1.標題:NASH における肝細胞間コミュニケーションの役割の解析 区分

1 . 標 題 : NASH に お け る 肝 細 胞 間 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 役 割 の 解 析
区分
学内公募
所属
医学研究科(実験病態病理学)
補職
助教
氏名
内木綾
分担者
2.要旨:
非 アルコール性 脂 肪 肝 炎 ( NASH)は、肝 硬 変 、肝 癌 の発 生 母 地 となり、その発 症 率 は増 加
している。平 成 24 年 度 は 、肝 細 胞 ギ ャ ッ プ 結 合 タ ン パ ク Connexin 32 (Cx32)の ド ミ ナ ン
ト ネ ガ テ ィ ブ ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク (Cx32Δ Tg)ラ ッ ト を 用 い た 解 析 か ら 、Cx32 は NASH
の 進 展 に 対 し て 抑 制 的 に 働 く こ と を 明 ら か に し た 。平 成 25 年 度 は 、Cx32 に よ る NASH
進展抑制作用に対する酸化ストレス およびサイトカインの関与を解析するとともに、
エ ゴ マ 種 子 に 多 く 含 ま れ る 抗 酸 化 物 質 ル テ オ リ ン の NASH 進 展 に 対 す る 抑 制 効 果 を 検
討 し た 。10 週 齢 雄 Cx32Δ Tg ラ ッ ト お よ び 野 生 型 (Wt)ラ ッ ト に N-nitrosodiethylamine
(DEN)を 投 与 し た 2 日 後 か ら メ チ オ ニ ン ・ コ リ ン 欠 乏 (MCD) 飼 料 を 投 与 し 、 各 々 に
ル テ オ リ ン (100ppm) 混 餌 投 与 群 を 設 け 、12 週 間 後 に 解 剖 を 行 っ た 。そ の 結 果 、Cx32
Δ Tg、Wt ラ ッ ト い ず れ に お い て も 肝 脂 肪 変 性 、炎 症 細 胞 浸 潤 や 線 維 化 を 認 め 、ル テ オ
リ ン 投 与 群 で は 、 Cx32Δ Tg、 Wt ラ ッ ト い ず れ も そ の 程 度 が 有 意 に 改 善 さ れ た 。 ま た
Cx32Δ Tg ラ ッ ト で は 、 Wt と 比 較 し て 炎 症 細 胞 浸 潤 お よ び 線 維 化 の 有 意 な 亢 進 を 認 め
た 。 肝 前 癌 病 変 ( GST-P 陽 性 細 胞 巣 ) は 、 Cx32Δ Tg ラ ッ ト に お い て ル テ オ リ ン 投 与
に よ り 有 意 に 発 生 個 数 が 減 少 し た 。一 方 、肝 の 活 性 酸 素 レ ベ ル は 、Wt と 比 較 し て Cx32
Δ Tg ラ ッ ト で 有 意 に 高 く 、 い ず れ の ジ ェ ノ タ イ プ に お い て も ル テ オ リ ン 投 与 に よ り 有
意 に 低 下 し 、炎 症 性 サ イ ト カ イ ン mRNA 発 現 量 お よ び NASH の 組 織 像 と 相 関 し て い る
こ と が 明 ら か と な っ た 。以 上 よ り 、Cx32 お よ び ル テ オ リ ン は 酸 化 ス ト レ ス を 抑 制 す る
こ と で 、 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン の 誘 導 を 抑 制 し 、 NASH の 進 展 に 対 し て 予 防 効 果 を 発 揮
す る こ と が 明 ら か と な り 、 NASH お よ び 肝 発 が ん の 予 防 剤 へ の 応 用 が 期 待 さ れ た 。
キ ー ワ ー ド : NASH、 connexin 32、 酸 化 ス ト レ ス 、 ル テ オ リ ン
3.概要
①研究目的:
近年食生活やライフスタイルの欧米化による肥満の増加に伴い、非アルコール性脂
肪 肝( NAFLD)の 発 症 率 が 増 加 の 一 途 を た ど っ て お り 、検 診 受 診 者 の 約 30% に 見 ら れ
る 。肝 へ の 脂 肪 蓄 積 を 生 じ る NAFLD の 約 2~ 3 割 は 、肝 細 胞 の 壊 死 、炎 症 お よ び 線 維
化 を 生 じ る NASH に 進 展 す る と い わ れ て お り 、 肝 硬 変 や 肝 が ん の 発 症 母 地 と な り う る
危 険 性 が 明 ら か に な り つ つ あ る 。 NASH の 進 展 に は 酸 化 ス ト レ ス の 関 与 が 知 ら れ 、 抗
酸 化 物 質 の 摂 取 に よ り NASH や 肝 発 が ん を 予 防 で き る 可 能 性 が 考 え ら れ て い る 。 平 成
24 年 度 特 別 研 究 で は 、 肝 細 胞 ギ ャ ッ プ 結 合 タ ン パ ク Cx32 の NASH に お け る 役 割 を 、
Cx32Δ Tg ラ ッ ト を 用 い て 解 析 し た 。 そ の 結 果 、 Cx32Δ Tg で は 、 Wt ラ ッ ト と 比 較 し
NASH の 肝 組 織 学 的 変 化 で あ る 脂 肪 変 性 、 炎 症 お よ び 線 維 化 の 程 度 が 亢 進 す る こ と が
明 ら か と な っ た 。 既 存 の ラ ッ ト NASH モ デ ル は 、 線 維 化 の 誘 導 が 比 較 的 困 難 で あ り 、
今 回 用 い た Cx32Δ Tg ラ ッ ト は NASH モ デ ル の 改 良 に 応 用 で き る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。
平 成 25 年 度 は Cx32 に よ る NASH 進 展 抑 制 作 用 に 対 す る 酸 化 ス ト レ ス の 関 与 を 明 ら か
にするとともに、エゴマ種子やピーマンに多く含まれる抗酸化物質ルテオリンの
NASH 進 展 に 対 す る 抑 制 効 果 の 検 討 と そ の メ カ ニ ズ ム 解 析 を 行 っ た 。
②研究方法:
10 週 齢 雄 性 Cx32Δ Tg お よ び Wt ラ ッ ト に 、 DEN (200 mg/kg)を 腹 腔 内 投 与 し 、 そ
の 2 日 後 か ら MCD 飼 料 を 投 与 し た 。各 々 に ル テ オ リ ン 100 ppm 混 餌 群 を 設 け た 。12
週 間 後( 各 群 15 匹 )の 肝 に お け る 脂 肪 変 性 、炎 症 、肝 細 胞 障 害 、線 維 化 の 程 度 と DEN
に よ る 肝 前 癌 病 変 ( GST-P 陽 性 細 胞 巣 ) 形 成 を 組 織 学 的 に 定 量 し 各 群 間 で 比 較 し た 。
ま た 肝 凍 結 組 織 を 用 い て 、 dihydroethidium (DHE) 染 色 法 に よ り 活 性 酸 素 種 ( ROS)
を 測 定 し 、 酸 化 ス ト レ ス レ ベ ル を 定 量 し た 。 肝 組 織 か ら 抽 出 し た mRNA を 用 い て 、
RT-PCR 法 に よ り 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン ( Tnf-, Ifn-, Il-6, Il-18, Il-1 、 Tgf- , Col1a1,
Ctgf ) mRNA 発 現 レ ベ ル を 定 量 し た 。
③研究成果及び考察とまとめ:
脂 肪 変 性 は 、ジ ェ ノ タ イ プ 間 の 差 は な く 、Wt ラ ッ ト で は ル テ オ リ ン 投 与 に よ り 抑 制
さ れ た 。炎 症 は 、Wt と 比 較 し て Cx32Δ Tg ラ ッ ト で 有 意 に 増 強 さ れ 、い ず れ の ジ ェ ノ
タイプにおいてもルテオリン投与により有意な改善を認めた。その結果、脂肪変性と
炎 症 の 程 度 を 示 す NAFLD activity score は 、Cx32Δ Tg、Wt ラ ッ ト そ れ ぞ れ 、
( 6.6±1.2、
5.6±0.5) と 、 Cx32Δ Tg ラ ッ ト で 有 意 に 高 値 を 示 し 、 ル テ オ リ ン 投 与 に よ り そ れ ぞ れ
( 5.5±1.0、4.1±1.0)と 有 意 に 低 下 し た 。線 維 化 は Wt と 比 較 し て Cx32Δ Tg ラ ッ ト に
著 明 に 発 症 し 、ル テ オ リ ン 投 与 に よ る 改 善 を 認 め た 。 GST-P 陽 性 細 胞 巣 の 数 は 、 Cx32
Δ Tg ラ ッ ト に お い て 、ル テ オ リ ン 投 与 に よ り 有 意 に 減 少 し た 。DHE 染 色 の 解 析 結 果 、
肝 に お け る ROS レ ベ ル は 、 Wt と 比 較 し て Cx32Δ Tg ラ ッ ト で 有 意 に 上 昇 し 、 い ず れ
の ジ ェ ノ タ イ プ に お い て も 、 ル テ オ リ ン 投 与 群 で の 減 少 が 観 察 さ れ 、 NASH の 進 行 度
と 相 関 し て い た 。ま た 定 量 RT-PCR の 結 果 、炎 症 関 連 サ イ ト カ イ ン( Tnf-, Ifn-, Il-6,
Il-18, Il-1 )の う ち 、Il-18 は 、ジ ェ ノ タ イ プ に よ ら ず 、Il-1、Il-6 は Cx32Δ Tg に お
い て 、 Tnf-は Wt ラ ッ ト に お い て ル テ オ リ ン 投 与 群 で 有 意 に 低 下 し た 。 線 維 化 関 連 サ
イ ト カ イ ン( Tgf-, Col1a1, Ctgf)の mRNA 発 現 量 は 、Tgf- は 、ジ ェ ノ タ イ プ に よ ら
ず 、 Col1a1 お よ び Ctgf は Cx32Δ Tg ラ ッ ト に お い て ル テ オ リ ン 投 与 群 で 有 意 に 低 下
を認めた。
以 上 よ り 、Cx32 お よ び ル テ オ リ ン は 酸 化 ス ト レ ス を 抑 制 す る こ と で 、炎 症 性 サ イ ト
カ イ ン の 誘 導 を 抑 制 し 、 NASH の 進 展 に 対 し て 予 防 効 果 を 発 揮 す る こ と が 明 ら か と な
っ た 。Cx32 は 正 常 肝 細 胞 で 発 現 し 、慢 性 肝 炎 、肝 硬 変 や 肝 癌 な ど の 肝 機 能 低 下 状 態 で
は 発 現 低 下 す る こ と が 知 ら れ て い る 。本 研 究 に お い て 、ル テ オ リ ン は Cx32 の 機 能 に よ
ら ず NASH の 進 行 を 抑 制 す る こ と が 明 ら か と な り 、 肝 機 能 に よ ら ず 様 々 な ヒ ト を 対 象
に予防物質として使用できる可能性が示唆された。