07 2014 Vol.44 No.7 Digest ダイジェスト 特集 脳地図革命 脳の実相に迫る……34 ページ R. ユステ(米コロンビア大学)ほか 脳の遺伝子アトラス……44 ページ E. レイン/ M. ホールリッツ(ともにアレン脳科学研究所) 脳を地図のように色分けし,ここは視覚,あそこ は記憶,こちらは言語処理を担っている……といっ たイメージを持っている人は多いだろう。だがそう した従来の理解では,脳機能の多くは説明できない ことがわかってきた。代わって注目されているのは, ニューロンどうしのネットワークを調べることで, 脳のどのような活動から人間の行動が生まれるのか を探る試みだ。地域ごとに色分けするのではなく, その間の物流や相互のコミュニケーションに注目す る方法といえる。米国では今年,そうした観点から Scotty Reifsnyder 脳のネットワークを解明する大規模プロジェクト 「ブレイン・イニシアチブ」が始まった。日本や欧 州でもそれぞれ大規模な脳プロジェクトが始動し, 脳研究の新たな時代の幕開けとなりそうだ。 2 日経サイエンス 2014 年 7 月号 天文学 幽霊粒子が知らせる天変 COURTESY OF NASA/ESA/N. SMITH University of California, Berkeley AND HUBBLE HERITAGE TEAM STScI/AURA ニュートリノ望遠鏡が待つ 次の超新星爆発……54 ページ R. ジャヤワルダナ(カナダ・トロント大学) 見慣れぬ星が夜空に出現することがある。その正体は星の 大爆発(超新星爆発)で,まばゆい光に先駆けて膨大な量の ニュートリノを放出する。ニュートリノは物質とほとんど相 互作用しない幽霊のような粒子で検出は非常に難しい。とこ ろが 1987 年,天の川銀河近傍の大マゼラン雲に超新星が出 現した際には,光で観測される 3 時間前にニュートリノが 24 個検出され,星の爆発やニュートリノに関する重要な情 報が得られた。もし今,天の川銀河で超新星爆発が起これば, 世界各地の高感度の検出器が数千個,数百万個のニュートリ ノを捉え,世界中の天文台に警報が出される。超新星爆発と いう極限状態の物理学に新たな展開がもたらされるだろう。 健康 体の隅々にまで及ぶ効用 運動で病気が防げるわけ……74 ページ S. S. バサック(米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院)ほか 定期的な運動は心臓病や脳卒中,糖尿病の発症やそれらに EADWEARD MUYBRIDGE University of Pennsylvania Archives よる死亡リスクを下げるだけでなく,気分を上向かせ,骨を 作り,筋肉を強化し,肺活量を上げ,転倒と骨折のリスクを 減らし,太りすぎを抑えてくれる。これらはよく知られた効 果のごく一部だ。特筆すべきは運動が知能,とりわけ注意力 や組織化・計画立案の能力が求められる仕事を遂行する力を 高めるらしいこと。一部の人のうつや不安の症状を和らげた り,ある種のがんを検知する免疫系の能力を高め,その発症 を防ぐ効果もある。さらに細胞レベルや分子レベルで望まし い変化が起こり,アテローム性動脈硬化症や糖尿病などにな りにくくなることも判明した。 日経サイエンス 2014 年 7 月号 3 Digest ダイジェスト 気候変動 希望的観測に根拠無し 「温暖化が一服」は誤り……62 ページ False Hope M. E. マン(米ペンシルベニア州立大学) 地球温暖化による環境危機が喧伝されている一方で,地球 の平均気温の上昇はここ 10 年ほど鈍化している。気の早い Graphic by Pitch Interactive ; SOURCE: MICHAEL E. MANN メディアや人為的温暖化を疑う人々の中には「地球温暖化は 一時停止した」と語る向きもある。国連の気候変動に関する 政府間パネル(IPCC)も上昇鈍化に影響され,最近発表し た温暖化将来予測では,温度上昇を従来より低く見積もるこ とにした。だが著者は「温暖化が一時停止と考えるのは誤り」 と断言する。地球の気温が 19 世紀中盤から急上昇していた ことを示す「ホッケースティック曲線」を発表してかつての 地球温暖化論争に火をつけた気候学者が,根拠なき楽観論に 反論する。 エネルギー 次の革命は何年先? 自然エネルギー 主役までの長い道 …… 68 ページ V. シュミル(カナダ・マニトバ大学) 薪から石炭へ,さらには石油へという過去の主力エネルギ ーの移行にはいずれも 50 ∼ 60 年という長い年月を要した。 現在は石油から天然ガスへの移行期にあたっているが,この 移行ペースも似たようなものだ。こうした経緯を冷静に分析 すれば,太陽エネルギーや風力,バイオ燃料といった再生可 能エネルギーへの主役交代が,これまでより早く進むと考え MARTIN SOEBY Gallery Stock る特段の根拠はない。主力エネルギーの移行に長い年月がか かる理由は何か? また,期待が大きい再生可能エネルギー への移行時期を早めるためには,どのような政策誘導が望ま しいのか? エネルギー問題の専門家が歴史を踏まえたシナ リオを示す。 4 日経サイエンス 2014 年 7 月号 量子物理学 SFのアイテムが現実に 究極の顕微鏡……80 ページ X 線自由電子レーザー N. ベラー(米コネティカット大学)ほか 日本の自由電子レーザー「SACLA 」……88 ページ 石川哲也(理化学研究所) X 線レーザーは昔から SF に欠かせないアイテムで,冷戦 下,米国はスターウォーズ計画のもとに開発を進めたが,今 や最先端の科学実験装置として日米で各 1 基が稼働している。 Spencer Lowell 原子や分子,固体物質に照射し,宇宙のどこにも見られない 特殊な状態の物質を作り出せる。原子のストップモーション 写真のほか,タンパク質やウイルスの高速撮影も可能だ。 数学 珍しくない 奇跡 あり得なさの原理 「絶対ない」は絶対ない……90 ページ D. J. ハンド(英インペリアル・カレッジ・ロンドン) 2 人の誕生日が一致する確率は 1/365 だから,0.003 に満 たない。では何人集まれば誕生日が一致するペアがいる確率 が五分五分を超えるか? 正解はたったの 23 人だ。宝くじ に当たる確率はひどく小さいのに,ブルガリアのロト 6 では Paul Blow 2009 年 9 月 6 日に「4, 15, 23, 24, 35, 42」という当選番号 が決まり,その 4 日後に同じ数字が大当たりになった。そん な……。雷に直撃される不運を引き当てないことを祈ろう! 科学史 それでも天は動いていた? 地動説への反論 科学者が革新的アイデアに慎重な理由……94 ページ D. ダニエルソン(カナダ・ブリティッシュコロンビア大学)ほか コペルニクスの地動説は現在では常識だが,それまでの長 年にわたる見方をひっくり返したため猛烈な反論を食らった ことは有名だ。だが当時,実は宗教家だけでなく科学者たち も地動説を受け入れず,ガリレオが望遠鏡による天文観測を Kirk Caldwell 始めた後もその状況は変わらなかった。当時の科学者は頑固 で愚かだったのか? 一概にそうとはいえない。当時の観測 事実は地動説とは別の理論を支持していたからだ。 日経サイエンス 2014 年 7 月号 5
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