東日本大震災による被災堤防復旧工法 河川政策グループ 柳畑 亨 1)、森永 大輔 2)、佐古 俊介 3) 概要: 平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震では、東北地方から関東地方の広範囲にわたって河川堤防 が多く被災した。これらの堤防被災箇所の中で、関東地方整備局管内では災害復旧工法として、 「鋼矢板と カゴマットを組み合わせた耐震対策工法」が採用されている堤防区間がある。 本研究では、上記地区を対象に、堤防の地下水位観測結果並びに 2 次元飽和不飽和浸透流解析及び地震 時変形解析の結果を基に敷設されている耐震対策工について、堤防の浸透機能への影響及び耐震効果を検 証・考察し、①出水時や降雨時の堤体内の浸潤線の上昇を耐震矢板上部に設置したカゴマットによる排水 によって抑制しており、浸透に対する安全性照査時に考慮されている外力時にも堤防の安全性を確保でき ること、②東日本大震災と同程度の地震が発生した場合では、耐震矢板によって裏のり尻部の側方変位に 対する抑制効果が発揮されること、を明らかにした。さらに、本検証結果を踏まえた「河川構造物の耐震性 能照査指針」等における河川堤防の耐震対策の課題について報告する。 キーワード: 河川堤防、閉封飽和域、耐震対策工、浸透流解析、地震時変形解析 馬淵川水系 13箇所 1.はじめに 平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震(以下、「東 北地方太平洋沖地震」という。 )により、東北地方から関 東地方の広範囲にわたって河川堤防が被災した(図-1) 。 堤防被災は、従来多く見られた基礎地盤の液状化を原 因とするもの以外に、これまで地震による堤防の被災と して主眼が置かれてこなかった閉封飽和域(堤体下部の 堤体内水位以下の砂層)の液状化による被災が多数発生 したのが特徴である。 本研究では、東北地方太平洋沖地震で生じた被災箇所 の中で、災害復旧工法として「鋼矢板とカゴマットを組 み合わせた耐震対策工法」が採用されている利根川安食 地区堤防を対象として、地下水位観測結果並びに 2 次元 飽和不飽和浸透流解析及び地震時変形解析の結果を基に、 敷設されている耐震対策工について、堤防の浸透機能へ の影響及び耐震効果を検証・考察する。さらに、本検証 結果を踏まえた「河川構造物の耐震性能照査指針」等にお ける河川堤防の地震対策の課題について報告する。 北上川水系 那珂川水系 646箇所 129箇所 久慈川水系 110箇所 名取川水系 鳴瀬川水系 35箇所 364箇所 利根川水系 荒川水系 659箇所 22箇所 阿武隈川水系 137箇所 :堤防に地震に伴う変状が見られた区域 :大規模被災箇所(HWLよ りも深い堤体の沈下、陥没や、亀裂が発生した箇所) 数字は各水系における 被災箇所数 図-1 堤防被災範囲と大規模被災箇所 1) 1) 柳畑 2) 森永 3) 佐古 亨 河川政策グループ 主任研究員 大輔 河川政策グループ 研究員 俊介 河川政策グループ 首席研究員 - 1 - :被災前形状 :被災後形状 2.検証対象箇所 (1)堤防改修、地形・地質 検討対象とした安食地区堤防は、千葉県印旛郡栄町地 先の利根川右岸堤防である(図-2) 。 図-4 被災後の堤防変形状況(A タイプ) (R70.0k 近傍) 利根川右岸安食地区を含む上下流区間の本格的な河川 改修は、明治 33 年から着工した利根川改修工事の第 2 :被災前形状 期工事(取手~佐原間)に始まり、現在に至っている。 :被災後形状 河川堤防は、安食地区の一部を除けば、明治改修前に 存在していた旧堤防を嵩上げ・拡幅して現在に至ったも のと考えられ、これらの築堤材料としては、改修に伴い 撤去した旧堤防及び河道の掘削土が主に用いられている。 図-5 被災後の堤防変形状況(B タイプ) (R70.75k) また、対象地区は、図-3 に示されるように、縄文海進 期には海であり、基礎地盤には厚く粘性土が分布してお なお、堤内地での噴砂は確認されていない。 り、粘性土中に砂層が狭在している。 大規模被災箇所に分類された当該堤防は、緊急災とし 近年では、昭和 57 年、58 年、60 年に堤体漏水、基礎 て申請され、緊急復旧として被災前形状に復旧(原形復 地盤漏水が多くの箇所で発生している区間である。 旧)された。 (3)災害復旧工法 安食地区堤防における災害復旧工法は、東日本大震災 後に関東地方整備局が設置した「関東地方河川堤防復旧 技術等検討会」 (委員長:東畑 郁生 東京大学大学院教授) での本復旧の基本方針、検討項目、設計条件(図-6)を 踏まえて、グラベルドレーン工法(地盤系対策工法) 、固 結工法、自立式鋼矢板工法(以上、構造系対策工法)に ついて、施工性、経済性等の比較検討 2)、3)が行われ、鋼 矢板による耐震対策工法が選定されている。 布川水位観測所 R69.4k R70.0k 須賀水位観測所 安食地区 北千葉第一機場観測所 (雨量) 図-2 検討対象地区(利根川右岸安食地区) 【液状化対策実施の基本方針】 「大規模被災箇所」について、災害復旧事業としての再度災害防止の観点より 「同等の地震を受けたとしても中規模被災以下に止まる」ことを目的として、 「液状化対策」を施すこととする。 ※1)大規模被災:堤防被災がHWLより深い位置に達し、堤防損傷・変形が大きく堤防機能を損なう被災(原形復 旧+液状化対策) ※2)中規模被災:堤防被災がHWLより浅い位置に止まる程度であり、速やかな復旧が可能な被災(原形復旧) 【液状化対策検討項目】 ①地質調査を実施した上で被災メカニズムを十分検証し、効果的な対策工法とする。 ②緊急復旧等で行われた「切返し(掘削・盛土)」は活かすものとする(霞ヶ浦を除 く)。 ③堤防天端や小段の道路利用、堤防に近接する家屋等、周辺環境への影響に配慮する。 ④今回の震災で効果が確認された既設対策工(漏水矢板等)は極力活かすものとする。 ⑤経済性に十分配慮する(目的物・仮設物を含めたトータルコストを勘案し、工法等比 較検討を行う)。 【液状化対策設計条件】 本震災によって過去に実施した耐震対策工の効果が確認されたことを踏まえ、液状化対策の設 計にあたっては下記条件とした。 (※「第1回河川堤防耐震対策緊急検討委員会【国土交通省】」資料等) ①設計基準 ・鋼矢板以外:河川堤防の液状化対策工法設計施工マニュアル(案)平成9年10月 「建 設省土木研究所 耐震技術研究センター 動土質研究室」 ・鋼 矢 板:同上(設計編 鋼材を用いた対策工法)部分改訂版 平成10年10月 「建設省土木研究所 耐震技術研究センター 動土質研究室」 ②ドレーン工は堤体内の地質想定横断を確認し、液状化層の位置、地下水位(堤体内水 位)、堤防断面とのバランス等に配慮して設計する。 図-3 関東低地の貝塚の分布と旧海岸線 図-6 「関東地方河川堤防復旧技術等検討会」での (2)東日本大震災での堤防被災 安食地区堤防は、右岸 69k 近傍から右岸 71k 近傍の約 2km に亘り被災した。堤防横断面においては、川表のり 面の変状はほとんどないものの「天端が沈下・陥没し、 裏のり面が変形した変状タイプ」 (A タイプ;図-4)と「天 端沈下は顕著でなく、裏のりの小段からのり尻において 変形した変状タイプ」 (B タイプ;図-5)に分類される。 -2- 本復旧の基本方針、検討項目、設計条件 4) なお、安食地区では、鋼矢板設置による堤防浸透機能 への影響を配慮して基礎地盤砂層に通水穴を設けた有孔 矢板とし、矢板上部には、閉封飽和域の形成を軽減する ために、 堤体内水位を排水促進するためのカゴマット (ド レーン工)が併設されている(図-7 参照) 。 図-7 災害復旧工事における断面図 川表側 3.地下水位観測結果からの評価等 本復旧として耐震対策工を実施した区間と無対策区間 の代表断面(それぞれ対策有断面 R70.0k、対策無断面 R69.4k)において、耐震対策工による堤防浸透機能への 影響を評価するために、全層ストレーナ形式の地下水位 観測井が堤体横断方向に 5 か所設置され(図-8、図-9 参 照) 、 地下水位の変動が平成 24 年 11 月 8 日から観測され ている。平成 26 年 2 月 25 日までの限られた期間での地 下水位観測結果であるが、この間に日雨量 50mm 以上が 7 日あり、河川水位が高水敷付近まで上昇した日が 2 日 あった(図-10、図-11 参照) 。なお、無対策区間につい ては、地下水位観測期間中の平成 25 年 11 月~平成 26 年 2 月で、耐震対策工が施工された。 安食地区の堤防断面は、堤防の川表側に既設の遮水矢 板及び護岸があり、対策有箇所では裏のり尻付近に耐震 矢板とその上部に幅 2m のカゴマットが施され、 対策無箇 所では平成 25 年 11 月まではこれらが無い状態である。 地下水位観測結果より明らかとなった事項を以下に示 す。 ・観測期間内の平均的な値で比較すると、堤体内水位は 降水量 (mm/hr) 11/19 1/8 3 4 5 R70.0k 対策有断面 図-8 対策有断面(R70.0k)における水位観測井 川表側 川裏側 R69.40-1 2 R69.4k 3 4 5 対策無断面 図-9 対策無断面(R69.4k)における水位観測井 対策工の有無にかかわらず、堤内地の地下水位よりも 高い状態にある。また、堤内地の地下水位は河川水位 よりも高い。 ・3 日雨量で 246mm を記録した平成 25 年 10 月の台風 26 (平成25年) (平成24年) 9/30 0 川裏側 2 R70.00-1 (平成26年) 2/27 4/18 6/7 7/27 9/15 11/4 12/24 2/12 10 20 30 40 北千葉第一機場 50 6.0 5.5 1 2 3 4 R70.0-1 R70.0-2 R70.0-3 R70.0-4 R70.0-5 5 5.0 標高 YP m 4.5 河川水位 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 ドレーン工下端標高 YP +2.8m 1.5 1.0 完成断面図(R70.0k から 5m 上 流の No.6 地点)からの判読値 0.5 0.0 9/30 (平成24年) 11/19 1/8 2/27 (平成25年) 4/18 6/7 7/27 9/15 11/4 12/24 2/12 (平成26年) 日付 図-10 対策有断面(R70.0k)における地下水位観測結果の時刻歴 -3- (平成25年) (平成24年) 降水量 (mm/hr) 9/30 0 11/19 1/8 (平成26年) 2/27 4/18 6/7 7/27 9/15 11/4 12/24 2/12 10 20 R69.4-1 R69.4-2 R69.4-3 R69.4-4 R69.4-5 30 40 北千葉第一機場 河川水位 50 6.0 5.5 1 5.0 2 3 4 ドレーン工下端標高 YP +3.54m 5 標高 YP m 設計横断図(No.16 地点)から の判読値 ドレーン施工: 平成 25 年 12 月 13 日~ 平成 26 年 2 月 7 日 4.5 4.0 3.5 矢板施工: 平成 25 年 11 月 14 日~ 12 月 25 日 3.0 2.5 2.0 削孔部標高 YP +2.69m 1.5 1.0 設計矢板工詳細図(No.16 地点) からの判読値 0.5 0.0 9/30 11/19 (平成24年) 1/8 (平成25年) 2/27 4/18 6/7 7/27 9/15 11/4 12/24 2/12 (平成26年) 日付 図-11 対策無断面(R69.4k)における地下水位観測結果の時刻歴 1.3 号により堤体内水位は最高値を示した。 ・観測期間内での検証断面における堤体内水位に及ぼす 影響は、河川水位よりも降雨によるものが大きい。 ・対策有箇所の水位低下速度は対策無箇所に比べ若干遅 い傾向を示している。なお、カゴマット近傍の地下水 位観測井 No.4 では、 同断面内の他の観測井に比べ水位 低下速度が速いことからカゴマットによる排水効果が 発揮されたものと考えられる。 安食地区R70.0k 裏のり面下部の飽和面積比 Si/S② 裏小段近傍水位高比 hi/h② 「②耐震対策後(現況)」との比 1.2 裏小段近傍 水位算出箇所 堤体内飽和 面積求積範囲 堤体内浸潤線 1.1 堤体内飽和面積 Si (裏小段~のり尻間の飽和度100%部分の面積) hi 1.0 0.9 0.8 4.浸透流解析結果からの評価等 0.7 ①耐震対策前 対策実施箇所の堤防断面(R70.0k)を対象として堤防 横断方向のモデル化を行い、2 次元飽和不飽和浸透流解 析を実施した。検討ケースを表-1 に示す。 その結果、浸透に対する安全性照査時に考慮 5)されて いる豪雨・河川水位を外力とする場合においても、対策 工無断面(表-1 ケース 4)と比較して、現況の耐震対 策工(表-1 ケース 2)は、堤防の耐浸透機能を低下さ せるような影響を及ぼさないことと、堤防の安全性を確 保できることを確認した。なお、現況の条件では、裏の り面に浸潤線が滲出するものの、 ドレーン工幅が 8m の場 合(表-1 ケース 5-2)には裏小段近傍水位高比が 2 割 ②耐震対策後(現況) ③ドレーン工幅4m ④ドレーン工幅8m 図-13 対策工による浸透性評価(R70.0k) 程度減少することから、カゴマットの敷設幅を 4m~8m と広くすれば、裏のり面への滲出についても抑制できる ものと考えられる(図-13 参照) 。 以上の解析結果より、対象地区において採用した耐震 対策工(矢板・カゴマット)は、出水時や降雨時の堤体 内の浸潤線の上昇を耐震矢板上部に設置したカゴマット による排水によって抑制していることが分かり、上述し た地下水位観測結果とも整合する。 表-1 対策有断面(R70.0k)における 2 次元飽和不飽和浸透流解析検討ケース 計算ケース 鋼矢板 遮水矢板(川表) 耐震矢板(川裏) -6 cm/sec 10 -6 cm/sec 10 0.検証・同定(1) 10 1.検証・同定(2) 10 無し -6 cm/sec 0 cm/sec 10 5-1 5-2 ドレーン敷設長L=2.0m(現況) 同 上 ドレーン工・耐震矢板の目詰まり想定 10 cm/sec 5.ドレーン工部の感度分析 計画規模 10 -6 10 同 上 cm/sec cm/sec cm/sec 4.耐震対策無し cm/sec -1 -6 -6 10 -1 10 10 cm/sec 0 cm/sec 3.浸透への影響(最悪条件) cm/sec cm/sec cm/sec 10 -1 外力 (河川水位・降雨) 平成25年10月の 台風26号以降の 観測データ -6 -6 2.浸透への影響 カゴマット (ドレーン工) -6 -2 10 cm/sec 無し -2 10 cm/sec L=4.0m L=8.0m - 4 - 備考 水位観測結果の低減曲線の範囲内で 堤体の透水係数を5ケース想定し、同 定透水係数を決定 同 上 同 上 設置幅を変更 設置幅を変更 表-2 対策有断面(R70.0k)における動的地震時変形解析検討ケース 計算ケース 堤体形状 1.検証・同定 H23.3.11形状 2.耐震効果の評価 現況形状 (震災復旧後) 堤体内水位 被災後(H23震後) 地質調査時水位 液状化発生土層 対策実施箇所の堤防断面(R70.0k)を対象として堤防 横断方向のモデル化を行い、有効応力に基づいた液状化 解析プログラム LIQCA2D136)を用いて動的地震時変形解 析を実施した。検討ケースを表-2 に示す。 当該地区の東日本大震災による堤防被災は、 被災後 (平 成 23 年 5 月) に実施された地質調査に基づく地質縦断図 から、堤体内天端下部の水位が堤内地(裏のり尻部)の 水位に比べて高い箇所で「天端沈下・陥没タイプ(A タ イプ;図-4 参照) 」の被災が生じていることが伺える。 また、 基礎地盤粘性土に狭在する砂層は N 値が 20 程度と 大きく、また、砂層厚が薄いことも特徴である。この狭 在する砂層の年代は特定されていないが、明治以前の古 い年代に堆積したものであると考えられること、並びに 堤内地では地震時に噴砂が確認されていないことを勘案 すると、この砂層が液状化し、堤防変形に影響した可能 性は小さいと考えられるが、 さらなる吟味が必要である。 以上の地震時被災形態と地盤構成の特徴を踏まえて、 当該地区堤防の東日本大震災における変形(A、B タイ プ;図-4、図-5 参照)について、堤体内の液状化領域範 囲を①川表遮水矢板~川裏のり尻、②天端下~川裏のり 尻、③第一小段下~川裏のり尻の3通りに変化させて再 現計算を行ったところ、堤体下部の液状化範囲は、天端 下から裏のり尻の範囲又は裏のり面下に存在していたと 想定したケースでの再現性が高かった。矢板による変形 抑制効果は条件(液状化領域の広がりなど)により異な るが、上記の堤防モデル化条件において、耐震矢板及び カゴマットを施した変形解析を実施したところ、天端標 高は H.W.L.以上を確保できること、堤内側への過大な変 3.0 天端沈下量,のり尻水平変位量 (m) 2.5 ドレーン工 外力 (地震動波形) 有り 無し 無し H23.3.11 推定波形 有り 有り 有り H23.3.11 推定波形 堤体下部砂層のみ 5.地震時変形解析結果からの評価等 安食地区R70.0k 鋼矢板 遮水矢板 耐震矢板 [天端沈下量] 天端下~のり尻液状化 第一小段下~のり尻液状化 [のり尻水平変位量] 天端下~のり尻液状化 第一小段下~のり尻液状化 震後調査時地下水位 2.0 1.5 形は抑制されることが分かった(図-14 参照) 。 以上より、採用した耐震対策工(矢板・カゴマット) は、年間の平均的な地下水位時に東日本大震災と同程度 の地震が発生した条件では、耐震矢板による天端沈下及 びのり尻部の側方変形に対する抑制効果を発揮するもの と考えられる。 6.河川堤防における耐震対策の課題 (1)本検証箇所における課題 災害復旧工法として実施した耐震対策工(矢板・カゴ マット)は、矢板設置による出水時や降雨時の堤体内の 浸潤線の上昇をカゴマットによる排水によって抑制して いること及びカゴマットによる堤体内水位の上昇抑制が 地震時の堤体下部液状化領域の拡大を防止しつつ矢板に よる変形抑制効果を発揮するものと評価できるが、限ら れた期間の、限られた降雨量の下で得られたデータ等に 基づく検討であり、有孔矢板の浸透特性等(有孔部によ る地下水位低下促進効果など)に関する不明の事項も残 る。 このため、以下に示す事項が必要と考える。 ① 地下水位観測の継続と監視 現在実施している地下水位観測を継続し、その結果 を定期的に分析することが重要である。さらに、災害 復旧対策区間での徒歩巡視の際には、対策工の効果発 現確認のため降雨後の時期を選んで裏のり尻付近のの り面の湿潤状況、カゴマットからの排水の状況(排水 の有無、濁り、砂の吸い出し等) 、流末の排水管・排水 路の状況等を観察しておくことが重要である。 ② サンプリング試料に基づく土質試験 採用した耐震対策工が将来ともその効用を継続して 発揮するためには、平時の堤体内水位が高くならない ことを知るとともに、本解析で用いた地盤条件が東日 本大震災時の堤防被災形態を十分説明できる地盤条件 であったことを確認することが重要である。 このため、 液状化領域の検証のためにサンプリングと土質試験を 実施し、地盤・堤体構造を再確認しておくことが重要 である。 1.0 (2)耐震対策工(矢板・カゴマット)における課題 対象地区での災害復旧工法を利根川の他地区や他河川 堤防へ適用するにあたっては次のような改善が必要と考 える。なお、耐震対策の実施にあたっては、併せて浸透 0.5 0.0 ①耐震対策前 ②耐震対策後(現況) 図-14 対策工による耐震性評価(R70.0k) -5- に対する安全性についても検討することが望ましい。 ① 裏のり尻矢板工法の適する現地条件の類別分類 堤内地の地下水位環境及び基礎地盤を含む堤防構造 (土質構成や形状等)により耐震矢板設置による堤体 内及び地下水への影響及び耐震効果は異なることから、 裏のり尻に矢板を設置することは技術的検討を踏まえ 慎重に取り扱うことが必要である。 ② カゴマットなどの併用 裏のり尻に矢板を設置する場合には、対象地区で実 施したように、矢板による堤体内水位の堰上げの影響 を軽減する目的でカゴマットなどドレーン効果を発揮 する工法を併用することが必須である。 ③ カゴマットなどの設置高、設置幅 のり面に浸潤線を滲出させないためには、カゴマッ トなどの設置幅を拡大する必要がある。同様にカゴ マットなどの設置高を下げることによる効果も期待で きる。最終的には求める堤防機能と対策費用との関係 を考慮し、それぞれの現場条件に応じて適切なカゴ マットなどの規模を設定するなどの改善が必要である。 なお、カゴマットなどの設置可能標高は排水系統の 流末標高に規定されるので、現地条件を適正に考慮す る必要がある。 ④ 有孔矢板の孔面積等の検討 有孔矢板の孔面積を拡大するとともに、孔部の矢板 の強度補強を図る等の改善が考えられる。 また、鋼材を変形抑制対策として用いる場合には、 変形抑制効果が発揮される範囲で矢板を堤防縦断方向 に連続して打設しないとか、矢板に代えて H 鋼を用い るなどの工夫が考えられる。 このため、室内実験や試験施工等により排水効果や 耐震効果を確認していく必要がある。 ⑤ 最新の技術知見に基づく他の耐震対策工法との比 較 東日本大震災の再度災害防止対策工として施工され た当該耐震矢板工法は、発災当時の被災状況、被災直 後の緊急復旧状況、周辺社会環境、復旧工期等の条件 の下、速やかな災害復旧が望まれる限られた時間の中 で選定された工法である。 平時に進める耐震対策事業や今後発生する地震に伴 う災害復旧工事においては、震災後に実施された工法 や事前対策の工法(例えば以下のような工法)などの 多くの既往実績を吟味・分析し、数値解析・遠心模型 実験による検討結果などの最新技術動向を加えて、震 災堤防の再度災害防止工法選定の考え方を整理してお くことが重要である。また、整理に当たっては、施工 性や耐震効果だけでなく、浸透に対する安全性の観点 からも比較することが必要である。 ・グラベルドレーン工法 ・サンドコンパクション工法 ・浅層地盤改良工法 など -6- 7.まとめ 本研究によって以下の事柄を明らかとした。 ・限られた期間の、限られた降雨量の下で得られたデー タ等に基づく検討であるが、災害復旧工法として実施 した耐震対策工(矢板・カゴマット)は、矢板設置に よる出水時や降雨時の堤体内の浸潤線の上昇をカゴ マットによる排水によって抑制していること及びカゴ マットによる堤体内水位の上昇抑制が地震時の堤体下 部液状化領域の拡大を防止しつつ矢板による変形抑制 効果を発揮するものと評価できる。 ・今後、地下水位を継続的に観測することや、数値計算 に用いた土質条件を検証することなどの課題がある。 ・耐震対策工は、施工性や耐震効果だけでなく、対策工 敷設による浸透に対する安全性の観点からの検討が必 要となる。 謝辞 本稿は、国土交通省関東地方整備局利根川下流河川事務所 から平成 25 年度に受託した「災害対策工効果検討業務」の 成果に基づいて作成したものである。同事務所のご担当の皆 様には多大なるご指導、ご支援を賜るとともに、本発表会へ の発表を快諾していただくなど、終始ご配慮をいただきまし た。また、佐々木 康 広島大学名誉教授、東畑 郁生 東京大 学大学院教授、京藤 敏達 筑波大学大学院教授、渦岡 良介 徳島大学大学院教授には、上記業務を進めるにあたっての方 向性や検討手法等について多大なご指導を賜りました。ここ に厚く謝意を表します。 参考文献 1)河川堤防耐震対策緊急検討委員会:東日本大震災を踏まえた 今後の河川堤防の耐震対策の進め方について 報告書, 2011.9. 2)建設省土木研究所:河川堤防の液状化対策工法設計施工マ ニュアル(案) ,1997.10. 3)建設省土木研究所:河川堤防の液状化対策工法設計施工マ ニュアル(案) (設計編 鋼材を用いた対策工法)部分改訂 版,1998.10. 4)関東地方河川堤防復旧技術等検討会:平成24年度出水期に 向けた対応について<本復旧について> (第3回資料-5) , 2011.9. 5)財団法人国土技術研究センター:河川堤防の構造検討の手引 き(改訂版) ,2012.2. 6)一般社団法人 LIQCA 液状化地盤研究所:LIQCA2D13・ LIQCA3D13(2013 年公開版) ,2013.11.
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