SAPROF Vivienne de Vogel Corine de Ruiter Yvonne Bouman Michiel de Vries Robbé 暴力リスクの保護要因評価ガイドライン 訳: Hiroko Kashiwagi (柏木 宏子) Masaki Kojima (児島 正樹) Aika Tomoto (東本 愛香) Takao Misawa (三澤 孝夫) Takeshi Misawa (三澤 剛) 監訳: Naotsugu Hirabayashi (平林 直次) Akiko Kikuchi (菊池 安希子) Manabu Ikeda (池田 学) SAPROF 暴力リスクの保護要因評価ガイドライン SAPROF日本語版のダウンロードは下記ページへ: www.saprof.com さらに情報を希望される方は下記著者までご連絡下さい: Michiel de Vries Robbé / Vivienne de Vogel Van der Hoeven Stichting P.O. Box 174, 3500 AD Utrecht The Netherlands +31(0)30-2758275 [email protected] [email protected] Design: www.studiosnh.nl Copyright © August 2014, Van der Hoeven Kliniek ISBN: 978-90-79649-30-3 SAPROF Structured Assessment of PROtective Factors for violence risk Richtlijnen voor het beoordelen van beschermende factoren voor gewelddadig gedrag 第二版 Vivienne de Vogel Van der Hoeven Kliniek Corine de Ruiter Universiteit Maastricht Yvonne Bouman Pompestichting Michiel de Vries Robbé Van der Hoeven Kliniek 監訳: Naotsugu Hirabayashi (平林 直次) 国立精神・神経医療研究センター Akiko Kikuchi (菊池 安希子) 国立精神・神経医療研究センター Manabu Ikeda (池田 学) 熊本大学医学部附属病院神経精神科 訳: Hiroko Kashiwagi (柏木 宏子) 熊本大学医学部附属病院神経精神科 Masaki Kojima (児島 正樹) 呉医療センター Aika Tomoto (東本 愛香) 千葉大学社会精神保健教育研究センター Takao Misawa (三澤 孝夫) 国立精神・神経医療研究センター(元) Takeshi Misawa (三澤 剛) 国立精神・神経医療研究センター 目次 緒言 著者からの緒言 導入 構造化された専門的判断によるリスク評価 保護要因 SAPROFの開発 SAPROF研究版 保護要因の文献研究 周辺要因の文献研究 臨床経験 SAPROF 8 10 13 14 15 18 18 18 19 19 20 SAPROF 背景 目的 適応 性差 保護要因の定義 SAPROFの構成 SAPROFの限界 評点の手順 1.各項目の評点 2.重要項目に印をつける 3.最終的な保護要因の判断を行う 4.最終的なリスクの統合的判断を行う 使用資格 SAPROFの実践 リスクの明確化 SAPROFによる研究 後方視的なカルテ研究 SAPROFで治療中の変化を測定する 前方視的な臨床研究 23 23 23 23 24 24 24 25 25 26 28 28 29 29 29 30 30 30 34 35 6 各項目の説明 39 内的項目 1.知能 2.幼年期の安全な愛着形成 3.共感性 4.対処能力 5. セルフコントロール 41 42 44 46 48 50 動機付け項目 6.仕事 7.余暇活動 8.金銭管理 9.治療への動機付け 10.権威に対する姿勢 11.人生の目標 12.服薬 53 54 56 58 60 62 64 66 外的項目 13. ソーシャルネットワーク 14.親密な関係 15.専門的ケア 16.生活環境 17.外部からの監督 69 70 72 74 76 78 SAPROFシートの評価 81 参考文献 83 7 緒言 -日本版の出版にあたって- 我が国では、2003年心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療 及び観察等に関する法律(医療観察法) が成立し、 その2年後に同法が施行され た。 その成立の過程においては、再犯予測について激しい議論が行われ、再犯予 測は困難であるとされた。 その議論の結果、医療観察法の目的は、適切な医療を 提供し社会復帰を促進することとされた。 このような経緯もあり、臨床においてリスク・アセスメント/リスク・マネージメ ントという用語は控えられ、社会復帰要因と呼ばれ、社会復帰促進要因と社会 復帰阻害要因とが区別された。 つまり、医療観察法成立の経緯もあり当初より、 専門家の間では、社会復帰促進要因と社会復帰阻害要因とが明確に区別され、 その両者の必要性が認識されていたのである。 医療観察法施行時、異なる職種の共通の視点として 「共通評価項目」 が開発・ 導入され、指定医療機関では多職種チーム医療が本格的に開始された。 しかし、 共通評価項目は、17の可変項目(dynamic)から構成されるものの「問題なし:0 点、軽度の問題あり:1点、明らかな問題あり:2点」 の3点法から成るリッカートス ケールであり、問題抽出とそのマネージメントに力点の置かれた評価尺度であ った。 また、Historical-Clinical-Risk Management 20 (HCR-20 ; Webster, Douglas, Eaves, & Hart, 1997) と多くの共通点を持っていた。 このような問題抽出やネガティブな側面からの評価に加え、ポジティブ評価 の重要性を指摘する声もあり、 ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health) 「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」 を用いるこ とが提案された。 しかし、ICFは膨大な項目数から成り、各項目の評価基準は曖昧 であり、 その完成度の低さから臨床において活用されることはなかった。 つまり、医療観察法施行当初からSAPROFのようにポジティブな側面に注目し、 リカバリーモデルによる医療の必要性が認識されていたが、 それを実現するため に不可欠な評価ツールが存在していなかったのである。 このような背景の中、本書の翻訳者でもある柏木宏子氏が、2013年オランダで 開催されたSAPROFのワークショップに参加し、原作者らから直接SAPROFの臨床 的必要性と有用性の講義を受け、帰国後、直ちに日本語訳に取り組んだのであ る。 さらに東本愛香氏が、2014年カナダで開催されたSAPROFのワークショップに 参加した。 出版を計画した当初は、 出版社選定、費用不足、版権に関する契約な ど、様々な問題に直面したが、柏木氏らの触法精神障害者の質の高い社会復帰 に対する情熱は失せることなく、 日本語訳のPDF公開に至ったのである。 SAPROFはすでに10カ国語に翻訳され2カ国語での準備が進んでおり、世界中 で広く普及しつつある。SAPROFは、将来の暴力リスクの減少に関連する項目から 8 成り、 リスク・マネージメント/治療の標的となり得る動的要因から構成されてい ることや、17項目という臨床実用可能な項目数に絞られていることから、臨床診 療での有用性が期待される。本訳書を通して我が国においても、SAPROFが臨床 に広く導入されることが望まれる。 今回、 日本語訳のPDF公開を快くご許可くださった原作者、Van der Hoevenク リニックのMichiel de Vries Robbé氏とVivienne de Vogel氏、Pompeクリニックの Yvonne Bouman氏、 ならびにMaastricht大学のCorine de Ruiter氏、 そして、監訳を お引き受けくださった、熊本大学神経精神科の池田学教授、国立精神・神経医療 研究センター精神保健研究所司法部の菊池安希子先生に深謝いたします。 本訳書が広く我が国の司法精神医療において普及し、触法精神障害者の社会 復帰が促進することを期待します。 国立精神・神経医療研究センター病院 平林直次 9 著者からの緒言 我々は、誇りと喜びを感じながらSAPROFの日本語版を歓迎している。柏木宏 子氏、児島正樹氏、東本愛香氏、三澤孝夫氏、 そして三澤剛氏は、平林直次氏、 菊池安希子氏、池田学氏による監訳のもと、 日本語への翻訳を見事に成し遂げ た。我々は、彼らの正確な仕事、 それから翻訳過程での快く建設的な協力関係に 感謝の意を表したい。 と同時に、将来にわたって、 この楽しいコラボレーションを 継続していくことを心待ちにしている。 暴力行為のリスク要因とリスク・アセスメントに関する知識は過去20年間で急 速に発展し、構造化されたリスク・アセスメントは日々の司法精神医学臨床の重 要な側面を担うようになった。 しかし、成人のリスク・アセスメント・ツールの大半 はリスク要因に焦点を当て、 もう一方の側面である保護要因にはほとんど注意が 払われてこなかった。 バランスのとれたリスク評価は、 リスク要因と保護要因の両 方を考慮すべきである (Rogers, 2000)。精神保健の専門家は、 この領域の実践的 なガイドラインを必要としていたこと、 また同時に保護要因を含んだ利用可能な 評価尺度が限られていたことから、我々は暴力リスクの保護要因のアセスメント に特化した尺度、 SAPROFを開発することを決めた。 我々の目標は、豊富な経験的土台に基づきながら、 司法の臨床実践に役立ち うる主として動的(dynamic)な要素に焦点を当て、構造化された専門的判断(SPJ : Structured Professional Judgement) に従ってチェックリストを構成することで あった。SAPROFの第1版は2007年にオランダで刊行された(De Vogel, De Ruiter, Bouman, & De Vries Robbé, 2007)。続いて、SAPROFは2009年に英語に、 2010年に ドイツ語とイタリア語に、2011年にスペイン語、 フランス語、 スウェーデン語、 ノル ウェー語、 ポルトガル語に、2012年にロシア語、2013年にデンマーク語に翻訳さ れた。直近では、 中国語、 ギリシア語への翻訳が準備中である。2012年にSAPROF の第2版のオランダ語、英語版が刊行された。第2版では、評価項目の構成は変 わっていないが、導入部分の章が更新された。 このSAPROF日本語版は、第2版の SAPROFマニュアルを翻訳したものである。2014年には、SAPROFの若年者版も開 発された (SAPROF-YV ; De Vries Robbé, Geers, Stapel, Hilterman, & De Vogel, 2014 )。保護要因の価値についての実践者や研究者は増加し続けており、彼らの熱意 は、我々がこの前向きなアプローチを信じる思いを強め、保護要因のアセスメン トのさらなる発展へと我々を駆り立てている。 10 SAPROFに関するさらなる研究結果は急速に出てきているが、保護要因の役 割に関する実証的な研究が不足しているがゆえに、保護要因の実証的な基礎 はHCR-20などの他のSPJガイドラインと比較して頑強ではない。 しかしながら、 こ れまでSAPROFの研究は、心理測定能力に関しても、臨床的有用性に関しても順 調な成果を上げている (www.saprof.com 参照)。SAPROFに関する研究実施 を計画している専門家は、著者らに連絡して頂けたらありがたい。それは、新た な知見がSAPROFのさらなる精錬に貢献するからである。我々は、SAPROFを改 善する手助けになりうるあらゆる発言と提案を歓迎する。最後に、我々は何より も、SAPROFが実臨床における有用な補助手段となり、 その使用が触法精神障害 者の治療のために、 より前向きで予防的なアプローチに寄与することを願ってい る。 Michiel de Vries Robbé & Vivienne de Vogel 2014年8月 11 12 導入 将来の暴力のリスク・アセスメントは、 司法領域の精神保健の専門家にとって 最も重要な課題の1つである。過去20年間で、暴力のリスク要因の研究、構造化 されたリスク・アセスメント・ツールの発展、 そしてこれらの評価尺度の心理測定 学的性質に関する研究は膨大に広がった。現在では、 司法及び一般精神医学と その関連領域に従事する精神保健の専門家は、構造化されたリスク・アセスメン ト・ツールを数多く利用できる。 リスク・アセスメント・ツールは、性的暴力、親族 への暴力、児童虐待など、暴力行為の様々なタイプに応じて開発されてきた。 リス ク・アセスメント・ツール間での重要な相違から、保険数理的なものと構造化され た専門的判断(SPJ ; Douglas, Cox, & Webster, 1999) によるものに分けられる。 保険数理的な評価尺度は、経験的に暴力と関連しているリスク要因に基づい て開発された。 これらの評価尺度はもともと静的で不変のリスク要因を含み、決 まったルールに従って比較的数値化しやすく、 司法領域の専門家を必要としな い。各要因の点数はあらかじめ定められたアルゴリズムに従って加算され、 リスク のレベルに関する (あらかじめ定められた)結論に至る。広く用いられている保険 数理的評価尺度の例として、暴力行為に関するthe Violence Risk Appraisal Guide (VRAG ; Harris & Rice, 1997)、性暴力に関するthe Static-99 / Static-2002 (Hanson & Thornton, 1999, 2002)が挙げられる。保険数理的な評価尺度によるリスク・アセ スメントは簡単で時間効率のよい手段だが、 この方法の重要な欠点として、暴力 リスクの軽減を目標とした治療場面で有効性が限定されることが挙げられる。保 険数理的な評価尺度の大半は静的なリスク要因を扱っており、状況的あるいは 動的なリスク要因を含まない。 さらに、評価尺度を開発した対象以外の人々に一 般化していくことはむしろ難しい (Grubin & Wingate, 1996 ; Hart, 1998)。SPJモデ ルでは、 リスク・アセスメントは、経験を積んだ司法精神保健の専門家が経験的 に見出された、 ヒストリカルであると同時に動的な (下記参照)暴力のリスク要因 を含む標準化されたチェックリストを用いることで実施される。保険数理的アプ ローチとSPJのアプローチの決定的な相違は、 どのように最終的なリスク判断が なされるかによる;保険数理的な評価尺度ではあらかじめ定められたアルゴリズ ムによって、 そしてSPJのガイドラインでは (構造化された)専門家の意思決定によ りなされるのである。 13 構造化された専門的判断を用いたリスク・アセスメント 1990年代半ば、 カナダにあるバンクーバーのSimon Fraser大学の研究者たち がSPJモデルを開発した。彼らの目標は、臨床的判断を構造化し、-その結果と して評定者間信頼性と妥当性を向上させ-、 また、訓練を受けた精神保健の専 門家が日々の臨床で利用できる、暴力リスク・アセスメントに関するガイドライ ンを開発し、臨床実践と経験的知識との間にある溝に架け橋をかけることであ った。SPJモデルにおいては、 リスク要因は結論を導くために、批判的に調査、組 み合わせ、統合される。 このモデルに基づく最もよく知られたチェックリストは、 暴力行為のリスク・アセスメントに関するHistorical, Clinical, Risk Management-20 (HCR-20 ; Webster, Douglas, Eaves, & Hart, 1997)である。様々なセッティングや国 における研究が、HCR-20の信頼性と妥当性を示している (研究結果の概要を参 照:Douglas, Guy, & Weir, 2006 ; Douglas & Reeves, 2010)。 さらに、HCR-20は治療 介入の前後における暴力リスクの変化を測定できることが示された (Belfrage & Douglas, 2002 ; De Vogel, Smid, & De Vries Robbé, 2006)。最近、HCR-20は改訂さ れた (Historical, Clinical, Risk Management Version 3 ; HCR-20V3 ; Douglas, Hart, Webster, & Belfrage, 2013)。HCR-20のオランダ版(Philipse, de Ruiter, Hildebrand, & Bouman, 2000) はオランダの様々な司法精神病院で用いられてきた。 そのひ とつであるVan der Hoevenクリニックでは、 司法臨床におけるSPJモデルの有用 性に関する研究プログラムが行われた。 この研究プログラムは、 オランダの司法 臨床における暴力のリスク・アセスメントにSPJ手法を強く支持する結果となっ た。HCR-20は評定者間信頼性が良好であり、 かつ退院後の暴力再犯と治療中の 暴力事故に関する良好な予測妥当性を示し、 それは非構造的な臨床判断より良 好であり、統計学的に有意であった (De Vogel, 2005 ; De Vogel & De Ruiter, 2006 ; De Vogel, De Ruiter, Hildebrand, Bos, & Van de Ven, 2004)。 その他の関連したガ イドラインとして、成人の性暴力のリスク・アセスメントであるSexual Violence Risk20 (SVR-20 ; Boer, Hart, Kropp, & Webster, 1997)、家庭内暴力のリスク・アセスメ ントであるSpousal Assault Risk Assessment (SARA ; Kropp, Hart, Webster, & Eaves, 1999)、思春期のリスク・アセスメントであるStructured Assessment of Violence Risk in Youth (SAVRY ; Borum, Bartel, & Forth, 2006) がある。 良好な評定者間信頼性 と予測妥当性がSVR-20 (Dempster, 1998 ; De Vogel, De Ruiter, Van Beek, & Mead, 2004)、SAVRY (Lodewijks, 2008 ; Lodewijks, Doreleijers, De Ruiter, & Borum, 2008 ; Welsh et al., 2008) 、SARA (Kropp & Hart, 2000)で認められた。SPJチェックリストの 原理と適応や、 リスク・アセスメント所見の報告方法に関するガイドラインは、SPJ マニュアルに記載されている (Kropp, 2004 ; Webster, Müller-Isberner, & Fransson, 2002も参照)。 14 保護要因 過去数十年間で暴力のリスク・アセスメントとリスク要因に関する我々の知識 は著明に増加したが、 リスク要因を代償しうる側面に関しては今までのところ ほとんど関心が向けられてこなかった。保護要因、 すなわち、暴力再犯のリスク を削減する要因に取り組んだ研究は、特に成人例では乏しい。暴力行為の保護 要因の同定は今後の主要な課題とされている (Farrington, 2003 ; Rogers, 2000 ; Salekin & Lochman, 2008)。 そのような保護または代償要因が考慮されなけれ ば、 リスク・アセスメントは不均衡になり、不正確な予測に至るだろう (Rogers, 2000)。 さらに、 これは治療者とスティグマを負った犯罪者に悲観主義をもたら し、究極的には触法精神障害者に誤った、長い拘留をもたらすことになりうる。 バ ランスのとれたリスク評価は、 リスク要因と保護要因の両者の評価を考慮に入れ るべきである。保護要因となりうるものの同定が重要なのは、 リスク・アセスメン トの究極の目的が暴力リスクの軽減だからである。保護要因は何人かのハイリス クの個人(DeMatteo, Heilbrun, & Marczyk, 2005)、例えば重度のサイコパシーの ような高いリスクを有する個人において、再犯がないことを説明しうるかもしれ ない。暴力の再犯を減らすことを目的とした治療は、 それ故にリスク要因の削減 に目を向けるだけではなく、保護要因の強化にも目を向けるべきである (Blum & Ireland, 2004 ; Resnick, Ireland, & Borowsky, 2004)。 最 新 のリスク・アセスメント・ツ ー ル はリスク要 因 を 重 視 し 、保 護 要 因 には 注 意 を払っていない 。我 々の 知 見 では 、これ には 3つの 例 外 が あ る。 SAVRY、START (Short Term Assessment of Risk and Treatability ; Webster, Martin, Brink, Nicholls, & Middleton, 2004 ; Webster, Martin, Brink, Nicholls, & Desmarais, 2009)、IORNS(Inventory of Offender Risk, Need and Strength ; Miller, 2006)である。SAVRY-若年の暴力リスク・アセスメントに関するSPJチェックリス ト-は6つの保護要因、向社会的な関わり合い、強い社会的サポート、強い愛着 ときずな、介入と権威に対する前向きな姿勢、学校との強い関係性、回復可能な 性格特性を含んでいる。 Lodewijks et al. (2008) の研究では、SAVRYの保護要因が 暴力再犯のリスクを緩衝または緩和するという仮説を支持するものだった。 オラ ンダの思春期の犯罪者の異なる3群において、保護要因のない群はある群に比べ て暴力の再犯率が有意に高かった。回帰分析では、動的なリスク要因単独で説 明した場合、分散説明率が統計学的に有意に増加した。STARTは特に短期のリス ク (評価から数週~数か月の間に他者への暴力、 自傷、被害を受けるなどのリス ク) の動的評価に関する臨床指針である。20の動的項目が同時に3点法で2回評 価されなければならない。最初はストレングス、次はリスクとして評価する (0=な し、1=あるかもしれない、2=ある)。言い方を変えれば、 リスク要因と保護要因は 同じ要素の反対側の極とみなされている。最近のSTARTの妥当性の研究では、他 者への暴力と社会への再統合の成功の短期予測に関して、 ストレングス評価尺 15 度とリスク評価尺度の両者において有意な予測妥当性を示した (Braithwaite et al., 2010 ; Nonstad et al., 2010 ; Viljoen et al., 2011 ; Wilson et al., 2010)。 しかし、 リスク評価を超えるストレングス評価の予測妥当性は認められていない。IORNS はあらゆる種類の犯罪者においてリスク、 ニーズおよび保護要因を決めるための 自記式評価尺度である。 アメリカにおける釈放前の受刑者を対象とした研究で は、Protective Strength IndexやPersonal Resources ScaleなどのIORNSの下位スケ ールを用いて、仮釈放中に規則違反で刑務所に戻ってくる者とそうでない者を判 別することができた (Miller, 2006)。 犯罪の保護要因の文献を調べると、大多数の研究は思春期例を対象に行われ ていることが明らかである (例えば、 Hart, O’Toole, Price-Sharps, & Shaffer, 2007 ; Hoge, Andrews, & Leschied, 1996)。 これは、若年者における早期の問題行動の同 定が将来の犯罪や問題行動を防ぐ、 そして彼らはまだ発達段階なので保護的影 響を受けやすいという発想によるのだろう。成人について見ると、保護要因が将 来の暴力行為に与える影響に関しての研究はほとんど存在しない (De Carvalho, 2002 ; Miller, 2006)。 保護要因の概念は曖昧である。独立した保護要因が常習的犯行のリスクを減 らすのか?それとも保護要因はリスク要因がないことと同じなのか?保護要因と リスク軽減に直接の関連があるのか、 リスク要因と相互作用があるのか?もしそ うなら、 どのように相互作用が働いているのか?保護要因はどのようなグループ またはサブグループに属するのが妥当なのか?保護要因の概念とは専らリスク 要因の欠如として (Costa, Jessor, & Turbin, 1999)、 あるいは様々なリスク要因の 反対の極として捉える著者もいる (Hawkins, Catalano, & Miller, 1992 ; Webster et al., 2004)。 また、対応するリスク要因のない保護要因があると考える著者もいる (Farrington & Loeber, 2000)。 いくつかの機序は、直接的あるいは間接的影響を 伴って、保護的要因に帰する。Fitzpatrick (1997)は、仲介因子あるいは緩衝因子 として介在する保護的要因を表した理論的モデルを用いている (図1参照)。仲 介因子または緩衝因子は、 ある急性又は慢性のリスク要因が個人の行動に与え る負の効果を軽減する要因である。仲介モデルでは、 リスク要因は暴力行為と保 護的機制(仲介要因) に直接影響を与え、 その結果として保護的機制の存在を介 して暴力行為に間接的な影響を与える。緩衝モデルでは、保護要因がない場合 にのみリスク要因が暴力行為に負の影響を与える。 そこでは、保護要因とリスク 要因の結合した影響が重要である。 このモデルでは、 リスク要因は保護要因に負 の影響を与えない。 これまで科学論文に載せられた保護要因の様々な理論モデ ルは、 いずれも科学的基盤を欠いている。 そのため、SAPROFでは特定のモデルは 選択されていない。 16 図1. リスク要因と保護要因の理論モデルの例 A.仲介モデル + リスク要因 _ 暴力行為 _ 保護要因 B.緩衝モデル リスク要因 + 暴力行為 保護要因 Fitzpatrick (1997)より採用 De Carvalho (2002) による文献調査は、単独の研究で保護要因が暴力行為の 減少につながるという決定的なエビデンスを示したものはないことを明らかにし た。2002年以降、保護要因に関する新たな研究が行われたが(例えば、HaggårdGrann, 2005 ; Vance, Bowen, Fernandez, & Thompson, 2002)、結果はどこか決定 的ではなく、一般化しづらいものであった。大半の研究は、例えばコントロール群 が欠けていたり、 サンプルサイズが小さかったり、 フォローアップの期間が短いな どの重大な限界があった。保護要因の役割と影響は未だ十分明らかにされてお らず、 リスク要因と保護要因の間には複雑な関係があるといえるかもしれない。 そのため、保護要因の暴力リスクにおける役割を評価できる、構造化された評価 17 尺度の開発に努めた。 リスク要因に加えて保護要因を構造化された方法で考え ることは、 よりバランスのとれたリスク・アセスメントにつながるかもしれない。 さ らに、 リスクと保護要因の両者に対する知識と洞察の蓄積はリスク・マネージメン トに有用であろう。加えて、患者と精神保健の専門家の両者にとって、 「何がよい か」、 または治療中に何が発展しうるのか(すなわち保護要因) を考えるほうが、 閉鎖的に 「何がよいことでないのか」 (すなわちリスク要因) に焦点を当てるより も動機付けしやすい。 これは、 ストレングスに基づくアプローチによる心理的また は精神医学的治療の一部になりうる (すなわち、問題解決型アプローチ、 エンパ ワーメント;一例として、 Good Lives Model ; Ward & Brown, 2004 ; Ward, Mann, & Gannon, 2007を参照)。 SAPROFの開発 SAPROF研究版 保護要因に関する経験的知識の不足や、精神保健の専門家にとってこの領域 の実践的なガイドラインの必要性を考慮し、我々は保護要因を評価するガイドラ インを開発することを決意した (De Vogel, De Vries Robbé, De Ruiter, & Bouman, 2011を参照)。2004年、 SAPROF研究版(SAPROF-RV ; De Vogel et al., 2004) が限 定されたスケールとして出版された。それは16の保護要因からできている (表 1参照)。著者らは、(1)科学的かつ専門的な文献において、将来の暴力リスク ( 性的および非性的)の減少に経験的に関連し、(2)臨床実践に応用可能、すな わち主にリスク・マネージメント/治療の標的となる動的要因で構成されてお り、(3)効率的、 すなわち管理可能な項目数からなる、保護要因を識別することを 目的とした。16項目の選択は、(1)将来の暴力行為の保護要因に関する文献調査 (De Carvello, 2002)、(2)暴力再犯に関連した周辺要因の文献調査、(3)Van der Hoevenクリニックの精神保健の専門家と研究者の臨床経験(以下参照)、 を基に した。 保護要因の文献研究 De Carvello (2002)は、将来の暴力に対する保護要因に関する概観の提供や、 これらの要因と暴力欠如との因果関係が証明されるかどうかを調査するために、 文献レビューを行った。 この文献レビューでは、保護要因と再犯減少との関連性 を調査した受け入れ可能な質を有する少数の出版物しか見いだせなかった。長 期フォローアップのエビデンスを持つ唯一の保護要因は、 WAIS (Wechsler Adult Intelligence Scale ; Wechsler, 1997 ; Kandel et al., 1988 ; White, Moffitt, & Silva, 1989)で測定された 「高い知能」 であった。 De Carvello (2002)は、 どの要因が暴力 の既往がある個人にとって保護的であるかを決定するには、長期のフォローアッ プ期間と十分なサンプルサイズを持つ、 さらなる前向きの縦断的研究が必要だと 結論付けた。加えて、SAPROF-RVの開発のために2つの特化された文献レビュー 18 が行われた。1つは宗教と安定した親密な人間関係が保護要因となる可能性に ついて (Robbemond, 2005)、 もう1つは服薬アドヒアランスと対処スキルについて (Spoelstra, 2004) であった。 周辺要因の文献研究 上記の文献調査では、保護要因の可能性を有するものは限られていた。その ため、著者らはSAPROF-RVの開発において、暴力防止に関連した周辺要因の、 よ り一般的な文献も考慮に入れることにした (Bouman, De Ruiter, & Schene, 2010 を参照)。暴力的および非暴力的な再犯減少に影響する周辺要因を同定するた め、複数のメタ解析が行われていた (例えば、 Gendreau, Goggin, & Gray, 2000 ; Goggin, Gendreau, & Gray, 1998 ; Oddone Paolucci, Violato, & Schofield, 2000)。 周辺要因は、仕事と余暇、設備、財政、健康、宗教、安全、社会的関係に分類され た。 この分類は生活の質(QOL) の研究に使われた主要項目と似通っている (一例 として、 Van Nieuwenhuizen, Schene, Koeter, & Huxley, 2001を参照)。職を持つこ とと、職に関連した計画を立てることは再犯のリスクを減らすことがメタ解析で 示された (Gendreau et al., 2000)。個人のソーシャルネットワークにおける精神保 健の専門家の存在も再犯のリスクを減らす (Estroff & Zimmer, 1994)。余暇活動 の研究の大半は若年の犯罪者を対象にしていた。 これらの研究では、余暇時間 の効果的な活用は、構造化された余暇活動への参加と同様に再犯のリスクを減 らすことが明らかにされた (Hoge et al., 1996)。他の周辺要因に関する研究は限 られているが、我々はこれらの要因も再犯のリスク軽減に関連しているのではな いかと考えている。触法精神障害者における、生活の質(QOL)の再犯への影響に 関する研究は乏しい (Van Nieuwenhuizen, Schene, & Koeter, 2002)。 臨床経験 文献のレビューに加えて、保護要因は、 Van der Hoevenクリニックの司法精 神保健の専門家と研究者の臨床経験に基づいて同定されている。2001年1月以 来、HCR-20とSVR-20を用いた構造化されたリスク・アセスメントがこの病院で実 施されてきた。HCR-20は、1)新入院したすべての患者で入院中の暴力リスク評 価のために、2)初めて退院(監視下または非監視下で)する予定のすべての患 者に、3)一定期間は院外に出られるが病院スタッフの監視下にある社会復帰期 (transmural treatment phase) に移行しようとするすべての患者に、評点される。 さらに、院外外出が許可されているすべての患者に、 リスク・アセスメントは最低 年1回繰り返し行われる。研究者、看護師と治療の監督者が別個に、各症例にお けるHCR-20の評点を行う。患者が性犯罪者であれば、HCR-20に加えてSVR-20の オランダ版(認可されたオランダ版:Hildebrand, De Ruiter, & Van Beek, 2001) が 評点される。 ケースカンファレンスで3人の評価者によるすべての項目の評点の合 意を得て、最終的なリスク判断に至る。 このケースカンファレンスで評価者は、他 19 のリスク要因が存在する可能性、保護要因、 リスク・マネージメント戦略について も議論する。 ケースカンファレンスの結果は、 リスク・マネージメント戦略の発展 と、退院または社会復帰期への移行に関する方針決定のために、 スタッフに利用 される。SAPROFの開発を目的として、60回のケースカンファレンスが用いられ、評 価者に暴力行為の再発を予防しうる要因が尋ねられた。 これら連続する60回の カンファレンスに基づいて、保護要因の候補リストが作られた。 この研究の詳細に ついては、 De Vogel & De Ruiter (2004, 2006) & De Vogel (2005)に報告している。 SAPROF 2006年、我々はオランダの2か所の司法精神医療施設(Van Der Hoevenク リニックとPompeクリニック) と1か所の司法精神外来施設(De Waag) におい て、SAPROF-RVのパイロットスタディを実施した。 この研究の主な目的はSAPROFRVの実用的な利用可能性を評価することであった。 この研究では、20人の評価 者が40名の患者のSAPROF-RVを評点し、項目区分と評価手順を批評的に見直し た。評価者はその項目が彼らの日常業務と適合していると思うか、項目区分と手 順が明確であると思うかを質問された。 すべての評価者はSAPROFの有効性、特 に前向きに患者にアプローチする点と、治療のための提案が提供されることに関 して肯定的であった。回答の例として以下のようなものがある。 「SAPROFは精神 保健のスタッフと患者に、 より前向きなスタート地点を与えてくれる」 「SAPROFは 私たちが目指すところまで、何ができていて何が必要かを意識させてくれる」。彼 らは項目の表現とSAPROF全体の改善のためにいくつかの提案も行ってくれた。 こ れらの意見と最新の文献レビューに基づき、我々はSAPROF-RVを改訂し、現在の SAPROFに至った。 改訂時に評点の難しかった項目を削除し (7. 人生宗教/哲学1、16.成人パート ナーとの満足のいく性的関係)、見落とされていた項目を追加し (5.セルフコント ロール、11.人生の目標)、項目4(介入と権威に対する前向きな姿勢) を項目9(治 療への動機付け) と項目10(権威に対する姿勢) に分割した。 さらに、項目の名称 と表現をより中立的で明瞭なものに変更し、評点の教示をより詳細なものにし て、 いくつかの例を追加した。 さらに、新しい項目5(セルフコントロール) と項目11 (人生の目標)に追加の文献調査が実施された。その他の項目でも、文献が更 新され(2002-2007年に刊行された文献)、各項目の論拠は必要に応じて修正さ れた。最後に、各項目のカテゴリーとサブスケールの名称が変更された。 もともと HCR-20(ヒストリカル項目、 クリニカル項目、 リスク・マネージメント項目) の下位 項目がSAPROF-RVの骨子に用いられていた。 これはSAPROFとHCR-20を可能な限 り一致させるためであった。 しかし、多くの使用者がこのカテゴリーをどこか不自 然で非論理的だと考えた。HCR-20では、過去、現在、未来で明確な区分がなされ ている。 しかし、SAPROFでは、 ほぼすべての項目が動的である。SAPROFを評価す る過程で、我々は個人的(内的)な側面に関する項目と、外的な項目を識別でき 20 た。 この識別は将来のリスク・マネージメントにも有用と考えられた。 さらに、 いく つかの項目は治療への動機付けと、 そして—より一般的に—肯定的な社会参加 に関連している。現在のSAPROFは3つの新たな下位項目、 内的項目、動機付け項 目、外的項目に分けられる (表1を参照)。内的項目は保護的に働きうる個人の特 性である。動機付け項目は、前向きな方法で社会参加することへの個人の動機付 けを反映する保護要因を含む。外的項目は外的要素からの保護である。 宗教はSAPROFでは人生の目標という、 より広い項目の一部となった。 1 21 表1 SAPROF-RVとSAPROFの項目 SAPROF-RV SAPROF ヒストリカル項目 内的項目 1. 知能 2. 幼年期における、少なくとも1人の成 人との向社会的な愛着 1. 知能 2. 幼年期の安全な愛着形成 3. 共感性 4. 対処能力 5. セルフコントロール クリニカル項目 動機付け項目 3. 共感能力 4. 介入と権威に対する前向きな姿勢 5. 服薬/服薬アドヒアランス 6. レジリエンス/対処能力 7. 宗教/人生の哲学 6. 仕事 7. 余暇活動 8. 金銭管理 9. 治療への動機付け 10. 権威に対する姿勢 11. 人生の目標 12. 服薬 リスク・マネージメント項目 外的項目 8. 日々の構成/仕事 9. 余暇活動 10. 前社会的な、支援ネットワーク (家族/友人) 11. 安定した親密な関係 12. ソーシャルネットワークにおける 精神保健の専門家 13. 綿密な監察/外的なコントロール 14. 住居 15. 財政 16. 成人パートナーとの満足のできる 性的関係 13. 14. 15. 16. 17. ソーシャルネットワーク 親密な関係 専門的ケア 生活環境 外部からの監督 その他の考察 22 The SAPROF 背景 SAPROFは、SPJ法による信頼性と妥当性のある評価尺度、例えばHCR-20 、HCR-20V3、SVR-20、SARA(これらはまとめると、HCR-20とその関連尺度)などと 組み合わせて使用するための構造化された評価指針である。他の評価尺度と同 様、SAPROFは心理テストではなく、構造化された方法で用いられるチェックリス トである。SPJモデルに基づくリスク評価尺度は個人の評価を構造化するための 指針であるが、 テストと呼ぶことはできない、 なぜなら十分な標準化と構造化が なされておらず、得点がノルマや診断基準に関係しないからである。SAPROFの使 用者は、 このマニュアルに書かれた指針が最終的でも決定的でもないことを意識 する必要がある。 すべての個人の評価において、評価において決定的となるケー ス固有のリスク要因、保護要因があるかもしれない。現在、 このスケールは主に 研究用に用いられるべきだが、 SAPROFの臨床応用も可能である。 SAPROFの心理測定学的なデータは、特に予測妥当性においてまだ不十分で あるため、評価した結果から結論を描き出す際には注意すべきである。SAPROFの 信頼性と予測妥当性をより確かなものにするために、大規模な触法精神障害者 と犯罪者の縦断調査が必要である。 目的 SAPROFは犯罪者や触法精神障害者における将来の暴力行為や性的暴力のリ スク評価を補完するために発展した。HCR-20やその関連尺度に記されたような リスク要因を代償しうる要因が確認されれば、将来の暴力行為のリスク評価はよ りバランスのとれたものになる。 さらに、保護要因の有無に対する洞察はその個 人の周辺状況に対してより完成された視点をもたらし、治療とリスク対処への指 針に寄与するかもしれない。保護要因の標準化された評価に関するもうひとつの 重要な目的は、患者と治療スタッフに前向きな、動機付けの効果を与えることか もしれない。 適応 SAPROFは、刑務所や、 (司法)精神科領域の施設(の入院及び外来患者) と保 2 護観察サービスで働く、 リスク評価の訓練を受けた 精神保健のエキスパートが 使用できる。SAPROFはリスク評価が必要なケース、例えば法廷での司法精神保 健の評価、 司法精神の治療の延長または終了の決定がなされる必要のあるとき、 権利喪失が認定される前、社会復帰期の開始時に適応されうる。入院中の暴力 行為のリスク評価を行い、治療プランを作り上げるために、入院治療の開始時に も有効かもしれない。経過に変化が見られた際には再評価が推奨されるが、結 局のところ、 リスクレベルと保護要因は常に動的なのである。 リスク要因と保護要 因を繰り返し評価していくことは非常に重要であるが、 それは個人の監督に責任 23 を持つ者は、監督と介入の方針において変化が必要な場合に、基礎方針に反映 させることが勧められるからである。 性差 リスク評価の研究の大半は男性に対して行われた。 これはリスクの評価尺度 と、そしてそれらの妥当性に関する研究を含むリスク因子の研究において当て はまる (Garcia-Mansilla, Rosenfeld, & Nicholls, 2009 ; Odgers & Moretti, 2002; Odgers et al., 2007を参照)。 しかし、HCR-20とPsychopathy Checklist-Revised (PCL-R ; Hare, 1991, 2003)の両方とも予測妥当性が男性と比較して女性でかなり 低いという研究結果があり (De Vogel & De Ruiter, 2005)、 そのため女性には異 なるリスク要因があるのかもしれない (De Vogel & De Vries Robbé, 2013 ; Funk, 1999 ; Odgers & Moretti, 2002 ; Odgers et al., 2007)。 そのため、女性における リスク評価のためのHCR-20の追補として、新たなリスク評価尺度であるFemale Additional Manual (FAM ; de Vogel, de Vries Robbé, van Kalmthout & Place, 2011) が作成された。FAMの追補に際して、 その著者は暴力行為のリスク評価について より性差に感度の高い評価の作成を望んでいた。 SPJに基づくリスク評価尺度の多くと同様に、SAPROFも最初は精神障害または パーソナリティ障害を患った成人男性の評価のために作られた。 しかし、女性は 保護要因への反応が異なるという提唱がなされた (Rumgay, 2004)。 それでも、女 性に特化した保護要因の知見は乏しく、現在のところ女性集団へのSAPROFの結 果は有望であり (p35の後方視的臨床研究を参照)、SAPROFは男性と同じく女性 にも有効な評価尺度とみなされている。女性のリスク評価における結論を導き出 す際には、評価者は女性の保護要因に関するエビデンスが限られていることを念 頭におくとよい。女性集団におけるSAPROFの価値は将来的な実証研究の積み重 ねによって確認されるべきであり、 そのために我々はSAPROFの研究結果を男女 別々に行うことを推奨している。 保護要因の定義 このマニュアルでは、暴力行為への保護要因の定義は以下の通りである: 将来の暴力行為のリスクを軽減する、個人の特性、環境および状況 SAPROFの決まったトレーニングが推奨される。 ワークショップの情報については 著者またはwww.saprof.com に連絡を (このマニュアルのカバーページ内側を参 照) 2 24 SAPROFの構成 導入部で示した3つの原点と我々の予備的研究に基づき、17項目が構造化さ れた (表1を参照)。選択基準は、 (まだ限定的であることが多いが)科学的基礎( つまり、その要因が有意に暴力行為の軽減に関連していること)、そして司法精 神領域の専門家における応用性である。専門家が保護要因と考えているが科学 的根拠のないものは追加項目として評価に含まれうるが、 これは自制されるべき である。例えば、専門家の中には高い自己評価が保護要因であるという印象を持 っているが、 これは実際には暴力のリスクを増加させるという科学的エビデンス がある (実例として、 Bushman & Baumeister, 1998 ; Hughes, Cavell, & Grossman, 1997を参照)。 各項目はできるだけ理解しやすく、実用的となるように定型化した。性的暴力 に特化した保護要因の研究はほとんど行われていないため、著者は1つの評価 尺度で暴力行為と性的暴力の両方の保護要因を評価するようにした。付け加え ると、 Van der Hoevenクリニックの調査(De Vogel & De Ruiter, 2006) で対象とな ったいくつかの保護要因は性的暴力行為に特徴的であり、 その他の保護要因も 暴力行為と性暴力の両方に妥当であると概して推測される。 これは、性暴力のリ スク要因の研究で、一般的な暴力のリスク要因の大半は性的暴力においても妥 当であることと一致する (例として、 Hanson & Bussière, 1998 ; Hanson & MortonBourgon, 2004を参照)。 SAPROFの限界 最も重要なSAPROFの限界は、暴力リスクの保護要因に関する科学的なエビデ ンスがまだ乏しいことである。SAPROFの各項目が実際に異なる母集団で暴力再 犯の減少を予測するかどうか、今後の研究が示さねばならないだろう。 さらなる 限界として、 ある状況下では、SAPROFのほぼすべての保護要因がリスク要因とな りうること、例えば項目1(知能;知的なサイコパスはいかにして法制度をうまく通 り抜けるかを知っている)、項目6(仕事;人は職場で不安定要因に曝されうる、例 えば、酒場で働く人にとってのアルコール、 トラック運転手のように1人で長時間 働く人にとっての社会的孤立) である。各項目の記載には様々な例が挙げられて いる。 そのため、 これらを一般的に適用できるものとみなすのではなく、各項目を1 人1人個別に評価することが必須である。 評点の手順 評点に際してはすべての利用可能な情報、例えば治療歴および犯罪歴、 当人と または重要な他者、治療計画と評価、監察延長のアドバイス、 メンタルヘルスの 評価などを、徹底的および構造的に吟味した後に実施されるべきである。評価者 はすべてのリスク評価にマニュアルを使うことが勧められる。SAPROFを評点する ために、評価者は4ステップの評価過程を経る。 25 1. 各項目を評点する。17の保護要因が項目レベルでそれぞれあるかないか確 認する (とともに、 さらにケース特有の保護要因となりうるものを同定する)。 2. 重要項目に印をつける。重要項目の存在を確認する (下記参照)。 3. 最終的な保護要因の判断を行う。 ステップ1と2の結果を統合して、最終的な 保護要因の判断を行う。 4. 最終的なリスクの統合的判断を行う。 ステップ1、2、3とHCR-20またはその 関連した評価尺度のリスク要因から得られた (各項目の)情報を統合し、将来 の暴力リスクについての最終的なリスク判断に至る。 項目1(知能) と項目2(幼年期の安全な愛着形成) を除いて、 すべてのSAPROF の項目は動的で、近い将来のために評点されるべきである。続く6か月間が参照 する期間となるだろう。評価に先立つ6か月間の情報は評価に用いられるだろう。 項目1と2の評点はその個人の過去の情報に基づく必要がある。 もし状況が変わ れば、新たにリスク評価を変える必要がある。異なる状況で同時に各項目を評価 することは (例えば、監察下と非監察下での外出)、先のリスク対処に関して重要 な情報を与えうる (例えば、一時的な対処を延長することへの助言) ことが臨床 経験から明らかとなった。HCR-20またはその関連した評価尺度と一緒に評点す る場合、精神保健の専門家や研究者はSAPROFの完了までにおおよそ20~30分 を要するだろう。SAPROFの評点シートはこのマニュアルの末尾にある3。 評点の時間枠 評点は動的に、主に過去6か月間の情報と将来に向けての現在のプランに基づ いてなされるべきである。評点は今まさに評価が行われているという思考の流れ で行われる。 そのため、各項目はHCR-20のリスク・マネージメント項目と同様に同 じ時間枠を前提に評点されるべきである。3つの項目では時間枠が異なる。知能( 項目1) は過去6年間に実施された知能テストに基づく。幼年期の安全な愛着形 成(項目2) は幼年期全体と関連し、 自己コントロール (項目5) はその忍耐が確認 されるために過去12か月間の情報が組み込まれる。周辺状況が同じままであれ ば、SAPROF全体の評価は12か月間が妥当である。 1. 各項目を評点する 各項目は保護要因を有する程度に基づいて、3点制のスケールで評点される。 (0)その保護要因がない、 ( 1)その要因があるかもしれないが完全な根拠がな い、 またはある程度しか有しない、 ( 2)その要因を十分または明らかに有してい る。 もし評価者が各項目の評点に不十分な情報しか持っていなければ、 その情報 を得ようと試みること、例えば他の情報源に相談したり、同僚や患者に尋ねてみ 評点シートはwww.saprof.comからデジタルフォーマットで取得できる 3 26 ることが重要である。 もしある項目の情報が全く得られなかったり、信用できない 場合は、 その項目は省かれねばならない。 しかし、 この仕方は控えめにされるべき であり、疑いがあることで (‘1’とせずに)省略すべきではない。省略する項目の最 大数は3である。 それ以上に省かなければいけない場合は、 SAPROFを信頼性を持 って使用することはできない。 もし評価者が特定のケースに重要でSAPROFに含 まれていない保護要因が1つ以上あると考える場合は、 その他の考察の欄に記載 することができる。評点の要旨は表2にまとめている。 表2. 保護要因の評点 2 はい。保護要因を明らかに持っている 1 そうかもしれない。保護要因があるかもしれない、 またはある程度持っ ている 0 いいえ。保護要因が明らかにないか、保護要因があるという根拠がない いくつかの項目に関して、評価者は保護要因が常に保護的であると想定され る効果を常に有していないかもしれないことを意識しなければいけない。 この場 合、各項目の評点の仕方は形式通りになされるべきであるが、 ケース特有の状況 に関しては最終的な保護要因の判断の際に考慮されるべきである。 いくつかの 例外的なケースでは、 ある項目の点数が低いことが保護的な効果を持ちうる。例 えば、親密な関係(14.親密な関係) は特に傷つきやすいパーソナリティを持つ触 法精神障害者において過剰な負担となりうるので、 そのために、関係性を築かな いことがこのタイプの患者に置いて結果として低いストレスレベルとより安定し た状態をもたらすかもしれない。 このようなケースでは、評価者は評点の手順通 りに項目の評点を行うけれども、最終判断においてその項目を解釈し熟慮する際 にはこの相対効果を考慮しなければいけない。 我々は妥当なリスク評価のために合意モデル (consensus model) を強く推奨 している。Van der Hoevenクリニックの調査では、合意モデル (合意に至るために 研究者と精神保健の専門家で幅広い議論を行って評点すること) を用いたリス ク評価が、有意に正確な再犯リスクの予測を生み出すことが明らかとなっている (De Vogel, 2005 ; De Vogel & De Ruiter, 2006)。 これらのケースカンファレンスを 通じて、評価者バイアスによる影響の可能性が除外できる、評価者はその項目に 関する理解を鋭敏にすることができ、互いに訂正し、全員が入手していない情報 を共有し、 その項目の意義を議論し、他にリスク要因や保護要因となりうるもの、 リスク対処戦略について議論することができる。 27 2. 重要項目に印をつける SAPROFは、手元にある症例の暴力行為防止のためにどの保護要因が不可欠 か指摘する機能がある。 これらの重要項目に印をつけると、 その時点ですでに存 在する保護要因(キー) と、介入後に生じるかもしれない保護要因(ゴール) の区 別がなされる。項目1(知能) と項目2(幼年期の安全な愛着形成) はヒストリカル な要因なので、 ゴールに入れることはできない。 その他の項目に関して、2つの可 能性がある。 1. キー:ある項目の高得点(1か2) はその人の暴力行為防止に不可欠と考えられ る。 2. ゴール:0または1点の項目は、 治療目標として重要であり、 その項目が改善する ことで保護的効果を得られると思われるので、 ゴールに分類することができ る。 評価者は重要項目の評点を控えめに行うことが勧められる。重要項目の本質 が見えなくても、最大4つのキー項目と4つのゴール項目に印をつけるのがよい。 それはその人にとって他の項目よりも明らかに重要な項目につけられる。 3. 最終的な保護要因の判断を行う HCR-20とそれに関連した評価尺度と同様、評価者はSAPROFの終わりに最終 評価を出すことが求められる。3ポイント制の評価尺度を用いることで、最終評価 は評価者がどの程度「保護」 があるか、 すなわちどの程度それらの要因が将来の 暴力行為のリスクを減らすと考えているのかを反映している。 「低い」判定は評価 者が保護要因を少ないまたはないと考えていることを示し、 「中間」 は中等度の保 護を、 「高い」 は高度な保護を示している。HCR-20およびその関連と同じく、最終 判断は個人の保護要因を合計するだけでは決められず、 その項目の解釈と熟考、 統合による。 最終的な保護要因の判断をする際には、 重要項目も考慮に入れられ るべきである。 臨床使用のためには、最終判断を5ポイント制の評価尺度を用いるのが簡便か もしれない、1)低い、2)低い~中間、3)中間4)中間~高い、5)高い保護。3ポイント 制の代わりに5ポイント制を用いることで微妙な差異を表しやすい。治療の進展 が概ねゆっくりである司法領域では、小さな差異を見せられるほうが便利で動 機付けになりやすい。 さらに、Van der Hoevenクリニックの研究では5ポイント制 のほうが3ポイント制よりも最終判断の予測妥当性が高かった (SAPROFによる調 査、p30を参照)。 28 4. 最終的なリスクの統合的判断を行う この最終ステップでは、前の3ステップの結果がHCR-20またはその関連した尺 度の結果とともに統合されなければならない。使用者は両方の評価尺度の結果 を注意深く考慮し、解釈し、統合する、 すなわち、 リスク要因と保護要因、最終判 断を結合し、熟考して、将来の暴力行為の傾向に対する最終的なリスクの統合 的判断に至るべきである。最終的なリスク判断は翌年のためになされるべきであ る。最終的な判断に加え、暴力が起こりうる状況、頻度、持続時間、起こりうる時 間枠を描写した最も起こりそうなリスクのシナリオを作成し、 それとともに被害 者になりうる人を同定することが勧められる (リスクの明確化、 p30参照)。 使用資格 使用資格はSPJのガイドライン (例えばWebster et al., 1997, p. 17) に書かれたも のと同様である。SAPROFは常にHCR-20またはその関連した評価尺度と組み合わ せて使われなければいけないので、評価者はリスク評価尺度の使用資格を手元 に置いておく必要がある。 最初に、評価者は個人の評価を実施することの専門的技術を持つべきである。 評価者はテストや (半)構造化面接の実施と解釈に対して訓練をうけ、 さらに/ま たは経験をすべきである。SPJガイドラインのいずれかの特定のトレーニングが強 く推奨される。次に、評価者は暴力の性質と原因、暴力の予測と防止に関する最 新の専門知識や研究報告に習熟すべきである。専門性の程度はSAPROFを使う 目的による。SAPROFが臨床目的に使用される場合、専門性のレベルは高くある べきである。研究目的の場合、使用資格は幾分厳重ではない。我々は、 比較的経 験の乏しい評価者は経験豊富な評価者に少なくとも10のリスク評価の監修を受 けることを勧めている。 さらに、個人の各項目への理解を鋭敏にして 「漂流」 を防 ぐために、我々は合意モデル (1.各項目を評点する、p27参照) か少なくとも頻回 の同僚との相談を強く推奨している。 SAPROFの実践 SAPROFによる知見は治療計画を立て、 リスク対処戦略を発展させるうえで役 立つだろう。 いくつかの項目、例えば1(知能) や2(幼年期の安全な愛着形成) は 治療介入の影響を受けないか、非常に限られた程度しか変化しない。 しかし、 ほ とんどの項目は治療と、 または監察の指針を与えてくれる。精神保健の専門家は その患者たちに、可能な仕事(項目6.仕事) や構造的な余暇活動(項目7.余暇活 動) を探すことを援助し、彼らがソーシャルネットワークと関係性(項目13. ソーシ ャルネットワーク、14.親密な関係、15.専門的ケア) を広げ、維持するのを手助け することができる。 さらに、‐HCR-20やその関連のリスク因子と関係して‐それは患 29 者に必要な統制と監察のレベルを評価し、決定するためにも重要である。入院治 療の初めに、精神保健の専門家は主に外的項目の15(専門的ケア)、16(生活環 境)、17(外部からの監督) が暴力行為の再燃に対する保護をもたらしていること に気づくだろう。理想的には、治療経過の中で他の動的な保護要因が見いださ れ、強化され、最終的に外的治療要因の保護が動機付け項目と内的項目に変わ る形で項目点数のシフトが起こるだろう (SAPROFによる調査、p30も参照)。 頻繁にSAPROFを臨床目的に使用しているVan der Hoevenクリニックの精神 保健の専門家は、評価尺度が治療の目的を形成し、治療の次のステージへの移 行を正当化し、治療を実施し、 その患者の治療に関わる人々とリスクの共有を行 ううえで役立つと述べている (Van den Broek & De Vries Robbé, 2008)。精神保 健の専門家にとって、SAPROFの要因を患者と一緒に判断し、治療の際にどの項 目に注意が必要か議論するのに役立つだろう。 この前向きで、共同的なアプロ ーチ‐選択肢と可能性を一緒に探す‐は精神保健の専門家と患者/依頼人の両者 の動機付けとなりうる。 リスクの明確化 SAPROFの知見は全リスク評価の報告に統合されるべきである。 リスク評価尺 度の知見を報告し、 リスク要因と保護要因に関して意思疎通を図る場合、評価 者は点数にとらわれず、関連した項目の明確な描写と、仮定された将来の暴力の 傾向に関する最終判断を述べることが勧められる。 このリスクを明確化する過程 で、評価者はその患者が暴力に至るもっとも起こりそうなシナリオの物語を作ろ うと試みるべきである。明確化する過程で考えられるものは、性質、重症度、切迫 性と予想された暴力行為で被害者となりうるものである。使用されるリスク評価 尺度は、 どのように暴力行為が起こりうるか、 どんな要因がリスクを増強させ (リ スク要因)、 どんな要因がリスクを減少させる (保護要因) のかという疑問に対す る洞察を評価者にもたらすべきである。保護要因を考える際には、患者が暴力的 になるのを防ぐためにどの要因が最も重要か、 さらに、 どの要因が保護のレベル を改善する可能性が最も高く、 そのために治療介入で最優先されるのかを導き 出すことが重要である。 SAPROFによる研究 後方視的なカルテ研究 SAPROFによる研究は世界中の様々な領域で行われている。 オランダの妥当性 研究から得られた知見には触法精神障害者の異なる事例が関わっている。 司法 精神の病院で平均5.5年の強制治療を終了して退院した暴力 (N=105) と性暴力 (N=83) の犯罪者について2つの後方視的なカルテ研究が実施された (De Vries Robbé, 2014 ; De Vries Robbé & De Vogel, 2013 ; De Vries Robbé, De Vogel, & De 30 Spa, 2011 ; De Vries Robbé, De Vogel, Koster, & Bogaerts, 2014)。両方の事例の患 者は当初パーソナリティ障害と、 より軽い程度の精神病性障害と診断された。性 暴力の事例では、 すべての患者は実際の性暴力のために有罪判決を受けており、 その5分の1は児童虐待が含まれていた。資料の情報によれば、SAPROFとHCR-20 は治療の最後に評点されていた。70のケースで、2人の評価者によって資料が判 定されていた。結果として、SAPROFは全得点と最終的な保護要因の判断におい て、暴力の事例(ICC = .88; ICC = .85, p < .01, single measure)4と性暴力の事例(ICC = .85; ICC = .73, p < .01, single measure) の両方で、優秀な評定者間信頼性を示し た。 すべての犯罪者の転帰のデータは、地域社会における退院後最低3年間の フォローアップを行った公式犯罪記録から集められた。予測妥当性はReceiver Operating Characteristics解析で検査された (Area Under the Curve, p32を参照) 。表3は、犯罪者の両方の群と、 それを混合した群において、治療後のSAPROFによ る暴力再犯の予測妥当性を示している。表3が示すように、暴力の群と性暴力の 群の両者でSAPROFの全得点は短期(1年)、 中期(3年)、長期(平均11年) の暴力 再犯に良好な予測妥当性を示した。 これらの結果は暴力の群と性暴力の群で等 しく良好であったが、解析によれば2つの暴力群で、将来の (性)暴力に対して異な るSAPROFの要因が最も予測的であった。 自己統制、仕事、金銭管理は暴力犯罪 者に、対処能力、 自己統制、動機と姿勢が性暴力に最も予測的であった。 SAPROFの合計点をHCR-20の合計点から引くことで、暴力リスクが利用可能な 保護要因によって代償される新しい評価尺度が作成された。表3にこの組み合 わせの尺度の予測精度全体がHCR-20単独よりも高いことを示しており、SAPROF の追加がリスクのみの評価尺度の予測妥当性を高めることを示唆している。長 期のフォローアップにおいて、SAPROFとHCR-20、 そして組み合わせた評価尺度と HCR-20の予測精度の差は有意である (Х² (1, 188) = 9.1, p < .01; Х² (1, 188) = 13.4, p < .01)。最終的な保護要因の判断と最終的なリスクの統合的判断は、 ほぼ等し く良好に暴力の再犯を予測した。一般的に、5点制の評価尺度でなされた最終判 断は、3点制の評価尺度による場合よりもより正確に暴力を予測した (3.最終的 な保護因子の判断を行う、p28を参照)。 にも関わらず、両方の評価尺度の全得点 のAUC評価は最終判断のものよりわずかに良好だった。 評定者間信頼性はIntraclass Correlation Coefficient (ICC ; McGraw & Wong, 1996)によって調べられる。 ICCs (single measure)による臨界値は、ICC ≧ .75 =優 良、.60 ≦ICC< .75 =良、.40 ≦ICC < .60 =中等度、 ICC < .40=不良である (Fleiss, 1986)。 4 31 Area Under the Curve 評価尺度の予測妥当性を評価する統計学的な方法として、receiver operating characteristics (ROC) analysis は広く用いられている (Douglas et al., 2007 ; Rice & Harris, 1995)。 この統計学的方法の主な 利点は、基礎値に感受性が低いことである。ROC解析は、 その評価尺 度のあらゆるカットオフ値における真の陽性値(感度) の偽の陽性値 (1-特異度) に対する点で表される。曲線の下の領域(AUC) は、無作 為に選ばれた再犯者が無作為に選ばれた非再犯者よりも、 リスク評 価尺度の点数が高いか、保護評価尺度の点数が低い確率と解釈でき る。AUCが .50であれば予測できる可能性を表し、 AUCが1.0であれば 完全に予測できることを意味する。一般的に、 AUC値が .70以上であ れば中から大と考えられ、 .75以上は大と考えられる(Douglas et al., 2007)。保護要因は非再犯を予測するためのものなので、SAPROFの AUC値は非再犯の予測の正確さを表す。 32 33 .91** .89** .81** .85** .82** .83** .80** .85** HCR-20の全得点 HCR-20全得点 – SAPROF全得点 最終的な保護要因の判断 3点制 最終的な保護要因の判断 5点制 最終的なリスクの統合的判断 3点制 最終的なリスクの統合的判断 5点制 * = p < .05, ** = p < .01 (two-tailed). .83** .85** SAPROFの全得点 注. N=83 .83** .79* .81* .79* 性的 暴力 1年 N=105 フォローアップ期間 .68* .72** .84** .87** .84** .79** .83** .71** .65* .72** .71** .74** .85** .80** N=105 暴力 N=188 合計 .73** .70* .71* .73** .80** .80** .77** N=83 性的 3年 .72** .67** .71** .72** .76** .73** .75** N=188 合計 .68** .66* .69** .67** .71** .67** .71** N=105 暴力 表3.退院した加害者(N=188 ♂) における治療後のSAPROF点数の暴力行為再犯の予測妥当性(AUC値) .68** .67** .65* .66* .72** .67** .74** N=83 性的 .68** .66** .67** .66** .70** .64** .73** N=188 合計 8/15 年 (平均) SAPROFで治療中の変化を測定する 188例中120例で、前歴および治療初期段階のカルテ情報に基づいて、治療 開始時のSAPROFも点数化された。図2は治療初期と治療終了時に評価した SAPROFの点数の平均値の変化を表している。各項目は治療中に予測される変化 の方向性(SAPROFの実践、p29も参照) からは、不変(項目1-2)、上昇変化(項目 3-14)、下降変化(項目15-17) に分かれる。治療前後の点数の比較では、上昇変化 のSAPROFの項目の合計点が治療中に有意に増加していた。予想されたとおり、 外的な下降変化の項目は治療終了に向けて有意な減少を認めた。外的要素から 動機付け、 内的要素への保護の明確な交替は、治療において目標とされるもので ある。実際に、SAPROFの上昇変化項目の治療中の変化は、治療終了後長期に暴 力加害者の新たな有罪が起こらない前兆であることを証明した (10年間のフォロ ーアップでAUC= .75、 p < .01)。 このように、 SAPROFで測定される治療の発展が大 きい患者ほど、治療終了後の常習化が少ない。 図2. 治療前後のSAPROFの点数(N=120) 12 10 8 不変 (項目 1-2) 6 上昇変化 (項目 3-14) 4 下降変化 (項目 15-17) 2 0 治療開始 治療終了 注. 項目1-2の点数は両方の評価で1.6;項目3-14の点数は3.6から10.1に変 化、p < .001;項目15-17の点数は6.0から1.7に変化、p < .001. 34 前方視的な臨床研究 315名の (男性および女性)入院中の触法精神障害者の評価を含んだ前方視的 研究の予備的研究が、治療中の暴力事故に関するSAPROFの臨床面の評定者間 信頼性と予測妥当性を調べるために行われた (De Vries Robbé & De Vogel, 2011 ; De Vries Robbé, De Vogel, Wever, & Douglas, 投稿中)。専門性の異なる3人の独 立した評定者による評価が行われ(看護スタッフ、治療の監督者、研究者)、各項 目の最終的な点数は会議による合意のうえで行われた。3人の評定者によって行 われた250の評価におけるSAPROF総合得点の評定者間信頼性は良好であった (ICC= .70、p <.01、single measure)。合意による点数は予測妥当性の判定に用い られた。表4は、評価から1年以内の他者への暴力行為におけるSAPROFとHCR-20 の予測妥当性を示している。男性人口に対するこの前方視的臨床研究の結果は 後方視的な資料研究のものと非常に類似していた。 さらに、SAPROFは男性の性暴 力を暴力行為と同様に予測しており、最終判断よりも総合得点の予測性が若干 上回っていた。女性の暴力への予測値は比較的良好であったが、少ない症例数で 有意差がなく、 男性患者の場合より低値であった。 さらに、異なる集団において異 なる要因が最も良い予測要因であった;自己コントロール、権威への姿勢、仕事、 治療への動機と服薬と男性の暴力;対処能力、余暇活動、権威への姿勢、 ネット ワークと男性の性的暴力;知能、対処能力、仕事、金銭管理と女性の暴力。全体的 に、SAPROFの点数は良好な予測妥当性を持ち、組み合わせたHCR-SAPROFの点 数はそれぞれの評価尺度単独の場合を超えた予測性を示した。 表4.SAPROFの臨床評価における治療中の暴力行為の予測妥当性(N=315、1年 間のフォローアップ) フォローアップ 暴力 N=148 ♂ 性暴力 N=97 ♂ 全体 ♂ N=245 ♂ 全体 ♀ N=70 ♀ 全体 N=315 SAPROF全得点 .77** .81** .78** .70 .77** HCR-20全得点 .74** .85** .79** .78* .79** HCR-20 – SAPROF合計 .81** .84** .82** .76* .81** 最終的な保護要因の判断 .69* .73** .70** .69 .70** 最終的なリスクの 統合的判断 .75** .81** .77** .72* .76** 付記.* = p < .05, ** = p < .01 (two-tailed). 最終判断は5点制で行っている 35 後方視的な資料研究と同様、SAPROFは動的であり、患者の保護要因は治療 過程とともに増加することを証明した (図3参照)。同時に、HCR-20の動的下位尺 度であるクリニカル要因とリスク・マネージメント要因の評価点も、時間経過と 共に減少していた。保護要因の改善とリスク要因の削減の両者が結果として全 体的な暴力リスクを減少させた。治療の後期にはさらに暴力行為が少なくなり、 患者が治療中に保護要因を築く機会があれば、SAPROFの要因による暴力がな いことの予測は特にこれらの治療後期において優れていることが分かっている (De Vries Robbé & De Vogel, 2011 ; De Vries Robbé et al., 投稿中)。 これらの結果 は、SAPROFの (司法)臨床実践における応用性と治療経過の評価における有効 性を示している。 さらなる前方視的研究はこれらの知見に確証を与えねばならな いだろう。 図3.異なる治療段階におけるリスク要因と保護要因の全得点(N=315) 35 HCR-20 30 SAPROF 25 HCR-SAPROF = 20 暴力リスク 15 10 5 0 病棟内 監察下の外出 非監察下の外出 地域での監察 付記.異なる治療段階における暴力行為の割合:病棟内29%、監察下の外出15% 、非監察下の外出7%、地域での監察3% 36 要約すると、SAPROFは信頼性のある評点が可能であり、治療中および治療後 の両方で将来の暴力に対する強力な予測性を示した。 これらの結果はVan der Hoevenクリニックの異なるタイプの司法精神領域の犯罪者に関して一致してい る。異なる国や環境におけるさらなる研究がこれらの知見を強化するべきであ り、 さらには一般的な犯罪者や外来治療環境における犯罪者など異なるグルー プへのSAPROFの有効性に焦点を当てるべきであろう。 37 38 各項目の説明 SAPROFの各保護要因が以下に記載されている。 すべての項目について、 その 項目が導入された理論的根拠が、項目の評点を手助けする指針とともに簡潔に 記載されている。 39 40 Referenties Codeerblad Externe items Motivationele items 内的項目 内的項目 内的項目は、将来の暴力的行動を予防する効果のある、個人の特徴に関連す る。 内的項目には、個人のヒストリカルな特徴と動的特徴の両方が含まれる。 41 1.知能 論拠 Kandel et al. (1988) は、縦断的研究で、成人男性におけるIQの高さ (『WAIS』 (Wechsler, 1997) の短縮版で計測されたもの) の役割を調査した。 この研究で、 リスクの高い男性(つまり、深刻な犯罪歴のある父親を持つ男性) とリスクの低い 男性(つまり、犯罪歴のない父親を持つ男性) が比較された。 自身に犯罪歴がない リスクの高い男性は、 自身に犯罪歴があるリスクの高い男性およびリスクの低い 男性に比べて、IQが有意により高かったことが報告された。 White et al. (1989) は、 非行に走る若者(男子と女子) はそうでない若者と比べて、IQの値が有意により 低かったことを報告している。 42 コーディング 2 平均以上の知能 1 平均的な知能 0 平均以下の知能 知能は例えば、 『WAIS』 または 『カウフマンの青年及び大人の知能テスト(KAIT) 』 (Kaufman & Kaufman, 1992) などの信頼性と妥当性があるテストを使って測定 されるべきであり、 しかもスコアはできるだけ直近に測定されたものが望ましい。 知能の測定が6年以上前の場合は、本項目は省略する必要がある。本項目は、 テ ストの手引書通りの質問と解釈にもとづいて実施された知能検査の得点をもと にコード分類される。一般的に、平均値よりも1標準偏差文、上または下のスコア をカットオフとして採用する。 ほとんどの知能テストでは、IQ100が平均であるよう に考慮されているので、IQ115以上の場合はコード2(平均以上)、IQ85以下の場 合はコード0(平均以下) とする。 もし被験者が『DSM-IV』 の精神遅滞に該当する 場合は、 コード0にしなくてはならない。 注! 知能は保護要因ではなく、 リスク要因となる場合もある。例えば、法律の処罰 をすり抜けたり、他人を操作したりするのが非常に上手な、知能の高いサイコパ ス者(つまり、 『サイコパス・チェックリスト改訂版(PCL-R)』 のスコアが高い人) の 場合がある。 こうした事例でもやはりコード分類のルールは指示通り運用されな くてはならないが、個別事情を考慮にいれて最終判断をすべきである。 43 2.幼年期の安全な愛着形成 論拠 児童期(18歳未満) に社会性のある大人と確かな絆を築いている場合、反社会 的行動および暴力行動が児童期、成人期で展開されることに対する保護要因と なりうる(Fitzpatrick, 1997 ; Fonagy, Target, & Steele, 1997 ; Hawkins et al., 1992) 。 また、安全な愛着は、共感性の向上とも関連がある。 そして、共感性もまた保護 要因である (Davis, 1994 項目3「共感性」参照)。 さらに、児童期に安全な愛着、 および大人の肯定的なロールモデルを持つことは、問題解決能力、社会的スキ ル、感情の安定の向上に好影響を与える (Ainsworth, 1989 ; Bowlby, 1969, 1973 ; Frankel & Bates, 1990 ; Jacobson & Wille, 1986)。 44 コーディング 2 少なくとも1人の社会性のある大人との安全な愛着が、児童期に明 らかに存在していた 1 少なくとも1人の社会性のある大人との安全な愛着が、児童期にあ る程度存在していた 0 少なくとも1人の社会性のある大人との安全な愛着は、児童期に存 在していなかった 本項目は、被験者の18歳以前の成育歴についての情報(立証できるものが望 ましい) に基づいてコード分類されるものとする。重要なのは、被験者が児童期に 他人を信用することを学んでいること、一人以上の大人からあたたかい愛情を受 けていて、 そうした大人から受容され、 かつ社会性がある行動をするように励ま されていることである。安全な愛着スタイルの発達だけでなく、社会性のある大 人から与えられた肯定的なロールモデルもこの項目に含まれる。 過度の甘やかしや過保護など、強すぎる絆が明らかな悪影響を生んでいる場 合、 こうした愛着は保護的効果が少ないと考えられる。 この点を考慮して、本項目 のコード分類を行う必要がある。社会性のある大人とは、被験者が子どもの時に 周りにいた大人で、 その時に反社会的行動が表出していない人のことを指す。 そ れは両親または主たる養育者であることが望ましいが、他の大人との確かな絆( 教師や親戚の人など) も含むものである。被験者が児童期に反社会的な大人と 愛着関係を築いている場合、 これは保護要因ではなくリスク要因となりうる。 な ぜなら、被験者は子ども時代にそうした大人の反社会的行動を真似していたり、 盗みや麻薬取引などの犯罪現場に連れて行かれていたりする可能性があるから である。愛着関係を築くのが難しいことが知られている種類の発達障害(例えば、 自閉症スペクトラム障害) がある場合、 その点を考慮しながら本項目のコード分 類を考える必要がある。 45 3.共感性 論拠 共感性とは、人がお互いを理解し、相手の状況や情動の状態に同一化で きる性質と定義される (Cohen & Strayer, 1996 ; Eisenberg & Miller, 1987) 。Saltaris(2002) は、共感性とは基本的な道徳感情であり、人との関わりおよび相 手への責任感が最も重要な要素であると説明した。幼児期の早い段階で既に共 感性がみられることが、実証的研究で示されている (Beck, 1999)。反社会的な行 動パターンの展開にとって、共感性の有無は、 それぞれ保護要因、 リスク要因と して機能すると考えられる (Davis, 1994 ; Miller & Eisenberg, 1988 ; Zahn-Waxler, Cole, Welsh, & Fox, 1995)。 また、共感性は、罪の意識の発達およびその体験の前 提条件である (Hoffman, 1994)。罪の意識と共感性は、共に、社会性のある行動 に結びつく (Leith & Baumeister, 1998)。共感の能力が十分にある人は、被害者の 立場に立ち、彼らの痛みや恐れを理解し、 こうした経験がストレスであることを感 じることができる。彼らがこうしたストレスを避けるため、反社会的行動を止める 傾向は、共感能力が欠けている人に比べて、 より高くなると考えられる (Miller & Eisenberg, 1988 ; Saltaris, 2002)。 シカゴにある学校における 「暴力防止プログラ ム」 の効果を調べた研究によると、 自己報告による共感性は、暴力行動減少の重 要な予測因子であった (McMahon & Washburn, 2003)。 46 コーディング 2 共感性が明らかに存在している 1 共感性がある程度存在している 0 共感性は存在していない 本項目のコードは主に、被験者が、他人や他人の状況に対して示す行動および 感情の観察に基づいて分類される。重要なのは他者に共感する能力、特に被害 者になる可能性のある人に対して共感する能力である。共感性の存在を示す指 標は、 その個人が他者の不幸に同一化したり、他の人を心配したりする能力の中 に見出すことができる。本項目は動的項目としてコードされるべきで、主として最 近6ヶ月の観察を用いる。加えて、共感性に関連した行動については、被験者の成 育歴と以前の心理検査報告を参考にすることもできる。 47 4.対処能力 論拠 研究によると、再発防止モデル (Relapse Prevention Model) にもとづくセラピー と、性的暴力行動または非性的暴力行動の再犯率の減少には相関性があること が示されている (Aytes, Olsen, Zakrajsek, Murray, & Ireson, 2001)。再発防止モデ ルでは、有効なコーピング・スキルを学習することで、再発を防ぐことを基本とし ている。有効なコーピング・スキルとは、問題が、 ほとんど、 あるいはまったく悪影 響を持たなくなるように、 日常生活の (日々の) ストレスから身を守るスキルであ る。Mckibben, Proulx, & Lussier(2001) は、対人関係ストレスや陰性感情に対処す るのに有効な行動的戦略をいくつか挙げている (例えば、社会的スキルの学習ま たは向上など)。彼らはまた、逸脱的な性的空想に対処するには、認知の再構成 などの戦略が最も有効であることを発見した。否認などの回避戦略は、 より適応 力のある反応の発達を制限するので、一般的には有効ではない (Holahan, Moos, & Schaefer, 1996)。精神疾患を持つ攻撃的な青年に対する治療に関する研究に よると、 良い問題解決スキルは、暴力、脅迫、 自傷、危険志向行動(Risk Seeking Behavior) の再発防止に有効であった (Vance et al., 2002)。 48 コーディング 2 有効な対処スキルが、明らかに存在している 1 有効な対処スキルが、 ある程度存在している 0 有効な対処スキルは、存在していない 本項目は複数の情報源にもとづいて分類されるものとする。本項目の調査には 自己報告が有益な情報を提供するが、 自己報告だけでは十分でない場合もある。 対処スキルの有無を正確に判断するためには、被験者の日常生活の情報を含め ることが不可欠である。例えば、入院患者の共同生活、治療グループ、 ロールプレ ー中などの行動を観察することで、 その人が、葛藤や、悪い出来事にどう対応して いるのかの洞察がより多く得られる。例えば、被験者はストレス状況に上手に対 応しているか?問題解決的な態度で対応しているか?被験者は他人に協力を求 めて、問題について話し合っているか?あるいは、問題を否認、軽視、回避してい るのか?こうした点が観察からわかる。本項目は主に、最近6ヶ月の情報にもとづ いてコード分類されなくてはならない。 さらに、被験者の既往歴および以前の心 理検査報告から、被験者が、過去において、問題や難しい状況にどのように対処 したかの情報を得ることができる。社会的スキルとコミュニケーションスキルが、 問題の有効な対処法に役立っている場合は、両者を本項目に含めることができ る。 49 5. セルフコントロール 論拠 セルフコントロールとは、目標達成のため、期待に沿うために自分の行動を 制御することである。Gottfredson & Hirschi(1990) は、General theory of Crime ( 犯罪の一般論) の中で、 セルフコントロールとは、満足感を先延ばしにする能力 であると説明しており、 セルフコントロールの重要性を力説している。彼らは、 セ ルフコントロールの強い人は、あらゆる生活状況において、犯罪的行動に走る 傾向が、 より少ないと説明している。個人と周囲環境の最適な状態を実現する ために、衝動、思考、欲望を制御したり変更したりすること、望ましくない行動 を押さえることが、 セルフコントロールと関係する (Rothbaum, Weisz, & Snyder, 1982)。そしてこれは、衝動、行動や感情のコントロールの効かなさを抑える効 果がある。Pratt & Cullen(2000) は、 メタ分析に基づき、低いセルフコントロール は、犯罪および、その関連行動を予測する重要な要因だと指摘した。Tangney, Baumeister, & Boone (2004) の研究から、 セルフコントロールが強いと、 あらゆる 分野(たとえば、嗜癖、精神病理学的症状、対人関係、攻撃性の調節、感情機能) における問題の発生率がより低くなることが明らかになった。 Finkenauer, Engels, & Baumeister(2005) によって、青年期の間では、 セルフコントロールは感情面や 行動面の問題防止を仲介する効果があることが指摘された。 50 コーディング 2 セルフコントロールが、明らかに存在している 1 セルフコントロールが、 ある程度存在している 0 セルフコントロールは存在していない 本項目は観察されたセルフコントロールのレベルにもとづいてコードされるも のとする。例えば、被験者は自分の衝動を制御することができるか?ストレス状 態下でも冷静なままでいることができ、 かっとなることはないか?被験者が、攻撃 性の調節または感情の調節の訓練を受けている場合、訓練の効果に関する情報 は、 セルフコントロールの発達レベルを評価する上で役に立つ。 さらに、質問紙を 使用することもできる。 自己訓練と忍耐力‐長期的に、意図を維持し、望ましくない 行動を抑制すること‐は、 セルフコントロールがあれば自然とついてくる。 自己訓練 力の例は、精神病状態になりやすい患者が、 なんとか薬物の使用を控え続けるこ となどである。 セルフコントロールの発達が良好で、 自己訓練力が長期間維持さ れている場合、暴力行動の再発可能性は、 より低くなるので、 コード2とする。 セル フコントロールが、 ある程度しか発達していない場合、 またはセルフコントロール が (まだ)長期間維持されていない場合、 コード1とするのが適切である。 51 52 Referenties Codeerblad Externe items 動機付け項目 Interne items 動機付けの項目 動機付けの項目は、社会の積極的な一員となろうとする動機付けから生じる 保護要因に関連するものである。 これらの項目は、治療や一般的な生活の多様な 側面に対する動機付けや姿勢に影響を及ぼすものである。 53 6.仕事 論拠 有給および無給の定職は、構造化された生活や、 日々を過ごすための有意義な 方法に貢献する。 さらに適職を得ることは、個人的な目標や願望の達成を通して、 充足感や本質的な報酬をもたらし得るものである。仕事は、犯罪者の社会への ( 再)統合にとっても重要である。 メタ解析において、Gendreau et al. (2000)が、拘留 中の訓練および釈放時の仕事のニーズと再犯との関連性について調査している。 それによると、仕事に関連したニーズを示すことのできた犯罪者は、 そうでないも のに比べ再犯率が顕著に低いことが明らかになった。保護観察中のクライアント における調査では、就労しているクライアントは、非就労のクライアントに比べ、再 犯率が著しく低いことが示された (Finn, 1999 ; Taxman, Byrne, & Moline, 2000)。 54 コーディング 2 安定した、 ふさわしい就労状態が明らかに存在している 1 安定した、 ふさわしい就労状態がある程度存在している 0 安定した、 ふさわしい就労状態は存在していない この項目をコード分類する際には、仕事と個人の能力が適合していることと共 に、安定した就労がもたらす枠組みが重要である。仕事は有給であろうと、無給 であろうと、施設内であろうと施設外であろうと構わない。規則的な日常生活の 枠組みや有意義な一日の過ごし方に役立つ安定した仕事があれば、 ( 少なくと も) コード1が与えられる。 さらに仕事が個人の目標や志望に合致している場合 は、 コード2が妥当である。個人の義務に対する契約を守りそして責任を負うこと が安定した仕事の状態に役立つ。 安定した仕事というのは、相対的な概念であり、個人の治療的段階を考慮しな ければならない。例えば、過去に子どもに対する性犯罪を犯したものが小学校に 勤務するような場合であるが、 このようなケースのように個人がリスク要因に直 面することが生じる場合には、仕事が保護的ではないことは明らかである。 施設 内での仕事が作業療法によって構成されたものであり、個人の仕事の能力に一 致していない場合は、 この項目を評定する際に考慮されるべきではない。 55 7.余暇活動 論拠 Hoge et al. (1996)は、余暇時間の構造化された使い方が、保護観察下にある 青年期の犯罪者の再犯において保護的な影響を及ぼすことを見出した。 このこ とは、 リスクの低いものだけでなくリスクが高いものにも同様の結果が認められ た。 クラブ活動に参加することについても、 リスクを軽減する効果のあることが認 められた。 Mohoney & Stattin (2000)は、構造化された余暇活動に参加するこ とが、青年期の反社会的行為をより低下させるのに対して、構造化されていない 場合は反社会的行為の増加につながるとしている。成人の触法外来患者では、 余暇的なクラブに参加していることは、 自己申告による暴力および一般的犯罪行 為がより低いレベルに留まることと関連していた(Bouman, De Ruiter, & Schene, 2010)。 56 コーディング 2 構造化した余暇活動が、明らかに存在している 1 構造化した余暇活動は、 ある程度存在している 0 構造化した余暇活動は、存在していない この項目の評定に際して、評価者は特に余暇活動の構造化の程度に留意すべ きである。余暇活動は、組織化され、多くの人が関わる場合に社会的接触を生み 出す。組織化された余暇活動は退屈や孤独を防止し、 さらに社会的コントロール につながるものである。他者との社会的な交流を含んだ活動と比べ、個人的な余 暇活動がもたらす保護的要因は低いとみられている。 またそれと同様に、 その 「枠 組み」 が重要な役割を持っている。 すなわち時々の活動への参加は定期的に参加 する場合に比べてその効果は低い。 スポーツ、文化的な活動あるいはその他の組 織化された活動のような枠組みのしっかりした余暇活動に定期的および積極的 に関わっている場合は、 この項目はコード2とする。 このとき、個人がその余暇活 動を楽しんでいることが重要である。構造化された余暇活動に参加する頻度が それよりも低いが、 自分自身の余暇時間をうまく使っている場合は、 コード1とす る。 余暇活動の評価をする際には、 個別的なリスク要因を考慮することが求められ る。精神病に対して脆弱な患者で、構造化された余暇活動が禁忌となる場合が ある。 たとえば、個人にとって過度のストレスとなる多くの責任を伴う活動などが 挙げられる。 その他、 その人の状況に適した余暇活動が求められる。 たとえば過 去に小児に対する性犯罪を犯したものが、青少年のスポーツチームのコーチを することや、 アルコール依存症の人が趣味としてダーツを始め、結果的に頻繁に バーに通うようになってしまうような例は、 リスクを強化する不安定な状況に陥 らせることになる。 57 8.金銭管理 論拠 Serin & Mailloux (2001)は、犯罪学的ニーズを評価するための自記式質問票を 開発し、 金銭面の項目が再犯者と再犯をしないものとを明確に分ける要因である ことを見出し、 その中でも収入と借金に関する問題が明らかであった。Gendreau et al.(2000) によるメタ解析では、複数の研究で経済的問題と再犯に顕著な相 関があることが明らかにされた。不適切な金銭管理、現実の金銭管理の問題(借 金) および低収入は、経済的なリスク要因として認識されている。 さらに、借金の 少ない家庭では、家庭内暴力のリスクが有意に低いこともわかった (Litton Fox, Benson, DeMaris, & Van Wyk, 2002) 。 58 コーディング 2 安定した収入および堅実な金銭管理が、明らかに存在している 1 安定した収入および堅実な金銭管理は、 ある程度存在している 0 安定した収入および堅実な金銭管理は、存在していない 安定した収入および堅実な金銭管理は、 自分自身を養うのに十分な (もし該当 するならばその家族も)固定した収入が毎月あることと定義され、 その収入は仕 事の報酬から受けたものが好ましいが、社会的給付によって得ることもある。安 定した収入が十分であるかどうか判断するには、個別の生活状況を考慮する必 要がある。 もしそのひとが施設に入所している場合は比較的少額でもやりくりで き、収入が低くても足りるであろう。地域社会で暮らす人にとっては、住居やその 他の基本的な需要のためにより高い収入が必要となる。公的な団体やその他の 金融機関から借金のないことが重要である。安定した収入から容易に支払うこと のできるローンや住宅ローンは借金とはみなさない。貯金をしていたりあるいは 衝動的にお金を使うことを思いとどまることができるといった例のように、 その個 人が自分の金銭管理をうまく管理できているとみられる時にはコード2とする。 も し責任をもってお金を管理することができない場合はコード0となる。 59 9.治療への動機付け 論拠 この項目は、治療に関与する動機付けおよび暴力的な行為に関連する問題に 積極的に対処しようとする意志に関連するものである。治療に対する責任に留 意することは、 良好な治療およびリハビリテーションにとって重要なことである。 患者と治療者間の良好な協力と同様、治療的目標および治療計画への同意は 重要である。治療への動機付けを評価することは、治療に対する内発的動機付 けを当然のものとして得ることができない、非自発的な司法精神科医療において 特に価値のあるものとなる (Drieshner, 2005)。Van Beek & Mulder (1992)は治療 に対する動機付けに留意することは、性犯罪者の治療が奏功することにとって極 めて重要であると論じている。 アンガーマネージメントの効果に関する研究にお いて、Howells et al. (2003) は治療に対する動機付けが治療の有効性の良好な予 測因子であることを見出した。治療に対する動機付けのある犯罪者は動機付け の低いものにくらべ、 アンガーマネージメントプログラムによってより高い成果を 得た。 その他の研究でも治療に対する動機付けと治療的な有効性における正の 相関関係が認められている (Melneck, De Leon, Thomas, Kressel, & Wexler, 2001 ; Nickel et al., 2006 ; Schneider & Klauer, 2001)。Prochaska & DiClemente (1982)は、 薬物依存の治療に対する動機付けモデルを開発し、行動変容に対する動機付け に異なる段階のあることを説明している。最後に、 Stewart & Millson (1995)は、犯 罪者の、犯罪行為に結びつく要因について取り組むことに対する動機付けが、仮 釈放の成功と関連するかどうかを調べた。 そして、 自分の犯罪に関連する要因に 対して、高い動機付けをもつ犯罪者ほど、再犯率が低いことが分かった。 60 コーディング 2 治療への動機付けが、明らかに存在している 1 治療への動機付けは、 ある程度存在している 0 治療への動機付けは、存在していない この項目を採点する際に、治療に対する心構えに留意すべきである。 すなわち、 その個人が全般的に治療への動機付けがあるかどうか、 その個人は治療が必要 であることに気づいているか、 自身の行動を変容させるための動機付けがされて いるかどうか、 そして拒むことなく協力的であるかどうか?この項目の採点をする 際には、治療の進展について考慮することが求められるであろう。 もし保護観察 中の条件として専門的ケアに関わるケースでは、 この項目は観察および介入に対 する動機付けとして採点することができる。 61 10. 権威に対する姿勢 論拠 Hoge et al.(1996)は、権威に対する肯定的な反応と青年期に有罪判決を受 けた男女の集団における再犯の減少との間に相関関係があることを見出した。 この要因は、非行行為のリスク要因との相互作用がないことが証明されて おり、それゆえリスクの低いケースと高いケースの両 者に保 護 的 効 果をも つ。Stevenson, Hall, & Innes (2003)は、 司法制度に対する否定的な態度および違 法行為に対する寛容性が、一般大学生と比較してリスクの高い暴力的な犯罪者 に有意に多くみられることを見出した。 メタ解析では、Hanson & Morton-Bourgon (2004)らが、裁判所の課した制約の遵守の不履行は、性的暴力行為の再発の強 い予測因子であることを見出した。 62 コーディング 2 権威に対する肯定的な態度が、明らかに存在している 1 権威に対する肯定的な態度は、 ある程度存在している 0 権威に対する肯定的な態度はみられない 本項目の評定に際しては、権威に対する個人のふるまい方に留意すべきであ る。 このことは、治療者、監督者及びその他の権威としての位置づけをもつ対象 者に対する全般的な態度と共に、警察や裁判所の決定を受け入れること (例、課 された遵守事項に従うなど) についてもあてはまるものである。薬物あるいはアル コールを使用しないこと、処方された薬を服用すること、定期的な薬物検査を受 け入れることなどのように、約束を遂行する心構えがあるのか、規則に従うか? 被験者が権威や他者による統制に耐えることができ、 そして完全に自律性がある わけではないことを受け入れることができるかということが重要である。 63 11. 人生の目標 論拠 肯定的な人生の目標は、個人の人生に意味を与えるという面に関係してい る。人生に意味をもたらす要因の存在は、肯定的な人生の達成感や、将来に対 する目的および希望をもたらす。肯定的な人生の目標をもつことによって、長期 に亘る行動的な変容がさらに維持できるようになることが期待される。 リハビ リテーションにおける人生の目標の重要性についての研究において、Sivaraman Nair (2003)は人生の目標が治療プログラムの動機付けおよび参加に役立つこと を見出した。 オランダの司法精神科外来患者におけるLife Regard Index (Battista & Armond, 1973)の調査では、外来通院患者のうち自分の人生の目標を実現し ていると考える男性には犯罪に関与することがより少なく、 また自分の人生が 意味のあるものとする男性には暴力的犯罪の再犯が少ないことが報告されてい る。Debats (1999)は、対人交流に積極的に関わることが、人生に意味を加える 伝統的な方法であるとしている。 これは、 良いパートナー関係を持つことの動機 付け効果だけでなく、家族の絆や良い親になることなども含まれる。性的暴力お よび非性的暴力において、人生の目標に関する保護的効果は、社会参加あるい は思想に関連していることが、 いくつかの研究で報告されている (Rutenfrans & Terlouw, 1994 ; Borowsky, Hogan, & Ireland, 1997)。 さらに、 Furrow, King, & White (2004)は、意義の解釈、宗教と、健全な青年期の発達の間に正の相関があること を見出した (例、向社会的人格の発達など)。 64 コーディング 2 肯定的な人生の目標が、明らかに存在する 1 肯定的な人生の目標は、 ある程度存在する 0 肯定的な人生の目標が、存在しない この項目は、人生に意味をもたらし、前向きな人生の実現に導く要因の存在に 関わるものである。宗教あるいは思想を意味あるものとして経験するものもあれ ば、親であることや社会的あるいは文化的な願望や理想に肯定的な人生の目標 を見出すものもある。肯定的な人生の達成および人生に肯定的な意味を与える 動機付けに役立つものであれば、 そのような人生の目標はこの項目に含まれる。 将来の生活に意義を与える肯定的な人生の目標を持つことが明確であればコー ド2とする。人生の目標の存在を評価するためにThe Life Regard Indexを用いるこ とができる。 狂信や、一般的な規範や価値に対して異議を唱える集団に加わることからは 保護的な効果は得られない (Mitchell & Dodder,1997)。実際に、宗教への支持あ るいは特定の“外集団”に対する強い見解を持つ文化に帰属すること、 そして宗教 や文化を“保護する”ために暴力の使用を支持することは、暴力のリスク要因とな り得る (Cohen, 1998) 。 65 12. 服薬 論拠 アンドロクールAndrocur (シプロテロン酢酸エステルcyproterone acetate)ある いはMPA(メドロキシプロゲステロン酢酸エステルMedroxyprogesterone acetate) を服用している性犯罪者は、抗アンドロゲン剤を服用しないものに比べ再犯率が 低いことが調査によって明らかになっている (Bradford, 1990)。精神病性患者に みられる攻撃性は、 妄想、 幻覚、 極度の恐怖のような急性症状に関連している。 多 くの患者において、抗精神病薬がこれらの急性症状を軽減し、 ひいては暴力的行 動のリスクを減少させている (Torrey, 1994)。 Smith (1998) は、 司法精神科の患 者において、服薬コンプライアンスの欠如が精神病症状、破壊的行為、脅迫およ び暴力の増加につながると結論づけた。物質使用との組み合わせにより、服薬コ ンプライアンスの欠如は暴力的行為のリスクを相当に高める (Swartz et al., 1998 )。 さらに物質使用は薬物療法の効果にも影響を及ぼす可能性があり、例えばス テロイドの使用は抗アンドロゲンの効果を妨げる可能性がある。 66 コーディング 2 薬 物 療 法 の 動 機 付 けおよび 効 果 的 な 利 用 が 、明らかに存 在 する 1 薬物療法の動機付けおよび効果的な利用が、 ある程度存在する 0 薬物療法の動機付けおよび効果的な利用は、存在していない 該当なし 薬物処方が出されていない、 あるいは推奨されない この項目を採点するための情報は、 おもに個々の患者に処方をしている精神科 医あるいは一般開業医から収集されなければならない。個人が服薬の必要性に ついて理解していること、服薬の動機付けをされている (もし必要であれば、永続 的に) ことが重要である。体重増加、性欲の減退や集中力の問題といった副作用 の受け容れについても留意しておくことが求められる。薬物療法が保護的要因と なるのは、個人が服薬へのコンプライアンスを示したときのみである。 サポートシ ステム (例、精神保健の専門家あるいは親戚など) の人々は、服薬コンプライアン スについての情報を提供できるであろう。 さらに、処方計画がうまく調整され効 果的なものとなっていることも重要である。 この項目は精神保健専門職より服薬を勧められているすべての個人が適応と なる。 しかしながら、服薬は、実証研究あるいは臨床的な専門的知識から性的あ るいは非性的暴力を減少させる効果があると示唆されている場合にのみ保護的 要因(の可能性がある) として考えられる。性犯罪者に対しては、抗アンドロゲン 剤あるいは選択的セロトニン再取り込阻害薬(SSRI) が性的欲求の減少を補助す る役割を果たし得る。抗精神病薬、抗うつ薬、鎮静剤あるいは気分安定薬は、精 神疾患および人格障害の患者の保護的効果となり得るものである。精神薬理学 的作用のある薬剤あるいは抗アンドロゲン剤以外の薬物療法の使用も、個人の 健康と幸福な生活well beingに肯定的な効果を持つものであれば、例えば抗て んかん薬などについても、 この項目の評定に含められる。 もしあらゆる服薬が推 奨されない場合は、 この項目の採点は適用されない。 注! 抗アンドロゲン剤は性的興奮の感情を減少させるものであるが、 その他の性 犯罪のリスク要因は消失しないことについて留意しておくべできある、例えば、攻 撃性、権力欲や支配欲など。個別のケースにおいては、 これらの要因が性犯罪の 重大な役割を担うこともある。 67 68 Referenties Codeerblad 外的項目 Motivationele items Interne items 外的項目 外部項目は、個人の外部から保護を提供する有益な環境要因に関連する。 こ れらは、 自発的なものと課せられたものの両方のサポートを含む。 69 13. ソーシャルネットワーク 論拠 安定した向社会的ネットワークを持っていることが暴力行為に対して保護的 効果を生むことが研究により明らかになってきた。Borowsky et al. ( 1997) は、思 春期の男子学生にとって、友人達との交流が、性的暴力行為に対する保護的要 因であることを見出した。青少年に関する別の研究では、Fitzpatrick(1997) は、両 親との会話や学校の教師からの関心が、攻撃的な行動(例えば、喧嘩等) に対す る保護的要因になると結論づけた。Hilterman(2000) は、 オランダの司法精神医 療の患者の健常者との関わりが、退院中の再犯率を減少させることを示した。最 後に、 Vance et al.(2002) は、親戚からのサポートや向社会的仲間に接触すること は、攻撃性や感情の障害により治療を受けた青少年の再犯に対して、保護的効 果を持つことを明らかにした。 70 コーディング 2 向社会的で支持的なソーシャルネットワークは、明らかに存在している 1 向社会的で支持的なソーシャルネットワークが、 ある程度存在している 0 向社会的で支持的なソーシャルネットワークが、存在していない この項目では、友人や親族などのようなソーシャルネットワークが潜在的に支 えているという側面に注意を払うことが、特に重要である。 ネットワークそれ自体 の規模は、 それほど重要ではない。彼または彼女のソーシャルネットワークからの サポートがあり、 ネットワークのメンバーが彼または彼女を、積極的にサポートし ている場合は、 コード2を選択する。 より限られた程度で積極的な支援をするソ ーシャルネットワークに少数のメンバーのみが存在する場合、 コード1を選択す る。一方、 もし、 ネットワークメンバーが、犯罪や反社会的行動に肯定的な姿勢の 場合、 これはリスクの増加につながるだろう。 いくつかの研究が、社会からの逸脱または犯罪ネットワークを持つことは、犯 罪者(Goggin et al., 1998)、一般精神科の患者(Estroff & Zimmer, 1994 ; Monahan et al., 2001)、 司法精神科の患者(Hilterman, 2000) において、再犯や暴力の再発 のリスクを増大させることを明らかにしている。 しかしながら、仲間の患者や仲間 の囚人たちもまた、情緒的なサポートをすることや、治療や社会復帰のためのプ ログラムを終えるのに成功したロールモデルを提供することで、肯定的な影響を 生じさせることができる。 注! 社会的スキルや対処スキルに限界がある患者は、多くの社会的な接点を持つ ことで不安定化(Swanson et al., 1998 ) してしまうことがある。 このような患者に ついても、 コーディングの指示に従って記入すべきであるが、最終的な判断によ り決定する際には状況を考慮しなければならない。 また、親密な関係は、項目14 (親密な関係) で採点しているので、 この項目では、考慮すべきではない。 71 14. 親密な関係 論拠 いくつかの研究(例えば、 Horney, Osgood, & Haen Marshall, 1995 ; Sampson & Laub, 1990) により、親密な関係が、再犯に対して保護的効果があるというエ ビデンスが見出された。親密なパートナー関係が肯定的な影響を持つ場合がい くつかある。例えば、一緒にいてくれること、社会的規制として作用すること、人 生に意義を与えることなどである。 しかしながら、 ただ結婚しているというだけで は再犯を減少させるには不十分であり、親密な関係は、その質が決め手となる (Oddone-Paolucci et al., 2000 ; Wright & Wright, 1992)。Oddone-Paolucci et al. (2000)は、成人男性の犯罪者について、家族の要因と再犯に関する文献のレビュ ーを行った。彼らは、 良い夫婦関係を持つことが、再犯リスクの低下と相関するこ とを明らかにした。刑務所での懲役中にも良好な関係を維持していることや、出 所後も相互に満足な関係を構築していることも同様の相関を示した(Wright & Wright, 1992)。 Sampson & Laub (1990)も、親密な関係の質が犯罪行為に影響を 及ぼしていること、 パートナーへの温かい気持ちと強い愛着が、犯罪の減少に関 わることを明らかにした。 また、Laub, Nagin, & Sampson (1998)は、安定した親密 な関係は、以前には犯罪親和的な生活を送っていた者でも再犯のリスクを減少 させることを見出した。最後に、Klassen & O’Connor (1989)は、親密な関係を持つ ことは、一般精神科の患者の暴力行為のリスクを減少させることを見出した。 72 コーディング 2 質の良い安定した親密な関係が、明らかに存在している 1 質の良い安定した親密な関係は、 ある程度存在している 0 質の良い安定した親密な関係が、存在していない この項目については、親密な関係の安定性と質が考慮されるべきである。安定 性は、関係の長さ、 その時の安定性の両方が含まれる。個々人の年齢およびライ フステージを考慮する必要がある。 その人が、 ある一定期間(少なくとも12ヶ月) 持続して親密な関係を持っている場合、 結婚しているかどうかにかかわらず、 少な くともコード1が与えられるべきである。親密な関係の質を判断するためには、 パ ートナーからの情報を含めることが推奨される。 精神疾患罹患者にとっては、親密な関係が必然的に伴う期待や要求されるも ののため、親密な関係が保護要因よりもむしろリスク要因となりうる。家庭内暴 力に関係する犯罪の場合には、親密な関係は、 リスクを高めるだろう。 このよう なケースでは、評価者は、慎重に親密な関係の質を考慮する必要がある。 パート ナーが犯罪親和的な生活を支持する場合にも、再犯のリスクは増加するだろう (Wright & Wright, 1992)。 73 15. 専門的ケア 論拠 MacArthur Risk Assessment研究では、精神科患者の社会的ネットワークの構造 が、暴力や暴力の脅威に与える影響が調査された(Monahan & Steadman, 1994 ; Monahan et al., 2001)。結果は、 メンタルヘルスケアの専門家が患者のネットワー クの一部である場合、退院後、暴力行為のリスクが減少したことが示された。 さら に、退院後に治療セッションに参加した回数は、退院した精神科患者の暴力行 為のリスクに影響を与えた。退院後に参加したセッションが少ない者は、暴力行 為がより高率に見られた (Estroff & Zimmer, 1994 ; Estroff, Zimmer, Lachiotte, & Benoit, 1994)。精神疾患を持つ囚人の再犯に関する研究では、刑務所入所中の どの時点であっても精神科病棟に入院したことのある犯罪者は、退所後の再犯 率が有意に低いことを見出した(Gagliardi, Lovell, Peterson, & Jemelka, 2004)。再 発防止プログラムの効果に関するメタ解析で、 Dowden, Antonowitz, & Andrews (2003)は、再発防止セラピーを受けた患者は、平均して再犯率が低いことを見出 した。 Cooper, Eslinger, & Stolley (2006)は、暴力介入プログラムの効果を調査した 結果、 暴力防止プログラムから集中的な支援を受けた患者が、 薬物療法やスーパ ビジョンのみを受けていた対照群と比較して、暴力や深刻な犯罪がより少ないこ とを見出した。重大な少年犯罪者における処罰に対立するものとしてリハビリテ ーション療法の効果を調査したメタ解析では、 リハビリテーションを目的とする 十分に確立された介入が、将来の再犯リスクの低下につながったと結論づけた (Lipsey, 1999)。 74 コーディング 2 専門的なケアが、明らかに存在している 1 専門的なケアが、 ある程度存在している 0 専門的なケアは、存在しない この項目は、治療の有用性と手厚さに関するものである。個人がメンタルヘル スケアの専門家と定期的に接触を持っている場合、少なくともコード1とされるべ きである。 サポートの頻度と特徴(例えば、専門家の積極的なマネージメントがあ るか否か) が治療の手厚さの評価をする上で重要である。個人および彼または彼 女の状況に適したセラピストと定期的に接している場合は、 コード2とされるべき である。 この項目は、 司法精神医学や依存症ケアで働くメンタルヘルスケアの専 門家によるサポートに、特に注目して評価する。 しかしながら、保護観察官やソー シャルワーカーなど、他の機関からのサポートを提供する専門家の存在も考慮す る。 自助グループは、 この項目には含まれない。 ネットワーク内のヘルスケアの専 門家の人数は、 サポートの質と性質に比べると問題とならない。 注! 治療命令のもとで行われる処遇では、理屈から言っても、 ほぼ必ずメンタルヘ ルスケアの専門家が関わり、治療が密度高く行われることが多い。 しかしながら、 個人が、 セラピストから受ける影響をどのように体験し、 それに価値を見いだすか どうかには、大きな幅がある。 ヘルスケアの専門家に対する個人の態度は、項目9 (治療への動機付け) と項目10( 権威に対する姿勢)の評価の際に考慮される。 従って、本項目の評価では考慮されるべきではない。 75 16. 生活環境 論拠 いくつかの研究で、司法精神医学的治療又は拘留の期間後の生活条件の スーパーバイズは、犯罪行為の再発に対して、保護的効果があることが示され た(Casper & Clark, 2004 ; Hanrahan, Luchins, Savage, & Goldman, 2001 ; Hiller, Knight, & Simpson, 1999)。生活条件に保護的効果があるであろうことを示すさら なる証拠は、 Klassen & O’Connor (1989)が、両親と協調的に住んでいた人は、暴力 行為のリスクが低いことを見出した研究から得られた。 76 コーディング 2 メンタルヘルスケアの専門家によって、生活環境を集中的にスーパー バイズされている 1 メンタルヘルスケアの専門家によって生活環境をある程度スーパーバ イズされている、 あるいは家族と同居している 0 生活環境がスーパーバイズされておらず、 あるいは、同居しているもの がいない 生活状況について、 メンタルヘルスケアの専門家よって、ほぼ恒常的にスーパ ーバイズされている場合には、 コード2となる。 この項目では、本人のサポートや スーパーバイズの受け入れの程度は、重要ではない。一人で生活していても、 メン タルヘルスケアの専門家によってスーパーバイズされている場合、 コード1とすべ きである。関係者(例えば、親戚、子供、 またはパートナー) と一緒に住んでいる場 合は、 これもまた保護的効果があるのでコード1は与えられるべきである。 注! 関係者との関係の質は、項目13(ソーシャルネットワーク) と14(親密な関係) で扱われているため、 この項目では、考慮しない。例えば、 司法精神科病院での治 療が課せられている場合など、 いくつかのケースでは、 この項目は、項目15(専門 的ケア) と17(外部からの監督) と重なる。 もし、治療がそれほど集中的ではない なら、 これらの項目の重複は少なくなる。項目15は、治療的サポートを明確に扱 い、項目16は、生活環境を扱い、項目17は、外部からの監督の存在を扱っている。 77 17. 外部からの監督 論拠 再犯を防ぐために最も効果的な方法の一つは、 かなりの程度まで個人の自由 を制限することである。 しかし、 司法精神医療の治療が目指しているのは、 社会 復帰である。言い換えれば、治療の目標は、患者の再犯リスクを可能な限り低く 抑えながら、社会復帰できるようにすることである。義務付けられたコミュニティ の観察(個々に地域で生活しながらもメンタルヘルスの専門家の指導を受けて いる場合) 、 その他の裁判から命令された条件(すなわち、義務付けられた保護 観察による接触)は、少しずつ社会へ復帰していくことを保証するためによく使 用される。Maier, Morrow, & Miller (1989)は、長期の精神科入院からの退院前に コミュニティ準備プロジェクトに参加していた触法精神科患者と性犯罪者は、彼 らの地域生活準備過程中には、事実上、犯罪行為をしなかったことを見出した。 Leuw(1999) による、退院した高リスクの暴力的な犯罪者を対象とした研究では、 強制的治療の終了前の保護観察は、 再犯の最も重要な負の予測因子の一つであ った。 すなわち、保護観察の期間終了後に治療が終わった者は、強制的な治療の 終了前に保護観察の期間が無かった者よりも、再犯のリスクが低かった。 78 コーディング 2 外部からの監督が、明らかに存在している 1 外部からの監督が、 ある程度存在する 0 外部からの監督は、存在しない その個人が、裁判所の命令下で、強制的な治療や保護観察係に接触すること が義務付けられている場合は、外部からの監督が存在しているとする。外部から の監督の強さは、 その強さが、 その個人が条件を遵守することを助けるので重要 である。 その人が、永続的に臨床的なコントロール下にある場合は、コード2とす べきである。外部からの監督が、保護観察または、外来/地域機関によって行われ ている場合は、 コード1と判断される。 注! 項目9 (治療への動機付け)、 および項目10 (権威に対する姿勢) は、 この項目 と、部分的に重なっている。 しかしながら、項目9と項目10は、内発的動機づけを 扱い、項目17は、強制的な監督の存在だけを扱う。 79 80 Referenties シートの評価 Externe items Motivationele items Interne items SAPROFコーディングシート 暴力リスクの保護要因 HCR-20もしくは関連する構造化されたリスク評価ツールとの 併用においてのみ使用可 名前: 番号: 性別: q 男性 q 女性 年齢: 背景のリスク評価: 内的要因 1. 2. 3. 4. 5. 点数 知能 7. 8. 9. 10. 11. 幼年期の安全な愛着形成 12. 対処能力 セルフコントロール 点数 仕事 余暇活動 金銭管理 治療への動機付け 権威に対する姿勢 服薬 q 該当なし 外的要因 13. 14. 15. 16. 17. ゴール q 共感性 人生の目標 キー q 動機付けの要因 6. 日付: ソーシャルネットワーク 点数 親密な関係 専門的ケア 生活環境 外部からの監督 q q q q q q キー ゴール q q q q q q q q q q q q q q キー ゴール q q q q q q q q q q その他考慮すべき点: 最終的な保護要因の判断と 統合した最終的なリスク判断 SAPROF + HCR-20 評価者の名前: 保護 q低 q 低~中 q中 q 中~高 q高 リスク q低 q 低~中 q中 q 中~高 q高 職(身分): サイン: © Copyright August 2014, Van der Hoeven Kliniek Vivienne de Vogel, Corine de Ruiter, Yvonne Bouman & Michiel de Vries Robbé 81 82 参考文献 Codeerblad Externe items Motivationele items Interne items 参考文献 Ainsworth, M.D.S. 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