N04. ピストンの慣性力のつりあい条件

埼玉工業大学
テーマ N04:
機械工学学習支援セミナー(小西克享)
ピストンの慣性力のつり合い条件-1/4
ピストンの慣性力のつり合い条件
ピストン慣性力は,クランク角度によって変化しますが,単気筒機関ではピストンが一
つしかないため慣性力を打ち消し合うことができないため,常に不つり合いを生じます.
多気筒機関ではピストンが一斉に同じ動きをするのではなく,ピストンごとに運動がずれ
るため,各ピストンの慣性力が合成された合成慣性力を考慮しなければなりません.各ピ
ストンの慣性力が相殺する場合,合成慣性力が0となり,不つり合いは生じません.慣性
力がつり合う条件は,シリンダの配置(直列か V 型)やクランクピンの配置によって異な
りますが,ここでは直列多気筒機関について,ピストン慣性力がつり合う条件を求めるこ
とにします.
ピストン慣性力は



F  rm 2 cos   22 A2 cos 2  42 A4 cos 4  62 A6 cos 6  82 A8 cos 8  
(1)
と表されます.ただし,
l:
コンロッド長さ
r:
クランク長さ
 : 連かん比  l r
:
上死点基準のクランク角度
1
3
5
525




2
4
6
4 64 256 491528
1
1
15
105
A2  2 



4
6
4 16 512 61448
3
165
 1

A4  


 
4
6
8
 64 256 24567

A0  1 
15
 1

A6  


6
8
 512 6144 
 15

A8  
 
8
 49152

ここで,比率の大きい 1 次と 2 次慣性力のみを考慮し,さらにの 4 乗以上の項を無視する
と
A2 
1
42
とおけるので,ピストン慣性力は
1


F  rm 2  cos  cos 2 



と表されます.
(2)
直列多気筒機関の場合,i 番目のシリンダのクランクピン角度をi とすると,(2)式より,
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ピストンの慣性力のつり合い条件-2/4
ピストン慣性力の合計は次式となります.ただし,シリンダ数を n とし,クランク半径 r お
よびピストン質量 m は全シリンダで等しいものとします.
n
1 n

F  rm 2  cos   i    cos 2   i 
 i 1
 i 1

(3)
ここで,1 次慣性力は,(3)式の第 1 項より
n
F1  rm 2  cos   i 
i 1
n
 rm 2  cos  cos  i  sin  sin  i 
(4)
i 1
n
n


 rm 2  cos   cos  i  sin   sin  i 
i 1
i 1


となり,1 次慣性力がつり合うには,
F1  0
(5)
でなければなりません.さらに,すべての  で(5)式が成立するためには,
n
 cos
i 1
(6)
n
 sin 
i 1
0
i
i
0
でなければなりません.2 次慣性力は,(3)式の第 2 項より
1 n
F2  rm 2  cos 2   i 

 rm 2
1

i 1
n
 cos 2 cos 2
i 1
i
 sin 2 sin 2 i 
(8)
n
n
1

 cos 2  cos 2 i  sin 2  sin 2 i 

i 1
i 1

となり,2 次慣性力がつり合うには,
F2  0
(9)
 rm 2
でなければならなりません.さらに,すべての  で(9)式が成立するためには,
n
 cos 2
i 1
i
(10)
n
 sin 2
i 1
0
i
0
でなければなりません.図 1 に示す通り, 1  0 としてクランクピンを等間隔に配置する
場合,クランクピン角度は
i 
2
i
n
になります.
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1
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1
1
ピストンの慣性力のつり合い条件-3/4
1
1
5 2
2
2
2
1
6
4
3
2
4
3
3
5
3
4
図 1 クランクピンの配置
(6)式および(10)式の左辺の値を求めると,表 1 のようになります.この表より,以下のこ
とが分かります.
n
n
i 1
i 1
① シリンダ数が 1(単シリンダ機関)では,  cos  i および  cos 2 i が 0 とならないた
め,不つり合いの発生を防止できない.
n
② シリンダ数が 2 では,1 次慣性力はつり合うものの,  cos 2 i が 0 とならないため,
i 1
2 次慣性力はつり合わない.
③ シリンダ数が 3 以上になると,1 次および 2 次慣性力の両方が合りあう.
表1
シリンダ数
Scos i
1次
Ssin i
Scos2 i
2次
Ssin2 i
シリンダ数とつりあい条件の関係(等間隔に配置)
1
1
0
1
0
2
0
0
2
0
3
0
0
0
0
4
0
0
0
0
5
0
0
0
0
6
0
0
0
0
7
0
0
0
0
8
0
0
0
0
図 2 に示すように, 1  0 としてクランクピンを 2 シリンダごと等間隔に配置する場合
(偶数シリンダ機関),シリンダ数とこれらのつり合い条件の関係は表 2 のようになりま
す.
4 1
2
3 2
8 1
6 1
5
2
7
4
3
4
5
6 3
図 2 クランクピンの配置
表2
シリンダ数とつり合い条件の関係(2 シリンダごと等間隔に配置)
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シリンダ数
Scos i
1次
Ssin i
Scos2 i
2次
Ssin2 i
機械工学学習支援セミナー(小西克享)
1
2
3
4
0
0
0
0
5
ピストンの慣性力のつり合い条件-4/4
6
0
0
0
0
7
8
0
0
0
0
表 2 より,2 シリンダごと等間隔に配置する場合,シリンダ数が 4 以上のすべての偶数
シリンダで 1 次および 2 次慣性力の両方がつり合うことがわかります.
http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/Tech_inform/Pdf/BalanceoOfPistonInertiaForce.pdf
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