輸入炭の安定供給確保に向けての世界の 選炭技術の実態及び動向調査

平成25年度海外炭開発支援事業
海外炭開発高度化等調査
⑨
輸入炭の安定供給確保に向けての世界の
選炭技術の実態及び動向調査
平成26年6月6日
目
次
1.選炭概容
1.1 選炭の目的と効果
1.2選炭原理
1.3 選炭工場設備概容
1.4 粒度別主要選炭技術の種類と評価
1.5 選別比重ごとの主要選炭技術
1.6 現在の選炭工場での機器の組み合わせ
2.先進国及び主要産炭国の選炭技術の概容
3. 現地調査としての豪州の技術開発動向
4.選炭の動向と課題
4.1 選炭の五つの主な動向
4.2 選炭の三つの主な課題
1
1. 選炭概容
1.1 選炭の目的と効果
選炭の目的: ユーザーが必要とする仕様の石炭を産出することにある。
・灰分調整(発熱量調整)
・水分調整
・粒度調整
この他には石炭採掘時に混入する石炭以外の異物、例えば金属、プラ
スチック、木片等の除去も選炭工場の重要な任務である。
また、選炭後の製品灰分を需要家の個々の仕様に合わせるための混炭
による灰分調整、硫黄分が多い場合の硫黄分調整の混炭等の任務もある
。
その結果としての選炭の効果:
・灰分減少による、運搬時の省エネ、燃焼効率向上、燃焼灰の減少。
・無機硫黄分の除去
・比重選別での高比重領域に微量元素が多く含まれることから、高比
重分を除去することにより、水銀等の微量元素の低減効果もある。
2
1. 選炭概容
1.2 選炭原理
・比重選別(粒度:+0.25mm)
良い石炭は比重が小さく、悪い石炭は比重が大きい
原炭
炭層
比重大
比重小
灰分100%
灰分80%
灰分60%
灰分40%
灰分20%
灰分10%
灰分5%
採掘
選炭
精炭
低灰分
ボタ(ズリ)
高灰分
・浮遊選別(粒度:-0.25mm)
石炭粒子と石粒子の表面性質の相違を利用して分離する方法。
石炭粒子:水をはじく(疎水性)。もともと油と同じ炭化水素である)。
石粒子:水に良く馴染む(親水性)。
3
1. 選炭概容
1.破砕工程
2.フルイ分け工程
3.選別工程
4.脱水・洗浄工程
5.出荷工程
6.選炭水の浄化工程
7.ボタ処理工程
8.排水処理工程
1.3 選炭工場設備概容
・選炭機で選別する際の適正粒度に破砕する。
・選別機に供給するために適正粒度に調整する。
・原炭を所定の平均灰分になるように選別を行う。
・選別した石炭の脱水、重液材の洗浄を行う。
・選炭産物の発送
・選炭汚濁水から固形物を濃縮、除去し循環使用可能とする
設備
・選炭後の廃棄産物をボタと呼んでいるが、この処理を行う
工程。
・最終排水工程で、外部に排水する場合と循環水として使用
する場合がある。
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1. 選炭概容
1.4 粒度別主要選炭技術の種類と評価
(表1-4)
選別技術分類
湿式比重選別機
その他の選別機
乾式比重選別機
主要選別機名
普及割合
選別精度1
運転コスト2
(大:5)
(高:5)
(安価:5)
1
重液選別機
1.1
重液バス
5
5
3
1.2
重液サイクロン
5
5
3
2
ジグ選別機
2.1
塊炭ジグ
3
4
5
2.2
粉炭ジグ
3
4
5
2.3
ROM ジグ
2
4
5
3
スパイラルコンセントレーター
4
3
5
4
TBS
4
4
4
5
マルチグラビティセパレーター
2
4
3
6
樋流し式選炭機
1
1
5
7
バーレル選炭機
2
3
4
8
浮遊選別機
5
5
2
9
オイルアグロメーション
2
5
1
10
エアーテーブル式選別機
3
2
5
11
エアージグ
1
2
3
ロータリーブレーカー
5
3
2
フルイ分け選別機
3
1
4
乾式その他の選別機 12
13
選別適用粒度(mm)
0.001
0.005
0.01
0.05
0.1
0.5
1
5
10
50
100
500
1,000
注1:選別精度は分離比重によって変わるので、ここでは一般評価を示す。注2:運転コストには設備費も含まれる。
5
1. 選炭概容
1.5 選別比重ごとの主要選炭技術
(図1-4)
ROMJIG
JIG
Dense Medium Bath
Dense Medium Cyclone
Water Washing Cyclones
Spirals
Teetered Bed Separaters
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
1.7
1.8
1.9
2.0
2.1
Density
6
1. 選炭概容
1.6 選炭工場での機器の組み合わせの現状
50~25mm
25~0.5mm
1~0.5mm
0.5~0mm
重液サイクロン
重液バス
粉炭ジグ
スパイラル
一般炭
粉炭ジグ
塊炭ジグ
TBS
重液サイクロン
50~0.5mm
ジグ
Reflu x
Classifier
ジグ
重液サイクロン
重液サイクロン
重液サイクロン
重液サイクロン
50~0.5mm
TBS
原料炭
+
一般炭
ジグ
重液サイクロン
重液サイクロン
重液サイクロン
Reflu x
Classifier
ジャミソンセル
7
2.先進国及び主要産炭国の選炭技術の概容(1/3)
下表は原料炭生産量の多い国から並べ、一般炭産出の多い国を加えた。オレンジ色の国は選炭
先進国を示す。また生産量はIEA Coal Information 2013の 2012(予測)を示す(褐炭は除く)。
生産量(1,000t/y)
国 名
中国
原料炭
一般炭
特記事項
510,447 2,895,948 選炭工場は約2,000、選炭率は56%。選炭先進国の選炭機器
メーカが現地会社を設立、海外への輸出を行っている。自国
の技術開発としては3産物重液サイクロン、乾式選炭機がある。
豪州
146,944
200,255 選炭技術の開発、並びに海外での選炭工場建設をリードして
きている。製造メーカー、選炭エンジニアリング会社も多い
アメリカ
81,300
769,152 殆どすべての選炭プロセスを有している。年に一回、レキシン
トンで国際選炭会議を開催
ロシア
74,599
201,486 旧ソ連時代の継承が多く、ロシアでの技術開発内容は不明だ
が、殆どの選炭プロセスを有している。
47,224
498,632 原料炭炭鉱での選炭から出発して、現在は灰分規制から一般
炭選炭工場が急増してきている。一般炭用原炭は高灰分で、
選炭精度を上げにくい石炭である。
31,086
25,983 米国技術が主であるが、寒冷地のため冬季の長距離輸送に
は石炭乾燥設備が必須となっている。
インド
カナダ
8
2.先進国及び主要産炭国の選炭技術の概容(2/3)
国 名
生産量(1,000t/y)
原料炭 一般炭
ウクライナ
17,764
カザフスタン
12,926
ポーランド
11,738
ドイツ
6,325
845
107,574 ウクライナと同様に旧ソ連時代の技術継承と思われる。
67,396 殆どすべての選炭プロセスを有している。
5,233 褐炭を除いた国内炭産業はイギリスと似ているが、海外向け
はフンボルトベダーグ社が筆頭。
258,457 一般炭の生産量増加に伴い、国内・外共に選炭事業は盛況で
ある。海外では豪州と競合している。
42,096 輸出対象の石炭はすべて選炭しているが、今後国内需要の増
加に従い、山元での簡易選炭が増加する見込み。
ベトナム
338
イギリス
46,868 55の選炭工場が稼動、重液(23%)、ジグ(65%)、浮選(10%)。設
備は国内製
439,982 第1世代の炭鉱は選炭工場を有しているのが多いが、中小炭
鉱は少ない。今後簡易選炭を含めて増加すると思われる。
インドネシア
南アフリカ
特記事項
16,000 国内炭生産量の減少に伴い、選炭工場も6箇所。海外に向け
てはParnaby Cyclones International が有名。歴史的には選炭
機器の技術開発が盛んであった。
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2.先進国及び主要産炭国の選炭技術の概容(3/3)
日本の選炭技術(1/3)
 日本は世界のほぼすべての
石炭性状に近い石炭を過去
100年余り選炭してきた経
験を有する。
石炭生産量推移
60,000
生産量(千トン)
50,000
一般炭
原料炭
 この蓄積された選炭技術の
経験は諸外国の多種にわた
る炭種の選炭工場検討に向
けたコンサル事業に有効で
ある。
40,000
無煙炭せん石
30,000
20,000
10,000
1874
1878
1882
1886
1890
1894
1898
1902
1906
1910
1914
1918
1922
1926
1930
1934
1938
1942
1946
1950
1954
1958
1962
1966
1970
1974
1978
1982
1986
1990
1994
1998
2002
2006
2010
0
(年)
 本邦の選炭技術を如何にし
て普及させるかが課題
図 2-1日本の石炭生産量
10
日本の選炭技術(2/3)
 過去日本で開発されたジグ技術がドイツへ技術移転、現在BATACジグとしてジグ市
場で高いシェアーを占めている。
 その改造版としてのバリウエーブジグは高い選別精度を持っている。
 原料炭選別の場合、ジグは重液選別との組み合わせで低選炭コストを達成でき、一
般炭の場合はジグのみで十分である。
SERVICE HOPPER
SLIDGE GATE DRIVED BY
ELECTRIC MOTOR
(MANUAL OPERATION)
FLOAT
CHAIN FEEDER
CONSTANT
VOLUMETRIC
FEEDER
(VVVF CONTROL)
STAR
WHEEL
(VVV
CONTROL)
COAL
REFUSE
図 3-1 空気動ジグ選別のメカニズム
図 3-2各波形での不完全率と処理量との関係
11
日本の選炭技術(3/3)
表 2-1ジグと重液選別機との比較
評価項目
選別精度
設備費
ジグ選別機
重液選別機
分離比重が高比重領域では同じだが 高比重領域では課題があるが、全般的に
低比重領域では劣る。
は選別精度が良い。
ほぼ同じ
安価で機器の寿命が長い。
ほぼ同じ
運転管理
重液材にマグネタイトを使用しているため
ポンプ、配管、重液選別機本体の摩耗が
大きい。その結果保全費として、ジグの約
1.5倍かかる。
自動化が進んではいるが、運転監視は 重液の比重管理が自動化により容易に
必要である。操作員の技術教育が重要。なっており、運転管理がし易い。
保全管理
機械構造が簡単で現場の一般的な保 耐摩耗材、ポンプの部品等特殊材料が必
全体制で修理が可能
要で、供給体制、部品価格が問題となる。
運転コスト
12
3. 現地調査としての豪州の技術開発動向
訪問先
場 所
概 容
SEDGMAN
Ltd.
Brisbane, QL
選炭エンジニアリング会社としては世界トップクラス。モンゴル、モザ
ンビークの新規選炭工場を手がけている。
FLSmidth
Pty Ltd.
Pinkenba, QL
選炭機器納入実績ではトップクラス。傘下にLUDWICI, Kerb, Abon,
WEMCO, Eimco等。セメントプラント、精鉱も手がける。機器製造は
中国、組み立ては豪州。
Xstrata
Technology
Brisbane, QL
Glencore Xstrata Plcの子会社で、Jamison Cell, Isa Millの開発で有名。
WEIR
Mineral
Australia
Ataman, NSW 1871年スコットランドで創立。Warman ポンプ、Cavex サイクロン、バ
ルブ関係を製造販売している。現在も市街地に鋳造工場を操業して
いる。バルブ関係はインドで製造。
Minco Tech Cardiff, NSW
Australia
1978年創業。従業員25名で年間20億円の売り上げ。主要機器は重
液サイクロン、耐磨耗材料、破砕機の設計、製造S/V、エンジニアリ
ングを行っている。
McLanahan
Warrabrook,
NSW
米国破砕機メーカー。アジア圏の市場を担当
Bulga炭鉱
Singleton,
NSW
処理量2,400t/h、年間処理量1,720万t. 重液バス(+50mm), 重液サ
イクロン(+16~-50mm、-16mm)、スパイラル
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4. 選炭技術の動向と課題 4.1 選炭技術の五つの主な動向
① 選炭工場の処理能力の大型化
500万t/y x 3 units
図 1-40モンゴルUHG選炭工場
図 4-6 重液サイクロン
1,000万t/y x 4 units
表 4-8重液サイクロン仕様
サイクロン径
(mm)
最(大粒径
(mm)
処理量
(t/hr)
1,000
83
400
1,250
104
700
1,500
125
1,100
図 1-41モザンビークVALE選炭工場
14
4. 選炭技術の動向と課題 4.1 選炭技術の五つの主な動向
②重液サイクロンと浮遊選別機の効率的な選別が出来る粒度領域にま
たがる0.25mm~2mmの比重選別方法の開発と経済性の追及。
スパイラル
チータズベッドセパレーター(TBS)
リフラックス クラリファイヤー
15
4. 選炭技術の動向と課題 4.1 選炭技術の五つの主な動向
③従来の機械式浮選方式から、カラ
ム浮選により技術開発が始まった
微粒水泡による浮選方式の歩留
向上。
図 1-30機械式浮選機
図 1-42 Jamison Cell とWEMCO
Cellとの性能比較
図 1-32, 4-3ジャミソンセルとDowncomerの詳細 16
4. 選炭技術の動向と課題 4.1 選炭技術の五つの主な動向
④浮選の対象粒度領域内での比重選別可能な領域
(0.25mm~0.075mm)の技術開発と適用が始まっている。
FLSmidth 社傘下のLUDDOWICI社製 REFLUX Classifier の変遷
17
4. 選炭技術の動向と課題 4.1 選炭技術の五つの主な動向
⑤乾式選炭の普及
図 1-33 Middelkaraal 炭鉱でのFGX
原炭供給
浮炭
図 1-34 Allair Jig
沈炭
図3-7永田エンジ社の
流動層式乾式選炭機
18
4. 選炭技術の動向と課題 4.2 選炭技術の三つの主な課題
① 選炭工場建設費
・建設費は設備内容、施
工費等が国によって幅が
大きい。一概には言えな
いので、参考までに右表
に示す。
・Maxは豪州のエンジニア
リング会社の例を示す。
・Mediumが発展途上国で
の妥当な建設費であろう。
 建設費の削減が最大
の課題となる。
表1-6 時間処理量当たりの選炭工場建設費
Hourly Capacity
Yearly
production
mt/y
Min.
Medium
Max.
(mUS$)
(mUS$)
(mUS$)
38,000 US$/ t/hr.
116,500 US$/ t/hr 195,000 US$/ t/hr
100 t/hr.
0.7
3.8
11.7
19.5
250 t/hr
1.6
9.5
29.1
48.8
500 t/hr.
3.3
19.0
58.3
97.5
750 t/hr.
4.9
28.5
87.4
146.3
1000 t/hr.
6.5
38.0
116.5
195.0
Remarks: yearly operation hour is 6,500
表 1-7 年間処理量当たりの選炭工場建設費
Min.
Medium
Max.
(US$/t)
(US$/t)
(US$/t)
6
18
30
19
4. 選炭技術の動向と課題 4.2 選炭技術の三つの主な課題
② 簡易選炭
 発展途上国で一般炭を産出している国
では選炭率が低い。主な理由は選炭工
場への投資が困難なのと選炭による経
済性の検討ができないでいると思われ
る。
通常選炭工場
選別精度
 対策としてはデイシェーリング(石の
みを選別する技術)を目的とした簡易
選炭機の導入が望まれている。ベトナ
ムでは増加しているが効率が低いのが
欠点。また、インドネシアはまだであ
る。
高
この領域を
目標にした
選炭技術開
発が望まれ
ている
簡易選炭
 簡易選炭にはジグ技術の応用が最適。
➢処理量:50 – 150万t/y
➢US$ 5/t
➢選炭し易い選別での分離
⇒De- shelling, De-stoningと呼ばれ
る石と石炭の分離だけで、灰分は
結果論。
⇒原炭灰分を山元で安価なコストで
下げ、後はブレンドにより灰分調
整を行い、ユーザに供給。
低
低
50万t/y,1 unit
 特にインドネシアの露天掘炭鉱では簡
易選炭により回収できる石炭が、出炭
量の約10%程度、現場に廃棄されてい
る事実がある。
この傾向は他の発展途上国産
炭国も持っており、大きな市場が
期待されている。
処理量 t/hr
高
500万t/y, 1unit
図 3-29ディシェーリング選炭機と選炭
工場との選炭精度比較
20
4. 選炭技術の動向と課題 4.2 選炭技術の三つの主な課題
③ 発展途上国での選炭技術の普及
発展途上国での選炭工場の操業状況を調査すると不完全な運転状況が多く見ら
れる。国情、国民性、老朽化等日本と異なる条件が多くあるが、その中での基本課
題としては下記が挙げられる。
 選炭工場の品質管理は設備の保全と運転作業者の機器の動作原理の熟知が
重要である。
 外国企業による選炭工場建設後の運転作業者への初期の運転指導、教育が
不足なのか、運転管理者の継続した技術指導体制が不足している。
 選炭工場建設の際は管理職、作業員を含めた現地教育指導にも十分な費用を
見込むべきであり、その結果が長期間運転に向けた資産となる。
21
ご清聴ありがとうございます。
インド、オディシャ州にて建設中の選炭工場
22