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超臨界二酸化炭素流体を用いた綿繊維の染色に関する検討
前田進倍・国藤勝士・本行節嘩・三島健司*
ShingoMAEDA,KatsushiKUNITO,SetsuakiHONGYO,andKenjiMISHIMA*
キーワード
超臨界二酸化炭素/綿繊維/染色/反応分散染料
S叫PerCriticalCarbonDioxide/CottonFiber/Dyeing/ReactiveDisperseDye
KEYWORDS
要
旨
超臨界二酸化炭素流体中で綿綴維を染色する方法について検討した。その結果、染料として反応
分散染料を使用し、繊維をあらかじめ膨潤可能な溶剤により前処理することで染色が可能であるこ
とがわかった。また少量の共溶媒を添加することで、染色性が大幅に向上す.ることが確認された。
得られた染色布の洗濯堅牢度は良好であり、染料が繊維に固着しているもの主推察された。
1
はじめに
ポリエステル繊維/分散染料の系は、これら
産業の一つであり、着色排水問題の解決、_薬剤
条件を満足する系であることが示されている2)。
しかしながら、通常、綿繊維を染色可能な染料
使用量の削減等、環境負荷低減化技術の確立が
は、超臨界二酸化炭素流体にほとんど溶解せず、
繊維染色加工業は水を大量に消費、排出する
望まれている。1991年にドイツのScbo=眠yer】)
また繊維自体も膨潤し串いことから、染色は困
らは超臨界二酸化炭素を媒体とした染色方法を
難である。
発表し、水を使用しな′い次世代の染色方法とし
そこでこれら条件を満足させる染色系とし
て注目を集めた。この染色方法は、染色時に水
を使用しないことから、着色排水の問題が発生
て、反応分散染料および繊維膨潤剤を使用した
系について検討を行った。
せず、さらに末固着染料の回収・再利用が可能
な画期的な方法である。しかしながらこの方法
3
実験方法
が適用可能な繊維素材は、ポリエステル、ナイ
3.1染料および被染物
ロン等の合成絨経であり、綿、レーヨン等のセ
ルロース系繊維を芋関しては種々の検討がなされ
ているものの染色技術の確立に至っておらずZt
社より提供された反応分散染料(Reac=ve
3)、早急な技術確立が望まれている。衣料用素
材において、綿繊維は重要な素材であることは
染料としては、ダイスタージャパン株式会
Blue,Reactive
C.Ⅰ,Disperse
Red 60(三井BAS
社製、図1)を用いて同条件で検討を行い、染
言うまでもなく、超臨界染色技術の綿繊維への
適用が可能となれば、本技術の実用化に向けて
Dis
Disperse
Red、図1)を
使用した。また比較のために、分散染料として
PerSe
F株式会
料反応基の有効性を確認した。
さらなる発展が期待される。そこで当産地(備
中、備後地域)の主要素材である綿繊維に閲し、
超臨界二酸化炭素流体中での染色技術の確立を
-
-∴′-・-_ニー、
Rcac由eD】spers亡8lue
目的に研究を行った。
O
2
綿繊細染色のための条件
超臨界二酸化炭素流体中で染色を可能にす
O②0べ箋2
R⊂i一亡1iv∈Dispe【S亡Red
るための条件として、少なくとも次の4項目を
考慮する必要がある。
0
(1)染料の超臨界二酸化炭素への溶解
0il
C・l・DisperseRcd60
(2)繊維の膨潤
(3)染料の繊維への分配
(4)染料の繊維への固着
図1検討に使用した染料
*福岡大学工学部
ー26-
トく
0イう
Nトl、
なお綿繊維としては、‖S
LO803
に記載の
た染色布について9ケ所の測色を行ったときのE
添付白布を使用した。
/S植の標準偏差であり、このエラーバーーが小さ
繊維膨潤剤および前処理方法
3,2
いほど均染性に優れていることを示す。染色圧
繊維膨潤剤としてN-メチルピロリジノン(NM
力および染色温度の上昇にともない、綿繊維の
染色性は向上することがわかった。しかしなが
P)およびテトラエチレングリコールジメチルエ
ーテル(TEGDME)を使用した。1%炭酸ナトリウ
ら染色温度が80℃の場合、どの圧力においても、
ム水溶液中に、上記溶剤を添加し、溶剤濃度川
%∼50%の前処理溶液を調製した。この前処理
均染性が不良であることが確認された。また、
15MPa以上の圧力で、急激な染色性の改善効果
が認められた。この傾向は、超臨界二酸化炭素
溶液中に、被染物を30分間浸せきし、脱水、乾
燥後、検討に使用した。
実験装置および染色方法
実験装置は超臨界流体抽出装置(日本分光株
3.3
式会社製)を使用した。装置の概要を図2に示
す。
9
者
1.炭酸ガスボンベ
2.高圧ポンプ
3.ポンプ
4、.共溶媒
5,共溶媒ポンプ
6∼8.高圧バルブ
9.圧力計
10.背圧弁
12.スターラ
11.染色槽
クーラー
8
10
12
16
20
18
22
Dyeingpressure(MPa)
13・恒温槽I4・被染物
図3
図2
14
綿の染色性に及ぼす温度圧力の影響
装置
に対する各種染料の溶解挙動と一致していた
料を、あらかじめ染色温度に加熱した染色槽に
4)。従って、この染色性の改善効果は、染料溶
解度の増大によるものと推察される。今回検討
入れた。その後高圧ポンプにより目的の染色圧
力まで炭酸ガスを導入し、一定時間染色した。
した範囲での最適染色条件は、染色温度120℃、
染色圧力20MPaであった。
繊維膨潤剤により前処理した被染物および染
図4に綿の染色性に及ぼす前処理溶剤濃度の
なお共溶媒は炭酸ガス導入時に、共溶媒ポンプ
を用いて系内に添加した。
染色終了後、ストップバルブ8を開放し圧力
影響について示す。
を大気圧まで下げ、染色布を取り出した。得ら
れた染色布は水洗後、染料の固着を確認するた
め、ソービング(80℃、5分間)およびアセト
ン寺先浄(室温、5分間)を行った。
染色性の評価
3.4
得られた染色布は、倉敷紡績(株)製分光測
色機(Color-7)により分光反射率を測定し、
濃色性の指標である
K/S値を算出することに
よって、その染色性を評価した。また1試料あ
たり9カ所測定することで、均染性について評
価した。
4
結果および考察
図3に綿の染色性に及ぼす染色圧力と染色温
度の影響について示す。染料はReactive
rse
Blue
Dispe
0
10
を2.5%ow∫(対被染物重量%)で使用
20
30
40
50
CbncentrationofsoFvent(%)
した。なお共溶媒としてアセトンを5%添加し、
図4
1時間染色した。図中のエラーバーは、得られ
ー27-
綿の染色性に及ぼす前処理溶剤の影響
60
Dispcrse
染料はReac=ve
Bluc
を5%owfで使用
した。なお共溶媒としてアセトンを5%添加し、
川寺間染色した。前処理溶剤を任用することで、
綿の染色性は急激に向上することが碓認され
た。また前処理溶液中の溶剤濃度は、BIueおよ
びRedのどちらの染料に対しても、10%程度で十
比較のために、分散染料(C.Ⅰ.DisperseRed60)
を用いて同染色条件で得られた染色布の、洗浄
結果も示した。反応分散染料を使用した場合、
ソービングによる染料の脱落はほとんど認めら
れなかった。またアセトン洗浄の結果から、80
%以上の染料は繊維に固着しているものと推察
された。これに対し分散染料を用いた場合、ソ
分であることがわかった。さらに醐Pの方が
TEGDMEより染色性の改善効果が高いことが確認
された。これは綿繊維に対する、溶剤の浸透性
…ビングにより約50%の染料の脱落が確認され
の違いによる影響であると考えられる。
が脱落してしまうことがわかった。反応分散染
た。さらにアセトン洗浄によって大部分の染料
料の場合、染料構造中にセルロースとの反応基
共溶媒としてのアセトンの添加効果を図5に
Disperse
Blue
示す。染料としては、Reactive
を5%owrで使用し、120℃、20MPaで1時間染色
を有しており、セルロースと反応することで繊
維への固着が可能であるが、分散染料はこの様
した。アセトン添加量の増大に伴い、綿の染色
な反応基を有しておらず繊維への固着が困難で
性は大幅に改善され、均染性の指標であるK/S
あったためと推察される。
値の標準偏差も急激に減少することが確認され
た。これは共溶媒添加による染料溶解度の増大
5
による効果であると推察される。
まとめ
超臨界二酸化炭素中で反応分散染料により
綿繊維を染色する方法について検討を行った。
その結果、綿繊維を膨潤可能な溶剤で布を前処
理することにより染色が可能であることがわか
(諜)uO膏ち山口P」竃u男S
った。染色温度、圧力が高いはど染色性が向上
することが確認され、今回の検討範囲における
最適染色温度、圧力はそれぞれ120℃、20MPaで
あった。また少量の共溶媒を添加することによ
って、染色性が大幅に改善されることがわかっ
た。得られた染色物の洗濯堅牢度は良好であり、
染料構造中の反応基の有効性が確認された。
参考文献
1)K.Poulakis,M.Spee,G.M.Schneider,
r).KniHel,H.J.Buschmann,andE.
0
0.5
1
1.5
Amount
図5
2
2.5
3
Schollmeyer,:Chemiefasernrrextilind,41/93,
3.5
142(1991).
2)p.L.Beltrame,A.Castelユi,E.Selli,A.Mossa,
of acetone(mf)
アセトンの添加効果
GITesta,A.M.Bonfatti,一丸ndA.Seves,:Dyes
andPigme叫3り,335(1998).
3)B.Gebert,W.Saus,D./K油tel,H.-J.Buschmann,
・表1に得られた染色物のソービング(アニオ
ン系ソービング剤2g/l、80℃、5分間)および
アセトン洗浄(室温)の結果を示す。
表1得られた染色布の洗浄・結果‥
染料
水洗
ソービング
ReacliveDisperse
andSchollmeyer,E.:Textile.Res.Jリ64(7),371
(1ウ94).
什otalK/S)
4)s.Maeda,K.Mishima,K.Matsuyama,M.
アセトン洗浄
808.9
733.1
660.8
252.5
248.8
194.7
167.7
4.8
Baba,T・Hirabaru,H・Ishikawa,andK
:J.Chem.Eng.Data,46,647(2001).
Blue
ReacliveDisperse
C.Ⅰ.Dispe[Se
318.4、
Red60
ー28-
Hayashi,