少量の加工には不向きである.また加工
原理から複雑な溝形状の加工も難しい.そのため,超仕上げから鏡面研削加工への置き換
えによる工程集約が望まれている.
そこで鋼材の鏡面研削加工技術を調べると,微粒ホイールを用いた鏡面研削や切れ刃ト
ランケーションを行った粗粒ホイールの鏡面研削が開発されている.しかし,極微粒ビト
リファイドボンドホイールは,機械仕様や運動性能から砥粒径に対しドレッシング切込量
や研削時の切込量が大きくなってしまい,適正なドレッシングや研削を行うことができな
いため,使用されていない.また,切れ刃トランケーションを行う方法には特別なドレッ
サや設備,砥石を必要であり工程が複雑になる.
そこで,これらを解消するために,極微小切込ドレッシングを提案する.極微小切込ド
レッシングは極微粒ビトリファイドボンドホイールの使用を可能とし,脆性材料である砥
粒に延性モードドレッシングを行える可能性があり切れ刃トランケーションに適した方法
であるので,鏡面研削に有効な方法と考えられる.
ところで,切れ刃トランケーションは砥粒切れ刃密度を大きくすることができるので,
その砥石で加工することによって鏡面が得られるとともに,バニシ作用による高い圧縮残
留応力が得られることがわかっている.しかしながら,砥粒径が小さくなると砥粒径の大
きいものより多くの砥粒数を持つので,同一のドレッシング条件でも小さい砥粒径の砥石
が小さい粗さを得られることが知られており,切れ刃トランケーションの効果が異なるこ
とが考えられる.
以上により,軸受鋼の円筒プランジ鏡面研削を目的に極微小切込を可能とする超精密円
筒研削盤の開発を行い,砥粒径,ドレッシング切込量と研削性能の関係を調べるとともに,
鏡面研削による加工面品位と機能に及ぼす影響を調べることで,鏡面研削の適用の可能性
を探る.
17
第1章
1-7
緒
言
本論文の構成
本論文は以下の構成になっている.
第 1 章では,本研究の背景,鏡面研削の研究状況および研削加工が表面品位に及ぼす影
響,表面品位が転がり寿命に与える影響の研究状況を調べることで,目的を明確にした.
第 2 章では,極微粒,一般的な研削工程で用いられる粗粒に砥粒径を変更させるととも
に,ドレッシング切込量を変更して砥粒先端角を変更させることで,砥粒形状(砥粒径,
と竜先端角)が研削性能である加工面粗さ,研削抵抗,研削熱および砥粒切込深さに与え
る影響を解析的に調べる.
第 3 章では極微小切込ドレッシングを可能とする高分解能,高回転精度,高剛性を有す
る超精密研削盤の開発と加工条件の選定を行った.
第 4 章では開発した超精密円筒研削盤で,砥粒径を粗粒,極微粒ビトリファイドボンド
cBN ホイールにドレッシング切込量を変更して,砥粒平滑化の程度を変更することで砥粒
形状と研削性能である研削抵抗,表面粗さを調べる.
第 5 章ではその加工された表面の改質への作用とそのメカニズムを調べることで,軸受
機能に及ぼす影響を推測する.
第 6 章では砥加工条件が表面改質効果に及ぼす影響を調べる.
第 7 章では円筒プランジ鏡面研削が超仕上げ代替可能かをコスト比較することで,適用
可能な範囲を調べる.
第 8 章では,結論として本研究の成果を総括し,今後の課題について述べる.
18
第2章
極微小切込ドレッシングおよび
砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
第 2 章 極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
2-1
表面粗さにおよぼす影響
研削加工を行う目的の 1 つが表面粗さの向上である.表面粗さを向上させるために小径
の砥粒径を用いることがあるが,砥粒径と表面粗さの関係の定量化が困難で砥粒径の選定
が難しい.定量化が困難な理由として,砥粒そのものおよび砥石がバラツキを有している
ためあり,さらにはドレッシングなどの砥粒および砥石のコンディショニングでもバラツ
キを与えるために,砥石,砥粒先端の形状の定量化が困難だからである.そのため,表面
粗さを求めるのに幾何学的,統計学的な演算を求められる.
砥粒および砥石のコンディショニングついて考えると,同じドレッシング条件でも砥粒
径が変化すると,砥粒先端の形状が異なることが予想される.同じドレッシング条件でも
ドレッサと砥粒の衝突回数が異なりとともに砥粒径に対する切込量の大きさの割合が変化
するため,砥粒の形状生成過程への影響が異なる.例えば,延性モードでドレッシングさ
れるとその砥粒形状はドレッサとの幾何学で求めることができるが,脆性モードでドレッ
シングされると砥粒形状を統計学的に考えることが必要となる.
また,砥粒先端の形状によってその作用が異なることは,切削モデルから予想される.
加工力を受けた材料が延性,脆性などの様々なモードで加工される一方で,弾性変形や金
属組織の変化などが起こるために,理論的に求めるためには様々な入力パラメータとそれ
らを統計学的に扱わなければならないので,さらに演算が複雑になるだろう.
しかしながら,延性モードドレッシングを行われた 1 つの砥粒に 1 つの平滑な切れ刃と
三次元的な切れ刃バラツキもない状態はモデル化しやすく,その状態と通常状態の差異を
予測するには充分であると考えられる. また,加工作用を限定的にすることで,砥粒径と
表面粗さの関係を求めることができので,表面粗さの解析を試みる.
砥粒切れ刃は円錐形状で工作物の弾性がない塑性体として考え,小野は異なる砥粒切れ
刃が一様連続に分布する砥石モデルを仮定 2-1)し,以下の式を導いた.
R z  1.35u
1. 2
cot
0. 4
  v w
2  v s
1
1 

d w d s 
0. 4
[2-1]
織岡は確立論の考えを導入 2-2)して,表面粗さを検討し,さらに庄司はその理論から,砥
粒切れ刃先端が三次元的に一定の分布密度でランダムに分布しているとして,以下の式を
求めた 2-3).
0.4
R z  0.975n W0
0. 4
cot
0. 4
  v w
2  v s
1
1 

d w d s 
20
0. 4
[2-2]
第 2 章 極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
R z  kRa
[2-3]
ここで小野の式[2-1]は庄司の式[2-2]において n =1 に相当する.庄司の式では n はアボット
の負荷曲線から求めることができる.[2-1],[2-2],[2-3]の結果から用いて,算術平均粗さ
は


R a   W0 cot 
2

0.4
 dg
1.2
cot 0.4

[2-4]
2
と表すことができる.
後述する本論文で用いる様々な砥粒径,研削条件に基づき,解析のパラメータを Table2-1
に示し,そのときの砥粒先端角と表面粗さの関係を Fig.2-1 に示す.しかしながら,砥粒の
先端は大きな負のすくい角になっていることが知られており,0deg 付近は考えなくてよい.
砥粒径のみ変化するとき,表面粗さは砥粒径の 1.2 乗倍で変化する.砥粒先端角で表面粗さ
を変化させようとすると, 砥粒先端角が 170∼180deg で急激に表面粗さが向上する.
Table2-1 Parameters used in surface roughness analysis
Grinding method
Cylindrical plunge
#80 (212m)
Grain size d g
#230 (58m)
(Average grain diameter)
#3000 (5.7m)
Wheel size
φ60mm
Work size
φ60mm
Wheel speed
63.6m/s
Work speed
0.17m/s
Cutting feed vd
0.20 m/s
Random coefficient of grain
cutting edge distribution n
3.3
5
Proportionality coefficient k
21
第2章
極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
100
Surface roughness Ra m
#80( d g  212 m)
#230( d g  58 m)
10
1
0.1
0.01
#3000( d g  5.7 m)
0.001
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
Angle of grain top deg
Fig.2-1 Relationship between angle of grain cutting edge and roughness
次に,異なる 2 つの砥石が砥石 1(砥粒径 dg1,砥粒先端角θ1)と砥石 2(砥粒径 dg2,
砥粒先端角θ2)でその他の砥石仕様,研削条件が同じときに同じ表面粗さにしようとする
ときを考えると,砥粒径と砥粒先端角の関係は
 d g1

d
 g2

3
tan 1

2
 

2

tan
2
[2-5]
と表される.
本論文で用いた砥石を考えて,砥石 1 が#230,砥石 2 が#3000 とすると砥粒径の比はお
よそ 10 倍で,砥粒先端半角の正接の比はおよそ 1000 になる.つまり砥石 1 の#230 の砥粒
先端角θ1 は 180deg 近く,つまり十分に平滑化させると砥石 2 の#3000 と同等の表面粗さ
を得ることができる.逆に同程度の粗さが得られたとき,#230 は十分に砥粒平滑化(切れ
刃トランケーション)が行えたといえる.
22
第 2 章 極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
2-2
砥粒切れ刃間隔に及ぼす影響
砥粒切込深さは砥粒 1 粒の作用を予想するのに古くから使われているパラメータである.
砥粒 1 粒の作用として切削や単粒加工実験の結果を用いて,研削現象を統計的に理解する
のに用いられる.例えば力学,幾何学,熱力学のシミュレーションにより研削抵抗,表面
粗さ,研削熱の解析を容易にし研削結果と結びつけられている.とくに,砥石を高速化す
ることで砥粒切込深さを減少させ,砥粒 1 粒にかかる力を軽減することで高能率加工を容
易にした高速研削が 1990∼2000 年頃に多数調べられたことからも,その重要性は理解され
る.
しかしながら,砥粒切込深さを求めることは難しい.砥粒切込深さを求めるのに必要な
パラメータの砥粒切れ刃間隔は砥粒,砥石,コンディショニングのランダム性により,求
めるのが困難であるためである.
そのため,砥粒切れ刃間隔を求める測定方法として様々な研究
2-4) 2-5)
が行われている.
例えばアウトプロセスやインプロセスで調べる方法が考えられている.しかしながら連続
切れ刃間隔を充分に調べるに至っておらず,砥粒切込深さgは連続切れ刃間隔 a で割った
式として使用されることが多い.その式は等価砥石直径 1/De=1/dw+1/dsを用いて,以下
で表される.
v
g
2 w
a
vs

De
[2-6]
そこで砥粒切れ刃間隔を砥石スペックから解析的に求める.平均粒径から砥粒を球体と
して仮定し,砥粒 1 個あたりの体積を求める.
 dg
4
W0    
3
 2



3
[2-7]
集中度で表される砥粒体積率 c[Vol%]から,単位体積あたりの砥粒個数は
  W0 
c
100
[2-8]
なので,単位面積あたりの砥粒個数 C は 2/3 乗で求めることができる.
23
第 2 章 極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
2
2
3
1
C 
dg
2
 6c  3


 100 
[2-9]
単位面積あたりの砥粒面積は砥粒 1 粒あたりの作用面積と単位面積あたりの砥粒個数 C の
積で求められる.砥粒 1 粒あたりの作用面積は砥粒径の 2 乗と比例するので,単位面積あ
たりの砥粒面積は砥粒径によらないことがわかる.
次に M.C.Shaw らの理論 2-6)から砥粒切れ刃先端角θから砥粒作用幅 b’は
b'  2 g tan

[2-10]
2
であり,平均砥粒間隔λを用いて単位面積あたりの砥粒個数を表すと 1/λb’となるので,
1


Cb'
ただし
Ad g
2
[2-11]

2
3
gc tan
2
1
A
 6 
2

 100 
2/3
 7.00
となる.ここで平均砥粒間隔λが平均切れ刃間隔 a と等しいとして[2-6],[2-11]より,平均
砥粒間隔を消去して,
2A
g  dg
vw
vs

De
2
3

c tan
[2-12]
2
となる.すなわち,砥粒径に比例して砥粒切込深さが小さくなる.また,求められたgよ
り平均粒径間隔は[2-6],[2-12]より,
24
第2章
a  dg
極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
A
2
3
v
2c w
vs
[2-13]


tan
De
2
で表される.つまり,平均砥粒径,連続切れ刃間隔,砥粒切込深さのいずれの関係も比例
になる.
Fig.2-1 と同様に本論文で用いる様々な砥粒径,研削条件での,砥粒先端角と砥粒切込深
さの関係を Fig.2-2 に,砥粒先端角と連続切れ刃間隔の関係を Fig.2-3 に示す.前述した砥
粒径に比例して砥粒切込深さ,砥粒切れ刃間隔が小さくなっている.砥粒先端角が大きく
なると砥粒作用幅が増えるため砥粒切込深さ,連続切れ刃間隔が小さくなっていく.とく
に砥粒先端角が 170∼180deg で急激に砥粒切込深さ,連続切れ刃間隔が減少する.砥粒先
端角が大きくなったときの砥粒切込深さ,連続切れ刃間隔の減少割合は一定なので,大き
い砥粒径の場合の減少量が大きい.
10
Grain depth of cut
μm
#80( d g  212 m)
1
#230( d g  58 m)
0.1
0.01
#3000( d g  5.7 m)
0.001
0
20
40
60
80
100
Angle of grain top
120
140
160
deg
Fig.2- 2 Relationship between angle of grain top and grain depth of cut
25
180
第2章
極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
Successive cutting-point spacing mm
1000
#80( d g  212 m)
100
#230( d g  58 m)
10
1
#3000( d g  5.7 m)
0.1
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
Angle of grain top deg
Fig.2- 3 Relationship between angle of grain top and successive cutting-point spacing
また砥粒切込深さ g と表面粗さとの関係は [2-2],
[2-12]より vw/(vs√De) を消去して,
0.4
Rmax  0.875n d g
0.8
2
g 0.4 C 15 A 0.2 cot 0.2

2
[2-14]
となる.砥粒切込深さが小さいと,表面粗さは小さくなることがわかる.表面粗さへの影
響因子として砥粒径,砥粒切込深さ,単位面積あたりの砥粒個数の中では砥粒径が最も大
きい.砥粒先端角が 180deg 付近つまり十分平滑のときは,表面粗さの影響が大きい.つま
り砥石選定,ドレッシング条件選定で表面粗さがほとんど決まると言ってもよいだろう.
26
第 2 章 極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
2-3
研削抵抗に及ぼす影響
研削抵抗は加工面の出来栄えを推定するために重要なパラメータである.砥石の状態を
表して表面粗さや研削焼け・戻りの有無や寸法や形状のバラツキを考えることができる.
そこで研削抵抗と砥粒径の関係を G.Pahlitsh らの理論 2-7)から考える.
砥粒切れ刃を Fig2-4
のような円錐モデルで考える.
Ft
vs
Fn
Sa
Work
p
μ’p
g
θd
Fig.2-4 Model of cutting edge
実際の切削断面積 Sa は工作物の盛り上がりのために,未変形切りくず断面積は盛り上が
り係数 R を用いて,次式で表される.
2
S a  g tan

2
R
v w
jl g v s
[2-15]
切削中の砥粒切れ刃は円すい母面の全面側だけで工作物と接触し,面圧力pの作用点を含
む水平面内で工作物から摩擦力μ’pを受けると仮定すると,砥粒切れ刃に作用する切削方
向分力 ft,砥粒切れ刃に作用する法線分力 fn は,以下で表される.
2
f t  p g tan
fn 

2
2

2

p g tan 2
2

cos ec

2
' fn
[2-16]

[2-17]
2
したがって単位幅あたりの接線研削抵抗 Ft’と単位幅あたりの法線研削抵抗 Fn’は単位幅
27
第2章
極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
あたりの接触弧内における有効切れ刃数 jlg を[2-15],[2-16]に掛けたものなので,[2-14]よ
り
Ft '  Rp
vw  

1   ' sec 
vs 
2
[2-18]
 v  

Fn '  Rp w  tan
2
 2v s 
[2-19]
となる.つまり研削抵抗は砥粒径に依存しないことがわかる. このとき砥粒と工作物の動
摩擦係数μ’を 0.35 として, [2-18],[2-19]の両辺を Rpvw⊿/vs で割った値と砥粒先端角と
の関係は Fig.2-4 に示されるようになる.
しかしながら,砥粒径が小さい方の研削抵抗が高いことがしばしば経験される.これは
チップポケットが小さく切りくずがボンドに当りやすいこと,目づまりが起こりやすいこ
となどの直接の切削に関係のない要因や,砥粒の目立てを行いにくく先端角が非常に鈍く
なってしまうことなどの切削に関与する要因であることがわかる.
Ratio of grinding force
100
Ft ' Rp
10
Fn ' Rp
vw 
vs
vw 
vs
1
0.1
0.01
0
20
40
60
80
100
120
140
160
Angle of grain top deg
Fig.2- 4 Relationship between angle of grain top and ratio of grinding force
28
180
第 2 章 極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
研削抵抗比 Cg は砥粒先端角と砥粒と工作物の動摩擦係数μ’で求められる.

 tan
F '
2
Cg  n 

Ft '


2 sin   ' 
2


[2-20]
Fig.2-4 と同様に摩擦係数μ’を 0.35 として,砥粒先端角と研削抵抗比の関係は Fig.2-5 に
示される.砥粒先端が鈍く,砥粒先端角が大きくなると,研削抵抗比は大きくなっていく.
研削抵抗はほとんどの場合で,法線研削抵抗は接線研削抵抗よりも大きいので研削抵抗比
Cg は 1 以上の砥粒先端角で考えればよい.
Ratio of grinding force Cg
10
1
0.1
0.01
0
20
40
60
80
100
120
140
160
Angle of grain top deg
Fig.2- 5 Relationship between angle of grain top and ratio of grinding force
29
180
第 2 章 極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
また,研削抵抗と表面粗さの関係は[2-14],[2-18]から砥粒先端角θを消去して,
Rmax




0. 4
0.8
'


 0.875n d g g 0.4 C A 0.2 cot 0.2 cos 1

Ft ' v s

 1

Rpv w  
2
15
[2-21]
と表せる.すなわち,同一条件で接線研削抵抗が大きくなると砥粒先端角θが大きくなっ
ているので,表面粗さが小さくなる.この定性的な傾向は研削実験中によく経験される.
30
第2章
2-4
極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
研削熱に及ぼす影響
焼き入れ・焼戻しを行って適正な組織になっている工作物は研削熱で再焼き入れ,焼戻
し温度に達してしまうと変態が起こり,必要な機械的性質を損なってしまう.そこで砥粒
径と研削熱の関係を考える.
まず静的に考える.中山 2-8)は砥粒と工作物の接触している砥粒接触弧長さ lg 中で工作物
への入熱量を考えた.砥粒 1 粒から単位時間・単位幅あたりの工作物への入熱量 q w’とする
と,単位時間・単位幅あたりの工作物への入熱量 Qw’は
Qw '  q w 'l g / a
[2-22]
となる.砥粒 1 粒から単位時間・単位幅あたりの工作物への入熱量 q w’は砥粒 1 粒の単位幅
あたりの研削抵抗 Ft’/(lg/a)と工作物への入熱割合 Rw の積で表すことができるので,
Qw '  Rw  Ft '
[2-23]
と表せる.
中山はこの Rw を長谷川ら 2-9)の解析結果を用いて 0.5∼1.0 で解析を行っている.
したがって,極めて短い範囲である砥粒接触弧長さの範囲での研削熱は砥粒径に依存しな
いことがわかる.模式図で表すと Fig.2-6 のようになる.すなわち入熱する砥粒接触弧長さ
での作用砥粒個数が変わっても,砥粒 1 粒からの研削抵抗および砥粒 1 粒からの入熱量は
作用砥粒個数分の 1 になるので,入熱量は同じである.
Ft1
Ft2
Wheel
qw1
Work
qw1
・
qw1 ・ ・
qw2
Qw1
・
・ ・
Qw2
a) Small grain size
b) Large grain size
Fig.2-6 Heat flax at different grain size
31
qw2
第 2 章 極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
次に動的に研削熱を考える. J.C.Jaeger2-10)の移動熱源の理論が用いられることが多
い.しかしながら熱源である砥粒はある分布で配置されて移動するので,分布した熱源の
移動を考える複雑な解析になることが予測される.
ところで熱源の移動が高速のとき,前方と後方の熱源が相互に干渉しあうこと
2-11)が知
られている.前方と後方が干渉しあったときの表面温度上昇の最大値は前方の熱量と後方
の熱量の総和から得られる表面温度上昇を超えることはなく,熱源の移動速度が高速化し
ていくと,得られる表面温度上昇は前方の熱量と後方の熱量の総和から得られる表面温度
上昇に近付く.つまり,熱源の個数が増えても,熱源の移動速度が速いと,その総和熱量
から得られる表面温度上昇と同じである.1 つの砥粒からの流入熱量の小さい砥粒径が小さ
いときは,次の砥粒までの距離が短く,大きな砥粒径のときは次の砥粒までの距離が長い.
砥粒 1 粒からの工作物流入熱量は砥粒径が大きい方が大きいが,干渉の起こりやすさは砥
粒径が小さい方が起こりやすい.さらに幅方向まで考慮すると,砥粒径が小さい方が干渉
が起こりやすい.
本研究では 63.6m/s という高速で砥石を回転させており,分布した熱源が干渉しており,
砥粒径による差異が小さいものと考えられる.とくに今回用いる砥石で,十分に平滑化さ
れたときの砥石表面積における砥粒面積率は 2-2 から考えて 63%と高く,砥粒 1 粒による
工作物表面の温度上昇は次の砥粒 1 粒による工作物表面の温度上昇と干渉が起こりやすい.
すなわち,砥石が高速回転しているため,砥石表面積における砥粒面積率が高いため,砥
粒 1 粒からの流入熱量が均熱されて工作物へ流入しているものと考えられる.
以上より,静的にも動的に考えた場合でも砥粒径によって工作物への入熱量への影響は
ほとんどない.したがって,前章で述べた適切な機能を獲得するため,冷却は同程度の効
果で良い.
ただし,冷却による表面温度への影響は考えていない.例えば,砥粒 1 粒からの入熱量
は周辺のクーラントによって工作物から素早く吸熱すると動的な干渉による表面温度上昇
は砥粒径によって変化することや,小さい砥粒ではチップポケットが小さくなることによ
って加工点へのクーラント供給量が減少することなど,複雑になるので考えていない.ま
た,切りくずや工作物そのものが結合材との接触しての温度上昇などで接線研削抵抗が変
化するような非定常な切削状態も考慮していない.
32
第 2 章 極微小切込ドレッシングおよび砥粒径が研削性能に及ぼす影響の解析
2-5
まとめ
砥粒径状(砥粒径と砥粒先端角)と研削性能の関係について解析的に調べた.
砥粒形状を示す 2 つのパラメータが研削条件(砥石周速,工作物周速,切込量など)よ
りも表面粗さ,砥粒切込深さに大きく影響を与えるパラメータであることがわかった.と
くに砥粒先端角は十分に平滑化されると,大きくこれらに関与する.砥粒径が小さく,砥
粒先端角が大きくなると,砥粒切れ刃間隔が小さくなることで砥粒切込深さが小さく,表
面粗さが小さくなる.
研削抵抗には砥粒径は関与せず,砥粒先端角,研削条件に影響される.研削熱は接線研
削抵抗との比例になるので,砥粒径に関与しないことがわかった.
したがって,砥粒径を小さくすると研削抵抗,研削熱に影響せず,表面粗さを小さくで
きる.またドレッシングによって砥粒先端形角を大きく,つまり砥粒を平滑化すると,研
削抵抗と研削熱が上昇するが表面粗さを小さくできることが定量的に評価できた.
粗粒と極微粒での同じ粗さの鏡面を得るとき,表面粗さ以外の表面品位が異なる可能性
を示すことができた.粗粒の方が研削抵抗,研削熱が大きくなるので,加工前後での表面
粗さ以外の表面品位の変化が大きくなることが推測できる.
33
第3章
超精密円筒研削盤の開発
および実験条件
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
3-1
3-1-1
実験装置
超精密研削盤
極微小切込ドレッシングには切込量よりも大きな切込エラーを持っていては安定した結
果を得ることができない.そのため極微小切込はもちろんのこと,高い回転精度,高い剛
性を持つ研削盤が必要である.そこで,それらを有する超精密研削盤 の開発を行った 4-1).
P
P
その超精密研削盤の仕様をTable 3-1 に,外観写真をFig.3-1 に,図面をFig.3-2 に示す.
Table 3-1 Specification of the ultra precision cylindrical grinder
Grinder size
1700×1800mm
Wheel size
φ405×30
Wheel speed
∼3000rpm
Work speed
∼200rpm
Rotational accuracy of the backing shaft
0.015m
Rotational accuracy of the tail stock shaft
0.010m
Cutting resolution
0.005mφ/pulse (semi-closed)
Traverse resolution
0.005mφ/pulse (semi-closed)
Wheel backing
Center impeller
Work backing
Center impeller
Ultra precision cylindrical grinder
Control panel
Fig.3-1 Appearance of the ultra precision cylindrical grinder
35
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
Work-head shaft
Tail stock shaft
Cutting Table
Cutting base slide
Traverse Table
Wheel shaft
Fig.3-2 Layout drawing of the ultra precision cylindrical grinder4-1)
36
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
超精密研削盤は高分解能サーボを有して極微小切込を実現した.切込方向の剛性を向上
させるため工作物側を固定し砥石側がトラバースする構造とし,後方の切込基準スライド
はトラバーステーブルに追従して動き,研削点,切込送りねじ,切込基準スライドが一直
線上にくる構造としている.また,両持ち砥石スピンドルの使用等により,切込方向の静
剛性は砥石・チャック間で 100N/m とした.これは剛性起因の切込量の変化や不均一を防
ぐために十分である.工作物支持部は,工作物両端をスピンドルにより支持することでス
ピンドルの回転精度を基準に工作物を回転させながら加工を行う構造とした.各スピンド
ル・スライドには油静圧軸受を使用している.
超精密研削盤の静剛性,動剛性の測定結果を Table 3-2,Table 3-3,Table 3-4 に示す.
Table 3-2 Static stiffness in cutting direction(at 20kgf load)
Mesurment position
Amount of displacement[m]
Wheel
1.33
Wheel Husing on staitionary side
1.00
Wheel Husing on movable side
1.12
Work
1.45
Work-head shaft base
0.85
Face plate of work-head shaft
0.39
Front metal on work-head shaft
0.25
Tail-stock shaft base
0.46
Front metal on tail-stock shaft
0.22
37
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
Table 3-3 Mode shape of dynamic stiffness
Frequency [Hz]
150
236
Shaking test
in cutting
direction
272
602
772
908
mode
Vibration of cutting Table in cutting direction
Vibration of backing base for torsional of swivel base
and Table
Vibration of work for rotation of swivel Table
Vibration of tail stock base for torsional of swivel
Table and base
Vibration of Work-head chuck (or work-head base)
Shaking test
52
Traverse directon vibration of traverse Table
in traverse
110
Yawing between traverse and cutting Table
direction
260
Vibration of wheel (or wheel spindle)
400
Vibration of work-head base for swivel Table bending
835
1570
Vibration of wheel (or wheel spindle)
Table 3-4 Maximum peak of taransfer function
Maximum peak of taransfer
function[kgf/m]
Work-head head
0.16
Tail-stock head
0.13
Wheel head
0.12
38
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
超精密研削盤の構造から静圧軸受の平均化効果のために,加工された軸の真円度は加工
時にスピンドルに組み込まれた軸の真円度よりも良くなる.そこで Fig.3-3 のように,工作
物支持スピンドル用の軸を加工し,スピンドルの軸を新たに加工されたより精度の高い軸
に乗せ変えることによってスピンドルのラジアル回転精度が改善される.この手順で加工
と載せ替えを繰り返すことにより,スピンドルの回転精度を順次向上させていくことがで
き,それにより真円度精度の高い軸の加工が可能となる.
Fig. 3-3 Improvement of rotational accuracy of the work-head shaft
Fig.3-4 に本研削盤に搭載した軸の真円度と工作物支持軸の回転精度の関係を示す.主軸
スピンドルの回転精度は当初 0.115m だったものが,数回の載せ替えのあとに 0.015m へ
と向上した.また心押台は,乗せ替え後に 0.010m を達成した.
これらの工作物支持軸,心押軸を用いて軸の加工を行った.両持ち支持で加工した軸の
真円度は Fig.3-5 に示すように 0.042m だった.
39
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
Roundness of shaft 1.4m
Loading
Grinding
Roundness of shaft 0.68m
Loading
Roundness of shaft 0.19m
Grinding
Loading
Rotational accuracy
Rotational accuracy
Rotational accuracy
of work-head spindle
of work-head spindle
of work-head spindle
0.115m
0.054m
0.015m
Fig.3-4
Improvement of rotational accuracy of the work-head shaft
Fig.3-5 Roundness of finally ground work
40
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
3-1-2
研削ホイールおよびドレッサ
砥石に粗粒 cBN ビトリファイドホイール CB230N150V(ノリタケ製,以下#230 と呼ぶ)
,
超微粒 cBN ビトリファイドホイールの CB3000M150V(ノリタケ製,以下#3000 と呼ぶ)
を用いた.その外観写真を Fig.3-6 に示す.メタルのコア部にセグメント砥石が 33 等配で
貼り付けられている.またドレッサに SD 40 N (豊田バンモップス製)を用いた.通常,
砥石砥粒径よりも少し大きいドレッサ砥粒径が選定される.例えば,砥石#80 のときドレッ
サは#40 が選定される.しかしながら,様々な砥粒径の砥石を用いて同一条件でトラバース
ドレスを行うために大きい砥粒径のドレッサを用いた.
Fig.3-6 Appearance of grinding wheel
41
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
3-2
実験条件の検討
超精密円筒研削盤は恒温室に設置し,工作物支持スピンドルと砥石スピンドルで異なる
静圧油を温調機で温度を一定にして用いた.Fig.3-7 に示すように工作物とドレッサをひと
つの軸として工作物支持スピンドル軸,心押軸に両持ちの平面チャックで取り付けた.
予備ドレッシングを充分に行い,予備研削で工作物の取り付け時に生じてしまう偏芯を
取り除いた.その後,AE 信号の検出によってドレッシングの接触確認をしながら,ドレッ
シング総切込に達するまでドレッシング切込量でドレッシングを行った.研削実験は AE 信
号の検出による接触確認を行いながら, 50m 程度の研削を行った.ドレッサも初めの取
り付け時に偏心が生じたため,AE 信号の検出により全周で砥石と衝突するまで十分なドレ
ッシングを行った.
Temperature-controlled room
Wheel
Oil-conditioner
Coolant nozzle
AE sensor
Work
Dresser
Oil-conditioner Work-head shaft
Fig.3-7 Appearance of experimental setup
42
Tail stock shaft
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
3-2-1
ドレッシング条件
Table 3-5 にドレッシング条件を示す.工作物のチャッキングによる偏心を除去する予備
研削のためのドレッシング条件はドレッシング切込量 2.00m/pass とし,その他の条件は
同じで行った.
Table 3-5 Dressing conditions
Dresser
SD 40 N (φ88.8 × 1.1T)
Wheel
CB 230 N 150 V
Dresser speed
137rpm(Down-cut)
Wheel speed
3000rpm
Ratio of dressing
0.01
Dressing traverse speed
1.000mm/s
0.100mm/s
Dressing lead
0.02mm/rev
0.002mm/rev
Total dressing infeed
2.00m
Dressing infeed
0.01,0.05,0.10,0.50,2.00m/pass
ad
Fig.3-8 Model of dressing action
43
CB 3000 M 150 V
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
ドレッシング周速比は延性モードドレッシング狙いのため,ドレッシング進入角θ d を小
B
B
さくした.劉らの研究 3-2) でドレッシング進入角θ d は幾何学的に求められ,研削性能との
P
P
B
B
関係が調べられた.θ d が大きいとドレッサの砥粒切れ刃はホイール半径に近い方向に沿っ
B
B
てホイール砥粒と衝突する傾向にあり,θ d が小さいと砥粒の間に横方向の衝突が発生し,
B
B
横方向にせん断力が働く.ドレッシング進入角はFig.3-8 で示されたモデル図から,ドレス
周速比S(=v d /v s )を用いて,
B
B
B
B
cos d 
1  SA
[3-1]
1  S 2  2SA
ただし,
2
2
 ds  dd
 d  d 
 ad    s    d 

2
  2  2 
A  2
dsdd
2
[3-2]
である.
砥石径,ドレッサ径,砥石周速が決まっているので,様々なドレッサ周速でドレッシン
グ切込量とドレッシング進入角との関係はFig.3-9 のようになる.ドレッサ周速が速くなる
とドレッシング進入角は大きく,ドレッシング切込量が大きくなるとドレッシング進入角
は小さくなる.ここで,市田らの研究 3-3) で粗粒cBNビトリファイドホイールをドレッシン
P
P
グ進入角 0.007degでドレッシングして,切れ刃トランケーションを行うことができ良好な
結果が得られている.そこでドレッシング切込量が最大の 2.00m/passでドレッシング進
入角 0.007degと同程度になるように,また回転数比が整数倍にならないようにドレッサの
回転数 137rpm(ドレッサ周速 0.637m/s)とした.ドレッシング切込量が小さくなると,
ドレッシング進入角が小さくなるので,ドレッシング切込量 2.00m/pass以下ではドレッ
シング進入角 0.007deg以下である.
44
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
Angle of dressing approach θd deg
0.01
0.008
Dresser speed 200rpm
Dresser speed 140 rpm
0.006
0.004
0.002
Dresser speed 80 rpm
0
0
0.5
1
1.5
2
Dressing infeed ad m/pass
Fig.3-9 Relationship between dressing infeed and angle of dressing approach
ドレッシングリードは通常,砥粒径に対して 2∼3 回ドレッシングされるようにドレッシ
ングリードを設定した.#230(平均砥粒径 58m)はドレッシングリード 20m/rev,#3000
(平均砥粒径 5.7m)はドレッシングリード 2m/rev に設定した.
ドレッサのボンド部ではドレッサのダイヤモンドとホイールの砥粒の衝突が無く,切れ
刃トランケーションを行えない.特にドレッシング周速度比が小さくなるとホイール円周
上で切れ刃トランケーションが行われない距離が長くなってしまうことが懸念される.
そこでドレッサ側から見たリードを考えると,#230 のときのトラバースでも 353m/rev
で,ドレッサの#40 の平均砥粒径よりも小さい.したがって,十分なドレッシングでドレッ
サの砥粒が平滑化されると,ドレッサに偏芯があってドレッサの全周でドレッサの砥粒と
砥石の砥粒との衝突が起こらなくても,砥石全周にわたって少なくとも 1 回はドレッサ砥
粒と砥石の砥粒が衝突し,未ドレッシング部分は無いものと考えられる.
そのため,実際にはドレッサの取り付け時の偏芯を十分に取り除けなかったが,ドレッ
サ 1 回転中に 1/4 程度の AE 信号が検出されたところからドレッシングを開始した.実験は
連続的に行ったため,ドレッサ摩耗によって AE 信号の検出される時間の変化はほとんど無
く,摩耗による影響はないものとして問題ないと考えられる.
また砥石とドレッサの回転数比が整数比に付近になっていないことから,未ドレッシン
グ部分はないものと考えられる.
45
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
3-2-2
研削条件
転がり軸受の仕上研削を想定して研削条件を Table 3-6 のように決めた.工作物には
SUJ2 の焼入れ,焼戻し品を選定した.一般的な転がり軸受のほとんどがシューセンタレス
研削で製造されるため,ダウンカットの円筒プランジ研削にした.切込速度は仕上研削を
想定して,最大で 1.00m/s とする.工作物のチャッキングによる偏心を除去するための予
備研削の切込速度は本実験の最低速である 0.20m/s とし,その他の条件は同じにした.工
作物一回転あたりの切込量は 1.00m/s でも 0.176m/rev と平面研削よりも十分に小さい.
また研削熱の影響が大きいと,金属組織の変化や体積膨張による実切込量の変化,残留
応力の変化が考えられるため,十分に遅い速度にする必要があった.
Table 3-6 Grinding conditions
Grinding
Cylindrical plunge / down-cut
Wheel
CB 230 N 150 V
Work
SUJ2 φ60×t10mm (HRC63)
Wheel speed
3000rpm (63.6m/s)
Work speed
170rpm (0.534m/s)
Cutting feed
3-2-3
vc
CB 3000 M 150 V
0.20,0.50,1.00m/s
Time of spark-out
5.0sec
Coolant
Soluble (50 times diluted) 10 L/min
評価項目
評価項目として,接線研削抵抗,接線研削パラメータ,表面粗さ,砥石表面のネガティ
ブレプリカ,金属組織を調べた.
超精密研削盤の高回転精度,高剛性の観点から,法線研削抵抗の評価を行わない方が良
いと判断した.法線研削抵抗の測定方法として,渦電流式変位計や圧電素子 3-4) を用いてセ
P
P
ンタの弾性変形量を測定する方法が挙げられるが,弾性変形量測定を用いると充分に剛性
が高いと測定が困難で,低剛性にすると機械設計コンセプトに反する.測定のために圧電
素子などの測定器を工作物やチャック部に内蔵させると回転部分で質量や構造がアンバラ
ンスになるため高回転精度の維持が困難になる.そのため,砥石軸モータの消費動力より
接線研削抵抗を求めた.接線研削抵抗は砥石軸モータの正味消費動力Pと砥石周速を用いて,
Ft  P v s
[3-3]
46
第 3 章 超精密円筒研削盤の開発および実験条件
で表される.
さらに接線研削パラメータλ wt を評価に用いた.R.S.Hahnの理論 3-5) から,砥石軸モー
B
B
P
P
タ消費動力から算出される接線研削抵抗を用いて
w  Z ' F '
n
[3-4]
 wt  Z ' F '  C g  w
[3-5]
t
と表すことができる. ただし Z’は研削能率[mm 3 /mmsec],F t ’は接線研削抵抗[N/mm],
P
P
B
B
C g は研削抵抗比(=接線研削抵抗/法線研削抵抗)
,λ w は研削パラメータ[mm 3 /Nsec]である.
B
B
B
B
P
P
ここで[2-20]より研削抵抗比は砥粒先端角と動摩擦係数の関数であるため, 同一砥粒径,
ドレッシング切込量ではC g は一定の範囲である.そのC g においてλ wt はλ w に比例する値で
B
B
B
B
B
B
B
B
ある.λ w は単位時間,単位法線研削抵抗あたりの除去体積なので切れ味として考えること
B
B
ができるので,砥石切れ味評価に用いた.
表面粗さの測定を Form Taly-surf PGI830 で行い,砥石表面レプリカと金属組織の観察
を 3D-SEM(KEYENCE,VE-9800)で行った.また,金属組織(残留応力,残留オース
テナイト,半価幅)の測定を微小部 X 線応力測定装置(理学電気,AutoMATE)で行った.
47
第4章
極微小切込ドレッシングによる
円筒プランジ鏡面研削の研削性能
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
4-1
切込速度と研削性能の関係
粗粒ビトリファイドボンド cBN ホイール(#230)
,極微粒ビトリファイドボンド cBN ホ
イール(#3000)で様々なドレッシング切込量で研削を行い,切込速度と研削性能の関係を
調べた.特に極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイール(#3000)で砥粒径に対して切込
量が大きくなってしまうと,砥粒脱落をまねいて研削性能が悪化することが考えられる.
切込速度を変化させたときの接線研削抵抗の関係を Fig.4-1,接線研削パラメータの関係
を Fig.4-2,表面粗さの関係を Fig.4-3 にその代表的な結果を示す.#230,#3000 ともに切
込速度が速くなるほど,接線研削抵抗が大きくなる.特に#230 は 1 次関数的に上昇した.
切込速度は[2-18]における 1 回転あたりの切込量⊿に比例し,切込量⊿は接線研削抵抗に比
例するので,理論と一致している.ところが,#3000 は 1.0m/sで急激に上昇しており,
理論から外れている.また,接線研削パラメータは#230 では切込速度を速くすると高くな
ったが,#3000 の接線研削パラメータは切込速度を 0.20m/s から 0.50m/s まで速くする
と上昇し,1.00m/s では 0.20m/s のときの接線研削パラメータを下回り,切れ味が悪化
している.表面粗さの関係を見ると#230 は切込速度を速くしても粗さはほぼ一定なのに対
して,#3000 は切込速度を速くすると粗さが悪化している.
ここで[2-21]より,理論的には接線研削抵抗が上昇すると砥粒先端角が大きくなるので,
表面粗さが小さくなるはずである.しかしながら,#3000 で 1.00m/s では研削抵抗の上昇
と表面粗さの悪化が起こっており,2-3 の解析と一致しない.これは解析が砥粒の切削状態
が安定的な切削になっているときを考えており,工作物そのものや切りくずがチップポケ
ットに衝突して目づまりや自生発刃を促しているような状態を考えていないためである.
特に表面粗さが悪化していることから,砥粒が脱落している状態であると言える.また,
#3000 が 1.0m/s で接線研削抵抗が増加したが,#230 で起こっていないので,チップポケ
ットが小さいことが原因である.例えば切りくずや工作物が結合材との接触や,クーラン
トの供給量が減少して加工熱による砥粒の摩耗が促進されて砥粒平滑化が進行して研削抵
抗が増大して保持力を上回ったためだと考えられる.このとき砥粒の脱落の直接的な原因
として,切りくずや工作物が結合材と接触したことなのか,砥粒平滑化による接線抵抗が
増加したことなのかが不明であるが,いずれもチップポケットが小さいことが原因である
といえる.したがって,#3000 は 1.00m/s で砥粒の脱落が起こり,接線研削抵抗の大幅な
上昇はチップポケットの限界だった.同じように微粒では研削能率を上げると,砥粒脱落
によるホイール摩耗が早く進行するため表面粗さの悪化が早く起こる 4-1)が,極微粒ではよ
りセンシティブに起こる可能性がある.
極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイールを使用するには微小切込可能な設備が必要で
あることが確認された.
#230 はドレッシング切込量を 2.00m/pass から 0.05m/pass に小さくすると,研削抵抗
が大きく,接線研削パラメータが低くなり,粗さが向上した.極微粒ビトリファイドボン
49
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
ド cBN ホイールで 0.032mRa の粗さを有する鏡面を獲得できた.
Tangential force N/mm
0.8
#3000 ad=0.05m/pass
0.6
#230 ad=0.05m/pass
0.4
#230 ad=2.00m/pass
0.2
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
Cutting feed vc m/s
Fig.4-1 Relationship between cutting feed and tangential force
0.8
Tangential grinding parameter
mm3/(N・sec)
#230 ad=2.00m/pass
0.6
0.4
0.2
#230 ad=0.05m/pass
#3000 ad=0.05m/pass
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
Cutting feed vc m/s
1.0
1.2
Fig.4-2 Relationship between cutting feed and tangential grinding parameter
50
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
Surface roughness Ra m
0.2
#230 ad=2.00m/pass
0.15
#3000 ad=0.05m/pass
#230 ad=0.05m/pass
0.1
0.05
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
Cutting feed vc m/s
1.0
1.2
Fig.4-3 Relationship between cutting feed and surface roughness
51
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
4-2
ドレッシング切込量と研削性能の関係
#230,#3000 でのドレッシング切込量を変化させたときの接線研削抵抗の関係を Fig.4-4,
接線研削パラメータの関係を Fig.4-5,表面粗さの関係を Fig.4-6 にその代表的な結果を示
す.前述した 4-1 の結果から削時の切込速度 0.20m/s のときの結果を示す.
#230 はドレッシング切込量を小さくすると研削抵抗が大きく,接線研削パラメータが低
くなり,粗さが向上した. #3000 も同様にドレッシング切込量を小さくすると研削抵抗が
大きく,接線研削パラメータが低くなり,粗さが向上したが,その変化量は#230 よりも小
さくなった.
これらはドレッシング切込量を小さくすることで,ホイール表面における有効切れ刃面
積が増加,つまり切れ刃トランケーションを行うことができたため,ドレッシング切込量
を小さくすると接線研削抵抗が大きく,接線研削パラメータが低くなり,粗さが向上した
と考えられる.特に#230 で#3000 と同等の表面粗さが得られているので,Fig.2-1,[2-5]
から極微小切込ドレッシングによって#230 は切れ刃トランケーションが行えたといえる.
一方,もともと表面粗さが小さい#3000 では,切れ刃トランケーションによる研削性能へ
の影響は#230 よりも小さくなったと考えられる.[2-2],[2-20]よりドレッシング切込量が
小さくなると接線研削抵抗を増加,表面粗さを向上させていることから, 砥粒先端角が大
きくなっていることがいえる.
ドレッシング切込量 0.01m/pass のとき#230 で 0.036mRa の粗さを有する鏡面を獲得
できた.しかしながら, その表面粗さは#3000 のドレッシング切込量 0.50m/pass 以下の
ときより大きく,一方で接線研削抵抗は#3000 のいかなるドレッシング切込量のときより
も大きい.すなわち同じ粗さを得るときに砥粒径が小さい方の研削抵抗が小さくなり,第 2
章の解析結果と一致する.つまり研削熱にも違いが生じており,砥粒径が大きい方の工作
物温度が上昇しているものと考えられる.
52
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
Tangential grinding force N/mm
0.3
0.25
0.2
#230
0.15
#3000
0.1
0.05
0
0.01
0.1
1
Dressing infeed ad m/pass
10
Fig.4-4 Relationship between dressing infeed and tangential grinding force
Tangential grinding parameter
mm3/(N・sec)
0.6
0.5
0.4
#230
0.3
0.2
#3000
0.1
0
0.01
0.1
1
Dressing infeed ad m/pass
10
Fig.4-5 Relationship between dressing infeed and tangential grinding parameter
53
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
0.2
Surface roughness Ra μm
#230
0.15
0.1
#3000
0.05
0
0.01
0.1
Dressing infeed ad
1
μm/pass
10
Fig.4-6 Relationship between dressing infeed and surface roughness
54
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
4-3
加工表面および砥石表面の観察
それぞれの条件における研削性能を調べるために,加工面および砥石表面の観察を行っ
た.砥石の外径はφ405 と非常に大きいため,ネガティブレプリカ作製して,観察を行った.
4-3-1
加工表面
工作物の研削面を Fig.4-7 に示す.工作物の研削面写真からも,粗粒ビトリファイドボン
ド cBN ホイール#230 にドレッシング切込量 0.01m/pass でドレッシングして切込速度
0.20 m/s で研削した面および極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイール#3000 にドレッ
シング切込量 0.10m/pass でドレッシングして,切込速度 0.20m/s で研削した面が鏡面で
あることがわかる.
#230
ad=2.00m/pass
vc=0.20m/s
#230
ad=0.01m/pass
vc =0.20m/s
#3000
ad=0.10m/pass
vc =0.20m/s
Fig.4-7 Appearance of ground work
55
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
4-3-2
砥石表面のネガティブレプリカ観察
砥石表面のネガティブレプリカをアセチルセルロースで作製した.アセチルセルロース
をアセトンに数秒間浸し,それを砥石表面に貼り付けて十分にアセトンが揮発した後に剥
がし,砥石表面のネガティブレプリカを作製した.作製したネガティブレプリカにプラチ
ナを蒸着さて,3D-SEM(KEYENCE,VE-9800)による観察を行った.この方法は砥石
および砥粒の形状を見るのによく使用される 4-2).砥石表面を直接観察するために,一部を
取り外せるようにする方法 4-3)もあるが,砥石がアンバランスになって高回転精度を得られ
ない可能性が危惧されたので,本研究では用いなかった.
#230 の観察結果と表面粗さのプロファイル線を Fig.4-8 に,#3000 の結果を Fig.4-9 示す.
砥石表面はネガティブレプリカなので,黒く見える凹部は砥粒もしくは切れ刃を,白く見
える凸部はチップポケットを示している.
56
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
Photograph of negative replica
Surface profile
Chip pocket
Grain
#230
ad=2.00
4.0m
0.10mm
20m
#230
ad=0.50
4.0m
0.10mm
20m
#230
ad=0.10
4.0m
0.10mm
20m
#230
ad=0.05
4.0m
0.10mm
20m
#230
ad=0.01
4.0m
0.10mm
20m
Fig.4-8 The photograph of negative replica of dressed wheel surface and the ground
work surface profile at #230.
57
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
Photograph of negative replica
#3000
ad=2.00
Cutting edge
Surface profile
Chip pocket
4.0m
0.10mm
4.0m
#3000
ad=0.50
4.0m
0.10mm
4.0m
#3000
ad=0.10
4.0m
0.10mm
4.0m
#3000
ad=0.05
4.0m
0.10mm
4.0m
#3000
ad=0.01
4.0m
0.10mm
4.0m
Fig.4-9 The photograph of negative replica of dressed wheel surface and the ground
work surface profile at #3000.
58
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
#230 はドレッシング切込量が大きいときに砥粒先端に極端な凹凸があまり見られない滑
らかな面が見える.ドレッシング切込量が小さいときは砥粒先端とドレッサが何度も衝突
した跡が形成されていた.ドレッシング切込量が大きいときに砥石表面に対して平滑面に
なっているとすると,ドレッシング切込量が小さいときにも同じように砥石表面に対して
平滑面になるはずである.しかしながら観察面が異なるので,ドレッシング切込量が大き
いときは砥石表面において平滑面ではなく,砥石表面に対して傾斜した面が砥粒先端に形
成されていることになる.ドレッシング切込量が小さいときにもドレッシング切込量が大
きいときとドレッシング作用が同じだとすると,砥粒 1 粒に砥石表面に対して傾斜した面
が幾つも形成され,ドレッシング切込量が大きいときと比較して砥粒としては平滑な面に
なる.したがって,ドレッシング切込量が大きいときは砥石表面に対して傾斜した面が形
成され,鋭い切れ刃になっているのに対して,ドレッシング切込量が小さいときは凹凸が
重なり合って砥粒が平滑化された.すなわち Fig.4-10 に示すように,極微小切込ドレッシ
ングによって切れ刃トランケーションが行うことができたため,鈍い切れ刃によって接線
研削抵抗が高く,接線研削パラメータが小さくなり,加工面粗さが小さくなった.
Fig.4-10 Fracture pattern model by different dressing infeed at #230 grain size
#3000 はドレッシング切込量を小さくすると,黒く示される凹部の大きさが大きく,そ
の占める面積が増加している.特にドレッシング切込量が小さいときには,ドレッシング
切込量が大きいときの幾つかの凹部が繋がって,大きな 1 つの凹部になっている.平均砥
粒径を考えると,ドレッシング切込量が大きいときの凹部は切れ刃で,ドレッシング切込
量が小さいときの凹部は砥粒である.すなわち,ドレッシング切込量が大きいときには砥
粒における切れ刃がいくつかに分断されて切れ刃になっているのに対し,ドレッシング切
込量が小さいときには砥粒 1 粒が大きな 1 つの切れ刃を形成している.したがって,
Fig.4-11
示すように極微小切込ドレッシングによって切れ刃トランケーションが行うことができた
ため,切れ刃面積率が増加したことによって接線研削抵抗が高く,接線研削パラメータが
小さくなり,加工面粗さが小さくなった.
59
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
Fig.4-11 Fracture pattern model by different dressing infeed at #3000 grain size
以上より,ビトリファイドボンド cBN ホイールは単一ドレッサでドレッシング切込量を
変えることで切れ刃トランケーションを行うことができ,極微小切込ドレッシングによっ
てより平坦な砥粒を創成するが可能であることがわかった.
60
第 4 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の研削性能
4-4
まとめ
粗粒、極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイールで様々なドレッシング条件で切込速度
と研削性能の関係を調べ,極微粒ビトリファイド cBN ホールでは切込速度 1.00m/s で砥
粒に対して切込量が大きくなることで砥粒脱落が起こり,チップポケットの限界であるこ
とがわかった.
ドレッシング切込量と研削性能の関係を調べ,ドレッシング切込量が小さくなると,接
線研削抵抗が上昇し,表面粗さが向上し,#230 でも鏡面が得られる.これはドレッシング
切込量を小さくすることで,粗粒、極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイールとも砥粒先
端角が大きくなったためである.この結果は,砥粒先端角と接線研削抵抗,表面粗さの関
係を解析した傾向と一致する.
砥粒先端角の形成は粗粒ではドレッサと砥粒が衝突して凹凸が成形され,その凹凸が重
なって平滑化された砥粒が成形される.一方で,#3000 では分断されていた切れ刃がドレ
ッシング切込量が小さくなると,つながって大きな切れ刃を形成するとともに,切れ刃面
積が増加する.
以上より,粗粒、極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイールに極微小切込ドレッシング
を行うことで切れ刃トランケーション(砥粒平滑化)を行うことでき,その研削性能とし
て解析結果と傾向が一致した.
61
第5章
極微小切込ドレッシングによる
円筒プランジ鏡面研削が
金属組織に及ぼす影響
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
5-1
残留応力に及ぼす影響
粗粒,極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイールでドレッシング切込量を変化させた場
合,同程度の粗さにすると砥粒径によって接線研削抵抗が異なるため,表面粗さ以外の表
面品位に与える影響が異なることが予測される.とくに接線研削抵抗が変わるため,応力
による表面改質と加工熱による変質が考えられる.そこで,機能を示す表面品位として残
留応力について調べた.
5-1-1
ドレッシング切込量と残留応力の関係
ワーク円周方向の残留応力を微小部 X 線応力測定装置(理学電気,AutoMATE)を用い
て測定した.ドレッシング切込量とワーク表面の残留応力との関係を Fig.5-1 に示す.プラ
スは引張残留応力を示し,マイナスは圧縮残留応力を示す.
#230 ではどの条件でも高い圧縮残留応力が得られているものの,#3000 ではどの条件で
も残留応力がほとんどなかった.また,#230 ではドレッシング切込量を小さくすると,圧
縮残留応力は大きくなり,ドレッシング切込量が 0.01m/pass の際には-670MPa の残留応
力を得た.SUJ2 の降伏点が 1370MPa であることから,非常に高い圧縮残留応力が得られ
ていることがわかる.すなわち砥粒径が大きいときの切れ刃トランケーションの効果とし
て,砥粒先端が平滑化することで研削抵抗が大きくなり,表面粗さは小さくなるとともに,
表面を押しつぶすバニシ作用が増加することで圧縮残留応力を大きくすることができた.
一方で砥粒径が小さいときには残留応力がほとんどなかったことから,残留応力と表面粗
さが関係しないことがわかる.すなわち,鏡面研削方法によって得られる表面品位が異な
ることがわかった.
接線研削抵抗と残留応力の関係を Fig.5-2 に示す.#230 では接線研削抵抗が大きいとき,
圧縮残留応力が大きくなっている.一方で#3000 ではほとんど残留応力がなく,接線研削
抵抗は#230 のドレッシング切込量が大きく,接線研削抵抗が低いときと同程度である.つ
まり,残留応力の発生メカニズムは巨視的に考える接線研削抵抗や接線研削抵抗に比例す
る研削熱では説明できない.
63
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
200
Tension
#3000
Residual stress MPa
0
Compression
-200
-400
#230
-600
-800
0.01
0.1
Dressing infeed ad
1
m/pass
10
Fig.5-1 Relationship between dressing infeed and residual stress
200
#3000
Residual stress MPa
0
-200
#230
-400
-600
-800
0
1
2
3
4
Tangential grinding force N/mm
5
Fig.5-2 Relationship between tangential grinding forece and residual stress
64
6
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
ここで,工作物表面温度上昇を中山の解析結果
5-1)から検討する.中山は
S45C の高能
率研削を目指して,工作物温度解析を行っている.解析は切込速度 15m/rev のとき工作物
表面の最高温度上昇は 800℃程度になり,実験では研削焼けが生じており,解析結果が妥当
であることを示した.一方,本実験は仕上研削をターゲットに切込速度が十分に遅い低能
率研削で,切込速度は中山の条件の 1/430 で 0.2m/sec(0.035m/rev)と非常に小さい.
研削動力も 1110W/mm に対して,#230 のドレッシング切込量 2.00mm/pass のときは
2.56W/mm と非常に小さく 1/430 である.切込速度 0.2m/sec で最大接線研削抵抗となっ
た条件(#230 のドレッシング切込量 2.00mm/pass のとき)でも 16.0W/mm と高能率研削
と比べて小さい.このことから,工作物表面の温度上昇はせいぜい数∼数 10℃程度と非常
に小さく見積もることができる.
この解析では,砥石と工作物が接触弧長さ全長で接しているものとして算出され,砥粒
による流入熱量が均一化している状況を考えている.本来は砥粒が分布しているため,熱
源が分布した状態での熱伝達を考えなければならない.しかし,砥石周速は 63.6m/s と高
速であり,砥石表面積における砥粒面積率が 63%と高い.砥粒 1 粒が通過することによる
工作物表面の温度上昇は砥粒 1 個分も離れていない次の通過砥粒による工作物表面の温度
上昇と干渉し,その次の砥粒とも干渉が起こる.このように干渉を繰り返すので,工作物
の温度上昇は均熱されたものと考えられる.また砥石表面積における砥粒面積率が高いの
で,砥石と工作物が接触弧長さ全長で接して均熱されたときの工作物表面の温度上昇は数
∼10 数℃程度であるため,均熱が不十分でも砥粒 1 粒による工作物表面の温度上昇は大き
く見積もって 20℃程度である.この見積りは砥石表面積における砥粒面積率から考えてお
り,粗粒も極微粒も同じ集中度なので結果は同じになる.
以上より,残留応力の発生メカニズムは巨視的に考える接線研削抵抗や接線研削抵抗に
比例する研削熱では説明できず,砥粒径の違いが残留応力の発生に関与していることを考
えると砥粒 1 粒の作用を考えなければならない.砥粒 1 粒の作用として,研削抵抗と研削
熱があるが,砥粒 1 粒の研削熱による表面温度上昇も十分小さい.すなわち圧縮残留応力
の発生メカニズムとして,砥粒 1 粒の研削抵抗が関与していることが予想される.
次に,残留応力と表面からの深さとの関係を調べた.表面から電界研磨で所定の深さま
で除去し,その後に残留応力を円周方向に測定した.その結果を Fig.5-3 に示す.表面から
の深さが 0m は電界研磨する前の研削加工面である.#230 はいずれのドレッシング切込量
でも表層から約 20m の深さまで残留応力が入っており,表面から内部に進むにつれて徐々
に減少していた.表面から 20m 以上では残留応力がほとんどなかった.一方で,#3000
は研削加工面にも残留応力がなく,その内部のいずれの深さにも残留応力がほとんどなか
った.
また,大きな引張残留応力がないことから,いずれも研削熱による熱膨張がほとんど無
い.したがって,今回のクーラント流量では熱膨張を抑制するのに十分な量であったとい
65
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
える.
圧縮残留応力が付与されている深さは 1 回転当たりの切込量よりも大きく,通常の仕上
げ研削時の取代よりも十分に大きかった.
200
#3000 ad=0.01m/pass
Rresidual stress
MPa
0
-200
#230 ad=2.00m/pass
#230 ad=0.10m/pass
-400
#230 ad=0.01m/pass
-600
-800
0
20
40
60
Depth from work surface
80
m
Fig.5-3 Internal distribution of residual stress
66
100
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
5-1-2
砥粒押しつぶし体積
#230 でドレッシング切込量を小さくすると圧縮残留応力が増加し,#3000 ではドレッシ
ング切込量によらずほとんど残留応力がなかった.また,巨視的に考えた研削熱や研削抵
抗,砥粒 1 粒の研削熱は残留応力の発生メカニズムに関与しておらず,砥粒 1 粒の研削抵
抗の影響を考えなければならない.
そこで微視的に考えて砥粒径,形状とバニシ作用の関係を調べるため,Fig.5-4 に示す切
れ刃トランケーションを行い切れ刃先端が平滑化された単粒による平面研削の状態を考え
る.
Trajectory of trailing
Grain
cutting edge
Trajectory of leading
cutting edge
Wheel surface
gc
V c’
Work
ac
lg
Fig.5-4 The model of surface grinding by a flattened grain face
砥粒前方の切れ刃は十分にチップポケットがあるのに対して,砥粒後方の切れ刃は前方
の切れ刃の逃げ面により,チップポケットが小さくなる.チップポケットがほとんどなく
拘束された状態では切りくずが排出できずに押しつぶされ,弾性変形や塑性変形が起こる.
この押しつぶされる単位幅あたりの体積 Vc’ [mm2]は切込深さが十分に小さいので接触弧
長さ lg [mm]と砥粒押しつぶし深さ gc [mm]を用いて,
Vc '  l g  g c / 2
[5-1]
67
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
l g  d s
[5-2]
と表すことができる.砥粒押しつぶし深さ gc は砥粒切込深さと同様に考えられ,連続切れ
刃間隔の代わりに砥粒中の最大切れ刃間隔 ac[mm]と加工条件から求めることができる.
g c  2 ac
vs
vw

D
[5-3]
十分に平滑化された砥石における砥粒中の最大切れ刃間隔 ac の平均は砥粒径の平均で考え
ることができるので,平均押しつぶし体積は平均砥粒径と比例する.したがって,#230 の
押しつぶし体積は砥粒径の小さい#3000 よりも十分に大きいので,高い圧縮残留応力が発
生したと考えられる.また#230 でドレッシング切込量が小さくなると,砥粒が平滑化して
砥粒中の最大切れ刃間隔が大きく,押しつぶし体積が増えたことによって,圧縮残留応力
は大きくなったと考えられる.
68
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
5-2.
金属組織
微視的に考えた加工力の変化によって圧縮残留応力が生じている.そこで圧縮残留応力
の発生メカニズムを調べるために,また加工熱による金属組織の変化の有無を調べるため
に,腐食観察と X 線による組織解析を行った.
5-2-1
加工面の腐食観察
残留応力が最大となった#230 のドレス切込量 0.01m/pass と残留応力がほとんどなかっ
た#3000 のドレス切込量 0.01m/pass, またその中間の#230 のドレス切込量 2.00m/pass
の加工面表層の 2%ナイタル液腐食と結晶粒界を腐食したもののSEM 観察を行い,その結
果を Fig.5-5 に示す.
ナイタル液腐食の SEM 観察では,いずれも内部と表面の金属組織の相違は見られない.
焼入れ温度に達すると脱炭が起こり白く見える白層が発生するはずであるが,いずれも観
察されないため研削熱が焼入れ温度,焼戻り温度に達していなかったことがわかる.また,
塑性流動層も見られなかった.
ナイタル液腐食の SEM 観察で,残留応力が発生していた深さは加工された面から結晶粒
界が 1∼3 個目程度で,その粒界の大きさと内部の粒界の大きさで相違は見られず,研削加
工が結晶粒界の大きさに影響を及ぼしていなかった.
したがって,残留応力の発生メカニズムとして研削熱の影響による金属組織の変化や塑
性流動,結晶粒径の変化ではないことがわかった.
69
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
Nital etching
Etching of grain boundary
#230 ad=2.00
Grinding direction
5m
#230 ad=0.01
2m
2m
#3000 ad=0.01
5m
2m
5m
Fig.5-5 Photograph of etched cross section of work
70
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
5-2-2
X 線による組織解析
残留応力測定と同様に微小部 X 線応力測定装置を用いて,#230 の残留オーステナイト量
と半価幅の測定を行った.その結果をドレッシング切込量との関係として Fig.5-6 に示す.
また表面から 200m の深さの残留オーステナイト量と半価幅を測定し,Fig.5-2 で残留応
力がほとんど 0 であることから,その結果を初期状態として考える.そこで初期状態と考
えられる表面からの深さ 200m の残留オーステイと量と半価幅の減少量として Fig.5-7 に
示す.ドレッシング切込量を小さくすると,残留オーステナイト量も半価幅の減少量が大
きくなった.残留オーステナイト減少量がドレッシング切込量 2.00m/pass でマイナスに
なったのは,同一工作物における金属組織のばらつきの影響である.
24.5
7.5
7.4
23.5
7.3
7.2
Retained austenite
7.1
23
7
6.9
22.5
6.8
22
6.7
6.6
Half width
21.5
6.5
21
0.01
6.4
0.1
1
Dressing infeed ad
m/pass
Fig.5-6 Increase of retained austenite and half width by dressing infeed
(at #230 and vc=0.20m/s)
71
10
Half width deg
Retained austenite Vol%
24
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
1.4
Reduction of half width
3
1.2
2.5
1
2
1.5
0.8
1
0.6
Reduction of retained austenite
0.5
0.4
0
-0.5
0.01
Reduction of half vale width deg
Reduction of retained austenite
Vol%
3.5
0.2
0.1
1
10
Dressing infeed ad m/pass
Fig.5-7 Reduction of retained austenite and half width by dressing infeed
(at #230 and vc=0.20m/s)
ところで,1-4 で述べたように転がり接触において疲労が進行していくと圧縮残留応力が
大きくなり,残留オーステナイト量,半価幅が小さくなっていくことが知られている 5-2)5-3)
5-4).これは荷重を受けることによって,表面の残留オーステナイトがマルテンサイトに変
態(加工誘起マルテンサイト変態)し,オーステナイトとマルテンサイトの密度差によっ
て圧縮残留応力が生じているためである.また荷重が大きいと加工誘起マルテンサイト変
態が早く進行することが知られている 5-5)5-6).
したがって,研削加工における圧縮残留応力の発生も同じく加工誘起マルテンサイト変
態である.#230 でドレッシング切込量を小さくすると,砥粒が平滑化することで押しつぶ
し体積が増えることで研削抵抗が増加して,加工誘起マルテンサイト変態を進行させるた
め,圧縮残留応力が大きくなることがわかった.一方で,#3000 では砥粒 1 粒あたりの研
削抵抗が小さいので,加工誘起マルテンサイト変態の進行が遅く,残留応力がほとんど生
じなかった.
また,Fig.5-3 の#230 における残留応力と加工面からの深さの関係は Fig.1-11 の表面
起点の疲労度インデックスと表面からの深さの関係と類似している.つまり,#230 は転が
り軸受の表面疲労が進行している状況であるといえ,ドレッシング切込量が小さいと圧縮
残留応力が大きいので表面疲労がより進行している状況である.すなわち,少なくとも表
72
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
面疲労のときは粗粒よりも超微粒の方が寿命が長い.さらに,軸受の寿命において重大な
損傷となる剥離は,
Fig.5-8 のように表面疲労による表面起点のクラックが生じて起こる 5-7).
内部疲労の場合でも内部が疲労して内部損傷が起こった後に,表面での応力集中で表面疲
労が進行して,表面クラックが生じる.これらが繋がると剥離に至るので,表面疲労が進
行していない面の方が剥離にいたるまでの寿命が長くなる.つまり,表面疲労,内部疲労
のいずれにおいても,粗粒よりも極微粒の方が剥離に至る寿命が長いといえる.
したがって,研削加工での残留オーステナイト量の減少によって発生する圧縮残留応力
の発生は,表面疲労が進行している状態になっており,転がり軸受が大きく機能を損なう
剥離が早く進むので転がり軸受にとっては良くない.
Spalling
Surface crack
Surface crack
Internal crack
Fig.5-8 Mechanism of spalling on rolling surface
73
第 5 章 極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削が金属組織に及ぼす影響
5-3
まとめ
粗粒,極微粒 cBN ホールで,ドレッシング切込量と表面機能に関わる残留応力と金属組
織の関係を調べた.粗粒は圧縮残留応力を持ち,ドレッシング切込量が小さくなると圧縮
残留応力が増加した.一方で,極微粒はいずれのドレッシング切込量でも残留応力をほと
んど持たなかった.その大きさは表面から内部に向かって減少して、深さは 20m 程度だ
った.顕著な引張残留応力の発生が認められないことから,研削熱による熱膨張の影響は
ほとんど無かったといえる.
金属組織の観察から,残留応力の発生は研削焼けによる組織の変化や塑性流動,結晶粒
の大きさの変化ではなかった.
残留オーステナイト量と半価幅の変化から,転がり疲労と同様のメカニズムで残留応力
が発生していることがわかった.軸受鋼 SUJ2 における,残留応力と残留オーステナイト
量と半価幅の関係は転がり疲労でよく調べられており,転がり疲労が進行すると加工誘起
マルテンサイト変態が起こって圧縮残留応力が大きくなる.
すなわち,粗粒と極微粒による円筒プランジ鏡面研削では粗粒の方が圧縮残留応力が大
きいので,転がり疲労,とくに表面疲労が進行している状況であるといえる.粗粒で転が
り寿命が短く,極微粒で寿命が長くなる可能性を示すことができた.
74
第6章
極微小切込ドレッシングによる
円筒プランジ鏡面研削の加工条件が
加工面品位に及ぼす影響
第6章
6-1
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
ワーク回転方向と研削性能の関係
砥粒の大きさとドレッシング切込量を変えることによる砥粒の平滑さが研削性能,表面
品位に及ぼす影響を調べ,砥粒押しつぶし深さが大きく影響しているとことがわかった.
その砥粒押しつぶしの作用として,塑性変形と弾性変形が起こる.塑性変形が起こると
金属組織が流れる塑性流動が起こり,Fig.6-1 に示すように工作物と砥石の回転方向が反転
すると塑性流動の影響が異なることが考えられる.アップカットの場合,未加工面側に向
かって砥粒が通過するので,金属を未加工面に盛り上げるように塑性変形が起こる.しか
し盛り上げられた金属は次に通過する砥粒の前方で除去される.一方でダウンカットの場
合,加工面側に向かって砥粒が通過するので,加工面に押し込むように塑性変形が起こる.
すなわち塑性変形の影響があるとき,回転方向(ダウン/アップカット)が研削性能,表面
品位に及ぼす影響があることが考えられる.たとえスパークアウトで弾性変形の回復で切
込が入り除去されたとしても,除去した砥粒の後方で押しつぶしが起こる.
Fig. 6-1 Difference of plastic deformation by grinding direction
76
第6章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
そこで回転方向(ダウン/アップカット)が研削性能,表面品位に及ぼす影響を調べた.
実験条件を Table 6-1 に示す.砥石は#230 を用いて,ドレッシング切込量は残留応力が
0.05,0.50m/pass の 2 つで工作物回転方向をダウン/アップカットの 2 つで行った.工作
物回転方向をアップカットにすると,塑性変形の起こる方向から考えて残留応力が減少す
る可能性から#3000 は実施しなかった.
ただし第 5,6 章で用いたワークと熱処理ロットが異なるため,金属組織が異なっており,
接線研削抵抗,接線研削パラメータ,表面粗さにはわずかに影響を及ぼし,残留応力には
大きく影響を及ぼしているものと考えられる.そのため,第 4,5 章の結果と単純に比較で
きない.
Table 6-1 Experimental condition
Dressing condition
Dresser
SD 40 N (φ88.8 × 1.1T)
Wheel
CB 230 N 150 V
Dresser speed
137rpm(Down-cut)
Wheel speed
3000rpm
Ratio of dressing
0.01
Dressing traverse speed
1.000mm/s
Dressing lead
0.02mm/rev
Total dressing infeed
2.00m
Dressing infeed
0.05,0.50m/pass
Grinding condition
Grinding
Cylindrical plunge
Wheel
CB 230 N 150 V
Work
SUJ2 φ60×t10mm (HRC63)
Wheel speed
3000rpm
Work speed
±170rpm(+:down-cut,−:up-cut)
Cutting feed
0.20m/s
Time of spark-out
5.0sec
Coolant
Soluble (50 times diluted) 10 L/min
77
第6章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
切りくず排出方向(ダウン/アップカット)が接線研削抵抗,接線研削パラメータ,表面
粗さ,残留応力に及ぼす影響を調べた結果を Fig.6-2∼6-5 に示す.
いずれも,ワーク回転方向(ダウン/アップカット)による差異は無かった.すなわち,
切れ刃の通過によって微細な塑性変形は起こっておらず,後方の切れ刃は表面を弾性変形
させているのみの作用である.その際の応力で圧縮残留応力が発生しており,そのメカニ
ズムは加工誘起マルテンサイト変態,特に応力誘起マルテンサイト変態である.
ころがり疲労を考えると,ころがりにより繰返し荷重を受けて,残留オーステナイトが
減少し,圧縮残留応力が増加する.当然,塑性変形を起こしていないので応力誘起マルテ
ンサイト変態が起こっている.逆説的にころがり疲労するメカニズムとして,繰返し荷重
による応力誘起マルテンサイト変態であるといえる.
この結果は,金属組織写真 Fig.5-5 で塑性流動は見られないことを説明している.また,
研削加工において切込が徐々に増加していくと,初めは弾性域,次に塑性域,その次に切
削域,最後に脆性域になるが,塑性域がほとんど無い可能性が考えられる.
Tangential grinding force N/mm
0.8
0.7
0.6
Down-cut
0.5
Up-cut
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0.01
0.1
1
Dressing infeed ad
Fig.6-2
10
m/pass
Difference of tangential grinding force by relative grinding motion
78
第6章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
Tangential grinding parameter
mm3/(N・sec)
0.8
0.7
0.6
Down-cut
0.5
Up-cut
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0.01
0.1
1
Dressing infeed ad
Fig.6-3
10
m/pass
Difference of tangential grinding parameter by relative grinding motion
Surface roughness Ra m
0.2
Down-cut
Up-cut
0.15
0.1
0.05
0
0.01
0.1
1
Dressing infeed ad m/pass
Fig.6-4
Difference of surface roughness by relative grinding motion
79
10
第6章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
0
Residual stress MPa
-100
-200
-300
-400
Down-cut
-500
Up-cut
-600
-700
-800
0.01
0.1
1
Dressing infeed ad
Fig.6-5
m/pass
Difference of residual stress by relative grinding motion
80
10
第6章
6-2
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
砥石周速と研削性能の関係
工作物表面を微小に弾性変形させて,その応力で応力誘起マルテンサイト変態を引き起
こすことで,残留応力が変化することがわかった.その際に砥粒押しつぶし体積が関係す
ると推察した.この押しつぶしによる作用を受ける最大砥粒押しつぶし体積は砥粒切込深
さにおいて砥粒切れ刃間隔を砥粒中の砥粒切れ刃間隔とした砥粒押しつぶし深さと接触弧
の長さの積で考えられる.そこで,砥粒押しつぶし深さが研削条件により変化することで,
残留応力,金属組織が影響を受けることが考えられる.
ここで砥粒押しつぶし深さを変化させることは砥粒切込深さを変化させることと等しい.
この砥粒切込深さは第 2 章で述べたように,高能率研削の理論
P
6-1) 6-2)において重要なパラ
P
メータであり,砥石周速によって変化させることができる.そこで砥石回転数と研削性能,
表面品位の関係を調べた.
6-2-1
表面粗さ解析
砥石回転数を変化させると表面粗さが変化することが考えられる.[2-2],[2-3]より,
Table6-1 を用いて解析を行う.砥石回転数と幾何学的な理論粗さの関係は Fig.6-6 のように
なり,砥石回転数が早くなると,表面粗さが改善される.すなわち砥石の高速化を行うこ
とで,加工誘起マルテンサイト変態の抑制と表面粗さの改善の効果が得られることが考え
られる.
Table6-1 Parameters used in surface roughness analysis
Grinding method
Cylindrical plunge
Wheel(Average grain diameter)
#230 (58m)
Wheel size
φ405mm
Work size
φ60mm
Wheel speed
1500∼3500 rpm(31.8∼74.2m/s)
Work speed
0.17m/s
0.20 m/s
Cutting feed vc
Random coefficient of grain cutting
edge distribution
3.3
n
Proportionality coefficient k
5
Angle of top grain θ
178.5 deg
81
第6章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
Surface roughness Ra μm
0.07
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
Wheel speed rpm
Fig.6-6 Relationship between wheel speed and surface roughness
(calculated value)
6-2-2
研削性能および表面品位
実験条件を Table6-2 に示す.砥石の高速化はモータの限界で 3500rpm までしか行えな
いので,砥石回転数を低速化して定性的な傾向を調べることにした.ドレッシングの砥石
回転数は 3000rpm で行い,研削時の砥石回転数を変化させた.
工作物回転速度の変更は,工作物 1 回転あたりの切込量が変わって接触弧の長さが変化
すること,低速化すると移動熱源から考えると研削焼けを起こし易いこと,高速化は機械
仕様から難しいため,実施しなかった.
今回、用いた工作物は第 4,5 章で用いた工作物と熱処理ロットが異なるため,金属組織
が異なっており,接線研削抵抗,接線研削パラメータ,表面粗さにはわずかに影響を及ぼ
し,残留応力には大きく影響を及ぼしているものと考えられる.そのため,第 4,5 章の結
果と単純に比較できない.
82
第6章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
Table 6-2 Experimental condition
Dressing condition
Dresser
SD 40 N (φ88.8 × 1.1T)
Wheel
CB 230 N 150 V
Dresser speed
137rpm(down-cut)
Wheel speed
3000rpm
Ratio of dressing
0.01
Dressing traverse speed
1.000mm/s
Dressing lead
0.02mm/rev
Total dressing infeed
2.00m
Dressing infeed
0.05m/pass
Grinding condition
Grinding
Cylindrical plunge / down-cut
Wheel
CB 230 N 150 V
Work
SUJ2 φ60×t10mm (HRC63)
Wheel speed
1500,2000,2500,3000,3500rpm
Work speed
170rpm (0.534m/s)
Cutting feed
0.20m/s
Time of spark-out
5.0sec
Coolant
Soluble (50 times diluted) 10 L/min
砥石回転数が研削性能,表面品位に及ぼす影響を調べた結果を Fig.6-7∼6-11 に示す.
接線研削抵抗,接線研削パラメータ,表面粗さ,残留応力,残留オーステナイト量,半価
幅を調べた.
砥石回転数を早くすると,接線研削抵抗の減少,接線研削パラメータが上昇した.これ
は高速研削理論と一致する.また,砥石回転数を早くすると表面粗さが向上しており,幾
何学的粗さ計算式と一致する.
また,残留応力は低下,残留オーステナイトは増加,半価幅は増加しており,加工誘起
マルテンサイト変態が起こるのを抑制することで,転がり疲労の進行を抑制することがで
きた.
83
第6章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
Tangential grinding force N/mm
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
Wheel speed rpm
Fig.6-7 Relationship between wheel speed and tangential grinding force
Tangental grinding parameter
mm3/(N・sec)
0.18
0.16
0.14
0.12
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
1000
1500
2000
2500
3000
3500
Wheel speed rpm
Fig.6-8 Relationship between wheel speed and surface roughness
84
4000
第6章
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
Surface Roughness Ra μm
0.07
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0
1000
1500
2000
2500
Wheel speed
3000
3500
4000
rpm
Fig.6-9 Relationship between wheel speed and surface roughness
0
Residual stress MPa
-100
-200
-300
-400
-500
-600
-700
-800
1000
1500
2000
2500
Wheel speed
3000
3500
rpm
Fig.6-10 Relationship between wheel speed and residual stress
85
4000
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
16
6
14
5.9
Retained austenite
5.7
10
5.6
8
5.5
6
5.4
5.3
4
5.2
2
0
1000
deg
5.8
12
Half width
Retained austenite
Vol%
第6章
Half width
1500
2000
2500
5.1
3000
3500
5
4000
Wheel speed rpm
Fig.6-11 Relationship among wheel speed, retained austenite and half width
86
第6章
6-3
極微小切込ドレッシングによる円筒プランジ鏡面研削の加工条件が加工面品位に及ぼす影響
まとめ
研削加工における残留応力の発生メカニズムとそれに及ぼす影響因子を調べるため,研
削条件を変更させて研削性能と表面品位を調べた.残留応力の発生メカニズムは,金属の
微細表面おける弾性変形によって生じる応力による応力誘起マルテンサイト変態だった.
その影響因子は,砥粒押しつぶし深さであった.砥粒押しつぶし深さは砥粒切込深さと同
様に考えることができるので,砥石表面の状態(砥粒の先端角や有効切れ刃面積密度など)
が同じであるとき,砥粒切込深さを小さくすることを考えればよい.砥粒切込深さを小さ
くするため砥石を高速回転させることで研削能率を向上させることができる高速研削と同
じように,砥石を高速回転させることで,応力誘起マルテンサイト変態を抑えて,研削加
工における工作物への影響を小さくすることができる.また,砥石を高速回転させること
で表面粗さを改善することができる.
一つの目安として,#3000 では残留応力の変化の少ない加工面を達成しているので,#230
において今回用いた研削条件での砥粒切込深さから 1/10 の砥粒切込深さにすれば,工作物
への影響も#3000 のように極めて小さい加工面を達成しうるだろう.これを達成するため
には,砥石の高速化が必要である.また同時に切込が細かく動き,実切込量が細かいこと
が重要である.
高速研削の理論と合わせて考えると,高速化することで粗加工時に高能率化をでき,仕
上げ加工時には金属組織への影響を抑制して研削加工が行える.また,高圧縮残留応力面
が必要な場合は,研削加工中に砥石回転数を変更することで高能率化と両立できる可能性
があることを示すことができた.
87
第7章
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
第7章
7-1
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
円筒プランジ鏡面研削の加工コスト
円筒プランジ鏡面研削が超仕上げから置き換えるられる可能性を検討するために,極微
粒ビトリファイドボンド cBN ホイールと切れ刃トランケーションを行った粗粒ビトリファ
イドボンド cBN ホイールおよび超仕上げのコスト比較を行う.
工作物形状はアスペクト比が一定の工作物を考え,直径/幅が 6 の円筒工作物の円筒外面
を 10m 加工するときを考える.
7-1-1
工具費
今回使用した cBN 砥石は 329,500 円で砥石幅は 25mm,砥粒層は 6mm である.単位幅
当りのコストは 13,180 円/mm である.一方で超仕上げの砥石は複雑な溝形状を考えて,な
じませの容易な砥石である一般砥石とする.超仕上げ砥石 WA 3000 の単位体積当りの価格
は 0.18 円/mm3 とする.研削除去量を砥石損耗量で割った研削比は cBN の場合,通常 4∼5
桁の耐摩耗性を示す 7-1)が,極微粒を使用すると少しの摩耗で砥粒の突き出し量が切込深さ
を下回って砥粒脱落するため,研削比を通常よりも小さい 500 とする.超仕上げ除去体積
を砥石損耗体積で割った超仕上げ比は早乙女らの結果 7-2)と一般的な研削での研削比の中間
の 5 とし,超仕上げ砥石の使い代を 8mm とする.
研削加工を考える.
砥石幅は加工溝幅の 1.2 倍とする.溝幅よりも砥石幅を大きくすることで,砥石軸や工作
物,加工機の熱膨張によって溝中心がずれても,溝の全幅において除去できる.ドレッシ
ングは通常,精度の維持ができなくなったときに行われる.そのときの精度は粗さ,真円
度,形状や研削焼けの有無などである.今回は形状精度が厳しいことを想定し,砥石摩耗
量が 2.0m に達した際に行い,ドレッシングの総切込量は 4.0m でドレッシングを行うも
のとする.初期の振れ取りドレッシングで 0.2mm ドレッシングされるとすると,残り
5.8mmφが定常のドレッシングで除去され,定常ドレッシングできる回数は 1450 回である.
次に超仕上げ加工を考える.
砥石またぎ幅は溝径の 1/20 とする.超仕上げが定圧加工で,その圧力に限界があるため,
砥石幅は砥石の最大作用面積 1000mm2 まで溝幅と同じとし,それ以上は砥石作用面積が
1000mm2 となるようにする.つまりφ195mm までは砥石幅は溝幅と同じで,φ195mm よ
り大きいときは溝幅が減少する.砥石の使い代は 8mmで固定とする.
砥石交換までの加工数は工作物溝径φ195mm 以下まで一定で砥石作用面積は工作物溝
径の 2 乗と比例するので,工作物 1 個あたりの工具費も工作物溝径の 2 乗と比例する.ま
た,工作物溝径φ195mm より大きいとき,砥石交換までの加工数は砥石作用面積が一定な
ので,砥石交換までの加工数は工作物溝径の 2 乗と反比例し,工作物 1 個あたりの工具費
は工作物溝径の 2 乗と比例する.
89
第7章
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
上記の前提における工具費の計算結果を Fig.7-1 に示す.研削はドレッシングまでの加工
数が工作物の溝径に反比例して,砥石幅は工作物の溝径と比例するので,1 個あたりの工具
費は工作物の溝径の 2 次関数で増加した.超仕上げは研削と同様に 2 次関数で増加した.
研削の工具費が超仕上げの工具費よりも常に小さくなった.これは超仕上げ比が研削比
よりも小さいためであり,超仕上げ比が小さいのは超仕上げが自生発刃を促しながら加工
する方法であるためである.
すなわち,自生発刃を促して加工する超仕上げは研削よりも工具費が高くなってしまう.
50
Super finish
45
¥/piece
40
35
30
Tool cost
25
20
15
10
5
Mirror grinding
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
Work diameter mm
Fig.7-1 Relationship between work diameter and tool cost
7-1-2
労務費
労務費を考えるにあたり,それぞれの加工時間を考えなければならない.加工時間は工
作物 1 個あたりの次の時間の合計と考えられる.
①
実加工時間
②
砥石接触までの時間
③
ドレッシングや砥石なじませ時間
90
第7章
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
ところで,本論文で提案した極微小切込ドレッシングはトラバースドレッシングであり,
ドレッシングの時間が著しく長い.そこでトラバースドレッシングよりもドレッシングに
要する時間が短い総型ドレッサによるプランジドレッシングのコストも算出する.第 1 章
で述べた極微粒を用いたドレッサで切れ刃トランケーションが行えること 7-3)から,極微粒
の総型ドレッサでも切れ刃トランケーションが行えるものと考えられる.
①
実加工時間
実加工時間を考えると,
円筒プランジ鏡面研削では,
粗粒は第 4 章の結果から,
直径 60mm
の工作物を切込速度 1.0m/s で研削し,その加工時間は 10sec である.工作物径が変わっ
ても一定能率で加工すると考えると,工作物外周長と切込速度との積で表される研削能率 Z’
が一定となるので,加工時間は工作物直径と比例する.すなわち直径 400mm のときは
66.7sec となる.
極微粒は第 4 章の結果から,直径 60mmの工作物を切込速度 0.5m/s で研削でき,その
加工時間は 50sec である.粗粒と同様に工作物直径に比例するとして,直径 400mm のとき
は 133.3sec である.
超仕上げでは,工作物円周の 1/20 のまたぎ幅の砥石で加工し,砥石は加工機の最大面圧
になるまでプランジ超仕上げが行われ,加工機の最大面圧を超えると Fig.7-2 に示すように
トラバース超仕上げが行われるとする.そのときの単位砥石作用面積・単位時間当たりの除
2・sec)
去体積を 0.026mm3(mm
/
とすると,
直径 60mm のときは,6.4sec である.直径 400mm
のときはトラバース加工するので,178.1sec となる.
したがって,工作物直径が小さいと超仕上げの実加工時間の方が短く,工作物直径が大
きくなると砥石作用面積を一定にせざるを得ず,鏡面研削の実加工時間の方が短くなる.
鏡面研削において,極微粒の切込速度は粗粒の切込速度よりも遅くなってしまうので,粗
粒の方が実加工時間は短い.
②
砥石接触までの時間
砥石が工作物と接触するまで時間を考える.工作物が大きくなると搬送の時間は遅くな
る.鏡面研削においては砥石と工作物が接触するまでのエアカット時間が長くなる.この
ような状況を鑑みて,鏡面研削は砥石接触までの時間を実加工時間の半分とする.超仕上
げの場合も同様に実加工時間の半分とする.
③
ドレッシングや砥石なじませ時間
ドレッシングや砥石交換時間を考える.
鏡面研削のトラバースドレッシングの時間はトラバース距離,すなわち砥石幅に比例す
る.砥石幅は前述したように工作物幅に比例し,工作物はアスペクト比一定であるため,
工作物直径と比例する.また第 4 章のドレッシング条件でのドレッシングの時間を用いて
91
第7章
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
算出される.
プランジドレッシングは砥石径,ドレッサ直径が変化しないため通常,ドレッシング時
間は一定である.しかしながら,工作物直径が大きくなるとドレッシング幅が増えること
でドレッシング抵抗が増加し,砥石軸やドレッサ軸が弾性変形によって適正なドレッシン
グが行えなくなることがある.そこでプランジドレッシングのドレッシング時間も工作物
直径と比例するとし,工作物直径 60mm のとき 20sec になるように算出する.
鏡面研削における砥石交換時間は一律で 2 時間とし,振れ取りドレッシングの時間は工
作物径と比例するとする.
超仕上げの砥石なじませ時間を考える.直径 60mm のときの砥石なじませ時間を 600sec
として,鏡面研削と同様に工作物直径と比例するとする.
Small work width
Large work width
Mirror grinding
Super finish
Fig.7-2 Various models of mirror grinding and super finish
以上より,工作物 1 個あたりの加工時間が求まる.そこで工作物 1 個あたりの加工時間
を工作物 1 個あたりの労務費に換算する.工作機 5 台を 1 人で作業し,1 人あたりの労務費
を 6,000 円,稼働率を 0.85 とすると,Fig.7-3 で示す関係になる.
前述したように同一ドレッシング方法では極微粒の切込速度は粗粒の切込速度よりも遅
いので,粗粒の方が実加工時間は短くなっている.また,極微粒の総型ドレッサによるプ
ランジドレッシングはトラバースによる極微小切込ドレッシングよりもドレッシングに要
する時間が短くなるため,コストが低くなる.とくに工作物直径 240mm 以上では極微粒で
92
第7章
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
もトラバースドレッシングによる粗粒の鏡面研削よりも低くなった.
超仕上げは工作物直径が小さいときはコストが最も小さいが,工作物直径が大きくなっ
て加工機の最大面圧を超えるとトラバース加工になって加工時間が延びるため,コストが
急激に増加する.そのため工作物直径 600mm では粗粒のプランジドレッシング,極微粒の
プランジドレッシング,粗粒のトラバースドレッシング,超仕上げ,極微粒のトラバース
ドレッシングの順にコストが低くなった.
400
Super finish
Coarse-grained wheel
Ultrafine-grained wheel
300
with traverse dressing
Labar cost ¥/piece
with traverse dress
Ultrafine-grained wheel
with form dressing
200
100
Coarse-grained wheel with form dressing
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
Work diameter mm
Fig.7-3 Relationship between work diameter and labor cost
7-1-3
設備費
研削盤や超仕上げ盤は,工作物の寸法によって仕様が変わる.工作物直径が大きくなる
と加工力が大きくなるため,必要な機械剛性やモータ出力を大きくしなければならないた
めである.また,研削盤は砥石を高速回転させて高出力が必要なのに対して,超仕上げ盤
は比較的構造が簡単で研削盤よりも低い.このような状況を鑑みて,研削盤,超仕上げ盤
の設備価格を工作物直径あたりの設備価格として 100,000 円/mm,50,000 円/mm を用いる.
ただし,工作物直径 10mm のとき研削盤の価格は 1,000,000 円,超仕上げ盤の価格は
500,000 円となってしまうので,工作物直径 100mm 以下は研削盤,超仕上げ盤の設備価格
は一律で研削盤,超仕上げ盤の設備価格は 10,000,000 円, 5,000,000 円とする.工作物直
径 100mm のときの研削盤,超仕上げ盤の設備価格は 10,000,000 円, 5,000,000 円で,工
93
第7章
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
作物直径 800mm のときの研削盤,超仕上げ盤の設備価格は 80,000,000 円, 40,000,000
円である.この設備価格の算出結果がリーズナブルな値であることがわかる.研削盤の設
備価格は砥石やドレッシング方法によらず,共通とする.
設備の耐用年数を一般的な 10 年とし,年間の稼働日数を 200 日,1 日の稼働時間は 24
時間として,7-1-2 で算出された加工時間から工作物 1 個当りの設備費を算出する.工作物
直径と工作物 1 個当りの設備費の関係を Fig.7-4 に示す.
鏡面研削での工作物直径と工作物 1 個当りの設備費の関係は設備価格が同じで,Fig.7-3
の関係を用いて算出しているので,砥粒やドレッシング方法の違いによる関係は Fig.7-3 と
同じ傾向を示す.一方で超仕上げは設備価格が低いため,コストが最も小さくなる工作物
直径の範囲は Fig.7-3 よりも大きく 360mm なる.
400
Super finish
Coarse-grained wheel
Equipment cost ¥/piece
300
with traverse dressing
Ultrafine-grained wheel
Ultrafine-grained wheel
with traverse dress
with form dressing
200
100
Coarse-grained wheel with form dressing
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
Work diameter mm
Fig.7-4 Relationship between work diameter and equipment cost
7-1-4
加工コスト
工具費,労務費,設備費の計算結果をまとめて,加工コストを算出する.工作物直径と
工作物 1 個当りの加工コストを Fig.7-5 に示す.加工コストに対して工具費よりも労務費,
設備費が占める割合が高く,労務費と設備費には相関があるので,労務費と同じような傾
向となっている.超仕上げのコストが最も低くなる工作物直径の範囲は労務費と設備費の
間となる.
94
第7章
700
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
Super finish
600
Total cost ¥/piece
500
400
Ultrafine-grained wheel
Coarse-grained wheel
with traverse dress
with traverse dressing
Ultrafine-grained wheel
300
with form dressing
200
100
Coarse-grained wheel with form dressing
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
Work diameter mm
Fig.7-5 Relationship between work diameter and equipment cost
それぞれの工法による加工コストと加工コストに占める工具費,労務費,設備費の割合
を明確にして比較するために,
工作物直径 60mm,600mm のときの結果をそれぞれ Fig.7-6,
Fig.7-7 に示す.ただし,極微粒のトラバースドレッシングはコストが明らかに他と比較し
て高くなりすぎているので,割愛する.
工作物直径 60mm,600mm ではどの工法でも労務費が最も高くなっている.しかしなが
ら,工作物直径 600mm のときの加工コストに占める設備費の割合が高くなっている.これ
は労務費が加工機の耐用年数においては一定であるのに対して,工作物直径が大きくなる
と設備価格が上昇するためである.
鏡面研削において総型ドレッサによるプランジドレッシングでは工作物直径比と労務費
の比がほぼ同程度に対して,トラバースドレッシングは労務費が大幅に上昇している.こ
れは工作物 1 個あたりの加工時間に占めるドレッシング時間がプランジドレッシングは小
さいのに対して,トラバースドレッシングでは大きいためである.
95
第7章
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
16
Machining cost ¥/piece
14
1.7
12
10
Equipment
Labor
Tool
1.1
8
0.9
11.8
6
4
0.3
7.6
5.9
4.3
2
0.2
0
0.2
0.2
Coarse-grained wheel Coarse-grained wheel Ultrafine-grained wheel
with traverse dressing
with form dressing
with form dressing
0.3
Super finsh
Fig.7-6 Comparison of machining cost by machining method
at work diameter 60mm
500
Machining cost ¥/piece
400
206
Equipment
Labor
Tool
134
300
200
105
304
233
100
53
0
60
17
119
17
Coarse-grained wheel
with traverse dressing
17
Coarse-grained wheel Ultrafine-grained wheel
with form dressing
with form dressing
Fig.7-7 Comparison of machining cost by machining method
at work diameter 600mm
96
34
Super finsh
第7章
7-2
円筒プランジ鏡面研削の生産性の検討
まとめ
円筒プランジ鏡面研削が超仕上げに置き換わる可能性を検討するために,鏡面研削と超
仕上げの加工コスト比較を行った.工作物直径/工作物幅が 6 の円筒工作物において,工作
物直径と加工コストの関係を調べることで,以下のことがわかった.
(1) 工法によらず工作物直径が大きくなると設備価格が増加するので,加工コストに占
める設備費が増加する.
(2) 円筒プランジ鏡面研削の加工コストは粗粒のプランジドレッシング,極微粒のプラ
ンジドレッシング,粗粒のトラバースドレッシング,極微粒のトラバースドレッシ
ングの順に大きくなった.トラバースドレッシングはプランジドレッシングよりも
加工コストが高くなる.
(3) 残留応力のない鏡面を作るための極微粒による鏡面研削は,粗粒による鏡面研削よ
り加工コストが高くなるため,転がり寿命を延長する可能性のある加工面を有する
製品は販売価格を高くする必要性がある.
(4) 超仕上げは超仕上げ盤の最大面圧のためにトラバース加工になると,加工コストが
急激に上昇するので,工作物直径 240mm までは超仕上げの加工コストが最も低く
なり,工作物直径 680mm 以上では粗粒のプランジドレッシング,極微粒のプラン
ジドレッシング,粗粒のトラバースドレッシング,超仕上げ,極微粒のトラバース
ドレッシングの順にコストが低くなる.
単能機による連続生産による加工コスト比較で超仕上げから鏡面研削への置き換えが可
能な工作物寸法があることがわかった.
複合加工機による粗・仕上げの連続加工や,少量生産など考えると,鏡面研削への置き
換えの範囲が広がることが予測される.また,少量生産においてドレッサ価格を含めてコ
スト比較をするとトラバースドレッシングと総型ドレッサによるプランジドレッシングの
加工コストが変わる可能性も考えられる.
97
第8章
結
言
第8章 結 言
8-1
研究のまとめ
本研究では,摺動部品の典型である転がり軸受の円筒プランジ鏡面研削を目的に,新し
いドレッシング方法である極微小切込ドレッシングを提案し,超仕上げからの置き換えの
可能性を検討した.極微小切込ドレッシングによって粗粒ビトリファイドボンド cBN ホイ
ール,極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイールで鏡面を得られた.しかいながら,粗粒
ビトリファイドボンド cBN ホイールは表面疲労が進行しており,極微粒ビトリファイドボ
ンド cBN ホイールでは疲労の進行が無い加工面になっており,機能に及ぼす影響が異なる
ことがわかった.加工コストから工作物寸法が大きいときに超仕上げからの置き換えが可
能であることがわかった.
2 章では,砥粒径状(砥粒径と砥粒先端角)と研削性能の関係について解析的に調べた.
砥粒形状を示す 2 つのパラメータは表面粗さに大きく影響を与えるパラメータである.
とくに砥粒先端角は十分に平滑化されると,表面粗さを急激に小さくするとともに,接線
研削抵抗が急激に大きくなる.研削抵抗には砥粒径は関与せず,砥粒先端角,研削条件に
影響される.研削熱は接線研削抵抗との比例になるので,砥粒径に関与しない.
砥粒径を小さくすると研削抵抗,研削熱に影響せず,表面粗さを小さくでき,極微粒で
鏡面が達成できる.またドレッシングによって砥粒先端形角を大きく,つまり砥粒を平滑
化すると,研削抵抗と研削熱が上昇するが表面粗さを小さくでき,粗粒でも鏡面が達成可
能である.
粗粒と極微粒での同じ粗さの鏡面を得るとき,粗粒の方が研削抵抗,研削熱が大きくな
るので,加工前後での表面粗さ以外の表面品位の変化が大きくなることが推測できる.
3 章では,極微小切込ドレッシングを可能とする高切込分解能,高回転精度,高剛性を有
する超精密円筒研削盤の開発と,極微小切込ドレッシングを行うドレッシング条件,加工
条件の検討を行った.
超精密研削盤の高回転精度は静圧軸受の平均化効果を用いて軸の真円度を向上させて,
高剛性は両持ち工作物,砥石支持および切込軸のレイアウトによって獲得した.ドレッシ
ング条件はドレッサの回転数を遅くして,ドレッサ進入角を小さくした.
4 章では,超精密円筒研削盤を用いて,粗粒ビトリファイドボンド cBN ホイール,極微
粒ビトリファイドボンド cBN ホイールでドレッシング切込量と研削性能の関係を調べた.
極微粒ビトリファイド cBN ホールは切込速度 1.00m/s で砥粒に対して切込量が大きく
なることで砥粒脱落が起こり,チップポケットの限界であることがわかった.
ドレッシング切込量が小さくすると,粗粒、極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイール
とも切れ刃トランケーションを行うことができ,砥粒先端角が大きくなるため,接線研削
99
第8章 結 言
抵抗が上昇し,表面粗さが向上した.よって,粗粒ビトリファイドボンド cBN ホイールで
も鏡面が得られる.一方,極微粒は粗粒よりも低い接線研削抵抗で鏡面が得られる.
5 章では,研削抵抗が異なる粗粒ビトリファイドボンド cBN ホイール,極微粒ビトリフ
ァイドボンド cBN ホイールが表面粗さ以外の表面品位に及ぼす影響を調べて,転がり寿命
に及ぼす影響を考察した.
粗粒は圧縮残留応力を持ち,ドレッシング切込量が小さくなると圧縮残留応力が増加し
た.一方で,極微粒はいずれのドレッシング切込量でも残留応力をほとんど持たなかった.
その圧縮残留応力の発生メカニズムは砥粒後方の切れ刃による押しつぶしによって発生す
る力によって,加工誘起マルテンサイト変態が引き起こされているためであった.加工誘
起マルテンサイト変態は転がり疲労と同じ発生メカニズムであるので,粗粒は転がり疲労
が進行して,寿命が短くなると推測できる.
6 章では,残留応力の発生メカニズムから,加工条件が表面品位に及ぼす影響を調べた.
残留応力は砥石の回転方向に影響されないため,工作物の塑性変形の影響が小さいこと
がわかった.砥石を高速化することで,圧縮残留応力を小さく,表面粗さを小さくするこ
とができたので,粗粒でも転がり寿命の進行がなく,鏡面研削ができる可能性を示すこと
ができた.
7 章では,円筒プランジ鏡面研削と超仕上げの加工コスト比較を行い,超仕上げから円筒
プランジ鏡面研削への置き換えの可能性を検討した.
トラバースによる極微小切込ドレッシング,極微粒の総型ドレッサによるプランジドレ
ッシングで粗粒,極微粒ビトリファイドボンド cBN ホイールと一般砥石による超仕上げの
加工コストを調べた.超仕上げは工作物直径 350mm までは加工コストが最も低いが,超仕
上げ盤の最大面圧のためにトラバース加工になると加工コストが急激に高くなり,工作物
直径 680mm 以上では粗粒のプランジドレッシング,極微粒のプランジドレッシング,粗粒
のトラバースドレッシング,超仕上げ,極微粒のトラバースドレッシングの順にコストが
低くなる.円筒プランジ鏡面研削の適用範囲は工作物直径 350mm 以上である.
軸受製造による研削後,超仕上げ後および,本研究で得られた残留応力と表面粗さの関
係を示す.製造における研削工程後のワークの表面粗さ,表面の残留応力は 0.20mRa,
-270MPa で,本論文の#230 のドレッシング切込量 2.00m/pass と同程度の条件でドレッシン
グしているため,同程度の表面品位となった.製造ではその後に超仕上げ工程が行われ,
超仕上げによって表面品位は 0.07mRa,-160MPa と表面粗さを小さく,圧縮残留応力を小
さくなっている.超仕上げは加工変質の小さい加工 8-1)とされ,Fig.5-3 に示す残留応力と深
さの関係で,研削加工面の数m を除去して,研削加工で発生した残留応力の一部が残った
100
第8章 結 言
結果となっている.一方で, #230 のドレッシング切込量 0.01m/pass の表面粗さ,残留応
力は 0.04mRa,-670MPa の高圧縮残留応力を有する加工面,#3000 のドレッシング切込量
0.10m/pass の表面粗さ,残留応力は 0.03mRa,-30MPa と残留応力のほとんどない加工面
になった.鏡面の製造完了時点での軸受の残存寿命は長い順に,極微粒よる鏡面研削,軸
受製造による超仕上げ,粗粒による鏡面研削となる.
Results on this study
Grinding in Super-finish in
#230
#230
#3000
product
product
#230 ad=0.01 #230 ad=2.00 #3000 ad=0.10
ad=0.01
ad=2.00
ad=0.10
Residual stress MPa
-100
-200
0.2
Residual stress
-300
0.15
-400
0.1
-500
-600
-700
0.05
Surface roughness Ra m
0.25
0
Surface roughness
-800
0
Fig.8-1 Relationship among processing, residual stress and surface roughness
円筒プランジ鏡面研削は,極微小切込ドレッシングによって極微粒ビトリファイドボン
ドホイールの使用と通常のドレッサによる切れ刃トランケーションによって達成可能であ
ることが明らかになった.極微粒ビトリファイドボンドホイールによる円筒プランジ鏡面
研削が研削後に超仕上げを行う現行の転がり軸受の製造方法よりも転がり寿命を延ばす可
能性がある.複合化や置き換えによるコスト削減が計られているが,摺動部品の工法の変
更は表面品位ばかりか,表面品位によって得られる機能まで考慮する必要性がある.
101
第8章 結 言
8-2
今後の展望
本論文では円筒プランジ鏡面研削の手法として微粒研削,切れ刃トランケーションによ
って砥粒形状である大きさ,先端角を変更することの効果を調べた.とくに研削性能と表
面品位の関係を調べることで超仕上げから鏡面研削への置き換えの可能性を探った.研削
性能は解析結果と定性的に一致していた.粗粒の切れ刃トランケーションによる鏡面研削
は高い研削抵抗が必要で,それによって圧縮残留応力が発生する.この圧縮残留応力の発
生は一見すると摺動部品において機能向上に見えるが,その発生メカニズムは歓迎すべき
ものではなかった.
複合加工化が進んでいる昨今,マイクロ工具によって研削が切削に置き換えられたり,脆
性材料の延性モード研削によってポリッシングが研削に置き換えられたりするようになり,
それぞれの加工方法における加工対象の領域が広がっている.例えば,本論文のように超
仕上げからハードターニングへの置き換えを考えると,研削よりも逃げ面摩耗が少なく,
材料への影響が小さい加工が行えるものの,点接触の加工では加工時間が長く加工コスト
が高くなることが予測される.よって超仕上げからハードターニングへの置き換えは,鏡
面研削よりも加工面の表面品位は良いものが得やすいが,線接触である鏡面研削よりも生
産性が問題になるものと考えられる.このように研削加工は機械加工において,粗加工の
切削加工と精密仕上げのポリッシング加工の中間に位置し,どちらにも広がりを持つこと
のできる加工方法である.しかしながら,その機能まで踏み込んで,置き換えの可能性を
検討することが重要であり,今後は仕様用途まで考慮した開発が進むことを望む.
本研究は超仕上げから鏡面研削への置き換えの可能性を探る研究であるが,鏡面研削へ
の置き換えへの壁はまだ高い.たとえば超仕上げの円周方向の表面粗さ,微細構造,真円
度が鏡面研削よりも良いことである.超仕上げは砥石と工作物が面当りであり,さらに定
圧加工でありダンピング効果が得られるので真円度を小さくできる.また,円周方向の微
細構造が異なることで寿命へ影響が示唆 8-2)されている.このようなことから,正確な転が
り寿命への影響は複合的な要因があって簡単ではない.転がり寿命に及ぼす影響の更なる
解明と,それらの干渉による効果を検討できるようになることを期待したい.
加工条件と表面品位の関係を調べ,砥石高速化で転がり疲労の進行無く加工できる可能
性を示すことができた.しかしながら砥石高速化すると,高回転精度,高剛性との両立が
難しくなる.高速研削は能率や加工精度が良いこと 8-3)が知られており,更なる設備開発に
よって,転がり疲労の進行の少ない加工の可能性の追求のために,高速回転,高分解能,
高回転精度,高剛性を有する超精密”高速”円筒研削盤の開発に期待したい.
以上より,更なるハイスペックマシンの登場と機械加工が表面品位に,表面品位が機能
に及ぼす影響が解明されることで,加工コストまで考慮した最適な加工方法が選定できる
ように研究を進めていきたい.
102
参考文献
第1章
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第3章
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第4章
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司:ラピッドローテーション鏡面研削による高能率・高品位表面仕上げ
第 1 報:
超高速研削装置の開発とツルーイング特性,砥粒加工学会誌,57,4(2013)247.
4-3) 市田良夫,佐藤隆之介,アクバリ ジャワド:cBN ビトリファイドホイールのマ
イクロドレッシングによる切れ刃形成機構,砥粒加工学会誌,53,4(2009)236.
第5章
5-1) 中山達臣:Rapid Rotation Grinding による高品位・高能率加工,横浜国立大学
博士学位論文,9(2007)
.
5-2) 古川恭三郎,城田伸一,藤井章雄:転がり軸受の疲労解析(第 1 報)−表面疲労
損傷の解析(1)−,NSK Bearing Journal,643,(1983) 1.
5-3) 古川恭三郎,城田伸一,藤井章雄:転がり軸受の疲労解析(第 2 報)−表面疲労
損傷の解析(2)−,NSK Bearing Journal,644,(1984) 1.
5-4) 日本精工株式会社:NSK テクニカルレポート,9(1999)44.
5-5) 古川恭三郎,城田伸一,藤井章雄:転がり軸受の疲労解析(第 3 報)−内部疲労
損傷の解析−,NSK Bearing Journal,644,(1984) 1.
5-6) 王志剛,井上達雄:相変態の応力依存性を考慮した鋼の焼入れにおける温度,組織
および応力の解析,材料,32, 9(1983)991.
5-7) Y.B.Guo and A.W.Warren:The impact of surface integrity by hard turning
vs. grinding on fatigue damage mechanisms in rolling contact,Surface &
Coatings Technology,203(2008)291.
105
第6章
6-1) H.Opitz,W.Ernst and K.F.Meyer:Grinding at High Cutting Speeds,
Processing of the 6th International Machine Tool Design and Research
Conference,
(1965)581.
6-2) 中山達臣:Rapid Rotation Grinding による高品位・高能率加工,横浜国立大学
博士学位論文,9(2007)
.
第7章
7-1) 安永暢男,高木純一郎:精密機械加工の原理,工業調査会,10(2002)124.
7-2) 早乙女辰雄,佐藤啓仁:重畳超仕上げに関する研究(第 1 報),日本機械学会論文
集(C 編),75,3(2009)741.
7-3) 市田良夫,佐藤隆之介,アクバリ ジャワド:cBN ビトリファイドホイールのマ
イクロドレッシングによる切れ刃形成機構,砥粒加工学会誌,53,4(2009)236.
第8章
8-1) 浅枝敏夫:表面仕上法-特にその特質について,機械の研究 2, 1(1950)15.
8-2) Y.B.Guo and A.W.Warren:The impact of surface integrity by hard turning
vs. grinding on fatigue damage mechanisms in rolling contact,Surface &
Coatings Technology, 203 (2008)291.
8-3) 中山達臣:Rapid Rotation Grinding による高品位・高能率加工,横浜国立大学
博士学位論文,9(2007)
.
106
公表論文
本論文に関する投稿論文
1) 大坂剛士,高木純一郎:極微小切込ドレッシングを用いた鏡面研削における表面品位改
質に及ぼす砥粒径の影響,砥粒加工学会誌,58,6(2014)396.
国際学会発表
1) T.Osaka,J.Takagi:Study on Cylindrical Mirror Grinding by Ultra Fine Infeed
Dressing,ICPE2014,7(2014)
.
学会発表
1) 清水竜大郎,大坂剛士,高木純一郎:ダイヤモンドホイールによる鉄系材料の鏡面研削
―ホイールの真円度および結合度むらが加工面精度に及ぼす影響―,2013 年度精密工
学会春季大会講演論文集,(2013)525.
2) 大坂剛士,高木純一郎:極微小切込ドレッシングによる鏡面研削,ABTEC2013,
(2013)265.
3) 大坂剛士,高木純一郎:極微小切込ドレッシングによる鏡面研削, 2014 年度精密工学
会春季大会講演論文集,3(2014)1249.
4) 大坂剛士,高木純一郎:極微小切込ドレッシングによる鏡面研削(第 2 報)―砥粒径が
研削性能に及ぼす影響―,ABTEC2014,9(2014).
関連論文
1) 馬場祐介,高木純一郎,劉猛,大坂剛士:研削加工の低エネルギ化に関する研究―砥粒
切込深さと比研削エネルギの関係―,2003 年度精密工学会春季大会講演論文集,
(2003)224.
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謝辞
本論文をまとめるまでに,多くの方々のご協力,ご助言を賜りました.ここに深く感謝
申し上げます.
終始厳しくも温かいご指導を賜りました横浜国立大学の髙木純一郎教授には最大限の謝
意を表します.社会人博士課程への進学をご進言いただき,また入学を許可いただき,十
年に及ぶご指導を賜る機会を得たことは至上の喜びでありました.投稿論文,学位論文の
執筆にあたって,丁寧なご指導をいただきました.論文を完成させることができましたの
も,先生のご指導によるほかありません.論文審査会においては川井謙一教授,秋庭義明
教授,佐藤恭一教授,篠塚淳准教授の横浜国立大学の先生方に大変お世話になりました.
先生方のご指示,ご助言を賜りましたおかげで,本論文の内容を精査することができまし
た.
本研究を行うにあたり横浜国立大学大学院
社会人博士課程への入学許可を賜りました
元日本精工株式会社 河島邦雄氏,渡利勝氏,日本精工株式会社 執行役 篠本正美氏に厚く
御礼申し上げます.また実験において日本精工株式会社生産技術センター加工技術開発部
の部長 池田裕之氏,グループマネージャ 鎌村有宏氏,研削・解析グループの方々にご尽
力,ご協力いただき,本論文を完成させることができました.
最後になりましたが,妻,舞と娘,美貴に感謝の意を表します.社会人博士に進学した
ばかりの私と結婚し,ときに娘をお腹に宿し,ときに娘をなだめながらサポートしてくれ
ました.感謝の念を妻と娘にささげます.
2014 年 9 月
108
大坂剛士