Ⅲ 最新モバイル活用法 1.関節リウマチ診療における モバイル装置活用 ─ 診察室での Noblus の使用 / 瀬戸 洋平 東京女子医科大学八千代医療センターリウマチ・膠原病内科 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 関節リウマチにおける 超音波検査の有用性 注目されている。 に有用であることが報告されて以降 5), RA の構造障害は,主に単純 X 線に 滑膜内の血流シグナル残存と構造障害 6), より評価を行うが,RA の特徴である骨 あるいは臨床的再燃 7)との関連が示され びらんの発症早期における検出感度は高 ており,US を用いた厳密な評価が実際 関節リウマチ(RA)の診療において, くない。US は単純 X 線と比較し,高い の診療においても患者の予後を左右する 早期の治療介入は有効性がより高く, 感度で骨びらんを検出することが可能で, 可能性が示唆されている 8)。 機能障害を可逆的に改善し,構造障害 発症早期の患者において,その違いはよ を最小限に食い止めることが可能である り顕著であることが報告されている 1)。 ことが明らかとなり,超音波検査(US) , また,US は身体所見よりも高い感度, 東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風 センターでの運用 MRI などの画像診断を用いた早期診断 再現性で,RA の主要病態である滑膜 の重要性が認識されるに至っている。ま 炎の検出を可能とすることが示されてい た,生物学的製剤などの高い有効性を る 2),3)。実臨床のコホート研究において RA における滑膜炎の活動性評価につ 示す薬剤の導入により,関節炎を沈静 も,US で検出される手指・足趾関節の いては,半定量法 9),定量法 10)による 化し,寛解維持により機能障害や構造 骨びらんを伴う滑膜炎所見は,早期関 関節ごと,あるいは複数の関節所見の和 障害を抑制することが現実的なゴールと 節炎に特異性の高い所見であることが証 を用いた sum score による報告が多くな なり,各種臨床的指標を用いた寛解判 (図 1) 明されている 4) 。 され,その臨床的指標に対する非劣性 定よりさらに厳密な画像的寛解判定(画 さらに,RA の滑膜病変におけるパワー ないし優位性が示されているが,検者間, 像的炎症所見の消失)の臨床的意義が ドプラによる血流測定が,活動性評価 施設間,あるいは機器間の標準化が今 後の課題である。また,全身の関節を網 羅的に評価することは,非侵襲的であっ ても簡便とは言い難く,反対に一定のプ a ロトコールで特定の関節領域に絞った データ収集は,US の利点である触知困 難な残存滑膜炎の検出率を低減するこ とにつながる。 これを踏まえて,東京女子医科大学 附属膠原病リウマチ痛風センターでは, b US 施行に習熟した医師による予約枠で の系統的検査による診断,活動性評価 に加え,外来診察室での診察をリアルタ イムに補完する,あるいは US ガイド下 M 図 1 RA 患者の第 5 中足基節関節外側縦断像 P a:骨皮質不整( ▼)を伴う滑膜肥厚(*)を認める。 b:パワードプラ法にて,滑膜肥厚に一致した血流シグナル(↓)を認める。 M:中足骨,P:基節骨 穿刺に利用する目的で,主治医がベッ ドサイドで実施する走査を併用して運用 している。以前より,検査室では日立ア ロカ社製の「HI VISION Avius」を使 用しているが,連日 10 診以上,並列で INNERVISION (29・3) 2014 57 a b 図 2 外来診療室に導入した 超音波診断装置 a:日立アロカ社製 Noblus b:診察室での使用風景 クレンジを中心としたパラメータを調整 した複数の画質設定があり,さらに, RA の鑑別診断や重症度,進行度判定 に重要な結晶沈着や微細な骨変化を評 I 価する目的で,独自の設定もプリセット 図 3 股関節前方矢状断斜位像 A FH FN 2 画面表示を用いて全体像を 撮像。前方関節窩(*)に有意 な滑液貯留または滑膜肥厚を 認めない。 A:臼蓋,I:腸腰筋,FH:大 腿骨頭,FN:大腿骨頸部 している。後者の設定では,空間分解 能をただ向上させるのではなく,距離分 解能のパラメータである送受信周波数, 方位方向分解能である走査線密度をは じめ,空間コンパウンドといったパラメー タのバランスと,濃度分解能のパラメー タであるダイナミックレンジ,グレイマッ 診療を行っている外来診察室に,新た 知困難な軽度の関節腫脹における非特 プ,γ カーブのバランス,組織の描写力 に同社の「Noblus」(図 2)を 4 台導入し 異的な滑液貯留と滑膜肥厚との鑑別, を調整する HI REZ +,受信信号強調 た。外来用の装置選定に当たっては, 質的評価が最大限可能なように,B モー といった多大なパラメータが調整されて ハイエンド機器と同等の B モード画質, ド画質設定の最適化を行い,さらに小 いる。装置の特性,性能を熟知したメー パワードプラモードによる高感度の血流 関節と大関節の画像条件のプリセットを カーの担当者による設定の提案,調整と, 検出能を有することを最優先条件とした。 設定している。 診療で得られた画像のフィードバックを 特に,パワードプラモードでの評価は, 小関節・大関節別のプリセットは, 繰り返すことによって,われわれが求め ほかの領域と異なり,RA の診療におい B モードの表示深度やフォーカス位置, る画質,画像が実現されており,ソフト て非常に特徴的かつ重視されるものであ 送信周波数の初期設定と,パワードプラ 面でのサポートの重要性も強調しておき るため,US に関する専門的な知識,技 の PRF(pulse repetition frequency: たい。 能を持たない主治医でも容易に判定可 繰り返し周波数)やフィルタを部位(深 これらにより,実際にベッドサイドで 能であることが求められた。これに加え, さ)に合わせて設定している。 走査する医師が細かい調整を行うことな 省スペース,短い起動時間,バッテリー また,B モードの画質には,空間分解 く,気軽に手にとりやすい環境を築くよ 使用により診察室間の移動が容易であ 能(距離 / 方位分解能) ,コントラスト う努めており,加えて各種設定やデータ ることなどを考慮した。 分解能,時間分解能が関与し,それぞ の管理,操作パネルを日本語で表示す れを調整するために複数のパラメータが ることが可能であることも,使いやすさ 存在するが,目的に合わせて最適化した に貢献している。 機器設定の最適化 画質設定を登録し,検査中に簡単に切 Noblus では,L 64 リニア型 18 - 5 MHz り替えられる“PSS(patient scanning プローブ 1 本のみを用いて,手指・足趾 selector)機能”を用いることで,より臨 Fine Flow と Dual CFM モード 関節(図 1)から股関節(図 3)まで,表 床的なニーズに応じた検査を実施するこ 在および深部の一通りの関節を評価可 とが可能となっている。当院では,検者 Noblus には新しいカラードプラモード 能である。診察を補完する,すなわち触 の好みや見やすさに応じて,ダイナミッ として“Fine Flow”が搭載されている。 58 INNERVISION (29・3) 2014 領域別超音波最新動向 特集 アプリ&プローブ,モバイル活用法 a a b b PP 2 PP 3 MC R S 図 4 RA 患者の手関節背側縦断像 図 5 RA 患者の近位指節間関節背側横断像 T Dual CFM モード。軽度だが有意な滑膜肥厚(*)および血流シグナル(↓) を認める。 PP:基節骨 表在血管のドプラ信号の影響を認める。 a:パワードプラ b:Fine Flow R:橈骨,S:舟状骨,T:小菱形骨,MC:中手骨 RA における滑膜血流評価では通常,パ とに長けた超音波検査技師によるルーチ ワードプラが使用されるが,正常血管の ンの系統的検査の実施を検討している。 アーチファクトを除外する際などに,信 今後は,多施設間での機器設定,撮像 号の染み出しが少ない Fine Flow は有用 条件や評価方法の標準化が進むことが である(図 4)。また,ベッドサイドでの 求められており,検者の技量に依存せず, 質的評価には必須ではないが,任意の範 より簡便に再現性のある画像が得られる 囲内でドプラ信号のピクセルを測定でき アプリケーションの開発が期待される。 る定量的なバスキュラリティ計測機能を 備えており,将来性,拡張性の高い機能 を有する。そのほか,限られた診療時間 の中で検査を有効に実施するため,B モー ドによる形態評価とドプラモードによる 血 流 評 価を同 時に行うことが可 能な “Dual CFM モード”を頻用している。小 関節では上下,大関節では左右に分割表 示することにより,描出範囲を損なうこ となく効率的な走査が可能である(図 5)。 今後の展望 外来診察室での US の運用は,若手 医師を中心に好評で,診療の質や診察 技術の向上,ならびに患者の病状理解 と治療内容の共有に貢献している。将 来的には,技術,検査の質を管理するこ 〈謝辞〉 当院における装置の設定につきご尽力くださり, 執筆に当たり技術的な内容をご教示いただいた 日立アロカメディカル(株)営業部の桒田 稔 氏,田中麻衣子氏に深謝いたします。 ●参考文献 1)Wakefield, R.J., Gibbon, W.W., Conaghan, P.G., et al. : The value of sonography in the detection of bone erosions in patients with rheumatoid arthritis ; A comparison with conventional radiography. 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