幾何学 XA = 位相幾何学

幾何学 XA = 位相幾何学
2014 年度前期
時間: 金曜日 13 時 00 分から 14 時 30 分まで
河澄響矢
場所: 数理棟 122 教室
(かわずみなりや, 403 号室, 03-5465-7031, kawazumi ms.u-tokyo.ac.jp)
摘要
ファイバー・バンドルの位相幾何学。主に CW 複体の上で考える。前半では平坦束の
分類、後半では局所コンパクト群の場合に主 G 束の分類を行う。そのために前半では基本
群と被覆空間、後半ではホモトピー群が中心的な役割を果たす。
成績および単位について
中間テスト(5月または6月を予定)と期末テスト(9月予定)によって評価する。出
席はとらない。
参考書
全般に渉って:
1) 服部 晶夫 「位相幾何学」(岩波書店)
2) 西田 吾郎「ホモトピー論」(共立出版)
3) J. P. May, ‘A Concise Course in Algebraic Topology’ (University of Chicago Press,
Chicago, 1999)
4) 小松・中岡・菅原 「位相幾何学 I」(岩波書店)
5) A. Hatcher, ‘Algebraic Topology’ (Cambridge UP, Cambridge, 2002)
基本群に関して:
6) 松本幸夫 「トポロジー入門」 (岩波書店)
講義プリントは以下の web page においておきます
http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/˜kawazumi/GeomXA14S.html
キーワード:
ファイバー束、主 G 束、随伴束、構造群の縮小、平坦性、ファイバー束のひきもどし、
ホモトピー集合、コンパクト開位相、基本群、ループ空間、ホモトピー群、基本亜群、 path
空間、 被覆空間、平坦束の分類定理、van Kampen の定理、CW 複体、コファイブレーショ
ン、ホモトピー完全列、ホモトピーファイバー、胞体近似定理、J. H. C. Whitehead の定
理、CW 複体の基本群、Hurewicz 同型定理、ファイブレーション、ファイバー束、Brown
の表現定理、主 G 束の分類空間
1
2
幾何学 XA = 位相幾何学
一昨年度の目次は以下の通りで初等ホモトピー論の味付けでした。今年度はファイバー
束の分類を中心に講義を進めることにします。とくに第1回は主 G 束について、第2回は
ひきもどしについて、第3回はホモトピーについて復習し被覆ホモトピー性質について講
義します。その後の展開は考慮中です。しかし、個々の内容に大きな変化はないはずです。
一昨年度の目次:(今年度は異なります。)
I. 基本群と被覆空間.
§1. ホモトピー集合とコンパクト開位相.
§2. 基本群, ループ空間, ホモトピー群.
§3. 基本亜群, path 空間, 普遍被覆空間.
§4. 被覆空間.
§5. 主 G 束.
§6. van Kampen の定理.
II. CW 複体とホモトピー群.
§7. CW 複体とコファイブレーション.
§8. ホモトピー完全列とホモトピーファイバー.
§9. 基本亜群のホモトピー群への作用.
§10. 胞体近似定理と J.H.C. Whitehead の定理.
§11. CW 複体の基本群.
§12. Hurewicz 同型定理.
III. ファイバー束.
§13. ファイブレーション.
§14. ファイバー束.
§15. Brown の表現定理.
§16. 主 G 束の分類空間.
幾何学 XA = 位相幾何学:14年 4月 4日
今日の講義の摘要: ファイバー束と主 G 束そして随伴束の概念を導入する。
I. ファイバー束.
§1. ファイバー束と主 G 束.
最初に C ∞ 多様体のベクトル場を復習する。これは、ねじれた函数とも言えるだろう。n ≥ 1
とする。X を n 次元 C ∞ 多様体とし、{(Uα , ϕα , Vα )}α∈A をその C ∞ atlas とする。つまり、
{Uα }α∈A は X の開被覆で、各 α ∈ A について ϕα : Uα → Vα は Rn の開集合 Vα の上への
同相写像であって、各 α, β ∈ A について ϕβ ◦ ϕα −1 : ϕα (Uα ∩ Uβ ) → ϕβ (Uα ∩ Uβ ) は C ∞ で
あるとする。ϕα = (xα,1 , . . . , xα,n ) : Uα → Vα ⊂ Rn と成分表示する。このとき、X 上の C ∞
ベクトル場の古典的な定義は、各 Vα 上の Rn に値をもつ C ∞ 函数 ξα = (ξα,i )ni=1 : Vα → Rn
の集まり {ξα }α∈A であって、各 α, β ∈ A について変換則
ξβ,j (ϕβ (p)) =
n
∑
ξα,j (ϕα (p))
i=1
∂xβ,j
(p),
∂xα,i
(∀p ∈ Uα ∩ Uβ , 1 ≤ ∀j ≤ n)
(1.1)
)
∂xβ,j
すなわち、この場合は ϕβ ◦ ϕα −1 の
(p)
をみたすもののことである。行列
∂xα,i
1≤i,j≤n
Jacobi 行列、を変換函数という。微分形式をはじめとする他のテンソル場も、変換函数が
少しづつ違う形をしているだけで同じように、各 Vα 上の C ∞ 函数の集まりであって、そ
れぞれ応じた変換則をみたすものと理解される。
実際に計算するときは、これがよい定義である。しかし、現代数学としては、集合と写
像の言葉で居場所を定式化しないと落着かない。そこでベクトル場の居場所として現れる
のが、C ∞(多様体 X) の接束 π : T X → X である。つまり直積の集まり {Uα × Rn }α∈A を
∂xβ,j
変換函数
を用いて貼り合わせたものが接束 T X である。ここで注意し
(p)
∂xα,i
1≤i,j≤n
て欲しいのは、任意の点 p ∈ X について、充分小さい開近傍 U をとると(いまの場合は、
ある Uα に含まれればよい。)接束の U への制限 π −1 (U ) が直積の形 U × Rn をしている
ということである。この性質を 局所自明性(local triviality)という。接束 T X は局所的
には直積だが、全体としては捩れていると考えられる。要するに、ねじれた直積とも言え
るだろう。局所自明性だけを取り出して考えると、次のファイバー束(fiber bundle)の定
義にいたる。
(
ファイバー束
ファイバー束を最も一般的な状況で定義する。
定義. π : E → B がファイバー束(fiber bundle)であるとは、E および B が位相空
open
間、π : E → B が連続写像であって、各点 b ∈ B について b の開近傍 U ⊂ B と同相
写像 Φ : U × π −1 (b) → π −1 (U ) が存在して、任意の b0 ∈ U および y ∈ π −1 (b) について
πΦ(b0 , y) = b0 をみたすことをいう。
3
幾何学 XA = 位相幾何学
4
ここで E を全空間(total space)、B を底空間(base space)、π を射影(projection)
とよぶ。π −1 (b) を ファイバー束 π : E → B の b ∈ B 上の fiber とよぶ。定義にある同相
写像 Φ : U × π −1 (b) → π −1 (U ) を局所自明化(local trivialization)とよぶ。
以上の定義は位相空間の圏で行ったが、C ∞ 多様体の圏や複素解析多様体の圏でも同様
の定義が可能である。それぞれ対応して C ∞ ファイバー束、正則ファイバー束という。た
とえば、C ∞ 多様体の接束は C ∞ ファイバー束であり、複素解析多様体の接束は正則ファ
イバー束である。位相空間の圏でのファイバー束を区別するときは位相的ファイバー束と
呼ぶことにする。主として 1 の分割の存在と Weierstrass の多項式近似定理によって、位
相的ファイバー束と C ∞ ファイバー束は殆ど同時に議論を進めることができ、その構造は
「柔らかい」。この講義では主として位相的ファイバー束の結果のみを扱うが、ときとして
断り無くそれらの結果を C ∞ ファイバー束の結果として使うことがある。これに対して、
正則ファイバー束は「硬い」対象である。たとえば、以下に述べるように固有な C ∞ 沈め
込みは C ∞ ファイバー束を与えるが、固有な正則沈め込みは、 C ∞ ファイバー束ではある
が、ほとんどの場合(複素構造の変形を引き起こすため局所自明性をみたさず)正則ファ
イバー束とはならない。
X と Y を局所 compact Hausdorff 空間とする。このとき、連続写像 f : X → Y が固
有(proper)であるとは、Y の任意の compact 部分集合 K の逆像 f −1 (K) が compact で
あることをいう。(局所 compact Hausdorff 空間でない場合の固有性の定義は、これとは
異なる。)C ∞ 多様体の間の固有な沈め込みは多様体の幾何学の様々な局面で現れる。以下
の定理によって、そのトポロジーはファイバー束の議論に帰着するのである。
定理 1.1. X と Y を境界をもたない C ∞ 多様体とする。このとき、任意の固有な C ∞ 沈
め込み f : X → Y は C ∞ ファイバー束である。
証明. まず、C ∞ 写像 f が沈め込み(submersion)であるとは、任意の p ∈ X について、
写像 f の微分 (df )p : Tp X → Tp Y が全射であることを言う。したがって、逆写像定理に
より、f (p) を中心とする Y の任意の局所座標 (y1 , . . . , ym ) について、p の近傍で定義され
た C ∞ 函数 x1 , . . . , xl が存在して、(x1 , . . . , xl , y1 ◦ f, . . . , ym ◦ f ) は p を中心とする局所座
標となる。ここで m = dim Y および l + m = dim X とした。とくに f −1 (f (p)) は l 次元
C ∞ 部分多様体であって、局所的に {y1 ◦ f = · · · = ym ◦ f = 0} と表され、(x1 , . . . , xl ) が
p を中心とする f −1 (f (p)) の局所座標となる。
任意の b ∈ B をとる。F := f −1 (b) とおく。いま示したことから F は X の l 次元 C ∞
部分多様体である。写像 f は固有だから F は compact である。また、X および Y は境
界をもたないから、F も境界をもたない。結局 F は閉多様体である。
ここでの目的は b の近傍で定義された局所自明化 Φ をつくることだが、それには Φ の
第二成分となる F = f −1 (b) の近傍で定義された F へのレトラクションを構成することが
鍵となる。詳しくは次がなりたつ。
open
主張 1.2. F の開近傍 O ⊂ X と C ∞ 写像 ρ : O → F が存在して、任意の p ∈ F につい
て ρ(p) = p をみたす。
主張 1.2 は F の管状近傍を考えれば、直ちに示される。しかし、管状近傍定理1 を知らな
い人のために、定理 1.1 の証明の後で、主張 1.2 の簡単な証明を与える。とりあえず、主
張 1.2 を認めて、定理 1.1 を証明しよう。
たとえば田村一郎「微分位相幾何学」岩波基礎数学選書, §2.3 または服部晶夫「多様体」岩波全
書, 第6章などを参照せよ。J.W. Milnor, J.D. Stasheff 著 ‘Characteristic Classes’ (Princeton UP,
New Jersey, 1974) §11 には証明のあらすじが書いてある。
1
14 年 4 月 4 日
5
そこで、 C ∞ 写像 (f, ρ) : O → Y × F を考える。任意の p ∈ F について ((df )p , (dρ)p ) :
Tp X → Tb Y ×Tp F は同型である。ゆえに逆写像定理により、写像 (f, ρ) は F の充分小さい開
open
近傍∑
O1 ⊂ X において局所微分同相かつ開写像である。m 次元円板 Dm := {(y1 , . . . , ym ) ∈
m
2
∞
R ; m
埋め込み α : (Dm , 0) ,→ (Y, b) をとる。δ ∈]0, 1] につい
j=1 yj ≤ 1} について、C
て Dδ := α(δDm ) ⊂ Y とおく。f は固有写像だから f −1 (D1 ) ⊂ O1 は compact である。
f (f −1 (D1 ) \ O1 ) は D1 の compact 部分集合で点 b を含まない。そこで δ1 ∈]0, 1] を充分
小さくとると Dδ1 ∩ f (f −1 (D1 ) \ O1 ) = ∅ とできる。f −1 (Dδ1 ) ⊂ O1 であり、f が固有であ
ることから f −1 (Dδ1 ) は compact である。
いま、充分小さい δ2 ∈]0, δ1 ] について、写像 (f, ρ) : f −1 (Dδ2 ) → Dδ2 × F は単射である。
(1) (2)
実際、もしそうでないとすると、任意の ν ∈ Z>0 について pν , pν ∈ f −1 (Dδ2 ) が存在して、
(1)
(2)
(1)
(2)
pν 6= pν かつ (f, ρ)(pν ) = (f, ρ)(pν ) となる。f −1 (Dδ1 ) は compact だから、収束部分列
(1)
(2) ∞
(1)
(1)
(2)
(2)
−1
{pνs }∞
(Dδ1 )
s=1 および {pνs }s=1 をもつ。p∞ := lims→∞ pνs および p∞ := lims→∞ pνs ∈ f
(1)
(2)
(1)
(1)
(2)
(2)
とおく。f の連続性により f (p∞ ) = f (p∞ ) = b であるから、p∞ = ρ(p∞ ) = ρ(p∞ ) = p∞
(1)
(2)
となる。(f, ρ) は p∞ = p∞ ∈ F の近傍で(局所)微分同相だから、充分大きい s につい
(1)
(2)
(1)
(2)
て pνs = pνs となる。これは pν および pν のとり方に矛盾する。以上で、充分小さい
δ2 ∈]0, δ1 ] について、写像 (f, ρ) : f −1 (Dδ2 ) → Dδ2 × F は単射であることが分かった。
さらに、写像 (f, ρ) : f −1 (Dδ2 ) → Dδ2 × F は全射である。これを示すために A :=
{b0 ∈ Dδ2 ; ρ(f −1 (b0 )) = F } とおく。Dδ2 は連結で b ∈ A だから、A が Dδ2 において開
かつ閉であることを示せばよい。まず、開集合であることを示す。b0 ∈ A とする。任意の
p ∈ F について ρ(p0 ) = p なる p0 ∈ f −1 (b0 ) がとれる。p0 の近傍で (f, ρ) は局所微分同
open
open
open
相だから p0 の 開近傍 Vp ⊂ f −1 (Dδ2 ) と b0 の開近傍 Up0 ⊂ Dδ2 および p の開近傍 Up00 ⊂ F
が存在して、ρ(Vp ) = Up0 および∪f (Vp ) = Up00 がなりたつ。F は compact
∩n だから、有限
n
00
0
個の p1 , . . . , pn ∈ F が存在して k=1 Upk = F となる。そこで b ∈ k=1 Up0 k ⊂ A とな
る。これで A が開集合であることが示された。次に A が閉集合であることを示す。点列
−1
{bν }∞
(bν )
ν=1 ⊂ A がある b∞ ∈ Dδ2 に収束するとする。任意の p ∈ F について pν ∈ f
−1
∞
が存在して ρ(pν ) = p となる。f (Dδ2 ) は compact だから収束部分列 {pνs }s=1 がとれ
る。p∞ := lims→∞ pνs ∈ f −1 (Dδ2 ) とおく。f と ρ の連続性により f (p∞ ) = b∞ および
ρ(p∞ ) = p である。これで b∞ ∈ A がわかった。A は閉集合である。したがって、写像
(f, ρ) : f −1 (Dδ2 ) → Dδ2 × F は全射である。
以上により、写像 (f, ρ) : f −1 (Dδ2 ) → Dδ2 × F は C ∞ 微分同相である。U として Dδ2
の内部をとれば、写像 (f, ρ) の逆写像が局所自明化となる。定理が示された。
主張 1.2 の証明. 任意の p ∈ F について、p の開近傍 Wp で定義された X の C ∞ 局所座
標 ϕp∪: Wp → Rl+m をとる。F は compact だから有限個の点 p1 , . . . , pn ∈ F が存在して、
F ⊂ nk=1 Wpk となる。X の開被覆 {X \ F } ∪ {Wpk }nk=1 に従う 1 の分割 {χk }nk=0 で C ∞
函数からなるものをとる。supp χ0 ⊂ X \ F および 1 ≤ k ≤ n について supp χk ⊂ Wpk と
する。O0 := X \ supp χ0 とおく。C ∞ 写像 Ψ : O0 → Rn(l+m+1) を p ∈ O0 について
Ψ(p) := (χ1 (p)ϕp1 (p), . . . , χn (p)ϕpn (p), χ1 (p), . . . , χn (p))
によって定義する。写像 Ψ は単射である。また、
dΨ = (χ1 dϕp1 + (dχ1 )ϕp1 , . . . , χn dϕpn + (dχn )ϕpn , dχ1 , . . . , dχn )
だから、Ψ は C ∞ はめ込みである。とくに、Ψ の compact 多様体 F への制限 Ψ|F :
F → Rn(l+m+1) は C ∞ 埋め込みであり、Ψ(F ) ⊂ Rn(l+m+1) は C ∞ 部分多様体である。
N Ψ(F ) := {(Ψ(p), v) ∈ Ψ(F ) × Rn(l+m+1) ; p ∈ F, v ⊥ TΨ(p) Ψ(F )} ⊂ Ψ(F ) × Rn(l+m+1)
幾何学 XA = 位相幾何学
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とおく。ここで ⊥ は Rn(l+m+1) における Euclid 内積に関する直交関係とする。Ψ(F ) が
Rn(l+m+1) の C ∞ 部分多様体であることから、たやすく N Ψ(F ) が Ψ(F ) × Rn(l+m+1) の
C ∞ 部分多様体であることがわかる。C ∞ 写像
g : N Ψ(F ) → Rn(l+m+1) ,
(Ψ(p), v) 7→ Ψ(p) + v,
を考える。各 p ∈ F について、写像 g の微分 (dg)(Ψ(p),0) : T(Ψ(p),0) N Ψ(F ) = TΨ(p) Ψ(F ) ⊕
(TΨ(p) Ψ(F ))⊥ → TΨ(p) Rn(l+m+1) は恒等写像だから、逆写像定理によって、g は Ψ(F )×{0} ⊂
N Ψ(F ) の近傍で、局所微分同相かつ開写像である。Rn(l+m+1) における Euclidean norm
を k · k とする。正数 r > 0 について N Ψ(F )r := {(Ψ(p), v) ∈ N Ψ(F ); kvk < r} とおく。
ここまでの議論と F の compact 性により、充分小さい r1 > 0 をとると g の N Ψ(F )r1 へ
の制限は局所微分同相かつ開写像である。
このとき、さらに充分小さく r2 ∈]0, r1 ] をとれば、g の N Ψ(F )r2 への制限は単射となる
ことを示す。背理法で証明する。任意の ν ∈ Z>0 について g の N Ψ(F )r1 /ν への制限が単射
ではないと仮定する。このとき、(Ψ(p0ν ), vν0 ) および (Ψ(p00ν ), vν00 ) ∈ N Ψ(F )r1 /ν が存在して、
(Ψ(p0ν ), vν0 ) 6= (Ψ(p00ν ), vν00 ) かつ g(Ψ(p0ν ), vν0 ) = g(Ψ(p00ν ), vν00 ) となる。ここで {p0ν }∞
ν=1 および
0
∞
00 ∞
{p00ν }∞
は
compact
空間
F
の無限列だから、収束部分列
{p
}
および
{p
ν=1
νs s=1
νs }s=1 をも
0
0
00
00
0
00
つ。p∞ := lims→∞ pνs および p∞ := lims→∞ pνs ∈ F とする。kvνs k, kvνs k < r1 /νs だから、
lims→∞ vν0 s = lims→∞ vν00s = 0 である。したがって g と Ψ の連続性により Ψ(p0∞ ) = Ψ(p00∞ )
となる。g は Ψ(p0∞ ) = Ψ(p00∞ ) の近傍で単射だから、g(Ψ(p0νs ), vν0 s ) = g(Ψ(p00νs ), vν00s ) は、
充分大きい s について (Ψ(p0νs ), vν0 s ) = (Ψ(p00νs ), vν00s ) を意味する。これは (Ψ(p0ν ), vν0 ) 6=
(Ψ(p00ν ), vν00 ) に矛盾する。以上により、充分小さい r2 ∈]0, r1 ] について g の N Ψ(F )r2 への
制限が Rn(l+m+1) の開集合の上への C ∞ 微分同相であることがわかった。
open
この r2 について O1 := g(N Ψ(F )r2 ) ⊂ Rn(l+m+1) とおく。O1 は Ψ(F ) を含む。u ∈ O1
について g −1 (u) ∈ N Ψ(F )r2 ⊂ Ψ(F ) × Rn(l+m+1) の第一成分を Ψ(ˆ
ρ(u)) ∈ Ψ(F ) と書くこ
∞
とにすると、写像 ρˆ : O1 → F , u 7→ ρˆ(u), は C 写像であって、任意の p ∈ F について
ρˆΨ(p) = p をみたす。O := Ψ−1 (O1 ) ⊂ O0 とおき、ρ := ρˆ ◦ Ψ : O → F とおけば、この ρ
こそが欲しかったレトラクションである。主張が示された。
たとえば、X と Y が C ∞ 閉多様体であって dim X ≥ dim Y をみたし、f : X → Y
が C ∞ 写像であるとする。X は compact だから写像 f は固有である。f の臨界点集合
(⊂ X) は閉集合ゆえに compact であるからその像つまり臨界値集合 C(⊂ Y ) も compact
である。Sard の定理により C は Y において測度 0 である。f の X \ f −1 (C) への制限
f |X\f −1 (C) : X \ f −1 (C) → Y \ C
は定理の条件をみたし、 C ∞ ファイバー束となる。
写像 f が固有であるという仮定は不可欠である。たとえば X = R2 \ ([0, +∞[×{0}),
Y = R および f : X → Y , (x, y) 7→ x, を考えれば、f は C ∞ 沈め込みであるが、局所自
明化の条件が 0 ∈ Y において成り立たない。つまり、これはファイバー束ではない。
さて、ファイバーが一定の位相空間または多様体であるファイバー束を考えることが殆
どである。それは、次の補題に基づく。
補題 1.3. 底空間 B が連結であるならば、底空間 B の任意の二点 b0 , b1 ∈ B のファイバー
π −1 (b0 ) と π −1 (b1 ) は同相である。
証明. 一点 b0 ∈ B を固定する。B の部分集合 A := {b ∈ B; π −1 (b) ≈ π −1 (b0 )} は、b0 を
含むため空でないが、局所自明性により開集合である。同じく補集合 B \ A も局所自明性
により開集合である。したがって B の連結性により B = A である。これは任意の b1 ∈ B
について同相 π −1 (b1 ) ≈ π −1 (b0 ) が成り立つということである。
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とくに、B が連結で E が空でないならば、射影 π : E → B は全射である。この補題と
全く同じ議論により、B が連結であるとき、C ∞ ファイバー束および正則ファイバー束の
各点のファイバーは、それぞれ互いに C ∞ 微分同相および正則同型であることがわかる。
F を位相空間とする。各点 b ∈ B のファイバー π −1 (b) が F と同相であるとき、ファ
イバー束 π : E → B を F を fiber とするファイバー束(fiber bundle)または F -束(F bundle)とよぶ。F -束の局所自明化としては、同相写像 Φ : U × F → π −1 (U ) を考える。
以下、このようなものを中心に考える。
部分空間 A ⊂ B で定義された写像 s : A → E が(A 上の E の)切断((cross)
section)であるとは、それが連続であって π ◦ s = 1A : A → A をみたすことをいう。とく
に s(A) ⊂ π −1 (A) である。A 上の E の切断全体の集合を Γ(A; E) と表す。
同じ fiber F , 同じ底空間 B をもつ二つの fiber 束 π : E → B と π 0 : E 0 → B が B 上
同型である E ∼
=B E 0 とは、同相写像 ψ : E → E 0 であって π 0 ◦ ψ = π : E → B をみたす
ものが存在することをいう。
自明な例は積束である。つまり、直積 B ×F について第一成分への射影 p1 : B ×F → B,
(b, y) 7→ b, は明らかに F を fiber とする fiber 束である。これを積束(product bundle)と
いう。積束 B × F → B においては切断 s ∈ Γ(B; B × F ) とは連続写像 σ : B → F に他
ならない。b ∈ B 7→ (b, σ(b)) ∈ B × F は section であり、逆に section s : B → B × F の
第二成分は連続写像 B → F を定めるからである。かくして切断とは函数概念の一つの拡
張である。
積束と同型な束を自明束(trivial bundle)という。π : E → B が fiber 束であるとは底
open
空間の各点が開近傍 U ⊂ B であって π −1 (U ) → U が自明束であるものをもつということ
なのである。局所自明化 Φ : U × F → π −1 (U ) の名前の由来はここにある。
もう一度、最初にのべた C ∞ 多様体の接束を思い出す。接束ではファイバーの接空間
を位相空間または C ∞ 多様体として見るだけでは不充分であり、接空間のベクトル空間と
しての演算が重要である。かくしてベクトル束の概念にいたる。
ベクトル束
K を実数体 R または複素数体 C とし、 n ≥ 0 とする。
定義. π : E → B が B 上の階数 n の K-ベクトル束(K-vector bundle over B of rank n)
であるとは、次が成立つことをいう。
(0) E, B は位相空間で、π : E → B は連続写像である。
(1) 各 b ∈ B について π −1 (b) には n 次元 K-ベクトル空間の構造が入っている。
open
(2) 任意の b ∈ B について b の開近傍 U ⊂ B と同相写像 Φ : U × Kn → π −1 (U ) が
存在して、任意の b0 ∈ U および v ∈ Kn について πΦ(b0 , v) = b0 をみたし、Φ|{b0 }×Kn :
{b0 } × Kn → π −1 (b0 ) は K-線型同型である。
もちろん K-ベクトル束はファイバー束である。そこで E を全空間、B を底空間、π を射
影、π −1 (b) を b ∈ B 上の fiber とよぶ。この定義に現れる Φ を(K-ベクトル束の)局所
自明化、条件 (3) を(K-ベクトル束の)局所自明性とよぶ。B 上の K-ベクトル束の同型
∼
=B の概念および積束 B × Kn も同様に定義され、積束と同型なベクトル束は自明束とよ
ばれる。
E における線型和は次の意味で連続である。
補題 1.4. π : E → B を階数 n の K-ベクトル束とする。E ×B E := {(e1 , e2 ) ∈ E ×
E; π(e1 ) = π(e2 )} とおく。このとき次の写像は連続である
E ×B E × K × K → E,
(e1 , e2 , a1 , a2 ) 7→ a1 e1 + a2 e2 .
幾何学 XA = 位相幾何学
8
証明. 射影 π は連続写像 π
ˆ : E×B E → B, (e1 , e2 ) 7→ π(e1 ) = π(e2 ), を定める。任意の b ∈ B
open
について π
ˆ −1 (b) の近傍で、与えられた写像が連続であることを示す。b ∈ U の開近傍 U ⊂ B
ˆ : U × Kn × Kn → π
および局所自明化 Φ : U × Kn → π −1 (U ) をとる。Φ は同相 Φ
ˆ −1 (U ),
0
0
0
ˆ と Φ によって
(b , v1 , v2 ) 7→ (Φ(b , v1 ), Φ(b , v2 )) を定める。このとき、与えられた写像は Φ
n
n
n
0
0
U × K × K × K × K → U × K , (b , v1 , v2 , a1 , a2 ) 7→ (b , a1 v1 + a2 v2 ), と表される。これ
は明らかに連続である。
このことから、任意の部分空間 A ⊂ B について切断の空間 Γ(A; E) は自然な K-ベクトル
空間の構造をもつ。
さて、n, m ≥ 1 とする。m 行 n 列の K-係数行列全体のベクトル空間を M (n, m; K) と
表す。ベクトル束について次の観察は基本的である。
補題 1.5. π : B ×Kn → B および π 0 : B ×Km → B を積束とする。連続写像 h : B ×Kn →
B × Km が π 0 ◦ h = π をみたし、各 b ∈ B について h|{b}×Kn : {b} × Kn → {b} × Km
が K-線型であるとする。このとき、連続写像 T : B → M (n, m; K) が存在して、任意の
(b, v) ∈ B × Kn について次が成り立つ。
h(b, v) = (b, T (b)v).
証明. 関係式 π 0 ◦ h = π により、ある連続函数 ξ : B × Kn → Km によって
h(b, v) = (b, ξ(b, v))
i
と表すことができる。ei := t (0, . . . , 0, ˘
1, 0, . . . , 0) ∈ Kn , 1 ≤ i ≤ n, とし
T (b) := (ξ(b, e1 ), . . . , ξ(b, en )) ∈ M (n, m; K)
とおく。これは b ∈ B について連続である。ξ(b, v) = T (b)v がなりたつ。これが示すべき
ことであった。
ここから直ちに次がえられる。この補題はベクトル束の同型を証明するときに便利である。
補題 1.6. π : E → B および π 0 : E 0 → B を同じ底空間をもつ K-ベクトル束とする、連
続写像 ϕ : E → E 0 が π 0 ◦ ϕ = π をみたし、各 b ∈ B について ϕ|π−1 (b) : π −1 (b) → π 0 −1 (b)
が K-線型同型ならば ϕ は K-ベクトル束の同型をあたえる。とくに E ∼
=B E 0 である。
証明. 補題 5.1 と同様に証明する。各 b ∈ B について ϕ|π−1 (b) は全単射だから ϕ は全単射
であって、逆写像 ϕ−1 が存在する。これが各 fiber π 0 −1 (b) の近傍で連続であることを示せ
open
ばよい。ベクトル束 E と E 0 それぞれの局所自明性により開近傍 U と U 0 ⊂ B および局
所自明化 Φ : U × Kn → π −1 (U ) と Φ0 : U 0 × Kn → π −1 (U 0 ) がとれる。U 00 := U ∩ U 0 は b
の開近傍である。Φ および Φ0 を、それぞれ U 00 × Kn に制限して考える。これらは局所自
明化である。
連続写像 Φ0 −1 ◦ ϕ ◦ Φ : U 00 × Kn → U 00 × Kn に補題 1.5 を適用すると、ある連続写像
Ξ : U 00 → M (n, n; K) によって
Φ0
−1
◦ ϕ ◦ Φ(b0 , v) = (b0 , Ξ(b0 )v),
((b0 , v) ∈ U 00 × Kn )
と表すことができる。ϕ|π−1 (b0 ) : π −1 (b0 ) → π 0 −1 (b0 ) は K-線型同型だから Ξ(b0 ) ∈ GLn (K)
である。 Cramer の公式により、逆行列をとる写像 GLn (K) → GLn (K), A 7→ A−1 , は実解
析的(K = C の場合は正則)だから Φ−1 ◦ ϕ−1 ◦ Φ0 (b0 , v) = (b0 , Ξ(b0 )−1 v) は連続、つまり
ϕ−1 : π 0 −1 (U ) → π −1 (U ) は連続である。これが示すべきことであった。
14 年 4 月 4 日
9
ベクトル束は、最初にのべた C ∞ 多様体の接束のように、貼り合わせによって定義さ
れることが多い。ここでは Kn は縦ベクトルの空間であるとし、行列群 GLn (K) は、通
常の行列の演算によって Kn に連続に左作用しているものとする。ベクトル束を構成する
には、位相空間 B の開被覆 {Uα }α∈A と Uα × Kn たちの貼り合わせ方を与える必要があ
る。つまり変換函数(transition function)とよばれる連続写像
Tαβ : Uα ∩ Uβ → GLn (K)
(
)
∂xβ,j
が必要である。((1.1) においては Tαβ (p) =
(p)
である。)このとき disjoint
∂xα,i
1≤i,j≤n
`
和 α∈A Uα × Kn 上の関係 ∼ を (bα , vα ) ∈ Uα × Kn と (bβ , vβ ) ∈ Uβ × Kn について、
(bα , vα ) ∼ (bβ , vβ ) であることを bα = bβ (= b とおく)かつ vα = Tαβ (b)vβ であることと
定義する。関係 ∼ が推移律をみたすための必要十分条件は
∀α, ∀β, ∀γ ∈ A, ∀b ∈ Uα ∩ Uβ ∩ Uγ ,
Tαγ (b) = Tαβ (b)Tβγ (b)
(1.2)
である。この条件は cocycle 条件とよばれる。cocycle 条件が充たされれば同値関係の残り二
つの条件も充たされる。実際、α = β = γ として Tαα (b) = Tαα (b)2 ∈ GLn (K) であるから、
両辺に Tαα (b) の逆行列をかけて Tαα (b) = 1 となり、また、α = γ として 1 = Tαβ (b)Tβα (b)
となるからである。(なお、接束の場合 (1.1) の cocycle 条件 (1.2) は chain rule そのもの
である。)
`
cocycle 条件をみたす変換函数系 {Tαβ }α,β∈A について、商空間 E := ( α∈A Uα × Kn )/∼
は自然に
K-ベクトル束の構造をもつ。実際、Φα : Uα × Kn → E を、包含写像 Uα × Kn ,→
`
n
α∈A Uα × K と同値関係 ∼ による商写像の合成とする。部分集合 O ⊂ E が開集合であ
るための必要充分条件は、任意の e ∈ O について、π(e) ∈ Uα となる α ∈ A が存在して、
Φα −1 (O) が Uα × Kn の開集合となることである2 。したがって Φα が局所自明化となり、
E は K-ベクトル束となる。
ベクトル束 E の切断 s ∈ Γ(B; E) は、各 α ∈ A についての連続函数 sα : Uα → Kn の
集まり {sα }α∈A であって、変換則
∀α, ∀β ∈ A, ∀b ∈ Uα ∩ Uβ ,
sα (b) = Tαβ (b)sβ (b)
(1.3)
をみたすものと同一視される。
任意の K-ベクトル束 π : E → B はこのような貼り合わせで与えられることに注意す
る。E の階数を n とする。実際、局所自明性により、B の開被覆 {Uα }α∈A が存在して、
各 α ∈ A について局所自明化 Φα : Uα × Kn → π −1 (Uα ) がとれる。各 α, β ∈ A について
∼
∼
=
=
Φα −1 ◦ Φβ : (Uα ∩ Uβ ) × Kn → π −1 (Uα ∩ Uβ ) → (U α ∩ Uβ ) × Kn に補題 1.5 を適用すると、
連続函数 Tα,β : Uα ∩ Uβ → GLn (K) が存在して、任意の (b, v) ∈ (Uα ∩ Uβ ) × Kn について
(Φα −1 ◦ Φβ )(b, v) = (b, Tαβ (b)v) となる。作り方から明らかに {Tαβ }`
α,β∈A は cocycle 条件
をみたす。変換函数系 {Tαβ }α,β∈A の定める K-ベクトル束を E 0 := ( α∈A Uα × Kn )/∼ と
すると、Φα : Uα × Kn → π −1 (Uα ) たちが貼り合って連続全単射 Φ : E 0 → E を与える。こ
れは補題 1.6 によって K-ベクトル束の同型をあたえる。
以上の議論により、ベクトル束の本質は(cocycle 条件をみたす)変換函数系 {Tαβ }α,β∈A
にあると言えなくもない。いまの場合は GLn (K) という位相群に値をもつ変換函数系を考
えたが、一般の位相群 G に値をもつ(cocycle 条件をみたす)変換函数系 {Tαβ }α,β∈A と、
この変換函数系によって貼り合わせてえられるファイバー束を考えることは意味があるだ
ろう。こうして主 G 束の概念にいたるのである。
このことは、(Uα ∩ Uβ ) × Kn → (Uα ∩ Uβ ) × Kn , (b, v) 7→ (b, Tαβ (b)v), が同相であることから
わかる。
2
幾何学 XA = 位相幾何学
10
主G束
G を位相群とする。G が位相空間 X に右から連続に作用するとは、連続写像 µ : X×G →
X, (x, g) 7→ µ(x, g), であって、任意の x ∈ X および g, g 0 ∈ G について µ(x, 1) = x およ
び µ(x, gg 0 ) = µ(µ(x, g), g 0 ) を充たすものが与えられていることをいう。 µ(x, g) = xg と
表す。X を右 G 空間ともよぶ。とくに断わらない限り G は G 自身に乗法によって右か
ら連続に作用している G × G → G, (x, g) 7→ xg, ものとする。X および Y を G が右から
連続に作用している位相空間とする。連続写像 f : X → Y が G-同変(G-equivariant)で
あるとは、任意の x ∈ X および g ∈ G について f (xg) = f (x)g が成立つことをいう。
定義. π : E → B が主 G 束(principal G-bundle)であるとは、次が成立つことをいう。
(0) E, B は位相空間で、π : E → B は連続写像である。
(1) E には G が右から自由かつ連続に作用している。
(2) 任意の e ∈ E について π −1 π(e) = eG がなりたつ。
open
(3) 任意の b ∈ B について b の開近傍 U ⊂ B と同相写像 Φ : U × G → π −1 (U ) が存在
して、任意の b0 ∈ U および g, g 0 ∈ G について πΦ(b0 , g) = b0 および Φ(b0 , g)g 0 = Φ(b0 , gg 0 )
をみたす。
主 G 束もファイバー束であるから、E を全空間(total space)、B を底空間(base
space)、π を射影(projection)とよぶ。各 b ∈ B について π −1 (b) を b 上の fiber と
よぶ。また、積束 E = B × G は主 G 束の構造をもつ。射影として第1成分への射影
π : B × G → B, (b, g) 7→ b, をとる。G の右作用は (b, g) ∈ B × G, g 0 ∈ G, について
(b, g)g 0 := (b, gg 0 ) と定める。これは明らかに主 G 束である。(3) の U として B 全体をと
ることができる。
π : E → B および π 0 : E 0 → B を同じ底空間 B をもつ主 G 束とする。主 G 束の同型
写像 ψ : E → E 0 とは π 0 ◦ ψ = π をみたす G-同変同相写像 ψ をいう。 同型写像が存在す
るとき E と E 0 は主 G 束として(B 上)同型であるといい、E ∼
=B E 0 と表す。
積束と同型な主 G 束を自明束(trivial bundle)という。定義の条件 (3) は主 G 束 π
の π −1 (U ) への制限 π|π−1 (U ) : π −1 (U ) → U が自明束であると言っている。そこで、定義
の条件 (3) の同相 Φ を局所自明化(local trivialization)とよぶ。
ベクトル束についての補題 1.5 と同様に、主 G 束については次の観察が基本的である。
補題 1.7. π : B × G → B を積束とし、連続写像 h : B × G → B × G が G 同変で
あって π ◦ h = π をみたすとする。このとき、連続写像 θ : B → G が存在して、任意の
(b, g) ∈ B × G について次がなりたつ
h(b, g) = (b, θ(b)g).
˜ g)) と
証明. 仮定 π ◦ h = π により、連続写像 θ˜ : B × G → G が存在して h(b, g) = (b, θ(b,
˜
表される。θ(b) := θ(b, 1), b ∈ B, とおけば、θ : B → G は連続であって、h の G 同変性に
˜ g) = θ(b,
˜ 1)g = θ(b)g となる。これが示すべきことであった。
より θ(b,
ただちに次がえられる。
補題 1.8. π : E → B および π 0 : E 0 → B を同じ底空間 B をもつ主 G 束とする。G-同
変連続写像 ψ : E → E 0 は、π 0 ◦ ψ = π : E → B をみたせば B 上の主 G 束の同型写像で
ある。
14 年 4 月 4 日
11
証明. 仮定 π 0 ◦ ψ = π により、各点 b ∈ B について ψ は π −1 (b) を π 0 −1 (b) にうつす。
e ∈ π −1 (b) をとる。π −1 (b) = eG ≈ G, π 0 −1 (b) = ψ(e)G ≈ G であって ψ は G-同変つまり
任意の g ∈ G について ψ(eg) = ψ(e)g である。これは ψ : π −1 (b) → π 0 −1 (b) が全単射であ
ることを意味する。したがって ψ は全単射である。逆写像 ψ −1 が、各 fiber π 0 −1 (b) の近
傍で連続であることを示せばよい。
ベクトル束の場合の補題 1.6 と同様に、主 G 束 E と E 0 の局所自明化の共通部分をと
open
ることにより、b の開近傍 U ⊂ B および局所自明化 Φ : U × G → π −1 (U ) と Φ0 : U × G →
π 0 −1 (U ) がとれる。連続写像 Φ0 −1 ◦ ψ ◦ Φ : U × G → U × G に補題 1.7 を適用する。連続
写像 θ : U → G が存在して、任意の (b0 , g) ∈ U × G について
Φ0
−1
◦ ψ ◦ Φ(b0 , g) = (b0 , θ(b0 )g)
と表すことができる。そこで、
Φ−1 ◦ ψ −1 ◦ Φ0 (b0 , g) = (b0 , θ(b0 )−1 g)
と解くことができる。いま G は位相群だから逆元をとる写像 G → G, g 7→ g −1 , は連続であ
る。そこで、上式右辺は (b0 , g) ∈ U 00 × G の連続写像である。したがって ψ −1 : π 0 −1 (U 00 ) →
π −1 (U 00 ) は連続である。これが示すべきことであった。
系 1.9. 主 G 束 π : E → B が自明であるための必要充分条件は、連続写像 s : B → E で
あって π ◦ s = 1B : B → B をみたすもの(つまり B 全体で定義された切断)が存在する
ことをいう。
∼
=
証明. (必要性)B 上の主 G 束の同型 ϕ : B × G → E が存在するならば、連続写像
b ∈ B 7→ ϕ(b, 1) ∈ E は切断を与える。
(充分性)切断 s : B → E が存在するならば、連続写像 ϕ : B × G → E, (b, g) 7→ s(b)g,
は G 同変であって、任意の (b, g) ∈ B × G について πϕ(b, g) = b をみたす。系 1.8 によ
り ϕ は B 上の主 G 束の同型となる。とくに E は自明である。
貼り合わせで主 G 束をつくる。{Uα }α∈A を位相空間 B の開被覆とし、各 α, β ∈ A に
ついて連続写像 Tαβ : Uα ∩ Uβ → G が与えられていて cocycle 条件
∀α, ∀β, ∀γ ∈ A, ∀b ∈ Uα ∩ Uβ ∩ Uγ , Tαγ (b) = Tαβ (b)Tβγ (b)
(1.4)
`
をみたすとする。このとき disjoint 和 α∈A Uα × G 上の同値関係 ∼ を (bα , gα ) ∈ Uα × G
と (bβ , gβ ) ∈ Uβ × G について、(bα , gα ) ∼ (bβ , gβ ) であることを
bα = bβ (= b とおく)か
`
つ gα = Tαβ (b)gβ であることと定義する。商空間 E := ( α∈A Uα × G)/∼ が主 G 束となる
ことを見よう。射影 π : E → B は、各 α ∈ A についての第一成分への射影 Uα × G → Uα ,
(bα , gα ) 7→ bα , を貼り合わせた連続写像として定義される。各 Uα × G を積束とみて群 G を
右から作用させる。同値関係 ∼ は G のこの作用と適合しているから E には G が右から連
続に作用している。作用の定義から明らかに、任意の e ∈ E について π −1 π(e)
` = eG がなり
たつ。局所自明性を確かめる。Φα : Uα × G → E を、包含写像 Uα × G ,→ α∈A Uα × G と
同値関係 ∼ による商写像の合成とする。部分集合 O ⊂ E が開集合であるための必要充分
条件は、任意の e ∈ O について、π(e) ∈ Uα となる α ∈ A が存在して、Φα −1 (O) が Uα × G
の開集合となることである。実際、(Uα ∩ Uβ ) × G → (Uα ∩ Uβ ) × G, (b, g) 7→ (b, Tαβ (b)g),
が同相だからである。とくに Φα は同相である。G 同変であることは定義から明らか。以
上で Φα は局所自明化となり、π : E → B は主 G 束となる。なお、以下においては変換函
幾何学 XA = 位相幾何学
12
数系 {Tαβ }α,β∈A という場合は、つねに cocycle 条件 (1.4) をみたすものを指すことにす
る。逆に、任意の主 G 束 π : E → B は、このような貼り合わせで与えられることに注意
する。議論の仕方は、補題 1.6 の代わりに補題 1.8 を使えば、ベクトル束の場合と全く同
様だから省略する。
つぎに、貼り合わせを使わないで構成される非自明な主 G 束の例を考えよう。compact
Lie 群の C ∞ 作用について次の事実は基本的である。
定理 1.10. m 次元 C ∞ 多様体 M に n 次元 compact Lie 群 G が右から自由に C ∞ 作用
しているものとする。このとき商空間 M/G には自然な C ∞ 多様体の構造が入り、商写像
π : M → M/G は C ∞ 主 G 束となる。
証明. G の元 γ による右移動写像を Rγ : G → G, g 7→ gγ, および Rγ : M → M , p 7→ pγ,
o
と表す。整数 l ≥ 0 および 実数 ρ > 0 について Dρl := {x ∈ Rl ; kxk < ρ} とおく。次が成
立つ:
o
(]). 各 p ∈ M について充分小さい ρ = ρ(p) > 0 と C ∞ 写像 ψp : Dρm−n → M が存在し
o
て、C ∞ 写像 ψˆp : Dρm−n × G → M , (x, g) 7→ ψp (x)g, は M の開集合の上への C ∞ 微分同
相である。
(]) の証明. C ∞ 写像 αp : G → M , g 7→ pg, を考える。右移動写像 Rγ は C ∞ 微分同相で
あって αp ◦ Rγ = Rγ ◦ αp であるから αp の微分 (dαp )g : Tg G → Tpg M の階数は g ∈ G に
よらない。l := rank(dαp )g とおく。逆函数定理によって、1 ∈ G の近傍で定義された G
の局所座標 (y1 , . . . , yn ) と p の近傍で定義された M の局所座標 (z1 , . . . , zm ) が存在して
αp (y1 , . . . , yn ) = (y1 , . . . , yl , 0, . . . , 0) となる。αp は単射だから l = n でなければならない。
o
充分小さい ρ1 > 0 をとって、座標 (z1 , . . . , zn ) および (y1 , . . . , ym ) が、 (z1 , . . . , zn ) ∈ Dρn1
o
o
o
および (y1 , . . . , ym ) ∈ Dρn1 × Dρm−n
で定義されているものとする。C ∞ 写像 ψ : Dρm−n
→ M,
1
1
o
(zn+1 , . . . , zm ) 7→ (0, . . . , 0, zn+1 , . . . , zm ), および ψˆ : Dρm−n
× G → M , (z, g) 7→ ψ(z)g, を
1
o
o
ˆ (0,1) : T0 Dm−n × T1 G → Tp M
考える。作り方から (0, 1) ∈ Dρm−n
× G において微分 (dψ)
ρ1
1
o
は同型である。そこで、充分小さい ρ2 ∈]0, ρ1 [ をとると、任意の z ∈ Dρm−n
について微
2
o
ˆ (z,1) : Tz Dm−n × T1 G → Tψ (z) M は同型である。右移動写像 Rγ は微分同相であり
分 (dψ)
p
ρ2
o
ˆ (z,γ) :
ψˆ ◦ (1 × Rγ ) = Rγ ◦ ψˆ であるから、任意の (z, γ) ∈ Dρm−n
× G について微分 (dψ)
2
o
o
×T1 G → Tψp (z)γ M は同型となる。したがって逆函数定理により ψˆ : Dρm−n
×G → M
Tz Dρm−n
2
2
は局所微分同相とくに開写像である。
o
さらに充分小さい ρ3 ∈]0, ρ2 ] をとると ψˆ : Dm−n ×G → M は単射となる。このことを背
理法で証明する。任意の k ≥ 1 について ψˆ :
ρ3
o
m−n
Dρ2 /k × G
→ M が単射ではないと仮定して矛
o
盾を導く。このとき(必要なら右移動で動かして)a(k) , b(k) ∈ Dρm−n
と g(k) ∈ G が存在して
2 /k
∑ 2
ψ(a(k) )g(k) = ψ(b(k) ) ∈ M となる。ρ1 のとり方から g(k) は閉集合 G\{(y1 , . . . , yn );
i yi <
ρ1 } に含まれている。いま、G は compact Lie 群だから g(k) の収束部分列
∑ 2 g(kν ) が存在す
る。g(∞) := limν→∞ g(kν ) ∈ G とおく。g(∞) ∈ G \ {(y1 , . . . , yn );
i yi < ρ1 } だから
g(∞) 6= 1 ∈ G である。また、limν→∞ a(kν ) = limν→∞ b(kν ) = 0 であるから、結局 pg(∞) = p
となる。これは G の M への作用が自由であることに矛盾する。したがって、充分小さい
14 年 4 月 4 日
13
o
× G → M は単射である。以上により ρ = ρ3 , ψp = ψ|
ρ3 ∈]0.ρ2 [ について ψˆ : Dρm−n
3
o
Dρm−n
3
とおけば、これが望む C ∞ 写像である。
o
m−n
各 p ∈ M について π ◦ ψp : Dρ(p)
→ M/G は開集合の上への同相である。これを使うと
∞
M/G に C 多様体の構造が入る。M/G の Hausdorff 性は G が compact であることから
o
m−n
証明できる。(各自で考えてみて下さい。)また、 ψˆp : Dρ(p)
× G → M は π : M → M/G
∞
の C 主 G 束としての局所自明化を与える。
∑n
2
一つだけ具体例を与える。n ≥ 1 について S 2n+1 = {(z0 , z1 , . . . , zn ) ∈ Cn+1 ;
j=0 |zj | =
1} とみなす。S 1 = {ζ ∈ C; |ζ| = 1} を S 2n+1 に scalar 倍として作用させると微分同相
CP n = S 2n+1 /S 1 が成立つから、定理 1.9 によって、商写像 π : S 2n+1 → CP n は主 S 1 束
である。これは Hopf fibration または Hopf 束と呼ばれる。
さて、再びベクトル束にもどる。{Uα }α∈A を位相空間 B の開被覆とし、この開被覆に
ついて定義された GLn (K) に値をもち cocycle 条件 (1.2) をみたす変換函数系 {Tαβ }α,β∈A
が与えられたとする。これは B 上の K-ベクトル束と主 GLn (K) 束の二つを定義するが、
主 GLn (K) 束から K-ベクトル束を直接導くことはできないのだろうか? この問いに答
えるのが、主 G 束の随伴束の概念である。
随伴束
G を位相群とする。主 G 束 π : E → B から B 上の別の fiber 束をつくる。位相空間
F に G が左から連続に作用しているとする。このとき直積 E × F に群 G を、右から連
続に作用させる。g ∈ G, (e, f ) ∈ E × F について (e, f )g := (eg, g −1 f ) と定めるのである。
商空間 (E × F )/G を E ×G F と書く。(e, f ) ∈ E × F の同値類を [e, f ] ∈ E ×G F と書く
ことにする。射影 π は、連続写像 πF : E ×G F → B, (e, f ) 7→ π(e), を誘導する。
補題 1.11. 連続写像 πF : E ×G F → B はは F を fiber とする fiber 束、つまり F 束で
ある。
証明. 示すべきは局所自明性である。任意の b ∈ B を考える。主 G 束 π : E → B の局所
open
自明性により b の開近傍 U ⊂ B および主 G 束の局所自明化 Φ : U × G → π −1 (U ) がと
れる。同相
∼
=
(1.5)
(U × G) ×G F → U × F, [(b0 , g), f ] 7→ (b0 , gf )
に注意する。逆写像は U × F → (U × G) ×G F,
してえられる同相
ΦF : U × F ∼
= (U × G) ×G F
Φ×G 1F
∼
=
(b0 , f ) 7→ [(b0 , 1), f ] で与えられる。こう
π −1 (U ) ×G F = πF −1 (U ),
(b0 , f ) 7→ [Φ(b0 , 1), f ] (1.6)
は F -束としての πF の U 上の局所自明化を与える。
こうしてえられる F -束 πF : E ×G F → B を主 G 束 π : E → B に随伴する F 束
(associated F bundle)とよぶ。(1.6) によって、自明束の随伴束は自明束である。
位相群 G が K-ベクトル空間 Kn に線型に作用する、つまり、位相群の準同型 G →
GLn (K) を通して作用するとき、随伴束 πKn : E ×G Kn → B は K-ベクトル束となる。実
際、(1.6) の局所自明化 ΦKn は、各ファイバー上で K-線型同型となるからである。
たとえば、Hopf fibration π : S 2n+1 → CP n は主 S 1 束であるが、各 m ∈ Z について、
複素幾何でいうところの O(m) という複素ベクトル束は、S 1 = {ζ ∈ C; |ζ| = 1} の複素ベ
幾何学 XA = 位相幾何学
14
クトル空間 C への ζ −m 倍作用による随伴束である。O(−1) は tautological bundle と呼ば
れる。m = −1 のとき、連続埋め込み
S 2n+1 ×S 1 C → CP n × Cn+1 ,
[z, u] 7→ (π(z), uz)
が定義されて、その像は、CP 1 の各点 π(z) の上に z の定める直線 Cz が乗っている空間
{(L, v) ∈ CP n × Cn+1 ; v ∈ L} に一致するからである。
つぎの例として、一般の K-ベクトル束の貼り合わせを考える。{Uα }α∈A を位相空間
B の開被覆とし、
{Tαβ }α,β∈A を {Uα }α∈A 上の GLn (K) に値をもつ変換函数系とする。
`
E := ( α∈A Uα ×`
GLn (K))/∼ をこの変換函数系の定める主 GLn (K) 束とする。包含写像
Uα × GLn (K) ,→ α∈A Uα × GLn (K) と ∼ による商写像の合成を Φα : Uα × GLn (K) → E
とすると、これが局所自明化となっているのであった。随伴 Kn -束 πKn : E ×GLn (K) Kn → B
は、(1.5) の同相 (Uα × GLn (K)) ×GLn (K) Kn ∼
= Uα × Kn によって Uα × Kn を変換函数系
{Tαβ }α,β∈A によって貼り合わせたものである。つまり、変換函数系 {Tαβ }α,β∈A の定める Kn
−1
n
ベクトル束である。とくに Φα に対して (1.6) によって定義された ΦK
α : Uα ×K → πKn (Uα )
が局所自明化となっている
i
さきほどと同様に、ei := t (0, . . . , 0, ˘
1, 0, . . . , 0) ∈ Kn , 1 ≤ i ≤ n, とおく。各 g ∈ GLn (K)
n
について (ge1 , . . . , gen ) は K の基底であり、逆に Kn の任意の基底はこのような形で
表される。各点 (b, g) ∈ Uα × GLn (K) に ((ge1 , . . . , gen ), b) ∈ (E ×GLn (K) Kn )n × B を
対応させると、これらは貼り合って、連続写像 E → (E ×GLn (K) Kn )n × B を定める。
(E ×GLn (K) Kn )n には右から GLn (K) が自然なやりかたで作用しているが、この作用に関
して連続写像 E → (E ×GLn (K) Kn )n × B は GLn (K)-同変である。π −1 (b) の像は (πKn )−1 (b)
の順序つき基底の全体の集合に {b} を直積したものに他ならない。こうして、枠束の概念
にいたる。
枠束によって階数 n の K-ベクトル束と主 GLn (K) 束の一対一対応が与えられる。こ
こでも位相群 GLn (K) は Kn に通常の行列の縦ベクトルへの作用として左作用しているも
のとする。
補題 1.12. π : E → B および $ : P → B をそれぞれ同じ底空間 B 上の階数 n の K-ベ
クトル束および主 GLn (K) 束とする。
(1) 随伴束 $Kn : P ×GLn (K) Kn → B は階数 n の K-ベクトル束である。
(2) 各 b ∈ B 上の fiber π −1 (b) の K 上の基底を集めたものを F(E) と表す
F(E) := {((ei )ni=1 , b) ∈ E n × B; {ei }ni=1 は π −1 (b) の K 上の基底である }.
このとき π F : F(E) → B, (e1 , . . . , en , b) 7→ b, は主 GLn (K) 束である。これを K-ベクトル
束 E の枠束(frame bundle)とよぶ。
(3) 主 GLn (K) 束の同型 F(P ×GLn (K) Kn ) ∼
=B P が成立つ。
n ∼
(4) K-ベクトル束の同型 F(E) ×GLn (K) K =B E が成立つ。
証明. これまで同様、(x, v) ∈ P × Kn の GLn (K) 作用による同値類を [x, v] ∈ P ×GLn (K) Kn
と表す。
(1) すでに示した。
(2) GLn (K) の右作用を
∑n
aij ei )nj=1 , b)
F(E) × GLn (K) → F (E), ((ej )nj=1 , b, (aij )) 7→ ((
i=1
によって定める。補題 1.4 により、これは連続である。局所自明性だけ証明しておく。E
open
の局所自明性により任意の b ∈ B について b の開近傍 U ⊂ B と局所自明化 Φ : U × Kn →
14 年 4 月 4 日
15
π −1 (U ) をとる。F(U × Kn ) = U × GLn (K) および (π F )−1 (U ) = F(π −1 (U )) であって Φ は
主 GLn (K) 束の同型 U ×GLn (K) → F(π −1 (U )), (b0 , v1 , . . . , vn ) 7→ (Φ(b0 , v1 ), . . . , Φ(b0 , vn )),
を定める。局所自明性が証明された。他の条件も容易に確かめられる。
i
(3) ei := t (0, . . . , 0, → ˘1, 0, . . . , 0) ∈ Kn , 1 ≤ i ≤ n, とおく。連続写像 ϕ : P →
F(P ×GLn (K) Kn ), x 7→ (([x, ej ])nj=1 , $(x)),
π F ◦ ϕ = $ である。 A = (aij ) ∈
∑nを考える。
GLn (K) に つ い て ϕ(x)A = (([x, i=1 aij ei ])nj=1 , $(x)) = (([x, Aej ])nj=1 , $(x))
= (([xA, ej ])nj=1 , $(x)) = ϕ(xA) となるから ϕ は GLn (K)-同変である。したがって補
題 1.8 により ϕ は主 GLn (K) 束の同型であり、同型 F(P ×GLn (K) Kn ) ∼
=B P が成立つ。
∑
∑
n
n
n
n
(4) 連続写像 ψˆ : F(E) × K → E を ((ej )j=1 , b, i=1 ai ei ) 7→ j=1 aj ej によって定義
する。A = (aij ) ∈ GLn (K) について
∑
∑
∑n
∑n
n
ˆ
ˆ j )n A, b,
aj aij ei
a
e
)
=
a
e
)
=
ψ((
e
a
)
,
b,
ψ((e
i i
i ij j=1
i i
j=1
i=1
i,j
i=1
i
∑
∑n
ˆ j )n , b,
ˆ j )n , b, A
= ψ((e
ai aij ej ) = ψ((e
ai ei )
j=1
j=1
i,j
i=1
F
だから ψˆ は連続写像 ψ : F(E) ×GLn (K) Kn → E を誘導する。これは $K
n = ψ ◦ π をみた
し、各 fiber 上 K-線型同型だから、補題 1.6 により K-ベクトル束の同型である。
∧r
ベクトル束 E の双対 E ∗ や外積
E, r ∈ Z≥0 , は枠束 F(E) を使うと簡単に構成でき
n
t −1
n
∗
る。A ∈ GL
∧rE
∧r に A によって作用させたときの随伴束が F(E) ×GL
∧nr(K)nK =
∧nr(K)n を K
E
A によって作用させたときの随伴束が F(E) ×GLn (K)
K =
であって、 K に
である。
なお、定理 1.1 の状況では、位相群 G としては compact C ∞ 多様体の C ∞ 微分同相
群を考えている。ファイバー束の全空間に C ∞ 構造を入れようとすると、微分同相群への
C ∞ 写像というものを考えなければならない。C ∞ 微分同相群はファイバーが compact の
場合でも Fr´echet 空間をモデルとする無限次元 Lie 群なので議論が少し厄介である。した
がって、この講義ではこの話題は扱わない。
構造群の縮小
いま K が位相群であって、連続準同型 α : G → K が与えられているとする。 K は
左 G 空間とみなすことができる。g ∈ G, k ∈ K について gk := α(g)k と定めるのである。
π : E → B を主 G 束とする。
補題 1.13. このときえられる随伴 K 束 πK : E ×G K → B は主 K 束である。さらに、
主 G 束 π : E → B が自明ならば随伴束 πK : E ×G K → B も自明である。
証明. いつものように (e, k) ∈ E × K の同値類を [e, k] ∈ E ×G K と書く。p.9 の主 G 束
の定義を一つづつ確認する。
(1 前半) K の右作用を [e, k]k 0 := [e, kk 0 ], k 0 ∈ K, によって定める。g ∈ G について
[eg, g −1 kk 0 ] = [e, kk 0 ] だから well-defined である。この作用は自由である。実際、[e, k] =
[e, k]k 0 ∈ E ×G K であったとする。ある g ∈ G が存在して (eg, α(g)−1 k) = (e, kk 0 ) ∈ E ×K
となる。G の E への作用は自由だから g = 1 であり、k = kk 0 ∈ K したがって k 0 = 1 と
なる。作用の連続性は (3) のあとで証明する。
(2) π(e) = b とする。 [e, k]K = πK −1 πK [e, k](= πK −1 (b)) を示す。
(⊂)k 0 ∈ K とすると πK [e, kk 0 ] = π(e) = b だから [e, k]k 0 ∈ πK −1 (b) である。
(⊃)[e0 , k 0 ] ∈ πK −1 (b) とする。π(e0 ) = b だから ∃g ∈ G, e0 = eg となる。[e0 , k 0 ] =
[eg, k 0 ] = [e, α(g)k 0 ] = [e, k](k −1 α(g)k 0 ) ∈ [e, k]K である。
幾何学 XA = 位相幾何学
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(積束の場合) 積束 B × G → B を考える。K-同変な写像 ϕ : (B × G) ×G K → B × K,
[(b, g), k] 7→ (b, α(g)k), は well-defined かつ連続であり、射影とも適合している。連続な逆
B × K → (B × G) ×G K, (b, k) 7→ [(b, 1), k], をもつから ϕ は K-同変同相である。した
がって (B × G) ×G K → B は自明な主 K 束である。補題の後半部分が証明できた。
open
(3) 任意の b ∈ B について開近傍 U ⊂ B と 局所自明化 Φ : U × G → π −1 (U ) がと
れる。積束 U × G にいま述べたことを適用して K-同変同相 ΦK : U × K → πK −1 (U ),
(b0 , k) 7→ [Φ(b0 , 1), k] をうる。任意の (b0 , k) ∈ U × K について πK ΦK (b0 , k) = πΦ(b0 , 1) = b0
である。
(1 後半) (3) により πK −1 (U ) は U × K と K-同変同相であり、 U × K への K の右作
用は明らかに連続である。πK −1 (U ) × K たちは (E ×G K) × K たちの開被覆をなすから
K の作用は (E ×G K) × K 全体で連続である。
以上で πK : E ×G K → B が主 K 束であることが証明できた。
$ : P → B を主 K 束とする。主 K 束 P の構造群が(連続準同型 α : G → K によって)
G に縮小する3 とは、ある主 G 束 π : E → B が存在して、主 K 束の同型 E ×G K ∼
=B P
∼
=
がなりたつことをいう。主 G 束 E と B 上の主 K 束の同型写像 ψ : E ×G K → P を P 上
の G 構造(正確には α 構造)とよぶ。
そもそも位相空間 F について F 束を何がしかの位相群 G の随伴束として表すという
ことは、F 束に構造を付け加えていることに他ならない。逆にいえば、F に構造を付け加
えることは、その構造を保つ F の自己同型群の主束の随伴束として表すことを意味する。
たとえば K = GLn (R), G = On(直交群)および α を包含写像とするとき、主 K 束の G
構造とは、対応する R-ベクトル束の計量構造に他ならない。
とくに位相群 K について、群構造はそのままにして、位相構造を離散位相に取り替え
たものを K δ と表す。α として恒等写像 K δ → K を考えると、これも連続準同型である。
主 K 束の K δ 構造のことを平坦構造(flat structure)とよぶ。平坦構造をこめた主 K 束
を平坦束とよぶ。平坦束を調べるということは離散位相をもつ群の主束を調べることに他
ならない。この講義の前半の主題は、平坦束が基本群によって分類されることを証明する
ことである。
reduction of the structure group という。α は単射とは限らないので小さくなっている訳では
ない。しかし、私は還元という訳がヨリ適切だとも思わない。
3