研究課題:食道切除後の胃管再建法の無作為化比較試験 ~胃管再建 vs 十二指腸離断+Roux-en Y 付加胃管再建~ 研究者氏名:矢野雅彦、本告正明、杉村啓二郎、藤原義之、岸健太郎、深田唯史、梅田卓郎、原豪男 所属:大阪府立成人病センター 消化器外科 要旨:食道亜全摘、胃管再建術後には、胃十二指腸液の逆流と胃排泄遅延の訴えが多く術後の QOL 低下の 原因となっている。これらを軽減する新しい再建法として Roux-en-Y 再建術を考案した。単施設において、 通常の胃管再建法と RY 再建法の無作為化比較試験を開始した。予定症例数は 60 例であるが平成 26 年 3 月 12 日時点の症例登録数は 35 例であり、研究期間を 2 年間延長する予定である。 キーワード:食道癌、胃管再建、Roux-en-Y 再建、 はじめに 体重、各種栄養学的指標、経口摂取量を比較。 食道癌に対する食道切除後の再建には胃管が用 いられることが多い。胃管再建症例の術後の愁訴 成績 としては胃十二指腸液の逆流と胃排泄遅延が多く、 1)平成 26 年 3 月 12 日現在 RY 群 18 例、Non-RY しばしば誤嚥性肺炎や低栄養の原因となっている。 群 17 例の計 35 例の症例が登録された。両群 これらの症状を軽減することを目的に、われわれ の背景は下表のとおりで年齢、性別、栄養状 は胃管再建時に十二指腸を離断し Roux-en Y 再建 態に差はみられなかった。 を付加する術式を考案した。本研究では、従来行 われている通常の胃管再建術と比べて、十二指腸 RY Non-RY P value 離断+Roux-en-Y 再建術を付加した再建術が術後 年齢 60.8±9.1 62.2±7.0 0.6039 逆流および胃排泄遅延に対して有効かどうかを単 性別 17/1 15/2 0.6026 施設での無作為化比較試験にて明らかにする。 組織型 14/2/2 14/3/0 0.249 5/3/10 7/7/3 0.0737 10/8 8/9 0.7395 SCC/adeno/others 対象と方法 進行度 治癒切除可能な胸部食道癌で食道亜全摘、胸骨後 Stage I/II/III 胃管再建、2 または 3 領域郭清術を行う予定の症例 術前治療 60 例を対象に、以下のような RY 群と Non-RY 群に あり/なし 無作為に分ける。 術前 BMI 22.0±3.2 21.9±2.8 0.8882 (1)Non-RY 群:従来通りに、胃管再建を行う。 術前 Alb 3.9±0.3 3.9±0.3 0.9148 (2)R Y 群:通常の胃管再建に加えて、十二指腸 術前リンパ球数 1752±525 1831±636 0.6920 離断と Roux-en-Y 再建を追加する。それ以外の手 術操作は Non-RY 群と同様とする。 主評価項目:アンケート調査用紙(DAUGS-32)を用 いた術後 1 年目の QOL 比較。 副評価項目:術後胃管内アミラーゼ値およびビリ ルビン値、術後合併症発生率、術後 1 年目の内視 鏡所見(逆流性食道炎・食物残渣・胃炎の程度)、 2)両群の短期成績は以下の表の通りである。手 術時間、出血量は RY 群が有意に多かった。RY 群では術後の胃管内膵アミラーゼ値、総ビリ ルビン値が低値であり十二指腸液の胃管への 逆流が抑制されていることが示唆された。ま た術後合併症発生割合や栄養指標には両群間 で有意な差はなかった。 本研究の成果の発表 RY Non-RY P value 本研究の成果は,現時点では研究進行中のため未 手術時間(min) 539±35 461±46 <0.0001 発表である。 出血量(ml) 898±351 659±305 0.0485 胃管内膵アミラ 11851± 50176± 0.2329 ーゼ(IU/L) 19456 128489 胃管内膵アミラ 3/14 9/8 文献 1. 矢野雅彦、本告正明、田中晃司ら.食道癌術後 0.0707 の嚥下障害. 日本気管食道科学会会報 61: 191-193, 2010. ーゼ(IU/L) 10000 以上/以下 胃管内 0.7±1.4 7.9±15.9 0.0744 再建 T-Bil (g/dl) 胃管内 T-Bil 2.矢野雅彦、本告正明、田中晃司ら.胃管 Roux-Y -逆流とうっ滞防止を目指した工夫-. 手 1/16 7/10 0.0391 術 65: 1121-1127, 2011. 1/17 0/17 >0.9999 3. Yano M, Motoori M, Tanaka K, et al. Prevention of 2g/dl 以上/以下 縫合不全 gastroduodenal content reflux and delayed gastric あり/なし イレウス 0/18 0/17 >0.9999 emptying after esophagectomy: gastric tube SSI 1/17 2/15 0.6026 reconstruction with duodenal diversion plus Roux-en-Y 腹腔内膿瘍 1/17 0/17 >0.9999 anastomosis. Diseases of the Esophagus. 25(3): 181-7, 肺炎 3/15 4/13 0.6906 2012. 反回神経麻痺 2/16 4/13 0.6562 退院時食事量 1095±402 1039±238 0.6251 退院時 BMI 20.7±2.8 21.1±2.2 0.6826 退院時 Alb 3.6±0.4 3.8±0.5 0.1778 (Kcal) 21. 1± 2.2 退院時リンパ球 1381±507 1585±443 0.2225 数 考察 本臨床試験は症例集積ペースが予定より遅れた ため 2 年間の研究期間延長を行う。これまで食道 癌患者の再建法に関して RY 再建の有用性を明らか にしたものはない。今後さらなる症例の集積を待 って最終的な検討を加える予定である。本再建法 の有用性が明らかになれば食道癌術後の QOL 改善 に寄与するものと思われる。 0.6826
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