Page 1 Page 2 婚姻 の 対外的保護 ー 婚姻妨害の訴に関する 一考察

Title
婚姻の対外的保護: 婚姻妨害の訴に関する一考察
Author(s)
深谷, 松男
Citation
金沢大学法文学部論集. 法経篇 = Studies and Essays by The Faculty of
Law & Literature, Kanazawa University: Law and Economics, 10(1962):
95-136
Issue Date
1963-03-30
Type
Departmental Bulletin Paper
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/2297/40074
Right
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−
〒
≠
啄弓
妬
はじめに
深谷松男
l婚姻妨害の訴に関する一考察I
婚姻の対外的保護
︹一︺
その否定諭と肯定諭
婚姻妨害停止の訴の登場
蟠期妨害停止の脈の法規上の根拠11法的榊成
︹一一︺
︹四︺
婚姻の本質とその対外的保護
︹一二︺
︹五︺
︹一︺はじめに
の危機的状況は世界的現象である。それはたしかに全般的精神的危機を背景とし、一方において既存の婚姻紐帯の弛
的安定をもたらし、次世代の育成保持に不可欠のものとして不動の価値観によって維持されてきた。しかし今日婚姻
のと観念されてきた。そして近代資本主錠の成長と共にその機能を縮減しながらも、なお社会の男女関係の性的悩緒
有する婚姻は全人格的本質社会的結合として、生活の一面における利害打算的結合よりもより強固にして永続的なも
二︶今日婚姻が危横に立たされていることはあまりにも顕蕃であり普遍的である。本来社会柵造の核的地位を
〆
妬
緩として、他方において法的保謹の外におかるべき性的結合の墹大としてあらわれる。離婚増加の現象はその一つで
ある。夫婦生活そのものの弛緩、妻の家庭外労働の増大、閉鎖的生活様式の解体へ婚姻なる制度の一般的な価値低落
と浅薄化、あるいは伝統的なキリスト教精神に韮礎を有する蟠姻意誠の低下等が、遂には婿姻結合をして外部の者に
とってもはや不可侵の関係であるとは考えられないものにしてしまっているのである。こうして離婚の法規制を完備
することとならんで、さらに蛎姻結合に侵入し破竣せんとする外部の第三者に対しては如何に対処するかが問題とな
る。婚姻は決して私事︵即ご呉閏呂巴にとどまるものではない。それはまた社会・国家の最大関心事である。勿論
私法の分野においては関与者間の権利義務の対立関係として処理される。その私法の形式において、離蛎の如き内部
的事後処理の問題とは別個に婚姻の対外的保謹がいかになさるべきであるかを、考察してみようとするのがこの小論
の意図である。
︵G且︶
︵二︶もっともわが国においては、蛎姻関係に対する外部からの侵害は古くから不法行為の一つとして判例通説
により解決されてきており、それ自体においては何ら附加すべきものもないようである。配偶者の一方に対する生命
侵瞥、身体傷寄、強姦等についてはしばらくおくとして、蛎姻関係それ自体の破域となる姦通については、明治三十六
︵2︶
年に妻の姦通に関して﹁夫権ノ侵害﹂であるとして﹁夫権ノ損害二対スル賠償﹂を命じた判決が妓初のものである。
その場合、夫椛とは﹁妻二対シ貞操ヲ守ラシムル樅﹂であるとしている。さらに夫椛俊害の内容にふれ﹁本夫力之二因
︵。︾︶
り名誉ヲ設扱セラレ精神上悲荊ヲ感スルニ至リタルトキハ其慰藷料ヲ支払フヘキ義務ヲ負う﹂として無形損害の発生
︽幻勺︶︵P尋︶
を認めたものもある。こ郡らは姿の姦通に関する蛎件であったが、昭和二年に至ると夫の姦通についても姿に対する
不法行為の成立を認めている。この判決は当時﹁夫の貞操義務﹂を認めたものとして多くの論議をひきおこした。こ
れについては特に次の三点を指摘しておこう。第一は、当時の民法八一三条11離婿原因に関する規定lには﹁夫
力姦淫罪二因リテ刑二処セラレタルトキ﹂︵同条三急とあって夫の姦通それ自体は離婚原因とされなく、また刑法一
97
︵三︶本来配偶者が婚姻関係について対外的に、すなわち社会全体に対して法的に保護さるべきことを主張しう
対外的保謹ということを考えるときには、それだけで充分なのであろうか。
損害賠償または慰蒲料を請求しうるという見解を結論として導出することは無理ではないと思われる。ただ、鐇姻の
る。そして右の如き日本の判例の外観から、相姦者に対しては、有愛配偶者の批任とは独立に、且つ妬姻継統中にも
︵中J︶
係における配偶者の利益に対し、不法行為法により且つその限りで法的保護を加えんとする従来の考え方の一つであ
り、しかもかかる慰薪料諦求を認めることは一般予防として機能するからである。勿論この判決それ自体は、僻姻関
ことを意味し、事椅によっては婚姻維持のためにかかる侵害に反作用を加えることができることも内包するからであ
lを失っていないことは、この慰薪料諦求が離蛎とは無関係に相姦者の不法行為それ自体を理由としてなされうる
を中止した’ことである。これは重要な意味をもつ。すなわち蟠姻を維持し恢復する可能性11事実上はともあれ
と共に、さらにこの夫婦が離蛎していない11夫の申立てた離蛎調停は不調に終っており、その後夫は生活費の送金
せる女に対する妻の慰蒋料諭求をみとめた。ただこの蛎案で注意すべきは、有武配偶者を共同被告にしなかったこと
︵6︶
説の一般に承認するところである。最近東京地方裁判所はこれらの判例法の上に立って、夫と同棲・情交関係を継続
の錐務述反に加担したものとして不法行為による批害賠償雑務を食うことは、このように確立された判例であり、学
つ相姦者に慰籍料請求をしたものでないことである。ともあれ、姦通が離婚原因であると同時にその相姦者は配偶者
義務があるとしたこと、そして第三に、実はこの夫蹄関係は離蛎に終っていることである。すなわち婚姻を維持しつ
は、有責配偶者にも不法行為責任があることを認め、相姦者はその共同不法行為者であり、姦通者両人が慰籍料支払
保持﹂すべきであって、それは﹁蛎姻契約ニ因り互二誠実ヲ守ル雑務ヲ負う﹂ためであると判示していること、鋪二
上夫に貞操義務を要求するの妨げとならない、何故なら、﹁配偶者ハ互二協力シテ其ノ共同生活ノ平和安全及幸福ヲ
八三条が男子の姦通を処罰していないけれども、それらは﹁古来ノ因襲二胚胎スル特殊ノ立法政策﹂の結果で、民法
、
98
︵■︾︶
る法的利益は、ほぼ次の四つをあげることができる。
第一は、他方配偶者との有形無形の協力関係そのものの提供する利益である。それは配偶者の生命侵害、誘拐、誘
惑、傷害等によって侵害される。
第二は、他方配偶者の夫婦としての愛情である。それは配偶者の精神生活、心理的平安に密接に関連する。そして
これは他方配偶者の心悩と窓思に対する説得と圧迫によってその愛怖を他に向けさせることl姦通11によって優
害される。
第三は、他方配偶者の貞操である。それは配偶者の自尊の感悩と籟番とに緊密に結びついている。自己の配偶者に
対する強姦はこの侵害である。
第四は、主として経済的な協力、扶助である。
第一、第二、第三は人格的精神的色彩製く、第四は財産的利益である。したがって前者に対する侵害は精神的無形
ところで、他面、‘それらの侵害の態榔を見れば、伽夫婦の一方をその意思と関係なく他方配偶者から奪うことによ
損害を生ぜしめ、第四に対する侵害は純粋に財産的損害を生ぜしめる。
って後者より前記四つの利益のいずれか︵ただし塑一の利益は別︶を侵害する場合と、㈲その意思に反せざる場合とが
ありうる。配偶者の一方の龍命侵害は法益の第一と第四とを侵害態梯㈹によって侵害する場合であり、強姦は第三の
法益をいの態様において侵害する場合である。しかして第三者による婚姻侵害として最も困難な問題を提供するもの
は第二の法益を何の態級によって侵醤する場合、すなわち姦通である。それはいの態概でないだけに法的反作用を加
えるのに複雑微妙な問題を覚えしめ、しかも漸次的にあるいは同時的に第一、第三、そして最後には第四の法益さ
えも侵番し、したがって妬姻の実質的法益の全てを被害配偶者から難い去るからである。特に右の態級の点で姦通と
その他の場合、例えば強姦・誘拐・強迫または隷属関係の濫用による婚外結合を余儀なくする場合等とは区別して考
局r
”
察するを要する。もっとも配偶者の一方を教唆して他方を遺棄せしめた場合には、損害賠償の点では姦通の場合と同
じくなろう。ともかくここでは姦通の如き有責配偶者と共同でなされる侵害行為をとりあげてみよう。その他の場合
には姦通の場合ほどには複雑微妙な問題を伴わないであろうから。
これらの侵害行為にいかに有効に対処するかは右の法益と侵害態様とを考え合わせて考察されねばならない。
︵1︶中川醤之助、略睨身分法学︵昭和五年︶一五三頁以下はこの問題をとりあげて、婚姻効果の一つとして可対外的効力﹂なる
一頃をもうけて諭及している。
︵2︶大判明治三六・一○・一刑録九軸一四二五頁。
︵3︶大判明治四一・三・三○刑録一四輯三三一頁。
で、要の依頼をうけて夫及びその未亡人を脅して生活澱及び慰薪料をとることが恐叫罪になるかどうかに間する。なおこれ
︵4︶大刑判昭二・五・一七新川二六九二号六頁。事案は婆子を捨てて密裕な未亡人と同楼している夫が扶養義務を尽さないの
にはその前に大審院刑事部の郡実審理開始決定があるl大正一五・七・二○刑集五巻三一八頁。
て︵法協四江巻七四三頁︶、牧野英一・夫の貞操装務に関する判例について︵法協四五巻四三六頁︶、同。戒ねて夫の貞操溌
︵5︶中川善之助・夫の貞操護務に関する裁判に就て︵法協四五巻二二二頁︶、同。﹁夫の貞操義務に関する栽判に就てLについ
務に関する判例に付て︵法協四五巻九八六頁︶、聴税諏辿・男子貞操義務判決の典意義︵法学志林二九潅七号︶、粟生武夫・
夫の貞操義務の条文上の根拠︵志林二九巻一○号︶等を参照。夫の貞操として特に洽じられなければならなかったこと目体
が当時の民法︵婚姻法︶の特殊な役割及びその社会的背景と関連して興味をいだかせる。
︵6︶東京地餓判決昭和三七・七・一七判例時報三○六号五画。
︵7︶またこの判決は二人の未成年の子が父のいないことによる輔神上の苦揃に関して相姦者に慰藷料を諦求しているI判決は
これを否認したが1点においても興味があるが、このことについては今回はふれない。なお、この判決については中川善
之助。﹁愛悩の自由と武任L判例評諭五二号参照。
︵8︶で◎巨昌管詞恥冒急ぐ苞属亘自荷吊い雷冒号目$胃且農。厨命里R︽且朋閏爵。冒圃日ご言電︶P旨is
100
︹二︺婚姻妨害停止の訴の登場
︵ご蛎姻生活の平安を害する外部からの館三者の侵入l姦通lがあった場合に、私法上これにどのような
反作用を加えて婚姻を、そしてまた無責の配偶者を保謹するべきかについて考察を進めるにあたり、ここでドイツと
スイスの場合をとりあげてみよう。婚姻の対外的保護の問題が両国において近時次第にとりあげられてきているから
で、従ってそれを紹介しつつ若干の考察を加えてみようとするのがこの小論の目的である。
まず既存の法制度からみると、例えばドイツの法制上は、姦通に対する規制としては次の三つがある。一つは刑法
上のサンクションとしての姦通罪の規定︵非切。銅法︵STGB︶︶、節二は婿姻共同生活の恢復を求める師︵蚕四m①
画昌墨⑦厨一①一旨呂竺のの島①二・言gF8gの︶︵畔抑”躍辨認識滋墾審淫匡壺猩礒府条一項︶、第二一は離嬬を求める訴全壺却
睡峰鵬峅聿錘は︶である。後二者侭民法上のサンクションである。ところでこれらの方法によってここにとりあげる
婚姻保謹は充分であろうか。この疑念は高まって、ドイツ・スイス等において遂に所謂﹁婦姻妨害の訴﹂︵曇・両胃︲
2号旨鴇室畠①ご︶という問題を盗場せしめるに至っている。この訴は次の如きものである。すなわち、現に姦通の如
き鮒姻関係に対する妨轡行為がありしかもその妨客状態が将来継続するおそれがある場合には、その妨害者︵相姦
者︶に対しその妨害行為の停止︵ご昌①1閉め崖呂︶を請求する被害配偶者の訴と、妨害行為によりすでに損害11有
形雛形を問わずIが発生しておれば、その妨害者︵相姦者︶に対し損客賠償︵または慰藷料︶諦求をなす訴とを意
味する。勿論それらを承認する判決は強制執行力を与えられる。
︵●凸︶
本稿ではこのうち特に停止の訴だけをとりあげてみよう。損害賠償または慰籍料の諦求を許すことはわが国では前
述の如く判例学説により認められておるが、スイスはともかく、ドイツではこの点未だ不明確であって、婚姻妨害の
訴の識議も半ばこのことに集中されており、その紹介に終るだけで紙数が尽きるおそれがあるからである。元来ドイ
『戸=‐
101
シの法制特に不法行為法は姦通による損害賠償についてはきわめて不備である。その財産的損害賠償についても規定
上明碓でないが、特に慰籍料諦求栃についてはドイツ民法典︵BGB︶一壷三条が制限的に法律に規定ある場合に許
されるとしており、それに対応する規定中には姦通の場合に類推適用する余地あるものすらない。このような法規定
に対し、財産的掻審賠償については、判例通説も、BGBが姦通による離蟠の際に有武配偶者に扶養義務だけを課して
いる︵率誌獅畔睡珪“稗以下︶ことから有責配偶者に損害賠償義務または慰籍料支払義務を負わせないものと解釈し、
︵④“︶
更に相姦者については有寅配偶者以上に亜い賀任を負わさるべきでないとの鎗理によって財蹴的批害賠償義務を否定
し、慰藷料については勿諸ふれるものすらない現状である。このことは離婚に至らない場合も同様であって、結局相
姦者に独立の不法行為愛任をみとめることはないl近時下級裁判所の判決には離蜥後においてだけこれをみとめる
ものも出てはいるが。ともあれここでは妨害停止の訴に限っておく。勿論妨害停止の訴についても、損害賠償諦求権
についての右の概説からもうなづかれるように、ドイツ・スイスの判例通鋭はこれを否定する傾向にある。
まずドイツの判例について。一九○九年帝国般高裁判所角⑦︾呂農の﹃−6胃︶は、妻が夫と別居して姦通状態を継続
しており今後も継続の恐れがあるとして、不倫関係を爾後停止するよう豚えた夫に対し、その姿に対する部分は勿諭、
相姦者に対する訴も棄却した。同裁判所は、姦通配偶者に対しては婚姻上の貞節義務の高度の倫理性につき長広舌を
ふるった上これを理由として姦通的関係の停止鮒求を否定し、更に相姦者については﹁蟠姻の存続中は一方配偶者の
︵急叩︶︵4︶
相手方配偶者に対するかかる訴が禁ぜられると同じ理由によって﹂爾後の妨害行為の停止を求める諦求をゆるさな
ぃとした。しかして学者の多くはこの判決を支持していた。この学者の賛同に励されてか、帝国岐高裁判所は一九三
六年には一層詳細な判決理由︵これについては後述する︶をそえて、妻と合意で別居していた夫が別居後彼の住居にそ
の愛人を同居させ外見上夫婦の如くしているのに対して、姿が、婚姻関係は保持したままで、姦通者双方を被告とし
︵5︶
て姦通的関係の停止を求めて提起した訴を、姦通者双方に関して、しりぞけた。かかる岐高栽判所の見解は長く支配
『
102
するところであったが、一九五二年に西ドイツの連邦鮫高裁判所︵国匡且のいいの﹃一号蔚言︷︶は婚姻妨害停止の訴を制限つ
︵の。︶
きで肯定する如き判決を下した。すなわち、問題となった婚姻妨害のうちに同時に他の絶対的に保護された法益、た
とえば忍間的・客観的蹄姻臓墜︵。.﹃管ョ胃亨罵呂“厨邑胃言皀画§:呂冒︶l住屑営業燗建物、鞭務
所その他これに享る爵lに単る相譽の侵入が専騒合に臓、その限り耐#鴬導る侭の訴驚
されるというのである.その判決は、夫の愛人を夫蠅の住居に同居させることは、婚姻及び家族生活の安定によって
もたらされる妻の人絡の円満な発達を著しく阻害し、それによって彼女の糖神的社会的実存を根底から侵害し、さら
にその上彼女の眠悩と名答とを殴孤するものであることを理山としている。ここでは所綱人格椛俊北画なるモメントが
︵7︶︵8︶
意識されているようである。下級審の判決でも第二次大戦後は、夫の愛人が贈姻住居に今後立入ることを禁すること
を求めた夫に対する妾の締、及び愛人自身に対して妬姻住居から出て行くことを求めた脈がそれぞれ容組されてい
る。これらは結局姦通的婚姻妨害の停止を求める訴の欠如をある程度補充する機能を演じているわけである。
かかるドイツの判例と類似せる動向はオーストリヤの場合にも見られる.すなわち鮒姻妨智の停止鮒求の脈につ
いてオーストリヤの判例は明確な態度を持していないようである。一九三五年オーストリヤ最高裁判所︵○富﹃の厨
︵口︾︶
房肩﹃﹃①胃三mg①⑮⑦⑦﹃一旬三豊g︶は第三者の介入によって円満にして合法的な蛎姻関係の存在が危うくされる場合に
は、彼の行為は公庁良俗に違反する故に違法であるとして、その停止の訴を許容したが、翌年にはこの判決を全然か
えりみずして、かかる訴を認容すれば原告と配偶者との全ての交際が禁止されることになり、それは交際の自由とい
︵抑︶
う天賦の椛利、すなわちオーストリヤ一般民族典ニハ条によって保謹されている人格権が侵害されることになるとい
う形式的論理によって、妨害停止の訴を否定した。しかしオーストリヤの裁判所はこれで満足していることはできな
かった。第二次大戦後、同妓高峨判所は、夫に、婚姻を妨害する第三者︵相姦者︶が妬姻住居に立入ることの停止を
求める訴を許した。しかもその根拠は夫の﹁賃借人たる地位﹂︵員昌一の詩﹃の一ぬg恩冨電電︶にあるとして、夫は彼の賃
I
Fr
『
103
︵皿︶
描椛によって全ての第三者にその住居髄域に侵入することを拒むことが許されるとしている。しかしこの判決によれ
ば、大てい夫が使用賃武借契約を結ぶので、妻は侵入してくる相姦者に対して通常保護されないことになるであろう。
スイスの判例も蟠姻妨害停止の訴については戯極的ではない。殊にスイス民法︵ZGB︶には一六九条以下に所訓
﹁婚姻保護手続﹂︵両胃駕冒言蔚﹃冒言g︶なる特異な規定があり、それとの関連が問題となる。この手続によれ
ば、配偶者の一方がその幡姻上の溌務を怠っている場合またはその行状により他方配偶者を危険・不名替または扣審
におち入らしめている場合には、その被害配偶者は裁判官に救済を請求することができ全知娠条I︶、婚姻保護裁判官
︵両言い、冒蔚﹃旨言①己は義務を僻怠している配偶者にその裁務を尽すよう戒告︵冨呂冒肩︶をなさねばならず、そ
れが効果ないときには、蛎姻協同体の保護に必要な法定の処置をとることができる︵聿誌旭条Ⅱ︶稲︶しかもこの手続は
専ら義務僻怠の配偶者に対してだけ向けられているのであって、その婚姻危機に関与した妨響者には向けられていな
い。第三者はどんなに婚姻危機に責任あるものであっても、せいぜい証人として手続に召喚することができるだけで
ある。こうしてここに播姻保謹手続は第三者特に和姦者などの妨害者との法律関係をも確定する意味で規定されてい
るのか、それとも妨害者に対しては別途に保護方法l例えば妨害停止請求または損害賠償並びに慰藷料の請求l
をとることができるのか、という問遡がスイス固有の問題として存在するのである。一九五一年九月七日のチュー
リッヒ地方裁判所判決、次いで翌年二月一四日のチューリッヒ高等裁判所判決、さらに同年十月二日の連邦裁判所
︵国巨昌①農の﹃旨言︶の判決は、この蟠姻妨害の訴に対する興味ある解蒋である。地裁は、相姦者に対してスイス民法
︵池︶
二八条に基いて爾後の姦通関係の停止を求めた訴を許容したが、この同一事件につき高裁はこの訴も、恢務法四九条
︵“︶
に埜づく慰薪料洲求も否定し、さらに連邦裁判所は後者だけを承認して、停止の訴はしりぞけたのである。停止の訴
をみとめた下級裁判所判決は他にも存在するが、この連邦裁判所の態度がスイスの判例の大勢である。
104
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具肖園.更︺国琶幽軌“国曾目.@画蕊琶、。、国璽国。罠。華冨言曾い旨
︵4︶ぐく◎寓寺艶。画。○。唖曽璽己
当.
冒頚
頚心
心○
段段
。。
函函
自自
守守
展展
。。
ヨヨ
ョ⑦
︵3︶詞。N苫面曾.この第一審判決は停止請求をみとめている。
脱と批判がある。
学説の貧弱さl特に身分樅侵害につきlについては、中川善之助・﹁身分法の総則的課題L七四頁以下に明確詳細な解
るものとしては。●国8宮胃の﹃・国昌冒目昌冒昌の更鬮いいミドイッ不法行為法の桁神批害に関する規定の不附、その判例、
号呵呂員。豊島①。丙の。言②。a冨目輯Hg雪・亨。●馬胃胃ゞ國目言曾﹃魚冨︵S画昌・︶m息蹟なお慰薪料支払義務も認めよとす
︵忌麗︶のも届罪多数説である。また右判決に反対し、掴杏賠俄畿務を鯉めようとするものとして。国8ゴョ⑦﹃.Q匡包巳攪目
團ョ胃。﹃⑮、冨合“且.︶い$唖厚目のOB﹃扇IF言目四目︾庸言冒呂昌冨員の昌・言冒”忠言I詞の。言昌牌冒冒曾菖冒蔚駕
としては言・言。罵團ョ罠呂﹃閣冨︵團国隅8﹃局・席言g3gg員禺胃胃ョ詞円g宰鴛罵目.碧璽.儒冒豐画.胃匡富呂魑
の複活になることを理由とするl言。号の画.:§冒冒目a・興箇三ぃ曾望.相姦者に関してこの判決と同旨の学鋭
に姦通せる有寅配偶者に対する損害賠償請求をみとめないのは、それが譜姻の本質に反し、普の離鵬罰︵牌胃評含s覇言禺e
︵2︶この場合の財産的掴審賠償については詞ON圏道路がドイツの判例を確立した。その勘旨は本文にのべた通り。離贈の際
︵○昌恩号目﹃R言︶沙算串導一.導国○嗣昌胃画g罠.
竪軌離婚に至らない場合に相姦者に慰蕗料を淵求することもみとめられている。IC恩﹃・宍冒目の画冨﹃N目白gご房
務法四一条、四九条︶l標閥。﹃︾胃ヨョの。冨冒冒鰯呂量§胃言ョ目西目貝團の§言︶胃一.目z・旨苗目韻窟
に慰蹄料を珊求することが出来る︵ZGB一五一条︶し、妨脊者たる相姦者に対してもこれらの諭求をなしうる︵スイス偵
︵1︶スイス民法の場合姦通は離婚原因であり︵ZGB一三七条︶、その場合無責の配偶者は有費配偶者に対して損害賠償ならび
?
−
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105
121110
踊潔毒君竪駒。]嗣騨騨司。
︵9︶mの豈電の胃。﹄圃堕岬.侭哩靜剛嘩い符司。菌のヨ寓画弓盲言、騨心“。
へ へ へ
姿勢が強められるに至ったものと思われる。
感せしめたことは容易にうなづかれるし、さらにそれらの現象は一夫一婦制の危機としてうけとられその擁謹という
あろう。しかも戦後期大した蛎姻ならびに家族秩序の動揺、社会の性関係の不安定がかかる問題解決の要を現実に揃
婚姻の対外的保護ならびに配偶者の人格権の保護強化の気運が高まり、それが婚姻妨害の訴の問題に進ましめたので
され、また同鋪一条で人間の聴峨の保遡及び節二条でその人格の目山な展開の保障が帥而に出されたことに応じて、
基本法三条にもとずいて﹁男女同権法﹂が制定されたと同じく、基本法第六条一項によって婚姻と家族の保謹が強調
このような断しい助きについては、特にドイツにおいて戦後制定されたボン荘本法の影瀞が考えられる。すなわち
︵■4﹀
に従う学者も多くなっ ている。
二の
宍四
己コ
庁。
。.
めい借
①己
。︹
号
切切宍
四
8
日。旨
言ぐ◎弓の国匡g且①国︾○言﹃︶がこれを承縄する有力なモーグラフィーを発表しており、近時これ
詞の。胃①自号﹃ロヨくの旦一腎淳①春巨侭︶がその第一人者であり、スイスのパドルット︵ロ﹃・言皇電顧号巨茸︾シ胃巨胃
強力な学脱が幾場し、新たな波紋をひきおこしている。ドイツのベーマー︵ロ﹃.。.m◎のご言曾ゞ。a・犀。苛めの。﹃号﹃
︵二︶ところで以上のような判例学説の流れに対して、殊に第二次大戦後、この蟠姻妨害の訴を認めようとする
︵狸︶例えば一九四八年三月二日のチューリッヒ地裁判決I稗冒の詩.旨.︺程、喝胃.
︵鯛︶国○両認国い電冨.
同展命令や不貞関係の禁止などをなしうると解されている.lなお、中川善之助・加藤永一、スイス婚姻法﹂︵新比較婚
︶一
一○
○七○頁以下にこの手綻の解挽がある。
姻法Ⅳ所収︶
にその支払を妻にするよう命令することなどがあり、しかも職判官は蛎姻協同体の保巡に必要な限りで稲々の処分、例えば
必要な法定の処置としては共同家計の停止、扶養分担額の確定、子の監獲者の決定、あるいは家族を扶養しない夫の債務者
5号目日々豆。恩852国鼎匡目。.恩ョ刃園忌段ぃ野層冨目.︹扇霞刷曽.旨.
ー ー 曹
1“
︵2︶
その上贈姻妨害の訴を採用するのに励しとなったものは、フランスの判例法理鋪であり、英米のそれであったと恩
われる。事実前記パドルットの学位論文は詳細な比較法的考察が基礎となっている。
そして蛎姻妨害の擁をとりあげざるを得ない決定的な理山は、勿翁、削述の如く、従来の法制腱では妬姻の対外的
保護に充分でないとの認識にある。以下そのことにふれてみよう。このことの考察は同時に婚姻の対外的保謹の要件
をも明らかにするであろう。
第一に、その法的保獲はあくまで婚姻の存縫維持を目的とし前提とするものでなければならないことである。従っ
て姦通のあった場合に離婚訓求権が与えられるということでは、この趣旨に合しない。
第二は、刑法的サンクションが他に存在する賜合にも、それだけに委せるのでなくて、民戦法的サンクションを導
︵屯⑭︶
入しなければならないことである。このことは刑法典に姦通罪の規定をおかないわが国の場合特に問題とならない
が、姦通罪の規定を有するドイツ・スイスでは、特に蟠姻妨害停止の排に関し、栽判所がその否定論拠の一つとして
権利保護の必要性をあげて、姦遮当耶蒜が刑寧鐡をうけている以上停止判決lこの悶披強制の方法に関し後述する
︵○名︶
ところをみよ’の必要はないとして以来、問題となった。しかし、第一に、ドイツにあってもスイスにあっても、その
刑法上の姦通処罰はその婚姻が離婚されていることを前提とするのである。すなわちその姦通罪の規定は本来特定婚
姻の保護に役立たないのである。しかも、実は、刑法的保謹は民法的保謹とは別の形式で作用すること、且つ両者は
異る必要性と目的とに奉仕するものであることを忘れてはならない。伽者は反社会的行動に対する悶家椛力の戒接の
反作用であり、後者は私権による予防的保護である。妨害停止請求権の存否を決定するものは民法であって、強制執
︵5︶
行法でもなければ刑法でもない。むしろこの場合刑法規定の存在は私法上の椛利の存否決定に対する補助論拠を提供
するだけである。
第三には、民事的サンクションも、特にその強制力において、婚姻の本質的属性lその倫理性・愛梢的結合性l
−‐
ー−一
107
に矛盾せざるものであることを要する。妬姻l広く家族関係全般にわたりそうであるがlの正常な保持は、本画
的に、そして近代社会においてとりわけそれが明確にされて、いかなる外的強制にも親しまない。﹁人間の行動を外
︵6︶
部から左右することはできても、人間の心を外部からの強制によってしばることはできない﹂からである。蛎姻は人
倫的愛憎的内而的要粂によってのみ保持されまた恢復される。こうして近代法は、妬姻関係を権利義務関係として柵
成するけれども、それにもとずく義務履行を保障するにあたってはl特にその義務が夫婦の愛梢的結合を内容とす
る場合l法的強制力を加えることを控える。ドイツ法上の蜥姻生活恢復の排は強制力l間接的にもlなきもの
︵7︶
とされ︵醒証岬条二項︶、スイス民法上の婚姻保護手続による同居命令や不貞な関係の禁止なども婚姻の高度の倫理性
の故に執行可能性を欠くものとされている。これらは戒接には有愛配偶者に対するものであり、しかもこのように強
制力はないので、婚姻が第三者によって危機にさらされている場合には全く無力である。ここにその妨害者たる第三
者に戒接に作用する法的強制処股lそれも蛎姻の右の本質に反しない限度でlを必要とすることになる。
第四は、あらためていうまでもなく、鐇姻の全体的保護を完うするものであること。たとえば名番殴扱による不法
行為法の適川等によることはこの点で充分でない。
歴史的蛎蚊である人間関係、殊に緒神的心理的要衆を中心とする嫉姻にあっては、第三着の不当な介入によってそ
の﹁きずな﹂を動揺殴損せしめられた以上、完全にもとにもどすことの困難なることはいうまでもない。しかし同時
に可及的救済の要も無視できない。被楳配偶者が手をつくさずして忍従の後に、彼の苦州からの解放であるとして離
婚をうけ、その際には将来の扶養または損害賠償あるいは慰蒋料が与えられるというのでは、あまりにも不充分では
ないか。ここに瞳接的に配偶者の地位を対外的に保没するものとして、一方では爾後の妨審継続の停止を、他方では批
︵盆︾︶
害賠償の請求をみとめようとの動きが起ってきたわけである。すなわち婚姻妨害の訴は婚姻存続中にかつ妬姻保持を
目的として妨害者に対して私法的サンクションを加えるものである。
108
︵1︶ベーマーの主張はまず○日己三畠自烏︻g員寓言胃包両○胃い酋寓.匡邑い$露.にくわしくのべられている。さらに園員
同胃⑳忌日昼囑匡渭ゆシ﹃⑤罫ぐ﹃。gぐ罠騨一頓号の勺圖菖、勗興届旨︽&閣員司国鷺号﹃ロ昌胃雷、豐己鴇I巨雪且牌冨号回四忽首室畠の
ご昌両胃ゅa旨呂善旨鳥篇胃堅冨畠騨菖、罠ふ口廠両冨翼胃自彊匡畠、恩日海閤岳段い富やlIこれはパドルットの描文の
パドルットの論文というのはロ庸團$a2昌鶚盲需︾諺喜豐皇昌需。“・喚呂亀凰尉景号自刃屑言z・司蛍と9︵犀﹃目らm
紹介を兼ねる。
ーのものや次にあげるイエギーの論文からその概婆と彼の見解は知ることができた。乏砲且﹃目・尚胃の。言言喜言同胃巨且
e︵屏冒関貝器目島。ョ︶lただし私は不手際からこれを見る槻会を得なかった。しかし、次のパドルットの諭丈とベーマ
隠冒。言胃夢・呂亀凰恩号呂脇両偶頁z萄・里●説︵乞駅︶妙殿電.
恩昌胃︵⑤︵君。§号匡3号﹃乎言弄亨函の涛苣︶含誤巴唾g雪罵詞]岳夢ぐ。ョ牌冒冨号﹃・言胃胃冨厚目のごg富津.
右のほか胃胃庸︺厨旦胃昌閂言は比較的大きな項目としてとりあげ悔定鯛を腰開し、また詞Fヨア詞四目罠の昌丹言ゞ
定して注目を浴びている。
再診宮昌目嘱厚寓居宮︵有名な冨貰o目胃一博g曾宍。員目曾冨3.厚の﹃の。言の改訂版︶もパドルットに従って判例を否
︵2︶特にフランス判例法の展開は注目に値する。フランスにあっては、まず同民法三○一条において右世紀偶者に無黄配偶省に
延長ではなくして、有責配偶者が離婚につき無愛配偶者に不法行為をなしたものと構成し、かかる根拠に立つところの離婚
対する扶養定期金︵旨の罵目里。。農目9s胃︶の支払義務を負わせたが、これは配偶者の挟義雑務︵烏く。奇烏陥8巨圃︶の
たその際相姦者の如き共犯的第三者がおる場合には不法行為の一般規定︵一三八二条︶によって物質的精神的損害賠償をな
から発生する物質的、粉神的扣審の賠倫雑務であるl例えば外側法典設普・フランス民法I︵人那法︶二六五江をみよ。ま
さしめるのであり、しかも判例はかかる拙害賠償誰務を餅姻の存続中にも有寅配偶者及び相姦者に負わせる1両胃鼻鼻
国呂盲目閏.弓冒景陛心目自冨胃骨身◎壽昌皇号里昌ざ旨己竜宮呂琴.Iさらに一三八二条の効果として栽判所は加害
ランス民法Ⅲ三一三頁をみよI判例はこれを姦通の如き場合にも適用している。この場合その命令は相手方及び相姦者
状態縦暁停止の命令をも出しうるし、将来に対する予防の手段を命ずることもできると解されI例えば外国法典護書・フ
に対してなされ、且つ罰金をもって剛接強制がなされうる。なお中川善之助﹁無形損菩に関する一小研究llフランスにお
イギリスでは雛姻妨審者に対する禍害賄償︵慰蔽料の愈味も含めて︶の鮒求をみとめている。しかし妨審停止の訴は知ら
ける判例法的発展﹂︵﹁身分法の総則的課題﹂二五五頁以下所収︶を参照。
110
であり、従って、﹁配偶者の身分的韮務に通背する行為の停止を判決するという廻り巡によって民那腓訟法八九○条による強制
訟で爾後の姦通的関係の停止を訴求することはできず、離蟠を欲しないならば執行力なき婚姻生活恢襖の判決を求めうるだけで
手続の可能性に道を開こうとするならば、それは上述の立法者の意思に全く反することになる。Lそれ故被害配偶者は通常の訴
ある。しかるに原告は被告と合意別居しており、同居を伴う婚姻共同生活を再びなさんとの意思を示さない限り、自ら恢復の判
決を、したがって停止の判決を求めることはできない。こうして本件の解の配偶新に対する部分については、それが幡姻生活の
次いでこれに雑いて相姦者たる第二被告に対する妨寄停止硝求を否定する。栽判所はたしかに家族磁特に婚姻共同生活の純統
恢復を求める訴と考えられるという見地の下に否定されるのである、と。
︵●字︶
に対する配偶者の権利が絶対梅であることは認めるが、次の如き重大な理由から相姦者に対する停止の訴は否定されねばならな
いという︵唖率知竪︶。すなわち、婚姻生活の内部的班件言の旨愚冨己く。﹃ぬ冒噛且$因昼の胃扇︶は、財腿法上の争訟は別として、
特別の賠姻邪件手統によるべきであって通常の訴訟手続によるべきではない。さらにいずれにせよ決定的理由はこうである。﹁不
腫も否定さるべきである。その強制措置は不貞の配偶者に対し間接的強制として作剛するに相述ないからである。﹂また原告は
鼎間者に対して擶力を行等ることが脳の§鳴質に矛卑る以上は、術者I相譽のことlに芋畠鼎
有武縄仙者に対するよりも大なる椛利を相姦者に対して有することができない、と。
ところでこの判決は相手方配偶者に対する姦通関係停止の諦求が認められないことをもって相姦者に対する妨害停
止諦求否縄の根拠とした。したがってこの伽者の問題に対する態度決定が後者を港察するに際して必要になる。勿諭
前者が肯定されれば必然的に後者藍固定されるというものではない。しかし通常丁度本件の場合と同じように、姦通
者双方を共同被告として、或いは同時的に、かかる訴をなすこともあろう。果して本判決の如く解すべきかどうか。
相姦者に対する停止講求を誤りなく理解するためにも、ここでまず有黄配偶者に対する停止諦求について一言してお
こ︾つ。
配偶者は相互に僻姻的共同生活をなすべき雑務を負うている︵BGB二五三条︶。したがってまた相互に相手方の
その義務に対応する権利を有する。ただそれはきわめて静態的なものであって相手方の著しき義務述反があってはじ
めて法的に自覚される如きものである。すなわちドイツの場合は民事訴訟法に婚期生活恢復の訴負︼畠。“昌胃厨量︲
一 一
一 一 一
−
= 一 一
111
旨畠邑$島農呂9F冨邑”︶として規定されているのがそれである。ところでこれらの錐務の不履行は、単にその装務
を怠るという消極的態度によってばかりではなく、積極的に義務に背馳する行動をとることによってもなされうる。
今ここで問題になっている妨害行為!l姦通lはこの後者の場合である。従って訴訟上恢彼の訴が許されると同じ
く姦通等不貞行為の停止を締求することも認められねばならない。後者は前者の一変型だからである。次にその執行
可能性については、既述したように、民事訴訟法八八八条二項において明碓に否定されている。それが媚姻の高度の
倫理性lあるいは人粘性、愛州結合性と表現されるがlに韮づき、廠接・間接を問わず強制履行を否定されるも
︵。。︶
のであることは広く承認されるところである。しかしこの訴求可能性はあるが執行可能性なき妨害停止諦求権l責
︵5︶
任なき依務lを認めることは蛎姻生活恢復の訴と同じく、妬姻上の誠実装務の腫行につき相手方配偶者に倫理的刺
戦を与え心理的抑制をなすことにおいて実益がある。前掲判決の如く別居合意あるをもってこれを否定することはで
きない。この点は婚姻保護手続なる特別規定をおくスイスにおいても、また特に規定なく判例・学説によって﹁同居
諦求﹂を認めているだけの日本の場合も、同様に解することができる。
における以前の状態の恢復のための停止請求をなしうると主張している。地方裁判所は配偶者相互の関係については婚姻の
︵1︶張実関係は前に略述したところにゆずるが、第一審︵o意ョ昌蔚地裁︶で、原告は、被告等の良俗違反の行状による原告の
妻としての塔排︵司圖月忌胃︶の蚊担をあげ、原告の椛利がそれ以上俊警されることを防ぐために、BGB二四九条の意味
人倫的本貫に関連して、民法・訴紙法及び刑法に特別の規定があることからみて、停止の脈は配偶新に対しても相姦者に対
が、後段は刑法上の姦通罰との関係を強じたもので、この点は前述したので街略した。.
しても許されないとした。原告はそれに対し被告の書面による同意を得て控訴審をへないで直接に帝国妓高裁判所に上れる
告したものである。なお、本件の夫婦が合意別居していた原因は不明である。また殿商栽判所の判決理由は大きく二段に分
︵2
2︶
g8
冒茸
夛四
ロ口
討討
嗣ご
毘蔑2月牒冨需営厨冒丙悶忌訊.ゆ心
︵
︶国国
目つ2
團句陽
るためのようである。
鰕鰕
姻姻
関関
係係
くの邪件でも扶養訴訟や夫婦財産関係の訴訟等は通常の手統によっているではないかとの上告理由に応え
︵3︶
︶こ
この
の点
点は
は、、
︵4︶画8冒員・園具号目呂旨忌い冨員関胃言目の脇鼻号自ら切誤
112
︵。■︶
配偶者︵主犯人︶より苛酷に合腎扁﹃︶とりあつかわれてはならないこと。
行手統によるべきである。ただ注激すべきは、この論拠はドイツの判例通説の否定説の韮礎にあるものをうかがわせ
かして相姦者に認められた停止判決の執行可能性の問題は独立・固有に論じられるべきである。つまり普通の強制執
ものは配偶者に対して許されうるのである以上、相姦者に対する停止諦求の脈求可能性は承認されねばならない。し
族法に規定される特別の婚姻義務に直接服しているわけではないから、この議論はあたらない。しかも停止の訴その
︵”f︶
る。すなわち次の通りである。①の論拠については、賄求の相手方が配偶者ではなくて婚姻関係外の第三者であり、家
思慮な﹂理由づけであるとしてしりぞけている。実際これらの否定論の論拠は採用することができないものと思われ
︵6︶
かかる否定論に対し全面的肯定論を主張するベーマーは、簡単にあるいは﹁説得力を欠く﹂といい、あるいは﹁無
︵与り︶
㈲相姦者に対する強制処慨は不貞な配偶者に対しても間接的に強制描股としての効果を生ずること。
︵Dも︶
③刑法上の共犯従属性の原理︵診胃の鵠冒邑⑦藍菌冒冒圃ご烏﹃弓里冒呂ョの﹃︶により、相姦者︵共犯者︶は有武
ることは不可能であること。
︵ワロ︶
側被害配偶者は有責配偶者に対する権利以上に強力広汎な椛利︵乏里肩呂①且の酔両の。言︶を相姦者に対して有す
的に家族法によるべきであって、かかる特別傾城たる蛎姻の内部関係には一般の妨害停止鮒求椛は入らないこと。
︵でa︶
⑩蛎姻関係については民法・訴訟法中に特別に規定されており、婚姻義務の侵害の結果もそれらの規定特に究極
決のそれを含めて、ほぼ次の如く整理することができる。
︵二︶ところで相姦者に対する妨害停止の訴についてはどうか。この好を否腿する判例・学挽の根拠は、前掲判
綻lの存在を認識させるに役立つだけである。
卸.“、○.仰呂、しかしこの離蟠原因が除去された今日では、蟠姻法四三条の耶爽11有壷配偶者の亜大な述背による錨姻破
遺棄として離蟠原因になると規定されており、このことが恢復の訴の実体法上の唯一の効果であるといわれていたl’言。罵
︵5︶富◎牙の園昌冒買崗毫い︺gなお、改正前のBGBではその一五六七条二号に恢復判決に対する一年以上の不服従は悪意の
。
I
119
︵二︶ドイツ民法の場合はどうか。
スイスの如き一般的人絡の承認による広汎な人格的利益の保換をドイツ民法典は知らなかった。その上不法行為の
要件は制限的であり、且つその救済方法として予防的不作為講求の訴を規定しなかった。従って婚姻関係の安全保持
につき特に人格的利益の存在を認めようとも、その充分な保護形式を見出すことは、立法によらないとすれば、判
例・学説に委ねるほかなかった。問題の解決は、一般的人格権の承認と、それに対する予防的不作為の脈の承認とい
う二つの方向から接近された。今その概要を述べておこう。
元来特定法益に対する違法な侵害がある場合に被害者のための保謹目的は三つある。蒙った扱害の実費的城補︵原
状回復または財産的個客賠償︶l均衡の目的︵毎房巴9号関乏Rslと法秩序の破域によって侵客された法感梢
︵GB︶
に対する精神的慰藷11満足の目的︵の§馬冨巨眉闇葛月ごI及び、将来急迫の加害の可及的予防或いは将来
継続の危険ある侵害の阻止l防禦の目的︵シご考呂﹃駕君円ごとである。ところで、ここで問題となる第三の目
的のためにはBGBの不法行為法は何ら規定しなかったのである。しかし﹁損害の予防は損害の賠償にまさる﹂
︵︽肋呂鼠曾蔚答言巨邑硬一胃胃$胃四房の呂且gく日唇冨室唖ご︶。ここにおいて、社会文明の進展は人絡椛なる特殊な
保謹傾城を拡大せしめ、あるいは強く總識せしめ、さらにその本賀により適合した予防︵阻止︶的保挫を要紺している。
もともとドイツ民法典及びその他の民蛎立法は個別的な規定をおいて予防的阻止的権利保護を個々的に承認してい
た。物権的財産板に属するものとしては、占有権︵BGB八二六条︶、所有梅︵BGB一○○四条︶、用益権︵BGB一○
六五条︶、役椛︵BGB一○二七条、一○九○条︶、抵当柵及び土地偵務︵BGB二三四条、二九四条︶、動脈上の質椛
︵BGB盲三七条︶、地上権︵BGB一○一七条︶についてそれぞれこのための規定があり、人格権的なものとしては、
氏名権︵BGB一二条︶、肖像梅︵美術・写真の著作椛法︹昏員ごg二二条’二四条又商人の商号権︵商法三七条︶、商標栂
︵商標法︹言画冒旨。菖目g二四条︶、更に所綱無体財産権として、発明権︵特杵法︹顧篇三s四七条、実用新案椛︵実用
120
新案法日の言曽⑥言ョ易胃g一五条︶、意匠権︵意匠法B・“・胃胃冨ョ愚胃g一四条︶等についても個々的に規定がある。
これらの規定は共通に、それらの保護対象たる椛利状態が侵害されるおそれがある場合には、予防的・阻止的不作為
の訴を認めるものであって、その場合拙響賠侭調求椛と異り潜在的侵審行為者の主観的武任条件を必要とせず、ただ
権利侵害がすでに行われており且つその反復の危険があることを条件とする。こうして第三者のなした妨秤に対して
原状回復的除去諸求権によって保謹される﹁絶対的﹂椛利は、反復の危険がある場合には、伝その停止︵不作為︶請求
椛によって予防的保迩を与えられるのである.
以上の如き妨害排除諦求権︵否認訴権幽員ざ己①恩8﹃菌︶またはその準用による保潅は前記の特定の場合に限られ
ていた。しかしそれ以外の権利及び法益特に人格的価値、例えば名誉、家庭の平和、私的生活の秘密髄域並びに私
僧、更には労働力や経済上の自由等については単に拙害賠償の訴という間接的保謹で充分であろうか。ここに停止の
訴という直接的保謹の社会的要諦は、判例の新たな分野開拓をひきおこした。帝国妓商裁判所は権利というに至らな
︵●凸︶
い右の如き法益については、ただちにそれらの否認訴権を準用することはしなかった。それは次の如き二段階の経過
をたどったのである。
︵3︶︵4︶
その鯏一段階は保捜対象の拡張のための操作であって、それは不法行為に関する規定の拡張によって停止の訴の拡
張をみとめることであった。すなわち一九○一年四月十一日の判決、次いで一九○三年二月六日の判決等はかかる努
力をなした判決である。これらの判決は営業遂行の保謹につき、また名誉・信用等の問題につき不法行為法の規定を
且▼、
適用し、終了した佼答に孤害賠償義務を猟しあるいは公刑罰を規定している法規定は全て、同時にその将来の佼審行
為を禁ずることを含んでいるという考えに埜いて、不作為請求の訴を認めたのである。ただし、これは不法行為法か
ら導き出される不法行為的停止請求権であって、不法行為の構成要件が、零観的にもlこの場合には不法行為的除
去の訴に比して更に侵害反復の危険の存在が附加されねばならないl、主観的にも11被告の故意過失という有武
11良俗遮反の故意の加瞥侭する規定lfって蝋謹されると侭める$あるか:叢り閲ぅところ震ない。
ただ婚姻共同生活の平安も一般的人格権の一つとして、人格権保謹のために確立されて来た“昌○冒幽望月恩8﹃国
をこの場合にも認めようとするわけである。
ここでさらにボン韮本法の一条一現、二条一項及び六条一現は、BGBの解釈によって導き出された結論に、新ら
たな支持と明確な方向とを提供するものとされている。すなわち第一条一項は、﹁人間の尊厳は不可侵である。こ
れを尊蒐しかつ保護することは全ての国家椛力の義務である﹂︵可世界憩法災﹂︵岩波文即︶の択による。以下同じ︶と規
定しており、これは原則規施62且切豊目。﹃ョ︶でありそれ故これと矛厩する法抑規定を無効とするものと解さ
れ、また現行法の解釈指針でもある。次いで第二条一項は、﹁各人は他人の権利を侵害せず、かつ憲法的秩序または
ぐ
に原則規範でもあって、﹁それにより憩法によって保陣される蛎姻の保漉の規範に服する者︵Z。﹃ョ且﹃のの3戸︶は図
︵皿︶
よって基礎づけられる。この規定もまた第一条、第二条の娚合と同採に、綱餓規定︵甲。曾画ヨョ普葡︶であると同時
ところでまたこれらのことは、基本法第六条一項の﹁婚姻及び家族は国家秩序の特別の保護を受ける﹂という規定に
を謝求しうる﹂としており、その第一五条において家庭生活に対する侵害がとりあげられていることを述べておこう。
とは特に第一三条以下第一九条までの諸事件に妥当する。引き総き侵害されるおそれのあるときは、被悪者は不作為
︽恥 ︶
る。特にここでは、その改正法案三一条が﹁他人の人格を違法に侵害した者はその侵害の排除の錠務を血う。このこ
に注目すべきは、妓近一歩進んで人絡椛保謹に関する民法改正の助きがあり、その改正案も公表されていることであ
る。さらにまた巡邦裁判所も避本法一条・二条にもとずいて人格柿を認める態度を明らかにしてきている。しかも特
域。家庭の平和あるいは労働力等が﹁絶対的﹂効力を有する権利にまで高められたことを意味するものと解されてい
通備、一般的人絡の承認が市民相互の法的関係においても世倣されること、それ故にまた、名番・私的碓活の秘密航
通徳律に反しない限り、その人格の自由な発展を目的とする椛利を有する﹂と規定する。しかしてこれらの規定は、
︵負︾︶︵︽郡︶
1聖
朧
:
風
:一
宇
1麹
︵脚︶
︵砥︶
家のみならず、配偶者自身及び法的市民団体の全体である﹂。結局この規定が、実定法上第一に、婚姻妨害の訴の肯
定論を支持するものとされている。
︵1︶両己目簡8日?Fのご自画自己垂戸為胃ワ旨呂②$ず胃鴇忌号⑱目詞の呂爾画・国詞①o言号ゆめ呂匡匡息号堅言雷叩の︵這騒︶い$つ
︵2︶国o晋ョ男寺の2回巳攪①弓いいD歸嗣目目のRの﹃51F⑮耳目目昌一P夢○・mも司歸”○両宍◎ヨヨの昌肖曽日国○国国邑買い︵忌騒︶の当急﹃.
︵3︶海○N心騨届。
54
︵4︶詞の園、掌か宮
詞oNaP③
へ へ
籍料請求梅を与えるべきであるという主張に対しては、ドイツではなお多くの学説が批判的であるようである。たと
︵一︶婚姻の対外的保護につき、殊にその方法として無責の被害配偶者に妨害停止請求権及び損害賠償並びに慰
︹五︺婚姻の本質とその対外的保護
︵蝿︶画堅曾冨等掌酔○.い﹄。
︵皿︶国晉昌寓琴司のョ丙園愚訊︾吻司
﹃月彦晨呂①。⑦君零画言ごo弓嗣胃巨三色蜀営昌一誌︵シ具⑥。。︶色司習旨両凶ら設鈎﹄露。
︵皿︶国凰胃冨も.P○.幽幽畠一.82国く関扇動謡なお雑木法第六条の私法関係上の意義につき弓.冨豐目︾口庸ぐの員麗曾目甲
罵言言$この草案については五十嵐・前掲八五頁、さらに、五十嵐、松田・﹁西ドイツにおける私生活の私法的保謹L︵プ
ライヴァシーの研究所収︶一九○頁以下。また植林弘・慰蕗料算定證六三頁以下に改正案の紹介がある。
︵、︶画巨冒邑$旨い惑園ョ言爾篇乱臣ョ.祠員君屋風里。脇○醗鼻凶服蜘昌z①宮。a目巨営侭色脇昌乱−3号昌呂①二勺⑱厨○三旨ロ穴里g1臣邑色両冨の弓I
︵9︶国○顕吋誤管“も
︵8︶国月ロgo﹃.国昌号2月冒忌画g胃且詩篇目?儲甘言目ぃ9幕野口.。吊冒?zご昂ag︾億言9号号噸g﹃鴇昌呂9
両の。言画圏閨︵ら$︶m印司︻.とくにフープマン︵口器思圃言胃冨昌目思言︵忌留︶︶が基本法一条二条下の現行法にお
いては、一般的人格椎が承認されると主張し、ラレンッ・エッサーを除く多数学者の支持を得ている。なお五十嵐滴。可西
ドイツの私法学の現況﹂︵北大論築二巻一号八四面︶。
︵7︶例えば三島宗彦・可人絡椛侵害の諸問題﹂︵金沢大学法文論集法経筑9所収︶三頁以下もこのことにふれている。
︵6︶国鳥ロ目曾.の目且言恩包いき
ー 曹
1型
えばその一人レーマンはこう述べている。﹁婚姻関係の絶対的性質を承認しても、それによって、配偶者間の身分的
︵■凸︶
関係に存する﹃著しく﹄倫理的な︵乏貝芝討鴨且ご的茸二言胃︶性質は否定されないのであり、この︹身分的︺|関係
を物椛法や財産法のために形成された法的保謹の下におくという考えは未だ充分に整伽されていない﹂と。
本稿ではこれまで、婚姻関係より生ずる配偶者の利益を人絡的利益とみ、一般的人格権保謹の法的栂成をこの塒合
に適用する考えに即応して述べて来た。しかしそれは法技術的構成の問題であって、ここではさらに一歩進んでかか
る法的榊成を可能にし根拠づける婚姻関係の特賛を明らかにしなければならない。胃昼◎雲の彊冒﹃旨なる観念はたし
かに物椛法その他の財産法においてまず明確にされた理論であった。それらを妬姻の場合にも使用するためには、蛎
姻関係そのものが対外的に保護さるべき実質を有するものであることを明らかにする必要があろう。人絡権につき妨
害予防の停止訓求椛を不法行為法から、次いでBGB一○○四条等の瀬推迩川から認めつつある判例が、蟠畑の場合
にはこれを否定したのも、婚姻そのものの実質の把握において不充分であったからであろう。しかも鰯姻関係の実質
を明砿に把握することによって、特に人格権の理論によらずとも、直接に嬬姻から停止諦求権を根拠づけることがで
きるとすればlそしてそれは可能であるl、それこそ願わしいと思われるlわが国の場合にも。
︵2︶
右のような意図をもって婚姻の本質論にふれようとするとき、われわれはまずカントの妬姻理倫を無視することが
できない。
︵3︶
カントの蟠姻理論については、わが剛でも川脇教授をはじめ多くの解説・批判がなされているので、ここでは本稿
の問題との関連において略述する。
カントにおいては一般に家族法上の権利は﹁対物的方法に基づく対人的な権利﹂︵匿い勢員含局胃言諺鼻
月円い冒胃胃詞胃言︶lそれは一方において物に対する椛利すなわち物椛を、他方において他人の自山意思による
給付に対する対人権すなわち偵権を権利の対象による分類としてあげるとき、それらとの対比において柵成された第
F〒弓一
1坊
三和の椛利であり、家族関係をこうして人間に対する物的支配の面と人格的支配の面とに分析したのであるlとさ
れ、婚姻関係もその一種である。すなわち婚姻は性を異にする二人格者の彼らの性的特長の生涯にわたる交互的占有
のための結合であるとされ、そしてまず対物的に相手方の性的能力を自然的に使用することは主体者たる人間が自己
を物とすることであって、それは自己の人格に対する人間性の権利と矛盾するが、婿姻の場合には他の反道徳的性的
関係と異り、かかる占有関係が交互的であってlそれは双方当邸者の全人格の交互的占有関係でもあるI、自己
を相手方配偶者に物として占有された配偶者は、側時にその相手方lまたその人格lを占有することによって再
び自分自身を狸得し自己の人格を確立する故に、それは唯一の道徳的形式であるとされる。以上の如きカントの理論
は、蛎姻を社会経済的背欺から切りはなし、且つ鰕姻の怖緒的側面をも捨象して、近代市民社会の価値体系における
近代的婚姻の論理的位置づけを追及したものといわれる。すなわち一方において物権的仕方での絶対排他的支配した
がって両性の全人的な献身が伽而に押し出されて、ここに一夫一如制の根拠を示すと共に、他方対人的椛利すなわち
相手方の自由意思を媒介とする権利として配偶者の地位を示すことによって婚姻の市民的契約性を明確にしたといわ
れる。それは近代市民社会の辨姻の形式的抽象的把握であったが、それ故にまた純粋に両性の自由と平等を近代的蜥
︵“q︶
姻の本質的要索として明確にした功績がみとめられねばならない、と同時に、その意味ではラートプルッフのいわゆ
る個人主義的婚姻観の、そしてまた僻姻契約論の蚊左翼に位置するものである。
カントのかかる嬬姻観は、殊にその対物的側面の強調によって、蟠姻に関する妨害停止の間趣についてはきわめて
率直簡明な基礎づけとみることもできよう。相手方配偶者に対しては相手方の自由意思を媒介として対物的・全人的
支配をなすのであるが、第三者に対しては直接に物椛的なl相手方配偶者の肉体を所有するl配偶新としての椛
利を主張しうるのであって、そこに所有権における妨害排除請求又は権利行使を阻げた場合の損害賠償諦求のアナロ
ギーを見出すことが容易だからである。がしかし、カントの婚姻理論そのものの欠陥11婿姻に固有の倫理的性絡を
1配
喪失していることl賦別としても.その強い個人主義的性総臓婚姻関係そのものの保持という点においては淵極的
に働くであろう。その蛎姻結合の存続・強弱も結局はその当事者の意思の直接に支配するところだからである。フラ
ンス革命恵法にいわゆる婚姻の民事契約論に即応しつつ、婚姻をそれ以前の旧制度の社会的・イデオロギー的樫捨か
︵Pu︶
ら切りはなすべくなされた理論柵成は充分尊賦するも、嬬姻の実質たる人格的性愛を中心とする人倫的共同体なる婿
姻関係の基礎づけがさらに検討されねばならない。
ここにカントの硲姻理論ときわめて対称的なヘーゲルの嬬姻観をとりあげてみよう。彼はカントの﹁僻姻を単に市
民的契約として理解すること﹂に反対し、同時に婚姻を肉体的側面からのみ考察してこれを性的関係としてだけ把え
た自然法的見解と、単に感梢的なlそれ故偶然的なl愛にその本質があるとする見解をしりぞけて、蟠姻は法的
に倫理的な愛︵﹃の呂昌島切言胃胃匡①富︶であるとする︵ニハ二。かかる婚姻の締結は﹁両人の自由な同窓、し
かも嬬姻という統一によって自己の自然的且つ個別的な人格性を止揚して一人格を形成せんとする同意﹂であり、﹁こ
の統一は自然的個別的人絡からみれば一つの自己制限であるけれども、両人柊はこの統一において自己の実体的自覚
を狸符するのであるから、︹蛎姻は︺まさに両人格の解放である﹂︵ニハニ︶。婚姻は﹁個別性をもって独立した人格
間の契約という立蛎から出発しはするが、それはかかる立場を止揚せんがためである如きものである﹂︵ニハ三︶。
こうして蟠姻は各配偶者の人格の合一によって、個体を超えた一個の人絡としてあらわれる。すなわち協同体であ
る。かかる協同体にあってば、﹁自然的衝動は充たされると共に消失すべき一個の自然の契機におとされ、精神的紐
幣がその椛利を得て実体的なものとして、従って熱燗の偶然性や一時的特殊的窓意の偶然性を超えて商められた、そ
れ自体解体することなきものとしてあらわれでる。﹂﹁婚姻には感憎という契機が含まれているから絶対的ではなく動
揺的であり、解消の可能性を含んでいる﹂が﹁立法はこれをできるだけ阻止﹂すべきである︵ニハ三︶。と同時に、他
方蟠姻関係に身を委ねるものは、戒接的排他的個別性としての人枯であり、互いにかかる人格を捧げあって完全一体
一−
.
--.-‐‐
一−..‐ー
一ー
。
斤可一一−ーー一−一..−
1”
となるものであるから、蟠姻は本質上一夫一蹄制である︵一六七︶。
かかるヘーゲルの見解は蛎姻そのものの本質的把握の態度において、その倫理的側而を考察の枠内にとり入れた点
において、全く抽象的形式的に、したがって観念的に一夫一婦制の論理構造の究明に走ったカントよりは具体的であ
ったといいうるが、また反面、現実の社会的歴史的背景及びそれとの関連を無視して理念を説くに止まった点におい
て、やはり観念的たるを免れなかった。しかもヘーゲルの見解はカントの如き両性の絶対無差別をその理論柵成の中
に定腫せしめなかったため、近代的な男女同権にまで進まないでいる側面がある︵一六四、一六六︶。しかしいずれ
にせよヘーゲルの蟠姻理論には配偶者個人の人格的側面に分散解荊し切れない、個人人絡を含み且つそれを超える一
師の協同休的観念が出現していることを指摘しておこう。それを無条件に個人に優先せしめんとの方向に走るときに
は全体主義的婚姻観に堕することも容易であったのであるがlナチス婚姻法をみよ。
ヘーゲルのかかる蛎姻理論に近似して、実定蟠姻法上に蛎姻を協同体として規定したものはスイス民法であった。
そしてスイス民法学者も終始妬姻協同体論を展開する。まずスイス民法︵ZPO︶一五九条はこう規定する。
﹁両配偶者は婚姻締結によって婚姻的協同体に結合される︵ロ胃呂昌⑦弓国目畠芝①ag島の因冨醤寓①ご曽司
の毒巴胃寄①回の⑦弓凰易呂卸津くのg匡冨号己。
彼らは相互に一致協側の働きによってその協同体の福祉をまもり且つ共に子を監捜する錠務を負う。﹂
そしてその後に蟠姻協同体の保護・協同生活の円満を図るための諸種の規定、すなわち相互の貞操並に扶助の義務
︵一五九条Ⅲ︶、夫の扶謎︵一六○条Ⅱ︶、妻の扶助補佐︵一六一条Ⅱ︶、氏︵一六一条︶、協同体の代表︵一六二条’一六五条N
妻の職災︵一六七条︶及び蘇訟行為能力︵一六八条︶に関する規定が続き、股後に一六九条以下に裁判官の広掩柔軟な
︽?■︶
保護処置を許す婚姻保謹手続がおかれており、以上がいわゆる婚姻の一般的効果として規定されているわけである。
ただスイス民法の場合には、個人人枯の尊顛︵二八条︶が強調され男女平等が説かれながらも、結局は家父災制的家
1配
︵︽⑪︶
族観を消算し切れていない点が指摘される。
︵︽凶︶
ともあれその蟠姻協同体榊成は学者によって支持され、さらに深められている。﹁蛎姻とは法によって承認された
男と女との生活協同体Pgg農①ョ⑦ご沼富津︶である﹂︵野需品.品︶。それは大抵固有の世榊︵︽刃匡の﹃宮且塁の﹃c︶
と結びついており︵F§の.喝︶、自然的・経済的・住居的協同体であるが筒罵。﹃隠勗・豊e、﹁その本質上高度に人格
的な身体的精神的結合態である﹂︵標的の﹃、.旨︶。これは配偶者机互の﹁人格的没入と献身とを要求し、且つそれによ
ってのみ可能となる﹂︵縁侭の﹃切隠soこのように﹁それは生活協同体であり人格的献身にもとずくので、その本賛
上永続的協同体である﹂し、また必然的に排他性すなわち一夫一婦制の原理を保持する筒馬禽い届︶。﹁またそれ故に
それは相互的な尊厳と承認を基礎としてのみ存立可能である﹂a圏①﹃の.皆e。従って協同体なる考え方は人絡権尊亟
の思想と矛府するものではなく、むしろそれら両者の自己貧徹は相互媒介的関係にある爲隠の﹃妙邑。こうして﹁配
偶者がその協同体の実現に努力することにおいて、婚姻はその妓商の目的・使命を実現する﹂︵漂いの﹃ぃ巨︶。
かかる妬姻協同体から、配偶者に対し、倫理・習俗的なものとならんで法的な義務と権利が生ずる﹂︵F§⑳.②。し
かも﹁法祁はその配偶者の義務の方を前面に肌している﹂︵F§段邑。すなわち﹁蛎姻共同体の福祉をまもるという
配偶者の錐務が雑礎的﹂なものとされる︵Fョで妙噌︶。﹁その義務は二人に同じように負わされ、善意、協同休目的
への服従、利己心の抑制、相手方配偶者と子の福祉のための配慮とを要求する﹂︵F号⑰.賭︶。﹁この義務の履行を要
求することが他方配偶者の椛利なのである﹂︵Fョ己ぃ腸︶。この椛利義務が妬姻の一般的効果として、あるいは純粋
に身分的倣域に関係し、あるいは経済的分野におよぶ。また﹁この協同体は原則として合手的協同体︵︵瀞目①ご胃冨浄
闇胃鴇留ョ篇冨勇画且︶であり、社団に類似するがそれと同一ではない﹂︵F§の.己。その首長は夫とされる。また
配偶者の同等の尊厳性と同椛とを基礎としているが、一般に支配的な見解と自然の制的とから、夫と妻との間で権限
の分制・特別の椛利錠務の賦与がみとめられうる︵F§いご。
辰面−
1
、
凸
1”
l婚姻lの内部規律の理論として出発したものであろうが、前述のスイス民法の鐇姻協同体理論そしてまたヘー
る支配l結合そのものが支配lであるといわれる。このような統体法理論は、第一には統体としての身分関係
もので、支配者は相手方を支配すると共に自らその支配に服する如きもので、その支配は本質社会結合的意漉におけ
権たることを本質とする。ただそれは、目的社会結合におけると異なり、統体保持のために身分関係者相互に有する
︵地位︶そのものに法律が直接附与した権利である。従ってまたそれは反面強い競務性を帯びると同時に、他方支配
分法上の椛利がその結果状態椎たる特寅を有することである。すなわち夫たり妻たる状態保全の目的のため当該状態
社会的結合たる結果でもある。またこの統体法たる性質から身分法の強行法的性質も理解されるが、注意すべきは身
求めるなら社団法的だといわれる。その結果発生する法律効果は全て定型的I法定的で、それはまた身分関係が本質
正統的蛎姻関係の維持安定lを目標とするもので、常に一体関係の統制規律の法であり、財産法上にアナロギーを
る。身分法とは保族的統休保持の法である。つまり法律上予定せられた正統統体の組織の維持l婚姻法にあっては
るとされ、これを規祁する身分法の特質を統体法たる点にあるとされて、個体法に対脱される。その概要はこうであ
︵皿︶
が、ここで特に中川教授の統体法理論にふれておこう。中川教授は婚姻を含めて身分関係一般を本質社会的結合であ
︵叩 ︶
ところでドイツやわが国の学者の間にも個々の点において差異はあれ、このような協同体的理解をなす者が多い
姻協岡体の福祉増進の義務を中心にすえてこの点より蟠姻の法的関係全体を考察しようとすることである。
体を形式論理的に配偶者の権利義務に分解し尽されない包括的法的実在と理解する傾向が強いこと、そしてかかる婚
権利装務を承認する諭理的削提として耶実的且つ精神的協同体の先在を措定しまたは砿認すること、かかる蛎姻協同
的柵成はヘーゲル理論の法的表現とみてよいのである。ここで特に次の点を指摘しておこう。まず配偶者相互の法的
右の説明がいかにヘーゲルの考え方と類似しているかは一々指摘するまでもないであろう。スイス婚姻法の協同体
口
ゲルの見解ときわめて類似する面の多いことが気付かれるであろう。蛎実、前記ヘーゲルの嬬姻に関する一節﹁蛎姻
、。
130
①
︵咽︶
は正に個体としては各独立せる人格の契約的立場から出発しつつ、しかもこの立場を止揚するものである﹂︵中川教
授
の訳
訳にによよ
を壺
引用して、これも婚姻の統体法的性質を充分間明するものであるといわれておることからもうなずか
授の
るる
︶︶
を引
れるところである。
なお所謂婚姻制度論は、制度なる概念を法律的衣服をまとった自然的社会的協同体であり、人間の目的ないし理念
に向っての法律による環境の統合状態であるとし、またそれは榊成員や事情の変化にもかかわらず共通不変の生命を
有し間有の容観的存在をもつものとする制度理論に立って、婚姻をかかる制度の一つと解するものであるが、それに
よれば、婚姻はそれ自体としては人間の自然的性向から出た男女の結合なる社会的蛎実︵環境︶であるものに、法の
︵蝿︾
外被を被せたものであり、それを法的協同体となすに際して法律は意識的に目的を設定し、この目的理念によって統
合された協同体にまでそれを商めるとされる。この蛎姻制度譜も今まで略述した諸見解と同じ系列lラートプルッ
フの所調超個人主義的蠕姻観に数いあげられるlに属するものとみることができるし、ほぼ同様の特質を指摘する
ととができる。
︵1︶顕・戸b言冒凹冒亘画。画。○・の&c
︵2︶川島武宜﹁近代的婚姻のイデオロギー︵カントの婚姻法理治︶﹂︵﹁イデオロギーとしての家族制度﹂所収︶、松板佐一﹁婚
﹁婚姻の法理学的考察﹄︵﹁理護法学の諸問題L所収︶。なおカントの・・豆の旨の雷でごぃ涛号﹃望茸自警︾︵蜀渇︶については恒
姻の性硬﹂︵﹁秘秋先生過悼論文集L所収︶、玉城蕊、カントの家族鐙及び蟠姻論L︵愛知大学法錘諭築第九災︶、加古祐二郎
噸恭・船田享二訳﹁法律哲学﹂︵カント軒作築9︶がある。以下の要約はこれらの文献により、特に一々参照簡所を指摘し
なかった。
︵4︶ラートプルッフ司法哲学﹂︵田中耕太郎釈︶二一八頁。
︵3︶邦訳﹃法律哲学L一四六頁。
立された。
︵5︶フランス革命照法︵一七九一年︶二承七条︵司法神は鰕姻を民聯契約にすぎないものとみなすL︶によって民事贈制度が砿
︵6︶以下ヘーゲルの蟠期観については、ヘーゲル署商峯一愚択﹁法の哲学﹂︵下︶︵則元文叩︶により、その引用はそれぞれ該当
一 一 一
131
がある。
節の番号をもってその簡所を示した。なおヘーゲルの﹁法哲学Lの解説としては高峯一愚著﹁法・道徳・倫理L︵理想社︶
︵7︶同興需鈩房◎昌罵邑冨﹃胃
﹄弓
NN
○国
胃冒再
○画目IL己隠両胃3,言戸忌忌頚za
︵8︶中川・加噸・前掲一○六六頁。
︵9︶以下は両用関壱・.。.○.亀雪馬ョP秒.画.○・による。便宜上それぞれ緑帰乱雲億号として頁数をもって引用箇所を指示した。
の.︼胃
なおこの協同体思想は人格樅尊肛の考え方とともに、スイス家族法全体の基本原理でもあるといわれる。l厚恩﹃・鯉・伊○.
れた結合であるし。屏胃篇.画...○.妙曽留なおBGBも古・目の胃呂員署という用語を用いており︵一三五三条︶、協
︵、︶例えば團号ョ画目言恩昌三g§胃︵岳呂︶いいミムぷっl﹁婚姻は継続的な単一の生活協同体への男女の法的に認めら
あげている。
同体とする理解褒現が多い。我要栄・親族法︵法神学全災︶三八五画。もっとも、これは身分的法抑関係全休の特賀として
上巻
巻一
一四
四頁
頁N
以下、同・身分法の基礎理強一八九頁以下による。
︵u︶中
中川
川・
・親
親族
族法上
︵昭︶中川・韮礎理證二○四頁。
︵咽︶オーリューによって始められ、ルナールによって完成された制度理論の一適用としての蟠姻制度強は、蟠姻を民辨契約と解
することによって婚姻逮俗運動の理證的武器となった婚姻契約識のゆきすぎに対して唱えられたもので、辮姻締結の合意は
財産法上の契約と異り、制度たることを本質とする鯖姻への附合を目的とする特殊な行為であるとし、それによって蛎姻関
係の法的規制の特殊性、更には燗大して来た離蛎、曲論の再検討を主狼したものである。なお、右本文においては、そこで
諸ずる問題との関連から、この鰕姻制度論について、附随的に一言するにとどめている。蛎姻制度護については、阿南成一
﹁婚姻﹂︵司法抵学灘座八巻し所収︶がある。
︵二︶以上きわめて粗雑な観察からもlしかもこれらの婿姻理論の歴史的狩蛾又は使命にもとづく特髄は一応
捨象しているがl、カントの説いたような純個人主義的婚姻理論はそのまま採用することができず、それを超克す
るものとして主張されたヘーゲルの見解、さらにはスイス民法の法的椛成、あるいは中川教授の理論にしても制度
理論にしても、婚姻当事者の個人梅としては分解されえない婚姻協同体なる法的実在を承認し、それには、その内容
に差異はあれ、何らかの目的理念が賦与されており、その榊成員たる配偶者はこの目的理念に相応すべくかかる協同
132
体の福祉をはかりこれを維持するよう、相互に協力する義務があること、そしてこの基本的義務から婚姻協同休の全般
にわたる椛利義務関係が導出されるということが明らかとなった。なおここで問題としているのは、勿論、配偶者相互
の全人絡的夫婦愛をもっとも決定的な要因として結合している夫婦平等の近代的一夫一婦制婚姻形態である。また右
の埜本的義務l肌述スイス民法の場合のほか、ドイツ民法一三五三条や日本民法七五二条がその実定法的表現であ
るlは、同時に相互的権利l婚姻協同体維持のための権利lである・それは相手の義務に対応する自己の権利と
いうよりも、中川教授の状態楡理諭に明示されるように、本質的に義務にして権利であるとみるべきものである。そ
れはあたかも親椛が未成熟子の監謹福祉のために樅利であると同時に義務であるのと同一である。しかもまた親椛と
︵■毎︶
同じく、配偶者のこれらの権利義務は相手方に対するばかりでなく、社会に対しても権利にして義務なることが承認さ
れるべきである。それは身分柵一般にそうであるといえるが、具体的には蟠姻協同体の右の如き特質によるのである。
ところではじめ男女二当事者の婚姻への合意だけによって婚姻は成立するのであるが、そこには個人の意思を超
え、従ってまたそれ自体保換を要求する社会的実在が発生するのである。妬姻は配偶者個人の人格の保換以上媒か
かる包括的実体としての婚姻そのものの保護を要求し、それの客体たるにふさわしい固有の髄域を形成するのであ
る。削述の紺理論もいわばそれを承認するものであった。こうして被保捜客体として、配偶者個人の外に、妬姻協同
体自体が、一方において各配偶者に自己の維持を要求し義務づけると同時に、他方対外的に社会に対して自己の保護
を要求し義務づける。結局婚姻協同体そのものが外部よりの侵害行為に反作用を加えるといおうか。勿論蟠姻協同体
は自動的に法的主体l法人であるのではない。それに法的主体性を認める根拠はないであろうし、またそれを賦与
する必要もない。なぜなら右の如く解するのは婚姻の法的保謹の必要性又は保謹方向並びにその特殊性を指示するた
めであって、且つそれで足りるからである。実際に蛎姻協同体に対する侵害の継統の停止を諦求するのは任智に関与
せざる配偶者であり、且つそれ以外にはない。その停止請求は、外形上その個人の権利行使のようであるが、その内
134
常の権利保謹手続で保謹されねばならない。一方配偶者の生命侵害などと異り姦通の如き場合には、内部的問題たる
配偶者の一方の義務述反がそれに併存するので、この僻姻関係の内部髄域。外部関係の区別が混乱することもあろう。
ドイツの判例はそれを示しているわけである。外部よりの侵害者に対して強制執行することは婚姻の倫理性に反する
としたり、有黄配偶者より菰い蛍任を負わしめるべきでないとしたりするなどの理由づけの混乱もここから来てい
る。ヴオルフが蟠姻上他方配偶者に対する一方配偶者の権利は、絶対権︵号吻◎旨庸の宛g言︶であるとし、その机乎
︵5︶
方配偶者の義務履行を違法有費に阻げた者l監禁又は殺害等によりlに対しては祖書賠償を訪求しうるとしてい
ながら、姦通の場合には明示的に否定したのもこの例である。刑に引川したレーマンの見解もその類である。その意
味で相姦者が婚姻住居に同居した場合には、決して住居占有権の侵害にとどまるものではなくして、実質的には蛎姻
協同体に対する催審であって.それが鋳に具象的l雛姻は雌懸協同体たる点に瀧て蚊も顕在的であるlで澱議
しやすいところから、容易に妨害停止を認めることができたのである︵前掲国。璽畠g︶・
︵三︶.妓後に婿姻妨害行為の停止判決の強制執行につきその実益または実効性の問題にふれておこう。和姦者に
対し拙害賠悩舗求をなしうることは削述の如くわが側でも異論をみないがへ伸止鮒求についてはこの実効性の問題が
︵︽町︶
大きく残るであろう。有責配偶者に対する同居諸求が強制履行できないことは判例通説の承認するところであるが、相
姦者に対する停止諦求なら論理的に可能であるところから、それによって僻姻協川体を恢復維持し孤独の被将配偶者
を救済しようとするわけであるが、婚姻という人格的愛怖的結合の恢復維持にとっては、妨害者をひきはなしただけ
で事足りるわけではないし、爾後の姦通的交渉の断絶を確保することも困難であることが多い。心理的には有黄配偶
者に対する逆効果ということも充分考えられる。殊に椛利観念未発述にして所謂訴訟の毛蠅いなわが川民の場合には
尚更である。一種の刑罰的処置に終ってしまうことも多かろう。元来高度の愛情的人格的結合としての近代的婚姻に
あっては、法的手段をもってその崩域を阻止することは困難、むしろ不可能なことが多く、それはせいぜい仙害賠侭
ー
−‐‐
ー−ヨーーーー‐‐
原一一一−
135
︵毎J︶
・慰稽料紺求の如き事後的救済としての役割しか演じえないのかも知れない。しかし、ここで注目すべきはその間接
強制の手段である。停止請求権を是認しようとする動きの活溌なドイツでは、不作為義務の間接強制手段は、前述の
︵8︶
如く六ヵ月以内の禁鋼刑または罰金lその鼓高額の制限はないと明記されている︵ZPO八九○条︶lという強力
なものであって、わが側の罰金だけという制度では考えられない特殊な効川を発押するのである。すなわち、相姦新に
対して妨杵停止の訴をみとめることによって、相姦者が停止︵不作為︶判決に従わない場合にはその間接強制により
股大限六ヵ月間は、爾後の姦通的交渉l勿満それも身体的なものに限られ精神的なものには及びえないがlを事
実上阯止できるのである。法のなしうるのはここまでであって、あとは配偶者達の婚姻協同体恢復の努力、夫婦間の
︵。︾︶
人間関係調整のためのケース・ワークにまつわけであるが、少くとも法はその余裕と手がかりを与えることができる
と考えられている。
この間趣は、まさに、家庭問題につき法が介入し助力しうる限界線上の問題である。と同時に、砿間たる人生観も
なく鮫も浮助的な性的愛燗の走るままに姦通関係に入った蛎姻妨害者に対する法の教育的作川も無視することはでき
ない。特に一夫一婦制の価値観の強い社会においては、かかる妨害停止の訴及びその強制執行が、損害賠償なる事後
的処綴よりも適切必須の方法とみられるのであろう。この点は充分顧慮するに値するものと思われる。ゞ
問題はさらに婚姻法lまた家族法lの根底にある二つの価値観の矛盾につらなる。すなわち一方において婚姻
をその鞘神的経済的役割から強固な制度として硫保することを理想とし、その故にその関係者に法的拘束を及ぼすこ
︵、︶
とも必須かつ当然のことと考える価価観念と、できるだけ国家権力の介入を拒否し愛梢だけによる結合だけを尊ぶ胴
人主蕊的自山主義的価値観念との矛臓対立である。それが婚姻法の随所に問題を生ぜしめる。実に現代婚姻法の胸中
には相矛盾する二つの糖神が宿っている。かかる内在的矛盾の一端がここにとりあげた婚姻妨害の訴の問題である。
その意味でこの問題は今後一層慎重な検討を要するであろう。この小稿もまだその出発点の一角に立っているにすぎ
』
︵皿﹀
ない。それにしても婿剛とはあまりにもかけ難れた両極端を内包するものであろうか。﹁蛎姻は妬姻にふさわしい者
︵咽︶
に対しては安全ないこいの場所であり、反対に根抵において蛎姻に値しない者にとっては、人間の弱さと好策の雑沓
場裡なのである﹂。
︵1︶なお、この配偶者の基本的溌務から離婚請求椎の特殊性がでてくると思われる。この婚姻協同体を保持すべき基本的義務は
結局配偶者には珊期を及ぶかぎり解消すべきでないとの拘束ともなる。そしてそれと他方人間性の可及的砿保との要諦の対
す特殊邪愉である。有武配偶者が始期破綻を理由として離婚請求することが許されないのはこの結果当然であって、あえて
立の般終段階において離婿原因を妓大限度としてこの義務が免除される。つまり離婚原因はこの義務の免除される限界を示
椛利濫用法理をもって規制・否腿するまででもない。もっともスイス民法が有蛍配偶者に離蟠搬求樅を与へなかったl
zGB一四二条Ⅲl理由については素正者が測盗を得ては糎ら旗い﹄ことがあげられているようであるI向罵貿ゞ:.
離婚原因に準ずる贈姻破綻の徴表の存在として評価さるべきであろう。
○.シ算侭閣Z.届なお、協謹離蛎における離錨の合意は当那者による雛姻協同体の処分の自由という意味よりはむしろ、
︵2︶霞雷gの﹃︾厘脇。言$“昌興巨且“房のョの胃乏勇冒輯9号珂團①烏合函ョ島ぃ呂①ぃ印。胃ョ︵恩ョ詞翻岳紹、●旨.︶m割
︵4︶塵含璽匡ワョ⑦﹃今幽.画。○・m封
︵3︶国里言穴の一夢幽。○.切心。
︵5︶星こ◎毒.画.卸.○.い畠
︵6︶薬師寺志光・日本親族法論︵上︶五○八頁はここにいう婚姻妨害排除請求権を認め﹁例えば妻は夫と同棋する女に対し同棲
の廃止を諦求しうしるとする。しかしその突効性その他については何らふれていない。
︵7︶川島武宜・﹁危機の法的療法﹂︵﹁結婚の病理と処方﹂現代家族講座4所収︶一三九頁以下。
︵8︶民乖訴訟法七三四条は間接強制の規定と解されている。ここでは﹁損害賠償﹂と表現されているが、現実の扱審額と関係な
いもので﹁罰金Lを意味すると解されている。
︵9︶国◎の言己自重。﹃毎画皇凹聴のゆゃ“
を譜じている。
、ご画員.:.。妙融震川脇武宜司家族と法し︵耐しい家族L現代家族洲座1所収︶一六八真以下は、離婚についてこの矛盾
』
、︶有泉・立石細﹁夫蝿の法抑﹂︵河出番脚︶八六頁以下には﹃同居を求める謂求Lにつき興味ある討麹がのっている。殊に実務
家の市川判事と他の学者の見解のくいちがいには、それをどう解釈するかはともかく、本穂でとりあげた問囲と関連して考
元させられるものがある。
︵皿︶嗣邑目拝撃夢○・鯉望め
’
−
‐
−
=
一
一
一
一
1頭