高3数 γ No. 102 凸不等式(Jensen の不等式) (夏期講習/柳生) 2014/7/16 ある区間で関数 f (x) のグラフの凸性が変わらないとき,その区間に属する実数に対して成り立つ凸 不等式と呼ばれる不等式を導くことができる.まずは以下の例題でそのことを理解してほしい. ! (例題 6) 関数 f (x) は任意の実数 x に対し f !! (x) > 0 を満たしている.以下の問いに答えよ. " (1) b を実数,t を 0 < t < 1 なる実数とする.実数 a の関数 F (a) を次の式で定める. F (a) = tf (a) + (1 − t)f (b) − f (ta + (1 − t)b) このとき,任意の a に対して不等式 F (a) ! 0 が成り立つことを示せ. (2) (1) より任意の実数 a, b と 0 < t < 1 なる実数 t に対して不等式 tf (a) + (1 − t)f (b) ! f (ta + (1 − t)b) が成り立つ.このことを用いて,任意の n 個の実数 x1 , x2 , · · · , xn に対して次の不等式が成り立 つことを示せ.ただし,n は 2 以上の自然数である. # ! " f (x1 ) + f (x2 ) + · · · + f (xn ) x1 + x2 + · · · + xn !f n n (解) (1) F ! (a) = tf ! (a) − tf ! (ta + (1 − t)b) = t(f ! (a) − f ! (ta + (1 − t)b)) $ a < b ならば a < ta + (1 − t)b である.また,b < a ならば ta + (1 − t)b < a である. 任意の実数 x について f !! (x) > 0 だから,f ! (x) は狭義単調に増加する. よって,a < b ならば f ! (a) < f ! (ta + (1 − t)b),b < a ならば f ! (a) > f ! (ta + (1 − t)b) である. したがって,F (a) は a = b のとき極小かつ最小値 F (b) = 0 をとる. ゆえに任意の a に対して F (a) ! 0 が成り立つ. (2) 数学的帰納法で示す. ! " f (x1 ) + f (x2 ) x1 + x2 n = 2 のとき, !f が (1) より成り立つ. 2 2 ! " f (x1 ) + f (x2 ) + · · · + f (xk ) x1 + x2 + · · · + xk n = k (n ! 2) に対して !f が成り立つと仮定すると, k k n = k + 1 のとき f (x1 ) + f (x2 ) + · · · + f (xk+1 ) k f (x1 ) + f (x2 ) + · · · + f (xk ) f (xk+1 ) = · + k!+ 1 k k+1 "k + 1 k x 1 + x2 + · · · + x k f (xk+1 ) ! f + (∵帰納法の仮定) k+ 1 k k + 1 ! " k x1 + x2 + · · · + xk xk+1 !f · + (∵ n = 2 に対する不等式の成立) k k+1 !k + 1 " x1 + x2 + · · · + xk+1 =f k+1 となるから,n = k + 1 のときも成立する. 以上から,数学的帰納法によって与不等式の成立は証明された.(証明終) 以上のことを定理の形でまとめておく.一般化された形で述べるが,証明は例題とほとんど同様なの で,割愛したい. 定理 3 凸不等式(イェンゼンの不等式) (1) f (x) を開区間で 2 階微分可能な関数とする.a, b を I に属する実数,t を 0 < t < 1 なる実数 とする. I で常に f !! (x) > 0 ならば, tf (a) + (1 − t)f (b) ! f (ta + (1 − t)b) が成り立つ. I で常に f !! (x) < 0 ならば, tf (a) + (1 − t)f (b) " f (ta + (1 − t)b) が成り立つ. いずれも,等号成立条件:a = b (2) f (x) を開区間 I で 2 階微分可能な関数とする.a1 , a2 , · · · , an を I に属する実数, w1 , w2 , · · · , wn を 0 < wi < 1 (1 " i " n), w1 + w2 + · · · + wn = 1 なる実数とする. I で常に f !! (x) > 0 ならば, w1 f (a1 ) + w2 f (a2 ) + · · · + wn f (an ) ! f (w1 a1 + w2 a2 + · · · + wn an ) が成り立つ. I で常に f !! (x) < 0 ならば, w1 f (a1 ) + w2 f (a2 ) + · · · + wn f (an ) " f (w1 a1 + w2 a2 + · · · + wn an ) が成り立つ. いずれも,等号成立条件:a1 = a2 = · · · = an 備考:図形的直感をはたらかせれば,これらのことはほとんど明らかなこととして諒解されよう.それ ではもちろん厳密さには欠けるが,大学入試レベルの解答としては,この不等式を利用しなければなら ない場合に図形的な解釈で許されないということはないと思われる. 図表:(1) の図形的な解釈 .I で常に f !! (x) < 0 ⇐⇒ I で常に上に凸 .f (ta + (1 − t)b) .! .tf (a) + (1 − t)f (b) .a .ta + (1 − t)b . . 間I 区 .b 備考:なお (2) は,w1 a1 +w2 a2 +· · ·+wn an が a1 , a2 , · · · , an の重み付きの平均であり,点 (w1 a1 +w2 a2 + · · · + wn an , w1 f (a1 ) + w2 f (a2 ) + · · · + wn f (an )) が n 個の点 (a1 , f (a1 )), (a2 , f (a2 )), · · · , (an , f (an )) を結んでできる凸 n 角形の内部の点であることから図形的に理解される. 1 また,(2) を問題で利用するのは,ほとんどが w1 = w2 = · · · = wn = の場合であり,このときは n ! " a1 + · · · + an f (a1 ) + · · · + f (an ) 点 , は凸 n 角形の重心である. n n ! (例題 7) 正数 a, b, p, q を考える.a + b = 1 ならば,2 以上のすべての自然数 n に対して不等式 (ap + bq)n " apn + bq n が成り立つことを示せ.(平成 20 年 慶応大) # (解) f (x) = xn とおく. $ .y 2 点 P, Q を P (p, pn ), Q (q, q n ) とする. " .y = xn PQ を b : a に内分する点を S とすると,a + b = 1 より, S (ap + bq, apn + bq n ) と表される. .Q 一方,y = f (x) のグラフ上の x 座標が ap + bq である点を T とすると,T (ap + bq, (ap + bq)n ) と表される. f ! (x) = nxn−1 , f !! (x) = n(n − 1)xn−2 だから,x > 0 に対 して常に f !! (x) > 0 が成り立つ.したがって,y = f (x) の グラフは x > 0 のとき常に下に凸である. .P . .p .O .q .x .ap + bq グラフより,点 S の y 座標は点 T の y 座標以上であり, apn + bq n ! (ap + bq)n が成り立つ.(証明終) ! (例題 8) α, β, γ は α > 0, β > 0, γ > 0, α + β + γ = π を満たすものとする. # このとき, sin α sin β sin γ の最大値を求めよ.(平成 11 年 京大) (解) f (x) = log sin x とおく. " $ 点 A, B, C を A (α, log sin α), B (β, log sin β), C (γ, log sin γ) とする. . .y α+β+γ π = 3 3 △ ABC の重心を G とすると,α + β + γ = π より, ! " .β .γ .O .α . π log (sin α sin β sin γ) .x G , T . 3 3 .C .B と表される. % .G √ & #π #π$$ π 3 また,点 T を , f とする.よって,T , log 3 3 3 2 .A である. cos x 1 1 f ! (x) = = , f !! (x) = − 2 だから,0 < x < π に対して常に f !! (x) < 0 が成り立つ.した sin x tan x sin x がって,y = f (x) のグラフは 0 < x < π のとき常に上に凸である. グラフより,点 G の y 座標は点 T の y 座標以下であり, √ √ log (sin α sin β sin γ) 3 3 3 " log ⇐⇒ sin α sin β sin γ " 3 2 8 √ π π 3 3 が成り立つ.等号は α = β = γ = のとき成立するので,与式は α = β = γ = で,最大値 を 3 3 8 とる. 問8 正の実数 a, b, p に対して,A = (a + b)p と B = 2p−1 (ap + bp ) の大小関係を調べよ. 問9 π π 実数 a, b (0 " a < , 0 " b < ) に対し,次の不等式が成り立つことを示せ. 4 4 (平成 11 年 東工大) √ tan a · tan b " tan a+b 1 " (tan a + tan b) 2 2 (平成 3 年 京都大) 問 10 正の実数 a, b, c が a + b + c = 1 を満たしているとき, √ √ √ 3 3 a 1+b−c+b31+c−a+c 1+a−b"1 を示せ. 問 11 x1 , x2 , · · · , xn を実数,n を自然数とする.このとき n n ' k=1 xk 2 − % n ' k=1 xk &2 !0 が成立することを示せ.(平成 16 年 明治大) 問 12 正の数 x1 , x2 , · · · , xn が x1 x2 · · · xn = 1 を満たすとする.このとき,x1 + x2 + · · · + xn ! n 問 13 実数 α1 , α2 , · · · , αn はすべて正で,α1 + α2 + · · · + αn = π を満たすものとする.このとき, であることを示せ. sin α1 sin α2 · · · sin αn の最大値を求めよ.
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