UV アシスト研磨装置の開発 密閉容器 UV アシスト研磨装置の開発 ○坂本 武司 1 1 熊本大学 工学部技術部 1. はじめに 筆者が研究支援業務を行っている熊本大学 精密加工学研究室では,ダイヤモンドやシリコン・カーバイド(以下 SiC と記載)などの超硬脆材料に対する超精密研磨加工の研究が行われている.ダイヤモンドや SiC は,硬さなどの機械的な 特性や,熱伝導性,電気的特性によって,次世代パワーデバイス半導体材料としての利用が期待されている.しかし,こ れらの材料は非常に硬く,加工が極めて困難である.次世代パワーデバイス半導体を実用化するために,高効率で高精度 な新しい研磨加工法が求められている.筆者は,紫外光を用いた先進的な研磨加工法(以下,UV アシスト研磨と記載) によって,この課題の解決を目指している.これまでにも用途の異なる複数台の UV アシスト研磨加工機を開発してきた. 本報では,SiC 基板を被研磨材料とした UV アシスト研磨実験における研磨雰囲気の影響を調査することを目的に開発し た密閉容器 UV アシスト研磨装置と,本装置を用いた研磨実験について報告する. 2. UV アシスト研磨とは 図 1 に SiC 基板に対する UV アシスト研磨の模式図を示 す.UV アシスト研磨とは,被研磨材料の研磨面に紫外光を 照射し,同時に合成石英定盤に擦り付ける研磨加工である. 紫外光照射による化学的な作用と,合成石英との摩擦によ るメカノケミカルポリシング的な作用を複合的に用いる研 磨法であり,ダイヤモンドや SiC 基板などの超硬脆材料に 対する超平滑化加工が可能である.SiC 基板に対する UV アシスト研磨のメカニズムは以下のように考えられてい る.すなわち,SiC 基板のバンドギャップ(3.26eV)よりも 大きなエネルギを有する紫外光(波長 380nm 以下)を研磨 面に照射すると基板表面が励起され,電子と正孔が生成さ 図 1 SiC 基板に対する UV アシスト研磨の模式図 れる.生成された電子は,大気中の酸素,正孔は大気中の電子と化学的な反応を起こし,寿命は極めて短いが非常に酸化 力の強いラジカルが生成される.これらの非常に反応性の高い活性種が研磨面に作用し,母材である SiC よりも軟質な酸 化膜が生成されるとともに,SiC の中の C は CO ガスとして放出される.生成された酸化膜(SiO2)が CeO2 砥粒と合成 石英工具(SiO2)によって化学的,機械的に除去されることにより SiC 基板の UV アシスト研磨は進行する. 3. 密閉容器 UV アシスト研磨装置 密閉容器 UV アシスト研磨装置を図 2(a)~(c)に示す.本装置は,卓上旋盤を改造して製作した.主軸側に円盤状の合成 石英定盤を取り付け,往復台に研磨圧力調整装置と被研磨材である SiC 基板を回転させるためのスピンドルを取り付け (a)装置外観 (b)密閉容器の内部 図 2 密閉容器 UV アシスト研磨装置 (c)装置模式図 た.ステンレス製の密閉容器の中で,紫外光を合成石英定盤の裏側から被研磨材料に照射させながら,任意の圧力で研磨 を行うことができる.研磨圧力調整装置には小型のロードセルが取り付けてあり,研磨荷重を常に監視することができる. 密閉容器内で UV アシスト研磨を行うことで,UV アシスト研磨を行うことで発生すると考えられている CO ガスの検出 が可能となる.また,密閉容器内に様々なガスを充満させ,その中で UV アシスト研磨を行うことで,研磨雰囲気が研磨 特性に与える影響を調査することもできる. 4. 研磨雰囲気を O2 リッチにした場合の UV アシスト研磨実験 密閉容器 UV アシスト研磨装置を用いて,O2 ガスが SiC 基 表 1 UV アシスト研磨実験条件 板の研磨特性に与える影響を調査した.密閉容器内に O2 ガ 基板 4H-SiC 4°off (0001)10mm 基板 工具 外径φ100,厚さ 3mm, 円板工具(ES 材) 雰囲気 O2 rich,大気中(湿度 60%程度) 研磨圧力 100kPa スをフローさせ,O2 リッチな研磨雰囲気中で UV アシスト 研磨を行い,研磨レートを測定した.また,密閉容器のフタ を解放し,図 2(b)のような状態で大気中の研磨レートも測定 した.実験条件を表 1 に示す.合成石英定盤には酸化膜を除 去するため表面に平均粒径 0.29µm,比表面積 BET:156.9m2/g の酸化セリウム(CeO2)を塗布し,20min ごとに追加した. 10mm 角の SiC 基板の Si 面に図 3 に示す微細な溝をダイシ ングマシンにより導入し,その交点 5 ヶ所の深さを光干渉式 表面粗さ計(Zygo New View 7300)のプロファイル機能を用 いて 1hr 研磨するごとに測定し,研磨量を平均して算出し た.図 4 に実験結果を示す.大気中における UV アシスト研 磨の研磨レートは 0.860µm/hr であるのに対して,O2 リッチ 回転数 工具 500rpm SiC 基板 30rpm 相対速度 146m/min UV 光源 Deep UV 光源 UV 波長 200-400nm UV 照度(実測値) 1050mW/cm2(中心波長 365nm) 研磨時間 1hr×5 回 な研磨雰囲気中における研磨レートは 1.487µm/hr と約 1.73 倍高い値を示した.この理由として,以下のことが考えられ る.紫外光を照射することによる SiC 基板の酸化現象が活性 な研磨雰囲気により促進された.合成石英定盤とのメカノケ ミカルポリシング的な作用が研磨雰囲気により促進された. この両方の効果が複合的に促進された.いずれにしても,UV アシスト研磨を行う上で,研磨雰囲気を制御することが非常 に重要であると考えらえる. 図 3 研磨レート測定用の溝と Zygo 測定画面 5. おわりに 密閉容器 UV アシスト研磨装置を開発したことで,UV ア シスト研磨により発生する CO ガスなどの検出が可能にな 10 った.また,密閉容器内に様々なガスを充満させることで, なった.SiC 基板を対象として研磨雰囲気を O2 リッチにし た UV アシスト研磨の実験を行い,O2 リッチな研磨雰囲気 では,大気中に比べて約 1.73 倍高い研磨レートとなった. 本装置を開発したことにより,UV アシスト研磨における研 研磨量 d m 研磨雰囲気が研磨特性に与え影響を調査することが可能と O2 rich 大気中 8 6 研磨レート 1.487m/hr 4 研磨レート 0.860m/hr 2 磨雰囲気を制御することの重要性が明らかになった. 0 2 3 4 5 研磨時間 hr 参考文献 1) 坂本武司,稲木匠,小田和明,峠 1 睦,藤田隆:4 インチ 図 4 雰囲気を制御した UV アシスト研磨の研磨レート SiC 基板の UV アシスト研磨に関する研究,砥粒加工学会 誌,Vol.58,No.4(2014),掲載予定. 謝辞 本研究は,平成 25 年度 日本学術振興会 科学研究費補助金奨励研究(NO.25917013)の助成を受けて行われた.ここ に感謝の意を表します.
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