工業力学 (B コース) 中間テスト 茨城大学 工学部 知能システム工学科 解答例・解説 井上 康介 2014/12/11 17:35∼19:05 実施 全体的なでき いった書き方について.そもそも力はベクトルなの 平均点は 66.4 点.かなり危機的な状況.ヒストグラム は以下のとおり. で,R2 と書かなくてはいけないし,要素は 2 つある のだから「R2 = (R2x , R2y )T とする」あるいは「ジョ イントから受ける反力の大きさを R2 とし,その角度 を x 軸から反時計回りに θ2 とする」などと規定しな ければならない.記述の厳密性について,無頓着す ぎる. 各設問について 1. (44 点) 以下の文章の空欄に入る言葉・数式を記せ. ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع ع • 力のはたらく点を ( 1:着力点 ),この点を通り 力の方向に伸ばした直線を ( 2:作用線 ) という. • 複数の力が同時に作用している時,これらの力 各設問の平均点は以下のとおり.必ず出すと宣言してお が作用しているのと同じ効果を持つ単一の力を いた問題 4 の正答率が半分しかなく,問題 3 の正答率も異 ( 3:合力 ) という.xy 平面上に作用する力を x 軸方向および y 軸方向に分解した時,それぞれの 分力を ( 4:直角分力 ) という. 常に低い. 配点 平均点 最高点 最低点 平均得点率 1 2 3 4 全体 44 37.2 44 23 84.6% 20 12.8 20 0 63.9% 18 7.2 17 0 40.1% 18 9.1 18 0 50.8% 100 66.4 97 33 66.4% 全体的な注意 • 全体的に,図をきちんと描くとか,式を綺麗に書くと いうことができない学生が目立つ.汚く書くことは, • 物体を並進運動させる作用を「力」と呼ぶ一方で, 物体を回転運動させる作用は ( 5:力のモーメン ト ) と呼ばれる.物体上の一点に力 F を作用さ せたとするとき,この力の (2:作用線) と,物体 上の回転軸との距離が x であるとすると,回転軸 まわりの (5:力のモーメント) の大きさは ( 6: F x ) であり,その値の正負は,回転作用の方向 が時計回りの時 ( 7:負 ) となる. • 物体どうしを拘束する支点はにはいくつかの種類 があり,一定方向への移動と回転が可能な支点は 他の人に対する読みやすさというだけでなく,自分自 ( 8:移動支点 ) と呼ばれ,移動は不可能で回転 身のミスにもつながる. のみが可能な支点は ( 9:回転支点 ) と呼ばれる. • 変数を定義するなどにおいて,どちらをプラスとし て定義したかが厳密ではないことが非常に多い.例 えば問題 2 で「ジョイントにおいて受ける反力を • 内部構造を有する物体の簡単なモデルとして, ( 10:部材 (メンバ) ) と呼ばれる棒状の要素が, 節点と呼ばれる回転自由なピンで結合されたモデ ルを ( 11:トラス ) と呼ぶ.(10:部材) にかかっ R2 = (R2x , R2y )T とする」としたときに,平気で ている負荷を解析する方法の一つとして,(11: R2x を左を正として定義していたりする.xy 座標系 トラス) 全体を仮想的に切断し,切断面の片側の をとるなら,右が正でなくてはならない.これを場当 部分を一つの剛体とみなしてそのつりあい条件か たり的にランダムに決めてしまうと,計算途中で自分 ら (10:部材) の負荷を導出する方法を ( 12:切 が取り違えることとなる. 断法 ) という. • 例えば「ジョイントから受ける反力を R2 とする.」と • 物体に作用する重力の (2:作用線) は,物体をど のように傾けても必ず物体上の一定点を通る.こ の点を物体の ( 13:重心 ) という.物体上の微小 部位の質量が dm,位置が x であるとき, (13:重 心) は積分の計算を用いて ( 14: x dm dm ) のように求まる.また,物体 1 の質量と (13:重 心) の位置が m1 ,x1 ,物体 2 の質量と (13:重 心) の位置が m2 ,x2 であるとき,これらを結合 した物体の (13:重心) の位置は ( 15:(m1 x1 + m2 x2 ) (m1 + m2 ) ) のように計算される. • xy 平面上に長さ L の曲線があり,この曲線の (13:重心) の座標が (xG ,yG )T であるとき,こ の曲線を y 軸のまわりに 1 回転させてできる回 転体の表面積は ( 16:2πxG L ) のように計算で きる. • 物体の並進運動の基本式である Newton の運動 方程式は f = ma と表され,ここで質量 m は 「物体が現在の速度を維持しようとする傾向の大 きさ」つまり並進運動に関する慣性を表してい る.一方,回転運動に関する慣性,すなわち「現 在の角速度を維持しようとする傾向の大きさ」は ( 17:慣性モーメント ) と呼ばれる.物体上の微 小部位を考え,微小部位と回転軸との距離を r , 微小部位の質量を dm とすると,(17:慣性モー メント) は積分の計算を用いて ( 18: r 2 dm ) のように計算できる.こうして求めた (17:慣性 モーメント) を I とし,作用しているトルクを N ,物体の角加速度を ω˙ とすると,回転運動の 基本式は ( 19:N = I ω˙ ) のように記述できる. この式を ( 20:角運動方程式 (Euler の運動方程 式) ) と呼ぶ. • 平面板上に直交する xy 座標軸をとり,これに直 交する z 軸を考える.x 軸および y 軸まわりの平 面板の (17:慣性モーメント) をそれぞれ Ix ,Iy とするとき,z 軸まわりの (17:慣性モーメント) は ( 21:Ix + Iy ) のように計算される.この性 質は ( 22:直交軸の定理 ) と呼ばれる. 配点・部分点 44 点:各 2 点. (1) 作用点:OK.(3) 力の合成:1.(4) 垂直分力:1, 直交分力:1.(5) モーメント,トルク:OK.(6) F d: 1,(14) 未定義の m を分母に使っている:1,分母な し:0.(16) 2πyG L:1. でき具合・多かった間違い (14),(22) の出来がかな り悪かった.また,試験中に口頭で注意したが,ベク トルとスカラーの書き方ができていない例があまりに も多い. . 2. Fig.1 に示すように,長さ 40 [cm],質量 3 [kg] の細 RA A い棒の一端を回転自由なジョイントで固定し,他端を 3 2 l なめらかで鉛直な壁面に立てかけたとする.壁面と棒 がなす角を 30 [deg] とするとき,棒が壁面及びジョイ ントから受ける反力を求めよ. RB mg l/4 30r B Fig.2 鉛直方向の力のつりあい式は以下のとおりである: −30 + RBy = 0 Fig.1 (2.2) 棒の長さを l (= 0.4 [m]) とし,壁からの反力および 重力のモーメントアームを Fig.2 のとおり考慮する と,点 B まわりの力のモーメントのつりあい式は以 考え方 剛体のつりあいの問題は,物体に作用している力およ 下のとおりである: 力のモーメントのつりあい式」の 3 つであり,未知数 √ 3 l − RA · l=0 (2.3) 30 · 4 2 √ 式 (2.3) より RA = 5 3 8.66 [N],これを式 (2.1) √ に代入して RBx = −5 3 −8.66 [N],また式 (2.2) より RBy = 30 [N] である. 3 つまでは求められる. 配点・部分点 20 点.鉛直・水平の力のつりあい式お び力のモーメントをそれぞれ合計すると 0 になってい るというつりあい条件を利用して解く.平面の問題で は,力は水平・鉛直方向それぞれでつりあうため,利 用可能な条件式は「水平方向の力のつりあい式」 , 「鉛 直方向の力のつりあい式」および「任意の点まわりの 問題を解く際にまずやるべきことは,注目している物 よびモーメントのつりあい式:各 5 点.変数定義など 体に作用している力を全て列挙することである.こ の問題設定部分と連立方程式をとく部分をあわせて 5 こでは,棒の重心 (中点) に鉛直下向きに作用する重 点. 力 3g = 30 [N] と,壁およびジョイントから受ける 反力である.壁からの反力は, 「なめらか」とあるた め摩擦を無視できるので,水平右方向である.ジョイ ントは回転支点であるため,ジョイントから受ける反 力は水平・鉛直方向の 2 成分を持ちうる.これを変数 化し,3 つのつりあい式を立てて連立させて解けば良 い.力のモーメントのつりあい式は任意の点まわりで 立てて良いため,計算が簡単となるジョイントまわり で立てるのが良い. 解答例 Fig.2 のように,壁との接触点を点 A,ジョイント を点 B とする.点 A において壁面から棒が受ける 反力は摩擦を無視できるため水平であり,これを RA = (RA , 0)T とし,点 B においてジョイントから 棒が受ける反力を RB = (RBx , RBy )T とする.重力 は棒の中点において鉛直下方向に 3g = 30 [N] の大き さで作用している. 水平方向の力のつりあい式は以下のとおりである: RA + RBx = 0 (2.1) • 壁との節点での反力の方向の間違い:−3 • 各力の方向や向きについて言及不足:−1∼ − 2 • ジョイントでの反力の方向を既知としている: −2 • l = 40 としている (0.4 とすべき):−1 √ • 5 3 = 8.66 の小数点以下第 2 位の値がおかし い:OK • それ以前の間違いの結果,方程式を解く部分にお いて 3 元 1 次連立方程式ではなく 2 元連立方程 式を解いたのみ:−1 多かった間違い 図などを用いて,各力をどのように 定義したかをきちんと示すことができていない解答 がかなり多い.また,ジョイントでの反力の水平成分 を,左右どちらを正として定義したかが混乱している 例も多い. y [m] 3. Fig.3 に示すように,1∼2 階部分がくぼんだ感じのオ シャレな 10 階建てビルを建てたい.このビルの地上 部分が安定のすわりとなるためには,1,2 階部分の 長さ l [m] はどのような範囲になければならないか. 40 x1 ただし,ビルの内部構造等は考えず,ビルを均一な密 度を持つ物体と見なす. ※ 当然「ギリギリ安定ですけど?」みたいな建物は法 10 令上許されないが,そんなことはここでは考えない. m] 0[ 2 x2 20 [m] O x [m] A l 20 Fig.4 30 [m] 40 [m] ビルが転倒する際の回転軸は Fig.4 上の点 A を通り z 軸に平行な直線であることから,安定のすわりとな るための条件は,ビルの重心が点 A よりも左にある こと,すなわち xG < l である.よって, 5l2 + 6000 <l 10l + 600 l [m] より Fig.3 l2 + 120l − 1200 > 0. これを解くと, 考え方 1∼2 階部分をくぼませていくときの転倒方向は図上 √ √ l < −60 − 40 3, l > −60 + 40 3. 右方向であり,このとき奥行き方向は関係しないた め,正面方向から見た図形的考察だけをすれば良い. 一方,0 < l < 20 であるから,まとめるとビルが安定 転倒時の回転中心は Fig.4 の点 A となることは明ら のすわりとなる条件は 全体の重心 (図心) を求めるには,Fig.4 のようにビル √ −60 + 40 3 < l < 20 √ となり,l は −60 + 40 3 9.28 [m] より大でなけれ を 2 つの長方形の結合体と見なし,それぞれの重心 ばならない. かであり,転倒するかどうかの条件はビル地上部分の 重心が点 A よりも左にあるか否かとなる. (図心) と面積を求めて,結合体の重心の式を用いる か,もしくは高さ 40,幅 20 の長方形から,高さ 10, 幅 20 − l の長方形をくりぬく式を用いれば良い. 解答例 Fig.4 のビルの正面図に示すとおり,ビルを高さ 10∼ 40 [m] 部分の直方体と高さ 10 [m] までの直方体の 2 つの部分の結合体と見なし,上部を物体 1,下部を物 体 2 とする. 物体 1 の正面図上の図心を x1 ,正面図上の面積を A1 とすると,x1 = (10, 25)T , A1 = 20 · 30 = 600. 物体 2 の正面図上の図心を x2 ,正面図上の面積を A2 とすると,x2 = (l/2, 5)T , A2 = 10l. 以上から,ビル全体の正面図上の図心の x 座標を xG とすると,(A1 + A2 )xG = A1 x1 + A2 x2 より xG = 5l2 + 6000 . 10l + 600 配点・部分点 18 点.2 つのパーツの重心:各 5 点, 全体の重心:5 点,その他:3 点. • 上部の重心を求め,これが l より左ならよいと した:5 • 安定な範囲ではなく中立のすわりのときの l を求 めた:−2 400 4. Fig.5 に示すように,質量 100 [kg],直径 1 [m] の均 一な円柱を斜度 30 [deg] の斜面上に乗せ,円柱に巻 きつけたワイヤを斜面に沿って上方向に 400 [N] で引 [N ] いたところ,円柱は滑ることなく斜面上方向に転がっ 1000 [N] た.このときの円柱中心の加速度および円柱と斜面の R 間に作用する摩擦力の大きさを求めよ. F’ ※ 質量 m [kg],半径 r [m] の円柱の中心軸まわりの 慣性モーメントは I = mr2 /2 [kg m2 ] である. 400 [N ] Fig.6 斜面上方向に大きさ a の加速度が作用するとし,円柱 の角加速度を反時計回りに ω˙ とする.また,円柱の 質量を m (= 100 [kg]),半径を r (= 0.5 [m]),ワイ ヤ張力の大きさを F (= 400 [N]) と表記する. 以上の値を用いて,運動方程式は F + F − 500 = ma, Fig.5 (4.1) 角運動方程式は (F − F )r = 考え方 mr2 ω˙ 2 (4.2) 物体に作用している全ての力を列挙することから始め と書ける.また,円柱と斜面の間に滑りが生じないこ る.これにより物体が受ける力・力のモーメントが求 とから, まったら,これらに基いて Newton-Euler 法を適用す る.つまり,運動方程式・角運動方程式を立てて連立 させて解く. a = rω˙ (4.3) である. ただし,未知数は加速度 a,角加速度 ω˙ ,摩擦力 F の 3 つとなり,これでは拘束条件が不足する. 足りないもう一つの拘束条件とは「滑らずに転がる」 式 (4.3) を式 (4.2) に代入し, F − F = ということである.斜面に沿って上方向に x 軸を取 るとき,物体が距離 x 進むには,物体は θ = x/r だけ 1 ma. 2 式 (4.1) と式 (4.4) を足して F を消去し, 回転する必要があり,x = rθ の式が立てられる.こ の式を 2 階微分すると,a = r ω˙ となる. なお,摩擦力は斜面に沿って作用するが,上向きか下 向きかがよくわからない場合でも,どちらかを正とし て定義した時,逆向きなら値がマイナスになるだけな ので問題はない. 解答例 Fig.6 に示すとおり,円柱が受ける力は重心において 鉛直下方向に作用する重力 1000 [N],ワイヤ離脱点に おいて斜面上方向に作用するワイヤ張力 400 [N],斜 (4.4) 2F − 500 = 3 ma. 2 よって, a= 2 (2F − 500) = 2 [m/s2 ]. 3m これを式 (4.4) に代入し,F = 300 [N]. つまり加速度は斜面上方向に 2 [m/s2 ],摩擦力は斜面 上方向に 300 [N] である. 配点・部分点 18 点.運動方程式・角運動方程式・す 面との接地点において斜面に垂直な方向に作用する垂 べらない条件式がそれぞれ 4 点.変数の設定等と方 直抗力 R,および斜面上方向に作用する摩擦力 F で 程式を解く部分が 6 点. ある. 重力を斜面に沿った方向と斜面に垂直な方向に分解す ると,斜面下方向の力 500 [N] と斜面に向かう方向の √ 力 500 3 [N] となる. • 運動方程式や角運動方程式で,ワイヤ張力と摩擦 力の片方を忘れた:−2 • r = 1 とした:−1 • F の方向について定義していない:−2 多かった間違い 角運動方程式で,張力・摩擦力の片 方を忘れる例が異常に多い. 以上
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