河−16 河川環境評価指標の作成に関する研究 -魚類、鳥類生息環境評価- (独)北海道開発土木研究所 環境研究室 ○矢部 中津川 浩規 誠 まえがき 河川整備計画の策定、河川工事、管理に関する調査や実施の際に、現況河川 の自然環境を適切に把握し、河川環境に及ぼす影響を予測、評価することが求 められている.本研究では、生物の生息等に影響を及ぼす植生や河道状況等の 河川の物理的要因を用いて、様々な生物の生息、生育環境の評価が同時に可能 な 河 川 環 境 の 総 合 指 標 を 作 成 す る .豊 平 川 及 び 支 川 を 対 象 に 、航 空 写 真 、河 川 環 境 情 報 図 や 現 地 観 測 等 既 存 デ ー タ を 利 用 し て い る .得 ら れ た 評 価 指 標 に つ い て 、 河川空間を利用する代表的な生物である魚類、鳥類の実測の生息データによる 考察及び相対的な比較検証を行って有効性を示す. 1.研究の背景、目的 河川に関わるデータは広範で大量の情報を扱わなければならず、またその多く は 位 置 を 持 つ 空 間 デ ー タ で あ る こ と か ら 、GIS の 利 用 が 有 効 で あ る と 考 え ら れ る . 多くの情報を自由に比較分析し、河川環境の評価を客観的に示すことが容易に行 うことが可能であれば、河川整備計画の策定、実施等、人々への説明や合意形成 などに役立つ. しかし、河川水辺の国勢調査データ、河川環境情報図等河川環境、生態系に関 する情報基盤の整備ははじまったばかりであり、河川環境を総合的に評価する試 み は 少 な い .従 来 の 調 査 、研 究 に お い て は 、人 間 に よ る 利 用 や 意 識 、生 息 生 物 の 生 態 系 か ら の 評 価 が 個 別 に 行 わ れ て い る 事 例 が 多 い .生 態 系 に 関 す る 総 合 的 評 価 は 、 水の量、川の流れ方や水際、周辺の土地利用や高水敷、川底の様子、水の汚れ、 鳥、植物などの項目に点数をつけて総合点を算出する方法がある.また、生物か らみた生物学的水質、生物が多様に存在していることを示す種の多様性、貴重性 や移動性等からの生態系構造の保全性、河床、水域、陸域での指標種出現の有無 による生育、生息域の多様性について、河川水辺の国勢調査データを利用し点数 をつけて評価している.これらの手法は、生物の生息と河川の物理的構成要素を 同時に評価しており指標種等は評価可能であるが、広範な生物の評価は難しい. 魚 類 の 生 息 環 境 を 評 価 す る HEP、IBI 手 法 は 評 価 対 象 種 を 設 定 し な け れ ば な ら ず 、 目標設定の段階での指標としては適切ではない.また、生物の生息等実測調査が 必要となり、河川の全区間を対象とした調査は難しい. 本研究では魚類や鳥類等河川空間を利用する様々な生物の生息環境の評価が 同時に可能な指標を作成し、河川環境の類型区分を定量的に評価することを目 Hiroki YABE , Makoto NAKATSUGAWA 的 と す る .そ の 際 、比 較 的 容 易 に 入 手 可 能 な 生 物 の 生 息 等 に 影 響 を 及 ぼ す 植 生 や 河 道 状 況 等 の 河 川 の 定 量 的 な 物 理 的 デ ー タ を 利 用 す る .河 川 環 境 を 構 成 す る 物 理 的構成要素から河川環境を総合的に特徴づけることが可能な評価指標を提案する も の で あ る .ま た 、魚 類 、鳥 類 の 生 息 実 測 デ ー タ に よ っ て 評 価 指 標 の 考 察 、検 証 を、豊平川を対象として行う. 2.研究の方法 本研究では、河川環境を構成する物理的な構成要素のみによる指標を作成し、 生 物 の 生 息 デ ー タ は 検 証 で 用 い る .関 連 研 究 と し て 、河 川 の 水 深・流 速 、瀬 、淵 、 蛇 行 程 度 、水 面 幅 、河 床 材 料 、水 生 植 物 、中 州 、河 畔 林 な ど に よ っ て 評 価 す る RHS があり、これらの要素や既往知見を参考に河川特性要因を抽出する. 次 に 、河 川 の 物 理 的 環 境 デ ー タ は 多 数 の 項 目 か ら な る た め ,そ れ ら を 総 合 化 し , 河川環境の状態をより理解しやすい形にまとめる必要がある.データを圧縮し分 析する手法としては,主成分分析、因子分析などがあるが、個々のデータの関係 性を説明するのに最適であると考えられる主成分分析を適用した.主成分分析は、 多数の変数の値に異なる重みをつけて互いに独立な合成変量を求める手法で、多 数の要因を少数の総合評価に集約する.合成変量(主成分)を各変数の関係から 主観的に判断しデータ構造を理解するものである. 主 成 分 分 析 の 適 用 に よ っ て 、対 象 と す る 河 川 環 境 の 構 成 要 素 を 用 い た 指 標 化 と 、 その指標による各々の河川環境の相対的な評価が可能となる.指標は各主成分か らなり、主成分を構成する各変数の関係は、河川環境の解釈や構成要素の関連性 から河川整備、管理に役立つことが予想される. 3 . GIS デ ー タ 利 用 に よ る 評 価 豊 平 川 ( k.p20 ~ k.p4 ) を 対 象 に、航空写真から河川環境情報図 を 作 成 し た .河 畔 林 、高 水 敷 利 用 、 水面等河川環境の物理的構成要素 の定量的なデータ(面積)を算出 す る た め GIS を 利 用 し て い る . ( 図 ― 1) 変 数 は 表 ― 1 に 示 す よ う に 29 項 目を計測、作成した.これらの各 変 数 に つ い て 対 象 区 間 を 100m 区 間 ご と に 130 個 に 分 け 計 3770 個 の デ ー タ を 解 析 す る . GIS は 、 河 川環境情報に関する定量的、空間 的 な デ ー タ の 利 用 、操 作 性 に 優 れ 、 各 変 数 の デ ー タ 抽 出 、様 々 な 集 計 、 図―1 河川環境情報図の作成 表―1 河川の物理的構成要素 ヤナギ林(m2) 人工裸地(m2) 砂州の有無 中州の河畔林有無 ハリエンジュ(m2) 人工構造物(m2) 植栽樹林群(m2) 自然裸地(砂州)(m2) 高茎草本群落(m2) 開放水面面積(m2) 流速、水深差の有無 橋梁の有無 低茎草本群落(m2) 樹木率、草本率 河床勾配 床止めの有無 人工草地/牧草地(m2) 人工草地・ゴルフ場率 支川流入の有無 河床勾配 グランド・公園(m2) 淵の比率、早瀬の比率、 平瀬の比率 河畔林の水面、 水際カバー有無 樹木高さ(高木2、亜高木 1、低木0) 河川自由度(1-水面/(水面 樹木の連続性((両岸 +自然裸地)) 2),(片岸1),0) 分流、湾曲の有無 利用が容易となった.同一河川での評価のほか、他河川を含めて客観的に河川環 境評価、比較を行う場合の有用性も高いといえる. 主 成 分 分 析 に よ る 合 成 変 量 Y1~ Yq は 、 q 個 の 河 川 環 境 の 物 理 的 構 成 要 素 デ ー タ ( X1 ~ Xq) 、 調 査 地 点 が m 個 の 場 合 、 次 式 で 表 さ れ る . Y m1~ mq = a1qX1+ a2q X2+ ・ ・ ・ + aq q Xq Y1 が 第 1 主 成 分 、 Yq が 第 q 主 成 分 で あ り 、 係 数 a1q~ aq q が 固 有 ベ ク ト ル と な る .固 有 ベ ク ト ル の 正 負 、大 き さ に よ っ て 各 主 成 分 に 対 し て 変 量 X 1 ~ Xq が ど の 程度効いているかが分かり、その特性を把握することが可能となる.表―1のデ ータを用いて主成分分析を適用し た.各変数を標準化した相関行列 の固有値、固有ベクトルを求めた 結果が表―2である.また、各主 成分の寄与率、累積寄与率を示し て い る .第 1 主 成 分 で 24% で あ り 、 第7主成分までの累積寄与率は 65% と な っ た . 各主成分の解釈は以下のように な る と 考 え ら れ る .第 1 主 成 分 は 、 河川の自由度や砂州、淵や早瀬、 流速、水深差の有無等の要因から 河川の多様性と、人工草地、高木 なヤナギ林等で構成される軸と考 えられる.第2主成分は、樹木や 草本など人工草地、牧草地を除く 自然の緑量と、水面面積が広く、 床止め、人工草地が存在する河川 を示している。第3主成分は、河 床勾配が急で人工構造物があり、 草本や人工草地などから、河川 表―2 主成分分析結果 固有ベクトル 主成分1 主成分2 主成分3 主成分4 主成分5 主成分6 主成分7 -0.243 0.26 0.09 -0.176 0.274 0.036 0.043 ヤナギ林 -0.005 0.03 0.244 0.073 0.113 -0.005 -0.223 ハリエンジュ 0.006 0.144 0.049 0.268 0.218 0.204 0.276 植栽樹 -0.084 0.303 -0.418 0.213 0.111 -0.002 0.151 高茎草本 0.032 0.293 -0.14 0.102 -0.288 -0.233 -0.042 低茎草本 -0.254 -0.228 -0.263 -0.058 0.027 0.066 -0.087 人工草地 0.003 0.095 0.146 0.221 -0.142 -0.46 0 グランド公園 0.017 0.085 0.113 -0.145 0 0.072 -0.111 人工裸地 0.158 -0.05 0.239 0.393 0.143 -0.075 0.03 人工構造物 0.323 -0.09 -0.031 -0.096 0.047 0.117 -0.082 自然裸地 -0.236 -0.336 -0.064 -0.083 -0.104 -0.115 0.235 開放水面 -0.16 0.364 0.225 -0.178 0.243 0.094 0.085 樹木率 -0.013 0.413 -0.378 0.208 -0.051 -0.069 0.116 草本率 0.104 0.127 0.125 -0.152 -0.108 -0.41 -0.051 人工草地 0.223 0.105 -0.155 -0.1 -0.104 0.271 -0.313 淵 0.169 -0.026 -0.107 -0.23 0.183 -0.109 0.34 早瀬 -0.294 -0.065 0.197 0.238 -0.043 -0.141 0.015 平瀬 0.298 0.17 0.153 -0.059 -0.016 -0.134 0.022 砂州有無 0.175 -0.077 -0.046 -0.125 0.338 -0.309 -0.106 分流湾曲 0.335 0.013 -0.034 -0.054 0.066 0.133 -0.167 自由度 0.193 0.121 0.009 -0.148 0.132 0.157 0.304 流速水深 -0.016 -0.012 0.117 -0.148 -0.224 0.112 0.405 支川流入 -0.235 0.092 0.177 -0.237 0.122 -0.018 -0.015 水際カバー 0.074 -0.007 -0.163 -0.22 0.341 -0.388 0.043 中州河畔林 -0.243 -0.008 0.111 -0.034 0.237 -0.036 -0.141 樹木高さ -0.195 0.29 0.125 -0.162 -0.186 0.144 -0.075 樹木連続性 0.107 -0.037 0.192 0.416 0.32 0.145 0.025 橋梁有無 0.107 -0.202 0.041 0.002 -0.053 0.012 0.425 床止め 0.179 0.15 0.349 -0.069 -0.287 0.003 0.155 河床勾配 6.954 2.984 2.181 1.925 1.821 1.601 1.371 固有値 23.90% 10.20% 7.50% 6.60% 6.20% 5.50% 4.70% 寄与率 23.90% 34.20% 41.70% 48.40% 54.70% 60.20% 64.90% 累積寄与率 第1主成分 第2主成分 第3主成分 河川自由度 草本率 河床勾配急 自 然 裸 地 (砂 州 ) 樹木率 ハリエンジュ 砂州有り 高茎草本群落 人工構造物 淵 :比 率 低茎草本群落 樹木率 流 速 、水 深 差 有 樹木連続 -0.5 -0.3 -0.1 平 瀬 :比 率 開放水面 分 流 、湾 曲 有 り 淵 :比 率 ヤナギ林 自 然 裸 地 (砂 州 ) 中州河畔林有 人 工 草 地 /牧 草 地 樹 木 高 さ(高 木 ) 床止め 人 工 草 地 /牧 草 地 人 工 草 地 /牧 草 地 草本率 平 瀬 :比 率 開放水面 高茎草本群落 0.1 0.3 0.5 図―2 -0.5 -0.3 -0.1 0.1 0.3 0.5 -0.5 -0.3 -0.1 0.1 0.3 0.5 主 成 分 分 析 結 果 (第 1 ~ 第 3 ) の地形や草地性と考えられる.以下、第4主成分は橋梁、人工構造物から人工性 と、河畔林のカバー、第 5 主成分は湾曲、分流と中州部分の河畔林、第 6 主成分 は高水敷の人間の利用、第 7 主成分は床止めの設置や支川流入、淵などが関係し ている. 各 主 成 分 の 得 点 は 100m 区 間 ご と の 各 地 点 で 算 出 さ れ 、 地 点 間 の 比 較 が 以 上 の 河 川 環 境 軸 に よ っ て 定 量 的 に 可 能 と な る .し か し 、こ れ ら の 解 釈 は 主 観 的 で あ り 、 各生物との実データとの比較によって検討を進める必要がある.そこで、次に各 地点の主成分得点を、魚類、鳥類の実測データによって検証する. 4.生態系の実測評価と主成分得点の関係 (1)魚類の実測データによる検証 豊 平 川 の 各 地 点 で 2001 年 8 、 10 月 、 2002 年 8 、 9 月 に 、 苗 穂 鉄 道 橋 、 南 7 条大橋、幌平橋、ミュンヘン大橋等各 4 地点で平瀬、早瀬、淵の河川形態別に魚 類 を 投 網 、 ES で 採 補 し 、 実 測 デ ー タ を 計 測 し た . 魚類の実測地点における主成分得点と魚類の生息数との関係を相関分析によっ て相対比較する.生息数は、各地点の平瀬、早瀬、淵に生息した平均個体数密度 を 用 い て 、調 査 年 の 月 ご と に 比 較 し た( 図 ― 3 ).調 査 実 施 箇 所 の 各 地 点 300m を 比 較 の 対 象 範 囲 と 設 定 し た た め 、12 地 点 で の 分 析 と な る .魚 種 に つ い て は ヤ マ メ 、 ウ グ イ 属 、ハ ナ カ ジ カ 、フ ク ド ジ ョ ウ 、ウ キ ゴ リ 等 で あ り 、全 体 の 個 体 数 、ま た 、 遊泳性魚類と底生魚類の各個体数に分けて検討した. その結果、河川の多様性を表す第 1 主成分とは正の相関がある.第2主成分と は負の相関があるが、河川の水面面積が広いほど生息数が大きい.第3主成分か らは河床勾配が急である事が生息数を減じていると考えられる.第4主成分は、 河畔林のカバーや中州の河畔林、早瀬が魚類の生息数を増加させ、人工構造物の 存在が減少させていると思われる.第5主成分は、河川流水部の蛇行、河畔林が 生息数を増加させている.第6、7主成分からは高水敷の人間の利用が少なく、 淵が多い場合、生息数を高めている.遊泳魚と底生魚では主成分値によっては相 関関係が逆のケースがあった.各魚種の生息に重要な要因や河川流水部の情報を 組み入れることが必要である. 0.8 0.8 平成14年8月 平成14年9月 -0.2 -0.2 -0.4 -0.4 -0.6 -0.6 -0.8 -0.8 遊泳魚 図―3 7 6 5 4 3 2 1 0 第 第 第 第 第 第 第 0 7 6 5 4 3 2 1 0.2 平成13年8月 平成13年10月 第 第 第 第 第 第 第 0.2 7 6 5 4 3 2 1 0.4 第 第 第 第 第 第 第 0.4 7 6 5 4 3 2 1 0.6 第 第 第 第 第 第 第 0.6 底生魚 全魚類 各主成分得点と魚類の実測数(相関係数) 以上の結果は、おおむね既往知見と一致しており、魚類の生息に対して今回得 られた河川環境指標が有効であることが示された.8 月と 9 月の調査時期によっ て相関の強さが異なるが、魚類の生態に関係する要因、流量、水質その他時期的 な変動を取り込んだ物理的要素を考慮する必要があると考えられる.さらに実測 データを増やして検証することが重要である. (2)鳥類の実測データによる検証 鳥 類 は 、ラ イ ン セ ン サ ス 法 に よ っ て 全 区 間 を 調 査 し た .2003 年 6 月 に 3 回 実 施 し 、 鳥 類 の 種 及 び 数 を 確 認 し 記 録 す る . こ れ ら か ら 100m 区 間 ご と の 鳥 類 の 種 、 数の実測データが得られ、魚類と同様に各地点における主成分得点と生息との関 係 を 相 関 分 析 に よ っ て 検 討 す る .鳥 類 の 全 種 類 数 、全 生 息 数 と 、河 畔 林 、草 地 性 、 水域性、住宅地、農耕地の生息別によるケースに対して検証している.その結果 を図-4に示す. 0.5 0.5 生息数 生息数 種類数 0.3 0.3 0.1 0.1 -0.1 -0.1 -0.3 -0.3 -0.5 -0.5 農耕地 第 7 各主成分得点と鳥類の実測数(相関係数) 第 6 第 5 住宅地 第 4 第 3 第 2 第 1 第 7 水域 第 6 第 5 第 4 第 3 全鳥類 -0.7 第 2 第 1 図―4 第 7 第 6 草地 第 5 第 4 第 3 河畔林 第 2 第 1 第 7 第 6 第 5 第 4 第 3 第 2 第 1 -0.7 種類数 鳥 類 全 般 を 対 象 に 検 討 し た 結 果 か ら は 、第 1 主 成 分 か ら は 、平 瀬 、高 木 の 樹 木 、 ヤナギ林、草地と相関がある.種類数の方が生息数に比べ相関係数が大きい.第 2主成分の自然の緑量は、全生息数、河畔林性、住宅、農耕地に生息する鳥類と 正の相関があったが、草地、水域性鳥類は負の相関であり、水面と人工草地と関 連 し て い る .第 3 主 成 分 の 草 本 群 、草 地 が あ る 場 合 は 種 類 数 、生 息 数 を 増 加 さ せ 、 人工構造物は減じている.第5主成分の中州にある河畔林や、分流、湾曲など河 川 の 蛇 行 は 鳥 類 の 生 息 と 正 の 相 関 が あ る . 第 4 、 第 6、 第 7 主 成 分 は 相 関 係 数 が 低かった. (3)魚類、鳥類の生息の総合評価 各地点の河川環境の評価、地点間の比較を、魚類の生息実施箇所の4地点(苗 穂大橋、南 7 条橋、幌平橋、ミュンヘン橋)を対象に行う.図―5に各地点の主 成分別得点を示す.得られた指標(河川環境軸を表す各主成分)から、魚類と鳥 類の評価を同時に行うことが可能となる.なお、地点別の主成分得点の算出は、 各 主 成 分 を 表 す 式 に 、物 理 的 構 成 要 素 デ ー タ( X 1 ~ X q )を 代 入 し て 得 ら れ る( Y 1~ Yq) . 主 成 分 得 点 は 6 幌平橋 ミュンヘン大橋 1 5 4 3 2 7 1 0 -1.67 0.77 -1 -2 -3 -4 -5 1.04 -0.84 5 300m 区 間 の 平 均 値 を 用 い た . 2 1.47 7 0.03 2.34 -0.26 3 6 -0.38 4 南7条橋 1 5 4 3 2 0.57 1 0 -1 -2 -3 -4 -5 0.32 0.11 5 図―5 7 2 0.14 0.09 -0.54 4 -1.77 苗穂大橋 1 5 4 3 1.73 2 1 0 -1 -2 -3 -4 -5 7 2 2.00 -0.93 0.23 3 6 3 6 1 5 4 2.69 3 2 1 0 -1 -2 -3 -4 -5 2 -0.55 -0.75 0.21 -1.82 0.88 5 2.7 4 5 0.44 4 地点別の各主成分得点結果 寄 与 率 が 高 い 第 1、 第 2 主 成 分 の 得 点 か ら 4 地 点 を 比 較 評 価 す る と 、 ミ ュ ン ヘ ン大橋は鳥類、南 7 条大橋は魚類と河畔林性、住宅、農耕地に生息する鳥類、苗 穂大橋は魚類の生息環境が良好となる結果となった. その他、第3主成分からは苗穂大橋で高く、魚類の他、鳥類にとっても良いこ とがわかる.第4主成分から魚類の生息がミュンヘン大橋で優れている.苗穂大 橋は、第5主成分からも魚類、鳥類の両方にとって良好な環境であることが示さ れている.第6主成分の人間の高水敷利用等を表す軸は、南7条大橋、幌平橋が 高い.第7主成分からは苗穂大橋が魚類に良好な環境となっている. このように、各地点の河川環境が多様な指標(軸)で表され、各指標ごとに魚 類 、鳥 類 等 各 生 物 の 生 息 評 価 を 行 う こ と が 可 能 と な っ た .今 後 、生 息 環 境 を 産 卵 、 営巣、摂食、休息等に対応した物理的要因の抽出を行って、各指標を詳細に解釈 するとともに、実測データとの比較、検証が必要である. 3 5.現地観測等データによる評価 同一の河川を評価する場合、以上のような河川の連続的、定量的なデータが重 要となる.しかし、様々な河川を相対的に評価する場合、調査対象箇所の点デー タや限定されたデータを利用することが予想される.そこで、豊平川支川の中小 河川を含めた対象箇所に対して、現地観測等によって河川環境データを収集し、 同様の評価、分析を行う. 豊 平 川 本 川 22 地 点 、支 川 82 地 点 の 計 104 地 点 で の 河 川 の 物 理 的 環 境 デ ー タ を 収 集 し た .支 川 は 、厚 別 川 、野 津 幌 川 、小 野 津 幌 川 、月 寒 川 、望 月 寒 川 、清 田 川 、 北白石川、山本川、三里川、うらうちない川、精進川、真駒内川、南の沢川、北 の沢川、穴の川などで豊平川流域の大小さまざまな河川が対象であるが、石狩川 開発建設部で収集されたデータを用いた. 表 ― 3 に 示 す よ う に 21 調 査 項 目 で 、 水 質 デ ー タ , 河 川 幅 , 河 川 敷 幅 , 道 路 幅 に つ い て の デ ー タ は 地 形 図 等 か ら の 実 測 デ ー タ を 計 測 し た . 水 質 ( 景 観 )、 水 流 、 流 速 差 、水 へ の ア ク セ ス 性 、樹 木 量 ,緑 の 量 ,草 量 ,堤 防 ,護 岸 ・ 堤 防 ・ 水 路( 整 備 形 態 ), 河 川 敷 の 利 用 、 河 川 タ イ プ ( 水 、 石 、 草 ), 水 量 , 蛇 行 程 度 、 樹 木 、 植 生の高さ、連続性、水際植生、河畔林カバー有無、河床(固定、自然)は、それ ぞれカテゴリーを決めて現地観測データ及び各地点での上下流の景観から人間の 判断で分類している.堤防は自然堤防、護岸の傾斜角、垂直護岸に、蛇行程度は 直線と、蛇行箇所数で分類した. 主成分分析の結果を表―3に示す.変数間の相関関係から、河川幅と河川敷幅 に 強 い 正 の 相 関 性 、BOD と 透 視 度、河川幅、河川敷幅と利用空 表―3 主成分分析結果(現地観測等データ) 主成分5 -0.02 主成分6 -0.12 0.35 0.1 -0.24 -0.31 0.39 0.18 -0.33 -0.26 0.15 -0.04 0.03 0.13 0.37 0.23 -0.01 -0.05 0.22 0.2 -0.09 0.28 -0.1 0.27 0.12 -0.04 水質 0.17 0.23 0.29 0.03 0.27 0.02 水流 0.09 0.26 0.28 0.32 0.24 0.17 アクセス 0.25 -0.09 -0.04 -0.35 0.37 -0.11 であるほどこれらの傾向が強い 緑の量 -0.26 -0.3 0.29 -0.01 0.2 0 ことから、小河川の特徴を表し 草量 0.17 0.28 -0.33 -0.09 -0.25 0.21 堤防 -0.01 0.26 -0.14 -0.01 -0.15 -0.16 ている.第2主成分は、水温が 護岸 0.31 0.1 -0.29 -0.16 0.15 0.21 低く、緑の量、草量が多い.ま 利用空 0.35 -0.17 0.14 -0.02 -0.07 -0.3 利用親 0.08 0.01 0.2 -0.13 0.3 -0.14 た、河川も蛇行している.これ 川相水 -0.33 0.11 0.09 -0.07 0 -0.45 は、自然的な河川の特徴(自然 川相石 -0.04 -0.28 0.19 0.08 -0.33 0.43 川相草 0.23 -0.06 -0.12 0.32 0.24 0.17 水量 0.33 -0.02 0.13 0.22 0.11 0.12 湾曲 0.02 -0.36 0.1 0.35 -0.03 0.03 固有値 4.61 2.96 1.91 1.7 1.61 1.3 寄与率 21.95 14.12 9.11 8.07 7.66 6.17 累積寄与率 21.95 36.06 45.17 53.24 60.91 67.08 間、緑の量と草量の間に負の相 関 が 見 ら れ た .第 6 主 成 分 で 累 積 寄 与 率 は 67% と な っ た . その解釈は、例えば第1主成 分は,河川幅と河川敷幅が小さ く、護岸が急であり、利用空間 がなく、水量が少ない.正の値 度)を示しているといえる. 第3主成分は透視度、色相、 BOD 値 、見 た 目 の 水 質 、水 流 な ど河川の水質、汚濁度を示して 水温 主成分1 0.02 主成分2 0.4 主成分3 0.24 透視度 -0.05 -0.11 -0.43 色相 -0.13 -0.16 -0.17 BOD 0.13 0.18 0.33 河川幅 -0.36 0.1 河川敷 -0.35 道路幅 主成分4 0.19 いる.第4主成分以降さらに具体的な解釈を可能とさせるためには、定量的かつ さまざまな物理的データと各生物の生息、生育関係を把握して、これらの知見を 変 数 に 反 映 さ せ て 評 価 す る 必 要 が あ る . 今 後 、 豊 平 川 本 川 22 地 点 に お い て 、 現 地 観 測 デ ー タ に よ る 評 価 値 と GIS 利 用 に よ る 評 価 値 を 比 較 し 、 分 析 デ ー タ の 量 、 質、精度の違いを踏まえ、適用方法も検討したい. あとがき 本研究で提案した評価指標は、容易に計測できる河川環境の物理的データを用 いて、人間や生物等各主体からの河川環境を総合的に評価することが可能である ことが特徴である.魚類、鳥類の生息環境を考慮した河川特性を含む多様な物理 環境を主成分分析によって類型化した.本手法は、対象とする河川の相対的な比 較に関する情報が得られるものであり、外的な基準によって整備の方向性を評価 することはできない.しかし、現況の河川環境の特性を定量的に評価し、改修工 事等を実施し河川の物理的構成要素を変化させた場合に、各生物への影響がどの 程度になるか予測情報が提供される点で有効であると思われる. ま た 、 GIS 等 の 利 用 は 、 よ り 詳 細 、 具 体 的 に 河 川 環 境 を 評 価 す る 可 能 性 が 大 き い .今 後 、各 魚 種 、鳥 類 別 の 異 な っ た 生 息 環 境 に 関 連 す る デ ー タ 収 集 、底 生 生 物 、 両生類など河川に生息する様々な生物にとって重要な変数の抽出が重要である. 流 量 、 水 質 デ ー タ ( DO 、 BOD 、 水 温 な ど ) な ど 変 動 す る デ ー タ の 取 り 込 み も 検 討する必要がある.本研究による手法の有効性を検証するために、各生物の生息 等実測データと物理環境データによる評価値との関連分析の実施と、調査費用を 考慮し、詳細な検証データの調査方法、適切な抽出方法の検討が考えられる. 謝辞:本研究を行うにあたり、北海道開発局受託研究費による補助、石狩川開発 建設部から貴重なデータ・資料を提供して頂いた。ここに記して謝意を表する。 参考文献 1)国土交通省中国地方整備局、「河川水辺国勢調査」に基づく河川環境評価の手引 き 、 平 成 14年 3 月 2)水野伸一、笠本誠、堺茂樹、河川水辺国勢調査を用いた魚類生息状況と物理特性 と の 関 係 に つ い て の 研 究 、 水 工 学 論 文 集 第 46巻 、 pp1139- 1144、 2002年 2月 3)国土交通省河川局、リバーフロント整備センター、河川水辺総括資料作成調査の 手 引 き ( 案 ) 、 2001 4)菅和利、森下郁子、水域生態系の定量評価手法の開発と治水計画策定への応用に つ い て 、 土 木 学 会 河 川 技 術 論 文 集 第 8巻 、 pp85- 90、 2002年 6月 5 ) 土 屋 十 圀 、 和 泉 清 、 河 川 環 境 評 価 に つ い て の 一 考 察 、 土 木 学 会 水 工 学 論 文 集 第 34 巻 、 pp55‐ 60、 1990年 2月 6)矢部浩規、山口昌志、佐々木成人、河川環境からみた必要流量の評価に関する研 究 、 土 木 学 会 北 海 道 支 部 論 文 報 告 集 第 50号 、 pp464-467、 平 成 6年 2月
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