博士学位論文 ポリプロピレン/SiO 2 ナノコンポジットの界面構造 および熱伝導性に関する研究 Interfacial Structure and Thermal Conductivity of Polypropylene/SiO 2 Nanocomposite 2014 年 3 月 福山 芳三 群馬大学大学院 工学研究科 先端生産システム工学領域 目次. 目次 1 章 緒言 1 1.1. ナノコンポジットの研究背景 1 1.2. 本研究の問題点とその解決アプローチ 5 1.2.1. 分散性に関する問題 5 1.2.2. 界面構造の解析に関する問題 9 1.3. ナノコンポジットの結晶化挙動 12 1.4. 界面構造と熱伝導特性 16 1.5. 本研究の目的 18 参考文献 20 第 2 章 ポリプロピレン/グラフト SiO 2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 23 -グラフト鎖の役割- 2.1. 緒言 23 2.2. 実験 24 2.2.1. 原料 24 2.2.2. グラフト SiO 2 におけるグラフト鎖の調製 24 2.2.3. ナノコンポジットの混錬 25 2.2.4. 熱重量分析(TGA) 25 2.2.5. 示差走査熱量測定(DSC) 25 2.2.6. 走査型電子顕微鏡観察(TEM) 26 2.2.7. 偏光顕微鏡観察(POM) 26 2.3. 結果と考察 26 2.3.1. SiO 2 表面の界面構造 26 2.3.2. 全体結晶化速度 31 2.3.3. 等温結晶化過程における Avrami 分析 31 2.3.4. 結晶核形成 34 2.3.5. 球晶成長速度 39 2.4. 結論 44 i 目次. 参考文献 47 第 3 章 ポリプロピレン/グラフトナノ SiO 2 コンポジットにおける結晶化挙動 49 -グラフト鎖分子量依存性3.1. 緒言 49 3.2. 実験 50 3.2.1. 原料 50 3.2.2. グラフト SiO 2 におけるグラフト鎖の調製 50 3.2.3. ナノコンポジットの混練 50 3.2.4. X 線光電子分光法(XPS) 50 3.2.5. 熱重量分析(TGA) 51 3.2.6. 透過型電子顕微鏡(TEM) 51 3.2.7. 示差走査熱量測定(DSC) 51 3.2.8. 偏光顕微鏡観察(POM) 51 3.3. 結果と考察 51 3.3.1. SiO 2 表面の界面構造 51 3.3.2. 全体結晶化速度 57 3.3.3. 結晶核形成 57 3.3.4. 球晶成長速度 60 3.4. 結論 66 参考文献 67 第 4 章 iPP/SiO 2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO 2 表面グラフト効果 69 4.1. 緒言 69 4.2. 実験 70 4.2.1. 原料 70 4.2.2. iPP グラフト SiO 2 の調製 70 4.2.3. iPP/SiO 2 ナノコンポジットの混錬 70 4.2.4 広角 X 線回折測定(WAXD) 71 4.2.5. 熱伝導率測定 71 ii 目次. 4.3. 結果と考察 71 4.3.1. キャラクタリゼーション 71 4.3.2. ナノコンポジットの熱伝導特性 73 4.3.3. 界面層の熱伝導特性 78 4.4. 結論 81 参考文献 82 第 5 章 結論 85 付録 89 関連論文 97 謝辞 99 iii 目次. iv 第 1 章. 緒言 第1章 緒 言 1.1. ナノコンポジットの研究背景 近年の工業の著しい進歩と社会の複雑化にともない, 材料に対する要求も次々と多様化, 複雑化か つ過酷化してきている. このような多種多様な要求にはとても単一な材料では対応しきれない場合が多 い. この局面で, 複合材料すなわち, 要求に合わせて材料特性が発現するように複数の素材から構成 される材料という概念が生まれる. 工業的に複合による強化の思想が明確に意識され始めたのは 1940 年代に米国がガラス繊維を不飽和ポリエステルで固める技術を確立した, GFRP(Glass fiber reinforced plastic)が最初であると言われている. 高分子/無機複合材料は, 高分子本来の性質である柔軟性や靭性さらには成形加工性などの特性 と無機材料の硬さや熱安定性などの特性を組み合わせせることで, 今までにない新たな材料の創製が 期待されている. その中でも, ナノコンポジットはその微粒子サイズから比表面積が非常に高いことから 注目を浴びており, 少量の添加量で力学的性質や熱伝導性などの向上が強く期待されている. ナノコンポジットとは, 1 nm から 100 nm の長さの素材を高分子などの別の素材に練り込んで拡散させ た複合材料の総称である. ナノコンポジット材料は単位質量あたりの表面積が非常に大きいことが最大 の利点である. その表面積を利用して高分子とフィラーの相互作用を高めることが期待できる. ナノフィラーには炭酸カルシウム, 膨潤性グラファイト, SiO 2 微粒子から最新のカーボンナノチューブ をはじめ, かご状構造の SiO 2 ナノ粒子, セルロースナノファイバーなどが挙げられるが, 鱗片状の層状 ケイ酸塩(シリケード)を対象とした研究が著しい発展を見せており, これは 1987 年に豊田中央研究所の グループらがナイロン 6/モンモリナイトナノコンポジットの研究で fig. 1 のようなインターカレーションによ ってクレイの層間剥離に成功し, fig. 2 からも分かるように系内のマトリクスに対して均一に分散させ少量 の添加量で飛躍的な力学物性の向上を達成したことがナノコンポジットの工業化のブレイクスルーとな っている[1-6]. それを受けて, PP に代表される汎用性高分子への応用が期待される中, 無極性である PP と極性を有する Clay やその他の無機フィラーの分散性は極めて困難である現状がある. 一般的にフ ィラーの分散性を向上させる手法として, フィラー表面をシランカップリング剤で修飾させることや, 無水 マレイン酸を相溶させる手法が工業的に簡便であることから幅広く利用されている. しかしながら, その ような修飾では, 分散性が向上してもマトリクスとの化学的・物理的な相互作用は弱いことから, 期待さ 1 第 1 章. 緒言 Fig. Conceptual figure of nylon 6-clay surface[6]. Fig. 2 Photograph of transmission electron micrographs of molded nylon 6-clay hybrids, used clay minerals [6]. 2 第 1 章. 緒言 れるほどの成果は得られていない現状がある. そこで, フィラー表面に機能性を付与させるために, 官 能基などを導入し高分子をグラフトさせる手法が数多く提案されている[7-12]. グラフト重合技術は, 近 年目覚しい発展を遂げており, フィラー表面に精密に制御された高分子を結合させることが可能となり つつある. その技術の恩恵を受け, フィラー表面を高分子によってグラフトさせることにより, マトリクスと グラフト鎖の物理的な絡み合いを生じさせ, グラフト鎖が界面近傍の力学的・熱的伝播の役割を担うこと が可能となる. このようなアプローチによって, ナノコンポジットにおける力学的性質を始めとする諸物性 の向上が多くの研究者らによって報告されている[13-18]. しかしながら, マトリクスとして利用される高分 子の大半は, PP などの結晶性高分子であることから, 界面近傍の分子鎖は引力や斥力といった分子鎖 の運動性を変化させるような影響を受ける. そのうえ, 表面修飾された界面構造は極めて複雑であり, 結晶化過程のダイナミクスはあまり知られていない. それゆえ, これまでの表面修飾による物性改善の 報告は界面構造まで詳細に議論されておらず, 界面構造に関する系統的な知見は得られていない. こ のように, ナノコンポジット材料の研究・開発は, 界面構造を捉えることが非常に重要であり, 結晶性高 分子の界面における構造形成メカニズムの理解は, 結晶化後の構造との関係性を議論するうえで必要 不可欠な知見である. 上述した界面構造は本研究の第 2 の目的であるナノコンポジットの高熱伝導化を 議論するうえで非常に重要である. 以下に高分子系放熱材料の現状と, これまでの高熱伝導化のアプ ローチについて概説する. 近年の電気機器における小型軽量化に伴い機器の発熱密度は年々増加傾向を示している. そのた め, 電気・電子機器の温度上昇が素子あるいは絶縁を担う高分子の劣化を促進させる. また,電子部 品などは異なる熱膨張係数を持つ多種の材料から構成されているため, 高温になると接合部に熱応力 が発生し,疲労破壊が起きやすくなる. そのため電気・電子機器の温度上昇は機器の故障率を増大さ せる. したがって, 放熱性の確保は故障率を抑制するのは勿論のこと, さらには機器の効率を高めるう えで必須となる. 一般的に熱による部品の破損防止や安定作動確保のために, 電子機器内の部品に は熱伝導率が非常に高い金属性のヒートシンクや空冷させるファンなどを用いて冷却される. さらには, 大きな発熱を伴うハイブリッド自動車のモータなどには, ラジエータやオイルなどの冷媒を用いて強制的 に冷却させている. しかしながら, 機器内部の金属間の接着や絶縁を担う高分子の熱伝導率が極めて 低いことが放熱のボトルネックとなっている. このように, 自動車産業, パワーエレクトロニクス分野など, ますます放熱性は重要となり高熱伝導性の高分子材料の要求が高まってきている. 高熱伝導性の高分 子材料が適用される分野は, ヒートシンク材, 電装部品, 建材, 熱交換部品等が挙げられ, 分野・用途 が多肢に渡るため, 導電性のフィラーを添加した導電性複合材料だけでなく, 電気絶縁性のフィラーを 添加した絶縁性複合材料も広い利用分野が期待される. 3 第 1 章. 緒言 高分子の熱伝導率は金属やセラミックに比べ, 一般的に非常に低い. その性質から高分子は気体を 充填させ主に断熱材として利用されてきたが, 20 年ほど前からエレクトロニクス分野を中心に放熱性を 向上させるために, 成形性に優れる高分子材料の高熱伝導化が望まれるようになった. しかしながら, 高分子単体の高熱伝導化には限界があることから, 高熱伝導性フィラーを複合することによって高分子 材料を高熱伝導化することが行われている. 高分子系コンポジットの熱伝導特性に関する研究はこれまでに数多くの研究者らによって報告されて いる[19-22]. これまでの高熱伝導化の基本的思想は, できるだけ高い熱伝導率を有する高分子を用い, かつ高分子に可能な限り熱伝導率が高い無機フィラーを高含有率で充填させ, 系内の熱伝導を向上さ せることであった. また, 高分子とフィラーの界面の表面積を可能な限り小さくすることで, 熱抵抗を低 減させることができる. したがって, フィラーは高熱伝導材料で粒子サイズが大きいことが望まれる. しか しながら, 実際の用途では樹脂層の厚さ以上の粒子サイズを用いることはできないため, その用途に応 じた最大の粒子サイズを用いて, 可能な限り細密充填構造を形成させることが望ましいと考えられてい た. また, フィラーの高充填化は高分子の接着性を失わせるだけでなく, 製膜や加工性, 絶縁性等さま ざまな物性に悪影響を及ぼすため, できるだけ少量の添加量で熱伝導率を飛躍的に向上させる革新 的な技術が期待されている. 近年の研究から, マイクロサイズ以下(サブミクロンオーダー)になると熱伝導率が高まるという興味深 い報告がなされている[23]. このような特異な挙動について, 粒子はサイズダウンに伴い 2 次凝集しや すくなり, 粒子の連続体が形成しやすくなり分散状態が変化するため, 系内の熱伝導率が高くなると考 えられている. また,フィラーがマトリクスの一端から他端までの連続体が形成し始める濃度, すなわち パーコレーション濃度が著しく低下することも高熱伝導化の主因であると考えられている. それゆれ, 近 年の研究では, ナノサイズのフィラーやアスペクト比の異なるナノファイバーが注目されている[24]. ナノコンポジットの高熱伝導化が期待され始めて, 未だサブミクロンオーダーからナノスケールの粒子 サイズによる影響は明らかとされていない. このことは, 分散性の変化あるいは表面修飾による界面の 熱抵抗の変化に起因される可能性が高いが, その影響を明確に捉えることは非常に困難である. 上述したこれまでの研究動向を踏まえ, 本研究では界面構造と高分子の結晶化, そして熱伝導特性 との関係性の理解を目指す. すなわち, 界面に修飾される分子鎖 “グラフト鎖の役割”に主眼を置き, 本研究を遂行する. 以下に, 本研究における基本的な構想と, 学術的・工業的問題点を示し, それを打開するアプロー チについて示す. 本研究は4つのステップによって構成される. 4 第 1 章. 緒言 1. 最大限の濡れ性が得られる界面を作る 2. その界面構造を捉える 3. 界面近傍の結晶化挙動を捉える 4. 界面構造とその熱的伝播の関係を明らかにする 1.2. 本研究の問題点とその解決アプローチ 1.2.1. 分散性に関する問題 SiO 2 を始めとする無機フィラーがナノサイズの超微粒子になる場合に粒子間の凝集が極めて顕著に なるため, 高分子材料中にフィラーをナノレベルに微細分散させることに多大な労力を要する. ナノサイ ズのフィラーは静電気力, ファンデルワールス力, 双極子力などが影響し凝集することがナノコンポジッ ト材料開発における工業的課題の中の一つである[25]. “凝集”, すなわち互いに吸着する挙動はナノフ ィラーのような原子・分子レベルで起こり易く, その表面はバルクに比べエネルギー的に不安定であり余 分な自由エネルギーを有している. このエネルギーは一般的に表面エネルギーと呼ばれている. 不安 定な表面に原子・分子が近接すると, その原子・分子と結合を作り吸着し, 表面エネルギーの一部を吸 着エネルギーとして放出し安定化しようとする[26]. これが凝集の原理である. このような互いの結合を 切るための活性化エネルギーを超えるエネルギーを持ったとき互いに脱離し得る. 吸着状態には, 化 学吸着と物理吸着に大別される. 化学吸着は互いの電子移動によるものと, 原子の電気陰性度の差異 に起因する分極が発生し得る. 電子移動が大きい場合には吸着子がイオン化し, 静電引力による結合 の特徴も現われる. 一方で, 物理吸着は分子間力によるエネルギー利得が吸着エネルギーを与える. 広義の分子間力は, ファンデルワールス力の他に, イオン間クーロン力引力や, 水素結合も含まれるが, 物理吸着は通常, ファンデルワールス力による結合を意味する. このような引力に打ち勝つように, フィ ラーを分散させるためには, それ以上の力で強制的に引き離すか, あるいは, その表面を改質すること が求められる. フィラーの分散性の試みはこれまでに数多くの研究がなされており, 分散性の改善目的はフィラーの 表面効果を引き出すことであり, ナノコンポジット材料開発において必要不可欠である[27-28]. フィラー 同士を分離させるには, 溶融混錬によるせん断力や, 斥力が加わる条件を見出すこと, さらにはフィラ ー表面を修飾させる表面改質法が考えられる. これまでに, 混錬手法によってナノ SiO 2 の分散性を改 善させたという報告は Nitta らの研究グループ(fig. 3)と Tanahashi らの研究グループから得られている [29-30]. ナノサイズの SiO 2 は, 資源が極めて豊富で, 優れた力学的・熱的安定性を有しており, 安価・ 無害という特徴を有する. エンジニアプラスチックの増量材の役割もあり, これからも需要が拡大される 5 第 1 章. 緒言 Fig. 3 (a) A scanning electron micrograph (SEM-EDS) Si-mapping in iPP composites filled with silica particles having the size of 16 nm [29]. Fig. 4 photograph of two-roll mixer. 6 第 1 章. 緒言 材料の中の一つである. 本研究では, せん断力による良分散を Nitta らの用いた手法を同様に利用す ることによって, ナノサイズ効果が発現する分散状態を得る試みを行う(fig. 3, 4). 一方, 引力と斥力の 関係は VOLVO 理論によって表される. 水系における粒子間相互作用 V total は以下の(1)に示すように引 力 V A と反発力 V R の和として表す. Vtotal = VA + VR (1) 引力,反発力は各々粒子間距離の関数として以下の式(2), (3)と表す. VA (d ) = − Aa 12d VR (d ) = (2πaε r ε 0 )ζ 2 ln[1 + exp(− kd )] (2) (3) 引力は粒子のハマカー定数 A に依存した相互作用であり粒子間距離の減少とともに反比例して増加す る. 反発力は静電的相互作用に起因し粒子間距離の増加とともに指数関数的に減少する. Fig. 5 に 示すように反発力が優勢であるとき分散凝集力 V total はエネルギー障壁 V max を生じる. V max > 0 である とき系は分散力に支配され, V max < 0 であるとき凝集力に支配される. V max が粒子の熱運動エネルギ ーに打ち勝つとき (V max / kT > 15) 粒子は分散安定化する. 粒子径が 100 nm 以下のナノ粒子では水 中で分散安定化するために 100 mV 以上の表面電荷が必要となる[31]. 通常そのような高い表面電荷 を得ることはなく静電的反発力のみでナノ粒子の分散性を制御することは困難である. 表面改質法は物理的改質や化学的改質により粒子表面に有機層または無機層を形成する方法であ る.ここでは化学的改質法について述べる. 静電的反発力の寄与が少ない低極性溶媒中やマトリクス中では立体的相互作用による反発力を用 いる. 改質剤化合物の末端に嵩高い官能基を用いることにより立体的反発力を得る. 官能基の鎖長 が長いほど粒子間の凝集力を抑えることが可能である. 粒子表面に有機層を得るためにはアルコール 系,ジシラザン系,シランカップリング系改質剤などを用いてイオンまたは共有結合により目的の化合物 を反応させる. シランカップリング剤はケイ素と有機化合物からなり, 無機材料, 有機材料と各々化 学反応する異なる二つ以上の官能基を持っている. そのため未改質では混ざり合うことの無い材料同 士の仲介の役割を果たすことができる. Fig. 6にシランカップリング剤の反応機構を示す[32]. シラン カップリング剤中無機質表面と化学結合する分子は加水分解反応によりシラノール基となり無機質表面 7 第 1 章. 緒言 Fig. 5 Interaction energy between two spherical particles as a function of surface distance. Fig. 6 Reaction mechanism of silane coupling reagent with OH groups on inorganic substance. 8 第 1 章. 緒言 に水素結合的に吸着, 乾燥により脱水縮合反応し化学結合を形成する.表面改質の方法として気相 法,液相法,オートクレーブ法が挙げられる[33-35]. 気相法は改質剤の蒸気と試料を接触させ反応さ せる. 液相法は改質剤を有機溶媒中に添加し溶媒の沸点付近で還流により反応させる. オートクレ ーブ法は有機溶媒の超臨界状態において反応させる方法である. 超臨界溶媒中では系内の極性が 下がり粘性が低くなることから改質剤が粒子表面に到達しやすく反応がよく進行すると考えられる. ポリマーコーティング法は高分子化合物を用いて粒子表面を被覆することにより立体的反発力を発生 させる方法である. ラジカル重合を利用したポリマーコーティング法が最も多く用いられている. 一段 階目に表面改質によりビニル基を粒子表面に導入し, 二段階目として開始剤, 触媒存在下有機物モ ノマーと反応させる. 重合可能な有機物モノマーはスチレン系,アクリル酸系などがある[36-37].また 系 内 の モ ノ マ ー 量 に よ り 重 合 度 が 制 御 可 能 な 原 子 移 動 ラ ジ カ ル 重 合 (Atom Transfer Radical Polymerization: ATRP)を利用した方法 [38]も報告されている. このようなラジカル重合では, 官能基 を導入する必要があり, 重合プロセスが煩雑である欠点を有する. 近年, Teranoらの研究グループは, 官能基を導入せずに直接iPPをグラフトさせる手法に世界で初めて成功している. また, そのグラフトiPP 鎖はメタロセン触媒を利用し分子量を精密に制御出来る特徴を有する. これは, fig. 7, およびScheme 1 に示されるように, KuoらがiPPの数平均分子量と連鎖移動剤濃度に強い相関関係があることを明らかに したものを大きく利用したもので, iPPの末端基にOH基を結合した状態でSiO 2 表面のOH基との加水分 解によってエステル結合を介したグラフト結合が可能となるものである[13, 39]. Scheme 2にその概念図 (重合プロセス)を示す. 本研究では, リビングラジカル重合のような, 特別な官能基を必要としない手法で, 分子量が精密に 制御可能な重合法を用いたTeranoらのグループの表面修飾法を用いることによって, 立体的な反発力 による良分散の状態が得られると同時に, 界面の化学構造を極めてシンプルにすることが本研究の界 面構造を捉える目的に合致していることから, 本系を用いてグラフト鎖の役割の理解を目指す. 1.2.2. 界面構造の解析に関する問題 ナノサイズの微粒子の表面を観察する手法はこれまでの革新的な装置の発展から様々な手法が提 案されている. 特に, 透過型電子顕微鏡(TEM)や原子間力顕微鏡(AFM)などはナノスケールの構造を 直接観察出来る手法として幅広く利用されている. また, 基板上に修飾されたナノオーダーのスキン層 の元素分析としてXPSあるいはFT-IR(ATR法)が有効である. しかしながら, グラフト鎖の界面構造を明 確にキャラクタライズするためには直接観察と元素分析だけでは構造は理解出来ない現状がある. 高 分子グラフトによる界面構造とは高分子鎖が基板上にどのように結合され, その高分子鎖がどのような 9 第 1 章. 緒言 Fig. 7 Plots of number-average molecular weight (Mn) of OH-capped iPP vs the mole ratios of [propylene]/[TEA] prepared by rac- C2H4(Ind)2ZrCl2/MAO at 0oC using TEA as the chain transfer agent [39]. Scheme 1 10 第 1 章. 緒言 Scheme 2 11 第 1 章. 緒言 形態で安定化しているかを指すものである. その高分子グラフト構造はグラフト鎖が基板に結合されて いる本数とその面積, さらには高分子鎖の分子量の相違によってその形態が変化することがこれまでの 研究から明らかとされている[40]. そこで, 界面構造を明確に知るための手法として, 精密に重合された iPPをナノ微粒子にグラフトさせたiPPグラフトSiO 2 を重量分析によって, その質量を測定する. この手法 を用いることによって, iPPの全質量と数平均分子量, SiO 2 の表面積の関係から表面グラフト密度が明確 に把握することが可能となる. 表面グラフト密度が算出されることによって, 基板上の高分子グラフト鎖 の隣接間距離を幾何学的に算出することが可能となり, グラフト鎖の形態を詳細に議論することが可能 となる. さらに, 本研究では表面グラフト密度に加え, 界面層の厚みを知ることでさらなる深い議論が可 能となることから, 界面層の厚みを得る試みを単一の微粒子を用いてTEMによって直接観察を試みる. しかしながら, ナノコンポジット化された高分子グラフトの界面厚は微粒子から得られた厚みと相違する 可能性が高いことが予測される. そこで, 本研究では結晶化後のナノコンポジット試料から界面層の情 報を力学的性質から得る試みを行う. これは, Sumitaらの研究から報告されたもので界面層の厚みは未 添加試料の損失弾性率(E 0 ”)とコンポジットの損失弾性率(E c ”)の比率に強く関係することを利用したも のである[41]. このように, 界面層の構造を表面グラフト密度, グラフト鎖間距離, そして界面層厚を定 量化し異なる分子量によって, その形態の変化を捉えることが可能となると考えられる. 1.3. ナノコンポジットの結晶化挙動 結晶性高分子に代表されるポリオレフィン系高分子にガラス繊維などの無機微粒子を添加させると力 学物性をはじめ, 様々な物性が変化する. これは, 微粒子の物性が影響することは明白であるが, 微 粒子の添加によってマトリクスの結晶化速度や結晶化度あるいは結晶形に影響を与えることが, これま での多くの研究から報告されている[42-44]. 特に, 工業用途に代表される力学物性の向上において, アスペクト比の高いガラス繊維などを添加させると, その界面から結晶核が形成されトランスクリスタルと 呼ばれる, 繊維表面に対して配向した結晶が形成されることが知られている(fig. 8) [45-46]. トランスクリ スタルは, フィラー表面から核形成されるコンポジット特有の結晶化挙動である. このような, コンポジット の結晶化挙動は高分子単体の結晶化に比べ微粒子の表面が影響される. これは, 微粒子表面の化学 構造, 表面積, 形状などの影響が考えられる. しかしながら, その結晶化過程は影響因子の増加から 複雑化され結晶化の理解を妨げている. したがって, 界面における結晶化挙動の理解が必要不可欠 である. ナノコンポジットの結晶化は, 微粒子表面の化学構造や表面修飾効果によって大きく影響される. 界 面の結晶化において, マトリクスと微粒子の表面エネルギーは大きく異なり, 高分子鎖はそのエネルギ 12 第 1 章. 緒言 ーの違いによって引力が働き, 微粒子表面に物理的吸着される. その吸着した高分子鎖は, マトリクス 鎖に比べ運動性が低下し結晶化されにくいシェル層を形成することが知られている[47-54]. これまでの 報告から代表的なものを table 1 に示す. このように, ナノコンポジットの結晶化において界面構造を知る ことは結晶化メカニズムを理解するうえで非常に重要である. 近年, Nitta らは iPP/SiO 2 ナノコンポジットにおいて SiO 2 添加量に対して球晶成長速度の低下を初め て報告している[29]. これは, マイクロサイズの SiO 2 では発現しないことがナノ SiO 2 では起こりうるナノコ ンポジット特有の結晶化挙動である. 彼らは, SiO 2 の粒子間距離が高分子の分子運動性と密接に関係 していることを示している. このように, ナノコンポジットの結晶化挙動はこれまでの結晶化理論だけでは 説明できないことが高分子物理学の興味深いところである. 高分子グラフトされたナノ微粒子が分散された系内で, 溶融中のマトリクスが結晶化の過程において, グラフト鎖と相互作用されることは容易に予想されるが, その界面構造形成のメカニズムは明らかとされ ていない. それは, 界面構造と結晶化挙動の関係性を明確にすることが極めて困難であるからと推測さ れるが, 本研究では上述した界面構造を定量化することによって, 結晶化挙動との関係性を詳細に議 論できるものと考える. 結晶化挙動の観察は熱力学的アプローチに加え, 結晶核形成ならびに二次核 形成(成長)まで基礎的な手法から明らかにすることを試みる. 13 第 1 章. 緒言 Fig. 8 Polarized light microscopic image of a typical transcrystalline structure in iPP/CNT fiber composite [45]. Table 1 Interface thickness in heterogeneous polymer systems determined by different techniques. Thicness (µm) Matrix Polymer Filler HDPE SiO2 Method of determination Extraction HDPE SiO2 Extraction PP PP PS PMMA PU PP SiO2 Graphite Mica Glass Polymeric CaCO3 Extraction Model calculation Dynamic mechanical mesurement Dynamic mechanical mesurement Dynamic mechanical mesurement Young's modulus PP CaCO3 Yield stress 0.15 PP CaCO3 Tensile strength 0.16 0.0036 0.0036 14 0.0041 0.001 0.06 1.4 0.36-1.45 0.012 第 1 章. 緒言 Fig 9. The spherulite radius plotted against the crystallization time for iPP nanocomposites [29]. 15 第 1 章. 緒言 1.4. 界面構造と熱伝導特性 複合材料の異種素材界面に働いている化学的相互作用は, 素材間の接着性に直接関与する因子 の一つである. 固体-液体の複合過程では, 固体表面が液体に良くぬれることが異相間に良好な接着 が得られる基本的な条件であり, 異相間の分子や原子がこのように近接した状況において, 化学結合 形成による強い相互作用が生じる. 有機高分子をマトリクスとする複合系は, 二次結合による相互作用 が主体であり, 水素結合は界面距離 2~3Å で作用し, 静電引力やファンデルワールス力による結合は 3~5Å でそれぞれ形成される. 複合系では, 構成素材間の熱膨張・収縮と弾性係数の違いから生じる 界面応力, および外部から加えられる応力が界面を通じて伝達されており, 素材間の良好な適合性とと もに適度な結合強さが界面に要求される. この結合強さは物理的・化学的性質に依存される. 界面層 はマトリクスと比べ, その構造や組成が異なることから第 3 の相として界面相とも呼ばれている. 素材間 の化学結合が弱い場合や界面相が脆性である場合は, 明らかに機械的強度が小さい. したがって, 複 合過程では素材界面の良好な濡れ, 接着強度を得るためには界面相の制御(濡れ性の改善)が必要と される. それには,やはりシランカップリング剤や無水マレイン酸による修飾が簡易であることから工業的 に主流である. これまでに, Zhou らは, シランカップリング剤により修飾したナノサイズの Al 2 O 3 をシリコン ラバーに添加することによって, バルクの熱伝導率が向上したことを報告している. その影響について 彼らは, マトリクスとフィラーの界面の熱抵抗が低減したと結論付けている[55]. このように, これまでの マイクロサイズでは得られない界面の影響について, ナノ微粒子特有の比表面積の増大を利用するこ とによって, 表面修飾効果を得られた良い例であるといえる. しかしながら, 界面における熱抵抗の低 下挙動メカニズムは完全に理解されていない現状がある. 有機高分子/無機素材複合系では, 無機素材表面において高分子鎖の吸着, 高分子の架橋, 結 晶核発生などの現象が生じ, 界面の性質からガラス転移温度(T g )に変化を及ぼす. 無機素材表面に吸 着される高分子鎖は運動性が低下することから T g は高くなる. 一方, 斥力が働く場合は分子鎖の運動 性が活発となり T g は低下する. それゆえ, 結晶化後の界面構造は表面修飾によって変化することが予 想され, 系内の熱伝導特性に影響を及ぼすことが考えられる. したがって, 結晶性高分子における熱 伝導特性を理解するためには, コンポジットの結晶化挙動の理解と界面のキャラクタリゼーションが非常 に重要であるといえる. ポリエチレン(PE)や PP に代表される結晶性高分子の熱伝導機構に関する研究は 1970~80 年代に盛 んに行われ, 熱伝導率の結晶化度依存性や, 結晶部と非晶部の界面での熱抵抗の影響などが検討さ れてきた[56]. 興味深い現象として, 延伸された高分子は, 延伸方向に高熱伝導性を示すことが明らか になっている[57]. 近年では, Harada らは高分子を磁場印加させることにより, 分子鎖を配向させること 16 第 1 章. 緒言 Fig. 10 Effect of Al2O3 with different particle sizes on the thermal conductivity of silicone rubber [55]. Fig. 11 Thermal conductivity of silicone rubber versus the concentration of the coupling agent [55]. 17 第 1 章. 緒言 に成功し, その配向を利用してフィルムの膜厚方向の熱伝導率を高めた[58]. 半結晶性高分子である iPP は力学物性, 高融点さらには絶縁性に優れた特性を有しており, ヒートパ イプやラジエータなどの使用温度範囲に応じて利用されている. しかしながら, 高分子の熱伝導率は金 属や無機セラミックスなどに比べ非常に低く, 熱放散の妨げとなっている. また, 各種高分子材料との 複合化に用いられる代表的充填材(フィラー)である SiO 2 はエンジニアリングプラスチック等の高価な高 分子材料のコストダウンのための増量材としてだけでなく, 高分子材料自身が有している機械的・熱的 性質をはじめとした諸特性の向上, さらには成形加工性の改善といった重要な役割を担っている. それ らの組み合わせは, 工業的にもっとも魅力的な複合材料の中の一つである. さらに, 前項で記述したよ うに Terano らが開発した iPP/g-SiO 2 系は SiO 2 表面にマトリクスと同じ一次構造を有する iPP をグラフトさ せたものであり, 界面において優れた濡れ性が期待されることから, 系内の高熱伝導化が得られる可能 性がある. さらに, 界面層の熱伝導率を議論するために異なる分子量のグラフト層から熱伝導メカニズ ムを究明する. 1.5. 本研究の目的 本研究からナノコンポジット材料開発の設計指針となりうるための基礎的な知見を得ることが筆者のモ チベーションである. そこで, 以下の 3 つの理解を目指し, それぞれの相関関係を議論する. 1) 構造の理解(界面のグラフト鎖の形態) 2) プロセスの理解(グラフト鎖が結晶化に与える影響) 3) 物性の理解(界面層の熱伝導特性) したがって, 本研究では, ナノ SiO 2 微粒子表面に iPP をグラフトされた iPP グラフト SiO 2 を iPP に複合 化した, iPP/iPP グラフト SiO 2 ナノコンポジットの結晶化挙動および熱伝導特性について検討し, 界面層 における iPP グラフト鎖の役割について明らかにすることを目的とする. 本論文の構成を以下に示す. 第 2 章では, 未処理のナノ SiO 2 微粒子と iPP グラフト SiO 2 微粒子を溶融混錬したナノコンポジットの 結晶化挙動について把握しグラフト鎖の影響を検討した. 第 3 章では, iPP グラフト SiO 2 のグラフト鎖分 子量依存性について検討した. 第 4 章では, iPP グラフトナノコンポジットの熱伝導率を測定し, その結 果と界面構造から界面層熱伝導率の算出を試み, 界面層におけるグラフト鎖の熱伝播メカニズムにつ 18 第 1 章. 緒言 いて考察した. 第 5 章では, これらを総括し, ナノコンポジットの学術的・工業的な価値について提案し た. 19 第 1 章. 緒言 参考文献 [1] Avella M., Cosco S., Lorenzo M. 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Nitta らは, サイズの異なる SiO2 を iPP に均一分散させた系の結晶化挙動について報告してい る. その中で, iPP の成長速度は SiO2 の添加量の増加に伴い系内の分子鎖の運動性が低下し成長 速度が減少することを明らかにしている[8-13]. 興味深いことに彼らは, 成長速度がゼロになる 速度の SiO2 粒子間距離がマトリクスの両端間距離と一致することを示している. ポリマーの結 晶成長は, 高分子の結晶表面へ移動する分子鎖の運動が必要であり粒子間距離に強く影響を受 23 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- ける. すなわち, 粒子サイズと添加量で決定される. 表面修飾もまた, 界面の分子鎖の運動性やマトリクスの結晶化に影響を与える. これまでに数 多くの表面修飾手法が報告されている[8-13]. その中でも相溶化剤やシランカップリング剤を導 入させ, 界面のぬれを改善される手法が一般的である[10-11]. 近年では, オリゴマーや高分子を グラフトする手法が注目されている[12]. その微粒子表面に結合されたグラフト鎖の構造は複雑 で, その形態は様々ありグラフト鎖の分布に強く依存する. これまでの報告から, その形態はグ ラフト密度によって,「マッシュルーム型」,「準希薄ブラシ」,「濃厚ブラシ」と分類されており, それらの界面構造はグラフト鎖の分子量との兼ね合いから基板上にある結合距離(Sb)が保持され て形成される[14-16]. その異なる構造は, たとえマトリクスポリマーと同じ化学構造でも様々な 物理的あるいは化学的な相互作用をもたらす. それらの相互作用は界面のグラフト鎖の運動性 の違いが影響され, マトリクスポリマーの結晶化に影響を与える. 近年, Terano らによって, ナノサイズの SiO2 表面に iPP 鎖をグラフトする手法に初めて成功し ている[17-18]. このナノコンポジットの分散性は SiO2 表面の相溶性が向上し凝集サイズが低下 する. また, 表面修飾を施さない未修飾 iPP/n-SiO2 と iPP を SiO2 表面にグラフトさせた iPP/g-SiO2 の結晶化速度を比較し, 核密度の違いが結晶化速度に影響していることを示している. しかしな がら, ナノコンポジットの結晶化は完全には理解されていない現状がある. そのような背景の中, グラフト鎖の役割を理解する目的から, マトリクスと同じ一次構造を有するグラフト鎖で表面 修飾されたナノ SiO2 粒子を充填剤とするナノコンポジットの結晶化過程について詳細に検討を 行う. 本研究では, ナノコンポジットを示差走査熱量測定(DSC)および偏光顕微鏡(POM)を用い て結晶化挙動を観察する. iPP のグラフト鎖は 26 nm の SiO2 表面に官能基などを導入せずに直接 グラフトさせる手法を用いた. そのグラフト鎖および SiO2 添加量が iPP の結晶化挙動に与える影 響について全体結晶化速度から検討を行い, その影響因子である核形成能力ならびに球晶成長 速度について詳細に検討する. 2.2. 実 2.2.1. 原 験 料 マトリクスポリマーは Aldrich 社より購入した市販の iPP を用いた.(Mw = 250,000 g/mol, MWD = 3.73) フィラーは関東化学社より購入したナノ SiO2 を用いた.(平均一次粒子径; 26 nm, 表面積; 110 m2/g) 2.2.2. グラフト SiO2 におけるグラフト鎖の調製 24 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- iPP-OH は窒素雰囲気化にて 0oC のトルエン溶媒中にメタロセン触媒である Rac-エチレンビス(インデ ニル)ジルコニウム ジクロリド(EBIZrCl2)を用い, 活性化剤の修飾メチルアルミノキサン(MMAO; Al/Zr = 3000)及び, 連鎖移動剤のトリエチルアルミニウム(TEA)を導入しプロピレンガスによって 1 時間重合させ た. その後, 直ちに酸素バブリングを開始し, その 30 分後に過酸化水素(35%)を導入し 1 時間加水分 解を行い iPP-OH を調製した. TEA モル濃度によるマスターカーブから, Mn = 12,000(12k) g/mol の重合 を行った. 重合された iPP-OH をメタノールによって触媒と分離させエタノールおよび純水で洗浄を行っ た. 得られた iPP-OH は 60℃で約 6 時間真空乾燥され, 完全に溶媒を除去した. その後, 得られた iPP-OH を SiO2 と化学結合するために, 200℃のテトラデカン溶媒中で約 6 時間 iPP-OH と SiO2 表面の シラノール基の脱水縮合反応を行った. その際, iPP-OH および g-SiO2 の熱劣化を防止する目的から安 定化剤(AO-50)を 0.1 wt%導入した. その後, テトラデカン溶媒を除去するためにメタノールで撹拌後, 十分にろ過を行い 60oC で真空乾燥させた. 最後に, g-SiO2 と未反応の iPP-OH を分離するために, 140oC の o-ジクロロベンゼン(ODCB)溶媒中で 1 時間撹拌させ十分に洗浄(熱ろ過)を行った. iPP-OH の分子構造はマスターカーブおよび 13C-NMR から以下のような構造と同定された. Mn; 12,000 g/mol, MWD; 約 2.5, メソペンダット分率(mmmm); 約 86 mol%. 2.2.3. ナノコンポジットの混錬 iPP ペレットおよび安定化剤 0.5 wt%(AO-50)を 2 ロール混錬機を用いて 185℃で 5 分間溶融した 後, 所定量の n-SiO2 および g-SiO2 を添加し 10 分間溶融混錬した. SiO2 添加量は 0~15 vol.%とした. 得られた試料を真空下で 200℃, 5 分間溶融プレスを行い, 約 0℃の氷水にて急冷することでフィルム状 の試料を得た. 2.2.4. 熱重量分析(TGA) 示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA; SII TG/DTA6200)を用い, n-SiO2 および g-SiO2 の重量減少を 測定した. 試料重量は約 10 mg とし, 室温から 500℃まで 20℃/min の昇温速度で温度上昇後 10 分間 保持させた. また, SiO2 添加量を測定するために iPP/n-SiO2 および iPP/g-SiO2 についても同様に熱分 解させ, それぞれの重量分率を測定した. 2.2.5. 示差走査熱量測定(DSC) 熱分析装置は, Perkin Elmer DSC7 の示差走査熱量測定(DSC)を用いて窒素雰囲気下(40 ml/min) で行った. 試料重量は 5~6 mg としリファレンスには空のアルミパンを用いた. また, 融解熱量および融 25 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- 解温度較正はインジウムおよび錫を利用した. 結晶化条件は, 熱履歴をすべて消失するために溶融温 度 200oC(5min)保持後, 冷却速度は 20oC/min とし結晶化温度(Tc)128oC において完全に結晶化が完了 するまで行った. 2.2.6. 走査型電子顕微鏡観察(TEM) 電子顕微鏡は, JEOL JEM-1200EX を用い SiO2 の分散性を評価した. iPP/n-SiO2(1.8 vol.%)および iPP/g-SiO2(1.2 vol.%)は 200oC(5min)で溶融後 0oC の氷水で急冷した. 試料薄片の試料はエポキシ樹 脂に包埋されウルトラミクロトーム(Reichert; ULTRACUT S)で厚さ 70 nm で切断された薄片を観察した. TEM の観察は加速電圧 100 kV で観察を行った. TEM 画像から SiO2 粒子の凝集サイズを測定するた めに, 画像解析ソフト(Multi Gauge V3.0; FUJIFILM)を用いて解析を行った. 2.2.7. 偏光顕微鏡観察(POM) iPP/SiO2 ナノコンポジットの結晶化におけるモルホロジー観察は, オリンパス社製 BX-50 型偏光顕微 鏡(POM)を用いて融解温度 200oC(5 分), Tc=135oC における核密度および球晶成長速度についてそれ ぞれ測定した. 試料はカバーガラスに挟まれた状態で熱処理を行った. 温度ジャンプセルは研究室独 自の装置を用いた. その冷却勾配は 1000oC/min 以上である. 2.3. 結果と考察 2.3.1. SiO2 表面の界面構造 Fig. 1 に n-SiO2 および g-SiO2 の時間に対する重量減少率を示す. グラフから明らかなように, n-SiO2 は温度に対して重量減少は極めて微量でほぼ一定であるのに対して, g-SiO2 は温度上昇に ともない重量減少が明確に確認される. したがって, この重量減少は SiO2 表面の iPP グラフト鎖 に相当される. その得られたグラフト鎖の重量から以下の式を用いグラフト密度,σが算出され る. σ= W ⋅ N A ⋅ ρ f ⋅ r ⋅10 −21 (1) 3 ⋅ M n ⋅W f ここで, W は iPP の質量, NA はアボガドロ数, ρf は SiO2 の密度, r は粒子半径, Mn は iPP の数平均分 子量, Wf は SiO2 の質量を表す. その結果, グラフト密度は 0.03 chains/nm2 と見積もられた. また, 以下の式のように得られたσとグラフト鎖の隣り合うグラフト鎖間距離(Sb)の関係から Sb が算出 26 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- 600 100 500 Mass (%) 99 400 n-SiO 2 98 300 97 94 100 g-SiO 95 o 200 96 Temperature ( C) 101 2 0 5 10 15 20 25 30 0 Time (min) Fig.1 TG thermograms of n-SiO2 and g-SiO2 particle during heat treatment. The temperature is also indicated in the figure. 27 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- される[19-20 ]. Sb = (4 πσ ) 1 2 (2) その結果 Sb は 6.5 nm と算出された. このようなグラフト層のσ, Sb を同定する手法は広く一般的 に用いられている. 近年, Tsujii らによってリビングラジカル重合(LRP)を用いて, 微粒子にポリマー鎖を高濃度で 結合させる技術が確立され, 高濃度ブラシの重合に成功している[21-24]. 一般的に, そのグラフ ト鎖の隣接距離と慣性半径の関係が Sb >2Rg の場合, 界面のグラフト層の形態はマッシュルーム 型となることが知られている. 一方, かれらの報告によると Sb <2 Rg の場合, 体積排除効果から グラフト鎖は配向することが明らかとなっている. 例えば, 濃厚ブラシに高配向したグラフト鎖 は界面層の摩擦係数を低下させるような界面の特性を変化させるように, 新たな機能性が発現 する可能性があることは非常に興味深い[23-24]. ここで, 慣性半径は分子量に強く依存し静的光 散乱法を用いて測定される. その手法を用いられたこれまでの報告によると iPP の Rg は以下の 式のように示される[25]. Rg = 0.022 M w0.56 (3) それらを踏まえると本系の g-SiO2 のグラフト構造は Sb<2Rg であることから“準希薄ブラシ”に 相当するものと考えられる. また, 界面の厚み(∆r)についてこれまでにさまざまな手法で界面厚 を同定した報告がある[4, 26-30]. それらの中で, 動的粘弾性測定装置(DMA)を利用し複合材料の 損失弾性率(Ec’’)と iPP の E0’’の比率を求める手法を用いて界面厚を見積った. その関係式は以下 のように示される[4, 29]. 1 E"c = E"0 1 − ϕ f ⋅ B (4-1) ∆r B = 1 + r (4-2) 3 ここで, φf および r は, それぞれ SiO2 の体積分率, 粒子半径を表し, ∆r は界面厚を表す. 上述の (4-1), (4-2)式から∆r は 15.5 nm と見積もられた. それらの構造を纏めたものを Table 1 に示す. 28 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- Table 1. Structural characteristics of grafted iPP chains Number density Interchain distance Radius of gyration σ / chains nm S b / nm R g / nm 0.03 6.5 7.1 -2 E''c=1.2%/E''0 Interfacial layer thickness h / nm 1.14 15.5 (a) 200 nm (b) 200 nm Fig.2 TEM micrographs of n-SiO2/iPP (a) and g-SiO2/iPP (b). The black sphere indicates the aggregated SiO2 particle. 29 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- Fig.3 Schematic illustration of the hierarchical structure of g-SiO2 in the matrix iPP. 30 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- Fig. 2 に iPP/n-SiO2 (1.8 vol.%)および iPP/g-SiO2 (1.2 vol.%)の電子顕微鏡(TEM)画像を示す. TEM 画像から真円状の濃淡の物質が SiO2 粒子であることを示している. また画像から明らかなよう に iPP/n-SiO2 および iPP/g-SiO2 の SiO2 は凝集体を形成していることがわかる. その凝集サイズを 300 個以上測定したところ平均 118 nm(n-SiO2)および 104 nm(g-SiO2)と見積もられ, 表面修飾によ る SiO2 表面の濡れ性が向上し凝集サイズの低下が確認された. Fig. 3 に界面構造を同定した模式図を示す. この画像からわかるように, SiO2 表面から結合さ れた iPP 鎖は, やや配向した構造を形成し明確な界面層として存在する. また, それぞれの SiO2 は凝集しグラフト鎖は分散性の向上に寄与したものの, サブミクロンオーダーの凝集体の形成 が示された. 2.3.2. 全体結晶化速度 Fig. 4 に iPP/n-SiO2(a)および iPP/g-SiO2(b)の 128oC の等温結晶化過程における時間に対する DSC 曲線の発熱反応を示す. 発熱ピークの時間は半結晶化時間に相当される. iPP/n-SiO2 の半結晶化時間 は SiO2 添加量を増やしてもほぼ一定であり添加量に影響されない. 一方, iPP/g-SiO2 は SiO2 添加 量の増加とともに半結晶化時間が明確に短くなることがわかる. このことから, iPP/g-SiO2 を添 加することによって, マトリクスの全体結晶化速度を加速させていることが示された. Fig. 5 に, 半結晶化時間(t1/2)の逆数を全体結晶化速度(V=1/t1/2)と定義したときの V に対する SiO2 添加量の関 係を示す. SiO2 添加量が 1 vol.%までは iPP の結晶化に対してすべてのサンプルで加速されること がわかる. しかしながら, その加速効果は極めて小さく iPP/n-SiO2 および iPP/g-SiO2 共に同様の 傾向を示していることからマトリクスの 結晶化に与える影響は小さいといえる . しかし, iPP/g-SiO2 の V は g-SiO2 添加量が 1 vol.%を超えると急激に加速された. その加速効果は, 2.3.1.節 で示された SiO2 の凝集サイズ(fig. 3)に大きな変化は確認されないことから iPP/n-SiO2 と iPP/g-SiO2 の分散性の違いに起因されるものではないと考えられる. したがって, iPP の結晶化の 加速効果は iPP グラフト鎖であることが強く示唆される. さらに, 10 vol.%の添加量領域において V の減速が示され, それは iPP/n-SiO2 および iPP/g-SiO2 ともに同じ傾向を示している. この結晶化 速度の減速効果は, これまでの報告から粒子間距離が影響している可能性がある. この減速効果 についてはのちに考察する. 2.3.3. 等温結晶化過程における Avrami 分析 高分子の定温における全体的な結晶化動力学に関する式として Avrami の式が適用できる 31 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- 0% 0.09% Exothermic 0.18% 0.9% 1.8% 14.6% (a) 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 Time [min] 0% 0.06% Exothermic 0.12% 1.2% 2.3% 12.9% (b) 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 Time [min] Fig.4 DSC thermograms of n-SiO2/iPP (a) and g-SiO2/iPP (b) during isothermal crystallization at 128 ºC. 32 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- 0.02 -1 V (sec ) 0.018 iPP 0.016 0.014 0.012 □iPP/n-SiO 2 ●iPP/g-SiO 2 0.01 0.01 0.1 1 10 SiO2 content (vol.%) 100 Fig. 5 Plots of the crystallization rate of the composites against the SiO2 content. The crystallization temperature is 128 ºC. 33 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- [31-32]. [ X c (t ) = 1 − exp − k (t − τ ) n ] (5) ここで, Xc は時間に対する相対結晶化度, n は Avrami 指数とされ, これは核形成や結晶成長様式 に関係する値である. また k は速度定数であり核形成頻度や成長速度のパラメータが含まれてい る. 相対結晶化度 Xc は, 熱量の比率に等しく, 以下の式にて表すことができる. X (t ) = Qt = ∫ (dH dt )dt t Q∞ 0 ∞ ∫ (dH dt )dt (6) 0 ここで, t から∞の範囲は, 結晶化の開始から結晶化が完了するまでの時間であり, dHc/dt は, 転移 による発熱の速度を示す. また, (5)式は以下の式ように変換できる. log[− ln (1 − X (t ))] = n log(t − τ ) + log k (7) Avrami 指数 n と速度定数 k は, log[-ln(1-X(t))]に対する(t-τ)のプロットの傾きと切片から求められ る. ここで,τ は結晶化が開始するまでの時間を表し, Avrami プロットがストレートになるように τを調整した. Fig. 6 に iPP/n-SiO2 および iPP/g-SiO2 の Avrami プロットを示す. n は 3~4 の間をとり 不均一核形成と均一核形成の 3 次元成長であると考えられる. それらの Avrami 解析を纏めたも のを table 2 に示す. Avrami 指数は iPP/n-SiO2 の添加量の増加にともない徐々に低下傾向を示した. ここで, 高次構造はすべて球晶であることがすべてのサンプルで確認されており成長様式は 3 次 元成長である. それゆえ, Avrami 指数の低下は核形成過程にあると考えられ粒子の界面層が核形 成頻度を増加させた可能性がある. 2.3.4. 結晶核形成 iPP/SiO2 コンポジット試料における結晶化速度の加速効果を理解するために, 偏光顕微鏡(POM)に よる結晶化観察を行った. Fig. 7 に, 135oC の等温結晶化過程における iPP(a), iPP/n-SiO2(1.8 vol.%)(b) および iPP/g-SiO2(1.2 vol.%)(c)の 155 秒後の球晶画像をそれぞれ示す. 球晶数密度は, それぞれ の球晶の数をカウントし, その数を体積で除算することによって表すことが出来る. 画像からも 明らかなように iPP と iPP/n-SiO2 の球晶数に変化は無く iPP/n-SiO2 による核形成は非常に乏しい 34 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- 1 (a) 0.5 log[-ln(1-Xt)] 0 -0.5 -1 -1.5 iPP 1.8 vol.% 14.6 vol.% -2 -2.5 3.5 4 log(t-τ) 4.5 5 1 0.5 (b) log[-ln(1-Xt)] 0 -0.5 -1 iPP 1.2 vol.% 2.3 vol.% 12.9 vol.% -1.5 -2 -2.5 3.6 3.8 4 log(t-τ) 4.2 4.4 Fig. 6 Avrami Plots of iPP with various contents of n-SiO2 (a) and g-SiO2 (b). The crystallization temperature is 128 ºC. 35 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- Table 2 Summary of Avrami analysis for iPP/n-SiO2 and iPP/g-SiO2 SiO2/ vol.% τ / sec n k / s-n 0 3.5 3.38 6.81 × 10-7 iPP/n -SiO2 1.8 3.0 3.21 1.53 × 10-6 iPP/n -SiO2 14.6 3.5 3.08 5.25 × 10-7 iPP/g -SiO2 1.2 2.5 3.31 1.49 × 10-6 iPP/g-SiO2 2.3 3.0 3.25 2.28 × 10-6 iPP/g-SiO2 12.9 3.5 3.54 2.74 × 10-7 iPP 36 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- (a) 50µm (b) 50µm (c) 50µm Fig. 7 Polarized optical microscope of iPP (a), n-SiO2/iPP (b), and g-SiO2/iPP (c) at the elapsed time of 155 sec during the isothermal crystallization at 135 ºC. 37 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- □iPP/n-SiO -3 Spherulite number density (mm ) 250 2 200 ●iPP/g-SiO 2 150 100 iPP 50 0 0.01 0.1 1 10 SiO content (vol.%) 2 Fig. 8 Plots of the spherulite number density as a function of SiO2 content. The crystallization temperature is 135 ºC. 38 100 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- ことが分かる. 一方, iPP/g-SiO2 の球晶数密度は明らかに増大し iPP の核形成に影響を与えている. iPP の核形成頻度の増加は fig. 3 の TEM 画像から示される分散性の違いが示すものではなく SiO2 表面のグラフト鎖が iPP マトリクスの核形成に著しく影響したものと考えられる. Fig. 8 に SiO2 添加量に対する核密度の依存性を示す. 未添加試料である iPP の球晶数密度に対 して n-SiO2 は核形成効果に乏しく SiO2 添加量依存性を示していない. 一方, iPP/g-SiO2 の球晶数 密度は 2.3 vol.%まで核密度は単調に増加している. これは SiO2 表面のグラフト鎖が核形成に影 響していることを証明するものである. また, 興味深いことに球晶数密度は極大を持ち SiO2 添 加量が 2.3 vol.%を超えると急に低下する. この極大から iPP/g-SiO2 は iPP の核形成に対して増加 効果と減少効果を持ち合わせていることが示された. 2.3.5. 球晶成長速度 Fig. 9 に 135oC の等温結晶化過程における時間に対する球晶サイズの変化を示す. 結晶性高分 子の等温結晶化過程において, 球晶の成長する長さは時間に対して線形性を示すことが知られ ている. また, ポリマー/可塑剤添加系では, 非線形の結晶成長が観察された例もある[33]. こ れは可塑剤が結晶から排除されアモルファス相へ混入する. また, 結晶化後期において球晶の外 側に可塑剤濃度が増加することから, 成長速度が加速し非線形となると考えられている. 本系に おいては, それぞれのサンプルで誘導期に大きな違いはなく, すべてのサンプルにおいて球晶の 衝突まで線形性を示しており, その勾配が球晶成長速度に相当する. それらのコンポジットの球 晶成長速度に対して SiO2 の添加量を対数プロットしたものを fig. 10 に示す. 点線に示すライン は iPP の球晶成長速度を表す. iPP/n-SiO2 は 0.9 vol.%までは変化がなく一定であるが, それを以上 の添加量において徐々に成長速度は減速していく. これは, SiO2 の添加量の増加にともない粒子 間距離が短くなることで, マトリクスの分子鎖が拘束される効果が働いたことによって説明が できる. 粒子間距離(d)は, 幾何学的に考えると以下の式から算出することが出来る[6, 34]. 1 3 4 2 π d= − 2 r 3ϕ f (8) ここで, φf, r はそれぞれ体積分率および粒子半径を表す. Nitta らの報告によると, 成長速度は SiO2 粒子間の距離に依存することを示している. これは, 39 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- Spherulite radius (µm) 15 0% 1.8 % 7.1 % 14.6 % 10 5 0 0 50 100 150 200 250 300 200 250 300 Time (sec) Spherulite radius (µm) 15 0% 2.3 % 5.6 % 12.9 % 10 5 0 0 50 100 150 Time (sec) Fig. 9 Changes in the radius of spherulite of iPP/n-SiO2 (a) and iPP/g-SiO2 composites (b) during the crystallization at 135 ºC. 40 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- Spherulite Growth Rate (µm/sec) 0.07 0.06 iPP 0.05 0.04 0.03 0.02 □iPP/n-SiO 0.01 2 ●iPP/g-SiO 2 0 0.01 0.1 1 10 100 SiO content (vol.%) 2 Fig. 10 Plots of spherulite growth rate of SiO2/iPP composites as a function of SiO2 content. The crystallization temperature is 135 ºC. The broken and bold line indicate the growth rate of iPP and the fitted curve of eq.8 and 9 assuming the particle radius of 143 nm, respectively. 41 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- SiO2 添加量の増加に伴い(8)式の関係から粒子間距離が低下する. その粒子間距離の逆数(1/d)と 成長速度についてプロットすると線形性を示し, 得られた fitting 直線を外挿すると最終的には成 長速度がゼロになる粒子間距離が存在することを報告しており, 以下の式のように定義される [6]. Gc = G − k 1 d (9) ここで, Gc および G はそれぞれコンポジットの成長速度および未添加試料(iPP)の成長速度を表 す. k は分子量に依存しない定数である. かれらは, 成長速度がゼロになる粒子間距離(d)は, 分子 鎖の平均二乗両端間距離<r02>1/2 に一致すると結論付けている. しかしながら, 実際の粒子半径 (r=13 nm)を適用し粒子間距離の逆数(1/d)と成長速度の関係をプロットさせ, 線形による外挿か ら得られる臨界距離は 2 nm となる. ここで, iPP の両端間距離は分子量(Mw)に依存することが知 られており, 以下の式から算出される[35]. r02 Mw 1 2 = 0.83 (10) その結果, マトリクスの<r02>1/2 は 41.5 nm と見積もられ, 臨界距離はマトリクスの両端間距離よ りも短い距離となることがわかる. この成長速度と粒子間距離から計算された臨界距離と両端 間距離の大きな違いは SiO2 の凝集が影響しているものと強く示唆される. そこで, dc=<r02>1/2 と なるように fitting させると凝集サイズが見積もられると考えた. ここで, dc は成長速度がゼロに なる距離を表す. その得られた fitting 曲線を fig. 10 の太線に示す. 得られた fitting 曲線は n-SiO2 の成長速度の実験結果とよく一致していることがわかる. その曲線から示される凝集サイズは 143 nm と見積もられ, TEM による直接観察された平均凝集サイズ(118 nm)とよく一致する. この 手法は, 結晶性高分子とナノ微粒子の平均凝集サイズを見積もることに利用出来る可能性を十 分有しており非常に興味深い. 一方, iPP/g-SiO2 の球晶成長速度に対する SiO2 添加量依存性を fig. 10 に示す. iPP/g-SiO2 の球晶 成長速度は 2.3 vol.%から明確に加速効果が確認され 5.6 vol.%で極大を示し, さらに添加量を増 42 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- 加させると減速効果を示した. 興味深いことに, iPP/g-SiO2 は iPP の結晶化に対して iPP/n-SiO2 の 減速効果とは逆の加速効果を示した. また, 高添加量の減速効果は SiO2 の粒子間距離の近接に よる分子鎖の拘束による運動性低下によるものであり, n-SiO2 と同様の傾向として説明できる. このように, iPP の加速効果は n-SiO2 では示されず, ナノ粒子に iPP グラフト鎖が結合されている もので発現することが明らかとなった. また, 低 SiO2 添加量ではその効果は確認されず中間の SiO2 添加領域で起こる g-SiO2 特有なものである. ここで, 結晶性高分子の成長速度は分子量に依 存することが知られている. その成長速度は, 以下の式によって表される. − Kg U∗ G = G0 exp − exp R(Tc − T∞ ) Tc ∆Tf (11) ここで, G0 は分子量に依存する係数, U*は分子鎖の運動性に関係する活性化エネルギー, R はガス 定数, Tc は結晶化温度, T∞は平衡融点, ∆T は過冷却度を表し∆T=Tm0-Tc である. Kg は核形成定数と され, f は f=2Tc/(Tc-Tm0)の補正係数である. Umemoto らは, 代表的な結晶性高分子の成長速度と分 子量の関係について詳細に検討した結果, G0 は G0 ∝ M-0.5 のように分子量に依存することが示 されている[37]. この G0 の分子量依存性は粘度と同じような振る舞いを示し, 結晶成長面上にお ける分子鎖の吸着と表面拡散の分子量依存性から説明できる. また, そのべき乗則の-0.5 は高分 子に依らず一定であることが報告されており iPP も当然含まれる. したがって, iPP の成長速度の 加速は低分子量である iPP グラフト鎖によるものに違いない. それゆえ, 球晶成長速度は SiO2 添 加量の増加にともない g-SiO2 界面におけるグラフト鎖濃度が増加したためと考えられる. また, 界面のグラフト層は 15.5 nm の準希薄ブラシ構造を形成しており, グラフト密度から考えてマト リクスの分子鎖は界面層に入ることが出来ると考えられる. その界面層において, グラフト鎖 iPP の分子量はマトリクスのそれと比較すると十分小さいため, グラフト鎖/マトリクス鎖の 絡み合い数はマトリクス鎖/マトリクス鎖と比較して大幅に減少することは確かであろう. 絡 み合い数の低下は結晶化の際に一次核形成および二次核形成(結晶成長)を促進する. これまでに報告されている全てのポリマーナノコンポジットにおいて, グラフト鎖の化学構 造はマトリクスポリマーとは異なる. これらのマトリクスと化学構造の異なるグラフト鎖は本 研究と同様に溶融体中で絡み合いを形成し, 物性の向上に寄与することは多く報告されている が, 結晶化過程においてグラフト鎖は成長するラメラ表面から排除されなくてはならないため, 成長速度への寄与は小さいと思われる. 実際にこれまでに本研究で観察された加速効果を報告 43 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- した例はなく, 本研究がはじめてである. 以上のことは, 上述の成長速度の加速効果が, グラフト鎖が成長するラメラに取り込まれ, 共 結晶化することにより実現したことを強く示唆している. Fig. 11にiPP/g-SiO2ナノコンポジット における結晶化メカニズムのモデル図を示す. しかしながら, このような界面極近傍における 局所構造は精密構造解析による可視化が非常に困難である. グラフト鎖とマトリクス鎖の化学 構造が同一であることが構造解析を困難にしている. 可能性としてグラフト鎖を重水素化し, マトリクスとの散乱コントラストを生じさせることにより, グラフト鎖のみの構造(結晶性の有 無など)を浮き上がらせることができるが, 今後の課題であり, 本研究では対象としていない. 次章では, 様々な分子量をもつグラフト鎖について本章と同様に検討を加え, 本章で示唆され たグラフト鎖の結晶化過程における役割を検証する. 2.4. 結 論 本章では, iPP/SiO2 ナノコンポジットの結晶化挙動を検討した. 平均一次粒子径 26 nm の単分 散 SiO2 粒子(「未処理 SiO2」, 「n-SiO2」)表面に対して, 新規に開発された直接グラフト法を用 いて, 分子量が精密に制御された iPP 分子鎖をグラフトした. このように表面修飾した SiO2 粒子 (「グラフト SiO2」,「g-SiO2」)を iPP と混錬してコンポジット化することにより, フィラー表面 を修飾するグラフト鎖とマトリクスポリマーの化学構造が同一であるナノコンポジットを作製 した. グラフト鎖がマトリクス iPP の結晶化に及ぼす影響を理解することを目的として, 未処理 SiO2 およびグラフト SiO2 をフィラーとする iPP とのナノコンポジットの結晶化挙動の違いを結 晶化速度論解析から検討した. n-SiO2/iPP 系では未処理 SiO2 の添加による結晶化速度の加速効果は観察されず, 高濃度領域に おいて減速効果が観察された. このことから iPP の SiO2 表面への収着による優先的な核形成は生 じないことを明らかにするとともに, 高濃度においてはナノ SiO2 粒子間の距離が減少したこと による iPP 分子鎖の束縛効果が生じていることを見いだした. 一方, g-SiO2/iPP 系ではグラフト SiO2 の添加により結晶化速度の増大が観察されるとともに, 高濃度域では n-SiO2 と同様に減速効果が観察されるという, 特異な濃度依存性を見いだした. 低 濃度領域における加速効果は核形成密度および結晶成長速度の両方で確認され, 同効果がグラ フト SiO2 表面における優先的核形成のみならず, グラフト鎖 iPP による結晶成長機構の変化にも 起因していることを初めて明らかにした. この特異な結晶化促進効果は①グラフト鎖 iPP がマト リクス iPP より分子量が低いこと, また②同一の化学構造を有することから, 結晶化に際してラ 44 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- メラ内に両方の iPP 分子鎖が取り込まれる(共結晶化する)ことにより発現したものと考えられ る. ①は, 界面近傍における iPP 鎖同士の絡み合いが減少し, 一次核形成および二次核形成(結晶 成長)を促進することによる結晶化速度の上昇であり, ②は結晶化に際してグラフト鎖が結晶外 に排除されることなく成長する結晶面に収着し, 共結晶化するものと考えられた. さらに未処理 SiO2, グラフト SiO2 ともに高濃度においては結晶加速度が低下することから, SiO2 粒子間の距離はマトリクス分子鎖の運動性を本質的に支配する因子であると考えられる. 次章では, 本章で検討した SiO2 濃度依存性に加え, グラフト鎖の分子量が結晶化挙動に及ぼ す影響を詳細に検討することにより, 上述のモデルの妥当性について検討する. 45 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- Melting state Crystallization state Co-crystallization Nucleation ability effect Fig. 11 Schematic illustration for the interfacial crystalline structure of iPP/g-SiO2. 46 第 2 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖の役割- 参考文献 [1] Liang J.Z., Li R.K., Polym. 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[37] Umemoto S., Okui N., Polymer, 2005;46:8790-8795. 48 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- 第3章 ポリプロピレン/グラフト SiO 2 ナノコンポジット における結晶化挙動 -グラフト鎖分子量依存性3.1. 緒 言 高分子系ナノコンポジットは, その推測される力学物性あるいは機能性の付与から近年注目 を浴びており, 多くの研究者らによって研究されている[1-5]. それらの諸物性を制御するために は, 高分子と微粒子の濡れ性の制御や結晶化過程の理解が非常に重要であることは第 2 章で述べ た通りである[4-10]. 第 2 章では, 未処理の SiO 2 コンポジット(iPP/n-SiO 2 )と Nitta らが開発した iPP グラフト SiO 2 コンポジット(iPP/g-SiO 2 ; M n = 12,000 g/mol)の結晶化挙動を SiO 2 添加量で比較 した結果, iPP/g-SiO 2 の系において低添加量領域で球晶成長速度(G)の加速効果を初めて確認した. これは, グラフト鎖の低分子量成分による分子量効果と考えられ, マトリクス鎖とグラフト鎖の 共結晶化と結論付けた[11]. また, 高添加量領域において, iPP/n-SiO 2 および iPP/g-SiO 2 共に G の 減速効果を確認している. これは, 溶融体におけるマトリクス鎖の拡がりの距離に近づくことに よる影響, すなわち粒子間距離の近接による閉じ込め効果によって分子鎖の運動性を阻害させ たと理解され, 平均二乗両端距離と粒子間距離が一致するときに球晶成長速度がゼロになるこ とを明らかにした[11-12]. このように, 表面修飾されたナノサイズの微粒子添加によって得られ る比表面積の増加と低添加量で発現する著しい粒子間距離の近接はマトリクスの結晶化に強く 影響を与え, それは加速効果と減速効果の合成で決定される挙動から非常に興味深く, 高分子物 理学において重要である. 本研究では, iPP/SiO 2 ナノコンポジットの結晶化において iPP グラフト鎖の役割を理解するこ とが筆者の主眼であることは, これまでにも記述してきたが, 表面修飾されたグラフト鎖が結晶 化挙動に与える影響を完全に理解したわけではない. これは, グラフト鎖の表面密度が異なると その形態が変化し[13-14], マトリクスとの相互作用が異なることが推測され, 界面層の結晶化挙 動はたとえマトリクスと同じ iPP 鎖であってもグラフト鎖の構造の違いによって異なる可能性 がある. そこで本章では, 分子量の異なる iPP グラフト鎖を重合し同様の手順で調製された g-SiO 2 を用いて, 結晶化挙動を検討した. 実験には, 前章と同様に iPP/SiO 2 ナノコンポジットを 示差走査熱量測定(DSC)および偏光顕微鏡(POM)を用いて結晶化挙動を観察する. グラフト鎖分 子量は前章の 12,000(12k) g/mol に加え, 5,800(5.8k)および 46,000(46k) g/mol とし, 界面構造の観点 49 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- から結晶化挙動を検討する. 3.2. 実 験 3.2.1. 原 料 iPP ペレットは, Sigma-Aldrich 社製より購入した M w = 250,000 g/mol, MWD = 3.73 の iPP を用い た. SiO 2 は, 関東化学(株)から購入した NanoTek 製の平均一次粒子径 26 nm (100 m2/g)のナノ微粒 子を用いた. 3.2.2. グラフト SiO 2 におけるグラフト鎖の調製 iPP-OH は, rac-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジクロライド (EBIZrCl 2 ) /修飾メチルアルミノ キサン(MMAO) 触媒で重合を行い, 連鎖移動剤であるトリエチルアルミニウム(TEA)を用いて, 活性点 末端に iPP-Al 結合を形成し, 酸化・加水分解を経て合成した. iPP-OH の分子量(M n )は, TEA モル濃度と iPP 分子量に強い相関関係があることで知られていること から, 実験的に本系の重合における検量線を把握している[15-16]. それを踏まえると本系の分子量は, M n = 5,800, 12,000, 46,000 g/mol (MWD; 約 2.5, mmmm; 約 86 mol%) と見積もられる. 得られた iPP-OH をメタノールによって触媒と分離させ, エタノールおよび純水を用い十分に洗浄を行い, 60℃で 6 時間真空乾燥した. 次に, iPP-OH と SiO 2 表面のシラノール基を脱水縮合させるために, 高沸点なテト ラデカン溶媒を用いて 200oC で 6 時間反応させた. なお, 反応時の劣化を抑制するために安定化剤 (AO-50)を 0.1 wt%導入した. 最後に, g-SiO 2 と未反応の iPP-OH を分離するため, 140oC のオルトジクロ ロベンゼン(ODCB)溶媒中で 1 時間撹拌させ洗浄し, 60℃で 6 時間真空乾燥した. 3.2.3. ナノコンポジットの混錬 ナノコンポジットの混錬は, 2 ロール混錬機を用いた. 混練条件は, ロール回転速度 20 rpm, ロール 表面温度 185oC とした. 始めに, iPP ペレットを完全に溶融したのち安定化剤(AO-50; (株)ADEKA)を 0.1 wt%添加した状態で 5 分間溶融させた. 直ちに, n-SiO 2 および g-SiO 2 を添加し 10 分間溶融混錬を 行った. SiO 2 添加量は 0 ~25 vol.%とした. 得られた試料を真空下で 200℃, 5 分間溶融プレスを行い, 約 0℃の氷水にて急冷することでフィルム状の試料を得た. 3.2.4. X 線光電子分光法(XPS) XPS(Perkin Elmer 製 ESCA 5600 型)を用い, n-SiO 2 および g-SiO 2 における表面の原子濃度を測定し 50 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- た. X線源にはマグネシウム Kα線(15kV, 400W)を用い, 光電子の取り出し角を 45o に固定した. また, 測定は試料チャンバーの真空度 5.0×10-8Torr 以下にて行った. 3.2.5. 熱重量分析(TGA) n-SiO 2 およびグラフト鎖分子量が異なる 3 種類の g-SiO 2 は, 示差熱熱重量同時測定(TG-DTA; SII TG/DTA6200)を用い重量減少を測定した. 試料重量は約 10 mg とし, 室温から 500℃まで 20℃/min の 昇温速度で温度上昇後 10 分間保持させた. また, SiO 2 添加量を測定するために iPP/n-SiO 2 および iPP/g-SiO 2 についても同様に熱分解させ, それぞれの重量分率を測定した. 3.2.6. 透過型電子顕微鏡(TEM) JEOL JEM-1200EX(加速電圧 100 kV)を用い SiO 2 表面を直接観察した. g-SiO 2 の染色として RuO 4 蒸気で 60oC, 3 時間で行った. 3.2.7. 示差走査熱量測定(DSC) 熱分析装置は, Perkin Elmer DSC7 の DSC を用いた. 雰囲気は窒素雰囲気下(40 ml/min)で行った. 試料重量は 5~6 mg とし, リファレンスには空のアルミパンを用いた. また, 融解熱量および融解温度 較正は, インジウムおよび錫を利用した. 結晶化条件は, 熱履歴をすべて消去するために溶融温度 (T a )200oC で 5 分間保持後, 等温結晶化温度(T c )135oC とし, 完全に結晶化が完了するまで行った. 3.2.8. 偏光顕微鏡観察(POM) iPP の結晶化におけるモルホロジー観察は, オリンパス社製 BX-50 型偏光顕微鏡(POM)を用いた. 結晶化条件は T a = 200oC で 5 分間保持後, T c = 135oC にて行い核形成効果および球晶成長速度につ いてそれぞれ観察した. 試料はカバーガラスに挟まれた状態で熱処理された. 温度ジャンプセルは研 究室独自の装置を用いた. その冷却勾配は 1000 oC/min 以上である. 3.3. 結果と考察 3.3.1. SiO 2 表面の界面構造 Fig. 1 に n-SiO 2 および g-SiO 2 微粒子の XPS スペクトルを示す. n-SiO 2 は Si 2p , Si 2s および O 1s のバン ドが確認された. 一方, g-SiO 2 は n-SiO 2 の元素の他に 285 eV 付近に C 1s に由来するバンドが明確に確 認された. これは, Si 表面の CH, CH 2 あるいは CH 3 に帰属されるエネルギーバンドであることからグラフ 51 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- トされた iPP であることが考えられる. Fig. 2 に, n-SiO 2 および各 g-SiO 2 の時間に対する重量減少率を示す. まず, n-SiO 2 の重量減少は 約 1%程度と極めて少ないことがわかる. 一方, g-SiO 2 系は 280oC 近傍からすべての試料において 重量減少が明確に確認できる. この重量減少は SiO 2 表面の iPP グラフト鎖が熱分解によって気 化したものに相当する. その得られたグラフト鎖の質量から以下の式を用いグラフト密度, σが 算出される. σ= W ⋅ N A ⋅ ρ f ⋅ r ⋅10 −21 3 ⋅ M n ⋅W f (1) ここで, W は iPP の質量, N A はアボガドロ数, ρ f は SiO 2 の密度, r は粒子半径, M n は iPP の数平均分 子量, W f は SiO 2 の質量を表す. σはグラフト鎖分子量の増加に伴い低下傾向を示した. また, 以下 の(2)式のように, 得られたσから隣接グラフト鎖間距離, S b が算出できる[17]. Sb = (4 πσ ) 1 2 (2) S b は(2)式からもわかるように, σに強く依存することからグラフト鎖分子量の増加に従い, S b は 当然ながら長くなる傾向を示した. 慣性半径 (R g ) は静的光散乱法を用いて測定される. その手法が用いられた報告によると, iPP の R g は以下の(3)式のように示される[18]. Rg = 0.022 M w0.56 (3) ここで, M w は iPP の重量平均分子量を表す. それらを纏めたものを table 1 に示す. 高分子鎖を材料表面に固定化(グラフト)すると, その分子鎖の形態が変化する. 一般的に, S b > 2R g の 場合は, 排除体積効果により膨張したランダムコイルに近い, マッシュルーム型を形成 する. また, S b < 2R g の場合は, 浸透圧により膜厚方向に伸張された構造をとり, 準希薄ブラシ と呼ばれる構造を形成する. さらに, グラフト密度が増加(S b << 2R g )すると, 濃厚ブラシと呼ば れる形態が発現することで知られている[13-14, 19-22]. それらを踏まえると, table 1 に示される それぞれの 2R g に対する S b は, すべて S b < 2R g の関係であることから, 本系のグラフト層はすべ て準希薄ブラシであることが示唆される. 52 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- Fig. 3 に n-SiO 2 および分子量の異なる g-SiO 2 微粒子の TEM 画像をそれぞれ示す. Fig. 3 (a)は真円 状の SiO 2 が確認できる. 一方, fig. 3 (b)~(d)は真円部の SiO 2 外周に 10~20 nm 程度の凹凸が明確に確 認できる. これは染色された iPP グラフト層である. 画像からグラフト層厚を解析し, fig. 4 にグラフト鎖分 子量に対してプロットした.式(3)から予想されるように, グラフト層厚は分子量の増加とともに厚化する傾 向が得られた. グラフト層における界面厚(∆r)について, これまでに様々な手法で∆r を同定した報告がある [23-28]. それらの中で我々は, 動的粘弾性測定装置(DMA)を利用し複合材料の損失弾性率(E c ’’) と iPP の E 0 ’’の比率から∆r を見積った. その関係式は Sumita らの研究から以下のように表され る(4-1, 4-2)[23]. E"c 1 = E"0 1 − ϕ f ⋅ B ∆r B = 1 + r (4-1) 3 (4-2) ここで, φ f および r は, それぞれ SiO 2 の体積分率, 粒子半径を表す. 上述の(4-1), (4-2)式から得ら れた結果を table 2 に示す. ∆r はグラフト鎖の分子量の増加に伴い, 厚化する傾向が確認された. 53 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- Intensity [a.u.] O1s n-SiO2 Si2s Si2p g(5.8k)-SiO2 C1s g(12k)-SiO2 g(46k)-SiO2 700 600 500 400 300 200 Binding energy [eV] Fig.1 XPS spectra of SiO2 particles. 54 100 0 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- 600 100 n-SiO2 Mass [%] 98 400 g(5.8k)-SiO2 96 300 94 g(12k)-SiO2 200 92 100 Temperature [oC] 500 g(46k)-SiO2 90 0 5 10 15 20 25 0 30 Time [min] Fig.2 TG thermograms of difference in molecular weight g-SiO2 particle during heart treatment. The temperature is also indicated in the figure. Table 1 Structural characteristics of g-SiO2. g (5.8k)-SiO2 g (12k)-SiO2 g (46k)-SiO2 M n (g/mol) σ (chains/nm2) S b (nm) 2R g (nm) 5.4 9.4 5,800 0.044 0.030 6.5 14.2 12,000 30.0 46,000 0.011 10.8 Table 2 Interfacial layer thickness of iPP/SiO2 estimation from DMA measurement. φ f (vol.%) E c '' /E 0 " iPP/n -SiO2 iPP/g (5.8k)-SiO2 iPP/g (12k)-SiO2 iPP/g (46k)-SiO2 1.8 2.1 1.2 1.0 1.17 1.21 1.14 1.21 55 ∆ r (nm) 13.1 13.4 15.5 20.7 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- Interfacial layer thickness, ∆r [nm] Fig. 3 TEM micrographs of n-SiO2 (a) and g-SiO2 (b~d) particles with various Mw of iPP. 25 20 15 10 5 TEM DMA 0 0 4 1 10 4 4 2 10 3 10 Mn [g/mol] 4 4 10 Fig. 4 Mw dependence of grafting layer thickness estimated from TEM observation for SiO2 particle (□) and DMA for composites (●). 56 4 5 10 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- 3.3.2. 全体結晶化速度 Fig. 5 は, iPP/n-SiO 2 (a)および iPP/g-SiO 2 系(b-d)の T c = 135℃における時間に対する DSC 曲線を 示す. まず, iPP/n-SiO 2 (a)は iPP (0%)に対して, n-SiO 2 を添加すると半結晶化時間(t 1/2 )に相当する 発熱ピークは低添加量領域からやや短縮する傾向を示し, 高添加量領域において著しく遅延す ることがわかる. 一方, iPP/g(5.8k)-SiO 2 (b) および iPP/g(12k)-SiO 2 (c) は低添加量領域において t 1/2 の短縮が明確に確認され, 結晶化速度の加速効果が示される. また, 高添加量領域では iPP/n-SiO 2 と同様に t 1/2 は遅延し, 発熱曲線はブロードあるいは発熱反応が確認できない挙動を 示した. それに対して iPP/g(46k)-SiO 2 (d)は t 1/2 の短縮は確認されず, 本系の g-SiO 2 添加量範囲に おいて t 1/2 は遅延し, 結晶化の鈍化がわかる. このことは, グラフト鎖の分子量の違いが全体結 晶化速度に影響を与えることを示しており, それはグラフト鎖の分子量あるいは界面層の構造 に起因していることを示唆している. Fig. 6 に, t 1/2 の逆数を全体結晶化速度 (V = 1/t 1/2 ) と定義したときの V に対する SiO 2 添加量依 存性を表す. iPP/n-SiO 2 は, 0.9 ~ 7.1 vol.%までは, やや加速効果を示すものの, 添加量依存性を示 さずほぼ一定であるが, 14.6 vol.%に到達すると急激に減速することがわかる. これは, 未処理の SiO 2 微粒子による結晶化の加速効果は極めて小さいことを示している. 一方, iPP/g(5.8k)-SiO 2 お よび iPP/g(12k)-SiO 2 は, g-SiO 2 添加量の増加に伴い, V は単調に加速効果を示している. また, 興 味深いことに, 高添加量領域になると, V は減速し極大値を示していることから, 加速効果と減 速効果が合成された挙動であると考えられる. しかし, グラフト鎖が高分子量となる iPP/g(46k)-SiO 2 は g-SiO 2 添加量に依存性を示さず, iPP の V に比べ鈍化している. このことから, V はグラフト鎖の分子量に強く影響されることが明らかとなった. それゆえ次節より, 結晶核形成 および球晶成長速度の両面から詳細に議論する. 3.3.3. 結晶核形成 Fig. 7 に, iPP(a)および未処理の iPP/n-SiO 2 (b), そして iPP/g-SiO 2 (c-e)系の等温結晶化過程(T c = 135℃)における 155 秒後の偏光顕微鏡画像を示す. 画像中の丸いモルホロジーが iPP の球晶を示し ている. 画像(a)および(b)の球晶数は同様の分布を示しており, 未処理 SiO 2 による核形成効果は 極めて小さいことがわかる. 一方, iPP/g-SiO 2 系のグラフト鎖分子量 5.8k (c)および 12k (d)は iPP 対比, 約 2 倍の球晶数の増加が確認され, iPP グラフト鎖による核形成促進効果が示された. しか し, 高分子成分の iPP/g(46k)-SiO 2 (e)は核形成効果が消失し, iPP の球晶数と同等あるいはそれ以 下を示した. このことは, 前節で示された全体結晶化速度の鈍化と傾向が一致する. 上述の傾向 57 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- 0% 0.9% 7.1% 0.6% Exothermic Exothermic 0% 9.7% 14.6% 25% (a) 0 5 10 15 (b) 20 0 5 Time [min] 10 15 0% 0.6% 0.9% Exothermic Exothermic 0% 2.3% 3% 9.4% 12.9% (c) 0 5 10 20 Time [min] 15 (d) 20 0 5 Time [min] 10 15 20 Time [min] Fig. 5 DSC thermograms of iPP/n-SiO2 (a), iPP/g(5.8k)-SiO2 (b), iPP/g(12k)-SiO2 (c) Overall crystallization rate, V [min-1] and iPP/g(46k)-SiO2 (d) during isothermal crystallization at 135ºC. 0.22 iPP/n-SiO2 iPP/g(5.8k)-SiO2 iPP/g(12k)-SiO2 iPP/g(46k)-SiO2 0.2 0.18 0.16 iPP 0.14 0.12 0.1 1 10 100 SiO2 content [vol.%] Fig. 6 Plots of the crystallization rate of the composites against the SiO2 content. The crystallization temperature is 135ºC. 58 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- Fig. 7 Polarized optical microscope of iPP (a), iPP/n-SiO2 (3.5 vol.%) (b), iPP/g(5.8k)-SiO2 (9.7 vol.%) (c), iPP/g(12k)-SiO2 (2.3 vol.%) (d), and iPP/g(46k)-SiO2 (0.6 vol.%) (e) at the elapsed time of 155 sec during the isothermal crystallization at 135℃. 59 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- は, グラフト鎖の分子量の違いが界面近傍の結晶核形成に影響を与えることを意味し, 低分子量 ほどその効果は大きいことが明らかとなった. このことは, 分子量効果に加え表面グラフト密度 の増加に起因する配向度合いの影響が考えられる. 3.3.4. 球晶成長速度 Fig. 8 に, iPP/g(5.8k)-SiO 2 における T c = 135oC の時間に対する球晶半径(r)を示す. 結晶性高分子 の等温結晶化過程において, 球晶の成長する r は t に対して線形性を示すことが知られている. また, 可塑剤添加系などには特異な非線形挙動を示すことが報告されている[29]. 本系において は, 可塑剤添加系などに起こる様な非線形挙動は示さず球晶の衝突まですべて線形性を示して いる. g-SiO 2 添加量が 0 ~ 9.7 vol.%までは添加量の増加に伴い傾斜が急になる傾向, すなわちコン ポジット試料における球晶成長速度(G c )の加速効果が確認できる. また, 高添加量領域の 25 vol.%は著しく緩やかになり, G c の鈍化が明確に確認できる. G c は他の系においても同様に測定 した. Fig. 9 に, iPP/n-SiO 2 および iPP/g-SiO 2 系における G c に対する SiO 2 添加量依存性を示す. 破線は iPP の球晶成長速度(G)を表す. iPP/n-SiO 2 の G c は 0~1 vol.%までは変化が無く一定であるが, それ を超える添加量になると単調に減速していく挙動を示した. 一方, iPP/g-SiO 2 系はすべて低添加 量領域から加速効果を示し, ある添加量から減速することが示された. ここで, iPP/g-SiO 2 系の G c に対する挙動を纏めると以下の傾向が確認された. 1) G c の加速効果は, 本系の分子量範囲ですべて確認され, その加速効果(G c /G 0 )は一定である. 2) G c の 加 速 効 果 が 始 まる SiO 2 添 加 量 の 優 位 差 は 極 め て 小 さ い が , や や 高 分 子 量 成 分 の iPP/g(46k)-SiO 2 は低 SiO 2 添加量領域で加速する傾向を示す. 3) G c の減速される SiO 2 添加量, すなわち G c の極大はグラフト鎖分子量に依存し高分子成分のグ ラフト鎖ほど低添加量側へシフトしている. G c の加速効果は第 2 章で考察したように, 分子量効果に起因される共結晶化によるものと考 えられるが, 1)で示された結果のようにグラフト鎖の分子量の相違は加速効果比率に影響を与え なかった. このことは, iPP グラフト鎖のタクティシティー(mmmm)が一定(約 86 mol%)であった ことに加え, グラフト鎖とマトリクスの相溶される度合いに起因している可能性がある. 60 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- Spherulite radius [µm] 20 2.1% 9.7% 0% 15 10 5 25% 0 0 100 200 300 400 500 600 700 800 Time [sec] Fig.8 Changes in the radius of spherulite of iPP/g(5.8k)-SiO2 composites during the crystallization at 135 ºC. Spherulite Growth Rate [µm/sec] 0.07 0.06 iPP 0.05 iPP/n-SiO2 0.04 0.01 iPP/g(5.8k)-SiO2 0.005 iPP/g(46k)-SiO2 0 0.1 iPP/g(12k)-SiO2 1 10 100 SiO content [vol.%] 2 Fig.9 Plots of spherulite growth rate of iPP/SiO2 composites as a function of SiO2 content. The crystallization temperature is 135oC. iPP/n-SiO2 (□), iPP/g(5.8k)-SiO2 (▲), iPP/g(12k)-SiO2 (○) and iPP/g(46k)-SiO2(■). 61 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- 上述の 2)で示された, 高分子量(46k)系が低 SiO 2 添加量で加速している挙動は, 溶融中のマト リクス鎖が界面層に介入される度合いが強く影響した可能性がある. 近年, Georgios らの報告に よると, 界面近傍の密度は自由鎖と基板に固定されたグラフト鎖の密度の挙動は大きく異なる ことを明らかにしている[30]. 自由鎖は界面から離れるにつれて, 密度が徐々に高まる挙動に対 して, グラフト鎖は界面から数 nm で極大をとり, その後密度は徐々に低下する挙動を示す. ま た, グラフト密度が高まるにつれて密度領域は相対的に広がる. 上述の報告を踏まえると, 本系 における各クラフト層のσが異なることから, 界面層の iPP 密度も異なることが示唆され, 時間 一定で溶融させたことが相溶の度合い, すなわちマトリクス鎖とグラフト鎖のオーバーラップ される領域を変化させたかもしれない. それゆえ, グラフト密度が低い g(46k)-SiO 2 のグラフト 層に優先的にマトリクス鎖が相溶し, その領域はグラフト密度の高い低分子グラフト鎖に比べ, 混入されるマトリクスの体積が相対的に増えたことが, 特異に加速した原因であると推察する. 球晶成長速度の束縛効果を明らかにするために, iPP/n-SiO 2 と iPP/g(12k)-SiO 2 のコンポジット 試料において SiO 2 の分散状態を直接観察している[11]. その結果, iPP/n-SiO 2 と iPP/g-SiO 2 は SiO 2 の凝集構造が観察されている. また, g-SiO 2 は分散性に寄与し凝集状態を幾分緩和させる. しか しながら, グラフト鎖分子量の変化によって, 凝集サイズが変化することはこれまでに示されて いない. このことは, 凝集サイズの変化は極めて小さいことを意味する. 他に, 物理的な制約を 受ける構造として考えられるのは, 界面厚(∆r)の存在である. 未処理の G c は Nitta らの報告から以下の(5), (6)式のように未添加 iPP の球晶成長速度(G 0 )と粒子 間距離(d)によって決定される. 1 3 4π 2 d= − 2 r 3φ f Gc = G0 − k 1 d (5) (6) ここで, φ f および r は SiO 2 の体積分率および粒子半径をそれぞれ示す. また, k は分子量に依存し ない定数である. Fig. 10 に, n-SiO 2 および g-SiO 2 の体積分率に対して, ∆r を考慮した界面層間距離(h)に対する SiO 2 体積分率(φ f )のシミュレーション曲線を示す. ∆r は DMA 測定から得られた厚みを代入した. 破線(太線)は iPP の平均二乗両端間距離 (<r 0 2>1/2)を表す. 興味深いことに, G c はマトリクス鎖の <r 0 2>1/2と一致したときに G c はゼロになることが知られている[11-12]. その G c がゼロになる SiO 2 62 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- 体積分率は∆r を考慮したときに低添加量側へシフトする傾向と, G c における極大値のシフトは 定性的に一致する. G c の極大値は束縛の影響を受け始める領域を意味し, G c がゼロとなる<r 0 2>1/2 と傾向は一致することが伺える. また, fig. 10 に示している G c がゼロになる SiO 2 体積分率は幾何 学的に均一系を想定したシミュレーション曲線であるが, <r 0 2>1/2 と一致する SiO 2 の体積分率と は, 実験結果に対して極めて低添加量側を示している. これは, SiO 2 の凝集が影響し粒子間距離 が長くなったことに起因している. 近年, Tsujii らは LRP(Living Radical Polymerization)を用いて SiO 2 表面に PMMA を高濃度にグラ フトさせる手法を確立し, これまでの重合法では得られない高濃度ブラシの形成に成功してい る[25-26]. その高濃度ブラシは, 新たな機能性を発現する可能性から注目を浴びている. 興味深 いことに彼らは, 高度に伸張したグラフト層は隣接グラフト鎖間距離 (S b ) 以下の分子は進入で きないことを明らかにしている. このように, たとえ密度が低いグラフト鎖であれ, S b < 2R g の 状態から体積排除効果によって伸張されたグラフト鎖の界面層領域では, マトリクス鎖の介入 される度合いは異なるものの, 未処理の SiO 2 同士による粒子間距離の近接に伴うマトリクス鎖 の運動性を阻害させる効果と同様な効果が発現した可能性がある. このように G c の極大のシフ トに伴うグラフト鎖分子量依存性が示されたことは, グラフト層が束縛効果を発現したと考え ることが妥当である. Fig. 11 に, 本系における界面層の模式図を示す. これまでに明らかになっている, 粒子間距離 による減速効果(束縛)だけでは説明出来ない G c の極大値のシフトは, グラフト層の界面厚が結 晶化の阻害に影響をもたらしたことを示唆するものである. 本系のグラフト層はすべて準希薄 ブラシと考えられ, やや伸張した形態を取りうるが, マトリクスは密度の関係からグラフト層に 混入することが出来る. また, g-SiO 2 添加量の増加にともない, 粒子間距離が近接するにつれて マトリクスは界面層へ混入し, グラフト層の密度は徐々に高まる. さらに, ある密度に到達する と, それ以上の混入は出来なくなると考えられる. このように, g-SiO 2 添加量が増加していくこ とによって粒子間距離が低下し, 界面層ではマトリクスの iPP 密度が高まることから, グラフト 層が壁の役割を示した可能性がある. すなわち, 界面厚が結晶化の阻害に影響をもたらしたこと が示唆された. 63 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- Interfacial distance, h [nm] 80 iPP/n-SiO 70 2 60 50 iPP <ro2>-1/2 40 30 20 10 iPP/g(5.8k)-SiO 2 iPP/g(46k)-SiO2 iPP/g(12k)-SiO 2 0 0.01 0.1 SiO2 volume fraction [-] Fig. 10 Simulation of mean interfacial distance as a function of SiO2 volume fraction. iPP/n-SiO2, iPP/g(5.8k)-SiO2, iPP/g(12k)-SiO2 and iPP/g(46k)-SiO2. 64 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- Fig.11 Schematic illustration of the interfacial structure at higher SiO2 contents range in molten state. 65 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- 3.4. 結 論 分子量の異なる iPP/g-SiO 2 ナノコンポジットにおいて, 全体結晶化速度(V), 結晶核形成ならび に球晶成長速度(G c )について DSC および POM を用いて詳細に検討した. V は, グラフト鎖分子量 が低分子成分ほど顕著に結晶化速度の加速効果が確認できた. 結晶核形成はグラフト鎖分子量 に大きく影響し, 低分子量ほど核形成効果が大きいことが明らかとなった. このことは, V の傾 向と良く一致した. 一方, iPP/g-SiO 2 の G c は g-SiO 2 添加量の増加に伴い, すべての系において加 速効果から減速効果へ転じる極大値を得ることが示された. G c の加速効果は, 界面層に侵入した マトリクスの分子鎖がグラフト鎖と共結晶化によって加速されるものと考えられる. 一方, G c の 減速効果は, マトリクス鎖の運動性が阻害されたことに起因する束縛効果と考えられる. さらに, G c の鈍化に伴う極大値のシフトは, SiO 2 表面の界面厚が結晶化の阻害効果に寄与することが強 く示唆された. 66 第 3 章. ポリプロピレン/グラフト SiO2 ナノコンポジットにおける結晶化挙動 –グラフト鎖分子量依存性- 参考文献 1. Usuki A., Koiwai A., Kojima Y., Kawasumi M., Okada A., Kurauchi T., Kamigaito O., J. Appl. Polym. Sci., 1995, 55, 119-123. 2. Kawasumi M., Hasegawa N., Kato M., Usuki A., Okada A., Macromolecules, 1997, 30, 6333-6338. 3. Wu C. L., Zhang M. Q., Rong M Z., Friedrich K., Compos. Sci. Tech., 2005, 65, 638-645. 4. Lin O.H., Akil H. A., Ishak Z. M., Polym. Compos., 2009, DOI 10.1002/pc.20744. 5. Umemori M., Taniike T., Terano M., Polym. Bull., 2011, 68, 1093-1108, DOI 10.1007/s00289-011-0612-y. 6. Avella M., Martuscelli E., Sellitti C., Garagnani E., J. 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N., Macromolecules, 2013, 46, 4670-4683, DOI 10.1021/ma400107q. 68 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 第4章 iPP/SiO 2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO 2 表面グラフト効果 4. 1. 緒 言 各種高分子材料との複合化に用いられる充填材(フィラー)は,高分子材料自体が有している機械 的・熱的性質をはじめとした諸物性の向上,成形加工性の改善といった重要な役割を担っている.近年 の科学技術の進歩に伴い,高分子系複合材料(コンポジット)は更なる高性能化・高機能化が必要とされ ている.その中でも,エレクトロニクス分野を中心に成形性に優れる高分子材料の高熱伝導化が望まれ るようになった.しかしながら,高分子単体の高熱伝導化は非常に困難であることから,高熱伝導性フィ ラーを複合化することによって, コンポジットとして高熱伝導化することが多くの研究者らによって行われ ている[1-7].近年, 微粒子サイズの微細化が可能となりナノコンポジットが注目を集めている.熱伝導特 性においても同様に注目されており,近年,報告が増えてきている[4-7]. 一般に,コンポジットの粒子サイズは熱伝導率に影響を与えない.しかしながら,粒子サイズがµm 以 下になると高熱伝導化を示す特異な挙動を示すことが知られている[5, 7].このように,ナノサイズの微 粒子を添加させることによって,これまでのマイクロサイズでは発現しない挙動が起こることは非常に興 味深い.高分子にナノサイズの微粒子を添加すると体積あたりの粒子間距離と比表面積が著しく影響 する.それぞれを熱伝導特性として考えてみると,前者は粒子間距離の近接によって粒子のパーコレー ト濃度が低下する.すなわち,低添加量での高熱伝導化が期待できる.一方,後者は広大な比表面積 を有することからフィラー表面の影響を強く受ける.言い換えるとフィラー界面の熱抵抗が著しく影響す る.それゆえ,フィラー界面における濡れ性の制御は高熱伝導化に非常に重要であると考えられる.し かしながら,界面近傍の熱伝導特性は界面構造をとらえることが非常に困難であることから,界面の熱 伝導特性について議論された系は極めて少なく,その多くはフィラーの分散性の変化と考えられてきた [6-7]. 近年,多くの研究者らによって高分子とフィラーの濡れ性(接着性)を向上させるために,フィラー表面 を修飾する手法が数多く報告されている[8-10].共同研究者らは精密重合された iPP を官能基などを導 入せずにナノ SiO 2 表面に直接グラフトさせる手法を確立し, iPP/iPP グラフト SiO 2 ナノコンポジットの開発 に成功した[10].我々はこのような iPP/SiO 2 系ナノコンポジットにおいて, iPP グラフト鎖が結晶化へ与え る影響について報告した[11]. iPP グラフト系コンポジット(iPP/g-SiO 2 )の結晶化速度は未処理の SiO 2 コ ンポジット(iPP/n-SiO 2 )に比べ, 特に低添加量領域において加速されることを明らかにし, その主因が球 69 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 晶成長速度の加速効果であることを明らかにした. 結晶化促進メカニズムとして, マトリクスポリマーと 同一の化学構造を有するグラフト鎖が, 結晶化に際して結晶ラメラ内に取り込まれることにより共結晶化 したものであると結論づけた. 以上の結果からグラフト鎖導入により SiO 2 ナノ粒子とマトリクス iPP との間 に強固な界面を形成することが予想され, 前述の熱伝導特性に大きな影響を与えることが期待される. 本章では, n-SiO 2 および異なる分子量の iPP を SiO 2 表面にグラフトした g-SiO 2 系のナノコンポジット を作製し, 熱伝導率測定を行い, 界面構造の点から熱伝導挙動に及ぼすグラフト鎖の役割を明らかに することを目的とした. 4.2. 実 験 4.2.1. 原 料 マトリクスポリマーは Aldrich 社より購入した市販の iPP を用いた.(M w = 250,000 g/mol, MWD = 3.73) フィラーは関東化学社より購入した非晶質 SiO 2 を用いた.(平均一次粒子径; 26 nm, 表面積; 110 m2/g) 4.2.2. iPP グラフト SiO 2 の調製 iPP-OH は窒素雰囲気化にて 0oC のトルエン溶媒中にメタロセン触媒である Rac-エチレンビス(インデ ニル)ジルコニウム ジクロリド(EBIZrCl 2 )を用い, 活性化剤の修飾メチルアルミノキサン(MMAO; Al/Zr = 3000)及び, 連鎖移動剤のトリエチルアルミニウム(TEA)を導入しプロピレンガスによって 1 時間重合させ た. その後, 直ちに酸素バブリングを開始し, その 30 分後に過酸化水素(35%)を導入し 1 時間加水分 解を行い iPP-OH を調製した. TEA モル濃度によるマスターカーブから, M n = 5,800 (5.8k), 12,000(12k) および 46,000(46k) g/mol の重合を行った. 重合された iPP-OH をメタノールによって触媒と分離させエ タノールおよび純水で洗浄を行った. 得られた iPP-OH は 60℃で約 6 時間真空乾燥され, 完全に溶媒 を除去した. その後, 得られた iPP-OH を SiO 2 と化学結合するために, 200℃のテトラデカン溶媒中で約 6 時間 iPP-OH と SiO 2 表面のシラノール基の脱水縮合反応を行った. その際, iPP-OH および g-SiO 2 の熱劣化を防止する目的から安定化剤(AO-50)を 0.1 wt%導入した. その後, テトラデカン溶媒を除去 するためにメタノールで撹拌後, 十分にろ過を行い 60oC で真空乾燥させた. 最後に, g-SiO 2 と未反応 の iPP-OH を分離するために, 140oC の o-ジクロロベンゼン(ODCB)溶媒中で 1 時間撹拌させ十分に洗 浄(熱ろ過)を行った. 4.2.3. iPP/SiO 2 コンポジット試料の調製 iPP ペレットおよび安定化剤 0.5 wt%(AO-50)を 2 ロール混錬機を用いて 185℃で 5 分間溶融した後, 70 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 所定量の n-SiO 2 および g-SiO 2 を添加し 10 分間溶融混錬した. SiO 2 添加量は 0 ~ 20 wt%とした. 得られた試料を真空下で 200℃, 5 分間溶融プレスを行い, 約 0℃の氷水にて急冷することでフィルム状 の試料を得た. 4.2.4. 広角 X 線回折測定(WAXD) WAXD 測定には, iPP/n-SiO 2 および iPP/g(12k)-SiO 2 のナノコンポジット試料を用いた. 結晶化条件は 熱伝導率測定に用いた条件と一致させた. 測定は SPring-8 BL-40B2 で行い, ナノコンポジットの結晶 化度を算出した. X 線の波長およびカメラ長はそれぞれ 0.1 nm, 57 mm にて行った. 4.2.5. 熱伝導率測定 熱伝導率(λ c )は以下の(1)式によって表される. λc = α ⋅ ρ ⋅ C p (1) ここで, α, ρ, C p はそれぞれ熱拡散率, 密度, 比熱容量を表す. αおよび C p の測定はレーザーフラッ シュ法(京都電子工業 FLA-502)を用いた. サンプルの形状は φ5×0.9 mm とし, 透過性試料に対して パルスレーザー照射を熱変換させるためにカーボン塗装(黒化)を行った. レファレンスにはモリブデ ンを用いた. 密度は 2-プロパノール溶媒におけるアルキメデス法によって測定された. 4.3. 結果と考察 4.3.1. キャラクタリゼーション Fig. 1 に WAXD にて測定された iPP/n-SiO 2 および iPP/g(12k)-SiO 2 における 1 次元プロファイルを示 す. 1 次元プロファイルによる X 線の回折強度のピーク位置からミラー指数はそれぞれ(110), (040), (130), (111), (131)に相当し, α晶が形成されていることがわかる. 同様の手法で確認した結果, 本系の 試料はすべてα晶であることがわかった. このことは, iPP グラフト鎖による結晶形への影響は極めて少な いことを意味する. Fig. 2 に WAXD 測定による iPP の SiO 2 体積分率に対する結晶化度依存性を示す. 結晶化度(φ c )は 以下の式によって算出した. ϕc = ∫ I (q) ∫ I (q) amo cry dq dq + ∫ I (q ) cry dq 71 (6) 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 Fig. 1 Typical WAXD profile of iPP. 0.7 iPP/n-SiO 2 iPP/g-SiO (12k) Crystallinity, φc 2 0.65 iPP 0.6 0.55 0.1 1 10 SiO content [vol.%] 2 Fig. 2 Plots of the crystallinity of iPP/SiO2 composites, estimated from WAXD measurement, against SiO2 content. 72 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 ここで, I(q) cry および I(q) amo は iPP における結晶と非晶の散乱強度をそれぞれ示している. 破線は同条 件で熱処理された iPP の結晶化度を示している. グラフから分かるように, iPP の結晶化度は SiO 2 の体 積分率に依存せず, 未添加試料と同等であることがわかる. 4.3.2. ナノコンポジットの熱伝導特性 (1) 密度 Fig. 3 に iPP/n-SiO 2 および各 iPP/g-SiO 2 の密度を示す. iPP/n-SiO 2 および iPP/g-SiO 2 の密度は SiO 2 添加量の増加に伴い良い直線性を示し増加していることがわかる. 得られた結果を線形近似し SiO 2 添 加量 100 vol.%へ外挿すると SiO 2 密度を見積もることができる. その結果, SiO 2 の密度は 2.21 g/cm3 とな り非晶質 SiO 2 の密度(2.2 g/cm3)とよく一致した. 一方, 同じく外挿した iPP の密度から, 結晶化度(X c ) は 53.2%と見積もられた. また, n-SiO 2 と g-SiO 2 のコンポジット密度には優位差は無い. このことは, 本系 の SiO 2 添加量領域において iPP グラフト鎖が結晶化度に影響を与えないことを示唆している. これは, WAXD 測定から得られた SiO 2 体積分率依存性と同様な傾向を示しており, 上述の考察を強 く支持できる. (2) 比熱容量 レーザーフラッシュ法による C p はレファレンスおよびサンプルの温度上昇値から以下の式(7)より算出 される. Cp = Am mr ∆Tr C pr Ar mm ∆Tm (7) ここで, A m , A r はそれぞれサンプルおよびレファレンス試料の断面積を示し, m r , m m はそれぞれレファレ ンスおよびサンプル試料の質量を表し, ∆T r , ∆T m はそれぞれレファレンスおよびサンプル試料の温度上 昇値を表す. C pr は既知のレファレンスの比熱容量を表す. Fig. 4 にレーザーフラッシュ法によって測定されたサンプル(iPP)とレファレンス試料の時間に対する温 度上昇比率を表す. 各試料の比熱容量は試料裏面の温度上昇値(∆T)から上述の(7)式を用いて算出し た. Fig. 5 に各ナノコンポジット試料の SiO 2 添加量に対する C p をそれぞれ示す. iPP/n-SiO 2 と各 iPP/g-SiO 2 の比熱容量は SiO 2 添加量の増加に伴い直線的に低下している. 得られた結果を線形近似 し SiO 2 添加量 0 および 100 vol.%へ外挿すると, iPP および SiO 2 の C p はそれぞれ 1.91 , 0.739 J/gk と算 73 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 1.1 3 Density, ρ [g/cm ] 1.05 1 0.95 iPP/n-SiO2 0.9 iPP/g(5.8k)-SiO2 iPP/g(12k)-SiO2 0.85 iPP/g(46k)-SiO2 0.8 0 2 4 6 8 10 SiO content [vol.%] 2 Fig. 3 Plots of the density of composite as a function of SiO2 content. 74 12 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 Normalized temperature raise [a.u.] 1.2 ∆Tm 1 iPP 0.8 0.6 ∆Tr 0.4 Ref. (Mo) 0.2 0 -0.2 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 Time [ms] Fig. 4 Temperature rise of reference and sample. Specific heat capacity, Cp [J/gK] 2.5 2 □ iPP/n-SiO2 1.5 ▲ iPP/g(5.8k)-SiO2 ○ iPP/g(12k)-SiO2 ■ iPP/g(46k)-SiO2 1 0 2 4 6 8 10 12 SiO content [vol.%] 2 Fig. 5 Plots of Specific heat capacity of iPP/SiO2 composites as a function of SiO2 content. 75 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 出された. 室温(20oC)における iPP の C p は約 1.84 J/gK, 非晶質 SiO 2 のそれは 0.73 J/gK と報告されて おり[19-20], 文献値とよく一致することが示された. (3) 熱拡散率 本研究では Cezairliyan らが提案しているカーブフィッティング法(CF 法)を用いて, 熱拡散率αを求めた [21]. Fig. 6 に SiO 2 添加量に対する各コンポジットのαをそれぞれ示す. コンポジットにおけるαは SiO 2 添加 量の増加に伴い, 単調に増加していることがわかる. また, すべての iPP/g-SiO 2 は iPP/n-SiO 2 より高熱 拡散率を示している. 興味深いことに, グラフト鎖分子量の増加に伴いαは増加する傾向を示している. この挙動は次項の熱伝導特性で詳細に議論する. (4) 熱伝導率 Fig. 7 に iPP/n-SiO 2 および iPP/g-SiO 2 における SiO 2 添加量に対する熱伝導率, λ c の変化を示す. 全 ての系において SiO 2 体積分率の増加にともない λ c は増加し ている. さら に, iPP/g-SiO 2 の λ c は iPP/n-SiO 2 に比べ高熱伝導性を示している. これらのことは高熱伝導体である SiO 2 添加によりコンポジ ットの熱伝導性が向上すること, また SiO 2 表面のグラフト処理により, さらなる熱伝導性の向上が可能で あることを示している. 球状粒子を含む 2 相系コンポジットの熱伝導特性については, 以下(8)の Maxwell-Eucken 式が一般 に用いられている[22]. λc = 2λm + λ f + 2ϕ f (λ f − λm ) 2λm + λ f − ϕ f (λ f − λm ) λm (8) ここで, λ c はコンポジットの熱伝導率, λ f はフィラーの熱伝導率, λ m はマトリクスの熱伝導率, φ f はフィラー の体積分率である. Fig. 7 の実線は Maxwell-Eucken 式 による予測曲線を表しており,iPP/n-SiO 2 系はよい一致を示し ている. 一方, iPP/g-SiO 2 系では高熱伝導側へ逸脱し, さらにグラフト鎖の分子量の増加に伴い, 高熱 伝導率を示している傾向がある. 重要な実験結果として, これらの界面層を有する系は Maxwell-Eucken の 2 相モデルでは説明することができないことが明らかである. また, グラフト鎖分子量 に依存して熱伝導率が増加していることは, 界面層の構造的な相違が反映されていることを強く示唆し 76 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 -7 Thermal difusivity , α [m /sec] 2 10 iPP/g(46k)-SiO2 -7 2 1.8 10 iPP/g(12k)-SiO2 -7 1.6 10 iPP/g(5.8k)-SiO2 -7 1.4 10 iPP/n-SiO2 -7 1.2 10 -7 1 10 0 2 4 6 8 10 12 SiO content [vol.%] 2 Fig. 6 Plots of thermal diffusivity of iPP/SiO2 composites as a function of SiO2 content. Thermal conductivity, λc [W/mK] 0.4 0.36 iPP/g(46k)-SiO2 0.32 iPP/g(12k)-SiO2 iPP/g(5.8k)-SiO2 0.28 iPP/n-SiO2 0.24 Maxwell-Eucken 0.2 0.16 0 2 4 6 8 10 12 SiO2 contents [vol.%] Fig. 7 Plots of thermal conductivity of iPP/SiO2 composites as a function of SiO2 content. 77 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 ている. 4.3.3. 界面層の熱伝導特性 近年, Leong らはフィラー界面層の熱伝導特性が異なることを報告しており, 2 相系の Maxwell-Eucken 式を修正した 3 相系の予測式(9-1, 9-2)を提案している[23]. λc (λ = f ( ) [ − λlr )ϕ f λlr 2 β13 − β 3 + 1 + (λ f + 2λlr )β13 ϕ f β 3 (λlr − λm ) + λm β13 (λ f + 2λlr ) − (λ f − λlr )ϕ f (β13 + β 3 − 1) R = ∆r r 1+ R = β 1 + R = β1 2 ] (9-1) (9-2) ここで, λ f , λ m , λ lr はフィラー, マトリクスおよび界面層の熱伝導率をそれぞれ表す. ∆r, r はそれぞれ界面 厚, 粒子半径を表しており, 界面厚は 3 章(3.3.1.)の DMA 測定から求められた値を計算に用いた. φ f はフィラーの体積分率を示す. λ lr は fitting によって算出し, 非晶質 SiO 2 のλ f は 1.5 W/mK を用いた[24]. Fig. 7 の破線および一点鎖線はそれぞれの fitting 曲線を示している. 界面層熱伝導率はそれぞれ 0.182(n-SiO 2 ), 0.217(5.8k), 0.221(12k), 0.226(46k) W/mK と見積もられた. Fig. 8 は界面層熱伝導率λ lr をグラフト鎖分子量に対してプロットしたものである. 図中の M n = 0 は iPP/n-SiO 2 に相当する. iPP/n-SiO 2 のλ lr は iPP の熱伝導率(0.186 W/mK)とほぼかわらない. このことは, 未処理の SiO 2 表面近傍の iPP 分子鎖の熱伝導率はマトリクス中におけるそれと同程度であることを示し ており, 前述の 2 相モデル(Maxwell-Eucken 式)を用いた解析で iPP/n-SiO 2 のみがこれによく従ったこと に対応している.一方, iPP/g-SiO 2 はすべて iPP の熱伝導率を上回り高熱伝導性を示している. また, 分子量の増加に伴いλ lr は増加傾向を示している. 高分子の熱伝導率は分子鎖間方向と主鎖方向の合成で伝達される. その熱伝播機構はフォノンの 伝播, すなわち分子の格子振動に担われるものと定められている. 共有結合されている主鎖方向の熱 伝導率はフォノン散乱が著しく小さいことから, フォノンの平均自由行程は長くなり, したがって分子鎖 間方向と比較して非常に高い[25]. それらを踏まえると, SiO 2 表面に末端固定された iPP グラフト鎖の主 鎖方向への熱伝搬が界面の高熱伝導率に寄与したものと考えるのが妥当であろう. しかしながら 3 章 (3.3.1.)の界面層のキャラクタリゼーションで示したように, グラフト鎖分子量の違いにより界面厚のみなら ず,一粒子あたりのグラフト鎖の分子数も異なるため,直接的な比較が困難である. ここで, グラフト鎖の粒子あたりの本数(N)は以下の(10)式より算出される. 78 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 λlr [W/mK] 0.3 0.25 0.2 iPP 0.15 0 4 1 10 4 4 2 10 3 10 Mn [g/mol] 4 4 10 Fig. 8 Plots of the interfacial thermal conductivity of iPP/SiO2 composites as a function of molecular weight of grafted iPP. 79 4 5 10 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 Relative effectiveness of interfacial thermal conductivity 0.1 0.01 0.001 1000 4 10 Mn [g/mol] 5 10 Fig. 9 Relative effectiveness of interfacial thermal conductivity plotted against the molecular weight of grafted iPP. Fig. 10 Thermal path model of iPP/g-SiO2 nanocomposite at the interfacial layer. 80 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 N = 4 ⋅π ⋅ r 2 ⋅σ (10) ここで, σは前節で示したグラフト密度を表わす. グラフト鎖の本数はそれぞれ 93(5.8k), 64(12k), 24(46k) (chains/particle)と見積もられた. その界面層におけるグラフト鎖一本あたりの熱伝導率の影響を検討す るために, それぞれのλ lr を一粒子あたりのグラフト鎖の本数で除算し, 界面熱伝導効率とした. Fig. 9 に界面熱伝導効率のグラフト鎖分子量依存性を示す. グラフからも明らかなように, グラフト鎖 あたりのλ lr は M n に強く依存して増加傾向を示した. 興味深いことに, 本系のグラフト鎖あたりの界面層 熱伝導率はグラフト鎖分子量の 0.5 乗に比例する. これまでに, 直鎖状の高分子における熱伝導率は 分子量の 0.5 乗に依存することが Hansen らによって示されている[26]. これは熱伝導率がセグメント長, すなわち高分子鎖の広がりと比例関係にあることを考えると理解し易い.界面におけるグラフト層の熱伝 導率の分子量依存性と直鎖状高分子のそれが同一であることは, 界面におけるグラフト鎖による熱伝搬 が, コンポジットにおける熱伝導特性に重要な役割を担っていることを示している. Fig. 10 に iPP/g-SiO 2 ナノコンポジットにおける界面層熱伝播のモデル図を示す. モデル図に示したよ うに, 界面層のグラフト鎖はマトリクスと絡み合いあるいは共結晶化していると考えられる. そのような構 造の中, 系内の熱伝播はマトリクスから優先的に界面層のグラフト鎖を介してフィラーへ伝導されるもの と考えられる. 4.4. 結 論 本研究では, 未処理の SiO 2 (26 nm)と分子量の異なる iPP グラフト処理された SiO 2 をマトリクスに充 填させた系において, ナノコンポジットの熱伝導率(λ c )を検討した. グラフト処理されたナノコンポジット の試料は未処理の SiO 2 コンポジットに比べ, すべてのグラフト鎖分子量において高熱伝導性を示した. この高熱伝導特性はグラフト処理効果によるものであり, 界面層の構造に起因していることが強く示唆さ れた. 界面層の熱伝導率を考慮した三相モデルによる熱伝導解析から, iPP/g-SiO 2 系では界面におけ る熱伝導が向上すること,またグラフト鎖分子量の増加と共に更なる向上がみられることを明らかにした. さらに, グラフト分子鎖一本あたりの熱伝導効率が分子量の 0.5 乗に比例することから, グラフト鎖の主 鎖方向の熱伝搬がコンポジットの高熱伝導化の原因であることを明らかにした. 81 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 参考文献 [1] Weidenfeller B., Höfer M., Schilling F. R., Compos. Part A, 2004, 35, 423-429. [2] Radhakrishnan S., J. Appl. Polym. Sci., 2004, 93, 615-623. [3] Boudenne A., Compos. part A, 2005, 36, 1545-1554. [4] Zhao X., Ye L., J. Polym. Sci. part B, Polym. Phys., 2010, 48, 905-912. [5] Zhang S., Cao X. Y., Ma Y. M., Ke Y. C., Zhang J. K., Wang F. S., Exp. 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Part A, 3, 1965, 659-670. 83 第 4 章. iPP/SiO2 ナノコンポジットの熱伝導特性に及ぼす SiO2 表面グラフト効果 84 第 5 章. 結論 第5章 結 論 本研究では, ナノサイズの SiO2 粒子表面上にマトリクスポリマーと化学構造が同じ iPP をグラフト重合 し, コンポジット化することにより, 新規 iPP/SiO2 ナノコンポジットを作製し, その結晶化挙動および熱伝 導特性について詳細な検討を行った. 本研究の最大の目的は, このナノコンポジットにおけるグラフト 鎖の役割を結晶構造形成と物性について明らかにすることである. 第1章では, 本論文の背景と研究課題を議論した. 近年学術面のみならず工業面からも非常に注目 されているポリマーナノコンポジットについて, その研究経緯を概観し, その長所と問題点を提示した. 最大の問題点としてフィラー/マトリクスポリマー界面における相互作用の重要性を指摘し, 解決策とし てマトリクスポリマーと同一の化学構造を有するグラフト鎖をナノフィラー表面に修飾し, コンポジット化 する方法を紹介した. このような新規ナノコンポジットについて, 構造形成プロセスおよび熱伝導特性を 詳細に検討することにより, グラフト鎖のナノコンポジットにおける役割の本質を理解することが本研究の 目的であることを提示した. 第 2 章では, 平均一次粒子径 26 nm の単分散 SiO2 粒子(「未処理 SiO2」, 「n-SiO2」)表面に対して, 分 子量が精密に制御された iPP 分子鎖をグラフトした. このように表面修飾した SiO2 粒子(「グラフト SiO2」, 「g-SiO2」)を iPP と混錬してコンポジット化することにより, フィラー表面を修飾するグラフト鎖とマトリクスポ リマーの化学構造が同一であるナノコンポジットを作製した. 未処理 SiO2 およびグラフト SiO2 ナノコンポ ジット間の結晶化挙動の違いについて, 示差熱・熱重量測定(TG-DTA), 示差走査熱量測定(DSC), および偏光光学顕微鏡を用いて検討した. 新規ナノコンポジットの作製法について説明し, グラフト鎖, さらにナノコンポジット化した際の界面構 造のキャラクタリゼーションを行い, グラフト鎖が 10 nm 程度の界面構造を形成すること, また準希薄ブラ シ形態であることを示した. ナノコンポジットの結晶化挙動を上述の方法により検討した結果, g-SiO2/iPP 系ではフィラーの添加量 の増大とともに結晶化促進効果が観察された. 一方, n-SiO2/iPP 系では結晶化速度はフィラーの添加量 に依存せず一定の値を示すことから, 結晶化促進効果がグラフト鎖の存在によることを明らかにした. 85 第 5 章. 結論 結晶化現象は核形成と結晶成長の2つのプロセスからなることに鑑み, それぞれのプロセスでのグラフト 鎖の影響を検討した. グラフト鎖は核形成を促進し, 核密度の増加をもたらした. 興味深いことに, n-SiO2/iPP 系では結晶成長速度の加速は観察されないのに対し, g-SiO2/iPP 系では低濃度領域におい て成長速度の加速が見いだされた. このことはこれまで全く報告のない現象であり, グラフト鎖が結晶成 長プロセスに関与したことを示すものである. 前述のように, 本系がグラフト鎖とマトリクスポリマーが同一 の化学構造を有する高分子であり, またグラフト鎖がマトリクスポリマーと比較して低分子量であることに 基づき, 結晶成長プロセスにおいて, 成長するラメラ内にグラフト鎖が取り込まれて共結晶化するモデ ルを提案した. また, n-SiO2/iPP 系, g-SiO2/iPP 系に関わらず, SiO2 添加量の増大は結晶化の鈍化をもたらした. この 鈍化は核形成密度, 結晶成長速度の両方で観察されることから, 近接する SiO2 粒子によるマトリクスポ リマー鎖の束縛効果であることが明らかである. すなわち, 近接する SiO2 の粒子間距離が融体中にお けるマトリクスポリマー鎖の広がり (2Rg)に近づくと, 高分子鎖の運動性は著しく制限され, 分子拡散が 抑制されることにより, 核形成速度および結晶成長速度の低下が観察されたものと考えられる. さらに結 晶成長速度が0となるときの粒子間距離が 2Rg と等しいこと, しかしながら本研究の結果ではゼロ結晶成 長速度に相当する SiO2 濃度が均一分散を仮定した際の臨界濃度と異なること, またこのことが iPP 溶融 体中における SiO2 の凝集構造に由来することを鑑み, 結晶成長速度の SiO2 濃度依存性から平均 SiO2 凝集サイズを求める新しい手法を提案した. 一般的に凝集構造の理解は特に物性の制御面で非常に 重要である. 平均凝集サイズを求める方法について透過型電子顕微鏡などの直接観察から分布を求 める手法が一般的であるが, 実験には熟練した技術が必要であり, また大きな誤差を含む問題点があ げられるのに対し, 結晶成長速度の測定という簡便な方法により凝集サイズを求めることができる本研 究の手法は, 今後新たな測定方法として強く提案する. 第 3 章では, 第 2 章で提案されたグラフト鎖がマトリクスポリマー鎖と共結晶化するモデルを検証する ことを目的に, グラフト鎖の分子量が SiO2 ナノコンポジットの結晶化に与える影響について検討を行っ た. グラフト鎖が形成する界面層厚は分子量の増加とともに厚化することを見いだし, 一粒子あたりのグ ラフト鎖本数, 諫言すると単位表面積あたりのグラフト鎖本数, すなわちグラフト密度は分子量の増加と ともに低下することを明らかにした. SiO2 添加による結晶化促進効果はグラフト鎖分子量が低いほど顕著であり, 高分子量グラフト鎖は結 晶化速度にほとんど影響を与えないことを明らかにした. このことはグラフト鎖の運動性が結晶化速度に 大きな影響を与えることを意味している. 第 2 章と同様な手法により結晶成長速度を比較し, 結晶成長 86 第 5 章. 結論 速度が分子量に関わらず, 添加量の増加とともに加速することを見いだした. 本研究で用いたグラフト 鎖の分子量はすべてマトリクス鎖のそれよりも小さいため, SiO2 添加により導入されたグラフト鎖が結晶 成長に際してラメラ内に取り込まれることにより結晶成長の加速が実現すると結論付けた. また, グラフト鎖分子量に関わらず, SiO2 の高濃度添加により結晶化速度, 結晶成長速度は鈍化する 傾向を示した. このことは第 2 章でも示した様に近接 SiO2 の粒子間距離の低下により, マトリクス鎖の束 縛効果が発現したものとして説明付けることができる. 結晶成長速度が低下を始める濃度, すなわち束 縛効果が発現する濃度が分子量の増加に伴い低濃度側へシフトすることが実験的に明らかになったが, このことはグラフト鎖が異なる界面厚を有することに関係する. 界面層を含む近接 SiO2 粒子間距離は, 界面厚が分子量に依存することを考慮に入れると, 高分子量グラフト鎖において, より低濃度で束縛効 果が発現すると結論付けた. 本章での結果は, iPP 結晶化に対する表面未修飾の SiO2 の添加効果が 存在しないことを示すとともに, SiO2 表面に化学構造がマトリクス鎖と同一の iPP 鎖を導入することにより 結晶化機構(結晶核形成,結晶成長)が変化し, 結晶化の低濃度での促進効果, および高濃度域での 分子鎖束縛による結晶化抑制効果という, 特異な結晶化挙動をもたらすことを示しており, 今後のナノ コンポジット開発に重要な知見となりうる. 第 4 章では, 第 2 章および第 3 章での結晶化解析から得られた界面近傍の高次構造の理解をもと に, これらの構造が物性に与える影響を理解することを目的として, ナノコンポジットの熱伝導特性に及 ぼす表面グラフト鎖の影響について検討を行った. 溶融結晶化により成形した iPP/SiO2 ナノコンポジット の室温における熱伝導率の測定から, ①グラフト鎖の有無にかかわらずコンポジットの熱伝導率は SiO2 添加により向上すること, ②グラフト鎖を導入することによりさらなる熱伝導率の向上が観測されることを 明らかにした. ②のグラフト鎖の導入による熱伝導率の向上は, SiO2 表面におけるグラフト鎖の熱伝導に 起因することが示唆され, 第 2 章, 第 3 章で示した界面構造のキャラクタリゼーションから得られた情報 をもとに, 熱伝導機構における三相モデルから, 界面における熱伝導率を求め, 前述の界面構造モデ ルから議論した. グラフト鎖の分子量の増大はコンポジット全体の熱伝導率には大きな影響を与えないものの, 界面に おける熱伝導効率, すなわち一グラフト鎖分子あたりの熱伝導は分子量の増大とともに向上した. この ことは本研究の特色であるグラフト鎖とマトリクス鎖が同じ分子構造を有するナノコンポジット特有の結果 であることを示しているとともに, グラフト鎖がコンポジットにおける熱伝導の直接的な機構を担っている と結論付けた. 本章で得られた結果は, ナノコンポジットの物性における界面構造の重要性を改めて示 すものであり, ナノコンポジットの高熱伝導化には詳細な界面構造の理解とその制御が重要であること 87 第 5 章. 結論 を示し, ナノフィラーの選択, グラフト鎖の分子構造, さらにはグラフト鎖が貫通する結晶ラメラ内のタイ 分子, 成形条件に起因する界面構造の制御などにより, さらなる高熱伝導化が可能であることをも示唆 している. また,工業的な視点からナノコンポジットの高熱伝導材料を設計する際,上述した界面構造 の制御が非常に重要であることは当然であるが,主鎖方向のグラフト鎖が熱伝導経路を形成するメカニ ズムから考えて, 共有結合されている分子鎖をいかに利用出来るかが最大のポイントであり, マトリクスと フィラーをグラフト鎖で繋ぐ(共有結合させる)構造が望ましいといえる. 以上, 本研究において得られた結果およびその重要性について概説した. ポリマーナノコンポジット は今後さらにその重要性を増していくものと期待されているが, 本研究を通じてフィラー/ポリマー間の 界面構造の重要性を示すことができた. コンポジットにおける表面・界面の化学的理解が重要であるこ とは議論を待たないが, さらに界面構造という, 高次構造の理解が非常に重要であることは今後のナノ コンポジット開発の重要な指針となると確信する. 88 付録. 付録 1 1. 熱拡散率測定におけるカーブ fitting 手法 第 4 章における熱伝導率(λ)は以下の式(1)から算出される. λ = α ⋅ Cp ⋅ ρ (1) ここで, α, Cp, ρはそれぞれ熱拡散率, 比熱, 密度を表す. その中で, αは第 4 章で説明したように カーブフィッティング(CF)法によって算出している. CF 法は, パルス加熱後に観測される試料裏 面温度変化曲線全体に理論式を適合させ, 試料の熱拡散率(α)と熱損失パラメータ(Biot 数)Y とを 同時に決定する方法であり, 以下の仮定の下に解析を行う. (1) 試料からの熱損失は Newton の法則により表される. したがって, 試料からの熱損失に対し て Biot 数が定義できる. (2) 試料表面は均一にパルス加熱される. (3) 試料表面を加熱するパルス光の発光時間は熱が試料表面から裏面まで伝わるのに要する時 間より十分短い. (4) 試料は均質である. (5) 試料は不透明でパルス光は試料表面付近の十分薄い層で吸収される. 以上の仮定のものに試料裏面の温度上昇 T(t)を表す式は Parker 等により導かれている[1]. 熱伝導率(λ), 熱容量(C p ), 熱拡散率(α), 厚さ(d)の円板状試料の表面が瞬間的に均一加熱され, 表 面と裏面から熱伝達係数 k で Newton の冷却則にしたがってパルス加熱前の定常温度へ復帰する ときの試料裏面の温度変化は Josell らにより次式(2)で与えられ, 試料裏面の温度は指数関数的に 定常温度に近づき,指数関数で表される[2]. 2 X T (t ) = T0 A0 exp − 0 ⋅ t π t0 (2) ここで, T 0 は Q/C の熱損失が無い場合の温度上昇, t 0 =d2/(π2α)は特性時間, Y=kd/λは Biot 数を表す. 実測曲線の冷却領域の t>>t 0 の部分に対して, (2)式の指数関数を最小 2 乗法により適合させるこ とにより, 冷却速度の時定数τ=π2t 0 /X 0 2 が定まる. 残る可変なパラメータである熱拡散率αを実測 曲線の昇温領域から決定すれば, Biot 数 Y も同時に定まる[3]. 熱拡散率 α は, ある時間領域 (t 1 <t<t 2 )において実測曲線の下にある面積と理論曲線の下にある面積が一致するように決定され る. 89 付録. 1.2 具体的な Fitting の仕方について Fig. 2 に示される(a)の緑のラインは時間に対する試料裏面の温度を示している. その温度上昇 部について拡大したものを(b)に表す. Fitting は以下の手順で行った. ①赤の破線の範囲の過渡的な温度上昇は,バルクの温度上昇ではないため, Fitting 範囲から除き, (b)の赤の実線の範囲を温度上昇部の範囲とする. ②温度上昇後の熱放散部において (a)のピンクの実線のように範囲を決定する. ③(c)の青線は測定曲線と fitting 曲線のズレ量を示す. すなわち, fitting の程度を示しており S/N 比に対してノイズの範囲内となるように極力 fit させる. 2. 熱拡散率解析 Software Software は産業技術総合センターの CFP32 を用いた[4]. 90 付録. (a) 実測曲線(緑線) (b) Fittig 曲線(黒線) (c) Fig. 1 Basic Procedure of the curve-fitting method Fig. 2 Example of curve-fitting method 91 付録. 参考文献 [1] Parker W. J., Jenkins R. J., Butler C. P. and Abbott G. J., Journal of Applied Physics, 1961, 32, 1679. [2] Josell D., Warren J. and Cezairliyan A., Journal of Applied Physics, 1995, 78, 6867. [3] Cezailiyan A., Baba T. and Taylor R., International Journal of Thermophysics, 1994, 15, 317. [4] CFP32 for Windows Ver.2.03 (1998). http://www.nmij.jp/~mprop-stats/thermophys/homepage/research/cfp32/index.html 92 付録. Fig. 3 Block diagram of the laser flash apparatus. Fig. 4 Simulaneous mesurments of thermal diffusivity and Specific heat capacity by the laser flash differential calorimetry. 93 付録. 94 付録 付録 2 広角 X 線回折測定における iPP/SiO 2 の結晶化度算出法 半結晶性高分子における結晶化度の測定法は, 一般的に DSC 法, 密度法, 散乱法などがある. そ の中でも, 近年の放射光施設の発展から, In-situ による結晶化過程を追跡することが可能となり, 散乱 法を用いて討議されることが増えてきている. それはコンポジット系においても同様で, これまでに結晶 化度についての報告がなされている. しかしながら, 高分子の結晶化度を求めるには, 充填されるフィ ラーの散乱が生じる場合, 当然ながらその散乱を減算する必要性がある. これまでの iPP/SiO 2 系コンポ ジットの結晶化度について報告された文献によると, SiO 2 の散乱を考慮した結晶化度とされているかとて も疑問である. その大きな理由として, SiO 2 の散乱強度は添加量の増加に伴い当然ながら散乱強度も 高まるが, その散乱強度を定量化することが非常に困難であるからである. では, どのように SiO 2 の散 乱強度を減算すればよいのであろうか. そのような局面を迎えたときに, とても有効な手段として fitting と呼ばれる解析手法がある. これは, 一次元プロファイルを各成分に分離する手法である. この手法を 用いて SiO 2 の散乱強度について減算することを試み, iPP の結晶化度を算出した. 以下に手順を示し, その概要について説明する. また, 一次元プロファイルは 2 次元プロファイルを Fit2D による円環平均さ れた値を利用した. iPP の結晶化度, φ c は以下の(1)式から算出される. ϕc = ∫ I (q) cry dq ∫ I (q) amo dq + ∫ I (q)cry dq (1) ここで, I(q) cry は iPP における結晶相の散乱強度, I(q) amo は iPP の非晶相の散乱強度を表す. はじめに, 得られた回折強度 I(q) all から SiO 2 の散乱強度(I(q) SiO2 )を減算する必要がある. そこで,測定 から得られた回折を, I(q) cry , I(q) amo , I(q) SiO2 に分けて fitting を行った. Fitting にはソフトウェア Igor Pro を用いた. Fitting 手順 φ c を算出するために用いた fitting は, ピークの位置(q), 半値幅(l), 高さ(h)をそれぞれ個々に設 定して行うものである. 以下に fitting の手順を示す. ① SiO 2 の WAXD1次元プロファイルを規格化(1µm あたりの散乱強度に補正)し fitting を行う. これに より決定したベース曲線のピーク位置及び半値幅を iPP/SiO 2 コンポジットの散乱に適用し, SiO 2 散 乱 I(q) SiO2 に利用する. ② aPP における一次元プロファイルの fitting を行う. これにより決定したベース曲線のピーク位置及 び半値幅を iPP/SiO 2 コンポジットの散乱に適用し, iPP の非晶部, I(q) amo に利用する. 95 付録 ③ iPP/SiO 2 コンポジット, I(q) all における非晶部のピーク高さをおおむね決定するために, ②で決定 したピーク位置及び半値幅を用いて iPP の fitting を行う. (およその予測をたてる) ④ ①で決定した SiO 2 プロファイルのピーク位置及び半値幅を用いて, iPP/SiO 2 プロファイルの fitting を行う. なお, SiO 2 曲線の高さは, ③で規格化した 1µm あたりの強度に SiO 2 の体積分率を 乗じたものを適用した. ⑤ ②③で決定した iPP 非晶曲線のピーク位置,半値幅及び高さを用いて,iPP/SiO 2 プロファイルの fitting を行う. ⑥ I(q) cry のピーク位置及び半値幅を決定し,およその高さを合わせながら iPP/SiO 2 プロファイルの fitting を行う. ⑦ fitting 曲線と実験値(○; Observed/org.)の谷,特に iPP 非晶曲線のピーク付近である(110)と(040) の間(q = 11 nm-1)と SiO 2 曲線のピーク付近である(111)と(131)/(041)の間(q = 15.3 nm-1)が双方一 致するように,iPP 非晶プロファイルと SiO 2 散乱プロファイルの高さを fitting させる. ⑧ iPP 結晶プロファイルの高さ及び, 必要に応じて半値幅を fitting させる. Fig. 1 iPP/n-SiO2(3.5 vol%)における WAXD 一次元プロファイルの Fitting 96 関連論文 1 “The effect of the addition of polypropylene grafted SiO 2 nanoparticle on the crystallization behavior of isotactic polypropylene’’ Y. Fukuyama, T. Kawai, S. Kuroda, M. Toyonaga, T. Taniike and M. Terano. Journal of Thermal Analysis and Calorimetry (2013) 113:1511-1519. DOI 10.1007/s10973-012-2900-7 Published online: 16 Junuary 2013. (第 2 章) 関連論文 2 “iPP/ナノシリカコンポジットの熱伝導特性に及ぼすシリカ表面グラフト効果’’ 福山 芳三, 河井 貴彦, 千田 麻理, 黒田 真一, 豊永 匡仁, 谷池 俊明, 寺野 稔. 次世代ポリオレフィン総合研究, (2013) vo.7: 100-106. (第 4 章) 関連論文 3 “The effect of the addition of polypropylene grafted SiO 2 nano particle on the thermal conductivity of isotactic polypropylene.’’ Y. Fukuyama, M. Senda, T. Kawai, S. Kuroda, M. Toyonaga, T. Taniike and M. Terano, Journal of Thermal Analysis and Calorimetry, (paper submitted) (第 4 章) 97 学会発表 Fukuyama Y., Kawai T., Kuroda S., Taniike T., Terano M., “Study on Crystallization and Thermal Property of isotactic Polypropylene Reinforced by nano SiO 2 Particle’’, 4th ICA3M. 2011. Fukuyama Y., Kawai T., Kuroda S., Taniike T., Terano M., “Effect of Surface Modification of Nano-Silica Particle on the Crystallization of Isotactic Polypropylene’’, 熱測定討論会, 2011. Fukuyama Y., Kawai T., Kuroda S., Taniike T., Terano M, Toyonaga M., “Effect of graft polymerization onto nano silica particle on the crystallization behavior of polypropylene’’, 8th International Colloquium on Heterogeneous Ziegler-Natta Catalysts, 2012. Fukuyama Y., Kawai T., Kuroda S., Taniike T., Terano M, Toyonaga M., “ポリプロピレン/SiO 2 ナノコ ンポジットの結晶化および熱伝導率に及ぼす界面構造の影響’’, マテリアルライフ学会, 2012. Fukuyama Y., Kawai T., Kuroda S., Taniike T., Terano M, Toyonaga M., “Crystallization Behavior of isotactic Polypropylene/Polypropylene Grafted SiO 2 nanocomposite’’, The Japan Society of Calorimetry and Thermal Analysis. 2012. 福山芳三, ○河井貴彦, 千田麻理, 黒田真一, 豊永匡仁, 谷池俊明, 寺野稔, “iPP/ナノシリカコン ポジットの結晶化に及ぼすシリカ表面修飾効果”, 高分子学会年次会. 2013. ○千田麻理, 福山芳三, 河井貴彦, 黒田真一, 豊永匡仁, 谷池俊明, 寺野稔, “iPP/ナノシリカコン ポジットの熱伝導特性に及ぼすシリカ表面修飾効果”, 高分子学会年次会. 2013. 福山芳三, ○河井貴彦, 千田麻理, 黒田真一, 豊永匡仁, 谷池俊明, 寺野稔, “iPP/ナノシリカコン ポジットの結晶化及び熱伝導特性に及ぼすシリカ表面グラフト効果”, 第8回次世代ポリオレフ ィン総合研究会. 2013. 98 謝辞 本研究を進めるにあたり, 文部科学省認定の「一社一博士創出プロジェクト」における社会人 ドクターコースという機会を与えてくださり, 終始変わらぬご指導を賜りました群馬大学理工 学研究院環境創生部門 黒田真一 教授に深く感謝の意を表します. 本論文の審査ならびに貴重なご助言を賜りました群馬大学理工学研究院分子科学部門 山延 健 教授, 一般財団法人地域産学官連携ものづくり研究機構 甲本忠史 理事, 久米原宏之 理事, ならびに群馬大学理工学研究院知能機械創製部門 群馬大学理工学研究院環境創生部門 天谷賢児 教授に厚く御礼申し上げます. 河井貴彦 助教には, 基本的な研究の考え方から学術的 なアプローチの仕方をご指導賜り, さらには高度な研究施設における出張実験など, 通常経験出 来ない貴重な機会を頂きました. 時には心労も大きかったと思いますが, 辛抱強く見守ってくだ さり, 数々のご助言や心に響く温かいお言葉を賜りましたことに, 心より深く感謝申し上げま す. 共同研究者であります, 北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科 寺野稔 教授, 谷池俊明 准教授, 豊永 匡仁 様には, ナノコンポジット試料の作製にご協力頂き, 心か ら御礼申し上げます. 澤藤電機株式会社取締役社長 上田英樹 様, 同社前社長 高田清志 様,同社専務取締役 山谷 光正 様, 同社常務取締役 田中幸二 様, 同社取締役 曽根健 様, 同社電装開発部部長 菊池利 明 様 (旧開発管理部長), 同社電装開発部課長 大見山浩康様には, 本研究の機会を与えてくだ さり, 多大なご協力を賜りました. 心から感謝申し上げます. 本論文の研究を実施するにあたり, 群馬大学大学院工学研究科の黒田研究室諸氏には, 多大 なご協力を頂きました. 特に, 本研究に関する討論ならびに多大なご助言を賜り, 時には励ま しあった, 小井土俊介 様に深く感謝申し上げます. また, 共同研究者として千田麻理 多大なご協力を賜り, 心より御礼申し上げます. 99 様には 最後に, 本研究に関係するすべての関係各位,そして今日まで温かく見守り続けてくれた家族 に心から感謝の意を表しまして, 謝辞とさせて頂きます. 100
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