次世代 LNG 気化発電システムの研究

Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No.3
次世代 LNG 気化発電システムの研究
Study of LNG Vaporization and Power System for the Next Generation
久 角 喜 徳 *・堀
Yoshinori Hisazumi
司*・朴 燦 容 *・毛 笠 明 志*
Tsukasa Hori
Chanyong Park
Akeshi Kegasa
(原稿受付日 2013 年 10 月 1 日,受理日 2014 年 4 月 17 日)
The next generation LNG vaporization system has been proposed in order to promote the usage of LNG cold energy. It is
composed of two regenerative Rankine cycle with sea water and waste heat from a LNG thermal power plant. It is estimated
that a delivery distribution rate and an available temperature of waste water influence on the power output. It is found that a
power output increases with increasing a waste water temperature due to rising vaporization pressure of mixed refrigerants.
When natural gas at 7 and 3MPaG is send out in a waste water temperature of 70 °C, power output is approximately 57 and 82
kWh/ton LNG, respectively. Next, the possibility of GTCC and AHAT is investigated whether to be suitable for a waste water
source of this system. And finally, when two facilities of the rated vaporization capacity (180ton/h) are installed in LNG
terminals, economic potential and carbon dioxide emissions are estimated.
1.はじめに
冷地やピークシェービング用のサブマージド式あるいは温
暖地に適した空温式などの LNG 気化器で常温に昇温され,
LNG(Liquefied Natural Gas)の価格が高騰している.これ
都市ガスや発電用燃料としてパイプラインで送られる 3).
に加えて円安が進行しており,原発の停止状態が続く電力
各社の電気料金が値上げされた.LNG はわが国に 1969 年
に導入され,1973 年の石油危機では,エネルギー価格の高
電力
騰で省エネ機運が高まり,電力・ガス大手事業者は,LNG
ガス田
LNG
タンク
液化
プラント
冷熱発電の開発に積極的に取り組んだ.1977 年にこの冷熱
LNG
船
上流(ガス田開発・液化)
発電の効率を評価できるエクセルギーの解説書 1) が出版さ
BOG 再液化
れ,当時から 36 年が経過したが,節電の要請からエクセル
BOG
ギーが再び注目を浴びている.一方,電力会社により建設
LNG
タンク
された天然ガス直接膨張発電方式の LNG 冷熱発電は,蒸気
LNG
船
火力からガスタービンコンバインドサイクルに置き換えが
圧縮機
LNG
気化器
発電用
都市ガス用
LNG
下流(LNG受入気化・消費)
図 1 ガス田からガス消費までの LNG チェーン
進む中,運用停止が進んでいる.またランキンサイクルに
2)
よる LNG 冷熱発電も建設からまもなく 35 年が経過する .
稼働中の天然ガス液化基地は 18 か国にあり,その年間生
そこで本論文では,世界各国の LNG 受入基地に適用でき
産能力は 28,520 万トン 4)で,カスケード式と混合冷媒式の
る次世代 LNG 気化発電システムをエクセルギーデザイン
液化プロセスがあり,現在は混合冷媒式が主流となってい
学により研究し,わが国にこのシステムを適用した場合の
る.
経済効果について検討する.
年間生産能力は 1 系列あたり当初は約 100 万トンであっ
たが,現在では 780 万トンと大容量化が進んでいる.
2.LNG チェーンの現状分析
図 2 に混合冷媒式プロセスの概略フローを示す.我々は,
2.1 天然ガス液化に要する所要動力
稼働中の LNG 冷熱発電の性能をほぼ正確に評価できるプ
図 1 に LNG プロジェクトにおける上流(ガス田開発・
ロセスシミュレータ VMGSim を用いて,文献
液化)から下流(LNG 受入気化・消費)に至る一連の流れ
5)
をもとに
液化プロセスのエクセルギー解析を行った.なおエクセル
を意味する LNG チェーンを示す.天然ガスはガス田より高
ギーに関しては,次項にて述べる.
圧パイプラインで送られ,液化プラントにて前処理,酸性
図 3 に天然ガス液化プロセスの T-Q 特性を示す.試算条
ガス除去,水分除去,液化,重質分分離の各工程を経て LNG
件を受入ガス温度 35℃,圧力 4.4MPaG,流量 1, 000t/h,モ
タンクに貯蔵され,専用の LNG 船で受入基地に送られる.
ル組成(%)CH4:87,C2H6:6,C3H8:1,C4H10:1,N2:
荷揚げされた LNG はタンクに貯蔵された後,ポンプで昇
5 とした.プロパンは圧縮機で 2MPaG に昇圧され,外気で
圧され,ボイルオフガス(BOG)の再液化で僅かに昇温さ
冷却凝縮された後,大気圧まで膨張して得られる冷熱によ
れた後,海水熱源のオープンラック式や中間熱媒体式,寒
り,天然ガスと混合冷媒をそれぞれ約-30℃と約-40℃に
*
大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻大阪ガス共同研究講座
〒565-0871 吹田市山田丘 2-1 産学連携本部 D 棟 1F
E-mail : [email protected]
予冷を行なう.また混合冷媒はモル組成(%)を CH4:40,
10
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混合冷媒冷却器
プロパン
圧縮機
天然 ガス
NG-C3 予冷却器
MR-C3 予冷却器
164
フラッシュガス
圧縮機
多流体
熱交換器
LNG
LNG
膨張タービン
混合冷媒
クーラー
混合冷媒
圧縮機
6.2%
55.1%
多流体熱交ロス 5.7%
混合冷媒クーラー
0.6%
LNG膨張タービン 混合冷媒クーラーロス 2.9%
LNG膨張タービン 1.0%
5
混合冷媒予冷熱交ロス 2.6%
プロパンクーラ 1.2%
天然ガス送出
混合冷媒圧縮機ロス 6.3%
23
プロパンクーラーロス 6.2%
LNG膨張タービンロス 0.7%
BOG設備ロス 0.7%
予冷熱交換器ロス 0.7%
各種バルブロス 3.9%
プロパン圧縮機ロス 4.1%
各種分離器ロス 1.1%
350
プロパン圧縮機
BOG圧縮機
100
32
プロパン圧縮機
混合冷媒圧縮機
LNG液化
173
236
21.4%
エンタルピー(kWh/LNGt)
図 2 混合冷媒プロセスの概略フロー
BOG
LNG
プロパン冷却器
プロパンクーラー
天然ガス流入圧力 35.1%
BOG圧縮機 6.7%
混合冷媒圧縮機 36.8%
エクセルギー(評価温度20℃)
図 4 天然ガス液化プロセスの熱精算図
350
イラー燃料に使用した LHV 基準で約 42%の発電端効率の
300
蒸気タービン駆動方式に比べると,大幅な省エネルギーが
Q(MW)
実現されている 6).
天然ガス
250
200
混合冷媒
2.2 LNG の冷熱エクセルギーと化学エクセルギー
多流体熱交換器
150
LNG 冷熱の評価はエンタルピーでは負となるため,エク
プロパン
セルギーを用いる必要があり,今では送出ガスの圧力エク
100
セルギーも含めて求めることができる
50
予冷却器
.たとえば受入
3
LNG のモル組成(%)を,45MJ/Nm 相当の CH4:88.9,
0
-160 -140 -120 -100 -80 -60 -40 -20
T(℃)
7)
0
20
C2H6:6.8,C3H8:3.1,C4H10:1.2,評価温度を 20℃とする
40
と,大気圧力での飽和温度は-160.3℃,冷熱エクセルギー
はトンあたり 249kWh となる.また圧力 7MPaG,温度 20℃
図 3 天然ガス液化プロセスの T-Q 特性
の送出ガスの圧力エクセルギーはトンあたり 149kWh とな
C2H6:45,C3H8:5,C4H10:5,N₂:5 として,中間冷却の
り,海外の LNG 受入基地の送出圧力は約 7MPaG なので,
圧縮機で 5 MPaG に昇圧冷却されて,プロパン冷媒で予冷
最大利用可能な冷熱エクセルギーはトンあたり約 100kWh
された後,多流体熱交換器に導入され,膨張弁とタービン
となる.一方,天然ガスの化学エクセルギーも燃料と酸素
で寒冷を発生させ約-145℃の混合冷媒により天然ガスを
の混合気並びに燃焼生成物のエンタルピーとエントロピー
液化する.各熱交換器の温度アプローチは 3℃~5℃,回転
により計算でき,その値は総発熱量の 0.92 となり,分子量
機械類の断熱効率を 88%とした.
18.37 の化学エクセルギーはトンあたり 14,020kWh となる
図 4 に天然ガス液化プロセスの熱精算図を示す.エンタ
8)
ルピー評価基準では,液化の所要動力,タービン出力と天
.LNG の気化時に利用できる冷熱エクセルギーは,この
値に比べれば 0.71%と極めて小さいが,この冷熱エクセル
然ガスの冷却熱負荷しか表せない.一方エクセルギー評価
ギーをトンあたり 60kWh で電力に変換し,
日本の年間 LNG
基準では,受入天然ガスの圧力エクセルギーと各圧縮機の
受入量約 8,860 万トン(2012 年度予想値)の半分を冷熱発
所要動力の合計を 100%として,各構成機器でのエントロ
電に利用できれば,年間 2,658GWh の電力回収が見込める.
ピー増加に伴う損失と有効エクセルギーである LNG 冷熱
日本の世帯当たりの年間消費電力を 3.6MWh とすれば 9),
を表すことができる.図中,損失と有効エクセルギーは矢
約 74 万世帯の電力をこの回収電力で賄うことができる.
印の向きで表現した.この図から受入天然ガスの液化に必
要な圧縮機動力量は,LNG 膨張タービンの発生動力量を差
3.LNG 受入基地の現状
し引いて LNG トン当たり約 300kWh である.圧縮機類は大
3.1 日本の LNG 受入基地
型火力発電所で使用される最新のガスタービンや蒸気ター
表 1 に稼働中の電力ガス石油各社の大小合わせて 31 か所
ビンに直結または発電機モータを介して駆動されており,
の LNG 受入基地名(受入開始年)と受入量を示す 4).これ
最新設備での一次エネルギーの動力への変換効率は,LHV
以外に内航船による LNG 二次基地が 6 か所ある.また建設
基準でほぼ 60%が期待できる.
および計画中の LNG 受入基地と二次基地は,それぞれ 7
か所と 2 か所あり,これらの基地を結ぶパイプラインも
従って液化に必要な一次エネルギーは約 500kWh と予想
徐々にではあるが伸びつつある 10).
され,図 2 のタービン出口のフラッシュしたオフガスをボ
11
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これらの受入基地で稼働中の LNG 冷熱利用設備とその
表 2 各国の稼働中の LNG 受入基地の一覧
数は,冷熱発電(11)
,空気液化分離(7)
,液化炭酸ドライ
国名
アイス製造(3),冷凍倉庫(2),BOG 再液化(2),液化水
素製造(1)
,エチレン液化(1)
,冷水発生(3)がある
受入開始年
カナダ
canaport
アメリカ
Everett 他 11
プエルトリコ
Pnuelas
メキシコ
Altamira, Manzanillo
ドミニカ
Andres
ブラジル
Pecem 他 2
アルゼンチン Bahia Blanca Gasport 他 1
チリ
Quintero,Mejillones
イスラエル
Hadera
クウェート
Mina Al Ahmadi GasPort
UAE
Dubai FSRU
韓国
Pyeongtack,Incheon 他 3
台湾
Yongan,Taichung
中国
Dapeng 他 9
タイ
Rayong
マレーシア
Port Dickson
インドネシア
Muara Karang
シンガポール
Jurong Island
フィリピン
Pagbilao
パキスタン
Pakistan Gasport
バングラデシュ
Moheshkhali island
インド
Dahej 他 3
オランダ
Gate
ベルギー
Zeebrugge
イギリス
Isle of Grain 他 3
フランス
Fos-sur-Mer 他 2
スペイン
Bercelona 他 6
ポルトガル
Sines
イタリア
Panigaglia 他3
ギリシャ
Revithoussa
トルコ
Marmara,Aliaga
11) 12)
.
しかし,ほとんどの冷熱は未利用のまま捨てられている.
表 1 電力ガス石油各社の LNG 受入基地名(受入開始年)
と受入量
会社および参加者
プラント名
受入量
(万トン/年)
北海道ガス,東京ガス他
石狩LNG(2012)
20
仙台市営ガス
港(1997)
15
東京電力
富津(1985)/東扇島(1984)
900/600
東京電力,東京ガス
根岸(1969)/袖ヶ浦(1973)
430/1070
東京ガス
扇島(1998)
330
東北電力,日本海LNG
新潟(1984)
544
中部電力
四日市(1988)/川越(1997)/上越(2012) 300/400/200
中部電力,東邦ガス
知多共同(1978)
209
中部電力,東邦ガス
知多LNG(1983)
310
東邦ガス
知多緑浜(2001)/四日市(1991)
232/46
静岡ガス,東燃ゼネラル
清水LNG袖師(1996)
114
大阪ガス
泉北Ⅰ(1972)/泉北Ⅱ(1977)/姫路(1984) 110/770/260
関西電力
姫路LNG(1979)
260
関西電力,岩谷産業,
堺LNG(2006)
コスモ石油他
270
四国電力,コスモ石油,
坂出LNG(2010)
四国ガス
40
中国電力
柳井(1990)
130
中国電力,JX日鉱日石
水島LNG(2006)
120
広島ガス
廿日市(1996)
50
九州電力,新日鉄住金
戸畑(1977)
130
九州電力,大分ガス
大分LNG(1990)
153
西部ガス
福北(1993)/長崎(2003)
23/11
日本ガス
鹿児島(1996)
8
沖縄電力
吉の浦(2012)
70
LNG基地名(受入開始年)
2009
1971~2013
2000
2006~2012
2003
2008~2013
2008~2011
2009~2010
2012
2009
2010
1986~2005
1990~2009
2006~2013
2011
2013
2012
2013
2013
2013
2013
2004~2013
2011
1987
2005~2009
1972~2010
1969~2013
2003
1969~2013
2000
1994~2006
合計受入能力
(万トン)
770
14,047
130
943
171
934~1,094
750
415
184
380
300
4,114
1,044
3,400~
500
380
300
350
400
380
2,360
880
660
3,771
1,739
5,050
588
1,414
190
920
り,また東扇島の冷熱発電は蒸気火力からガスタービンコ
ンバインドサイクルへの置き換えにより停止している.
また稼働中の戸畑, 新潟 の冷熱発電も,送出圧 力が
0.9MPaG と低いため,いずれは発電システムの置き換えに
3.2 世界の LNG 受入基地
伴い停止せざるを得ないであろう.一方,送出圧力の低い
4)
表 2 に各国の稼働中の LNG 受入基地の一覧を示す .
姫路,泉北Ⅰの各基地と岩崎橋,酉島の各ガス供給所に設
国によってはプラント名が複数あり,受入開始年に幅が
置されたガバナー発電と呼ばれる天然ガス直接膨張方式は,
ある.これらの基地の多くは,ガス送出圧力が 7MPaG と
送出導管の仕様に応じて活用できるため,今後も未利用エ
高いため,図 1 に示す BOG 再液化にて LNG 冷熱が利用さ
ネルギー利用促進の観点から設置数の増加が期待される.
れ,ボイルオフガスの圧縮動力を削減している.しかし基
なおこれらの冷熱発電は,部分負荷はもちろん毎日の稼
地全体で見ると LNG 気化器に導入される温度は約-150℃
働停止運転も許容の負荷変動速度内であれば構造的な問題
と低く,空気液化分離やエチレン液化を行っている一部の
はないが,ブレーズドアルミプレートフィン式の多流体熱
基地を除いて,冷熱は十分利用されているとは言えない.
表 3 これまでに建設された LNG 冷熱発電
4.LNG 冷熱発電の現状
4.1 稼働状況
表 3 にこれまでに建設された LNG 冷熱発電を運転開始年
の古い順に示す.形式には,プロパンやフロン系の単一冷
媒を用いるランキン方式(R)
,メタン,エタン,プロパン,
ブタンからなる混合冷媒を用いるランキン方式(MFR),
天然ガス直接膨張(NG)方式,並びにランキンと天然ガス
直接膨張の組合せ方式がある.LNG トンあたりの発電出力
量は,戸畑の組合せ方式の 62.7kWh が最高であり,台湾永
安のプロパンランキン方式が,高い送出ガス圧力の影響で
21.5kWh と最低である.
表中の知多,四日市の冷熱発電は,冷媒の環境問題によ
12
運開年
基地
出力
(MW)
形式
LNG処理量 ガス送出圧力
(t/h)
(MPaG)
1979
1981
1982
1982
1983
1984
1984
1985
1986
1987
1987
1987
1989
泉北Ⅱ
知多共同
泉北Ⅱ
戸畑
知多
知多
新潟
根岸
東扇島
姫路
泉北Ⅰ
東扇島
四日市
1.5
1
6
9.4
7.2
7.2
5.6
4
3.3
2.8
2.4
8.8
7
R
R
R/NG
R/NG
R/NG
R/NG
NG
MFR
NG
R
NG
NG
R/NG
60
40
150
150
150
150
175
100
100
120
83
170
150
3
1.4
1.7
0.9
0.9
0.9
0.9
2.4
0.8
4
0.7
0.4
0.9
1990
YUNG-AN, Taiwan
2.8
R
130
6.5
1991
東扇島
8.8
NG
170
0.4
1996
2000
岩崎橋
姫路
1.2
1.5
NG
NG
45
85
0.2
0.7
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No.3
交換器を採用する混合冷媒ランキン方式では,熱疲労や偏
天然ガス圧力エクセルギー39.1%
プロパンタービン9.1%
各種ポンプロス 0.4%
天然ガスタービン6.3%
天然ガスタービンロス 1.9%
流の観点から,毎日の稼動停止や極端な低負荷運転は避け
る必要がある.
LNG気化熱
34343
4.2 既存 LNG 冷熱発電の問題
プロパンタービンロス 2.0%
海水排出
プロパンタービン
3515
LNG 気化器ロス 28.9%
天然ガス加熱器ロス 1.3%
プロパン気化器ロス 4.7%
天然ガス直膨
2437
図 5 に泉北第Ⅱで稼働中のプロパンランキンと天然ガス
LNG 加熱器ロス 4.7%
プロパンポンプ
直接膨張組合せ方式の概略プロセスフローを示す.図中の
84
熱交換器はすべて多管式熱交換器(S&T)である.両タービ
プロパンポンプ 0.2%
海水ポンプ
海水熱源
海水ポンプ 1.5%
484
39893
ンの発電出力の合計は,LNG 流量 150t/h,当初のガス送出
LNG冷熱 98.3%
エクセルギー (評価温度:20℃)
エンタルピー(kWh/150LNGt)
圧力 1.7MPaG,海水温度 27℃に対して 6,000kW である.
図 7 気化発電設備の熱精算図
LNG の気化熱源の海水温度が,冬季最低 5℃から夏季最
高 30℃の間で変化するため,プロパンタービンの出力は,
2,500~3,800kW と大きく変わる
1.6%
第 3 の問題は,LNG 冷熱発電の低い年間稼働率である.
13)
図 8 にガス事業者の一日のガス需要と送出ガスの負荷率の
.最も低い海水温度に対
しても定格気化能力を発揮できるプロパンタービンノズル
一例を示す 14).負荷率が一定の場合約 4.2%(100%/24hrs)
を設計するため,海水温度の上昇でノズルを絞るためター
となる.たとえば大阪ガスを例にとると,16 か所の供給所
ビンの断熱効率が低下するという第 1 の問題がある.
に球形ガスホルダーと総延長が地球を一周半する約 6 万メ
図 6 に海水温度 20℃に対する気化発電プロセスの T-Q 特
ートルの導管があるため,オフピーク時のガス需要の低下
性を,また図 7 にこの海水温度を評価基準とした気化発電
に対して,送出ガスパターンがある程度平準化され,深夜
システムの熱精算図を示す.これらの図から,現行の単一
(最低)と夕刻(最高)の比率は約 0.6 に収まる.
冷媒ランキンサイクルでは,プロパン凝縮器で最も大きな
伝熱に伴うエクセルギー損失を生じ,またプロパン蒸発器
8
並びにふたつの天然ガス加温器も熱源が海水であるため,
6
Load factor(%)
7
タービン出口ガス温度が低いため同様の伝熱に伴う損失が
生じるという第 2 の問題がある.
海水
天然ガス
ポンプ
プロパン
タービン
Q(MW)
3
5
7
9
11 13 15
Time(hour)
17
19
21
23
表されるようになり,それによるとガス事業者の送出パタ
ーンに見られる夕刻のピークはないものの,ほぼこの送出
ガスパターンと似た状況にある 15).ただし,現状は原子力
発電がほぼ停止状態にあるものの,石炭火力がベース負荷
S&T_3
天然ガスタービン出力
で運転されるため,LNG の送出パターンの最低と最高の比
率は,火力発電に占める石炭火力の構成比により変化し 0.4
プロパンタービン出力
~0.5 と予想される.また電力では空調需要の落ち込む春の
25
LNG
20
4 月と 5 月,秋の 10 月と 11 月に,またガスでは,水道水
海水
温度の上がる 6 月から 10 月にピーク時の 6 割から 7 割に販
S&T_1
売量が低下するため,LNG 冷熱発電の年間稼働率もそれに
S&T_4
10
5
Production
一方東日本大震災以降,各電力会社の電力需給状況が公
40
15
Demand
1
図 8 ガス事業者のガス需要と送出ガスパターンの一例
LNG
S&T_1
図 5 LNG 冷熱発電の概略プロセスフロー
S&T_2
2
1
プロパン
ポンプ
30
3
天然ガスタービン
S&T_4
35
4
0
S&T_3
S&T_2
5
伴い低下する.
プロパンサイクル
0
5.次世代 LNG 気化発電システムの検討
-160 -140 -120 -100 -80
-60 -40
T(℃)
-20
0
20
40
5.1 次世代システムの概要
図 9 に日本のみならず海外の LNG 基地にも適した次世代
図 6 気化発電プロセスの T-Q 特性
13
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No.3
LNG 気化発電システムの概略フローを示す.このシステム
この T-Q 特性より必要な海水と温水の熱負荷はそれぞ
の特徴は,以下の 5 点にある.
れ 18.5MW と 33.6MW となり,温度差を考慮すると海水と
1)ふたつの自然冷媒による再生式ランキンサイクル採用
温水の流量はそれぞれ 1,113t/h と 572t/h となった.
2)熱源に海水の他に LNG 火力の排熱を利用し出力アップ
80
3)送出ラインの複数化によるガバナー発電で出力アップ
4)発電設備の異常時もバイパス機能でガスを安定供給
高圧 NG タービン出力
S&T2
LNG火力排熱
60
5)ボイルオフガスの再液化や重質分の抽出機能の附加
ORV1
混合冷媒タービン出力
海水
Q(MW)
ただし,4 項と 5 項は複雑となるため,フロー上には記
載していない.
ガスの送出は,都市ガス用高圧 7MPaG ライン,LNG 受
40
多流体熱交 2
入基地に隣接するガスタービン燃料用 3MPaG ラインおよ
ORV2
び近隣のガス事業者向け 1.5MPaG ラインからなり,それぞ
多流体熱交 1
-180
とふたつの天然ガスタービンのノズルで制御できる.これ
低圧 NG タービン出力
循環天然ガス
LNG
0
れのガス需要に応じて各ラインの圧力を LNG 流量制御弁
海水
LNG+循環LNG
20
S&T1
LNG火力排熱
混合冷媒
LNG+混合冷媒
-120
-60
0
60
120
T (℃)
により第 3 の問題をある程度改善することができる.
図 10 次世代 LNG 気化発電システムの T-Q 特性
主要な機器は,LNG 用と混合冷媒用のサブマージド式ポ
ンプ,ハンプソン式かブレーズドアルミプレートフィン式
すなわち LNG 火力から常時 70℃の温水が供給されると
の冷熱再生用 LNG および混合冷媒用多流体熱交換器,海水
ことで,ほぼ混合冷媒タービンを設計条件で運用すること
熱源の三つのオープンラック(ORV)式 LNG 加温器,天
ができ,また海水温度の低下に対しても LNG 火力の温水供
然ガスの過熱用と混合冷媒の気化過熱用の多管式熱交換器
給で海水量を増やすことなく第 1 の問題を克服できる.
(S&T)並びに3台のタービンと1台の減速機・発電機で
図 11 に次世代気化発電設備の熱精算図を示す.混合冷媒
構成される.
用の多流体熱交 2 のエクセルギー損失を減らすため混合冷
媒のモル組成(%)を,CH4:5,C2H6:73,C3H8:11,C4H10:
海水 LNG火力の排熱
高圧
混合冷媒 天然ガス
タービン タービン
低圧
天然ガス
タービン
11 とした.また 7MPaG,3MPaG,1.5MPaG 各ガス送出ラ
インへの送出量の振り分けを 15 /80 /5 とした.
3MPaGライン
1.5MPaGライン
ORV3
LNG火力へ
ORV4
天然ガスポンプ
S&T2
混合冷媒
ポンプ
S&T1
3MPaG気化熱
ORV2
LNG
多流体熱交1
3MPaG 送出 35.2%
MFRタービン 12.2%
7MPaG 送出 8.1%
1.5MPaG 送出 1.8% 高圧天然ガスタービン 12.6%
32575
多流体熱交2
冷海水排出
1.1%
低圧天然ガスタービン 3.8%
7MPaG 気化熱 混合冷媒タービン
7MPaGライン
5662
ORV1
6095
混合冷媒タービンロス 2.5%
1.5MPaG 気化熱 天然ガスタービン 排熱S&Tロス 2.4% 天然ガスタービンロス 3.1%
海へ
2088
図 9 次世代 LNG 気化発電システムの概略フロー
高圧6288
海水ORVロス
低圧1911 MFR熱交ロス
配管入熱 62 LNG熱交ロス
天然ガスポンプ 669
LNGポンプ 1234
混合冷媒ポンプ 540
図 10 に 次世代気化発電プロセスの T-Q 特性を示す.
各熱交換器の温度アプローチを 3℃,熱交換器や制御弁
海水熱源
LNG火力排熱
18507
33608
エンタルピー(kWh/180LNGt)
の圧力損失を全圧の約 1.5%,各タービンとポンプの断熱効
率をそれぞれ 88%と 65%とし,減速機と発電機を合わせた
2.8%
2.3%
7.4%
各種ポンプ,バルブ,
パイプ,混合 4.7%
水ポンプ,配管放冷 0.4%
天然ガス循環ポンプ 1.3%
混合冷媒ポンプ
1.1%
LNGポンプ 2.5%
LNG火力排熱 LNG冷熱
5.2%
89.7%
エクセルギー(評価温度20℃)
図 11 次世代気化発電設備の熱精算図
効率を 95%とした.また LNG はボイルオフガスの再液化
とタンク払い出し用ポンプおよび配管入熱でこの気化発電
この条件での高圧および低圧の天然ガスタービン並びに
設備に流量 180t/h,温度-150℃,圧力 7.5MPaG で設備に
混合冷媒タービンの軸端出力は,エンタルピー評価におい
導入され,T-Q 特性を簡略化するため,全量 3MPaG ライン
て示すように,それぞれ約 6.3MW,約 1.9MW と約 6.1MW
に送出されるとした.また海水温度を 20℃,LNG 火力の排
の合計 14.3MW となった.減速機含む発電効率と 2 台の循
熱利用の温水温度を 70℃とした.
環ポンプの自家使用を加味した正味出力は 12.4MW となる.
エクセルギー評価においては,LNG 冷熱や LNG 火力の排
なお,流量を 180t/h とした理由は,表 3 の実績とスケー
熱並びに各ポンプ類の投入エクセルギーを 100%とすると,
ルアップによる建設費の低減を目的としている.
14
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No.3
各 送 出 ラ イ ン の 圧 力 エ ク セ ル ギ ー の 合 計 は 45.1 %
ったトンあたりの発電出力量は,7MPaG および 3MPaG ラ
(35.2+8.1+1.8),タービン出力の合計(12.2+12.6+3.8)に
インに全量送出した場合,それぞれ約 57kW と約 82kW と
発電機等の効率 95%を加味した発電出力は 27.2%となり,
なり,送出圧力が 6.5MPaG と高い台湾永安のプロパンラン
合計 72.3%が有効に利用され,各熱交換器での伝熱損失の
キン方式の 21.5kW に対して,本提案システムでは同等の
合計(2.4+2.8+2.3+7.4)は 14.9%と図 7 の 39%に比べ大幅
送出圧力で 2.65 倍の出力が得られる.
に低減され,第 2 の問題を克服できる.
このように 7MPaG ラインの送出圧力での LNG トンあた
り約 57kWh の発電量が得られることから,海外の LNG 受
また LNG 火力排熱の温水エクセルギーは,図 11 のエク
入基地への適用にも有利である.
セルギー評価において 5.2%に相当し,LNG 冷熱やポンプ
動力のエクセルギー価値と比べると僅かであるが,タービ
5.3 熱源設備の検討
ンの出力アップと伝熱損失の低減に大きく寄与している.
大型ガスエンジンの温水利用では,ジャケット冷却水温
5.2 温水温度とガス送出振り分け比率の発電出力への影響
度域が 70℃~80℃と高く,気化発電設備からの 20℃前後の
図 12 に各ガス送出ラインへの送出量の振り分けを前項
戻り冷却水を用いると大きな伝熱に伴うエクセルギー損失
と同じ 15 /80 /5,海水温度 20℃として,LNG 火力の熱源排
が生じる.そこで発電効率が LHV で 60%以上が期待でき
温水の温度を 30℃から 90℃に変えた場合の各タービンの
るガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)と起動停
出力特性と海水-温水の熱負荷特性を示す.ここで
止が容易で比較的高温の温水を得られるアドバンスド高湿
分利用ガスタービン(AHAT)を取り上げる.
LNG 火力排熱熱源負荷=S&T1+S&T2
5.3.1 GTCC の温排水利用
発電量,熱量(MW)
海水熱負荷=ORV1+ORV2+ORV3+ORV4
である.
50
最新の 1,600℃級ガスタービンの発電効率と出力は,LHV
40
で 61.5%以上,470MW に達しており,CO2 排出原単位は
0.327kg-CO2/kWh である
発電量
30
海水熱負荷
20
16)
.この仕様からガスタービンの
天然ガス使用量は 56t/h(燃料の投入化学エクセルギーは
熱源負荷
796MW)と推定され,LNG 基地に隣接してこの発電ユニ
10
ットが設置されると,蒸気タービンの復水器から温排水が
0
20
40
60
80
100
ガスタービンあたり 228MW 排出される.この排出量は,
熱源温度(℃)
180t/h の LNG 気化発電熱源の図 12 による約 50MW に対し
図 12 温水温度による次世代気化発電設備の特性
て 4 倍以上に相当するが,復水器用冷却水の海水の許容温
熱源温水温度の上昇に対して,ほぼ直線的に発電量が増
度上昇は通常 10℃であるため,冬季で 15℃,夏季で 40℃
加し,温水温度が 70℃以上では混合冷媒や天然ガスの過熱
の温水温度と予想される.そのため,例えば評価温度を
に熱源温水の熱負荷が使われるため,温水熱負荷の増加は
15℃とすると温排水のエクセルギー価値は,投入化学エク
落ち着く.
セルギーの 0.565%の 4.5MW に過ぎない.また提案システ
また図 13 に温水温度 70℃,海水温度 20℃として,各ガ
ムの問題1に対する解決策になり得ない.
ス送出ラインへの送出量の振り分けを 1.5MPaG ラインを
ゼロに固定し,7MPaG ライン全量から 3MPaG ラインの比
5.3.2 AHAT の温排水利用
率をゼロから全量に変えた場合のタービン総発電出力特性
図 14 に高湿分空気利用ガスタービンシステム AHAT
を示す.このタービン総発電出力を LNG 流量 180t/h で割
(Advanced Humid Air Turbine)のプロセスフローを示す.
AHAT では,圧縮空気に湿分を加え,ガスタービンの作動
15
流体とその比熱を増やし,圧縮動力を抑えながらタービン
総発電量(MW)
14
出力を増加させ,またガスタービン出口の排ガスの熱を再
13
生熱交において加湿空気により回収できるので 200MW ク
12
ラスでは,GTCC と同等の LHV 発電効率 60%が期待され
11
ている 17).このプロセスでは排ガス中の水分を冷却水で冷
却して回収し,水自立させる必要があるため,LNG 気化発
10
0
30
60
90
120
150
180
電設備の 20℃の戻り冷却水を有効利用できる.すなわち
3MPaG 送出量(ton/h)
AHAT では年間を通じて常に 70℃温水を活用できるので、
図 13 送出比率による次世代気化発電設備の特性
15
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No.3
LNG 冷熱発電の経済性を評価する上で最大の課題は,
排気ガス
再加熱器
kW あたり建設単価の算定である.この値は,プロセス構
天然ガス
燃焼器
空気
水噴霧
圧縮機
再生器
成,LNG 気化能力や発電出力の大小により大きく影響を受
エコノマイザ
ける.表 3 の 1979 年と 1982 年に泉北Ⅱで建設された冷熱
水回収装置
タービン
発電の発電設備の追加に要した建設費は,大阪ガスにより
空気冷却器
冷却器
増湿塔
冷却水
開発された中間熱媒体式の TRI-EX 式 LNG 気化器
18)
を応
用することで建設費を抑えることができ,kW あたり約 20
万円であった 20).
図 14 AHAT のプロセスフロー
そこでこの LNG 気化発電設備の発電機能に対する建設
既存 LNG 冷熱発電の問題 1 の解決となるとともに,LNG
単価を kW あたり 10~60 万円,減価償却 15 年,残存簿価
と MFR タービン出口ガス温度を上げる効果で冷熱エクセ
10%,定額法,設備維持費と固定資産税をそれぞれ建設費
ルギーの海水への放棄を減らせる効果がある.
の 2%と 1.4%とした場合の経費に対する年間利益の比率を
そこで 5.2 項の LNG180t/h の気化発電に必要な約 34MW
電力買取価格に対して検討を行った.なお,AHAT の建設
の熱源温水熱負荷を得るための AHAT の天然ガス燃料,発
に要する費用は,それ自身で経済性が成り立つとして,本
電出力並びに供給される温水温度などをプロセスシミュレ
件では経費として計上していない.
ータ VMGSim を用いて試算した.試算条件は,タービン入
発電出力 24.8MW に対する kW あたり建設単価を仮に物
口燃焼温度 1350℃,膨張比 20,水噴霧の対空気質量率 3.5%,
価上昇やプロセス構成の複雑さを考慮に入れ,40 万円とす
再生器の温度効率 85%,空気圧縮機とタービンの断熱効率
ると,建設費は 99.2 億円となり,年間経費は,償却費,設
をそれぞれ 88.5%と 92%とした.その結果,水自立に必要
備維持費,固定資産税でそれぞれ 5.95 億円,1.98 億円,1.39
な排ガス冷却温度は約 42℃,水回収装置出口の循環温水温
億円の合計 9.32 億円となる.したがって kWh 発電コスト
度は約 78℃であり,70℃以上の温水を得られることがわか
は 932/139=7.06 円となる.
った.また上記の条件にて必要な天然ガス燃料は,約 6.7t/h,
一方収益は仮に現在の風力発電なみの 25 円/kWh の買取
発電出力は約 54MW,LHV 発電効率は 59.6%となった.
価格なら,年間収益は 34.76 億円が見込める.したがって
6.普及検討
年間利益は 25.44 億円となる.図 15 に電力買取価格を 10
~25 円/kWh に変化させた場合の LNG 気化発電設備の発電
2012 年度の日本の LNG 受入量は 8,860 万トンであり,そ
機能に対する kW あたり建設単価に対する年間利益を年間
の約 7 割が電気事業者向け火力燃料である.2013 年度の
経費で割った経済性特性を示す.
LNG 火力発電の予想燃料費は 5 兆 4115 億円と見込まれ,
火力燃料費全体の約 62%に相当する 18).単純に計算すると
次に,LNG 冷熱発電は CO2 フリーであるため,
この 180t/h
LNG トンあたりのコストは約 8 万 6 千円となる.LNG の
×2 基の設置で削減できる CO2 排出量は,抑制できる電源
化学エクセルギー14,020kWh/t に発電効率と LNG 単価を用
を最新の GTCC の排出原単位 0.327kg-CO2/kWh16)とした場
いると発電コストに占める燃料費は 10.1 円/kWh となる.
合は年間 4.54 万トン,火力電源平均値 0.69kg-CO2/kWh21)
を用いた場合では 9.59 万トンとなる.さらに経済性を高め
表 1 の電力ガス石油各社の LNG 受入量と今後の基地の増
るには稼働率の向上が望まれるが,この方策としては,ガ
強を考慮に入れて,各社の基地に LNG 気化能力 180t/h の
ス需要の日間および季節間パターンを解消できる大規模ガ
次世代 LNG 気化発電設備を 2 基(正味発電出力 12.4×
ス貯蔵設備の建設 22)や,大規模電力貯蔵を実現できる圧縮
2=24.8MW)設置できるものとして,年間発電量などを予
空気エネルギー貯蔵(CAES)と AHAT の組み合わせシス
想する.実際には表 1 の現状の LNG 受入量から大手の電力
テム 23)の実現が望まれる.
ガス事業者の LNG 受入基地毎の設置可能な基数は 1~4 基
と推定される.仮に日間の稼働率をピークの 16 時間を定格
16
負荷,オフピークの 8 時間を 40%の部分負荷でこの負荷に
年間利益/年間経費 (ー)
14
よる発電性能の低下は無視できるものとし,また季節によ
る年間平均稼働率を定期整備も含めて 80%とすると年間
発電量は,
24,800kW×365×0.8×(16+0.4×8)=139GWh となる.
買取単価:25円/kWh
買取単価:20円/kWh
買取単価:15円/kWh
買取単価:10円/kWh
12
10
8
6
4
2
0
なお,年間の本気化発電システムでの LNG 使用量は,
10
20
30
40
50
設備単価 (万円/kW)
180t/h×2×365×0.8×(16+0.4×8)=202 万トンとなる.
図 15 建設単価に対する経済性特性
16
60
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No.3
7.まとめ
564-571(2012).
LNG チェーンのエネルギー評価から,最新の液化プラン
6) 関西電力,姫路第二発電所新2号機の営業運転開始について,
トの LNG トンあたり液化のための一次エネルギー消費量
http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2013/1119_1j.html
は約 500kWh に高効率化が進んでいる.また,LNG 火力も
7) 大阪ガスエクセルギーデザイン共同研究講座ホームページ,
毎年約 25℃のガスタービン燃焼温度の上昇により,発電効
http://www.ed.jrl.eng.osaka-u.ac.jp/exergy.html.
率が向上し,現在すでに 1600℃クラスの GTCC が実用化さ
8) 『エクセルギーデザイン学の理解と応用』,久角喜徳,中西重
れ,その発電効率は LHV で 61.5%以上となっている.一方
康,毛笠明志監修,大阪大学出版会(2012).
日本のみならず世界の LNG 受入基地の現状を見ると,LNG
9) 電気事業連合会,http://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/japan/
冷熱は一部の基地を除き,有効に利用されていない.
sw_index_04/.
そこで海水と LNG 火力からの温排水を熱源に用いる二
10) 天然ガスインフラ整備状況及び天然ガス地下貯蔵施設につい
つの自然冷媒による再生式ランキンサイクルの次世代
て, http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/toshinetsu/
LNG 気化発電システムを提案し,熱源の温排水温度やガス
saigai_taisaku_wg/004_04_29.pdf.
送出振り分け比率の発電出力への影響を評価した.
11) 山中義一,わが国における LNG 冷熱利用の現状と利用拡大へ
その結果,熱源の温水温度が 70℃であれば,混合冷媒の
の取り組み,エネルギー・資源,Vol27,No.5,11-15(2006).
気化圧力を高められ,7MPaG および 3MPaG ラインに全量
12) 地域連携による世界初のエチレンプラントでの LNG 冷熱を利
送出した場合の LNG トンあたりの発電出力量はそれぞれ,
用した大規模な省エネルギープロセスの導入について ,
約 57kWh と約 82kWh となることがわかった.またこの次
http://www.osakagas.co.jp/company/press/pr_2011/1193064_4332.html.
世代 LNG 気化発電システムの温排水として AHAT が有望
13) 大阪ガス冷熱発電,http://www.osakagas.co.jp/company/efforts
であることを示し,定格気化能力 180t/h の設備 2 基を国内
/rd/technical/1191168_3909.html.
の電力ガス石油各社の LNG 基地に設置した場合の経済性
14) Hisazumi, Yamasaki, Natural Gas Reliquefaction-Storage- Send
や CO2 排出削減量を評価し,経済性を高めるための方策も
out System Using Mixed Alcohol as Refrigerant, Proc.11th
提示した.最後に LNG は,今後もわが国の基幹エネルギー
International Conference on LNG, paper2-1,(1995).
として重要な位置を占める.LNG1トン当たりの冷熱エク
15) 東京電力,http://www.tepco.co.jp/forecast/index-j.html#notice29.
セルギーは,化学エクセルギーの僅か 1.8%に過ぎないが,
16) 三菱重工技報,発電技術特集,Vol.49,No.1,pp19-24,(2012).
40 年前は,省エネの機運のなかでこのエネルギー回収に各
17) 荒木秀文,秋山陵,麻尾孝志,高橋徹,江田隆志,高湿分空
企業が必死で取り組んだ.燃料価格が高騰する昨今におい
気利用ガスタービンシステムの 40MW 級総合試験,第 18 回
て「もったいない」の精神に立ち返り,高効率な LNG 冷熱
動力・エネルギー技術シンポジウム,日本機械学会,301-304
発電の開発を官民挙げて取り組み,わが国の戦略的輸出プ
(2013).
ラント商品となることを望む.さらに省エネ性の向上と
18) 日本総研,円安により高まる火力発電燃料費の増加懸念
CO2 排出削減に資する本システムの普及拡大を図るために
(2013 年 5 月 2 日)No.2013-003,http://www.jri.co.jp/
は、国によるイニシャルコストの補助導入や買取単価の適
MediaLibrary/file/report/researchfocus/pdf/6752.pdf.
切な設定を望む次第である.
19) 大阪ガスエンジニアリングトライエックス式 LNG 気化器,
http://www.oge.co.jp/plant_lng/lgn_base/trx.html
参考文献
20) Hisazumi,Ohoka,Ueda,Akasaka,Adachi,Ise,Advanced LNG
(参照日はすべて 2013 年 9 月 5 日)
Vaporizer and Power Generation of LNG Cold , Proc . 15th
1)『熱管理士教本-エクセルギーによるエネルギーの評価と管理』
,
石谷精幹著編,共立出版(1977).
International Gas Union Conference, Paper B256 , H8, Swiss,
(1982).
2) 久角喜徳,LNG 冷熱発電,機械工学便覧応用システム編γ5,
21) 環境省,中央環境審議会地球環境部会目標達成シナリオ小委
エネルギー供給システム,日本機械学会,198-201(2005).
員会中間取りまとめ(2001),
3) 天然ガスの輸送と貯蔵,天然ガスのすべて-その資源開発
http://www.env.go.jp/council/06earth/r062-01/1.pdf.
ら利用技術まで-,社団法人日本エネルギー学会 天然ガス
22) 次世代天然ガス高圧貯蔵技術開発の概要,
会 編,コロナ社,71-125(2008)
http://www.jsce.or.jp/committee/rm/News/news9/angas.pdf.
4) 『天然ガスリファレンス・ブック』,JOGMEC2012.
23) 高橋徹,幸田栄一,高湿分空気利用再生サイクル型ガスター
ビンを用いた圧縮空気エネルギー貯蔵発電システムの研究,
5) Shahrooz Abbasi Nezhad,Bizhan Shabani and Majid Soleimani,
エネルギー・資源,Vol32,No.6,19-27(2011).
Thermodynamic Analysis of Liquefied Natural Gas Production Cycle
in APCI Process,Journal of Thermal Science,Vol.21,Issue 6,
17