消防技術安全所報 46号(平成21年) 大型ブロアー車の換気・防煙能力の検証 湯浅弘章¥山村重行¥飯田明彦*¥渡遁茂男* 概 要 大型ブロアー車を大規模建築物の排煙活動に使用した場合の排煙能力を見積もるため、地上 1 4階 、 2 2 地下 2階、建築面積1.321m 、延べ床面積 1 5 . 8 4 0m の建物において大型ブロアー車による送風実験 を行い、階段室及び通路等における風速を測定した。また、大型ブロアー車を階段室の加圧による防 煙に使用した場合の能力を確認するためのデータも合わせて測定した。これらの測定データを基に、 BRI2002及 び FDS(FireDynamicsS i m u l a t o rVersion5 )を用いて換気・防煙能力の評価を行った。 2 実験概要 1 はじめに 大型ブロアー車は写真 1の通り、写真 2及び表 lに示す ( 1 ) 実験想定 R 福知山線脱 4階、地下 2階、建築面 換気・防煙活動を想定し、地上 1 線事故等の教訓から総務省消防庁により東京及び一部政令 積 1 , 3 2 1m2、延べ床面積 1 5, 840m2の建物(写真 3 ) におい 指定都市の特別高度救助隊に配備された。有毒ガス等の除 て表 2に示す 5種類の給気対象(写真 4 " " ' 7参照)について 大型送風装置を後部に装備した車両である。 去やトンネル・地下街等での火災における排煙にその活用 実験を行った。実験 l 、2、3については主に予想される給 が期待されている。 排気口を設定し実験を行った。実験 4、5については階段室 を消防活動拠点と仮定し、図 1のような階段室への給気に よる火災階からの防煙を想定した。消防隊進入時のドア開 放幅を 60cmとし、そのときの風速を測定した。またこの ドアを対象とした給気中における開放に必要な力を測定し た 。 表 1 送風装置概要 動力 風量及び風速 リフター動作範囲 連続稼動時間(目安) ネ装備安全課 ガソリンエンジン 1 , 5 9 5c c 最大送風量 210, 000m3j時 、 1 f J > 最大出口風速 45m 上昇約 1 , 300mm 、旋回 360度以上、 ! : 3 0度 ふ仰角約 : 燃料 4 5L満タン時、最大送風量で 2時間程度 写真 3 実験建物 *本高輪消防署 3 2 表 2 給気対象とした場所 ¥ ¥ 目的 実験 1 排煙 実験 2 実験 3 排煙 排煙 実験 4 防煙 実験 5 防煙 給気対象 アトリウム ( IF-13F) B2F大空間 階段室(I-14F) 階段室 (火災階 3 F ) 階段室 (火災階 1 3 F ) それぞれ l F、B 2 Fの給気口と排気口を結ぶ最短経路上から 間口 X 奥行× 天井高 ( m ) 約 12*x12*x59 *:各階の平均 約 36x33x5 約 3x6x63 約 6 m外れた地点(図 3,4参照)、実験 3については 8F階 F及 段室踊り場、実験 4、5については階段室とそれぞれ 3 び1 3 Fの廊下を結ぶドア開放部とした。測定位置は開口面 の概ね中心で、その他は概ね床上 150cmとした。実験のモ デル図を表 4に、給排気口、中間点関口寸法を表 5に示す。 約 3x6x63 表 3 ブロアー車から開口部までの距離 日云孟二 距離 ( m ) 外 側 関 口 部 ま で 5.63m 実験 1 内側関口部まで 8 . 0 5m 実験 2 6.85m 実験 3 6 . 7 5m 実験 4 6.90m 実験 5 6.90m 約 3x6x63 31(端) 図 2 送風装置直近の風速 O 壬J ミ 五r 階段室の防煙(具体例) 図3 ・通常火災階一階段室聞のドア閉鎖の場合でも隙間 から煙が侵入するが、それを防ぐことができる。 .階段室から火災階に進入する時にドアの開閉を行 っても階段室への煙の侵入が無い ・ホースラインによりドアが完全に閉まらない場合 でも階段室への煙の侵入が無い。 図 1 階段室の防煙イメージ ( 2 ) 実験条件 大型ブロアー車は表 3の通り給気口より概ね 7mの位置 より最大出力で送風した。実験中における送風装置直近の 風速を図 2に示す。各実験において、給排気口と給気対象 を結ぶ動線上のドアは開放し、動線から外れる経路のドア は全て閉鎖した。風速は給気口、排気口、及び給気口と排 気口の中間点で測定した。中間点は、実験 l 、2については 33 ( m / s ) 表 4 実験モデル図 実験 1(アトリウム換気) I 実験 2(B2F換気) X:測 臨 換気 卜¥ 回 ( I 数 / h ) │ 地 下 専 用 回11ftI 実験 l 実験 2 実験 3 ! 日 階 段 時 一RF I 3 2 40 実験 4 ! 日 腕 実験 5 B2 f-RF I 日 表 6 測定結果 中間点 給気口 排気口 風速 風速 風速 ( m J s ) ( m 1 s ) ( m 1 s ) 0 . 8 4. 4 1 7 . 6 0 . 2 1 .8 8 . 7 2 . 7 11 .9 6 . 9 1 0 . 5 8 . 3 3 . 3 〔ドア開放力〕 294N 3 8. 4 . 2 9 . 7 〔ドア開放力〕 294N 実験 I 、2では、風の通り道が形成され、その付近におい │胤専用腕│ ては換気が促されていたが、写真 1 2、1 3の通り風の通り道 I F 以外は人の背丈程度においても若干空気が澱んでいた。 B 2 F の中間点では発煙筒の煙もほとんど変化が見られなかっ 表 5 給気口、排気口及び中間点の開口寸法 給気口 (m) 中間点 (m) 排気口 (m) ト¥ 実験 1 実験 2 実験 3 実験 4 実験 5 高さ x幅 2 . 8 x1 .5 2 . 0 x O . 9 2 . 0 x O . 9 2 . 0 x O . 9 2 . 0 x O . 9 高さ×幅 2 . 0 x O . 6 2 . 0 x O . 6 た。吹き抜け上層の空気も停滞しており、大きく捷持され るようなことは無かった。 高さ×幅 2 . 0 x O . 9 2 . 0 x O . 9 2 . 0 x O . 9 2 . 0 x O . 9 2 . 0 x O . 9 写真 1 2 実験 1中間点 ( 3 ) 測定方法 写真 1 3 実験 2中間点 各測定点の風速の測定は、 5分間の予備送風の後、写真 8 のように 1 5秒おきに合計 2 0回測定し、その平均を測定地 実験 3 、4 、5では階段室内は写真 1 4 1 7の通り効果的に 点における代表風速とした。各測定点には吹き流し、発煙 換気が行われていることが観察された。実験 4、5における ,1 0 ) を設置し、測定中の気流の流れ方向を可視 筒(写真 9 ドア開放に必要な力はいずれも 2 9 4N となり、通常消防隊 化して映像で記録した。また、 ドア開放に必要な力の測定 員が開放できる基準とされる 200Nを大きく上回った。 は、ドアノプにパネ秤を設定し、写真 1 1に示すように末端 を引きながらドアが開き始めるときの値を記録した。 4 実験 3外 観 写真 1 写真 1 5 実験 3給気口 写真 1 6 実験 3中間点 写真 1 7 実験 3排気口 写真 8 測定状況 0 発煙筒 写真 1 ∞ 4 隙1 2 2及 び 同Sを用いた考察 R I 2 0 0 2及び FDSを使用して熱的な条 実験結果を基に、 B 3 実験結果 、2、3について、 測定結果を表 6に示す。また、実験 l 件を考慮した場合の換気・防煙状況について考察した。実 給気対象の大きさを表す指標として排気側風速から換算し 験 I、2、3については排気口からの排気量が換気効果に支 た概ねの換気回数も合わせて表示した。 配的に作用するであろうとの仮定から、シミュレーション 34 上で燃焼させない状態における排気風速が測定値となるよ アトリウム うに給気条件を設定した。実験 4、5については中間地点の 煙 風速を用いて同様に給気条件を設定し、防煙効果について 考察した。実験 1 、2 、3については小火源 2MWを給気対 象とした場所に設定し B R I 2 0 0 2において上部層下端高さ が概ね定常となった時点で燃焼を停止し、 1分後に給気を 、5については大火源 24MWを火災階居室 行った。実験 4 給気口 に設定し、燃焼を継続させた状態で階段室の給気による防 ロ 煙を行った。 図5 7 トリウム給気前 ( F D S ) 図67 トリウム給気後 ( F D S ) ( 1 ) 実験 l、2について B則 2 0 0 2における上部層下端高さ理論値をグラフ 1 3 に示す。給気により給排気口高さ付近までは上部層下端高 さの上昇を促進するが、その後は自然換気との差が見られ ない。実験では送風による上層の乱れがほとんど確認され ず、予想モデルは定性的な理解に有効であると思われるが、 補足として気流の影響を F D Sにより確認した。その結果図 5 . . . . .図 8に示すとおり風の通り道以外は空気が澱んでおり、 あまり換気が促されていないことが確認された。なお、こ 図7 B 2 F給気前 ( F D S ) 図8 B 2 F給気後 ( F D S ) れを解消するためには内部の撰梓が有効であると予想し、 FDS上にて可搬式ブロアーを上に向け送風することでサー キュレーターとして作用させ、その効果を確認した。その 結果、空間全体を効果的に換気できることが確認された。 1 8に可搬式ブロアーの概要を、図 9、 10に FDSによ 0分後の吹き抜け内揖梓の有無による空間全体の排煙 る 3 写真 効果の違いを示す。 60 │ 風量 約8 . 6m J / s 写真 1 8 可搬式ブロア │ : ? ? ? 2 2 2 2 │ - . !. 0 柑 檀 '時 1 ' - : :20 "-1川 t 0 t 5 2 0 2 5 3 0 J5 時間 C " ' . . ) グラフ 1 アトリウム上部層下端高さ ( B R I 2 0 0 2 ) ‘ , ‘ AE )相一憾 -Eu ﹁圃 電話吋 E . │三 : 2 2 2 │ ) 図 9 給気のみ(印S 図1 0 給気+上層への送風 ( F D S ) ( 2 ) 実験 3について B悶 2 0 0 2における上部層下端高さ理論値をグラフ 4に示 1、 す。給気が上部層下端高さの上昇を促進している。図 1 時間 (mln) グラフ 2 グラ 71縦軸拡大 1 2に示すとおり FDSでもほぼ同様の傾向が確認された。 8 0 a-Tat ︺刊困曹司u ﹁周回・吋 AtE │ = 2 2 2 2 │ l I i J ! ι l 園 陸 ~20 0. 5 1 .5 崎掴 o . 】 宇白書~t量煙 J40 4 グラフ │一向鍾│ E 伺 ν 10 2 . 5 時間 (mln) 3B 2 F大空間上部層下端高さ ( B R I 2 0 0 2 ) 15 グラフ 4 階段室上部層下端高さ 35 20 ( B R1 2 0 0 2 ) 20 A υ uF抽司a制緩握 AUAUAUAυ £)凶刷 -40 時間 ( s ) ∞ グラフ 7 3 F差圧 ( B R I 22 ) 20 1 0 ~ ----- 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一』ー F D S ) 図1 2 階段室給気後(町S) 図1 1 階段室給気前 ( - ( 0 ~ ( 3 ) ~ -10 実験 4、5について 0 1 ド 量 樋 、 3 F及び 1 3 Fドア開放時にお 火災室の入力条件を表 7に 型 → 雄 組 E 0 0 2による階段室上部層下端高さをグラフ 5 、6 ける B悶 2 -JO に、階段室-廊下差圧をグラフ 7、8に示す。 5秒から給気 10 し 、 7秒でドアを開放した。廊下から階段室への煙の流入 時間(.) 3 F差圧 ( B R I 2 0 0 2 ) グラフ 8 1 0 0 2における階段室上部層の増加と仮定した場合、 を B則 2 ,6は 3 F及び 1 3 Fでのドア開放時における防煙が グラ 7 5 共に可能であることを示している。さらに、図 1 3、1 4に示 すとおり FDSでもほぼ同様の傾向が確認された。 表 7 火災室の条件 間口 1 2 . 3mx奥行き 2 5 . 7mx高さ 2.5m 外気-火災室高さ1.8mx幅 3 .6m 廊下-火災室高さ 2 .0mx幅 1 . 8m 最大 24MW 居室面積 開口部 発熱速度 燃焼面積 3 F防煙前 ( F D S ) 図1 3 1 r l 1 5 0r 図1 4 1 3 F防煙後 ( F D S ) 5 おわりに 今回の実験想定において、区画上部に排気口の無い地上 ‘ ‘ h z thl 8 0 .EA--h 回程度)へ大型プロアー車により給気することで、ある程 t 、t、 . . 川判却 度換気が促されるものの空間全体に対する劇的な排煙効果 は望めなかった。しかし、可搬式プロア一等を組み合わせ l て使用することで空間全体の排煙効果が向上する可能性が 、 、 、 、 、 、 且 屯 . ‘ - h (E}拘一倍直面 HF堕槍け﹃ 大空間(換気回数 3回程度)及び地下大空間(換気回数 2 d F ﹄ 。 。 ある。また、階段室の防排煙については効果があると考え 6 0 時間 (s) 30 9 0 1 2 1 られるが、 ドアの開閉障害が発生する可能性に留意する必 要がある。なお、換気・防煙活動が火災室に与える影響を グラフ 5 3 F防煙 ( B R1 2 0 0 2 ) 常に留意しておく必要があると考えられる。 謝辞 60 - 、、 岡 " - 本検証は、清水建設株式会社の施設を借用して実施した -ー、ーーーーー-------~・ー 内 gu ﹁随嶺斗 a a守 内 五 unu 山刊値幅 ものであり、多大なご協力をいただきましたことをここに 感謝いたします。また、検証に協力していただいた各消防 署、各課にも併せて謝意を表します。 。 。 30 60 時間 ( s ) 9 0 1 2 ( 3 F防煙 ( B R1 2 0 0 2 ) グラフ 6 1 [参考文献] 1)消防活動支援性能のあり方検討会 消防活動支援性能のあり方 8年) 平成 1 9年 2月 検討会報告書(平成 1 2 ) 阿部他加圧排煙時の消防活動拠点における扉の流量係数及び 6年度日本火災学会研究発表 開放力に関する実験研究平成 1 2 0 0 4 . 5 ) 会概要集 ( 3 ) 社団法人建築研究振興協会 二層ゾーン建物内煙流動モデルと 予測計算プログラム 3 6 ( 2 0 0 3 . 2 ) V e r i f i c a t i o no ft h eV e n t i l a t i o na n dS m o k eC o n t r o l C a p a c i t i e so faA i rS u p p l yT r u c k Hiroaki Y U A S A *, Shigeyuki Y A M A M U R A *,Akihiko I I D A 六 ShigeoW A T A N A B E * A b s t r a c t T oe s t i m a t et h es r n o k ev e n t i l a t i o nc a p a c i t yo fa na i rs u p p l yt r u c kc o p i n gw i t hal a r g eb u i l d i n g f i r e,w er n e a s u r e dt h ew i n ds p e e db yc o n d u c t i n ga ne x p e r i r n e n ti nt h ef i r e r e s i s t a n tb u i l d i n gw i t h1 4 2 , d a n dw i t h ab u i l di n g紅 白 o f, 13 2 10 0 a n d at o t a l s t o r i e sa b o v eg r o u n da n d 2s t o r i e su n d e r g r o u n f l o o ra r e ao f1 5,8 4 0m~ 1 na d d i t i o n ,w ea 1 s oc 0 1 1 e c t e dd a t at h r o u g ht h em e a s u r e o o e n tf o ri d e n t i f y i n g . s a s e do nt h e s e t h et r u c k 'sc a p a c i t yw h e nu s e df o rs r n o k ec o n t r o lw i t has t a i r w e l lp r e s s u r i z ed ee v a l u a t e dt h ev e n t i l a t i o na n ds r n o k ec o n t r o lc a p a c i t i e su s i n gB R I 2 0 0 2a n dF D S . m e a s u r e r n e n td a t a,w , * E q u i p m e n tS a f e t yS e c t i o n * * T a k a n a w aF i r eS t a t i o n 37
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