プラズマ物理学I 講義メモ (第4回) 4 集団運動の方程式

プラズマ物理学 I
講義メモ (第 4 回)
(担当: P 研 渡邉智彦; 2014.5.22 作成)
3.4
補足: ジャイロ運動
念のため, 前小節で触れたジャイロ運動についてまとめておこう. 質量 m, 電
荷 q をもつ非相対論的な古典的粒子が一様磁場 B の中を運動している. 電場
がない場合, 磁力線に平行方向には等速運動をする. 以下では磁力線垂直方向
のみを考えればよい. 粒子位置を x⊥ , 速度を v⊥ とすれば,
x˙ ⊥ = v⊥
v˙ ⊥ =
q
v⊥ × B = Ωv⊥ × ˆb
m
(1)
(2)
[ここで ˆb は磁場方向の単位ベクトル, Ω = qB/m はサイクロトロン (ジャイ
ロ) 角周波数]. 式 (2) に右から ׈b を作用させ, ベクトル公式を使うと
d
(v⊥ × ˆb) = −Ωv⊥
dt
(3)
v¨⊥ = −Ω2 v⊥
(4)
これらから単振動の式
を得て, vx = v⊥ cos(Ωt + δ), vy = −v⊥ sin(Ωt + δ) となることが直ちに
わかる (δ は初期位相). ここで ˆb を z 軸の正の方向に取った (B > 0). 電
荷 q の符号により Ω の正負, すなわち磁場中の回転方向が定まる (q > 0 の
イオンは時計回り, q < 0 の電子は反時計回り). さらに v⊥ を時間積分して
x = rL sin(Ωt + δ) + x0 , y = rL cos(Ωt + δ) + y0 を得る. ここでジャイロ (ま
たは Larmor) 半径 rL = v⊥ /Ω.
電子サイクロトロン振動数 fce = |Ωe |/2π の値を見積もってみる. 磁場 1T
の時, me ∼ 9 × 10−31 とすると, fce ∼ 3 × 1010 Hz. 一方, 10eV の電子の速度は
およそ 2 × 106 m/s だから, 磁場 1T の時の電子ジャイロ半径は |rL | ∼ 10−5 m
となる. これはこのエネルギーの電子がもつ de Broglie 波長よりもずっと長
いことがわかる.
4
4.1
集団運動の方程式
運動論的方程式
位相空間 (x, v) 上の粒子保存から一体速度分布関数 f (x, v, t) の発展方程式が
導かれる.
∂f
∂f
+ v · ∇f + a ·
=0
(5)
∂t
∂v
1
ここでは粒子間衝突は十分に小さく無視できるものとしている. これを Vlasov
方程式と呼ぶ. この式は, プラズマを構成するそれぞれの粒子種ごとに考える.
a は一粒子の加速度を表し, 電磁場による場合,
a=
q
(E + v × B)
m
(6)
式 (5) を位相空間 (x, v) 上の移流方程式と見ると, その移流速度 (v, a) は非
圧縮流であることが分かる. 実際, x と v を独立変数と見た時, ∂vi /∂xi = 0,
∂(Ei + ijk vj Bk )/∂vi = 0 となっている. これは, Hamiltonian 流が非圧縮で
あることによる. つまり, Vlasov 方程式は
∂f
∂f
∂f
+ q˙i
+ p˙i
=0
∂t
∂qi
∂pi
(7)
とも表されるが, 正準方程式
q˙i =
∂H
,
∂pi
p˙i = −
∂H
,
∂qi
(8)
(9)
から (q˙i , p˙ i ) の非圧縮性は明らかであろう. 同時に, 位相空間の微小体積要素
の体積は不変であることが示される (Liouville の定理). また Poisson 括弧式
を用いて式 (7) は
∂f
+ {f, H} = 0
(10)
∂t
の形にも表される. すなわち f は運動の積分であり, 粒子軌道に沿って f の値
は一定に保たれる
df
=0.
(11)
dt
また, 通常の流体方程式における連続の式
∂ρ
+ ∇ · (ρv) = 0
∂t
(12)
との対比は興味深い.
4.2
分布関数のモーメント量
後に運動論的方程式から流体方程式を導出するために, 分布関数のモーメント
量を定義しておこう. 数密度 n(x, t) は, f (x, v, t) の速度空間積分
∫ +∞
n(x, t) =
f (x, v, t)d3 v
(13)
−∞
2
で与えられる. これを f の 0 次モーメントと呼ぶ. 次に f の 1 次モーメント
は, v を f に乗じたものの速度空間積分から
∫ +∞
nu(x, t) =
vf (x, v, t)d3 v
(14)
−∞
として決められ, 粒子フラックスを与える. u は平均流速を意味する.
さらに u に対する相対速度を v 0 とすれば (すなわち, v = u + v 0 ), それを
用いた 2 次モーメントは圧力テンソル P を与える
∫ +∞
P=m
v 0 v 0 f (x, v 0 , t)d3 v 0
(15)
−∞
(ここで v 0 v 0 = vi0 vj0 は diadic). しばしば簡単のために, f が v 0 に対して等方
的な場合に議論が限定される. この場合, 圧力テンソルは P = pδij となり, p
が通常の意味での圧力と理解される.
∫
m +∞ 0 0
p=
v · v f (x, v 0 , t)d3 v 0
(16)
3 −∞
(P と p の式での · の有無に注意; p は tr P/3). Maxwell 分布に対して p = nT
となることが直接確かめられる. この P を使うと, v で定義した 2 次モーメン
トは
∫ +∞
mnuu + P = m
vvf (x, v, t)d3 v .
(17)
−∞
となる. ここで
∫
+∞
v 0 f (x, v 0 , t)d3 v 0 = 0
−∞
を使った.
3
(18)