SY-1 腎不全治療における地域差がかかえる問題点を考える 島根大学医学部附属病院 腎臓内科 ○伊藤孝史 現在の日本では、全国のどの透析施設でも世界トップレベルの透析医療を受けるこ とが可能です。しかし、都市部と山間部では受けられる透析医療などに差『地域差』 があることも事実です。 そこで、今回のシンポジウムでは、『腎不全治療における地域差がかかえる問題点 を考える』ということをテーマとして、中国五県の皆さんと情報交換をさせていただ きたいと考えています。 地域差がかかえる問題点としては、透析になるまでは、①保存期腎不全の管理、② 療法選択の内容、透析になってからは、③透析専門医数、④透析施設へのアクセス、 ⑤通院できなくなった際の入院透析、などがあげられますが、本シンポジウムでは、 上記それぞれの分野において活躍しておられる五名の先生がたにお話を頂きたいと思 います。 オーバービューでは、現在の中国五県における腎臓専門医、透析専門医の分布・偏 在、そして島根県における透析施設へのアクセスの現状を報告させていただき、シン ポジストの先生がたにバトンタッチして行きたいと考えています。 SY-2 保存期:透析導入予後を考慮した CKD 地域医療連携 岡山大学病院 腎臓・糖尿病・内分泌内科 ○前島洋平、杉山 斉、槇野博史、和田 淳 慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全, 心血管疾患(CVD)合併のリスク因子である。保存 期CKD患者の腎臓専門医への早期紹介・管理による腎機能低下の抑制効果が報告され、腎 臓専門医による多角的CKD管理により、計画的透析導入が増加し、入院回数・期間が減少し、 総死亡が有意に低下したことが報告されている。岡山県では、 県南の腎臓専門医数が多いが、 県北では少ない。2012年に岡山県生活習慣病対策推進会議 CKD・CVD対策専門部会が発足 したが、1)CKD・CVD医療連携の推進、2)CKD・CVD普及啓発、3)特定健診フォローアッ プ事業(CKD) 、4)小児CKD対策を活動指針としている。2007年に岡山市CKD病診連携ネッ トワーク(OCKD-NET)が設立され、 2013年に倉敷CKD病診連携ネットワーク(KCKD-NET) が発足した。2つのCKD病診連携ネットワークの現況と課題について考察する。さらに、 2014年には岡山県CKD・CVD地域医療連携パス・腎臓専門医名簿の作成、公開を行い、 FROM-J(CKD戦略研究)にて作成された「CKD管理ノート」を印刷し、医師会, OCKDNET, KCKD-NET, 行政, 保健所よりCKD患者に配布し、全県下におけるCKD病診連携の普 及を推進している。岡山県北では腎臓専門医数が少なく、住民の高齢化も進行しCKD医療 連携が困難であるが、FROM-J研究へ美作医会に参加していただき、地域連携ミーティング、 CKD講演会等を実施した。特定健診フォローアップ事業が岡山市国保で2011年より開始さ れ、保健指導、受診勧奨による予後改善効果を認めている。美作市においても特定健診フォ ローアップ事業が開始され、医師会の協力によるCKD診療連携体制構築を進めている。 腎臓専門医数・住民の高齢化等の地域差を考慮し、各地域の実情にあわせたCKD地域医 療連携を推進することが今後の課題である。 ― 31 ― SY-3 広島県における透析医療の地域格差 ―アクセスの分析― SY-5 広島大学医学部地域医療システム学1)、県立広島病院腎臓内科2)、 広島大学大学院医歯薬保健学研究院公衆衛生学3) ○松本正俊1)、小川貴彦2)、鹿嶋小緒里3)、竹内啓祐1) PD 患者受け入れのための地域連携 山陰労災病院 腎センター ○森岡万里 透析医療は頻回かつ長期の通院が必要であり、医療機関へのアクセスの良し悪しが 患者の生活に及ぼす影響は無視できない。我々は広島県における透析患者通院時間お よび透析有病率の地域間格差を地理情報システム(GIS)を用いて分析した。広島県 内のすべての腎臓病身体障害一級者および三級者全員(計7374名)の住所と、広島 県内のすべての透析医療機関(計98施設)の住所および最大通院患者数の情報を使用 し、GIS上で計算した各地域から最寄りの収容可能な透析施設までの最短道路時間を 通院時間とみなした。さらに各地域の透析有病率を求め、それを日本全国の年齢階層 別・性別有病率から算出した期待有病率で割ることで、各地域の標準化有病率割合を 求めた。その結果、県内へき地の透析患者は都市部の患者に比べて通院時間が有意に 長いこと(2倍程度)が明らかになった。またへき地の公的病院が閉鎖された場合、 同規模の都市部の病院が閉鎖された場合と比べて、患者の通院時間格差の増大も、長 時間通院患者数も著しく増加することが分かった。さらに、地域の標準化有病率割合 は通院時間が伸びるほど減少していく傾向があった。このことより、へき地における 透析医療機関の維持が政策上重要であることが示唆された。 近年、腎不全により腎代替療法が必要となった患者に対して身体的問題で行えない 場 合 を 除 き、 血 液 透 析( 在 宅 透 析・ 夜 間 透 析・ 施 設 透 析 )・ 腹 膜 透 析(CAPD・ APD)・移植・HD併用療法など患者各々のQOLにあわせ様々な治療法選択が可能で ある。しかし実際には、各治療法の情報提供がなかったり、近くに治療施設がないな どの理由で治療法が制限される場合も少なくない。鳥取県では在宅血液透析を手がけ ている施設がないこと、山間部は透析施設が少なく通院困難から転居やPD療法を選 択している場合も多いこと、また患者の高齢化に伴い援助・介護を必要とする患者も 増えたことなど様々な問題点を抱えている。 今回はその中で、高齢で介護が必要となったPD患者に対して関わる訪問看護や在 宅介護スタッフなどへの支援について考えた。 当院では2005年居宅介護事業所と入所介護施設(介護サービス事業所)に対して PD患者の受け入れに対しての調査を行った結果、PD患者の受け入れ経験がないこと への不安や、透析医療をめぐる社会・経済環境のため、受け入れが難しい現状がわかっ た。そのため介護サービス事業所や医療施設のスタッフに対して、定期的な腹膜透析 勉強会(現在は腎不全・透析勉強会)や情報連携・カンファレンス、事業所での指導・ 説明などを継続的に行ってきた。今回これらの取り組みを症例を交えながら報告する。 キーワード:PD患者、介護サービス事業所、地域連携 SY-4 SY-6 医療環境と患者の希望を踏まえた療法選択 岡山済生会総合病院 腎臓病センター ○大脇浩香 厚生労働省は、在宅医療及び移植医療の推進をしているが、これらを支援する施設 や医療スタッフは十分ではなく、在宅医療及び腎移植は普及しているとはいえない現状 である。 血液透析・腹膜透析という選択肢に加え、長時間透析・在宅透析といったように透析 のあり方が多様化しているが、全ての腎代替療法を実施できる施設はほとんどない問題 もあり、そこには地域差もある。また、標準透析だけでなくその他の透析技術も出来る よう、多くの施設で選択肢を増やす取り組みを行なうことが望まれる。 現在、週3回の通院が必要である施設血液透析を選択する患者が多く、生活の質の低 下に繋がっていると思われる。わが国の透析療法は国際的にも最高の水準にあり、施設 透析を選択しても問題はないが、施設によっては、療法選択時にすべての情報を患者に 提供していないこともある。患者の生活や仕事に応じ、また原疾患の違いに応じて、よ り適切な透析療法が選択されることが患者の腎不全ライフを豊かにする上で大切である。 腎代替療法を選択する際、医師が短い診療時間の中、患者・家族の思い、家庭環境、 将来への不安を十分受容はできない。ビデオや小冊子のような媒体でなくじっくり話し を聞き将来に繋げる努力をチーム医療で行なうことが肝要であると考え、当院では、腎 臓病センター看護師による療法選択外来を行っている。 岡山県のおける透析施設状況と療法選択外来の取り組みについて報告する。 ― 32 ― 島根県の中山間地域における透析療法の現状 平成記念病院 内科 ○陶山紳一朗、佐藤 宏、今岡 誠 当院は島根県雲南市にあるケアミックス病院(一般病棟と療養病棟の混在型)であ る。雲南圏域は人口6万人、65歳以上の高齢者が34%を占め、3医療機関で透析を行っ ているが常勤医不足のため、透析患者23年度129名中圏域内受診割合は78.6%と低く 他圏域へ流出している 当院の透析患者は63名、平均年齢71歳と高齢化が進んでい る。基礎疾患では腎硬化症22%と高く、糖尿病性は28%と低かった。通院中の患者 は認知症がなく自立した例がほとんど 自分で通院53%、施設送迎26%、家族の送 迎14%、NPO法人7% 公共機関を使って0件。医療圏が県面積の17%と広範囲で片 道1時間かけて通院する患者もいる。また冬季積雪時の通院は困難で入院する例もあ る。長期入院例は急性期病院から要介護状態となり転院となった患者、当院通院中何 らかの合併症で入院 ADL低下し通院困難になった患者が多い。入院中の患者で医 療が引き続き必要な患者は一般病棟に、病状が安定した患者は医療型療養病棟に入院 する体制をとっている。今年度の診療報酬改定にて長期透析患者の受け皿確保として、 療養病棟において慢性維持透析患者管理加算100点が加算された。居宅系サービスに 入所しての通院は現在のところショートステイ利用のみだが、今後地域包括ケアの立場 からも住み慣れた地域で生活していくため、NPO法人を使っての通院介助、入所施 設での透析患者を受け入れる看護体制の整備等が必要と思われる。 ― 33 ― SY-3 広島県における透析医療の地域格差 ―アクセスの分析― SY-5 広島大学医学部地域医療システム学1)、県立広島病院腎臓内科2)、 広島大学大学院医歯薬保健学研究院公衆衛生学3) ○松本正俊1)、小川貴彦2)、鹿嶋小緒里3)、竹内啓祐1) PD 患者受け入れのための地域連携 山陰労災病院 腎センター ○森岡万里 透析医療は頻回かつ長期の通院が必要であり、医療機関へのアクセスの良し悪しが 患者の生活に及ぼす影響は無視できない。我々は広島県における透析患者通院時間お よび透析有病率の地域間格差を地理情報システム(GIS)を用いて分析した。広島県 内のすべての腎臓病身体障害一級者および三級者全員(計7374名)の住所と、広島 県内のすべての透析医療機関(計98施設)の住所および最大通院患者数の情報を使用 し、GIS上で計算した各地域から最寄りの収容可能な透析施設までの最短道路時間を 通院時間とみなした。さらに各地域の透析有病率を求め、それを日本全国の年齢階層 別・性別有病率から算出した期待有病率で割ることで、各地域の標準化有病率割合を 求めた。その結果、県内へき地の透析患者は都市部の患者に比べて通院時間が有意に 長いこと(2倍程度)が明らかになった。またへき地の公的病院が閉鎖された場合、 同規模の都市部の病院が閉鎖された場合と比べて、患者の通院時間格差の増大も、長 時間通院患者数も著しく増加することが分かった。さらに、地域の標準化有病率割合 は通院時間が伸びるほど減少していく傾向があった。このことより、へき地における 透析医療機関の維持が政策上重要であることが示唆された。 近年、腎不全により腎代替療法が必要となった患者に対して身体的問題で行えない 場 合 を 除 き、 血 液 透 析( 在 宅 透 析・ 夜 間 透 析・ 施 設 透 析 )・ 腹 膜 透 析(CAPD・ APD)・移植・HD併用療法など患者各々のQOLにあわせ様々な治療法選択が可能で ある。しかし実際には、各治療法の情報提供がなかったり、近くに治療施設がないな どの理由で治療法が制限される場合も少なくない。鳥取県では在宅血液透析を手がけ ている施設がないこと、山間部は透析施設が少なく通院困難から転居やPD療法を選 択している場合も多いこと、また患者の高齢化に伴い援助・介護を必要とする患者も 増えたことなど様々な問題点を抱えている。 今回はその中で、高齢で介護が必要となったPD患者に対して関わる訪問看護や在 宅介護スタッフなどへの支援について考えた。 当院では2005年居宅介護事業所と入所介護施設(介護サービス事業所)に対して PD患者の受け入れに対しての調査を行った結果、PD患者の受け入れ経験がないこと への不安や、透析医療をめぐる社会・経済環境のため、受け入れが難しい現状がわかっ た。そのため介護サービス事業所や医療施設のスタッフに対して、定期的な腹膜透析 勉強会(現在は腎不全・透析勉強会)や情報連携・カンファレンス、事業所での指導・ 説明などを継続的に行ってきた。今回これらの取り組みを症例を交えながら報告する。 キーワード:PD患者、介護サービス事業所、地域連携 SY-4 SY-6 医療環境と患者の希望を踏まえた療法選択 岡山済生会総合病院 腎臓病センター ○大脇浩香 厚生労働省は、在宅医療及び移植医療の推進をしているが、これらを支援する施設 や医療スタッフは十分ではなく、在宅医療及び腎移植は普及しているとはいえない現状 である。 血液透析・腹膜透析という選択肢に加え、長時間透析・在宅透析といったように透析 のあり方が多様化しているが、全ての腎代替療法を実施できる施設はほとんどない問題 もあり、そこには地域差もある。また、標準透析だけでなくその他の透析技術も出来る よう、多くの施設で選択肢を増やす取り組みを行なうことが望まれる。 現在、週3回の通院が必要である施設血液透析を選択する患者が多く、生活の質の低 下に繋がっていると思われる。わが国の透析療法は国際的にも最高の水準にあり、施設 透析を選択しても問題はないが、施設によっては、療法選択時にすべての情報を患者に 提供していないこともある。患者の生活や仕事に応じ、また原疾患の違いに応じて、よ り適切な透析療法が選択されることが患者の腎不全ライフを豊かにする上で大切である。 腎代替療法を選択する際、医師が短い診療時間の中、患者・家族の思い、家庭環境、 将来への不安を十分受容はできない。ビデオや小冊子のような媒体でなくじっくり話し を聞き将来に繋げる努力をチーム医療で行なうことが肝要であると考え、当院では、腎 臓病センター看護師による療法選択外来を行っている。 岡山県のおける透析施設状況と療法選択外来の取り組みについて報告する。 ― 32 ― 島根県の中山間地域における透析療法の現状 平成記念病院 内科 ○陶山紳一朗、佐藤 宏、今岡 誠 当院は島根県雲南市にあるケアミックス病院(一般病棟と療養病棟の混在型)であ る。雲南圏域は人口6万人、65歳以上の高齢者が34%を占め、3医療機関で透析を行っ ているが常勤医不足のため、透析患者23年度129名中圏域内受診割合は78.6%と低く 他圏域へ流出している 当院の透析患者は63名、平均年齢71歳と高齢化が進んでい る。基礎疾患では腎硬化症22%と高く、糖尿病性は28%と低かった。通院中の患者 は認知症がなく自立した例がほとんど 自分で通院53%、施設送迎26%、家族の送 迎14%、NPO法人7% 公共機関を使って0件。医療圏が県面積の17%と広範囲で片 道1時間かけて通院する患者もいる。また冬季積雪時の通院は困難で入院する例もあ る。長期入院例は急性期病院から要介護状態となり転院となった患者、当院通院中何 らかの合併症で入院 ADL低下し通院困難になった患者が多い。入院中の患者で医 療が引き続き必要な患者は一般病棟に、病状が安定した患者は医療型療養病棟に入院 する体制をとっている。今年度の診療報酬改定にて長期透析患者の受け皿確保として、 療養病棟において慢性維持透析患者管理加算100点が加算された。居宅系サービスに 入所しての通院は現在のところショートステイ利用のみだが、今後地域包括ケアの立場 からも住み慣れた地域で生活していくため、NPO法人を使っての通院介助、入所施 設での透析患者を受け入れる看護体制の整備等が必要と思われる。 ― 33 ―
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