はじめに はじめに HTLV-1 に感染すると、将来成人 T 細胞白血病(ATL)や HTLV-1 関連脊 髄症(HAM)を発病する可能性があります。HTLV-1 感染の6割が母乳を介し た母子感染であり、予防が重要であるという観点から母子感染予防対策の強化 が求められています。 当県では、妊婦健康診査において HTLV-1 抗体検査が適切に実施され HTLV-1 陽性・判定保留になった妊婦等が、不安や悩みを安心して相談でき、 適切な母子感染予防対策が実施できるよう体制を充実させる必要があります。 このパンフレットは、HTLV-1 母子感染予防対策を担う医療関係者のため に、妊産婦等から日頃よく受けると思われる質問をQ&A方式でまとめました。 今後の妊産婦等からの相談対応・指導にお役立てくだされば幸いです。 目 次 p1 Ⅰ HTLV HTLV-1 抗体検査について—————————————————— 抗体検査について—————————————————— (1) 妊婦健診時に HTLV-1 スクリーニング検査の質問があった場合 Ⅱ 妊婦への結果説明 妊婦への結果説明について について—————————————————— について————————————————————————————————————(1) WB 法検査で判定保留または陽性であった場合 (2) WB 法検査で判定保留であった場合 (3) WB 法の判定保留者に PCR 法を実施した場合 Ⅲ 妊産婦への保健指導について 婦への保健指導について————————————————— について——————————————————————————————————(1) 母子感染を防ぐための授乳方法 p4 p6 (2) 妊娠 32 週あたりで分娩になりそうな妊婦さんの場合 (3) 子どもへの感染 Ⅳ 子どもがキャリアとわかった時の保健指導について 子どもがキャリアとわかった時の保健指導について——————— について——————————————- p13 Ⅰ HTLVHTLV-1 抗体検査について (1) 妊婦健診時に 妊婦健診時に HTLVHTLV-1 スクリーニング検査の スクリーニング検査の質問があった場 検査の質問があった場合 質問があった場合 Q: A: なぜ妊婦健診で HTLVHTLV-1 抗体の検査を行うのですか? 妊婦の方が、HTLV-1 キャリアであるかどうかを調べ、もしキャリアであることが分 かった場合に、適切な予防対策を行うことにより、母親から子どもへの感染を極力防 ぐことができるからです。 ★HTLV-1 とは★ HTLV-1 とは、ヒト T 細胞白血病ウイルス(Human T-cell Leukemia Virus Type1)の略です。このウイルスは血液中の白血球の1つであるTリンパ 球に感染して白血病を起こすウイルスとして発見されたことから、このような名前で 呼ばれています。 感染者の約95%は生涯、HTLV-1 による病気になることはありません。しかし、感 染者の約5%は成人T細胞白血病(ATL)を 0.3%は HTLV-1 関連脊髄症(HAM) と呼ばれる脊髄の病気等を発症させます。 ★ATLとは★ ATLとは、成人T細胞白血病( dult -cell eukemia)の略で、白血病・ リンパ腫の一種です。以前はその原因が明らかではありませんでしたが、1980 年に HTLV-1 が発見され、ATLは HTLV-1 によって引き起こされることが明らかとな りました。 A T L ★HAMとは★ HAMとは、HTLV-1 関連脊髄症( TLV-1 ssociated yelopathy)の略で す。その原因はまだはっきりとわかっていませんが、HTLV-1 が感染した T リンパ球 が脊髄の中に入り込み、炎症を起こすことが原因と考えられています。脊髄の中で起 こった炎症が慢性的に続くことで、神経細胞が傷つけられます。 H a 1 m Q: HTLVHTLV-1 感染を調べる検査法はどんなものでしょうか。 A: HTLV-1 の感染は、血液検査でわかります。まず、スクリーニングとして HTLV-1 抗体検査(PA法またはCLEIA 法)を行います。陽性の判定が出た場合は、確認検査(ウ エスタンブロット法:WB 法)が必要になります。抗体検査で陽性と判断された方の中に、 確認検査では陰性(感染していない)となる方が含まれているからです。この WB 検査 で陽性であれば HTLV-1 に感染していることを意味します。しかし、まれに確認検査を 行っても陽性かどうか明確に判断できない場合(判定保留)があります。判定保留とな ったケースには実際に感染していない人も含まれていますが、一定の割合(1/3 程度)で感 染している人が含まれていることがわかっています。WB 法で判定保留の場合、さらに PCR 検査で検査する方法があります。現時点では、PCR 検査は保険適応外であり全額自 己負担となります。PCR 検査の意義づけも検討中ですが、最近の知見では、HTLV-1 ウ イルス量が多いほど感染、発病のリスクが高いことがわかっており、PCR 検査ではこの ウイルス量を知ることができます。 <参考> 図1 HTLV-1 スクリーニングの進め方 妊婦スクリーニング(妊娠 30 週頃まで)(血清検査:PA 法もしくは CLEIA 法) * * ** 陰性 陽性 報告 結果を説明 HTLV-1 キャリアと確定せず、精密検査が必要と説 明し WB 法を行なう。(判定保留があることも説明) 通常の授乳指導 (母乳栄養を勧める) WB 法 判定保留 陰性として説明 カウンセリング 最初の妊婦スクリーニングで はどちらか一方を行なう。 栄養方法については妊婦の判 断を尊重する。 (母乳栄養を希望すれば、そ *** 陽性として説明 の意思を尊重する。 ) 一部にキャリアが含まれる可 能性について説明する。PCR 法による精密検査も可能であ ることを説明する。 母乳を介して母子感染が 栄養法の選択につ 成立する可能性を説明し、 いては妊婦の意思 完全人工栄養、短期母乳栄 を尊重する *** 養(満3か月まで)、凍結母 乳栄養を提示する ** 2 通常の授乳指導 (母乳栄養を勧める) Q: A: Q: A: Q: いつごろ検査するのですか? 妊娠 30 週頃までに検査することをお勧めします。分娩直後に検査すると十分な説明が できない可能性があります。また、妊娠初期に検査を実施する場合は、妊婦の精神状 態が安定していないことがあり、注意が必要です。 前回の妊娠時の検査で HTLVHTLV-1 が陰性でしたが、今回も検査は必要ですか? 前回妊娠時の HTLV-1 抗体検査が陰性だった人でも、その後の感染により今回の検査 で陽性になる可能性があります。妊娠のたびに毎回、HTLV-1 抗体検査を受けた方が 良いでしょう。 前回の分娩の際に 前回の分娩の際に HTLVHTLV-1 キャリアと言われました キャリアと言われました。今回も検査が必要で 言われました。今回も検査が必要です 。今回も検査が必要ですか? A: ① どのような検査法によってキャリアと判断されたのかによりますので検査法を確認 してください。 ② 前回一次スクリーニング検査のみが陽性であっても確定できませんので、確認検査 (ウエスタンブロット(WB)法)を行うことをお勧めします。 ③ 前回の検査がウエスタンブロット(WB)法によるものであれば再度検査をする必要は ありません。 ★HTLV-1 キャリアとは★ HTLV-1 はレトロウイルスと言う種類のウイルスで、細胞に感染するとその中 の遺伝子に入り込み、細胞とともに生き続けます。感染によって作られる抗体や ウイルスのタンパク、DNA を検査することでウイルスの存在を知ることができま す。感染してもすぐに発症する(病気になる)わけではありませんが、ウイルス を持続的に保有することになり、このような人を HTLV-1 キャリアと呼びます。 3 Ⅱ 妊婦への結果説明 妊婦への結果説明について 結果説明について (1) WB 法検査で 法検査で判定保留または陽性であった 判定保留または陽性であった場合 または陽性であった場合 Q: どうしたらよいでしょうか? どうしたらよいでしょうか? A: ① 授乳や性交渉を除く普通の生活では、家族や他人にうつすことはありません。 ② 母子感染については、母乳を介して子どもに感染する可能性がありますので、感染 予防を考える必要があります。生まれてくる自分の子どもへの感染のリスクを減ら すために、授乳栄養法に関し正確な情報を十分に得て、栄養方法を選びましょう。 Q: A: 夫や家族に相談すべきでしょうか? 家族に相談すべきでしょうか? 家族と夫への対応は別と考えたほうが良いでしょう。 <夫> ご夫婦の状況によって変わりますが、可能であれば相談した方が良いと思います。 HTLV-1 陽性の場合は、断乳をはじめ、子どもの HTLV-1 感染の検査などを考えるに あたって、家族で情報を共有して対応する方がよいと思われます。 悩みや不安を抱えることが多いため、夫婦としてお互いに 支え合う関係として、理解や協力を得る方がよいと思われます。 <家族> 家族> あなたがキャリアだと診断された場合、ご家族の中にもキャリアがいる可能性がありま す。しかし、それぞれのご家族、ご家庭にいろいろな事情があると思いますので、家族 に伝えるべきかどうかは、HTLV-1 のこと、ATL や HAM などの病気のリスク、生活 上の留意点などの情報を十分に得たうえで、ご自身で判断して下さい。 Q: 無事出産することはできますか? A: ① HTLV-1 感染が妊娠・出産に悪影響をもたらすことはありません。 ② HTLV-1 が原因で赤ちゃんに奇形を生じたり、 生まれた後に異常を起こすこともありません。 ③ 出産も通常分娩と変わりありません。 4 (2) WB 法検査で判定保留 法検査で判定保留で 判定保留であった場合 Q: WB 法の判定保留者に PCR 法を実施したほうが良いかという問い合わせに対してど のように答えれば良いでしょうか。 A: ① PCR 法検査で陽性であった場合は HTLV-1 キャリアとして今後対応します。 ② この検査はまだ十分に規格化されておらず、保険適用外です。 ③ PCR 法が陰性の場合は、完全に HTLV-1 キャリアを否定できませんが、キャリア でない可能性が高いと考えられています。そのため、完全人工栄養・凍結母乳栄養・ 短期母乳栄養方法を積極的に勧める必要がなくなります。 (3) WB 法の判定保留者に PCR 法を実施した 法を実施した場合 Q: なぜ PCR 法で陰性であった妊婦から出生した児に対して長期間(3 (3 ヶ月以上) ヶ月以上)母乳栄 養を行ってはいけなのですか?また、出生した児をフォローアップしなければならな 養を行ってはいけなのですか?また、出生した児をフォローアップしなければならな いのでしょうか? いのでしょうか? A: ① これは PCR 法に測定限界があるためです。10 万個のリンパ球で 1~数個以上の感 染細胞があれば、PCR 法陽性となりますが、それ以下だと陰性となります。 ② 現状では、PCR 法で陰性であっても完全にウイルスが存在せず、絶対に母子感染が 起こらないと断定できませんが、感染のリスクは極めて低いと考えられます。 ③ 厚生労働科学研究齋藤班では、PCR 法陰性者に対して「完全にキャリアを否定する ことはできないが、人工乳を勧めるエビデンスはない」としています。 ④ 理論上は、極めてウイルス量が少なく母子感染のリスクは低いと考えられますので、 4 ヶ月以上の長期母乳も選択肢に加えて担当医と相談のうえ決定してください。 ⑤ 完全な人工栄養でも約 2-3%に母子感染がおこりますので、PCR 法が陰性であって もこれ以下に母子感染を減らすことは困難です。 5 Ⅲ 妊産婦への保健指導 婦への保健指導について 保健指導について (1) 母子感染を防ぐための授乳 母子感染を防ぐための授乳方法 授乳方法 Q: HTLVHTLV-1 母子感染を防ぐための授乳方法として、どのようなものがありますか? A: ① 初乳も含めて、一切、母乳を与えず、人工乳のみで哺育する「完全人工栄養」があ ります。 ② 母乳をどうしても与えたい場合に行う栄養方法として、「短期母乳栄養(満 3 ヶ月ま で)」と「凍結母乳栄養」があります。 ③ 上記の栄養法を選択すれば、いずれの場合でも母子感染の割合を 2-3%に減らすこ とができます。 「短期母乳栄養」は、生後満 3 ヶ月を越えない期間、母乳を授乳し、その後、人工乳に切 り替える栄養方法です。「凍結母乳栄養」は搾乳した母乳を冷凍庫で凍結し、解凍して与え る栄養方法で、満 3 ヶ月以上与えても問題はありません。これらの栄養方法では、母乳が 不足した場合人工乳で補っても構いません。 Q: なぜ母乳で感染するのですか? なぜ母乳で感染するのですか? A: ① HTLV-1 が人に感染するメカニズムとして、HTLV-1 に感染したリンパ球が、生 きたまま大量に赤ちゃんの体内に入ることが、感染が成立するひとつの条件になり ます。 ② 母乳の中にはリンパ球が多く含まれており、赤ちゃんが母乳を飲むことにより、た くさんのリンパ球を体内に取り込むことになるからです。 6 Q: 母乳を与えなければ、H 母乳を与えなければ、HTLVTLV-1 の母子感染は防げますか? A: 母乳からの感染は防げますが、それ以外の経路による母子感染の可能性が残ります。 完全人工栄養を行った場合でも約 2-3%程度感染がおこります。残念ながらこの原因は 明らかになっていません。 Q: 初乳はタンパク質が多く、 特に胎盤から受け継いだ免疫力が沢山含まれていると聞い 特に胎盤から受け継いだ免疫力が沢山含まれていると聞い ています。初乳だけでも与えることはできませんか? ています。初乳だけでも与えることはできませんか? A: 3 ヶ月以内短期母乳保育での母子感染率は 厚生労働科学研究班のデータでは 1.9%であり、完全人工栄養児 の約 2-3%と同等です。初乳のみのデータはありませんが、少な くともこれ以上になることはないと思います。 Q: 完全人工栄養の場合、感染症や乳幼児突然死症候群(SIDS 完全人工栄養の場合、感染症や乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険性が高くなる可能 SIDS)の危険性が高くなる可能 性はありますか? A: ① 感染症については、衛生状況など環境のよい日本においては、基礎疾患のない成熟 児である限り、特に心配は要りません。各種予防ワクチンの接種や感染症の流行期 の外出を避けるなどの感染症一般の対応で問題ありません。 ② SIDS 予防についても、うつぶせ寝を避ける、子どもの前で喫煙を避けるなど他のお 子様と同様に対応して構いません。 人工栄養でも母乳でも、うつ伏せ寝、周囲の喫煙を 防ぐことによって危険性を大きく減らすことができ、 実際に外国では、うつ伏せ寝をやめさせることで大幅 にSIDSが減少しています。 ★SIDSとは★ SIDSとは、乳幼児突然死症候群( udden nfant eath yndrome) それまで元気だった赤ちゃんが、事故や窒息ではなく睡眠中に突然死亡する病気で す。原因はまだわかっていません。赤ちゃんを守るポイントとしては、うつぶせ寝 は避ける、たばこをやめる、などがあげられます。 S 7 I D S Q: HTLVHTLV-1 母子感染はおもに母乳を介しておこるわけですから、人工乳にすることでよ いのではないですか?なぜ、短期母乳や冷凍母乳も選択肢に入るのですか? A: ① ② ③ 母乳には 母乳には利点 には利点が 利点があるからです。 母乳には未熟な赤ちゃんの免疫力をサポートする成分や発達を促す成分が含まれて います。また、肥満や脂質代謝異常、高血圧、インスリン抵抗性などのメタボリッ クシンドロームのリスクも人工栄養に比べて低いことも知られています。さらに母 子の愛着形成を促す作用など、多くの利点があります。 母乳の利点を大事にし、なおかつ感染率を減少させる方法を検討した結果です。 母乳栄養の利点を生かしながら、母子感染のリスクを減らす方法として、3 ヶ月まで の短期母乳栄養や冷凍母乳栄養が限定された地域で試みられ、完全人工栄養に匹敵 する効果があったと報告されています。 これらの栄養法を用いた人数は少なく、理論上は母子感染予防効果があると推測さ れますが、現時点においては医学的には十分な信憑性に乏しいです。 母乳の期間を短期とする理由は、長 母乳の期間を短期とする理由は、長期授乳を継続すると子どもへの感染率が増加す るデータがあるからです。 4 ヶ月以上の母乳哺育を行なうと、HTLV-1 母子感染のリスクは完全人工栄養児の 約 2-3%にくらべて 5〜6 倍高くなることが明らかになっています。 Q: 短期母乳の期間とその安全性はどうなっていますか 短期母乳の期間とその安全性はどうなっていますか? どうなっていますか? A: 満 3 ヶ月までの母乳哺育での感染率は 1.9%でしたが、4 ヶ月以上の母乳哺育での感染 率は 17.7%に増加するというデータから短期母乳の目安は 3 ヶ月としています。 短期投与における感染率低下のメカニズムについては今のところ解明されておらず、十 分な症例数でないため、今後さらに検証が必要です。 Q: 実際に短期母乳栄養を選択した場合、どのようにすればよいですか? A: 満 3 ヶ月までの授乳を希望される場合は、分娩施設を退院する際に、満 3 ヶ月で母乳を 中止するための方法について情報を与えましょう。 満 3 ヶ月になってから相談をはじめると、母乳の中止が遅くなり感染率を高くしてしま うため、産後 2 ヶ月ごろから、母乳中止の方法を理解して具体的に実施できるよう、指 導を行うことが重要です。 8 Q: 短期母乳栄養を選択した場合、母乳から完全人工栄養に切り替えるのではなく、母乳 から凍結母乳栄養に切り替えしてもよいですか? A: 理論的には可能ですが、現在のところ詳しいデータはありません。このため産婦人科診 療ガイドラインでは①人工乳、②凍結母乳、③3 ヶ月までの短期母乳のみを推奨していま す。 Q: 冷凍母乳に関して教えてください。 冷凍母乳に関して教えてください。 A: ① 母乳を 24 時間冷凍し(家庭用冷蔵庫で可)、解凍後 37℃に温めて哺乳瓶で投与す る方法です。 ② 母乳中に含まれる免疫物質を赤ちゃんに投与できる利点がありますが、直接授乳で きないことは人工栄養と同じという欠点もあります。 ③ 未熟児などの特殊な場合で、母乳も与えたいが感染もできるだけさせたくない時の 選択肢になります。 但し、冷凍母乳投与における感染率の報告は十分な症例数によるものではないため、今 後さらに検証が必要です。 Q: 冷凍母乳のために搾乳するときに母乳中の細菌数を減らす方法はありますか? A: ① 電動搾乳器を使用する場合には、部品の扱いに気をつけて下さい(事前に説明書を 読んで下さい)。 ② 搾乳前に完全に手を洗い、爪をきれいにして下さい。 ③ 搾乳容器や搾乳器のカップの内側を触らないで下さい。 ④ 搾乳開始後、最初の 10 ml を捨てても細菌を減らす効果はありません。 ⑤ 乳頭や乳輪を石鹸で洗う必要はありません。 9 Q: 母乳の冷凍手順について具体的に 母乳の冷凍手順について具体的に教えてください。 具体的に教えてください。 A: ① 搾乳後の母乳を専用容器にいれます。 ② 母乳を冷凍する場合は、そのほかの液体と同様、母乳も冷凍すると膨張するため、 容器の上の部分に少し余裕を持たせて保存します。 ③ ビニール袋を使用するときは、母乳搾乳用に用意された専用のものを使用します。 貯蔵する前に、容器の上部を何度か丁寧に折り返し、冷凍用マスキングテープでし っかり封をします。 ④ 万が一の破れに備えるため、搾乳した小さなビニール袋数個をさらに大きなビニー ル袋に入れます。 ⑤ 各容器には、搾乳した日付と量を明記します。 ⑥ 搾乳した母乳は、搾乳後直ちに冷凍して下さい。 ⑦ 凍結は 2 ドア冷凍冷蔵庫の家庭用冷凍室-20℃で 24 時間以上行って下さい。 注意!! CAS冷凍(キャス冷凍):セルアライブシステム 冷凍するが細胞を壊さないのが特徴であり、HTLV-1 感染予防のための母乳冷凍 には使用しない。 Q: 冷凍母乳の解凍と加温方法について教えてください。 A: ① 冷凍母乳の解凍は、冷蔵庫内の自然解凍、または流水・微温湯解凍をして下さい。 これらの解凍方法であれば IgA 濃度の変化はほとんど認めません。 ② 解凍・冷蔵母乳の加温方法は、母乳由来リパーゼを保つため、室温が望ましく、温 める場合は 37℃未満(体温程度)として下さい。電子レンジの使用は不適切であり、 また、加温後与えなかった母乳は廃棄して下さい。 10 Q: 母乳を飲ませない理由を家族や周囲に聞かれた場合、どのよう返答すればよいでし 母乳を飲ませない理由を家族や周囲に聞かれた場合、どのよう返答すればよいでし ょうか? A: HTLV-1 キャリアの女性の家庭状況やその他の状況によりさまざまですので、本 人の意思に任せます。本人が HTLV-1 キャリアであることを知られたくないので したら、 「母乳が出ない」 「分娩後の母体の状況により授乳が望ましくないと産科医 から指導された」と返答するのも一案です。 (2) 妊娠 32 週あたりで分娩に 週あたりで分娩になりそうな妊婦さんの場合 Q: 確認検査が 確認検査が陽性でキャリアであるため授乳方法の説明したところ、 陽性でキャリアであるため授乳方法の説明したところ、新生児壊死性腸炎 でキャリアであるため授乳方法の説明したところ、新生児壊死性腸炎 や感染症の懸念などから母乳を与えたいと言っています や感染症の懸念などから母乳を与えたいと言っていますが、問題はないですか? 言っていますが、問題はないですか? A: ① 早産で出生することになっても、原則として事前に母親の意思を確認する必要があ ります。 ② 乳汁の選択にあたっては正期産児とは若干説明内容が異なってきます。 1) 在胎 32 週以下の早産児では、人工栄養の使用によって新生児壊死性腸炎や感染 症などによって生存の危険性が脅かされる可能性が高くなると考えられていま す。このリスクを少しでも減らそうとするならば、一般に母乳を使用すること をお奨めします。 2) より早産で出生した児ほど母体から胎児への HTLV-1 移行抗体(HTLV-1 の ウイルスとしての感染力を中和する働きを持つ)の量は少ないと考えられます ので、冷凍せずに搾乳したままの状態で母乳を与えることによって早産児の感 染のリスクが高くなる可能性が推測されます。 11 (3) 子どもへ 子どもへの感染 Q: 子どもへの感染の可能性はどれくらいですか? A: 母子間の感染は、母乳からの感染がほとんどです。 母乳中に HTLV-1 感染細胞が含まれているためにおこります。 生後 4 ヶ月間以上母乳を飲ませ続けた場合、赤ちゃんの 5~6 人 に 1 人が感染(感染率 15~20%)することが知られています。 Q: 子どもに感染したかどうかはいつわかりますか? A: ① 新生児期には、お母さんから赤ちゃんへ移行した抗体(移行抗体と呼ばれています) があるため、検査をしても感染しているのか、あるいはその移行抗体の影響で陽性 と出ているのか判断できません。 ② その判断が確実にできる時期としては、満 3 歳以降が良いといわれています。 Q: 子どもの 子どもの HTLVHTLV-1 抗体検査を受けることのメリット(デメリット)は何ですか? A: ① 検査を受けるかどうかは、ご夫婦で十分に相談した上で決めてください。調べて陰 性であった場合は安心できるわけですが、陽性であった場合のことを念頭に置いて ください。 ② 子どもが感染しているかどうかを知っておくことは、もし子どもがキャリアであっ た場合に、両親が子どもに適切なタイミングで感染について説明できます。もしそ うしなければ、子どもが将来献血や妊婦健診でキャリアであることを突然知らされ ショックを受けたり、誤った思い込みをして不必要に悩んだりする恐れもあります。 ③ 女性であれば、結婚後両親から離れた環境で妊娠した際、突然 HTLV-1 感染を知ら されて一人で不安になることを避けられます。男性はパートナーへの感染を予防で きます。また、将来 ATL や HAM の発病を抑えるような方法が開発された際に早く 対応できる可能性があります。 ④ 調べる時期は幼少時に限らず、子どもが HTLV-1 感染について十分理解できる年齢 になってから本人と十分相談し、本人の自由意思で調べることもできます。 ⑤ キャリアであることがわかることのメリットは妊婦を除いては現状では小さく、そ のことにより思春期に精神的な負担を負わせてしまう可能性があることを考慮する 必要があるかもしれません。 12 Ⅳ 子どもがキャリアとわかった時の保健指導 子どもがキャリアとわかった時の保健指導について の保健指導について Q: キャリアのこどもの キャリアのこどもの健康管理について こどもの健康管理について教えてください 健康管理について教えてください A: ① 特別な健康管理の方法はありません。 ② 将来的には、住民健診、職場健診などがあれば必ず受診するようにしてください。 Q: キャリアとなった子どもの育児上の注意点について教えてください キャリアとなった子どもの育児上の注意点について教えてください。 教えてください。 A: ① 特別なものはありません。 ② ウイルスを持っていることを除いて普通のお子さんと同じです。 ③ 年長児では極めて稀ですが HAM をおこすことがありますので、歩き方がだんだん おかしくなるなど、進行性の歩行障害の症状があれば病院を受診してください。 Q: 上の子どもがキャリアでした。兄弟間で感染はおこりませんか? 上の子どもがキャリアでした。兄弟間で感染はおこりませんか? A: 兄弟の間ではまず感染しません。 Q: A: ① ② ③ ④ この子から他の人に感染しますか? このウイルスの主な感染経路は母子感染(主に母乳を介して)と性行為感染(主に 男性から女性へ)と輸血感染です。それ以外の日常の生活の中で感染していくこと はありませんので、大人になるまでは人に感染する可能性が極めて低く、普通に生 活していて構いません。 女の子であれば、将来子どもを持つ際に母子感染が起きる可能性があります。しか し、母子感染の可能性は栄養方法の選択によって或る程度まで下げることができま す。 男の子であれば、将来性行為を行うようになると相手の女性が感染する可能性があ ります。ただ大人になってから感染して ATL を発症したという事例はこれまでのと ころ知られていません。 現在、献血の際には HTLV-1 抗体検査を実施していますので、男の子でも女の子で も、献血した場合にその血液が用いられることはありません。 13 ルス 職 ・学校・共同浴 ・ ル Q: このウイ A: ① ② は、 場 場 プー などでうつりますか? このウイルスが人から人にうつるためには、キャリアの持つ HTLV-I 感染細胞が生 きたまま大量に人の体に入ることが必要です。 単なる共同生活や、風呂場・プールでの感染はありません。 自 Q: この子に 分がキャリアであることを教えた方がいいでしょうか?教えるとしたらい つがいいでしょうか? A: ① ② ③ ④ Q: お子さんにキャリアであることを伝えるかどうか、伝えるとしたらいつがいいのか は、最終的にはあなた(もし夫にもお話しになっている場合はご夫婦)のご判断に よります。 もし伝えなかった場合でも、将来献血をするようになった時や、(女の子であれば) 妊娠した時の検査によって、自分がキャリアであることを知るようになります。も しかしたら、そのような形で自分がキャリアであることを知るとショックを受ける かも知れません。 もし知らせるとしたら、献血できる年齢(16 歳)になる前、中学生頃か高校に入っ て間もない頃を目安にした方が良いかも知れません。 説明を行う際には、医療関係者も交えて正しい知識を伝えることで、誤解から不必 要な悩みを持たないですむように努めることもできます。 この子が ATL になることを防ぐにはどうしたらいいのですか? A: ① ② 現時点ではまだ、いったんキャリアになった人が ATL の発症することを防ぐ方法は 見つかっていません。 お子さんが成長し、これらの病気を起こすかも知れない年齢に達した頃には、何ら かの発症予防法や、もしも発症してしまった場合に有効な治療法が開発されている かも知れません。その場合には様々な形で呼びかけることになるだろうと予測され ますので、ご自身がキャリアであることを知っておくことは大切だと思います。 14 参考文献 HTLV-1 母子感染予防対策保健指導マニュアル(改訂版) 平成 23 年 3 月 厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課 HTLV-1 母子感染予防対策 医師向け手引き 平成 23 年 3 月 厚生労働科学特別研究事業 HTLV-1 キャリアのみなさまへ 平成 22 年度 厚生労働科学研究費補助金研究事業 HTLV-1 キャリア相談支援(カウンセリング)に役立つQ&A集 平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業 発行 奈良県医療政策部保健予防課 TEL 0742-27-8661(直通) 平成 26 年 3 月
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