詳細(PDF 408KB) - 群馬県立産業技術センター

群馬県立産業技術センター研究報告(2012)
アルミナ担持ニッケル触媒およびアルミナ担持ルテニウム触媒
を用いる自己熱改質法による使用済食用油からの水素生成
鈴木
崇・恩田紘樹・村上恵理*・木村
光*
Hydrogen production by auto-thermal reforming of discarded edible oil
on supported nickel and supported ruthenium catalysts
Takashi SUZUKI, Kouki ONDA, Eri MURAKAMI*, and Akira KIMURA*
アルミナ担持ニッケル(Ni/Al2O3)触媒およびアルミナ担持ルテニウム(Ru/Al2O3)触媒を用い、分子
量約 880 の使用済食用油の自己熱改質による連続的な水素生成試験を行った。使用済食用油のような分
子量の大きい原料に対しても自己熱改質では安定して水素が生成した。O/C 比に関しては生成ガス中の
メタンおよび一酸化炭素濃度が影響を受けやすいことが示唆された。これらの触媒により水素含有量約
60%の水素生成ガスを安定かつ連続して生成させることができた。Ru/Al2O3 触媒では、反応器内の差圧
が少ないことが特徴的であった。
キーワード:水素、使用済食用油、自己熱改質法、アルミナ担持ニッケル触媒、アルミナ担持ルテニウム触媒
Auto-thermal reforming reaction is a steam reforming reaction (SR) combining with partial
oxidation reaction (POx) which is adapted for dealing with large molecules like middle distillates or
atmospheric residue (AR). Therefore, in this work, the auto-thermal reforming, namely ATR, was
applied to the reforming of discarded edible oil giving hydrogen by using supported nickel and
ruthenium catalysts. Upon introducing the discarded edible oil onto the catalyst bed with feeding
steam and air (oxygen), the reforming reaction proceeded stably to make hydrogen on both
catalysts. Finally it was successfully achieved that the product gas involving ca. 60% of hydrogen
was continuously generated on the nickel based catalyst. Increase of pressure difference in the
fixed bed reactor might be caused by carbon deposition was effectively suppressed on the Ru/Al2O3
catalyst.
Keywords:Hydrogen production, Discarded edible oils, Catalytic reforming,Ni/Al2O3,Ru/Al2O3
1
はじめに
スを含む非化石エネルギーの利用を促す一歩進
んだ「エネルギー供給高度化法」が成立
3, 4)
し
二酸化炭素の排出増加をもたらさないバ
た。このように、環境への関心の高まりや法整
イオマス由来のエネルギーが注目されている
備によって、バイオマス由来のエネルギー利用
1, 2)
技術は重要になっている。
。環境保全の観点から、これまでにも代
替エネルギーの導入が促進されているところ
本研究では、食糧と競合しない使用済食用油
であるが、平成 21 年度には電気、石油、ガス
から直接水素を得るために、Ni/Al2 O3 触媒およ
などのエネルギー供給事業者に対しバイオマ
び Ru/Al2 O3 触媒を用い、水蒸気と空気を供給し
環境・省エネ 係
*桐生ガス株式会社(〒376-0035 桐生市仲町 3-6-32)
ながら改質し水素の安定的な生成の可能性につ
いて検討した。
- 12 -
レーターを用い 60℃で加温しながら水分を除去
し、10~14%アンモニア水に室温で 1 時間浸漬し、
Oil and
water
1/
8
純水で洗浄し 60℃で乾燥して触媒前駆体を得
inch
た。活性金属担持量は触媒重量基準で 5wt.%と
Air
した。
¼ inch
Alumina
220
270
170
2.3 触媒の活性化
反応器に、触媒 5ml(約 4~4.5g)に対し約 2mm
φのアルミナボールを同容積加え希釈して充填
¾ inch
した。また、触媒層上部および下部にはアルミナ
50
600
触媒は図1に示すようなステンレス鋼製の固定床
Catalyst
Alumina
ボールを充填した。接触改質反応に先立ち、触
媒床温度 650℃で、純水素を約 100ml/min(stp)
で通気して触媒を活性化した。
2.4
接触改質反応
接触改質反応は、活性化した触媒に対し、廃食
用油とイオン交換水をそれぞれ個別に定量送液
ポンプを用いて導入し、模擬空気(O 2 :21%、N2 :
79% 、 ( 太 陽 日 酸 ))は マ スフロ ーコ ン トロ ー ラー
1/
8
inch
(Model 8500MC,Koflock )で流 量 を 制 御 して併
給した。580℃に保持した触媒床に、使用済食用
油(大豆油)を 0.12C-mol/h で導入し、フィードの
図1 接触改質反応に用いた固定床反応器
水蒸気モル(S)と炭素モル(C)比(S/C 比)およ
び 0、酸素(O)モルと炭素モル比(O/C 比)を変化
させながら、圧力 0.02 MPa で接触改質反応を行
2
実
験
った。原料導入後の触媒床温度は 650℃に調節
した。
2.1
ニッケル系触媒の調製
原料供給量(炭素モル基準)は、大豆油の脂肪
予め担体に用いるアルミナ(Al 2 O 3 、比表 面
酸組成としてリノール酸約 50%、オレイン酸 20%強、
2
積約 190m /g)をマッフル炉(FO-300,ヤマト科
パルミチン酸約 10%、リノレン酸約 10%、ステアリン
学)に入れ、650℃で 3 時間焼成した。硝酸ニ
酸約 5%といわれている
ッケル六水和物(Ni(NO 3 )2 ・6H2 O,試薬特級、
比重(s.g.)は 0.92 として取扱った。6)
和光純薬)を純水に溶解し、これに焼成した所
2.5
5)
ことから分子量は 878、
生成ガス量の計測と生成物の分析
定量のアルミナを浸漬し室温で 1 時間静置し
生成物中の水素(H2 )、一酸化炭素(CO)、二酸
含浸させた。ロータリーエバポレーターに移し、
化 炭 素 ( CO 2 ) 、 メ タ ン ( CH4 ) の 分 析 に は 、
80℃で加温しながら水分を除去し、さらに石英
1/8inchφ×2m のカラムに活性炭(60~80 mesh)
炉芯管に入れて、約 200ml/min で空気を通気
を充填したカラムを取付けた TCD-GC(GC323、
させながら管状電気炉(KTF-030、光洋)を用
GL サイエンス)を用いた。オーブン温度は 50℃、
い 650℃で 3 時間焼成し触媒前駆体を得た。
キャリヤーガスにはアルゴンを用いた。メタン、エ
なお、活性金属担持量は触媒重量基 準で
タンなどの低級炭化水素を含む炭化水素の分析
15wt.%とした。
に は 4mm φ × 6m の カ ラ ム に VZ-7 ( 60 ~ 80
2.2
ルテニウム系触媒の調製
mesh ) を 充 填 し た カ ラ ム を 取 付 け た FID-GC
アルミナを2.1記載の方法で焼成後、塩化ル
(GC-14B、島 津 製 作 所 )を 用いた。オーブン温
テ ニ ウ ム 水 和 物 (RuCl3 ・ nH2O(Ru assay 40%),
度は 60℃、キャリヤーガスにはアルゴンを 用い
Reagent plus (sigma-aldrich)水溶液に浸漬し室
た。
温で 1 時間静置し含浸させ、ロータリーエバポ
- 13 -
1
80
0.8
Absorbance/ o.d.
Hydrogen content in gas phase/%
100
60
40
Yellowish compounds was
recognized in aged oil
0.6
0.4
0.2
20
0
350 400 450 500 550 600 650 700 750 800
Wavelength/nm
0
0
1
2
3
Proportion of steam / carbon
Difference spectrum of virgin and aged soybean oils
4
図3 本研究で使用した使用済食用油
の可視-紫外吸収スペクトル
図2 自己熱改質中の S/C 値と水素
濃度
3 結果および考察
そこで、S/C 比を 2.6 に保ち、量論的な O/C
比に近づけ た O/C= 0.6 および 増加さ せた
3.1
自己熱改質におけるS/C依存性
一般的な水蒸気改質反応では水蒸気量
0.9 での改質生成物について調べた。図4に
は、主成分の水素の他に一酸化炭素、メタン、
が多いと水素濃度が高くなる傾向が見ら
二酸化炭素および式3に示すガス化転化率
れる。そこで、自己熱改質においても水蒸
をまとめた。
気量と生成物中の水素濃度の関係を調べ
た(図2)。なお、改質には図3に示すよ
【式3】
うに 550nm 付近にブロードな吸収を示す黄
ガス化転化率(%)=
CO, CO 2,およびCH4の生成量(C-mol/h)
供給した油量(C-mol/h)
褐色な使用済油を用いた。食用油の分解と
×100
改質を易化するために、水蒸気改質時に空
気(酸素)を O/C 値 0.6 で供給した。S/C
酸素供給量が上昇する一酸化炭素およびメ
値 1.2 では水素濃度は 53%を示し、S/C 値
タン濃度が減少し、二酸化炭素濃度が増加し
1.7 で 60%に達し、それ以降は飽和した。
た。このことから、改質時に併給した酸素に
このように、S/C 比が 1.7 以下では水素濃
伴う燃焼が進行し反応系内に熱供給された
度が低下する傾向が見られ、自己熱改質に
ことが窺えた。水素濃度に関しては、O/C 値
おいても水蒸気と水素濃度には一定の関
0.6 と 0.9 の間で差異は殆ど認められず、水
係があった。改質時に酸素を併給した場合
素の燃焼よりもメタン、一酸化炭素の燃焼が
には、分子量が非常に大きい植物油を用い
優先されることが分かった。
ても、低 S/C 比で改質可能であることが示
100
唆された。
自己熱改質における生成物の
Composition / %
3.2
O /C 依 存 性
食用油の分子量は大きいため、メチレン
(-CH2 -)の燃焼と改質と見なして考えて見
ると、改質に伴う吸熱は式1および2に示
60
40
20
すように燃焼発熱の約 1/5 であり、O/C 比
0
が約 0.5 で両反応の熱量は均衡 ※ する。
H2
CO
CH4
CO2
Conv.
図4 生成物およびガス化転化率の
【式1】 ※
O/C 依存性
【式2】
-CH2- + H2O → 2H2 + CO
S/C:2.6, O/C:0.6
S/C:2.6, O/C:0.9
80
※ 原 料 の気 化 熱 、リアクタからの放 熱 等 は
含まない
ΔH: ca. 120kJ/mol
- 14 -
3.0
Pressure difference between top and
bottom of the reactor / kg/cm2, G
Pressure difference between top and
bottom of the reactor / kg/cm2, G
2.5
2.0
1.5
O/C:0.6
O/C:0.8
O/C:0.4
1.0
0.5
0.0
0
120
240
360
480
600
720
840
960
Time on stream /min
図5 Ni/Al2 O3 触媒による自己熱改質
中の O/C 値と固定床反応器に
おける差圧
3.3
O/C:0.25
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
120
240
360
480
600
720
Time on stream/min
840
960
図6 Ru/Al2 O3 触媒による自己熱改質
中の固定床反応器における差圧
酸素量と差圧の関係
り改質されやすくなること、植物油の部分酸
図5には、Ni/Al 2 O 3 触媒に対し、S/C 値 1.0
化反応(発熱)および水蒸気改質反応(吸熱)
で O/C 値を 0.8 から 0.4 に減じた時の固定床
が触媒上で起こることによって、Ni 系触媒を
反応器における差圧を測定した結果を示す。
用いても長時間安定して水素を含有する生
O/C 値 0.8 では 300 分時点で差圧の上昇は
成ガスが得られることが明らかになった。
認められなかったのに対し、O/C 値 0.6 では
②生成物に関しては一酸化炭素、メタンの燃
540 分時点から差圧が上昇し始めた。O/C 値
焼が水素に比べて起こりやすいことが分か
を 0.4 にした時には、差圧は著しく上昇し 900
った。
分以降連続通油が困難になった。
③自己熱改質で併給している空気中の酸素
このように、酸素供給量を減ずると炭素析出
は、植物油(原料)をクラッキングし改質し
に伴 う固 定 床 反 応 器 内 の閉 塞に伴 って差 圧
やすくする効果が高いことが示唆された。
が上 昇 した。改 質 剤 として水蒸 気 と空 気を 併
④ルテニウム系触媒は炭素析出抑制能に優
給することにより一般 的な水 蒸 気改 質では 困
れ自己熱改質の触媒系として有効であるこ
難な分子量の大きい植物油を扱うことができる
とが示唆された。
が、この中で、酸素は油分子を部分燃焼により
クラッキングし改質しやすくする役割を持つこと
文
献
が推察された。
1)高橋、高畑、今井、志斎:化学工学論文
集、37、479(2011).
2)鈴木、村上、木村:機能材料、31、49
(2011).
3)石田:下水道、35、29 (2012).
4)熊野:クリーンエネルギー、19、57 (2010).
5)
「15710 の化学商品」、 化学工業日報社、(2010).
そこで、炭素析出 抑制効 果が高いと考えら
れる Ru/Al 2 O 3 触媒
7, 8)
を用い、自己熱改質に
おいて低 O/C 値での差圧変化を測定した(図
6)。S/C 値 1.0、O/C 値 0.25 であっても、960
分 時点 で差圧 の上 昇を 伴わず安 定して改 質
が進行した。このことから、差圧上昇は炭素析
6)Material safety data sheet” ,Industrial
出に伴うものであることが検証されたとともに、
oils and luburicants (IOL) Inc., USA
実際に Ru 系触媒が自己熱改質系においても
(2009).
炭 素 析 出 抑 制 効 果 を有 することを 確 認 でき
7)T.Suzuki, H.Iwanami, and T.Yoshinari:
た。
Int. J. Hydrogen Energy, 25, 119 (2000).
4
結
8)村本、蒲田、久保田:石川島播磨技報、45,
論
116 (2005).
①改質系に空気(酸素)を共供給すると、
植物油のクラッキングが起こりやすくな
- 15 -