Exact convergence rate of the Wong-Zakai approximation to RDEs driven by Gaussian rough paths 永沼 伸顕 (東北大学大学院理学研究科数学専攻) 1 はじめに Hurst 定数 1/3 < H < 1/2 の d 次元非整数 Brown 運動によって駆動される確率微分方程式の解を Wong-Zakai 近似を用いて近似した場合の収束の速さについて報告する. 問題を定式化する.まず,B = (B 1 , . . . , B d ) が非整数 Brown 運動であるとは,B が平均 0 の連 続な確率過程であって E[Bsα Btβ ] = δα,β · (s2H + t2H − |s − t|2H )/2, 1 ≤ α, β ≤ d, を満たすものをい う.この非整数 Brown 運動は,H = 1/2 のときは通常の Brown 運動であるが,H ̸= 1/2 のときはセ ミマルチンゲールとならず,伊藤解析の枠組みを超える.とくに H < 1/2 のときは,連続性の悪さ からラフパス解析を用いる必要がある.そして,Hurst 定数 1/3 < H < 1/2 の非整数 Brown 運動で 駆動される確率微分方程式 (1) Y0 = y0 ∈ Re , dYt = σ(Yt ) dBt , をラフパス解析の枠組みで考え,Y = (Y 1 , . . . , Y e ) で解を表わす.ここで σ は (e × d) 行列値の関数 である.次に,Wong-Zakai 近似を定義する.はじめに,非整数 Brown 運動 B を B(m)t = (Bτkm − m m m m m −m m )2 m , τ Bτk−1 (t − τk−1 ) + Bτk−1 である.そし k−1 ≤ t ≤ τk , と折れ線近似する.ただし τk = k2 て,(1) の B を B(m) で置き換えた確率常微分方程式を考え,その解 Y WZ(m) を用いて Y を近似す る.この手法を Wong-Zakai 近似という.以上の設定で次の定理が成り立つ: 定理 1. Hurst 定数は 1/3 < H < 1/2 とする.関数 σ は十分な微分可能性をもつとし,さらに,σ 自 身とすべての導関数は有界であると仮定する.このとき,任意の r ≥ 1 に対して,自然数 m に依存 しない正定数 C が存在して, [( E (2) sup 0≤t≤1 WZ(m) |Yt )r ]1/r − Yt | ≤ C2−m(2H−1/2) が成り立つ. この定理について,幾つか注意を述べる. 注意 2. ( 1 0 • 定理 1 より,収束の速さは 2−m(2H−1/2) を上限として持つことは分かる.一方で,σ(y) = ) 0 に対して確率微分方程式を考えると,この収束の速さが最適であることも分かる. y1 1 • 定理 1 は,Coutin-Qian の条件を満たす Gauss 過程により駆動される確率微分方程式とその Wong-Zakai 近似に対して成り立つが,ここでは,非整数 Brown 運動に限定して話を進める. • 評価 (2) のような近似の収束の早さの研究は [FR14] で行われており,あるクラスの Gauss 過程 で駆動される確率微分方程式の解と近似解に対して,(2) の左辺が 2−mκ の早さで収束すること を示している.ただし,0 < κ < 2H − 1/2 である.定理 1 は κ = 2H − 1/2 の場合に相当する. 2 ラフパス解析 ラフパス解析の基礎事項をまとめる.まず,△ = {(s, t); 0 ≤ s < t ≤ 1} とおく.そして,N 階切り ⊕N 捨てテンソル代数を T N (Rd ) = n=0 (Rd )⊗n と書く.T N (Rd ) には積 ∗ が定義できる.Lipschitz 連 続な関数 x : [0, 1] → Rd に対して,x = (x0 ≡ 1, x1 , . . . , xN ) : △ → T N (Rd ) を (∫ ) α1 αn 1 ···αn xnst = (xα ) = dx · · · dx st u1 un α1 ···αn ∈{1,...,d}n α1 ···αn ∈{1,...,d}n s<u1 <···<un <t と定める.そして,x を SN (x) と書き,x のリフトとよぶ.このリフト x ≡ SN (x) は Chen の等式 xst = xst1 ∗ xt1 t , 0 ≤ s < t1 < t ≤ 1, を満たし,また,有限な p 次変分 ∥x∥pp-var = N ∑ n=1 sup 0=τ0 <···<τk =1 k ∑ p/n |xnτl−1 τl |(Rd )⊗n l=1 を持つ.ここで,sup は区間 [0, 1] のすべての有限分割 0 = τ0 < · · · < τk = 1 を渡る.次に,2 ≤ p < ∞ に対して,geometric rough path の空間 (GΩp (Rd ), ρp-var ) を ρp-var GΩp (Rd ) = {S⌊p⌋ (x) : △ → T N (Rd ); x は [0, 1] から Rd への Lipschitz 連続な関数 } ( k )n/p ∑ p/n n n ˜ τ τ |(Rd )⊗n ˜ ) = max |xτl−1 τl − x ρp-var (x, x sup l−1 l 1≤n≤⌊p⌋ 0=τ0 <···<τ =1 k , l=1 で定義する. 次にラフパス解析における微分方程式 (3) dyt = σ(yt ) dxt , y0 : given, の解の概念について述べる.任意の x ∈ GΩp (Rd ) に対して,適切な Lipschitz 連続な関数の列 {x(n) }∞ n=1 を取ることで x(n) = S⌊p⌋ (x(n) ) → x とできる.そして,(3) の x を x(n) で置き換えた通常の意味で の常微分方程式の初期値問題の解 y (n) を考える.すると,この解の列 {y (n) }∞ n=1 は一様位相におい て Cauchy 列であることが示されるので,その極限 y を用いて,ラフパス解析における常微分方程式 (3) の解という.とくに,x = S⌊p⌋ (x) となる Lipschitz 連続関数 x が存在するときは,ラフパス解析 における解は通常の常微分方程式の解と一致する.さらに,解写像 I : x 7→ y は局所 Lipschitz 連続 であって (4) (n) sup |yt − yt | ≤ Cρp-var (x(n) , x) 0≤t≤1 が成り立つ.ただし,C は n には依存しないが,∥x∥p-var ≤ M と supn ∥x(n) ∥p-var ≤ M を満たす M には依存する正定数である. 2 3 証明 まず,B(m) = S⌊p⌋ (B(m)) ∈ GΩp (Rd ) と定め,m → ∞ のときの GΩp (Rd ) における極限を B と書 く.ただし,p > 1/(1/2 − H) である.このとき,B(m) と B の距離に関して以下の評価が成り立つ: 定理 3. 任意の r ≥ 1 と p > 1/(1/2 − H) に対して,m に依存しない正定数 C が存在して E[ρp-var (B(m), B)r ]1/r ≤ C2−m(2H−1/2) が成り立つ. 一見,解写像 I の局所 Lipschitz 連続性 (4) と定理 3 から定理 1 が直ちに導かれるように見える. しかし,我々の設定においては (4) に現れる定数 C は確率変数であるため,その可積分性が問題とな るが,[CLL13], [FR13], [BFRS13] の議論により,可積分性が示され,定理 3 から定理 1 が導かれる. 定理 3 を示すためには次の命題が鍵となる: 命題 4. 自然数 n = 1, 2, 3 に対して,m に依存しない正定数 Cn > 0 が存在して, (5) 1 ···αn 1 ···αn 2 1/2 E[|B(m)α − Bα | ] ≤ Cn {2−m ∧ (t − s)}2H−1/2 (t − s)1/2−H (t − s)(n−1)H st st ≤ Cn {2−m ∧ (t − s)}2H−1/2 (t − s)n(1/2−H) が任意の (s, t) ∈ {(τkm , τlm ); 0 ≤ k < l ≤ 2m } に対して成り立つ. 命題 4 は次のように示される.簡単のため n = 2 のときを考える.Chen の等式から { B(m)αβ τm 2 t ∑ m B(m)αβ st (6) − B αβ st = m k−1 τk − B αβ τm } m k−1 τk k=2m s+1 (m) が従う.次に,Ik,l = 24mH E[{B(m)αβ τm m k−1 τk − B αβ τm m k−1 τk }{B(m)αβ τm m l−1 τl − B αβ τm m l−1 τl }] は,すべての (m) |Ik,l | l − k ≥ 1 に対して ≤ C|k − l|2H−2 と評価できる.よって (6) の右辺の 2 乗平均が評価できる. 定理 3 は命題 4 から以下の手順により証明される.命題 4 と B(m) や B の H¨ older 連続性から, (5) が任意の (s, t) ∈ △ に対して成り立つ.さらに,Lyons の拡張定理の手法を真似ることで,すべ ての自然数 n について成り立つことも分かる.最後に Garsia-Rodemich-Rumsey の補題を適用する と定理 3 が得られる. 参考文献 [BFRS13] Christian Bayer, Peter K. Friz, Sebastian Riedel, and John Schoenmakers. From rough path estimates to multilevel Monte Carlo. 2013. [CLL13] Thomas Cass, Christian Litterer, and Terry Lyons. Integrability and tail estimates for Gaussian rough differential equations. Ann. Probab., 41(4):3026–3050, 2013. [FR13] Peter K. Friz and Sebastian Riedel. Integrability of (non-)linear rough differential equations and integrals. Stoch. Anal. Appl., 31(2):336–358, 2013. [FR14] Peter K. Friz and Sebastian Riedel. Convergence rates for the full Gaussian rough paths. Ann. Inst. Henri Poincar´e Probab. Stat., 50(1):154–194, 2014. 3
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