Page 1 Page 2 ・ ・BPー SBー 図ー 資 料 採 取 地 点 明らかにすること

島根大学地質学研究報告 9.117∼127ページ(1990年7月)
GeoL Rept.Shimane Univ.,9.p.117∼127(1990)
宍道湖湖底下完新統の花粉群
大西 郁夫*・干場 英樹**・中谷 紀子***
Pollen Flora of Bottom Sediments from Lake Shinji
Ikuo ONlsHI,Hideki HosHIBA and Noriko NAKATANI
Abstract
Pollen flora of the latest Quatemary sediments are studied on core samples from Lake
Shinji,BPI and SB2in fig.L Comparing with polleh flora of SB1(ONIsHI,1977),the
following pollen zones and subzones are differentiated.
Pollen zone
Subzone
Pin祝S
C』yoloわαZαnoρ3∫3−Q祝θκ祝3
C〆lyμoηzθ〆ぬ
Cly610加1αnoP3ガs
PoOlooαゆμ3
−Cα蜘noρ3i3
Cα3重αnoρ3∫3
Cツolo6α1αno麺3
P∫n祝S一/1房θ3
Ul御駕3−Zθ1た。槻
ノ4房θ3
Fαg麗3−丁鍬9α
ハρh‘znαn孟hθ一Cθ1診i3
T3鴛9α
Cαゆ∫n祝3
/1ρhαnαn孟hθ
Fα9㍑3
一Cθ1孟∫3
Q祝θκ祝s
/11n麗一Q祝。κ祝3
Qz昭κ祝3−Aln麗s
BPI SB2
1
2
3 一
6
4
7︸910H12131415
P伽S−C〆ツμ0膨吻
Estimated Age
of the Base
2
0178911
1
3
4
5 6
2
3
4
5
01
10
乙3
4︻
﹂ρ
U 111111
1
6
7
8
9
1
SB1
Gramineae
Division
ca.2400
ca.3200
ca.4000
ca.5200
ca.5700
ca.6400
ca.7000
ca.8500
ca.9000
ca.9600
ca.10000
ca. 10500
ca.11000
チョウ遺跡(大西,1979など)や西川津遺跡(大西,
1 は じ め に
1985など),米子市の目久美遺跡(大西,1985など)お
中海・宍道湖およびその周辺地域における完新統の
よび中海・宍道湖湖底の表層コア(大西,1986など)
花粉分帯は,大西(1977)にはじまる.主に,宍道湖
など多くの資料が集積されてぎた.それらの結果から
湖底コアSB1の花粉分析結果に基づいて,下位より,
完新世中後期の花粉帯として,マツ・モミ花粉帯
NI帯,Nna帯,Nnb帯,N皿a帯およびN皿b
(大西ほか,1989a),カシ・シイ花粉帯(大西・渡
帯の5花粉帯に分帯した.その後,斐伊川河口付近の
辺,1987)およびイネ科花粉帯(大西,1985)が提唱
ボーリングコアHB1(大西,1980),松江市のタテ
されている.しかしながら,完新世前期の花粉組成は
SB1のみで知られているにすぎない.
*島根大学理学部地質学教室
今回,宍道湖湖底の2地点SB2およびBP1のコア
**地質学科1989年卒業
***地質学科1990年卒業,川崎地質KK.
の花粉分析を行い,完新世前期以降の花粉組成変化を
117
大西郁夫・干場英樹・中谷紀子
118
133001E
境港O
’冗 僧
/
●CB1
、
日本享毎
35030,N
西川津遺跡
松江
タテチョウ遺跡
中 海
Q
つ
宍道湖
● ●BP1
つHB1
●SB2
米弓
S B1
o
,
10k臨
安来
●
目久莫
図1資料採取地点
明らかにすることができた.その結果を報告し,あわ
せて完新世の花粉分帯について考察する.
謝辞:分析に供した試料を与えられた愛媛大学・水
区分11(18.95∼20.55m):コナラ属コナラ亜属
(Q麗〆。螂subgenusQ麗〆。粥以下ナラ類と略す)が優
勢で,ムクノキ属一エノキ属(Aρhαnα彫hθ一Cθ伽3)も
野篤行教授および建設省中国地方建設局出雲工事事務
多く,マツ属複維管束亜属(P∫n粥subgenus
所に感謝します.また,研究費の一部は文部省科学研
、0∫Plo∬ッlon以下マツ属と略す),ハンノキ・属(Aln一
究費一般研究A「中海・宍道湖の環境変遷」(課題番
μ3),ニレ属一ケヤキ属(Ul解麗一Zθ1為。∂α),クマシデ属
号:p140003,代表者:徳岡隆夫)を使用した.
1.BPlの花粉分析
BP1は宍道湖のほぼ中央(図1;35。26’50”N,
(Cαゆ∫鰍3)などを伴う.イネ科(Gramineae)やカヤ
ツリグサ科(Cyperaceae)などの草本花粉も多い.
区分10(16.95∼18.00m):前区分にくらべてナラ
類や草本花粉が減少し,ツガ属(丁鍬gα),ブナ属
132。57’45μE,水深5.36m)で観測塔建設のための基
(1勉gμ3),コナラ属アカガシ亜属(Q麗κ鰐
礎調査として,建設省中国地方建設局出雲工事事務所
subgenus Cッoloわα1αnop3∫s以下カシ類と略す),クマ
が1987年に実施した全長27mのボーリングであり,次
シデ属などがやや増加する.
のような層序となっている.
区分9(15.95∼16.55m):ナラ類,ハンノキ属,
0.00∼4.50m
暗青灰色シルト.中海層最上部層
ムクノキ属一エノキ属などがやや減少し,マツ類,ツ
4.50∼18.00m
暗青灰色粘性土:同層中∼上部層
ガ属,カシ類などがやや増加する.
18.00∼18.50m
暗灰色シルト:同層下部層
区分8(13.95∼15.55m):ハンノキ属,ムクノキ
18.50∼20.60m
暗黒灰色砂質シルト:境港層
属一エノキ属などがやや減少し,ツガ属,カシ類,スギ
20.60∼21.85m
暗灰色シルトまじり砂:同層
属(Crッρ知解θ加)などがやや増加する.
21.85∼27.00m
暗灰色泥岩:布志名層
区分7(12.50∼13.00m):ブナ属などがやや減少
ただし後述するように,花粉組成からみると,18.50
し,モミ属(A伽3)などがやや増加する.マキ属
∼20.60mの砂質シルトは中海層下部と考えられる.
(、Po400αrρ麗)が少量ながら出現しはじめる.
花粉分析は,ほぼ50cmごとの47試料についておこ
区分6(10.50∼12.00m):マツ類,カシ類,シイ
なった.結果は図2に示す.20.60m以下の9試料で
属一マテバジイ属(Cα3厩noρ3∫3一.Pαsαn∫α以下シイ類
はほとんど花粉が得られなかったが,それ以上では分
析に十分な花粉が得られた.
と略す),ムクノキ属一エノキ属などがやや増加する.
区分5(9.50∼10.00m):マツ類,ニレ属一ケヤキ
花粉組成の特徴に基づいて,上位より,区分1∼11
属,ムクノキ属一エノキ属などがやや減少し,ナラ類,
に区分できる.
カシ類,シイ類などがやや増加する.
宍道湖湖底下完新統の花粉群
119
区分4(7.50∼9.00m):ブナ属,クマシデ属など
区分1(0.00∼3.00m)
マツ類が減少し,カシ類
がやや減少し,マキ属がやや増加する.
が増加する.シイ類も多く,
スギ属も安定してみられ
区分3(4.95∼7.00m):ナラ類,カシ類,シイ類
る.
などがやや減少し,マツ類,ニレ属一ケヤキ属などが
やや増加する.
皿.SB2の花粉分析
区分2(3.95∼4.55):カシ類がやや増加する.マ
SB2は宍道湖東部の湖心部(図1:35。26’50”N,
ツ類,シイ類も多い.
133。0’12”E,水深5.3m)において,1960年代に,地
F “ ●◎ 噂 め o h oo
o o 一
』
@ ▽■1 ▼一
o
凶
面
o
凹
(
一・ イ ネ科
M冊・ 劉孝!’ニレ属 一一
Gramineae
∫η7∂ρ一∂v御側DV4γ
@ 1
躍『蓼! 4▽
戟@ l
ケヤキ属
.クマシデ 属
卜
@ エ 一
U’π摺5−Zε’尭。りα
3η1ぬoつ旨ミy4v
σαゆiπu5
切ロP∫Pd』∫3∫40μP3∫Dρ 巌 メ! /3
一
Fα8u5
ブ督ナ属
牛
憩團
(鉢∫40μPIDgoPκつ)∫船ノ∂ηδ
麟/34ζ
モミ属茄’ε5
一
聡oD餐團
一(∫η」1∂ηo)∫ηo!∂ηo }鎌 《壬 一善
墨
一一 ’ソカ’属
T5u8α
∫ηロ1γ
,聡
Piπu5
・ マ’ソ類
マキ属
(Dψ’oκy’oη)
Pμ∂躍034κり
冒鳶Σで
PodOCαr加5
ぎ
図2 BP1の花粉ダイアグラム
a:干場(1989)の区分 b:今回の区分
F:i:::::
幽
1畷
川臓廉
中
:・’※;・
.壇螺
昌
斑よ
創ま
r
ヂ
1
凶
1 の o 凶 盟丁 中 の
盟
o 凶蜴=「響
c□
120
大西郁夫・干場英樹・中谷紀子
質調査所によって採取された全長約19mのコアである
(水野ほか,1972,大西,1977).
区分8(6.15∼7.20m):マツ類,マキ属などが減
少する.ツガ属,モミ属はほとんど見られなくなり,
0.00∼1.10m シルト質粘土:中海層最上部層
シイ類が出現しはじめる.カシ類,ナラ類,、クマシデ
1.10∼7.40m 同上:同層上部泥層
属,ニレ属一ケヤキ属,ムクノキ属一エノキ属などが多
7.40∼10.00m 同上:同層中部泥層
い.
10.00∼11.60m 同上:同層下部泥層
区分7(4.95∼6.05m):マキ属が再び増加する.
1L60∼12.30m.粘土質火山灰:安来層
マツ類は増加していくが,クマシデ属やニレ属一ケヤ
12.30∼13.53m 火山灰質砂=同層
キ属はやや減少する.
13.53∼14.80m 火山灰質細砂:同層
区分6(3.40∼4.85m):マキ属,マツ類などが減
14.80∼18.00m礫:同層
少し,カシ類,シイ類,クマシデ属などが増加する.
18.00∼18.90m 礫質でない岩石:布志名層
区分5(2.40∼3.30m):マキ属,シイ類が増加し
18.90∼18.97m 泥炭質の堅い岩石:同層
はじめ,ナラ類が減少する.
なお,次のような1℃年代が測定されている(水野
区分4(1.80∼2.30m):マキ属,マツ類などが増
ほか,1972).
加し,ナラ類,カシ類などが減少する.
11.2∼11.3mの腐植質泥:9820±390yBP(GaK−
区分3(1.40∼1.70m):マキ属,モミ属,ツガ属
2878)
などが減少しはじめ,ナラ類,カシ類,イネ科などが
1L4∼11.5mのシジミ貝殻:9200±300yBP(GaK−
増加しはじめる.スギ属も伴われる.
2879)
区分2(0.80∼1.30m):マキ属はほとんどみられ
花粉分析はほぼ20cm毎に58試料についておこなっ
なくなり,マツ類,カシ類,ナラ類などが多い.草本
た.結果を図3に示す.なお,深度11.8m以下の試料
花粉ではイネ科とヨモギ属が多い.
では分析に十分な花粉が得られなかった.
花粉組成の特徴に基づいて,上位より区分1∼区分
区分1(0.00∼0.70m):マツ類が急増し,その他
の木本花粉はほとんどみられなくなる.草本花粉では
15に分けられる.
イネ科が多い.
区分15(IL35∼11.65m):イネ科,カヤツリグサ
IV.SB1の花粉帯の再検討
科,ヨモギ属(Aπθ常蹴α)などの草本花粉が多い木本
ではナラ類,ムクノキ属一エノキ属,クマシデ属が多
宍道湖西部中央のSB1(図1:35。26’27”N,132。
く,ハンノキ属,ニレ属一ケヤキ属などを伴う,
56’05”E,水深6.2m)の花粉分析はすでに公表され
区分14(10.75∼11.25m)=ムクノキ属一エノキ属
ている(大西,1977).しかし,その後の研究により再
がやや減少し,ナラ類,ニレ属一ケヤキ属などが増加
検討が必要となったので,主なタクサのみのダイアグ
する.草本花粉もやや多い.
ラムを図4に示す.花粉組成の類似性に基づき,上位
区分13(10.35∼10.65m):ナラ類やムクノキ属一
より,区分1∼区分16に分けられる.
エノキ属が減少し,マツ類,ツガ類,モミ類などが増
区分16(23.00∼23.80m):ヨモギ属,イネ科など
加しはじめる.
の草木花粉が多い.木本ではナラ類とハンノキ属が優
区分12(8.75∼10.25m) ムクノキ属一エノキ属,
占する.
クマシデ属,ブナ属,ナラ類などが減少し,マツ類,
区分15(21.75∼22.70m):胞子類が優占する.木
ツガ属,モミ属,カシ類などが増加する.
本ではナラ類とハンノキ属はやや減少する.優占する
区分11(8.30∼8.60m):マツ類,ツガ属がやや減
タクサは,下部ではシナノキ属(丁痂α),中部ではマ
少し,カシ類とナラ類などがやや増加する.モミ属,
ツ類,スギ属とハシバミ属(Co〆ッ1鴛3),上部ではカエ
ハンノキ属などを伴う.
デ属(、40θ〆)と試料ごとに異なる.
区分10(7.70∼8.20m):マツ類がやや増加する.
区分14(20.95∼21.45m):草本花粉はやや減少す
ツガ属,ニレ属一ケヤキ属などが多い.
る.木本ではナラ類とムクノキ属一エノキ属が優占し,
区分9(7.30∼7.60m):ツガ属,モミ属などが減
ハンノキ属,ニレ属一ケヤキ属,クマシデ属などを伴
少し,マキ属,カシ類,ナラ類,クマシデ属などが増
加する.
う.
区分13(20.15∼20.65m):草本花粉はさらに減少
宍道湖湖底下完新統の花粉群
N
o
」=
。・§
OD
}
二
u
Φ
『eOUl田2」9・燵鷲ぐ♪’
ニレ属1
一ケヤキ属
乙”功μ5−Zε〃∼oリα
9
O
三
一
o
マ しn
一・ 」∠
ll
E
NP
c¥」 〔
7■■・■
121
9
ρ
OD
<
⑩
鱒31∂ρ一∂》りUDμ”マ4γ
劉議F!コ=一
I l
劉歩!4▽
シイ類
σα5亡αη0ρ5ま5−Pα5απiα
8
蝋1で4ζ
∫π2Pゴ
ρuεrcu5
2野手.∠ニ
1
クマシ デ属
∫η”1γ
(ρuθr㎝5)
σαrpjηt∫5
頑 一]
1
ナラ類
”
ラ
廿
(∫3∫40ロP1090Pκ二))5』π」!∂η0
スギ属譜蓼!/ぐ ミ孫¢。川ε.iα
D2η砲
劉.4!て、
モミ属
茄ie5
無葦[国
醸・染国
ム
尽藁團
巌1て、
噌□
(μ01κXO1φ(1》∫πηd
凍〇一
マキ属PodOCαrρμ5
@衝
厨忽盟中
εo一
魯忽脚下一
珊≧
中
出
国訴盟ま
︾︾﹀﹀﹀﹀︾
1︸1
Ilo
8影藤丁讐
1 ∼ ‘畢 } ‘1 ∼‘
厨氷毎
図3 SB2の花粉ダイアグラム
A 中谷(1990)の区分 B:今回の区分
する.ナラ類とムクノキ属一エノキ属はやや減少し,
加する.
ブナ属とツガ属がやや増加する.
区分11(15.70∼18.40m):ツガ属とブナ属が極大
区分12(18.80∼19.85m):ナラ類とムクノキ属一
に達する.マツ類やモミ属も伴われる.
エノキ属はさらに減少し,ツガ属とブナ属がさらに増
区分10(14.20∼15.50m):マツ類,ツガ属,ブナ
郵熟田制
蔀薦薗
8
下部ヨ 泥層
導因(り回<7:a 韓礁雛⑦(昆61)塑¥:V
▽{≦、4∠』。レ牽く殊ヨ墜(汐 1∈IS 7困
吋−
1 ,中部泥層
享毎 層
1雪」≡ 上部泥層
ザ、4︾︶
旨嫉,
く∼、’、ヂ
獺
∫η4/POOPOd
1最榔層葺
l l l
ノグルミ即嫡。“r判1
門ll
(μ01κxo14多σ)∫η切d 瞬!1、ム
l
εη’κノ。つ鋤ミ}1/3¥!・
T国團囲口口
一i》1薄書…琿
OE 一曲舗
訳瀬瀬薄σ
lo
1謡
カエデ属湘。θr
ハンノキ属
オ’川,5
]
r即帰際“
”
η8ηε1掛、4!て、
ナラ類 ρ∼ノθ〆。硲(ρ∼解α’5)
制.劉ミ壬岬
カシ類Q『’θrαノ5(σyピ励α’αηoρ5ε5)
劃一←“乙
∫η2P」r
シイ類
Cα5亡αη0ρ5f5一ρα5αη’α
・ 一
∫ηロψPつ 1劉、壬/零≧」4
ス.ギ属。「y伽所ε痴
哨
Doo弓1∂Z
Doo弓1∂Z一∫π’”1ρ
奇クノキ属・
製『萎々_4 一 劉!1τ二
工.ノキ属
湘ρゐαηαη納θ一(7θ琵」5
遭建窒.レ
a129UIUjeJ9
トウモ、ココシ属
I l Zθα
ソバ属Fα80ρ加,所
)→
閥i
閥”a
髄”■
■
r
oじσ) σ1
m
㊤
己
輔・
N川a M”b
〇一l o
轟
ω ”邑
ZZI
壬蝕忌中・園亜蓄士・¥胆里¥
宍道湖湖底下完新統の花粉群
属などが減少しはじめ,ハンノキ属,クマシデ属,ム
クノキ属一エノキ属などが増加する.
キ属とナラ類が安定してみられる.この花粉帯は約
10,000年前以前と考えられている(大西,1977).
区分9(12.75∼14.00m):マツ類,ツガ属,モミ
SB1の区分15がこの花粉帯に対比される.
属などが増加し,ハンノキ属,クマシデ属,ムクノキ
3)ムクノキ・エノキ花粉帯
属一エノキ属などが減少する.
123
SB1のN I帯(大西,1977)に相当する花粉帯をム
区分8(11.30∼12.55m):マツ類,ツガ属,モミ
クノキ・エノキ花粉帯と呼ぶ.これは大西(1988)の
属などが減少し,ハンノキ属,ニレ属一ケヤキ属,ムク
ナラ類一ムクノキ属一エノキ属帯と同じである.全般的
ノキ属一エノキ属などが増加する.
にムクノキ属一エノキ属とナラ類が多い.この花粉帯
区分7(8.50∼11.00m):カシ類,ナラ類,マキ属
のはじまりは約10000年前と推定されている(大西,
などが増加し,ハンノキ属,ブナ属などが減少する.
1977)。ナラ類は下半部で多く,上部に向かってやや
区分6(6.50∼8.20m):カシ類とナラ類はあまり
減少し,ブナ属がやや増加することから次の2亜帯に
変わらないが,マツ類,シイ類などが増加し,マキ属
分けられる.
は減少する.
1)ナラ亜帯:ナラ類とムクノキ属一エノキ属が優
区分5(4.95∼6.20m):マキ属が増加し,ムクノ
占する.SB1の区分14,BP1の区分11およびSB2の
キ属一エノキ属が減少する.その他のタクサはあまり
区分15がこの亜帯に対比される.
変化はない.
H)ブナ亜帯:ムクノキ属一エノキ属とナラ類が多
区分4(2.58∼4.65m):マキ属,カシ類,ナラ類
く,クマシデ属,ニレ属一ケヤキ属,ブナ属などを伴
などはあまり変わらないが,マツ類やシイ類はやや減
う・SB1の区分13,BP1の区分10およびSB2の区分
少し,スギ属はやや増加する.
14がこの亜帯に対比される.
区分3(1.60∼2.50m):マツ類がやや増加し,シ
4)ブナ・ツガ花粉帯
イ類とスギ属が減少する.他のタクサはあまり変わら
SB1のN H a帯(大西,1977)の中・下部に相当す
ない.ソバ属(Fαgoρッ耀解)が出現しはじめる.
る花粉帯をブナ・ツガ花粉帯と呼ぶ.これは大西
区分2(0.35∼1.25m):マツ類が急増し80%を超
(1988)、のブナ属一ツガ属帯と同じであり,そのはじま
える.他のタクサはほとんど見られなくなる.草本で
りは約9000年前と推定されて∼・る(大西,1977).この
は,イネ科が増加し,ソバ属も伴われる.
花粉帯において,ツガ属は下部から中部に向かって増
区分1(0.00∼0.10m):マツ類がやや減少し,ス
加し,中部で極大となり,上部に向かって減少する.
ギ属がやや増加する.
V.完新世地域花粉帯との対比
このことから次の3亜帯に分けられる.
1)クマシデ亜帯:ツガ属が増加しはじめる.クマ
シデ属,ブナ属などを伴う.SB1の区分12,BP1の区
中海・宍道湖周辺地域における完新世花粉帯・亜帯
分9およびSB2の区分13がこの亜帯に対比される.
は,すでに述べたように,これまでいくつか提唱され
H)ツガ亜帯:ツガ属が極大となる.SB1の区分
ている.ここでは,上に述べた3本のコアにみられた
11,BP1の区分8およびSB2の区分12がこの亜帯に
各区分をそれらの地域花粉帯と対比し,新たにいくつ
対比される.
かの花粉帯・亜帯を提唱する.
皿)ムクノキ・エノキ亜帯:ツガ属がやや減少し,
1)ナラ・ハンノキ花粉帯
クマシデ属,ムクノキ属一エノキ属などが増加する.
SB1のS帯(大西,1977)の下部に相当する花粉帯
SB1の区分10,BP1の区分7およびSB2の区分11が
をナラ・ハンノキ花粉帯と呼ぶ.木本ではナラ類とハ
この亜帯に対比される.
ンノキ属が優占するが,草本花粉も多く,境港市の
5)マツ・モミ花粉帯
CB1の境港層と対比されている(大西,1977).SB1
西川津遺跡において提唱された花粉帯であり(大西
の区分16がこの花粉帯に対比される.
ほか,1989a),マツ類,モミ属,カシ類,ナラ類,ク
2)ハンノキ・ナラ花粉帯
マシデ属などが多い.この花粉帯はSB1のN H a帯
SB1のS帯(大西,1977)の上部に相当する花粉帯
の上部に相当するものと考えられる.この花粉帯はマ
をハンノキ・ナラ花粉帯と呼ぶ.全般的に胞子類が優
ツ類,モミ属が優勢な下部と,それらがやや少なくな
占し,草本花粉や木本花粉は少ない.木本ではハンノ
り,スギ属がやや多くなる上部の2亜帯に分けられ
124
大西郁夫・干場英樹・中谷紀子
る.
定されている(大西,1985).宍道湖底においては,ス
1)モミ亜帯:マツ類,ツガ属,モミ属などの針葉
ギ属やイネ科の急増が認められないが,典型亜帯の下
樹種が増加し,広葉樹種は減少する.SB1の区分9,
位に位置し,スギ属がやや増加するSB1の区分4,
BP1の区分6およびSB2の区分10がこの亜帯に対比
BP1の区分1およびSB2の区分3がこの亜帯に対比
される.
されるものと考えられる.
H)ニレ・ケヤキ亜帯:下位の亜帯に比べてマツ
H)カシ・ナラ亜帯:(大西,1985)の典型亜帯を
類,モミ属,ツガ属が少なくなり,ニレ属一ケヤキ属が
改訂する.スギ属が減少し,カシ類,ナラ類,シイ類
多くなる.SB1の区分8,BP1の区分5およびSB2
などが多い.そのはじまりは西暦700年頃と推定され
の区分9がこの亜帯に対比される.
ている(大西ほか,1990).SB1の区分3とSB2の区
6)カシ・シイ花粉帯
分2がこの亜帯に対比されるものと考えられる.
タテチョウ遺跡におけるイヌマキーモミ時代(大西,
皿)マツ亜帯:マツ類とイネ科の急増により特徴づ
1979)やカシーシイ帯(大西・渡辺,1987)に相当する・
けられ,そのはじまりは西暦1500年頃と推定されてい
花粉帯であり,カシ類,ナラ類,クマシデ属,マキ属
る(大西,1985).SB1の区分2とSB2の区分1がこ
などが多い.この花粉帯は,SB1のN n b帯に相当す
の亜帯に対比されるものと考えられる.
るものと考えられ(大西,1979),そのはじまりは約5
IV)マツ・スギ亜帯:下位のマツ亜帯に比べて,マ
500年前と推定されている(大西,19τ7).しかし,
ツ類がやや減少し,スギ属がやや増加することに特徴
SB1においては,Nπb帯上部にあたる区分4はイネ
づけられ,そのはじまりは西暦1900年以後と推定され
科花粉帯に属するものと考えられ,中・下部にあたる
ている(大西,1986).SB1の区分1がこの亜帯に対比
区分5∼7がこの花粉帯に対比されるものと考えられ
されるものと考えられる.
る.また,区分5と区分7ではマキ属が多く,次の3
VI.花粉帯・亜帯の年代推定
亜帯に細分される.
1)カシ亜帯:マキ属が多いSB1の区分7および
SB2の区分7がこの亜帯に対比される.BP1の区分4
これまでイネ科花粉帯の各亜帯の年代については,
考古遺物や堆積速度から詳しく検討されてきた(大西
も,上下に比べてマキ属がやや多いので,この亜帯に
ほか,1990など).しかしそれより下位については,
対比されるものと考えられる.また,SB2の区分8も
SB1においておおまかな目安が計算されている(大
ムクノキ属一エノキ属やカシ類が多いことからこの亜
西,1977)にすぎない.今回,花粉帯・亜帯が確立さ
帯に属するものと考えられる.
れ,3本のコアについて対比されたので,その年代確
n)シイ亜帯:マキ属が少なくなり,マツ類,カシ
定を試みる.
類,ナラ類,シイ類などが多い.SB1の区分6,
BP1の区分3およびSB2の区分6がこの亜帯に対比
BP1とSB2では,イネ科花粉帯の上部が欠如して
される.
約2400年前を採用する.また,ムクノキ・エノキ花粉
皿)マキ亜帯:マキ属が増加するSB1の区分5お
よびSB2の区分4・5がこの亜帯に対比される.
いるので,上部の基準としてイネ科花粉帯のはじまり
帯の相対的な厚さは各コアにより異なっているので,
下部の基準としてブナ・ツガ帯のはじまりを約9000年
BP1の区分2は,マキ属はほとんど見られないが,前
前として採用する.この数値は大西(1977)によって
後の関係からこの亜帯に対比されるものと考えられ
目安として推定されたものであるが,後述のように,
る.
7)イネ科花粉帯
西川津遺跡と目久美遺跡においてイネ科花粉が急増
SB2の基底の値がほぼ1万年前と計算されることか
ら,かなり妥当性があるものと思われる.SB1と
BP1については,各花粉帯・亜帯のはじまりを,上記
することから提唱された花粉帯であり,SB1のN皿a
およびb帯に対応すると考えられた.この花粉帯は上
の数値に基づいて比例配分して計算した.またSB2
位より,マツ・スギ亜帯,マツ亜帯,典型亜帯および
花粉帯のはじまりを約5200年前と仮定して計算した.
スギ亜帯に分けられる(大西,1985).
なお,分析した試料の間隔は,SB1では30∼40cm,
1)スギ亜帯:スギ属の増加により特徴づけられ,
そのはじまりは弥生時代前期初頭(約2400年前)と推
では上部と下部で堆積速度が異なるので,カシ・シイ
BP1では40∼50cm,SB2では10cmであるが,花粉帯の
境はその中央にあると仮定して計算し,50年単位で表
宍道湖湖底下完新統の花粉群
125
表1 花粉帯・亜帯と花粉区分の対比
BP1
SB1
花 粉 帯
亜 帯
大 西
区 分
千場
P977
、
}ツ・スギ
マ ツ
P989
中谷
N皿a
X ギ
、
一
一
3
4
1
k2400〕
k2400〕
@5
E
1
1
2
k
3
@2
NHb
カシ・シイ
@3
@3950
h
@7
D
@4
5800
マツ・モミ
9
モ ミ
ムクノキ・エノキ
ブナ・ツガ
NHa
@7100
C
@8400
@12
クマシデ
@13
NI
B
9350
A
14
X700
ハンノキ・ナラ
一
ナラ・ハンノキ
『
@55750
@66750
@7V350
@88500
@9
e
d
〔9000〕
k9000〕
ブ ナ
ナ ラ
@10
@11
ツ ガ
ムクノキ・エノキ
@6450
@6
@7
S000
@8
k5200〕
T250
W
ニレ・ケヤキ
R200
4600
f
5150
@5
@4000
4300
9
カ シ
2400
@4
@3200
3050
@6
シ イ
k2400〕
@2700
i
@3050
一
m
j
マ キ
i年前)
』
2
年代
区 分
P990
1
N皿b
イ ネ 科
カシ・ナラ
SB2
区 分
@10
T200
T700
@6300
U400
@6750
V000
@8550
W500
@11
@12
b
@13
k9000〕
a
11000
@10
C
@9850
@11
@9
@5650
X000
@14
@9650
X600
10100
P0000
@15
P5
S
1に示した.花粉帯・亜帯の間隔の年代幅も考慮して
P0500
10250
P6
P1000
P0650
3)目久美遺跡の花粉帯WおよびlX(大西,1985)
表1の年代を推定した.
はカシ・シイ花粉帯およびマツ・モミ花粉帯に対
これらの年代は次のような点でかなりの確かさがあ
比されるが,縄文時代中期および前期の遺物を含
るものと考えられる.
み,その基底部の14C年代はそれぞれ,4450±150
1)完新世のはじめと考えられるムクノキ・エノキ
花粉帯のはじまりが約1万年前と計算できる.
・モミ花粉帯モミ亜帯に対比されるが,この中に
文
2)西川津遺跡の区分j(大西ほか,1989a)はマツ
yBPおよび6180±170yBPと測定されている(米
子市教育委員会,1986).
献
アカホや火山灰がはさまれる(大西ほか,1989
干場英樹,1989:宍道湖湖心部ボーリングの花粉分
b).
析.島根大学理学部地質学科卒業論文.
大西郁夫・干場英樹・中谷紀子
126
∼
¥
、、、、、、
¥、、、
¥、
¥、
A、
A、
、¥、、、、、、
、
、
、
、
、
愈
、
、
し、、
、
、
、
、㌧
、、、
A、
_1
、、’1
’1、
、
、
卜、
、
、
、
、
図5 花粉帯・亜帯の年代推定
、、、
、¥¥、
m
、、
∼ 匝・、
維弊桿膨\入!、 ・ 爪拳
、
/・、
、、、、
奪
、
、
\\
、、
20
、、
A
雛弊桿邸⊥→ ・ 脚\入!へ
、
、、
A、
、
、
継 閣 い 冬
、、、
’\
、、
A、
へ
、
A
糎 圏 ト ト
、、
、.
銀閣ト着トヘ
、 、
P
、ト
A、
A≒
、、
、、
ミ
、、
継 繍 や 勢
、¥
A、
、、、、
、∼、
、
筆圏脚\H.脚\へく
搬 圏 醒 申
、
糎奪鐸 し¶\、H ・癖\ へく
雑弊栂〃山り ・ L八’卜
¥
傘隅蜘キ娠・ム“
﹃\、¥
、
、
、
こ寸
、 ¥
鯉 圏 き タ
、
、
、
¥
、
¥
¥
継 届 ヤ 斜
紐 圏 晋 卜
絵 隙 騨 K
聖闇小承・ムタ
雛 幽 勢 卜
雛闇漸K・︾卜
、 、
\1¥
千年前
10
5
0
一 ト\
1〔)
1
0
’1、 ’し・一
、 、1、
、蛮
心奄
、
、
¥、
、
、
、
㌧
心’・、
¥、1
1\、
b
宍道湖湖底下完新統の花粉群
水野篤行・大嶋和雄・中尾征三・野口寧世・正岡栄
治,1972:中海・宍道湖の形成過程とその問題点.
地質学論集,7,113−124.
127
,1988:中国地方の第四紀層.地質学論集,
30, 127−144.
中谷紀子,1990:宍道湖底コアSB2の花粉分析.島根
・原田吉樹・渡辺正巳,1989a:松江市,西
川津遺跡の花粉分析.山陰地域研究(自然環境),
大学理学部地質学科卒業論文.
5,45−54.
大西郁夫,1977:出雲海岸平野下第四紀堆積物の花粉
・西田志朗・渡辺正巳,1989b:山陰地方中
部の第四紀後期火山ガラス.島根大学地質学研究報
分析.地質学雑誌,83,603−616.
,1979:花粉の分析.朝酌川河川改修工事に
伴うタテチョウ遺跡発掘調査報告1,188−193.
告,8,7−16.
,1980:斐伊川川口ボーリングコアの花粉分
析.国営斐伊川下流土地改良事業計画書添付資料,
・日下智博・熊井克己,1990:出雲平野西部の自然
V,地質編,57−7L
・渡辺正巳,1987:西川津遺跡(1983)の花
,1985:中海・宍道湖湖底およびその周辺地
粉分析.朝酌川河川改修工事に伴う西川津遺跡発掘
域の最上部完新統の花粉分析.島根大学地質学研究
調査報告書皿,252−261.
報告,4,115−126.
・徳岡隆夫・高安克己・石原 清・梶田秀児
史.山陰地域研究(自然環境),6,21−34.
米子市教育委員会・鳥取県河川課,1986:目久美遺跡
,1986:中海宍道湖湖底表層コアの花粉分帯
一加茂川改良工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書.
と環境変遷.山陰地域研究(自然環境),2,81−
158P.
89.