牛胆汁及び肝臓の大腸菌群検出状況について 大分県食肉衛生検査所 ○奈須直子、 西本清仁 はじめに 平成 23 年 度、 厚 生 労働 省 に よる 牛 の 肝臓 を対 象 と した 志 賀 毒素 産生 性 大 腸菌 ( 以 下、 「STEC」という。)の汚染実態調査が実施され 、173 検体中2検体の肝臓内部から STEC O157 が分離された。その成績を受け、平成 24 年7月より、食品衛生法 において牛の肝臓 の新た な規格基準が設定され、生食用として提供すること が禁止された。 今回の厚生労働省の調 査では、STEC が胆嚢内胆汁(以下、 「胆汁」という。)を介して肝臓内部を汚染する可能性 が示唆されている。そこで 今回、牛 の胆汁と 肝臓の大腸菌群の関連性を検討するため、胆 汁と肝臓の大腸菌群の菌数を調査した。と同時に STEC についても 検査するとともに、一部 の胆汁についてはカンピロバクター も検査したので 報告する。 材料及び方法 調査期間は、平成 23 年 11 月~平成 24 年7月とした。胆汁は、肥育牛 538 頭の肝臓胆嚢 から注射器を用いて採材した。 肝臓は、 胆汁を採材した個体のうち、と畜検査の結果廃棄 となった 123 頭の左葉を採取した。 カンピロバクターは、538 頭中 291 頭の胆汁について 検査した。 大腸菌群数は、胆汁 、肝臓 25g に 225ml の滅菌 PBS(-)を加えストマッキング処理した乳 剤 1ml を、10ml の XM ブロス(ELMEX)に接種し、37℃24 時間好気培養後、EMB 寒天培地(栄 研)、XM-G 寒天培地(ニッスイ)に塗抹し、大腸菌群様コロニーの有無を確認した。大腸 菌群陽性となった検体については、段階希釈し胆汁はペトリフィルム CC プレート(3M)ま たはペトリフィルム EC プレート(3M)、肝臓は EC プレート( 3M)を用い大腸菌群数の測定 を行った。胆汁と肝臓の大腸菌群検出率についてχ 2 検定で有意差について検定した。STEC は、大腸菌群陽性となった胆汁2ml、肝臓乳剤5ml を 10 倍量のトリプチケースソイブロ ス(BBL)に接種し、37℃20~24 時間培養後、培養液からアルカリ熱抽出法により DNA を 抽出し、 Karch らの報告した PCR 法 1) により Stx 遺伝子の検出を行った。 カンピロバクターは、胆汁の原液~ 10 4 倍希釈液を mCCDA 寒天培地(OXIDO)に塗抹し、 42℃48 時間微好気培養し、発育したコロニーについて形態、生化学性状及び PCR 法 り同定を行い、菌数を測定した。 2) によ 成 1 績 胆汁の大腸菌群検出状況 538 検体中 60 検体( 11.2%)から 大腸菌群が検出された。その菌数は、 2.0 ~2.3×10 8 CFU/ml で、10 6 CFU/ml 以上が 42 検体と 70%を占めた(図 -1)。538 検体の内、肝臓を 採材し た 123 検体で は、 19 検体( 15.4% ) から大腸菌群が検出され、 その菌数 は、7.0 ~2.3×10 8 CFU/ml で、約半 数の 10 検体が 10 7 CFU/ml 以上であっ た(図-1)。 2 肝臓の大腸菌群検出状況 123 検体中 28 検体( 22.8%)の肝 臓から大腸菌群が検出され、その菌 数は、10~2.1×10 6 CFU/g で、半数 以上が 10 3 CFU/g 以上であった(図- 2)。28 検体のうち、 15 検体の胆汁 からは大腸菌 群が検出され、13 検体 の胆汁からは大腸菌群が検出されな かった(表-1)。大腸菌群が検出さ れた 15 検体の菌数は、50~2.1× 10 6 CFU/g で 8 検体が 10 4 CFU/g 以上で あった(図-2)。また、大腸菌群が 検出されなかった 13 検体の菌数は、 10~6.1×10 3 CFU/g とすべてが 10 4 CFU/g 以下であった。 χ 2 検定で胆汁から大腸菌群が検 表-1 胆汁と肝臓の大腸菌群検出成績の比較 胆汁\肝臓 (+) (-) 計 (+) 15 4 19 (-) 13 91 104 計 28 95 123 出された検体と検出されなかった検体の間に、肝臓の検出率に有意差が認められた。 3 STEC 検出状況 大腸菌群が陽性となった胆汁、肝臓 から STEC は検出されなかった。 4 カンピロバクター 検出状況 胆汁 291 検体中 62 検体(21.3%)から検出され、その菌数は 2.0×10 2 ~>10 7 CFU/ml で あった。血清型は Campylobacter jejuni が 58 検体、 Campylobacter coli が4検体であっ た。胆汁 291 検体中、カンピロバクター が分離された 62 検体、大腸菌群が分離された 32 検体のうち、両菌が同時に分離されたのは3検体のみで、それ以外の 91 検体はいずれか一 方しか分離されなかった。 考 察 胆汁の調査での胆汁 538 検体からの大腸菌群検出率は 11.2%であり、昨年度の厚生労働 省の調査 18.2%を下回る成績であった。また、STEC はすべての検体から検出されなかった。 胆汁と肝臓の検査をした 123 検体の内、胆汁、肝臓ともに大腸菌群が分離されたのは 15 検体(12.2%)、胆汁、肝臓ともに大腸菌群が検出されなかったのは 91 検体(74%)で、 86.2%の検体で胆汁と肝臓が同じ結果となるとともに、胆汁から大腸菌群が検出された検 体は、検出されなかった検体と比較して、肝臓の大腸菌群の検出率に有意な差が認められ たことから、 肝臓の大腸菌群は胆汁由来である可能性が高いことが示唆された。 胆汁と肝臓の検査をした 123 検体において、肝臓の大腸菌群検出率(22.8%)が胆汁の 検出率(15.4%)を上回り 、肝臓のみから大腸菌群が検出された 13 検体 中9検体( 69.2%) から 10 2 CFU/g を超える高い菌数が確認された。このことから、肝臓には胆汁由来以外の大 腸菌群が存在する可能性が 示唆された。 昨年度の厚生労働省の調査 においても、胆汁の大 腸菌検出率(18%)を、肝臓内部の大腸菌陽性率 (26%)が上回る結果であり、本調査と 同様の傾向となった。 胆汁中の大腸菌群とカンピロバクターについては、94 検体中3検体が同時に分離された だけで、他の 91 検体についてはいずれか一方のみしか分離されなかった。これは、小野ら の報告 3) と同様の傾向であり、今後詳細に検討する必要があると思われる。 牛の肝臓で 問題となる細菌として 、STEC を含む大腸菌群、カンピロバクターが 挙げられ る。大腸菌群については、今回の調査で STEC は分離されなかったものの 約 20%の肝臓か ら検出され、カンピロバクターについては、 今回の調査で約 20%の胆汁から、 平成 18 年 度の調査 4) で約 40%の 胆汁、肝臓から検出された。このことから、牛の肝臓の生食は危険 であることが再確認されるとともに、 牛の肝臓の取り扱いには二次汚染に 対して十分注意 するとともに、喫食事の十分な加熱が重要であると思われた 。 引用文献 1)H.Karch,T.Meyer:J.Clin.Microbiol.,27(12),2751-2757(1989) 2)D.Linton et al:J.Clin.Microbiol.,35(10),2568-2572(1997) 3)小野一晃、瀬川由加里、荒井公子、野口貴美子:獣医公衆衛生研究 ,14(1),38-39(2011) 4)西本清仁:平成 18 年度九州地区食肉衛生検査所協議会研究発表会抄録
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