平成25年度 研究課題外部評価報告書 (事後 )

平成25年度
研 究 課 題 外 部 評 価 報 告 書 (事 後 )
作成日
平成26 年5 月15 日
1. 研究課題名
海水循環型資源回収システム構築の可能性検討
2. 開発実施期間
平成25 年度
3. 研究概要
1) 目的
製塩技術の利用拡大を目標に、製塩技術と淡水化技術とを組合せた海水循環型資源回収システム
の構築について可能性検討を実施する。
2) 結果の概要
イオン交換膜電気透析(ED)法 + 逆浸透膜(RO)法による循環型資源回収システムの構築に向けた
検討を実施した。
本年度においては、ED による海水中のイオン回収性能について評価した。
実験では、ED の対象溶液として海水と RO によって2 倍程度濃縮された RO 濃縮海水を、陽イ
オン交換膜には2 価イオン難透過処理を施した膜(選択膜)と施していない膜(無選択膜)を使用して、
電流密度3A/dm2、25℃の環境下で電気透析を行った。なお、イオン交換膜におけるイオン回収性
能については、陽イオン交換膜の選択透過性、すなわち下式に定義する選択透過係数 Tba を指標と
した。例えば、TKNa = 1.6 はNa イオンに対して K イオンがイオン交換膜を 1.6 倍透過し易いことを
示す。
Tba = (Cb/C0b) / (Ca/C0b)
a, b : a, b イオン、C0: 対象溶液のイオン濃度、C : かん水のイオン濃度
対象溶液に海水、陽イオン交換膜に選択膜を使用して電気透析を行った結果、選択透過係数は
TKNa = 1.5、TCaNa = 0.14、TMgNa = 0.05 であった。これより、選択膜では、Na イオンに対してK イオ
ンは透過し易く、Ca イオン、Mg イオンは透過し難いことがわかる。また、対象溶液に RO 濃縮海
水を使用した場合の TKNa、TCaNa、TMgNa は各々1.6、0.16、0.06 であり、対象溶液による差は小さか
った。
これに対して、対象溶液に海水、陽イオン交換膜に無選択膜を使用した場合の TKNa、TCaNa、TMgNa
は、各々2.0、1.8、1.1 であった。これより、無選択膜では、K イオン、Ca イオン、Mg イオンが透
過し易いことがわかる。この選択透過係数と上記の選択膜における結果とを比較すると TKNa は1.3
倍、TCaNa は13.1 倍、TMgNa は21.8 倍大きかった。一方、対象溶液に RO 濃縮海水を使用した場合、
TKNa、TCaNa、TMgNa は、各々1.9、1.5、0.7 であり、各イオンの選択透過係数は対象溶液に海水を使
用した場合と比較して若干小さくなった。これより、無選択膜を使用すれば Na イオン以外のイオ
ンの回収性能は向上し、さらに対象溶液の塩分濃度が低下すると、この傾向が若干ではあるが促進
されることがわかった。
3) 今後の方針
さらにED による海水中のイオン回収性能を検討するとともに、得られたかん水から有用成分の
分離を可能とする技術を検討する。
本課題については、製塩企業、プラントメーカー、膜メーカーなどとの共同スタディーを構築し、
実用化に向けた研究開発を実施する。
4) 特記事項
特になし。
4. 評価項目
評価点数*
5.評価コメント
1) 研究の進捗度
2) 目標達成度
5
3) 期待される成果
4
5
4) 本研究による効果
4
合計
18/20
1) 研究の進捗度
現在、海水に含まれる資源に対する回収システムの対象成分は、回収コストが実用化に見合う
1)水、2)塩類 (NaCl , KCl , Mg(OH)2 など) に加え、 3) 技術開発により今後の実用化が期待されるそ
の他の成分に大別できる。本研究では、1)、2)における淡水化、製塩工程で蓄積された要素技術を
ハイブリッド化し、3)への新たな展開の可能性を検討している。平成 25 年度はイオン交換膜電気
透析(ED)法と逆浸透膜(RO)法のハイブリッド化によるイオン回収性能について評価を行っており、
研究は着実に進捗していると見なせる。
2) 目標の達成度
ED 法と RO 法のハイブリッド化の評価項目として、対象溶液の塩分濃度、膜物性(2 価イオン
難透過処理の有無)が選択透過係数に及ぼす影響を検討している。実験結果では、2 価イオンに対
し難透過処理を施していない無選択膜を使用すれば Ca イオン、Mg イオンの回収性能は向上する
ことが示されている。今後、ED 法を適用した場合の選択透過係数の具体的な数値目標が提示され
れば、ハイブリッド化の検証が進展すると考えられる。
3) 期待される成果
海水中の溶質成分または溶媒である水を個々に回収するわが国の技術は世界でも屈指である。プ
ロセスの複合化は、これらの要素技術がすでに蓄積されているわが国独自の発想であり、要素技術
の結合による新プロセスの提案が大いに期待される。
4) 本研究による効果
本システムの実用化に向けては、物質移動に関する工学的課題に加え、海水環境を利用したエネ
ルギー創成、海を取り巻く環境の保全に対しても考慮が必要である。これらの諸課題の解決に向け
て、製塩企業、プラントメーカー、膜メーカーなどとの共同研究開発の場を提供することにより産
学連携が促進する効果が期待できる。
5) その他
特になし。
*評価点数の基準:5(適切)・4・3(妥当)・2・1(不適切)