面識関係のない殺人事件の犯人像推定

面識関係のない殺人事件の犯人像推定
○白川部舞 1・越智啓太 2・喜入暁 1
(1 法政大学大学院人文科学研究科・2 法政大学文学部)
キーワード:プロファイリング、殺人事件、VO 関係
Predicting offender characteristic of Stranger Murders
Mai SHIRAKAWABE1,
Keita OCHI2, Satoru KIIRE
1
( Graduate School of Humanities, Hosei Univ.,2 School of Letters, Hosei Univ.)
Key Words: Profiling, Homicide, VOR
目 的
殺人事件の犯人像推定においては通常被害者の身辺調査に
よって犯人にたどり着くことができる。しかし被害者と加害
者の面識関係(Victim-offender 関係:VO 関係)がない場合に
は身辺調査によって犯人にたどり着くことができない。VO 関
係のない殺人事件は通常の捜査では加害者に関する情報を収
集する方法が限られていることや、捜査員の経験に頼ること
ができないため、捜査が難航しやすい。
犯罪者プロファイリングとは、犯行現場の状況や犯人の行
動から加害者の属性を明らかにする手法である(越智, 2012)。
渡邉・池上・小林(2000)はプロファイリングを活用すること
の効用として発生頻度の少ない事件への対応支援、捜査官の
経験の補充を挙げている。犯行特徴や被害者属性から加害者
特徴の予測ができるプロファイリングは、VO 関係のない殺人
事件において重要な情報源となりうる。
これより本研究では VO 関係のない殺人事件の犯人像の推
定を行う。さらに、殺人事件の発生時に VO 関係の有無の予測
を行ったあと、VO 関係のない殺人事件の分類を用いて犯人像
を推定するという手順で捜査を進めることを想定して VO 関
係の有無の予測も行った。
方 法
分析対象:新聞データベース(ヨミダス歴史館)を用いて、
2011 年と 2012 年に発生した殺人事件に関する情報を収集し
た。1088 件の事件が収集され、そのうち VO 関係のある事件
は 951 件、VO 関係のない殺人事件は 147 件であった。
分析項目:加害者特徴・被害者特徴・犯行特徴の 3 要因・
35 変数を用いた。加害者特徴・被害者特徴はそれぞれ性別・
年齢・職業・婚姻の有無・同居人の有無・酒や薬の使用だっ
た。加害者特徴にのみ前科の有無・借金の有無を加えた。犯
行特徴には VO 関係の有無・犯行場所・殺害方法・攻撃回数・
攻撃箇所・凶器・窃盗の有無・共犯の有無・被害者数・遂行
状態・死体の移動・計画性の有無・証拠隠蔽の有無・口論の
有無・連続の有無・動機・自殺企図の有無であった。
VO 関係の有無を予測するためにロジスティック回帰分析を
行い、VO 関係のない殺人事件を分類するためにコレスポンデ
ンス分析を行った。
結 果
ロジスティック回帰分析
VO 関係の有無を従属変数、その他の変数を独立変数として
ロジスティック回帰分析を行った(表 1)。このモデルによっ
て VO 関係の有無が 88%予測できた。しかし VO 関係の有無ご
とに的中率を見ると、VO 関係のない事件では 71.4%、VO 関係
のある事件では 91.0%となった。
コレスポンデンス分析
収集された事件のうち VO 関係のない事件だけを用いてコ
レスポンデンス分析を行った(図 1)
。VO 関係のない殺人事件
は私欲型・強盗殺人型・衝動型の 3 つに分類された。
<私欲型>このタイプの事件はストレス発散や快楽目的のため
に行われる。被害者は絞殺で殺害され、証拠隠蔽がみられる
ことがある。比較的若い女性が狙われやすい。加害者は 20 代
と若く、独身で同居者がいない。
<強盗殺人型>加害者は金銭を手に入れることを目的として、
犯行を行う。犯行は被害者の家で行われ、この分類において
は連続する可能性もある。60 代以上で婚姻している者が被害
者として狙われる。加害者は 50 代の無職で、借金や前科を持
つこともある。
<衝動型>衝動型の事件は屋外で口論などのトラブルの末に刺
殺や撲殺によって被害者を攻撃する。加害者・被害者ともに
30 代から 40 代の男性で有職、飲酒していた可能性がある。
表1:VO関係の有無に影響した要因
EXP(B) の 95% 信頼区間
被害者有職
β
-1.20
オッズ比
0.30
下限
0.18
上限
0.49
被害者学生
-1.51
0.22
0.09
0.54
被害者同居あり
0.90
2.46
1.36
4.45
被害者複数
-1.39
0.25
0.14
0.45
死者あり
1.11
3.02
1.88
4.85
屋外
-2.31
0.10
0.05
0.18
屋内
-1.63
0.20
0.10
0.37
盗み
-2.22
0.11
0.05
0.23
定数
3.22
25.08
モデルχ2検定
p < .01
判別的中率 88.5%
β<0の時はVO関係なしの確率が上がることを意味する
強盗殺人型
衝動型
私欲型
図 1.VO 関係のない殺人事件の分類
考 察
本研究では VO 関係の有無の予測と VO 関係のない殺人事件
の分類を行った。予測の判別的中率は VO の有無にかかわらず、
チャンスレベル以上の予測が可能であり、全体として 88%の
的中率が得られた。また VO 関係のない殺人事件を 3 種類に分
類することができた。
主な引用文献
●越智(2012) サイエンス社●渡辺ら(2000) 北大路書房