第1章 RF/AMS 設計の概要 RF/AMS LSIの構造と設計フロー 1 1.1 アナログ回路の役割と 設計フローの概要 アナログ回路はどこに使われるのか 2 世間のアナログのイメージ • • • 曖昧 直感的 昔っぽい これは、きちっとした情 報システム設計教育を 受けていない人たちの 誤解。 • Bit数とSNR (Signal-to-Noise Ratio) は換算可能 N bit (Digital) のSN比 (Analog) 3 N 2 ) 2 6.02 N 1.76 [dB] SNR 20 log( • • 人間はディジタル情報とアナログ 情報を上手く使い分けている 2003年以降の回路技術の主流 はアナ-デジ混載技術 3 LSI設計者のアナログ回路のイメージ • • • RF/超高速 = 最先端の知識を要求 物理レベルの設計技術 = 理解が困難・職人芸 手動設計 = 開発コスト大 • ディジタル回路と組み合わせることにより難易度を下げる • ディジタル回路の速度・消費電力の限界を打ち破る • アナログ回路でしか実現できない機能が多い アナログ回路が難しいのは事実・・・しかし、努力するだけの価値がある。4 利用周波数帯の推移 1000 CMOS 16nm High Speed Bipolar Peak Transition frequency (GHz) 45nm 130nm 100 11nm 22nm 32nm 65nm 90nm Bipolar 180nm 250nm CMOS Amp., Mixer (20dB) 10 350nm WLAN 802.11a CMOS ADC, Small Digital CDMA 1 Cellular Peak Transition Frequency トランジスタの電流利得 h21が0dBとなる周波数 (=信号を増幅できる限界周波数) 0.1 1996 2000 2004 2008 Year 2012 2016 2020 ITRS 2008 5 アナログとディジタルの等価実装 信号処理 伝達関数表現 s変数 z変数 ディジタル回路 アナログ回路 HDL 専用ハードウエア 高級言語 ソフトウエア 6 アナログ回路でしか実装できない部分 ・ ディジタル回路で実現できない物理世界とのインタフェース ・ ディジタル技術を現実世界の中で機能させる 物理的世界 クロック 時間基準の発生 無線通信 有線通信 ディジタル信号 処理・制御 アナログ インタフェース データ記録 画像・映像 オーディオ 電圧、電流 エネルギーの供給 電圧基準の発生 駆動系 センサー 原理的にアナログ処理でなければできない部分 7 信号の様々な表現法 連続時間 連続時間アナログ回路 離散時間 離散時間アナログ回路 連続値 (振幅、周波数、位相) 時間領域アナログ回路 離散値 (振幅、周波数、位相) ディジタル回路 b3 b2 b1 b0 (論理値表現) (パルス幅, 周期) DSM (パルス密度) DSM: Delta-Sigma Modulation 8 アナログ部設計フローのイメージ 機能ブロック図設計(アーキテクチャ設計) PHS RFU PHS IFU DAC User Mode IFU GPS RFU GPS IFU ETC RFU ETC IFU Wave Form GEN DBP I/F ADC Quad Damed DSP I/F ADC CLK GEN GPS I/F GPS Correrator PHS I/F ETC Demed ETC I/F 項目 電源電圧 消費電流 利得 周波数 雑音指数(NF) 1dBコンプレッションレベル インタセプトポイント(IIP3) 入力インピーダンス 出力インピーダンス 端子間アイソレーション(OUT→IN) 動作モデル回路設計 トランジスタ回路設計 vdd M15 5/2 M14 5/2 Vout- M16 8/2 M6 5/2 Vin+ M3 10.24/2 M4 10.24/2 M1 8.56/2 M2 8.56/2 M10 8/2 M7 8/2 M18 5/2 M12 5/2 Vcm gnd 条件 Min. 1.8 ― ― 300 ― ― ― ― ― 規格値 設計値 単位 Typ. Max. Min. Typ. Max. 3.3 3.5 1.8 2.1 3.3 V ― 2.2 mA 15 ― dB 426 475 2 ― dB 0 ― dBm 9.6 ― dB 50 ― Ω 500 ― Ω 20 dB 伝達関数設計(または演算のブロック図) レイアウト設計 半導体メーカへ テープアウト M9 5/2 Vbias 0.5pF 3.5kΩ M17 5/2 M5 5/2 M8 5/2 回路ブロック仕様決定 Vin- 0.5pF Vout+ M11 8/2 M13 5/2 9 アナ-デジ混載LSI設計フロー例 全体仕様設計 アナログ 機能分割・部分仕様設計 ディジタル 機能シミュレーション(MatLab) アナログ動作モデリング(Verilog-A) ミクストシグナル・ シミュレーション HDL記述・シミュレーション (VerilogHDL, VHDL) トランジスタ回路設計(手動設計) 論理合成(Design Compiler) 回路/電磁界シミュレーション (ADS, Spectre, HSPICE) 手動レイアウト(Virtuoso) 論理シミュレーション(Verilog-XL) 自動配置配線(IC Compiler) DRC, LVSエラーチェック(Calibre) 全体レイアウトおよびDRC・GDS II 出力 ※カッコ内は使用 言語またはCAD ツール 10 アナログ処理対ディジタル処理 • 優先的にディジタル処理で実装 – ディジタル回路はスケーリングのメリットがある(製造技術の進歩により低電圧 化、低消費電力化、高速化が可能) – ディジタル回路の設計は言語により行われるためIP化しやすく変更も容易 • アナログ回路を必要とする部分の見極め – 連続時間信号として扱わなければならない部分を見つける(ディジタル回路は 連続時間処理ができない) – ADC (Analog-to-Digital Converter), DAC(Digital-to-Analog Converter )を挿入 する最適点を見つける • 消費電力や処理速度の問題が無ければ、できるだけディジタル処理を使う • アナログ回路の精度をディジタル補正で高める工夫をする • バランスの良いシステムを設計するためにはADCの各種方式に関する知識も必要 • テクノロジの選択、チップ分割、外付け部品(受動素子)の使用などを正しく 決定することが重要 – 特にチップ分割や外付け部品は、総合的判断を要する難しい問題 – 開発初期の段階に成功への分かれ道となるポイントがある 11 各種機能の実装形態 機能の名称 主な役割 アナログ/ディジタル 備考 AAF (Anti-Aliasing Filter) 信号の周波数帯域を制限する アナログ 原理的にアナログのみ SF (Smoothing Filter) 離散時間→連続時間信号 アナログ 原理的にアナログのみ LNA (Low Noise Amp.) インピーダンス整合 アナログ 原理的にアナログのみ Mixer 乗算器(周波数変換に使用) アナログ 高周波信号用 ディジタル 低周波信号用 電源回路 (Regulator, Reference Voltage 等) 電圧を一定に制御 アナログ ADC (Analog-to-Digital Converter) アナログ-ディジタル変換 アナログ含む DAC (Digital-to-Analog Converter) ディジタル-アナログ変換 アナログ含む PLL (Phase Locked Loop) 周波数の制御 アナログ メモリ(Sens-Amplifier, Memory Cell, DLL) 物理量の記録・読み出し アナログ含む プロセッサ(DSP, MCU) 汎用信号処理、システム制御 ディジタル アナログは現実的ではない 信号処理用フィルタ 専用信号処理 アナログ 高速 ディジタル 高精度 ディジタルも不可能ではない 12 システムの意図的な分割 • サブシステムのチップ分割が必要な場合 – CMOSテクノロジでは性能が出ない回路や特殊なデバイスを含む回路 – CMOSテクノロジでも分割したほうが高性能または低コストな回路 • 先端的な製造技術を必要とする回路比率が小さい場合 • 高電圧を使用する必要がある場合 • SiP (System in Package)やMCM(Multi Chip Module)の利用 – チップは分割されているが1パッケージ化により信頼性を高める – 高周波信号にも対応できる(パッケージの外に数100MHz以上の信号を を出し入れするのは困難・・・インピーダンスマッチングが必要) チップ パッケージ Chip stacked MCP 3D stack (MEMSで利用される) 電磁界結合 (近距離無線通信を利用) 結合コイル 13 集積化を考える=分割を考える (汎用性を高めて量産する) (アプリケーションに最適化する) ADC RF/Sensor Analog Signal Processing Wire 集積回路1 集積回路2 IO/RF Digital Signal Processing Wire データ 集積回路3 何を売りにするか? → 売りになる部分 を1つにまとめる 1チップか? 2分割か? 3分割か? 14 テクノロジの選択 • • ディジタルシステムと混載するためにはCMOSアナログ回路を使用 する 超低雑音特性、マイクロ波帯以上の周波数、高出力の信号などが必 要な場合は、Siバイポーラ、SiGeバイポーラ、SOI、化合物プロセス などを併用(チップ分割)する OFF ON バイポーラトランジスタ 増幅素子として高性能 スイッチとしては使いにくい MOSFET スイッチとして高性能 増幅素子としてもそこそこ使える 近年までアナログ=バイポーラトランジスタ回路のイメージが強かったが、 現在は、特別な理由が無ければCMOSアナログ回路が使用される。 15 ミクストシグナル設計の視点 • ディジタル設計を基礎とするアナログ設計 – システム全体を見通し、用途に最適なアーキテク チャを提案する アナログ回路 – ディジタルシステムにアナログ要素を持ち込むこと 実装ルート で競争力が生まれる • CMOSアナログ回路を標準とする設計 – 現状では、CMOSでなければディジタル・システムと 混載できない • アナログ回路とディジタル回路の最適な機能分割 – アルゴリズムとアーキテクチャの優劣は、時代ととも に変化していくので、機能分割の見極めが必要 ディジタル回路 実装ルート トランジスタ回路から順に学ぶ必要は無い。最終的にシス テム~回路~トランジスタの知識全体が繋がることが必要。 両方のルートで全体 を理解する 16 1.1節のまとめ • アナログ回路をディジタルシステムに組み込むことで先 進的機能やアプリケーションに最適な機能を実現するこ とが可能 • CADツールによるアナログ回路の自動設計は現状では 困難。シミュレーションで動作確認しながら手設計を行う • アナログ回路が必要な部分を見極め、アナログ処理は最 小限にし、できる限りディジタル処理を行う • 回路全体の動作確認には、ミクストシグナル・シミュレー ション技術が必要 • 何でも1チップ化すればよいわけではない。チップ分割も 重要 • CMOSディジタルとCMOSアナログの二刀流により新しい 機能を生み出すことが容易になる 17
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