福島県モニタリングポストの NaI(Tl)検出器波高分布データを用

KEK Preprint 2014-31
October 2014
R
福島県モニタリングポストの
NaI(Tl) 検出器波高分布データを用いた
空気中 I-131 放射能濃度時間変化の推定
平山 英夫、松村 宏、波戸 芳仁、佐波 俊哉
高エネルギー加速器研究機構 放射線科学センタ−
Estimation of Time History of I-131 Concentration in Air
Using NaI(Tl) Detector Pulse Height Distribution
at Monitoring Posts of Fukushima Prefecture
Hideo HIRAYAMA, Hiroshi MATSUMURA,Yoshihito NAMITO,Toshiya SANAMI
1
Radiation Science Center, High Energy Accelerator Reserach Organization
1-1 Oho, Tsukuba-shi, Ibaraki, 305-0801 Japan
To be published in Trans. At. Energy Soc. Japan
High Energy Accelerator Reserach Organization
High Energy Accelerator Research Organization (KEK), 2014
KEK Reports are available from
High Energy Accelerator Research Organization (KEK)
1-1 Oho, Tsukuba-sh
Ibaraki-ken, 305-0801
JAPAN
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福島県モニタリングポストの
NaI(Tl) 検出器波高分布データを用いた
空気中 I-131 放射能濃度時間変化の推定
平山 英夫、松村 宏、波戸 芳仁、佐波 俊哉
高エネルギー加速器研究機構 放射線科学センタ−
Hideo HIRAYAMA, Hiroshi MATSUMURA,Yoshihito NAMITO,Toshiya SANAMI
Radiation Science Center, High Energy Accelerator Reserach Organization
1-1 Oho, Tsukuba-shi, Ibaraki, 305-0801 Japan
Abstract
Time histories of I-131 concentration in air at the monitoring posts of Fukushima prefecture
during March 2011 were estimated using pulse height distribution of NaI(Tl) detector which
was opened to the public. Several corrections to the pulse height distribution were necessary
due to high count rates. The contribution on the count rates from I-131 attached around the
monitoring post was estimated according to the time history of peak count rate with the method
proposed by the authors et al. The concentrations of I-131 in air were converted from the peak
count rates using calculated response of the NaI(Tl) detector with egs5 for a model of a plume
containing I-131 uniformly. The obtained time histories of I-131 concentration in air at the fixed
point in March 2011 were first ones in Fukushima prefecture. The results at 3 monitoring posts,
Naraha-town Shoukan, Hirono-town Futatunuma and Fukushima-city Momijiyama, which can
be analyzed during almost whole March show that the plume including I-131 was arrived after
March 15. The results at other monitoring posts near Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
are used to understand the plume diffusing at the beginning period of the accident before March
15.
The I-131 time-integrated concentration in air at several monitoring posts were compared
with those given in UNSCEAR 2013 ANNEX A which were obtained using estimated time dependent release rates to atmosphere. Agreement between both results varies depending on each
place compared due to the large uncertainties in the estimated release rate used in UNSCEAR.
The results obtained in this study can be used to increase the accuracy of the time dependent
release rate estimation.
1
緒言
1
福島第一1原子力発電所(以下、
「発電所」という。)の事故に伴い環境に放出された I-131 の空
気中濃度の時間変化は、初期の内部被ばくを評価する上で重要なデータである。特に、評価が必
要な事故初期における福島県内でのデータが不足している。空気中濃度を推定する基になるデー
タとして、測定データが多い空気吸収線量率や周辺線量当量率といった線量率情報、あるいは、地
表面等に沈着した I-131 の濃度等、様々なデータから I-131 放出量の時間変化を推定することが試
みられている。線量率の時間変化は、プルームの飛来を知る上で重要な情報であるが、線量率の
変化と I-131 の空気中濃度の変化が一致しないことは、日本原子力研究開発機構 (JAEA) の原子力
科学研究所(以下、
「原科研」という。)のモニタリングポストデータの解析でも明らかになってい
る [1]。また、地表などに沈着した I-131 の密度は、何回かのプルームの飛来に伴う積分値であり、
そこから I-131 の放出量の時間変化情報を求めることには無理がある。一方、モニタリングポスト
での線量測定に NaI(Tl) 検出器が使用されている場合には、波高分布データが残されている場合
があり、この場合には波高分布から空気中の放射性核種の情報を得ることができる。福島県では、
2011 年 3 月のモニタリングポストでの波高分布数値データをホームページで公開している [2]。筆
者等が提案した特定核種に対応したγ線の全吸収ピーク計数率の時系列変化から、空気中と周辺
に沈着した放射性核種の寄与を分離する方法 [1] を福島県が公開した波高分布データに適用して、
事故直後の 3 月におけるモニタリングポストでの I-131 の空気中濃度の時間変化を推定した。3 月
中のほぼ全期間について解析可能なデータが存在している 3 箇所のモニタリングポスト (楢葉町松
館、広野町二ツ沼及び福島市紅葉山) について、発電所から離れた場所での福島県内における 3 月
中の I-131 の空気中濃度の時間変化を推定した。一方で,発電所に近いモニタリングポストでは、
3 月途中までしかデータが存在していない場所が多く、存在していても 15 日以降はパイルアップ
により波高分布からピーク解析が不可能な状況であったので、15 日以前における空気中濃度の時
間変化のみの推定となった。
得られた空気中濃度の時間変化データを用いて I-131 の時間積分空気中濃度を求め、UNSCEAR
2013 ANNEX A[3] に掲載されている推定値との比較を行った。
モニタリングポストにおける測定値
2
2.1
公開されているモニタリングポストでの波高分布データ
福島県からは、Table 1 に示す 13 箇所のモニタリングポストにおける NaI(Tl) 検出器の 10 分又
は1時間の間の波高分布データが公開されている [2]。表中の発電所からの方向及び距離は、ホー
ムページ [4] に掲載されているものである1 。使用されている NaI(Tl) 検出器は大きさが 2”φ×2”
で、地表から 3m の高さに設置されている。13 箇所の内、双葉町上羽鳥は、12 日 23 時までしか
データが無く、12 日の 8 時以降は、計数率が高くピーク解析ができなかったので、以下の濃度推
定の対象外とした。楢葉町松館及び広野町二ツ沼の 2 カ所は 3 月中の全期間について、福島市紅葉
山は 3 月 28 日までピーク解析が可能なデータがあるが、その他のモニタリングポストでは 15 日
以降のデータが存在しないか、存在しても計数率が高くピーク解析ができなかったので、14 日夜
中からの急上昇以前の発電所周辺での I-131 の空気中濃度の時間変化を調べることに使用した。2
1
福島市紅葉山は、ホームページ記載モニタリングポストに含まれていないので住所から著者が推定した。
富岡町富岡のデータは、13 日までしかないが、その間に I-131 が検出されていないので、13 日までは、プルーム
の飛来が無かったという情報として使用した。
2
2
Table 1 Monitoring Posts information opened to the public from Fukushima prefecture
Distance from
Measurement
Data period during
Data period
Fukushima Daiichi
time
March, 2011
possible to analyze
Nuclear Power Station
(miniutes)
Koriyama
NNW 2.8km
10
till 14th 24:00
till 14th 20:00
th
Futaba-town
Yamada
WNW 4.1km
60
till 31 24:00
till 15th 11:00
th
60
Kamihatori
NW 5.6km
till 12 24:00
th
th
Mukaihata
SW 4.0km
60
till 15 2:00
till 14 20:00
th
th
Oono
WSW 4.9km
60
till 16 16:00
till 14 21:00
Okuma-town
th
th
60
Minamidai
SW 2.4km
till 14 20:00
till 14 20:00
th
th
Ottozawa
SSW 1.6km
60
till 15 7:00
till 14 19:00
Shoukan
SSW 14.2km
60
till 31th 24:00
till 31th 24:00
Naraha-town
10
Shigeoka
SSW 14.2km
till 14th 24:00
till 14th 22:20
th
th
Simokoriyama
SSW 11.8km
60
till 15 8:00
till 14 21:00
Tomioka-town
th
th
Tomioka
SSW 9.4km
10
till 13 24:00
till 13 24:00
60
Hirono-town
Futatunuma
S 21.4km
till 31th 24:00
till 31th 24:00
th
th
Fukushima-city Momijiyama
NW 61.3km
60
till 28 18:00
till 28 18:00
Name of city or
town
2.2
2.2.1
Name of post
波高分布データの補正
桁あふれ補正
Counts/cahnnel/h
大部分の波高分布データは、1 時間の積算値として公開されている。チャンネル毎の計数値が
6 桁で表示されているため、計数値が 6 桁以上の値になると、上位の 6 桁だけが表示されている。
一例として、Figure 1 に、大熊町南台における 3 月 13 日 14 時-15 時の波高分布を示す。公開さ
れているデータは、4-45 チャンネルのデータが桁あふれしていることが明らかに判る。12-18 チャ
ンネルのデータを 100 倍、桁あふれしているその他のデータを 10 倍したのが、補正した結果であ
る。この措置により、正常な波高分布を得ることができる。この結果を踏まえて、各波高分布デー
タについて、同様の検討を行い、データの桁あふれ部分を 10 倍又は 100 倍する補正 (桁あふれ補
正) を行った。
10
7
10
6
10
5
10
4
10
3
Original data
After correction
0
50
100
150
200
Channel Number
Figure 1
2.2.2
Pulse height distribution of NaI(Tl) detector at Okuma-town M inamidai at 14:0015:00 March 13, 2011.
Live time 補正
高線量率の測定データの場合には、正味の測定時間である live time と、実測定時間である real
time とは異なる可能性が高い。双葉町郡山の 10 分毎のデータでは、live time と real time が示さ
3
れている。Figure 2 に、波高分布の総計数値 (cps) と (live time)/(real time) の関係を示す。図
中に示しているように、両者の関係は、以下の多項式で精度良く近似することができる。
live time
= 1.00 − 7.31 × 10−4 × c + 4.29 × 10−11 × c2 − 1.25 × 10−16 × c3
real time
(1)
c は、波高分布を積分して求めた毎秒当たりの計数値である。1 時間単位のデータでは、live time
も real time も 3,600 秒となっているが、10 分単位のデータから、live time の 3,600 秒は、正しい
数値ではないと判断して、全てのデータに、(1) 式で得られた (live time)/(real time) を用いて補
正(Live time 補正)を行った。
補正結果の確認
2.2.3
「桁あふれ補正」と「live time 補正」の効果を確認するために、両補正後の波高分布の総計数率
と福島県のホームページで公開されている空気吸収線量率との比較を行った。Figure 3 に、大熊
町南台の場合の比較結果を示す。低レベルの空気吸収線量率は、NaI(Tl) 検出器で、高線量率の空
気吸収線量率は電離箱で測定されている。100nGy/h 以上では、低線量率と高線量率の値が同じに
なっているので、低線量率の測定に使用されている NaI(Tl) 検出器の線量率データは高線量率領
域でも正常な値を示していると思われる。補正後の計数率が、両空気吸収線量率と同じ時系列変
化をしていることから、上記の 2 種類の補正が適切であることを確認することができたと言える。
1
Y=1.0-7.31E-6*X+4.29E-11*X -1.25E-16*X
Live time/Real time
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0
Figure 2
2.3
2x10
4
4
4
4
4x10
6x10
8x10
Total count rate (cps)
1x10
5
10
5
10
4
10
3
10
2
10
1
3
NaI(Tl) intergral count rate (cps) or
air absorbed dose rate (nGy/h)
2
1.2x10
5
NaI(Tl) cps
nGy/h (low dose rate)
nGy/h (high dose rate)
11
12
13
14
15
Days, March 2011
Relation between total count rate Figure 3
(cps) and (live time)/(real time) obtained from pulse-height distribution data at Futaba-town Koriyama.
Comparison between corrected total
count rates and air absorbed dose
rates at Okuma-town Minamidai.
I-131 ピーク計数率
補正した NaI(Tl) 検出器の波高分布データを用いて、I-131 の 365keV の全吸収ピークに対応
したネット計数率をピーク計数率として求めた。ピークのバックグラウンド成分のカウント数は,
ピークの両側のカウントを結んだ台形の面積で近似し,ピーク全体のカウント数から差し引いて
ネット計数率とした。誤差にはピークカウントから来る統計誤差のみを含んでいる。Figure 4 に、
双葉町郡山のピーク計数率と空気吸収線量率の時系列変化を示す。図から明らかな様に、空気吸収
線量率が大幅に増えた時刻には、I-131 のピーク計数率が不自然に減少している。Figure 5 に、3
月 12 日の 4 時台及び 8 時台の双葉町郡山での波高分布を示す。空気吸収線量率の時系列変化から、
4 時半頃及び 8 時 10 分頃にプルームが飛来したと考えられる。この時間帯の波高分布には I-131 の
ピークはなく、Xe-133 及び Te-132 が大幅に増えており、これらの核種により線量率が上昇したと
考えられる。飛来したプルームに I-131 が含まれていれば、Figure 4 の I-131 のピーク計数率の時
4
I-131 peak count rate (cps) or
air absorbed dose rate (nGy/h)
系列変化に見られるように、プルーム中の濃度に比例した沈着が生じピーク計数率が増加すると考
えられるが、4 時半頃からのプルームが通過後、8 時には事故に伴い放出された放射性核種のピー
クが見られない通常に近い波高分布に戻っている。このことからも、このプルームには、I-131 が
ほとんど含まれていなかったことが判る。I-131 のピークが明確になるのは、8 時 40 分以降であ
る。このように、プルームの飛来に伴う I-131 の空気中濃度の増加は、Xe-133 及び Te-132 より遅
れる傾向があることが判る。Xe-133 及び Te-132 が I-131 に比べて大幅に増加した結果、I-131 の
ピーク面積の算出に影響し、プルーム飛来以前に沈着した I-131 によるピーク計数率より少なくな
るという不自然な状況をもたらしたと考えられる。また、プルームの飛来により上昇が始まった初
期にピーク解析ができない時間帯があった場合にも、その間の情報は、その後の I-131 のピーク計
数率に反映されると考えられる。このような事実を踏まえ、線量率が急激に増加した後でピーク
計数率が不自然な減少をしている時間帯及び計数率が高くピーク計数率を算出することができな
い時間帯については、前後の計数率がスムーズに変化するようにデータの内挿を行った。Figure
6 に、データの内挿後の I-131 のピーク計数率の時間変化を示す。同様のデータの内挿を他のモニ
タリングポストデータにも適用し、空気中の I-131 濃度推定に使用した。Figure 7 に、3 月 31 日
24 時までの楢葉町松館、広野町二ツ沼及び 3 月 28 日 18 時までの福島市紅葉山における補正後の
I-131 ピーク計数率の時間変化を示す。図には、I-131 の減衰曲線を一緒に示している。楢葉町松
館の 16 日のプルームについては、プルーム通過後の減衰が I-131 の減衰より若干ゆるやかなこと、
及びピーク計数値が最大の時の波高分布では他の核種の寄与が大きく I-131 のピーク計数率を過小
評価している可能性がある。
10
5
10
4
10
3
10
2
10
1
10
0
nGy/h
I-131 cps
12
13
14
15
March 2011
Figure 4
Comparison of time histories between I-131 peak count rates and air absorbed dose
rates at Futaba-town Koriyama.
5
10
6
10
6
10
5
10
4
10
3
10
2
10
1
Xe-133
Xe-133
10
4
10
3
10
2
10
1
Cs-134
I-132
0
25
Figure 5
10
I-131 peak count rate (cps) or
air absorbed dose rate (nGy/h)
Counts/channel (10min)
5
4:20-4:30
4:30-4:40
4:50-5:00
50
75
100
125
150
175
200
4
10
3
10
2
10
1
10
0
Cs-134
I-132
0
75
100
125
150
175
(b) 8:00-8:10, 8:10-8:20 and 8:40-8:50
200
Pulse height distribution of NaI(Tl) detector at Futaba-town Koriyama in March 12.
(a) 4:20-4:20, 4:30-4:30 and 4:50-5:00, (b) 8:00-8:10, 8:10-8:20 and 8:40-8:50
nGy/h
I-131 corrected cps
13
14
15
4
Shoukan
Futatunuma
Momijiyama
I-131 decay
10
3
10
2
14
Days, March 2011
Figure 6
50
Channel Number
10
12
25
(a) 4:20-4:30, 4:30-4:40 and 4:50-5:00
5
10
I-131
Channel No.
I-131 peak count rate (cps)
Counts/channel (10min)
10
8:00-8:10
8:10-8:20
8:40-8:50
Te-132
Te-132
18
22
26
30
Days, March 2011
Comparison of time histories be- Figure 7
tween corrected I-131 peak count
rates and air absorbed dose rates at
Futaba-town Koriyama.
Time histories of corrected peak
count
rates
at
Naraha-town
Shoukan, Hirono-town Futatunuma
and Fukushima-city Momijiyama.
測定場所と時刻によりプルーム中に含まれている核種組成が異なることは、松村等が 3 月 15
日に福島県内の高速道路各所で LaBr3 を用いて測定した結果 [5] で明らかにしていることであり、
文献 [1] で行った原科研のモニタリングポストでの解析でも見られたことである。本研究に使用し
たモニタリングポストの波高分布間でも波高分布の形が異なることで確認されている。Figure 8
に典型的な比較例として、3 月 13 日の大熊町大野と 3 月 15 日の福島市紅葉山の比較を示す。大
熊町大野では、9 時から 10 時の間に飛来したプルーム中の放射性核種は、Xe-133 と Te-132 及び
Te-132 の子孫核種である I-132 がほとんどであり、I-131 の割合が非常に少ないことが判る。一方、
福島市紅葉山の場合は、I-131 が Xe-133 や Te-132 と似たような割合で増加している。測定場所と
時刻により核種組成が異なることは、空気吸収線量率や 1cm 線量当量率を用いて放出量の推定を
行う場合に考慮しなければならない重要な事である。
6
6
10
5
10
Xe-133
Te-132
I-131
I-132
10
4
10
3
10
2
0
25
50
75
100
125
150
175
7
Te-132
March 13, 8:00-9:00
March 13, 9:00-10:00
March 13, 10:00-11:00
Counts/channel/h
Counts/channel/h
10
200
10
6
10
5
10
4
10
3
10
2
Xe-133
I-131
3
3.1
I-132
0
25
50
75
100
125
150
175
200
Channel Number
Channel Number
(a) Okuma-town Oono
Figure 8
March 15, 14:00-15:00
March 15, 15:00-16:00
March 15, 16:00-17:00
March 15, 17:00-18:00
(b) Fukushima-city Momijiyama
Comparison of pulse height distributions of NaI(Tl) detector at Okuma-town Oono
(March 13) and Fukushima-city Momijiyama (March 15). (a) Okuma-town Oono,
(b) Fukushima-city Momijiyama
空気中 I-131 濃度の時系列変化の推定
飛来したプルーム中の I-131 によるピーク計数率の時間変化
文献 [1] と同じように、各モニタリングポストの 365keV に対応したピーク計数率の時系列変化に
おいて、計数率が増加し始めた測定時刻をプルームの飛来時刻とし、計数率の増加が終了し I-131
の半減期で減衰するようになった測定時刻から始まる測定の終了時刻をプルームの終了時刻とし
た。双葉町郡山は、10 分毎のデータがあるが、ピーク計数率の補正が必要なデータも多かったこ
とから、1 時間平均のピーク計数率を解析に使用した。Table 2 及び 3 に、この考え方により推
定したプルームの飛来時刻と終了時刻を示す。
プルーム中の I-131 によるピーク計数率の時間変化は、文献 [1]) で提案した I-131 のピーク計
数率の時系列変化に基づく推定法を用いて求めた。
3.2
プルーム中の I-131 による NaI(Tl) 検出器の 365keV γ線に対するピーク検出効率
文献 [1] と同様に、面等方線源からのガンマ線束を点等方線源と面検出器に置き換える手法 [6] を
egs5[7] に適用し、水平方向には無限で、垂直方向には地表からプルームの高さまで I-131 が一様な
濃度で含まれているとして、NTP 状態 (20◦ C、1 気圧) の空気中における地表から高さ 3m の位置
にある検出器に入射する角度区分毎の光子スペクトルを計算した。得られた角度区分毎のスペク
トルを持つ光子が、対応する角度で検出器に入射するとして、egs5 によりピーク検出効率を計算
した。検出器の下部構造や、モニタリングポストの構造体は散乱線には寄与するが、全吸収ピーク
を生じる可能性がある非散乱線への影響は小さいので、ピーク検出効率の計算では、NaI(Tl) 検出
器のアルミニウムカバーと NaI(Tl) 検出器のみを考慮した。I-131 の 365keVγ 線に対応するピー
ク検出効率として、プルームの高さ 100m, 200m 及び 300m に対して、0.0524, 0.0574 及び 0.0585
cps per Bq/m3 が得られた。プルームの高さは 100m から 1,000m と言われているが、プルーム高
さによる違いが小さいこと、発電所からの距離が近いことを考慮して、同じ計数率に対して最も
大きい濃度となるプルームの高さが 100m の時のピーク検出効率を、空気中の I-131 によるピーク
計数率から空気中濃度への換算係数として使用した。この換算係数を使用することにより、プルー
ムの高さが 300m の場合には、10%程度過大評価となる。
7
Table 2 Start and stop time of plume identified at monitoring posts in Futaba-town and
Okuma-town together with average and time-integrated concentration of I-131 in air.
12th 22:00
14th 0:00
12th 14:00
13th 7:00
13th 11:00
14th 13:00
Average
3
(Bq/m )
290
681
47.4
1,340
1,100
1,660
Time-integrated**
3
(Bq h/m )
4,050
11,600
379
21,500
4,390
39,800
7:00
13th 20:00
66.7
867
12 12:00
13th 7:00
th
14 7:00
12th 4:00
13th 1:00
th
12 2:00
13th 6:00
14th 0:00
13 3:00
13th 20:00
th
14 21:00
12th 16:00
13th 23:00
th
12 15:00
13th 15:00
14th 7:00
8.09
350
33.9
3.33
335
9.47
906
136
212
4,550
373
39.9
7,030
123
8,150
949
Start time
Monitoring Post
(dd hh:mm)
Futaba-town
Yamada
Futaba-town
Koriyama
Okuma-town
Mukaihata
12th 8:00
13th 7:00
12th 7:00
12th 16:00
13th 8:00
13th 14:00
13
th
th
Okuma-town
Oono
Okuma-town
Minamidai
Okuma-town
Ottozawa
Stop time
(dd hh:mm)
th
*
*
Average concentration in air
**
Time-integrated concentration in air
Table 3 Start and stop time of plume identified at monitoring posts in Naraha-town Shoukan,
Hirono-town Futatunuma and Fukushima-city Momijiyama together with average and
time-integrated concentration of I-131 in air.
Monitoring Post
Naraha-town
Shoukan
Hirono-town
Futatunuma
Fukushima-city
Momijiyama
Start time
(dd hh:mm)
Stop time
(dd hh:mm)
14th 21:00
th
15 22:00
20th 7:00
21th 15:00
14th 21:00
15th 21:00
15th 16:00
th
16 20:00
20th 15:00
22th 7:00
15th 12:00
16th 20:00
15th 10:00
16 4:00
th
Average
(Bq/m3)
1,800
1,680
1,060
4,080
5,100
2,930
*
Time-integrated**
(Bq h/m3)
34,200
37,100
8,440
65,300
76,500
67,400
3,650
65,700
*
Average concentration in air
**
Time-integrated concentration in air
4
4.1
結果と考察
3 月 15 日以前の空気中 I-131 濃度
III で述べた方法により得られた飛来したプルーム中の I-131 によるピーク計数率と換算係数を
用いて、3 月 14 日の夜中からの急上昇が始まるまでの期間における I-131 の空気中濃度の時間変化
を求めた。Figure 9 に、12 日、13 日、14 日の双葉町郡山及び双葉町山田と大熊町向畑、大熊町
8
10
3
10
2
10
1
10
0
Futaba-town Koriyama
Futaba-town Yamada
Okuma-town Mukaihata
Okuma-town Oono
Okuma-town Minamidai
Okuma-town Ottozawa
0
4
8
10
4
10
3
10
2
10
1
10
0
3
4
I-131 Concentration (Bq/m )
10
3
I-131 Concentration (Bq/m )
大野、大熊町南台及び大熊町夫沢の各モニタリングポストでの結果を示す。楢葉町、富岡町、広野
町及び福島市のモニタリングポストでは、この期間中に空気中濃度の上昇は見られなかった。12
日には、発電所から北側にある双葉町山田と双葉町郡山のモニタリングポストで濃度や時間変化
は異なるが相対的に高い濃度の I-131 が見られた。一方、発電所の南側にある大熊町の各モニタリ
ングポストでは、I-131 は検出されないか、遙かに少ない。12 日に放出された I-131 は主に北方向
に広がっていったという気象情報に基づく推定と対応した結果となっている。13 日は、時刻と空
気中濃度には違いがあるが、全てのモニタリングポストでプルームの飛来による上昇が起きてい
る。14 日については、双葉町郡山で 13 日と同じ程度の上昇が見られる。大熊町夫沢と大熊町大野
でも若干の増加が見られたが、その他のモニタリングポストでは、プルームの飛来による増加は
見られなかった。14 日の夜中から多くのモニタリングポストの計数率が大幅に増大してピーク解
析が出来ない状況になった。Table 1 に示した解析可能な最終時刻は、高濃度のプルーム飛来時
刻に対応している。楢葉町松館、広野町二ツ沼を含めて発電所周辺のモニタリングポストでの上
昇は 14 日 20 時か 21 時から始まっているが、双葉町郡山ではデータある 14 日 24 時までは、上昇
が見られず、双葉町山田では 15 日 11 時からと遅くなっており、風向など気象条件が影響している
のではないかと思われる。限られた場所と時刻であるが、経済産業省のホームページに空気サン
プリングにより測定された I-131 の空気中濃度の測定値が公開されている [9]。双葉町及び大熊町
内の測定結果としては、唯一大熊町夫沢長者原の 3 月 12 日 8:37∼8:47 間の 12Bq/m3 がある。大
熊町夫沢のモニタリングポストでの 8 時から 9 時の期間の推定値は 16Bq/m3 であり、大熊町夫沢
長者原での測定値とほぼ一致していると言える。
空気中の I-131 の影響を考える場合には、プルームが飛来した時の I-131 の空気中濃度だけで
なくプルームの継続時間を考慮する必要がある。推定した各プルーム飛来中の平均空気中濃度と
時間積分空気中濃度を Table 2 に示す。発電所と各モニタリングポストの位置による平均空気中
濃度の違いを明確にするために、Figure 10 に、地図上 [8] に各モニタリングポストの位置とプ
ルーム飛来期間中の平均空気中濃度を示す。棒グラフの幅がプルームの飛来している時間を示し、
面積が時間積分空気中濃度に対応している。図には、小林等により推定された I-131 空気中放出量
の推定値 [10] を併せて示す。発電所からの距離がほぼ同じ双葉町山田と双葉町郡山で、12 日の平
均濃度の変化が大きく違っている。双葉町郡山では、放出量の推定値の上昇に対応した濃度の上
昇が見られるが、双葉町山田では明確ではない。また、13 日の平均濃度が発電所からの距離と方
向により違っていることが明瞭に判る。14 日夜中からの放出量の急上昇のため解析が出来なかっ
たモニタリングポストでは上昇が起きた時刻以降に ”Drastic increase ”の、データが無い場合に
は、”No data ”の表示をしている。双葉町山田と双葉町郡山は 14 日中には上昇がなかったことが
判る。
12
16
20
24
Hours
Futaba-town Koriyama
Futaba-town Yamada
0
4
8
12
Hours
16
(b) Futaba-town, March 13, 2011
(a) March 12, 2011
9
20
24
10
4
3
10
2
10
1
10
0
0
4
8
12
16
20
4
3
Futaba-town Koriyama
Futaba-town Yamada
Okuma-town Mukaihata
Okuma-town Oono
Okuma-town Minamidai
Okuma-town Ottozawa
24
10
3
10
2
10
1
10
0
0
4
8
12
Hours
(c) Ookuma-town, March 13, 2011
Figure 9
20
24
(d) March 14, 2011
Time histories of I-131 concentration in air at Monitoring posts in Futaba-town and
Okuma-town. (a) March 12, 2011, (b) Futaba-town, March 13, 2011, (c) Okumatown, March 13, 2011, (d) March 14, 2011
2000
100
1500
Bq/m3
0
12
600
400
13
14
15
March 2011
Futaba-town Koriyama
200
0
12
200
0
12
3
1200
Bq/m3
600
400
200
40
0
12
13
14
15
March 2011
Estimated Release Rate
13
14
15
March 2011
Okuma-town Ottozawa
1000
800
1200
1000
800
600
400
200
0
12
13
14
15
March 2011
Okuma-town Minamidai
0
12
13
14
15
March 2011
Okuma-cho Mukaihata
Figure 10
Fukushima
No.1 NPP
Drastic increase
800
600
400
60
20
Drastic increase
13
14
15
March 2011
Okuma-town Oono
1200
1000
Bq/m3
Drastic increase
13
14
15
March 2011
Futaba-town Yamada
600
400
200
0
12
x 1014 Bq/h
500
Bq/m
Bq/m3
1000
800
1200
1000
800
80
1000
1200
Bq/m3
16
Hours
No data
10
I-131 Concentration (Bq/m )
Okuma-town Mukaihata
Okuma-town Oono
Okuma-town Minamidai
Okuma-town Ottozawa
3
I-131 Concentration (Bq/m )
10
0
1km
Average concentration of I-131 in air (Bq/m3) at Monitoring posts in Futaba-town
and Okuma-town together with I-131 estimated release rate (1014 Bq/h)10).
10
3 月中の空気中 I-131
4.2
Figures 11-13 に、3 月 31 日 24 時までのデータがある楢葉町松館、広野町二ツ沼及び 3 月 28
日 18 時までのデータがある福島市紅葉山における期間中の I-131 空気中濃度の時間変化を示す。
プルームの飛来に伴い周辺に沈着した I-131 による計数率の増加に伴い、ピーク計数率の時系列変
化からプルームの飛来を推定する手法では、検出可能な最小検出濃度が高くなる。ネット計数率
を求める際の誤差を σ(cps) とし、3σ 以上の変化があった場合にピーク計数率の増加を検出でき
るとする。福島のモニタリングポスト解析で使用した I-131 のピーク計数率から空気中濃度への換
算係数は、0.0524 cps per Bq/m3 であるので、検出限界濃度 Dlimit は、
Dlimit (Bq/m3 ) =
3σ
0.0524
(2)
4
10
3
10
2
10
1
I-131
Detection limit
10
4
10
3
10
2
10
1
I-131
Detection limit
3
10
I-131 concentration (Bq/m )
I-131 concentration (Bq/m3)
となる。Figures 11-13 には、(2) 式で求めた検出限界濃度を併せて示している。
楢葉町松館では、3 月 20 日から 22 日にかけて 15 日に匹敵する空気中濃度が見られるが、他の
2 箇所では対応する増加は見られない。3 カ所とも 23 日以降には検出感度以上の濃度の I-131 を含
むプルームの飛来は見られなかった。Figure13 には、文献 [11] と同じ手法で LaBr3 の波高分布
5) を用いて求めた福島市紅葉山から 4km の福島西 IC における I-131 の空気中濃度の推定値を併
せて示している。LaBr3 の測定による推定値は沈着の影響を含んでおり空気中濃度を過大評価し
ている可能性があることを考えれば、福島西 IC での推定値は本研究で得られた結果に対応した濃
度であると言える。
各プルーム飛来中の平均空気中濃度と時間積分空気中濃度を Table 3 に、3 箇所の平均空気中
濃度の比較を Figure 14 に示す。発電所からの距離は、楢葉町松館は 14.2km、広野町二ツ沼は
21.4km で福島市紅葉山は 61.3km である。14 日夜半から 15 日夜半のプルームで I-131 の濃度が最
大になる時刻は、楢葉町松館では 15 日 0 時-1 時、広野町二ツ沼では 15 日 5 時-6 時で、福島市紅
葉山では、15 日 17 時-18 時であり、その時の濃度はそれぞれ、7,220,9,790 及び 19,100 Bq/m3
である。内部被ばくへの影響を考える上では、時間積分空気中濃度が重要であるが、Table 3 に
示した様に、16 日 24 時までの積算空気中濃度は、楢葉町松館と福島市紅葉山が同程度で、広野町
二ツ沼では両者の約 2 倍となっている。II 章 3 節で述べた様に、楢葉町松館の 15 日夜半から 16 日
の結果は、ピーク計数率が最大になる時刻近辺のピーク計数率を過小評価していると思われるの
で、空気中濃度を過小評価している可能性がある。
14
16
18
20
22
24
14
Days, March 2011
Figure 11
15
16
17
18
Days, March 2011
Time histories of I-131 concen- Figure 12
tration in air at Naraha-town
Shoukan.
11
Time histories of I-131 concentration in air at Hirono-town Futatunuma.
6000
Shoukan
Futatunuma
Momijiyama
5000
10
4000
3
Bq/m3
I-131 Concentration (Bq/m3)
10
I-131 (Momijiyama)
Detection limit
I-131 (Fukushima-nishi IC)
4
10
2
10
1
3000
2000
1000
14
15
16
17
18
0
14
16
18
20
22
24
Days, March, 2011
Days, March 2011
Figure 13
4.3
Time histories of I-131 concen- Figure 14
tration in air at Fukushima-city
Momijiyama together with estimated one at Fukushima-nishi IC
with the same method in Ref. 11
using the LaBr3 pulse height distribution.
Comparison of average concentration of I-131 in air between
Naraha-town Shoukan, Hironotown Futatunuma and Fukushimacity Momijiyama.
UNSCEAR ANNEX A[3] の推定値との比較
UNSCEAR 2013 ANNEX A (以下、「UNSCEAR」という。) では、Table B10 に、発電所か
らの I-131 時間依存放出量の推定値と大気拡散モデルを用いて求めたいくつかの場所における I131 の時間積分空気中濃度を掲載している。表中の時間積分空気中濃度は、United State National
Oceanic and Atmospheric Administration-Global Data Assimilation System(NOAA-GDAS)
と Institute for Radiological Protection and Nuclear Safety·European Centre for Medium range
Weather Forecasting (IRSN-ECMWF) の手法により推定されたものである。NOAA-GDAS では
寺田等 [12] により推定された、IRSN-ECMWF では Saunier 等 [13] により推定された時間依存放
出量を用いている。両者とも放射能の測定値を基にして放出量の推定を行っているが、この方法
により得られる推定値は、空気中放射能濃度を用いても不確かさが大きいことが UNSCEAR に記
載されている。発電所の事故に伴う空気中濃度の時間依存測定値は発電所から離れた茨城県(東
海村、つくば市)や千葉県 (千葉市) 等で 3 月 15 日以降に限られており、15 日以前やその他の地
域では地表面の放射能密度又はモニタリングポスト等での線量率情報が使用されている。地表面
での放射能密度から I-131 の空気中濃度の時間変化データを得ることは難しく、また線量率の変化
と I-131 の空気中濃度の変化が一致しないことから、これらの情報に基づいた推定は、空気中放射
能濃度を用いた場合よりも不確かさがより大きくなっていると思われる。不確かさが大きい推定
値であるが、調べた限り他に直接比較できるデータがないため、Table B10 に掲載されている時
間積分空気中濃度の内、モニタリングポストと関連づけられる場所について、本研究で得られた
時間積分空気中濃度と比較した。結果を Table 4 に示す3 。積分対象期間は、Table B10 に示され
ている期間であり、本研究の値は、同じ対象期間について積分したものである。
3
Table 4 では、UNSCEAR に掲載されている Bq s/m3 の値を Bq h/m3 に変換した値を示している。
12
Table 4 Comparison of time-integrated concentration of I-131 in air between the results
3)
obtained in this work and estimated ones in UNSCEAR 2013 ANNEX A .
Location
Time period
Distance from
March, 2011
Fukushima Daiichi
This work
From
To
Nuclear Power Station
(dd hh:mm) (dd hh:mm)
Futaba-town
Yamada
Futaba-town
Koriyama
Futaba-town
11
th
21:23
NNW 2.8km
5,240
*
**
IRSN-ECMWF
23,300
12
th
13:00
16th 15:00
Iwaki-city
SSW 14.2km
69,100
S 21.4km
137,000
S 42.5km
Fukushima-city
Momijiyama
Kawamata
elementary
school
2,440
NOAA-GDAS
12th 21:00
Naraha-town
Shoukan
Hirono-town
Futatunuma
WNW 4.1km
Bq h/m3
3)
UNSCEAR 2013 ANNEX-A
NW 61.3km
12
th
8:00
61,100
30,600
18,900
20,800
65,700
th
19 8:00
NW 51.7km
*NOAA-GDAS : United State National Oceanic and Atmospheric Administration-Global Data Assimilation System
(United Sates of America)
**IRSN-ECMWF : Institute for Radiological Protection and Nuclear Safety-European Centre for Medium range
Weather Forecasting
(France)
事故直後の 3 月 11 日 21:23 から 3 月 12 日 21:00 までの期間における発電所の北側での比較で
は、UNSCEAR の双葉町における時間積分空気中濃度は、同町山田及び郡山の約 10 倍及び 4 倍
になっている。3 月 13 日 3:00 から 3 月 16 日 15:00 の期間における発電所から南方向の比較では、
時間積分空気中濃度は、広野町二ツ沼が楢葉町松館の 2 倍になっているが、先に述べたように楢
葉町松館の結果は過小評価の可能性がある。UNSCEAR のいわき市での推定値は、二ツ沼の 1/2
(NOAA-GDAS) 又は 1/4 (IRSN-ECMWF) になっている。3 月 12 日 8:00 から 3 月 19 日 8:00 ま
での期間の発電所の北西方向の比較では、発電所から 61.3km の福島市紅葉山での時間積分空気中
濃度は、UNSCEAR に掲載されている発電所から 51.7km にある川俣町の川俣小学校の約 3 倍と
なっている。以上の様に、本研究の結果と UNSCEAR の結果は、オーダー的には対応しているも
のの両者の関係は時刻と場所により異なっている。
本研究で求めた時間積分空気中濃度は、波高分布の時系列変化から I-131 の空気中濃度の絶対
値を求める手法において不確かさがある4 が、NaI(Tl) 検出器の波高分布データという実測値から
推定した空気中濃度の時間変化に基づくものである。但し、ピーク計数率から空気中濃度への換
算係数の算出において、プルーム中の I-131 が地表からプルーム高さまで一様な濃度で分布して
いると仮定していることから、発電所に近いモニタリングポストでは誤差が大きい可能性がある。
UNSCEAR には、空気中濃度の時間変化が示されていないので時間変化を比較することはできな
いが、UNSCEAR の推定値が、地表面での沈着放射能密度やモニタリングポスト等での線量率情
報を用いて求めた時間依存放出量に基づいたものであることから、少なくとも発電所から 10km 以
遠のモニタリングポストでは、本研究で得られた推定値の方が実際の状況を反映していると考え
られる。本研究で得られた発電所周辺を含む福島県内における I-131 の空気中濃度の時間変化情報
は、放射能情報を用いた時間依存放出量推定の精度向上にも有用な情報となると考えられる。
4
文献 1) で使用したデータを基に、I-131 の時間積分空気中濃度について、推定値と空気モニタリングの結果を比較
したところ、比較した期間やモニタリングポストにより異なるが、両者の比は 0.2 から 4 の間であった。
13
5
結論
福島県のホームページで公開されているモニタリングポストでの NaI(Tl) 検出器の波高分布デー
タを用いて 2011 年 3 月におけるモニタリングポスト周辺における I-131 の空気中濃度を推定した。
発電所の事故により放出された高濃度の放射性核種の影響により、通常より遙かに高い計数率と
なったため、公開されている波高分布に桁あふれ及び (live time)/(real time) の補正を行って解析
に使用した。また、プルーム飛来期間中の核種組成の違いから、I-131 のピーク計数率の時系列変
化に不連続な傾向が見られた場合には、波高分布を確認した上で、不連続な変化にならないよう
にデータの内挿を行った。これらの補正は、本論文で得た結果に不確かさをもたらすが、限られ
た情報を活用するためにやむを得ない措置である。
本研究で得られた結果は、福島県内における 3 月での固定した場所における連続した I-131 の
空気中濃度情報としては、はじめてのものである。発電所近辺では、3 月 15 日の大量放出以前に
限られているが、12 日には、主として北方向にプルームが向かったこと、13 日にはさまざまな方
向にプルームが向かったことを示す結果が得られた。3 月中のほぼ全期間のデータを解析するこ
とが出来た、楢葉町松館、広野町二ツ沼及び福島市紅葉山では、3 月 15 日以前にはプルームが飛
来していないこと、二ツ沼と紅葉山では、15 日から 16 日のプルームが主で、その後は高濃度の
I-131 を含むプルームの飛来はなかったことを確認できた。
本研究で得られたいくつかの場所での I-131 の時間積分空気中濃度を、UNSCEAR に掲載さ
れている発電所からの時間依存放出量の推定値と大気拡散モデルを用いて求められた濃度と比較
した。オーダー的には対応しているが両者の関係は時刻と場所により異なるという結果であった。
UNSCEAR で用いている放射能の測定値を使用した時間依存放出量の推定値には不確かさが大き
いことが、違いの主要な要因と考えられる。
今回の結果から、モニタリングポストの波高分布データがあれば、I-131 空気中濃度の時間変
化という事故に伴う I-131 の拡散状況についての情報取得が可能であることが判った。本研究で
用いた福島県だけでなく、各地のモニタリングポストでの 3 月におけるデータ解析が行われれば、
I-131 の時間依存の空気中放射能濃度に関する情報がより豊富となり、時間依存放出量推定の精度
向上と時間依存放出量と大気拡散モデルを用いた各地における I-131 の時間依存の空気中濃度評価
推定の精度向上に寄与することができると考えられる。
謝辞
本研究は、福島県からモニタリングポストにおける波高分布の数値データが公開されたことに
よりはじめて可能になったものである。膨大な量のデータを処理し、ホームページに公開してい
ただいた福島県原子力センターのご尽力に感謝する。
14
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Plume”, Trans. At. Energy Soc. Japan, 13, 119-126 (2014) .[in Japanese]
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