(様式 5) 氏 名:野口泰徳 論文題名 : 大 腸 菌 染 色 体 の 複 製 開 始 複 合 体 に お け る DnaAタ ン パ ク 質 の 機 能 制 御 と 多量体形成の分子機構 区 分 : 甲 論 文 内 容 の 要 旨 恒常的な生命機能の維持には、細胞周期に依存した染色体 DNAの二倍化(複製)が必要で、ある。染 色体複製には、開始タンパク質と複製起点からなる開始複合体の形成が必要である。また、染色体 を正確に二倍化するため、開始複合体形成は、 1回の細胞周期で 1度しか起こらないように制御さ れている。 大 腸 菌 で は 、 複 製 起 点 oriC内にある OnaA 結合配列( DnaA box)クラスター上に ATP 結 合 型 DnaA(ATP-DnaA)が協同的に結合して、多量体を形成する。このとき、 OnaA結合 ATPは隣接する OnaA 分子の R285残基(アルギニンフィンガー)によって認識される。その後、二重鎖 DNAの開裂が導かれ、 DnaBへリカーゼが OnaA結合を介して、開裂領域に対称な向きで装着され、両方向に進む。開始後、 DNA複製と共役して、 DnaA-ATPの加水分解が促進される。これにより、 oriC上で開始活性をもっ多 量体を形成できない ADP結合型 DnaA(ADP DnaA)が生じる。生じた ADP-DnaAは、安定な複合体とし て存在する。そして、次の周期の複製開始時に特異的な DNA配列( OARS)により ATP-DnaAに変換され る。このように ADP-DnaA複合体を長時間安定に維持することは複製開始の制御に重要であるが、そ のために必要とされる OnaAの機能構造には不明な部分が残っている。 また、最近、 oriCDnaA 複合体は、異なった機能をもっ二つのサブ複合体から形成されているこ とが示唆された。左側( Rlbox側 ) oriCDnaAサブ複合体は、 oriCの開裂と DnaB装着に必要で、あり、 右側( R4box側 ) oriC-DnaAサブ複合体は DnaB装着を促進する。しかしながら、この機能的な違いを 説明する分子構造はわかっていない。 oriCにおける DnaAboxクラスターの両端には、 Rlboxと R4boxがあり、これらは向かい合った 配向をしている。染色体上の oriCの Rl box配列が反転されると、著しい細胞増殖阻害を示すこと 一OnaA複合体中の OnaA分子の配向性は重要であると考えられる。しかしながら、その配 から、 oriC 向性、つまりアルギニンフィンガーが内側を向くのか、外側と向くのかについてはまだ具体的に解 明されていない。 本論文では、上記の 3つの不明な点について解析を行った。その結果、まず、第一の点について、 私は DnaA-ATP結合領域に存在する N-linkerモチーフ内の Glu143が OnaAとヌクレオチドとの安定 な結合と OnaA活性の制御に重要であることを見出した。つまり、不活性型の ADP-DnaAE143A変異 体では、結合していた ADPの解離が促進され、 ATP存在下において効率よく活性型の ATP-DnaAE143A が生じ、複製開始活性を回復した。バクテリアの OnaAにおいて、 Glu143残基はよく保存されてお り、この機構はバクテリア共通のものかもしれない。また、他の AAA+タンパク質においても同様の 分子機構を持つものがあるかもしれない。 次に、第二の点について、私は DnaA R227、L290残基が左側 oriC 一OnaAサプ複合体形成に特異的 に機能することを見出した。これらの残基はホモロジーモデルより DnaA間相互作用に機能すること が予想された。実際、 DnaAR227Aおよび DnaAL290A では、左側 oriCDnaAサブ複合体の形成が阻 害された。一方、右側 oriC 一DnaAサブ複合体の形成は阻害されなかった。これらの結果に基づき、 DnaA R227 とし 290が関与する OnaA間相互作用様式の違いにより、左右の oriC 一OnaAサプ複合体は 異なる構造となり、異なる機能をもっに至ると考えられる。これにしたがって、私は開始複合体に おける新たな DnaA間相互作用様式を提唱する。 さらに、第三の点を解析するため、今回私は、 oriCに結合した DnaA多量体中の任意の OnaAの配 向性を解析するアッセイ系を構築した。このアッセイ系を用いて、 Rlbox と R4boxに結合する OnaA の配|向性を解析した。その結果、どちらにおいても、 DnaA分子はアノレギニンフィンガーを oriCの 内側に向けて結合していることが示唆された。これまで、開始複合体中の DnaA多量体は一様な配向 性であると考えられていた。しかしながら、この結果に基づくと、 DnaA分子は oriCの中心に対し て、対称の配向性で結合すると考えられる。これにより、私は、 OnaA分子が対称な配向性でサブ複 合体を形成するという新たな開始複合体モデノレを提唱する。この対称的な DnaA分子の配向性により、 2分子の DnaBが右側 oriC 一DnaAサブ複合体と左側 o r i C 一DnaAサプ複合体にそれぞれ対称的な向きで l分子ずつ結合して、それにより対称な向きで DNAに装着されるのかもしれない。 OARSのような複 製開始の制御領域においても、 OnaAは多量体を形成する。ここで oriCにおいて見出された DnaA分 子の配向性は、これら制御領域においても適用できると考えられる。よって、この研究は制御領域 における分子機構の解明にも役に立っと考えられる。
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