Vol.4 No.4 31 .July 2014 Monthly Lecture Meeting 第 36 回 月例発表会 第4巻4号 同志社大学生命医学部 医療情報システム研究室 Published by the Medical Information System Laboratory of Doshisha University, Kyotanabe, Japan Medical Information System Laboratory Monthly Lecture Meeting Contents fNIRS を用いた認知課題における感覚相互作用の影響の検討 滝 謙一 . . . 1 fNIRS 計測データを用いたデータ補間による機能情報のマッピング 大谷 俊介 . . . 6 マルチタスク時における脳活動とストレス状態の検討 岡村 達也 . . . 10 リーディングスパンテストにおけるイメージ方略を用いた訓練による脳内ネットワークの変化 小淵 将吾 . . . 17 圧電セラミックセンサを用いたベッド上における患者の行動検知システム 佐藤 琢磨 . . . 25 fNIRS から得られた脳血流変化量に対する Deep Leaning を用いた被験者分類の検討 塙 賢哉 . . . 31 Gabor フィルタを用いた内視鏡画像における早期胃癌の解析手法の検討 林沼 勝利 . . . 37 問診アプリケーションのための LOD の検討 三島 康平 . . . 42 第 36 回 月例発表会(2014 年 07 月 31 日) 医療情報システム研究室 fNIRS を用いた認知課題における 感覚相互作用の検討 滝 謙一 Kenichi TAKI 背景:異なる感覚情報を統合することで得られる知覚機構,多感覚統合が注目されている. 研究目的:知覚における視聴覚情報の相互作用の検討 発表の位置づけ:視聴覚刺激を用いた認知課題における感覚相互作用検討のための予備実験 方法:認知課題において視聴覚刺激の整合性が一致している場合とそうでない場合の脳活動を NIRS-SPM を用いて比較した. 結果:脳の活性は認められず,被験者を増やして実験の改良の必要性を検討する必要がある. 1 はじめに 人間は外界と自分自身の状況を感覚器官からの情報を用いて知覚している.各感覚器官から の情報の処理を行う感覚野については多くの研究が行われているが,異種感覚の統合につい ては未知の部分が多い.人間は日常生活において様々な感覚情報にさらされており,単体の感 覚情報を処理するのと同時に,異なる感覚情報の統合を行う.これにより各感覚情報の知覚が 相互に影響しあい,単一の時とは異なる知覚が行われる場合がある.この感覚情報の相互作用 は人間の脳の知覚を解明する上で非常に重要な要素となるが,多くの情報を入力した時の脳 活動を検討する必要があるので,解析が困難であり,未だ未知の部分が多い. 本研究では視覚刺激と聴覚刺激を用いた認知課題を行った際の脳活動を機能的近赤外分光測 定装置 (functional Near-Infrared Spectroscopy: fNIRS) で計測し,これらを比較することで 視聴覚情報の相互作用の検討を試みた. 2 感覚相互作用 これまで各感覚野がモダリティの一致した情報をそれぞれどのように処理しているかにつ いては多くの研究が行われてきた.しかし人間は単一の感覚野で得られた知覚が異なる感覚 野の知覚によって変化させることでより精度の高い認知を行っている.このことから異なる多 感覚の情報が入力された時の脳活動に注目が集まっている.二つ以上の感覚モダリティの相互 作用を感覚相互作用と呼び,主な例としてマガーク効果が挙げられる.マガーク効果は視聴覚 感覚相互作用で有名な現象の一つで,視覚情報によって実際に聞こえる音が変化する錯覚であ る.被験者に画面上では「が」と発音している音声のない映像を見せながら「ば」という音声 を聞かせると,全く違う「だ」という音が聞こえる場合がある.これは視覚によって捉えた口 の動きと聴覚情報の相互作用によって生じると考えられており,会話をより正確に行う機能に 関与している.このことから感覚相互作用は人間の多感覚知覚を知る上で非常に重要な要素 であるといえる. 視聴覚の感覚相互作用に関わると考えられている脳部位として上側頭溝後部 (posterior su- perior temporal sulcus: pSTS) が報告されている 1) .上側頭溝後部の位置を Fig. 1 に示す. マカクザルの解剖においても,上側頭溝への視覚情報および聴覚情報の入力が確認されており, 音源定位や同一事象の感覚情報かの判断に関わるとされている 2) .本稿では視覚野および聴 覚野に加えて pSTS の脳活動に焦点を当てた検討を行うための予備実験の結果を報告する. 3 確率的レジストレーション 脳機能マッピングの観念において,脳イメージング手法から得られた脳活動データと脳部 位を対応させることは,非常に重要な要素となっている.そのため脳の構造情報を得られな い fNIRS を用いて脳機能マッピングを行うには,脳活動データと脳構造を対応付け(レジス 1 Fig. 1 視聴覚野及び pSTS 左側頭部 右側頭部 後頭部 Fig. 2 計測位置 トレーション)をする必要がある.そのレジストレーションの方法の一つが確率的レジスト レーションである 3) .確率的レジストレーションは磁気計測によって得られた fNIRS のファ イバーの座標と,国際 10-20 法の基準点の座標を Montreal Neurogical Institue(MNI)標準 脳上の座標に変換し,計測 CH の皮質表面上の位置を推定する方法である.この方法におけ る標準偏差は 4.7∼7.0mm の範囲内であり 3) ,脳の主要な解剖学的単位である脳回の幅(約 10mm)を考慮すると実用上十分なレベルであるとされている 4) . 実験概要 4 4.1 実験目的 提示刺激に対する反応時間と脳活動から,視聴覚における感覚相互作用を検討する. 4.2 被験者と環境 測定機器には fNIRS 装置(LABNIRS:島津製作所製)を使用した.サンプリング周期は 0.021 秒で,測定位置は両側頭部及び後頭部とした.各計測 CH の位置を Fig. 2 に示す.各側 頭部の計測は 12CH ずつ,後頭部は 17CH を配置し,計 41CH で計測を行った.また磁気計 測機器(Fastrak:PHLHEMUS 社製)で測定した各 CH の頭皮表面上の座標を,Statistical parametric mapping for near-infrared spectroscopy(NIRS-SPM)5) を用いて MNI 標準脳上に 確率的レジストレーションを行うことで皮質表面上の部位を同定した.基準点には国際 10-20 法の基準点 Nz,Cz,AL,AR を用いた. 刺激提示用ソフトとして Presentation(Neurobehavioral Systems 社製)を使用し,次節で 示す実験プログラムを実行した.聴覚刺激の提示にはノイズキャンセラー付イヤホン(ATH- ANC23:audio-technica 製)を使用し,実験開始前に被験者が十分に聞き取れる音量に調節 した.被験者は 21 歳の健常な男性 1 名とし,室温 23.8 ℃,湿度 52%の室内で,椅子に座った 状態で実験を行った. 4.3 実験設計 本実験では,画像又は音として提示された動物が哺乳類か否かを被験者に判断させ,その時 の脳活動を計測した.実験は以下に示す 5 通りを行った. 2 21 s Task Rest Task Rest Task Rest Rest Total:183 s Fig. 3 実験設計 実験 1 画像のみが提示され,その動物が哺乳類か否かをこたえる. 実験 2 音(鳴き声)のみが提示され,その動物が哺乳類か否かをこたえる. 実験 3 同じ動物の視聴覚刺激が提示され,その動物が哺乳類か否かをこたえる. 実験 4 不一致な動物の視聴覚刺激が提示され,画像の動物が哺乳類か否かをこたえる. 実験 5 不一致な動物の視聴覚刺激が提示され,鳴き声の動物が哺乳類か否かをこたえる. 実験の流れを Fig. 3 に示す.実験設計はレストを 30 秒とし,21 秒のタスクを 3 回繰り返す計 183 秒の実験となっている.一つのタスクで異なる動物の画像又は鳴き声が 7 回提示され,被 験者は間違えない範囲で素早く提示された動物が哺乳類か否かをキーボードで答える.画像 はグレースケールのものを使用し,1 回の提示時間は 2.5 秒で,その直後に 0.5 秒間の暗転画 面が提示される.また鳴き声は,提示時間が 2∼2.5 秒以内になるように長さを調節している. 鳴き声のみ提示される実験(実験 2)ではタスク中に灰色の背景と固視点が画面に提示される. 提示刺激に用いた動物は犬,猫,牛,象,カラス,蛙,鶏の 7 種類である.7 種の動物は 1 回のタスクで必ず一度ランダムに提示される. 4.4 データ処理 データ処理及び解析の一部には NIRS-SPM(Statistical Parametric Mapping)を用いた. データの前処理としてトレンド成分の除去を行うために Wavelet-MDL を用い,高周波数成分 を除くために半値全幅を 4 秒としたガウシアンフィルタリングを行った.活性 CH の判定と して有意水準を 0.05 とし,補正なしで t 検定を行った.血流のタスク区間のピーク時間を求 めるために,3 つのタスクを加算平均したデータを使用した.加算平均を行った区間を Fig. 4 に示す.なお加算平均する前に,それぞれのタスクの開始時間に 0 点調整を行った. 実験結果と考察 5 5.1 反応時間 各実験における反応時間を示したグラフを Fig. 5 に示す.incongruent picture は,提示さ れる画像と音が不一致で,画像に対して判断をした時の反応時間で,incongruent sound は音 に対して判断をした時の反応時間である.また課題に対するエラー率は全て 0%だった. 画像で判断する課題と音で判断する課題の判断時間を比べると後者の方が長くなった.これ は鳴き声を理解するにはある程度音が再生されている必要があるためだと考えられる. 画像と音が不一致で画像に対して判断をする課題と,画像のみを提示する課題の反応時間 を比較すると,不一致の方が多くの反応時間を要しており,t 検定による有意差が認められた (p < .05).これは同時に提示される音の影響を受けているためだと考えられる.不一致で音 に対して判断する場合と,音だけの課題の反応時間も同様に不一致の方が反応時間が長く,t 検定による有意差が存在した (p < .05).これらのことから課題において異なるモダリティの 刺激による相互作用の影響が示唆された. 3 タスク区間 各タスクの開始時間で 点調整 加算平均 Fig. 4 加算平均処理 5.2 脳活動 NIRS-SPM を用いて有意差のある CH を判定した結果,活性は認められ無かった.NIRSSPM で活性と見なされるデータは,レストの時は 0,タスクの間は 1 となる矩形波に近いも のとなる.脳活動と思しき波形はいくつか見受けられたが,いずれもタスク開始から 10 数秒 でレスト状態になってしまっている.そこでこの短い凸型波形データが提示された刺激による アーチファクトなのか,感覚野の活動によるものかを波形のピーク値の時間から検討した. 5.3 血流波形のピーク時間 脳活動と思しき短い凸型波形を目視によって確認したところ,実験 2 と実験 4 のみでその CH が認められた.これらの課題実行時の左側頭部と右側頭部,後頭部それぞれの oxy-Hb の ピーク時間の平均を求めた.ピーク時間は 3 つのタスクを加算平均したデータのタスク区間 の最大値とした.結果を Fig. 6 に示す. どちらの課題においてもピークを迎える順は左側頭部,後頭部,右側頭部だった.左右側頭 部のピーク時間差は実験 2 で約 1.5 秒,実験 4 では約 0.44 秒の時間差が生じている.人間が 感覚器官からの情報を意識するまでの時間は,感覚情報が入力されてから最大で 0.4 秒とされ ていることから 6) ,これらの時間差は感覚野の活動としてはあまりにも大きく,アーチファ クトである可能性が高いと考えられる. 6 今後の展望 個人の解析では活性 CH は見受けられなかった.今後は集団解析を行い,その結果を検討し ていく.また解析において感覚野以外のアーチファクトを配慮する必要性が示唆された.タス クによる活性 CH を得ることが出来れば,これらの機能的結合を相互相関や Granger Causality Model などを用いて検討して,感覚相互作用が生じた際の脳活動を検討していきたい. 4 Fig. 5 反応時間 (a) sound (b) incongruent picture Fig. 6 ピーク到達時間 7 まとめ 感覚相互作用は人間の多感覚的な認知活動を理解する上で重要である.今回は感覚相互相関 を検討するための予備実験を行った.結果として動物の画像と鳴き声による認知課題の実験で は脳活動は認められなかった.更に被験者を増やし集団解析を行っていく. 参考文献 1) Brenna D. Argall Alex Martin Michael S. Beauchamp, Kathryn E. Lee. Integration of auditory and visual information about objects in superior temporal sulcus. Neuron, Vol. 41, pp. 809–823, 2004. 2) 彦坂和雄. 脳における異種感覚の統合様式. 電子情報通信学会誌, Vol. 76, pp. 1190–1196, 1993. 3) Haruka Dan Valer Jurcak Ippeita Dan Archana K. Singh1, Masako Okamoto1. Spatial registration of multichannel multi-subject fnirs data to mni space without mri. Neuroimage, Vol. 27, pp. 842–851, 2005. 4) 續木大介, 蔡東生. 脳地図作成のための解剖学的ラベリングシステムの開発. 情報処理学会 論文誌, Vol. 0, p. 0, 2007. 5) Kwang Eun Jang Jinwook Jung Jaeduck Jang Jong Chul Ye, Sungho Tak. Nirs-spm: Statistical parametric mapping for near-infrared spectroscopy. Neuroimage, Vol. 44, pp. 428–447, 2009. 6) Rita Carter. ブレインブック-みえる脳. 南江堂, 第 1 版, 2012. 5 第 36 回 月例発表会(2014 年 07 月 31 日) 医療情報システム研究室 fNIRS 計測データを用いたデータ補間による 脳機能情報のマッピング 大谷 俊介 shunsuke OHTANI 背景:うつ病や統合失調症などの精神疾患が増加しているため,精神疾患の発症メカニズムを解明することが必要である 研究目的:活性部位間の神経線維を評価し,脳内ネットワークを解明するシステムを提案する 発表の位置づけ:fNIRS 計測データを用いて,値の持たない箇所を補間し,脳実質表面の活性部位を特定する 方法:3D プログラミングを用いて,fNIRS で得られた脳活性部位データを脳実質表面にマッピングする 結果:本システムを用いることで,fNIRS データを脳表面に正確にマッピングできることが確認できた 1 はじめに 近年,職場でのうつ病や本格的な高齢化社会を迎えたことに伴う認知症患者の増加が深刻 な社会問題になっており,これまでの四大疾病 1 に,精神疾患が加わり五大疾病と呼ばれてい る.精神疾患になるまでの症例は多数報告されているが,発症するメカニズムは解明されてい ない.このメカニズムが解明されていない最も大きな理由の一つとして,脳内ネットワークが まだ解明されていないことが挙げられる.そして現在,脳機能を計測する機器は多数存在する が,それらの装置は,ある部位の活性のみを見ているため,活性部位間の関係性までは見るこ とができない.その活性部位間の関係性をみることは脳内ネットワークの解明に重要だと考 えられる 1) .そこで本研究では,活性部位間を繋いでいると考えられる脳の白質形態に着目 し,脳内ネットワークの解明を行う.本研究で着目する脳の白質形態とは脳神経線維のことで あり,これを見ることにより,特定の白質形態が脳内ネットワークに影響があるかどうかを検 討する.様々な刺激を与えた際の脳の活性部位を確認し,その活性部位間の脳神経線維を見る ことで,白質形態が定量的に判断することが可能であると考えられる. 本研究では,MRI(Magnetic Resonance Imaging) の DTI(Diffusion Tensor Imaging) デー タから得られる脳神経線維と fNIRS(functional Near-Infrared Spectroscopy) から得られる脳 活性部位を同時に,3D 描画させることで,脳内ネットワークの解明を支援することを目的と したシステムの提案を行う. 2 脳神経情報と機能情報を同時描画による提案システム 現在,Fig. 1(a) のような 2 次元画像は MRI 装置を用いた拡散テンソル画像法により,脳内 に存在する水の拡散情報を用いることで脳神経線維を画像化できる.しかし,ヒト脳の脳内 ネットワークを評価するために,神経線維の走行を 3 次元的に再構成し,可視化することが重 要である.同時に脳神経線維と Fig. 1(b) に示すような,fNIRS から得られる脳活性部位をみ ることができれば,脳活性部位付近の神経線維の評価が可能である.本研究では,神経線維追 跡により得られた脳神経線維の走行を 3D 可視化し,また脳活性部位を同時に 3D 表示するこ とで,脳活性部位付近の神経線維の評価に役立つシステムを提案する.提案システムの一連の 流れを Fig. 2 に示す.それぞれの処理内容について下記に示す. 1. fNIRS から被験者の刺激呈示時における脳血流量変化データと磁気計測によって得ら れた被験者毎のプローブの 3 次元位置座標の取得 2. MRI の拡散テンソル画像法より,脳神経線維の座標の入手 3. fNIRS のデータと MRI のデータの位置合わせ 4. 脳神経線維と活性部位を同時に 3 次元で描画 1 がん,脳卒中,心臓病,糖尿病 6 (a) Nerve fibers obtained by DTI (b) Activation map obtained by fNIRS Fig. 1 Brain images 1 Activation map Nerve fibers obtained by fNIRS fNIRS 4 Simultaneous display of the active site and the nerve fibers 3 MRI 2 Fig. 2 Configuration of the proposed system 本システムでは,3D プログラミングの一種である Direct3D を用いることで,3D 可視化を 実現する. 本システムの評価実験 3 本実験では,実際に計測された Probe2 の fNIRS データ (24 点) を用いて脳活性部位を判断 できる描画を行う.しかし,fNIRS データは,計測 CH 間のデータになっているため,脳実 質表面にマッピングする際には脳表面全体にデータを補間する必要がある.その補間方法は, 重み付き平均手法を用いる.この手法を用いて fNIRS データを補間し,脳実質表面にマッピ ングすることを本稿での実験目的とし,目的とする描画が可能かどうかを検証する. 3.1 システムに用いるデータ 脳神経線維の描画には,MRI の撮像手法の一つの拡散テンソル画像法により得られる 3 次 元座標データを用いる.また,脳活性部位の場所は,短文を読みながら文中の指定された単 語を記憶する RST(Reading Span Test) 課題を用いた際の脳血流量変化データを用いる 2) . しかしながら,MRI データによって描画する脳神経線維と fNIRS より得られる脳血流量変化 データでは,座標系が異なるため,同一次元にマッピングする必要がある.そこで,fNIRS 装 置の磁気計測によって得られたデータ計測 CH の位置の 3 次元座標データを用いる.方法とし ては,fNIRS の 3 次元座標データの基準点に対応するように MRI 構造画像のボクセルを目視 で確認し,基準点と対応するボクセルの座標が一致するようにマッピングを行う.実際にマッ ピングを行った結果を Fig. 3 に示す. Position of CHs Left temporal region Right temporal region Frontal region Parietal region Fig. 3 Position of CHs in the structure images 7 3.2 重み付き平均手法を用いた fNIRS データの補間 fNIRS データの座標は,計測 CH 間の座標になっているため,その位置の脳血流変化データ しかない.そのため脳実質表面にマッピングするためには,データ点以外の座標にも値を持た せる必要がある.それを重み付き平均法を用いて,補間する 3) 4) .Fig. 4 は,補間を行いた いデータ点 (xp ,yp ,zp ) と,補間に用いる最近傍の 4 つのデータ点について表した図である.重 み付き平均手法を用いることで,ランダムなn個の 4 次元のデータ (x 座標,y 座標,z 座標, 脳血流変化データ) が (x1 ,y1 ,z1 ,p1 ), ‥‥,(xn ,yn ,zn ,pn ) であるとき,任意の点の pp を推定す ることができる.これらの最近傍の 4 つのデータから pp の値を求めるものであるが,単に 4 つのデータ平均値を求めるのは問題となる.それは,3 次元上で,(xp ,yp ,zp ) に近い (x4 ,y4 ,z4 ) は pp に対して大きな影響を及ぼし,逆に最も遠い (x1 ,y1 ,z1 ) はあまり影響を及ぼさないため, これを考慮する必要があるからである.そこで,平均値を計算するときに,重みを距離に応じ て設定した上で,計算することで,より近い補間ができる.重み付き平均の計算は,補間に用 いるデータ数を n,各データに対する重みを ωi とすると,式 (1) で表すことができる. (x2,y2,z2,p2) (x3,y3,z3,p3) d3p d2p (xp,yp,zp,pp) d1p d4p (x1,y1,z1,p1) (x4,y4,z4,p4) Window size Fig. 4 Weighted average method n ∑ Zp = ωi pi i=1 n ∑ (1) ωi i=1 本評価実験では,距離が近いほど大きい重みにするために,ある点 (xi ,yi ,zi ) と (xp ,yp ,zp ) との距離 di は,容易に計算できるので,この距離を重みにする際は,その逆数を用い,式 (2) で表すことができる. 1 wi = √ (xi − xp )2 + (yi − yp )2 + (zi − zp )2 (2) この重み付き平均の手法を用いることで,fNIRS 装置から得られるデータ点以外の点を補 間することが可能である.本システムでは,脳実質の表面の脳血流変化データを補間する. 8 3.3 実験結果 Fig. 5 は,Probe2 の fNIRS データ (24 点) を用いて,左側頭葉の脳実質表面のみを重み付 き平均の手法で補間し,色付けしたものである.本実験では,計測データの正規化を行い,最 大値が赤,最小値が青としそれらのグラデーションで脳血流変化の色付けを行った.しかし, 色付けの方法が正規化であるため,この描画結果からは課題による活性かどうかは判断でき ない.よって今後は,活性と不活性を区別できるように補間したデータを解析して描画する必 要がある. Fig. 5 Interpolation of fNIRS data 4 まとめと今後の展望 本稿では,脳内ネットワークの解明を目的とし,目的の描画が正確にできているかの確認の ために評価実験を行った.本評価実験では,Probe2 の fNIRS データ (24 点) を用いて,左側 頭葉の脳実質表面のみを重み付き平均手法で補間し,脳機能情報を描画した.そして,実験結 果の表示画像から正確に脳機能情報を描画できていることが確認できた.これにより,様々な 課題時の fNIRS データを用いることで,自動的に活性部位の特定が可能になる.今後は活性 と不活性を区別できるように補間したデータを解析して描画する必要がある.そして,被験者 毎の脳を標準脳に対応させたときの脳血流変化データの比較を行うことで,被験者間で脳活 動の評価を行うことが可能となる. 参考文献 1) S. Junghyup, D. Foster, H. Davoudi, M. Wilson, and S. Tonegawa. Impaired hippocampal ripple-associated replay in a mouse model of schizophrenia. Neuron, Vol. 80, pp. 484–493, 2013. 2) N. Mashima, U. Yamamoto, and T. Hiyoyasu. Analysis of working memory using the reading span test: Basic research of regional brain activity on brain cortex using functional near-infrared spectroscopy. 同志社大学理工学研究報告, Vol. 54, No. 3, pp. 240–247, 2013. 3) T. Koizumi, H. Kawasaki, and Y. Sawano. Estimation of the surface wind speeds and directions at arbitrary locations. Bulletin of Japan Association for Fire Science and Engineering, Vol. 59, No. 1, pp. 25–33, 2009. 4) 三浦憲二郎. 3 次元形状表現の基礎–細分割曲面による形状表現–. JOURNAL OF JAPAN SOCIETY FOR DESIGN ENGINEERING, Vol. 39, No. 12, pp. 633–641, 2004. 9 第 36 回 月例発表会(2014 年 07 月 31 日) 医療情報システム研究室 マルチタスク時における脳活動とストレス状態の検討 岡村 達也 Tatsuya OKAMURA 背景:情報化社会に伴い,同時に複数の情報を処理するような場面が増加している. 研究目的:ストレス状態での多様な脳活動をクラス分類し,唾液内ホルモンとの関係性の解明を目指す. 発表の位置づけ:online letter matching 課題中の脳活動と,その課題に対する心理状態の関係を調査する. 方法:fMRI を用いて online letter matching 課題中の脳活動を計測し,そのタスクに対して POMS を行う. 結果:海馬内の負の活性を示したボクセル数と POMS における Depression の得点変化に正の相関がみられた. 序論 1 近年,様々なものにおける情報化が進み,処理しなければならない情報量は増加している. そして,情報量の増加に伴い,同時に 2 つ以上の情報を処理しなければならない状況下に置 かれることも多くある.このようなマルチタスク状態を強いられることが増加すると,ストレ スの要因となる可能性が高くなる.そして慢性的にストレス状態であると,免疫力の低下など から心身症などの健康被害を受ける危険性があり,この発症報告は年々増加の傾向にある 1) . これは,ストレスに対して適切に対応出来ていないからであるが,それは自分がストレス状態 にあるという自覚がない場合や,どのようにその状況に対応すればよいのかが分からないこ とに起因すると考えられる.また,ストレスには個人差があり,同じ状況下でも人によってス トレスになる場合とならない場合やストレスへの対処法が異なる場合がある.これらの状況 から,個人においてストレス状態にあるかどうかを評価し,その個人ごとのストレスへの対処 法を提案できる手法が求められている. 先行研究において,ストレスマーカーとして広く知られる Cortisol をタスクの前後で唾液 から採取し,その変化量から被験者をストレス反応群と無反応群に分類し,両群間の脳活動を 調査しているものは多数存在する 2) 3) 4) .しかし,脳活動には多くの情報が含まれているこ とから,Cortisol 以外にもストレス状態の脳活動のふるまいを記述可能なホルモンが存在する と考えられる.そして,そのようなホルモンが発見されれば,タスク前後の唾液を採取するこ とによりその被験者の詳細な情報が,脳活動を計測することなく簡便に診断することが可能 になると考える. そこで本研究では,ストレス状態での脳活動と唾液内ホルモンの変化の関係性の解明を 目的とする.そのための検討として,本稿では非侵襲生体計測装置である fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)と,気分を評価する質問紙法である短縮版 POMS (Profile of Mood States)5) を用いて,マルチタスク時の脳活動と心理状態の変化の関係を調査した.ま た,マルチタスクの前後で唾液を採取し,ホルモン変化についても調査を行った.本稿では, 得られた脳活動から被験者のクラスタリングを行い,それぞれの群間の差異について,脳活動 や POMS 得点の観点から検討した.また,先行研究により唾液内 Cortisol と相関が示されて いる海馬の負の活性と POMS 得点や Cortisol 変化などの関係性を調査した 6) .この手法を 用いることによって,同じタスクに対する個人による脳活動の差異の有無と心理状態との関係 性を検討する. fMRI と POMS による実験 2 2.1 実験概要 本実験の目的は,マルチタスク時における脳活動の変化と心理状態の変化の関係を調査する ことである.タスクは難易度を調整することによりマルチタスク(以下 Multi)とシングルタ スク(以下 Single)を表現することが出来る online letter matching 課題を採用した.被験者 10 は男性健常者 8 名,女性健常者 8 名(平均年齢:22±1 歳,右利き 15 名,左利き 1 名)を対 象とした. 2.2 実験手順 マルチタスク時の脳活動と心理状態の変化について調査するため,3 種類の実験を行った. まず,fMRI によって Multi 時と Single 時の脳活動を計測し,その前後に短縮版 POMS を実 施した.これを本稿では fMRI 実験と定義する.ここで,fMRI 実験で計測された POMS の 結果にはタスクだけではなく fMRI による影響が含まれている可能性がある.この影響を検討 するために,fMRI 実験とは別の日に fMRI による撮像は行わずに Single のみを行い,その前 後で短縮版 POMS を実施した.そして Multi についても同様の実験を行った.これを本稿で は POMS 実験と定義する.これらの実験の流れを Fig. 1 に示す.また,マルチタスクと唾液 内 Cortisol 変化を調査するため,fMRI 実験と POMS 実験とは別の日に fMRI 内で Multi の みを行い,その前後で唾液の採取,分析を行った.これを本稿では Cortisol 実験と定義する. fMRI fMRI 実験 Multi Single POMS Single と Multi における 脳の活性領域 POMS time POMS 実験 Single POMS Single による ⼼理状態の変化 POMS time POMS 実験 Multi POMS Multi による ⼼理状態の変化 POMS time day Fig. 1 実験手順 2.2.1 fMRI 実験 実験設計は先行研究 7) を一部参考とした.fMRI 実験の流れを Fig. 2 に示す. 28[sheets] A T … b Rest Single 30 84 Rest + Multi Rest Single Rest Multi 84 Rest time[s] Fig. 2 実験デザイン fMRI 実験はブロックデザインであり,ブロックは Rest,Single,Multi の 3 種類で構成さ れている.Rest は 30 [s] で,Single と Multi はそれぞれ 84 [s] である.Single と Multi を交互 に 2 回行い,その各タスクの前後に Rest を行う.これを 1 セッションとし,計 2 セッション 行う.両タスクの概要を Fig. 3 に示す. Single ... A B L t e a L T a A ... Multi ... A B L t e a L T a A ... t? t? time Fig. 3 タスク内容 次に各ブロックについて説明する.Rest は画面に表示された「+」マークを 30 秒間注視す る.Single,Multi 両タスクは「tablet」という文字列の中から大文字,小文字を問わずラン ダムで画面に 1 文字提示される.Single では,提示された文字が大文字でかつ,1 つ前に提示 された文字から「tablet」の順番に従っているかどうかを○か×かで回答する.小文字が表記 された場合は何も回答しない.Multi では Single と同じ条件に加えて,さらに小文字のときも 回答する.小文字の場合は,大文字から小文字に切り替わった初めの 1 文字目については,そ 11 の小文字が「t」であるかどうかを○か×で回答する.そして,小文字が連続して提示された 場合,小文字の 2 文字目以降は大文字と同様に,TABLET の順番に従っているかどうかを○ か×で回答する.それぞれ文字は 0.5 [s] 提示され,その後 2.5 [s] 回答する時間がある.28 文 字提示し,合計 84 [s] で 1 ブロックとする.なお,回答については Single,Multi 共に非磁性 のボタンを用いて出力させた.被験者には実験前に,出来るだけ間違えない範囲で早く回答す るように指示し,2 セッション分練習を行った後実験を行った.また fMRI 実験の前後に短縮 版 POMS を実施した. 2.2.2 POMS 実験 POMS 実験は,fMRI 実験と問題の内容のみを変更した Rest,Single,Multi を用いた.fMRI 実験とは別の日に Single を 4 回行い,その各タスクの前後で Rest を行った.そしてその前後 に短縮版 POMS を実施した.また,それとは別の日に,Multi についても同様の実験を行った. 2.2.3 Cortisol 実験 Cortisol 実験は,Multi を 168[s] 行い,その前後 30[s] レストを行う.これを 1 セッションと し,計 2 セッションを fMRI 内で被験者 2 名に対して行った.唾液は Salivette を用いて,実 験 5 分前,セッション間,実験直後,実験後 29 分のタイミングで 4 サンプル採取した.採取 した唾液は −20 ◦ C で冷凍保存し,その後外部の研究機関に分析を委託した.Cortisol の日内 変動を避けるため,実験は 17 時以降に行った. 2.3 実験環境 fMRI 実験では,日立メディコ製 ECHELON Vega(1.5 T)の MRI 装置を使用した.画像 撮像のパラメータを Table. 1 に示す.刺激画像の提示に関しては,MRI 室には磁性体を持ち 込めないため,隣室のプロジェクターから画像提示する光を取り込む.取り込んだ光をスク リーンに映し,被験者頭部のコイルに取り付けた鏡に反射させ,被験者に刺激画像が見える環 境を構築した.また,回答には Fig. 4 に示す非磁性体のボタンを用いた. Table. 1 スキャンパラメータ パラメータ スライス方向 TR [ms] TE [ms] FOV [mm] スライス厚 [mm] スライス [枚] Matrix Size 値 Axial 3000 40 240 6 18 64×64 Fig. 4 回答用ボタン 2.4 2.4.1 データ処理方法 fMRI データ データ処理は SPM8(Statistical Parametric Mapping)8) を用いて体動の補正,標準化, 平滑化を行った.有意水準を 0.001 とし,個人解析を行った後,そのデータをもとに有意水準 0.001 で集団解析を行った. 2.4.2 POMS データ POMS は,気分を評価する質問紙法の 1 つとして McNair 9) 10) らにより米国で開発され, 対象者が置かれた条件により変化する一時的な気分,感情の状態を測定できるという特徴を有 している.正規版は 65 項目の観点から気分について, 「まったくなかった」 (0 点), 「すこしあっ た」 (1 点), 「まあまああった」 (2 点), 「かなりあった」 (3 点), 「非常に多くあった」 (4 点)の いずれか 1 つを選択し回答する.気分の評価内容については, 「緊張-不安(Tension-Anxiety)」 「抑うつ-落込み(Depression-Dejection)」 「怒り-敵意(Anger-Hostility)」 「活気(Vigor)」 「疲 労(Fatigue)」「混乱(Confusion)」の 6 つの気分尺度を同時に評価することが可能である. 12 評価方法として正規版と項目数を 30 に削減した短縮版の 2 つがあり,本実験では短縮版を使 用した.本稿では,POMS の得点から算出された各被験者のそれぞれの気分の尺度を,実験 前後で差分を取ることによって実験による心理状態の変化とした. 結果 3 3.1 クラスタリング fMRI 実験より得られた Multi 時の脳活動に関して,被験者それぞれで個人解析を行った. そして,被験者毎に全ボクセルの T 値を正規化したのち,有意に賦活したとされるボクセル の T 値を特徴量として,被験者のクラスタリングを行った.クラスタリング手法として,類 似係数にはユークリッド距離,クラスター同士を併合する方法には,凝集型階層的手法の一つ である Ward 法を用いた.Multi 時の脳活動からクラスタリングした結果,すなわちデンドロ グラムを Fig. 5 に示す.横軸は被験者を表すラベル,縦軸は距離を表している.デンドログ ラムを図中の破線で切断することによって 8 人ずつの 2 つのクラスターに分類した. 2.2 distance 2.0 1.6 1.2 0.8 1 4 13 14 16 5 15 3 2 8 7 11 9 6 10 12 Responder(n=8) Non-responder(n=8) 被験者Label Fig. 5 dendrogram クラスタリングによって Multi 時に賦活として反応が強く現れる被験者群と,反応が弱い被 験者群に分けられた.本稿では反応が強く現れる被験者群を Responder(n=8),反応が弱い被 験者群を Non-responder(n=8) とした.Responder の被験者ラベル 4 と Non-responder の被 験者ラベル 8 の賦活を Fig. 6 に示す.横のバーは T 値を示しており,値が高いほど活性が強 いことを表している. 12 3 8 2 4 1 0 0 被験者Label 8 被験者Label 4 Fig. 6 Multi 時の賦活(x = −22) クラスター間で各 POMS 得点や課題成績に有意な差はみられなかった. 3.2 海馬の deactivation fMRI 実験より得られた Single と Multi 時の負の脳活動に関して,被験者 16 人で集団解析 を行った.Multi 時に海馬の負の活性が見られ,Single 時には見られなかった.よりストレス との関係を検討するため,海馬で ROI を取り,各被験者で負の活性を示したボクセル数とそ 13 の人の POMS 得点や成績などを比較した結果,POMS の Depression という気分の得点変化 とボクセル数に正の相関がみられた(r = 0.43,p < 0.1).海馬で負の活性を示したボクセル 数を横軸,POMS の Depression の得点変化を縦軸にとった散布図を Fig. 7 に示す. Fig. 7 海馬の負の賦活ボクセル数と POMS の得点変化 3.3 Cortisol 実験 Cortisol 実験によって得られた各 4 サンプルの唾液内 Cortisol の変化を Fig. 8 に示す.横 軸はマルチタスクの開始時を 0 にしたそこからの時間,縦軸は Cortisol のモル濃度,グラフ 内の長方形はタスクを行ったタイミングを表している.被験者 A は海馬の負の賦活ボクセル 数 269[voxel],被験者 B は 25[voxel] であった. Fig. 8 唾液内 Cortisol の時間変化 考察と展望 4 4.1 クラスタリング 脳活動から被験者をクラスタリングした結果,マルチタスクに対して脳活動としての反応を 強く示す Responder と弱く示す Non-responder に分類することが出来た.このことから,同 じ条件のタスクを行った被験者間でも脳活動としての傾向が異なる群が存在し,それをクラス タリングによって分類出来る可能性が示唆された.先行研究において,急性ストレス状態の応 答として,唾液内 Cortisol の変化を示す Responder と変化を示さない Non-responder が存在 するとされている 4) .本実験の結果は,脳活動においても同様の分類が存在する可能性を示 したが,被験者が先行研究と同様ストレス状態にあったのかを検討する必要がある.これにつ 14 いては 4.2 で考察する.また,Non-responder において Responder と同じように脳活動として 反応を表している被験者が 1 名存在したので,クラスタリング手法に関して改善する必要が ある. 4.2 online letter matching task のストレス強度 Fig. 7 より,海馬の負の賦活を示したボクセル数と POMS の Depression の得点変化が正の 相関関係にあった.先行研究により,海馬の負の賦活を示したボクセル数と唾液内 Cortisol の 変化は正の相関関係にあることが示されている 6) .このことから,POMS の Depression の 得点からも Cortisol と同様の評価が得られる可能性が示唆された.Fig. 8 より,海馬の負の賦 活ボクセル数が大きい被験者 A に唾液内 Cortisol 変化が見られ,被験者 B には見られなかっ た.これは先行研究と同様の傾向であるが,先行研究に比べ,本実験での海馬の負の賦活ボ クセル数は 1/10 程度であり,また Cortisol 変化も 1/10 程度であった.このことから,online letter matching task のストレス強度は他のストレス研究などで用いられている Trier Social Stress Test や Montreal Imaging Stress Task などと比べ小さいと考えられる.よって,今後 はよりストレス強度の大きい Montreal Imaging Stress Task などで実験する必要がある.し かし,本実験の結果で POMS の Depression の得点変化は小さいスケールでの海馬の負の賦活 や,Cortisol 変化の指標になる可能性が示唆された. 5 結論 本稿では,マルチタスク時の脳活動で被験者をクラスタリングし,その傾向を検討した.また, 海馬の負の賦活と POMS 得点,唾液内 Cortisol 変化との関係性を調査した.その結果,マル チタスクに対して脳活動において強い反応を示す Responder と弱い反応を示す Non-responder に分類された.そして,海馬の負の賦活と POMS の Depression の得点変化において正の相関 がみられ,Cortisol 変化に関しても負の賦活ボクセル数の大きい被験者に変化がみられた.先 行研究に比べ海馬の負の賦活ボクセル数や Cortisol 変化が小さいので,online letter matching task のストレス強度は小さいと考えられるが,POMS の Depression の得点変化は小さいス ケールでの海馬の負の賦活ボクセル数の評価の指標になる可能性が示唆された. 参考文献 1) 井澤忍. 唾液を用いたストレス評価-採取及び測定手順と各唾液中物質の特徴-. 日本補完 代替医療学会誌, 第 4 巻, pp. 91–101, OCT 2007. 2) Katarina Dedovic, Miriam Rexroth, Elisabeth Wolff, Annie Duchesne, Carole Scherling, Thomas Beaudry, Sonja Damika Lue, Catherine Lord, Veronika Engert, and Jens C Pruessner. Neural correlates of processing stressful information: an event-related fmri study. Brain research, Vol. 1293, pp. 49–60, 2009. 3) Katarina Dedovic, Annie Duchesne, Julie Andrews, Veronika Engert, and Jens C Pruessner. The brain and the stress axis: the neural correlates of cortisol regulation in response to stress. Neuroimage, Vol. 47, No. 3, pp. 864–871, 2009. 4) Najmeh Khalili-Mahani, Katarina Dedovic, Veronika Engert, Marita Pruessner, and Jens C Pruessner. Hippocampal activation during a cognitive task is associated with subsequent neuroendocrine and cognitive responses to psychological stress. Hippocampus, Vol. 20, No. 2, pp. 323–334, 2010. 5) 横山和仁. POMS 短縮版 手引きと事例解説. 株式会社金子書房, 第 1 版, 2005. 6) Jens C Pruessner, Katarina Dedovic, Najmeh Khalili-Mahani, Veronika Engert, Marita Pruessner, Claudia Buss, Robert Renwick, Alain Dagher, Michael J Meaney, and Sonia Lupien. Deactivation of the limbic system during acute psychosocial stress: evidence from positron emission tomography and functional magnetic resonance imaging studies. Biological psychiatry, Vol. 63, No. 2, pp. 234–240, 2008. 15 7) Etienne K, et al. The role of the anterior prefrontal cortex in human cognition. letters to nature, Vol. 399, pp. 148–158, 1999. 8) 菊池吉晃, 妹尾淳史, 安保雅博, 渡邉修, 米本恭三. SPM8 脳画像解析マニュアル. 医歯薬 出版株式会社, 2012. 9) McNair DM, Lorr M, Droppleman LF. Profile of Mood States. Educational and Industrial Testing Service, 1992. 10) McNair DM, Heuchert JWP. Profile of Mood States Technical Update 2003. MultiHealth Systems Inc, 2003. 16 第 36 回 月例発表会(2014 年 07 月 31 日) 医療情報システム研究室 リーディングスパンテストにおける イメージ方略を用いた訓練による 脳内ネットワークの変化 小淵 将吾 Shogo OBUCHI 背景:ワーキングメモリ容量向上による認知機能の向上が示されているが,効果的な容量向上の方法は未解明 研究目的:ワーキングメモリ容量向上のための訓練方法にともなう脳内ネットワークの変化の解明 発表の位置づけ:リーディングスパンテストにおける,イメージ方略訓練にともなう脳内ネットワークの変化 方法:fMRI と DTI を用いた脳機能と脳構造の変化に対する統合解析 結果:イメージ方略において,ワーキングメモリ訓練による脳内ネットワークの変化が示された 1 はじめに ワーキングメモリは複雑な思考のために,情報の処理をしつつ一時的に必要な情報を保持す る働きを担うシステムである 1) .Baddeley ら (2000) によると,ワーキングメモリの概念は 中央実行系の制御のもと,3 つのサブシステムからなるマルチコンポーネントモデルだと考え られている 2) .3 つのサブシステムはそれぞれ,言語的な情報処理に関わる音韻ループ,視 覚イメージの保持と操作に関わる視空間スケッチパッド,そして長期記憶などから作業に関連 した情報を集めて処理をするエピソードバッファと定義される.システムは情報の一時的な保 持を担っているため,ワーキングメモリには容量が存在し,ワーキングメモリに保持できる最 大の情報量をワーキングメモリ容量とよぶ 1) .容量には個人差が存在し,文章読解力 3) や論 理的推論能力 4) ,そして問題解決能力 5) などの広範な認知機能との関連がある. ワーキングメモリ容量の個人差を測定するテストとして,Daneman & Carpenter により考 案されたリーディングスパンテスト (RST) 6) が広く普及している 7, 8) .RST とは短文を読 みながら,同時に短文中の刺激単語を記憶する課題である.苧坂・西崎 (2000) や遠藤 (2012) は日本語版 RST の単語記憶における方略の個人差について検討した 9, 10) .主な方略として, 単語をイメージ化して記憶するイメージ方略と単語を頭の中で繰り返し唱えて記憶するリハー サル方略が存在する.方略の個人差として,RST の高成績者の多くはイメージ方略を使用し ていたのに対し,低成績者は方略を用いないか,リハーサルの方略を行っていると報告されて いる 9) .したがって方略がワーキングメモリ容量に影響する. 先行研究により,ワーキングメモリ容量は訓練によって向上させることが可能であると示さ れている 11) .また,ワーキングメモリ課題やその他の認知課題の訓練は,訓練した課題のみ ではなく訓練していない課題の成績も上昇させることが明らかになってきた 12, ば,ワーキングメモリ容量を向上させることで,推論課題成績 4) 13, 14) .例え 11) が向上 や反応抑制成績 することが報告されている.また注意欠陥多動性障害の症状改善 15, 16) が見込まれている. ワーキングメモリ容量の増加によって,脳活動に差が現れることが functional Magnetic Resonance Imaging (fMRI) を用いた先行研究により示されてきた 11, 17) .Osaka ら (2012) は RST においてイメージ方略の訓練が及ぼす,RST の成績と脳活動の変化を検討した.訓練 後では被験者の成績が向上し,前部帯状回の脳活動が有意に増加したことが報告されている. したがって,方略の訓練により脳活動が変化することが明らかにされた 17) . 他方で,ワーキングメモリ容量の増加が脳活動だけでなく,白質形態にも影響を与えること が報告されている 18) .Takeuchi ら (2010) はワーキングメモリ課題の訓練が,白質形態に与 える影響を,拡散強調画像 (DWI) によって計測される拡散異方性の変化を用いた介入研究に よって示した 18) . 17 本研究では,ワーキングメモリ容量向上のための訓練方法の違いによる,脳活動と白質形態 への影響の差を検討し,脳内ネットワークの変化を検討する.これを調査するため,異なる方 略を用いた RST の訓練が脳活動と白質形態に及ぼす影響を fMRI と DTI を用いて検討した. 実験方法 2 2.1 被験者 本実験には,平均年齢は 22.3 歳 (SD, 0.95) の健常成人 13 人 (男性 11 名,女性 2 名) が参 加した.被験者の利き手は全員右利きであった.本研究は同志社大学生命医科学部・生命医科 学研究科倫理委員会の承認のもとで行った.被験者に研究の方法、危険性などを事前に説明 し、書面による同意を得た. 被験者 13 名中 9 名は 1ヶ月間ワーキングメモリ課題の訓練を行う訓練群,残りの 4 名は訓 練をしない統制群とした.訓練を行った 9 名中 5 名はイメージ方略,4 名はリハーサル方略を 用いて訓練を行うように指示した.また,リハーサル方略を訓練した被験者のうち 1 名は,訓 練を 1ヶ月継続できなかたったため,解析から除いた. 2.2 手順 MR 装置を用いて,ワーキングメモリ課題の訓練前後に全被験者の RST の成績と RST 時 の脳活動,そして白質形態の統合性を計測した.ワーキングメモリ訓練の期間において,被験 者は実験者が作成したソフトウェアを用いて,1ヶ月間ワーキングメモリ課題の訓練を行った. 訓練は 1 週間に 5 日間ワーキングメモリ課題の訓練を被験者の PC を用いて行った.訓練は ワーキングメモリ課題として RST を用いて,下記の手順で行った. 1. 短文が提示される.被験者は短文を音読しながら, 【】内の刺激単語を記憶する (5 文) 2. “ Recognition Time ”が提示される.被験者は記憶した単語を想起し回答を紙面に記 録する. 3. “ Answer is: (刺激単語)”で 5 つの刺激単語の回答が提示される. 1 から 3 の流れを 1 セットとし,被験者は 1 日 5 セットを行った.提示される短文は会話程 度のスピードで音読し,音読し終えたらすぐに次の文に進むように指示した.イメージ方略の 訓練群 5 名は刺激単語を頭の中でイメージして記憶するように,そしてリハーサル方略の訓 練群 4 名は刺激単語を頭の中で繰り返し唱えて記憶するように教授した. 2.3 実験設計 各被験者は訓練前後にブロックデザインで設計された RST 中の脳を fMRI 撮像した.1 セッ トの手順は下記の通りである. 1. RST 短文は 6 文あり,それぞれ 5 秒ずつ提示する.被験者は文の黙読と同時に【】内の刺激 単語を記憶する.文を読んでいることを確認するために,黙読終了後にボタンを押す. 2. Recognition 回答は 5 秒ずつ提示する.被験者は記憶した単語を RST で提示された順に想起する. スクリーンに表示された単語 3 つと X の中から,想起と一致する単語の側のボタンを 押す (一致する選択肢がない場合は X の側のボタンを押す). 3. Control “ 左 ”または ”右 ”と 2.5 秒ずつ提示する.被験者は表示された文字の側のボタンを押す. 4. Read 短文は 6 文あり,それぞれ 5 秒ずつ提示する.被験者は文の黙読のみを行う.文を読ん でいることを確認するために,黙読終了後にボタンを押す. 5. Control “ 左 ”または ”右 ”と 2.5 秒ずつ提示する.被験者は表示された文字の側のボタンを押す. この 1 から 5 の流れを 4 回繰り返し,1 セッションとする.被験者は MR 装置の中でこの実験 を 2 セッション実施した. 18 Fig. 1 Design of the fMRI experiment 2.4 撮像パラメータ 全ての MRI データの撮像は Echelon Vega 1.5-T (日立メディコ) を用いた.また fMRI 撮 像時の画像提示ソフトとして,Presentation (Neurobehavioral System Inc. ) とボタン押し の評価用インタフェースとして,fORP 932 Subject Response Package (Cambrige Research Systems) を使用した.脳機能画像は Gradient-Echo Echo-Planer Imaging (GE-EPI) シーケ ンスで撮像した (TR = 2500 ms, TE = 50 ms, FA = 90◦ , FOV = 240 × 240 mm, matrix = 64 × 64, thickness = 6.0 mm, スライス枚数 = 20).拡散強調画像は Diffusion-Weighted EPI (DW-EPI) シーケンスで撮像した (TR = 2317 ms, TE = 74.3 ms, FA = 90◦ , FOV = 240 × 240 mm, matrix = 256 × 256, thickness = 3.0mm, スライス枚数 = 50, b value = 1000(s/mm2 ), direction = 21).T1 構造画像は Rf-Spoiled Steady state Gradient echo (RSSG) シーケンスで撮像した (TR = 9.4 ms, TE = 4.0 ms, FA = 8◦ , FOV = 256 × 256 mm, matrix = 256 × 256, thickness = 1.0 mm, スライス枚数 = 192). 2.5 解析方法 fMRI データのデータ解析は,まず各被験者の訓練前後それぞれの個人解析から行った.デー タ処理は Matlab (MathWorks, Sherborn, MA) で動作する SPM 8 (Wellcome Department of Cognitive Neurology, London, UK) を用いて行った.磁場不均一の影響を除外するため, fMRI データのはじめの 6 枚を除き,計 448 枚の画像を解析に用いた.全ての画像は計測中の 頭部の動きを補正し,個人脳の機能画像と構造画像間での位置合わせを行い,個々の脳画像を Montreal Neurological Institute (MNI) 標準脳に合うように調整した後に,ガウシアンフィル タ (full width at half maximum (FWHM) = 8 mm) を用いて平滑化を行った.これら前処理 の後にそれぞれのタスクに対する脳活動の推定のために一般線形モデルを用いた.各被験者 に対して,個人解析として,固定効果解析で解析した後に,集団解析として,訓練前後で方略 別の群ごとに変量効果解析を行った.この集団解析では対応のある t 検定を用いて,群ごとの 訓練による脳活動の変化を調査した.そこで生じた脳活動領域を functional ROI (fROI) とし て抽出した.また,Automated Anatomical Labeling (AAL) 19) を用いて脳活動領域の特定 を行った. DTI データのデータ解析はまず,DTIStudio (John Hopkins University, MD)20) を用いて, 計測中の頭部の動きの補正を行ったのちに,Fractional Anisotoropy (FA) 画像の作成を行っ た.前処理として SPM 8 を用いて,個人脳の b0 画像と構造画像間での位置合わせを行い,構 造画像を MNI 標準脳に合うように調整した.その際に算出されるパラメータを用いて個々の FA 画像も同様に MNI 標準脳に合うように調整した後に,ガウシアンフィルタ (FWHM = 10 mm) を用いて平滑化を行った.次に平滑化の結果生じた各被験者の訓練前と訓練後の FA 画 像を集団レベルの対応のある t 検定に用いた.その際に解析を白質領域にのみ絞って行うため に,すべての被験者の FA が訓練前後ともに 0.2 以上の値を示すボクセルのみを統計解析の対 19 象とした.この対応のある t 検定において,FA が上昇した領域を fractional anisotoropy ROI (faROI) として抽出した. 次に脳活動上昇領域と FA 上昇領域の関係を検討するため,Fiber Tracking を行った.ま ず,fROI と faROI の領域は MNI 座標系であるため,被験者それぞれの空間に標準化した際 のパラメータを用いて個人化を行った.そして DSIstudio (http://dsi-studio.labsolver.org) を 用いて,faROI から Euler 法を用いて Fiber Tracking を行った (FA threshold = 0.2, Angle threshold< 60◦ , step size = 0.47).さらに描画された神経繊維束と関連のある脳活動上昇領 域と関連のある領域を検討するため,fROI における神経線維の通過本数をマトリックスにし た structural connectivity matrix の作成を行った. そして,脳活動領域における機能的結合を解析するため,conn21) を用いて functional connec- tivity matrix 解析を行った.SPM8 での前処理に追加して band pass filter (0.008 HzFF5E0.09 Hz) をかけた後に,全脳の平均 BOLD 信号,頭部の動きによるアーチファクト,白質と脳脊 髄液の BOLD 信号を除いた.RST 課題時の相関値を算出するため,RST のタスク期間中の BOLD 信号を抽出し血流動態反応に畳み込み積分を行い,それぞれのタスク期間中の BOLD 信号を結合した.最後に相関値を算出しフィッシャーの Z 変換の後に,母相関係数の推定を 行った. 結果 3 3.1 行動データ 訓練前と訓練後における,方略群ごとの RST の正答率変化を Fig. 2 に示す.イメージ方略 の訓練群においてのみ,RST 正答率の上昇傾向がみられた (効果量 = 0.84).一方で,リハー サル方略の訓練群と統制群においては,訓練前後に正答率の変化はみられなかった.また,イ メージ方略の訓練群において著しく成績が低下した被験者が存在した.その被験者において, Interquatile method を用いた結果,外れ値と判定された.したがって,この被験者を訓練に よる影響がないとして、fMRI と DTI の検討から除外した. Table. 1 Effect of training strategies Strategy Pre [%] Post [%] Effect size Imagery 82.81 ± 7.09 90.63 ± 4.96 0.84 Rehearsal Control 77.08 ± 2.95 82.29 ± 4.77 77.08 ± 4.50 82.81 ± 4.75 0.00 0.11 Fig. 2 Effect of training strategies in individuals 3.2 fMRI の結果 対応のある t 検定を用いて,訓練後の集団レベルの脳活動の変化が存在するかを検討した.各 群の訓練後において,Read 条件に対する RST 条件の脳活動に有意な差が生じた領域を Table. 2 に示す (voxel-level threshold uncorrected for multiple comparison p < 0.001, cluster size > 10).また,同条件における saggital 断面図を Fig. 3 に示す (x = 6).リハーサル方略の訓 20 練群においては,脳活動の変化はみられなかったが,イメージ方略の訓練群と統制群では脳活 動の変化が生じた. Table. 2 Significant clusters of activation in the three groups during RST condition comparing Read condition (p < .001, uncorrected; extent threshold voxels = 10) x y z zscore Cluster size Image Left Inferior Parietal Cortical region −32 −58 40 4.61 53 Right Frontal Middle Left Precuneus 36 −4 10 −50 62 38 4.59 4.53 14 54 Left Inferior Frontal Right Superior Occipital Right Cuneus −48 28 18 30 −82 −74 22 24 32 4.43 4.41 4.40 40 23 24 Right Anterior Cingulate Left Caudate 6 −20 48 −12 16 28 4.23 4.17 13 21 Right Middle Cingulate Left Paracentral Lobule 0 −14 −18 −26 26 80 3.99 3.91 22 11 Control Right Inferior Frontal Right Middle Cingulate 40 4 28 −12 28 36 4.90 4.25 64 12 Right Angular Right Superior Temporal 54 48 −54 −36 34 8 4.19 4.09 26 31 Left Superior Parietal Right Middle Occipita Left Middle Frontal −18 48 −44 −60 −74 −28 60 30 46 4.03 4.00 3.99 19 18 21 Right Superior Frontal Right SupraMarginal 20 60 48 −38 18 36 3.96 3.87 16 28 −66 −32 18 3.78 18 Rehearsal Left Superior Temporal Fig. 3 Areas of significantly increased activation after training (p < .001, uncorrected; extent threshold voxels = 10) 3.3 DTI の結果 対応のある t 検定を用いて訓練後の集団レベルの FA の変化が存在するかを検討した.リ ハーサル方略の訓練群と統制群において,有意な FA 値の上昇は確認できなかったが,イメー ジ方略の訓練群においてのみ,右下側頭回付近の白質領域に有意な FA 値の上昇がみられた (x, y, z = 46, −42, −16;paired t test, t (4) = 21.10; df = 3, p < 0.001, uncorrected,cluster size > 10) (Fig. 4).一方で訓練後に FA 値が減少した部位はみられなかった. 21 Fig. 4 Areas of significantly increased FA after training (p < .001, uncorrected; extent threshold voxels = 10; x = 42) 3.4 Connectivity 解析の結果 FA 値が上昇した領域である faROI を通る神経の Fiber Tracking を行った結果を (Fig. 5) に示す.Fiber Tracking により,FA 値が上昇した領域の神経繊維束は右下縦束であることが 示された.そして,全被験者の Fiber Tracking により得られた結果から,右下縦束は脳活動 が上昇した領域の中では右上後頭葉に結合していた. fcMRI 解析を行い,個人の右上後頭葉の時系列データと他の領域との相関係数を求めた後 に,イメージ方略の訓練前と後それぞれの一群の t 検定を行った結果を Fig. 6 に示す.訓練前 イメージ方略では,右ヘッシェル回 (z = 0.12, t = 4.81),右補足運動野 (z = 0.11, t = 3.71), そして左下前頭回 (z = 0.06, t = 3.18) に機能的結合がみられた.訓練後イメージ方略では, 小脳 (z = 0.29, t = 8.54),前部帯状回 (z = 0.14, t = 5.47),右角回 (z = 0.09, t = 4.85),そ して左楔部 (z = 0.11, t = 3.27) に機能的結合が確認された. (a) pre-training (b) post-training Fig. 5 イメージ方略の Tractography (Subject 1) (a) pre-training (b) post-training Fig. 6 イメージ方略の functional connectivity 22 4 考察 イメージ方略の訓練群においてのみ RST の成績は上昇傾向であり,ほかの群には変化がみ られなかった.したがって,イメージ方略はワーキングメモリ容量の増加に効果的な方略で あることが示された.イメージ方略の訓練により,成績の上昇がみられる結果は Osaka ら 17) の報告と一致しており,Baddeley ら (2000) のワーキングメモリのモデル 2) に基づくと,イ メージ方略は,視空間スケッチパッドへの情報資源の配分を行う.これにより RST において は文章の黙読との情報の干渉を防ぎ,単語の記憶ができたことが考えられる. fMRI の集団解析の結果 (Fig. 3) より,イメージの方略の訓練群のみに訓練後に前部帯状回 に有意な脳活動の上昇が認められた.前部帯状回は適切でない刺激への注意の抑制制御をす るといった,注意制御の機能を有している 22, 23) .したがって,前部帯状回の脳活動の上昇 により刺激単語以外の情報を抑制し,効果的に刺激単語を記憶できたと推測される.しかしな がら,本実験では訓練前に方略の事前調査を行っておらず,方略の統制を行えていないことり より,統制群において脳活動の上昇が認められた.つまり,訓練前後での方略の変化は脳活動 のみでは観察できないため,今後方略の統制を行った実験を行う必要がある. イメージの方略の訓練群にのみ,訓練後に右下側頭回付近において FA 値の有意な増加が認 められた.先行研究により,ヒトの成人においても訓練により白質形態が変化することが報告 されている 24, 25) したがって,FA 値の増加の理由として,ワーキングメモリ課題の訓練中 の脳活動により髄鞘形成がされたと考えられる.また faROI を通る tractography より (Fig. 5),FA 上昇領域は右下縦束であることが示され,脳活動上昇部位との関係は右後頭葉にある ことが示唆された.イメージ方略の訓練群にのみ FA 値の上昇が得られたことから,視空間ス ケッチパッドへの情報伝達は右下縦束を介して行われると考えられる.右下縦束は視覚刺激の 短期記憶と長期記憶に関連する部位であり,視覚イメージを行う上で重要な役割を担うと報告 されている 26) .したがって,右下縦束の髄鞘化により,神経ネットワーク内の連絡は効率的 なものになり,それがワーキンメモリ課題の成績向上につながったと可能性が示唆された. 一方で,右後頭葉においての機能的結合の変化は特に小脳と前部帯状回に認められた.前部 帯状回はワーキングメモリの中央実行系を担うため,本実験において視空間スケッチパッドに 関連があるとされる右上後頭葉と協調し,イメージ方略の被験者は RST を行ったものと考え られる.したがって前部帯状回と右上後頭葉の脳内ネットワークがイメージ方略において重要 なネットワークであり,その流れにおいて,右下縦束の神経繊維束が関係していることが示唆 された.しかしながら,右上後頭葉と前部帯状回の協調の度合いを示す相関係数は 0.14 と低 かった.この結果は,実験課題と設計の複雑さが原因だと考えられる.課題である RST では, 後頭葉は視空間スケッチパッドとして働く他に視覚野として,視覚刺激の認識を担う.した がって,中央実行系としてはたらく前部帯状回との協調以外の機能を有するため,BOLD 信号 の相関が低くなったと考えられる.また,本実験ではタスクが RST,Recognition,Read と 3 つがあり,前部帯状回では RST のみ,後頭葉では RST,Recognition,Read の 3 つの条件 全てにおいて脳活動が生じると考えられる.つまり,後頭葉はイメージだけではなく視覚処理 も行っているため,前部帯状回の働きと完全に同期することは難しいと考えられる.したがっ て,脳内ネットワークを時系列で判断するためには,実験課題と設計の見直しが必要である. 5 Conclusion 本稿では,異なる方略によるワーキングメモリ課題の訓練がワーキングメモリ容量と脳活 動,そして白質形態の統合性に及ぼす影響,また脳内ネットワークの変化を検討した.そのた め健常成人 13 名を被験者として介入実験を行い,ワーキングメモリ課題の訓練前後に fMRI を用いて脳活動を,DTI を用いて白質形態の統合性を計測した.その結果,イメージ方略の 訓練群のみにワーキングメモリ容量の向上が認められ,前部帯状回等に脳活動の有意な上昇, 右下縦束に FA 値の有意な上昇が確認できた.また,脳活動と右下縦束の結合は右上後頭葉に おいて右上後頭葉と前部帯状回との連絡により,イメージ方略のネットワークが形成されると 示唆される.したがって,訓練する方略によってワーキングメモリ容量の向上効果に差があ り,それが脳活動だけでなく白質形態にも影響を与えることが示唆された 23 参考文献 1) Alan D Baddeley and Graham Hitch. Working memory. The psychology of learning and motivation, Vol. 8, pp. 47–89, 1974. 2) Alan Baddeley. The episodic buffer: a new component of working memory. Trends in cognitive Sciences, Vol. 4, pp. 417–423, 2000. 3) Marcel Adam Just and Patricia A Carpenter. A capacity theory of comprehension: Individual differences in working memory. Psychological Review, Vol. 99, pp. 122–149, 1992. 4) Patrick C Kyllonen and Raymond E Christal. Reasoning ability is (little more than) working-memory capacity. Intelligence, Vol. 14, pp. 389–433, 1990. 5) T Klingberg. Limitations in information processing in the human brain: neuroimaging of dual task performance and working memory tasks. Progress in brain research, Vol. 126, pp. 95–102, 2000. 6) Meredyth Daneman and Patricia A Carpenter. Individual differences in working memory and reading. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, Vol. 19, pp. 450–466, 1980. 7) N P Friedman and A Miyake. 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Impairment of Inferior Longitudinal Fasciculus plays a Role in Visual Memory Disturbance. Neurocase, Vol. 13, pp. 127–130, 2007. 24 第 36 回 月例発表会(2014 年 07 月 31 日) 医療情報システム研究室 圧電セラミックセンサを用いたベッド上における 行動検知システム 佐藤 琢磨 Takuma SATO 背景:ベッド周辺における医療事故により,入院期間の延長や医療訴訟につながる事例が多く臨床の課題となっている. 研究目的:センサから得られた情報により就床,離床,寝返りの方向,ベッド転落の予知と検知を行う. 発表の位置づけ:就床,離床,寝返りの方向の識別を行う. 方法:累積積分波形の増減を特徴量とした決定木を用いることで,就床,離床,寝返りの方向の検知を行う. 結果:累積積分波形の増減を特徴量とすることで識別を行うことができた. はじめに 1 日本をはじめとする先進国では高齢社会が深刻な問題となっている.これに伴い,病院に入 院する高齢者の割合が増加し,ベッド転落事故の増加が懸念されている.全国の総合病院を対 象とした統計によれば, 転倒転落事故は, 注射事故に次いで 2 番目に発生頻度が高い医療事故 となっている 1) .ベッド転落は,骨折や脳内に重篤な障害をもたらすクモ膜下出血などの損 傷をきたすことがあり,本来の治療に要する日数以上に入院が長くなることや,在宅への復帰 が困難になる事例も報告されている 2) .また,認知症患者や精神疾患患者の徘徊は転倒や自 殺,凍死につながる危険性がある.これらは,医療訴訟に発展することもあり 3) 患者の転落 防止は臨床の現場において重要な課題となっている 4) .それらを防止するために,医療機関 では身体拘束を行うこともあるが,現状では患者の生活の質の観点から難しい 5) .そのため, 昼夜を問わず看護師の定期的な見廻りが行われている.しかし,定期的な見廻りや看護計画 だけではベッド転落事故を完全に防げておらず 3) ,より効果的な対策を講じなければならな い.そこで,ベッドにおける患者の動作や状態を検知するため,様々なシステムが開発され, 臨床の現場で利用されている.商品化されている検知システムとしては,圧力センサを埋め込 んだマットをベッドの下に置くものや,クリップ式のセンサを衣服にとりつけるものなどがあ る 6) 7) .事故の多くは看護師が少ない夜間に発生する場合が多く,発見が遅れ重篤な状態に 陥る危険がある.これらの検知システムはこの危険を防ぐことに有用であるが,転落や徘徊の 予兆を検知し防ぐことはできない.そこで,本研究ではベッドの左右の 2 本脚に圧電セラミッ クスセンサをそれぞれ 1 つ配置した安価なベッド上での行動検知システムを提案し,センサ波 形から就床,離床,寝返りの方向の識別を行った. 2 実験環境 ベッドの脚 4 本に村田製作所製の圧電セラミックセンサを取り付けたシステムを提案する. このシステムを Fig. 1 に示す.圧電セラミックセンサは圧力の変化に応答するセンサであり, 圧力がかかると正,緩むと負の電位が生じるように電位の基準を設定した.このセンサには ベッド上における行動検知のために開発された価格の高いセンサではなく,時計,電卓,デ ジタルカメラ,防犯機器などの各種電子機器に用いられる圧電セラミックセンサを用いた.ま た,実験ではセンサから得られた信号を解析するため,被験者の状態をリファレンス用カメラ で録画し,センサのサンプリング周期は 1ms とした. 25 セラミックセンサ CH1 CH2 A/Dコンバータ CH4 (a) 圧電セラミックセンサ CH3 (b) 状態推定システムの概要 Fig. 1 状態推定システムの実験環境 提案システム 3 3.1 提案システムの概要 本システムではベッド上における患者の就床,離床,右方向への寝返り,左方向への寝返り を識別することを目的とする.本研究では,就床とは患者がベッドに入る動作,離床とはベッ ドから離れる動作,右方向への寝返りとは患者から見て右方向に移動する動作,左方向への寝 返りとは患者から見て左方向に移動する動作と定義する.これらを識別するシステムの流れを Fig. 2 に示す.まず,ベッドの脚に設置された圧電セラミックセンサから圧力変化を時系列信 号として取得し,データ処理を行う.このときサンプリング周期は 1ms とした.次に,この 信号から各動作の識別に使用する特徴量を取得する.最後に得られた特徴量から識別器であ る C4.5 アルゴリズムにより作成した決定木を用い各動作パターンに分類を行い,この結果を 出力として返す. センサ⼊⼒ 特徴量抽出 前処理 決定⽊による識別 Fig. 2 提案システムにおける識別の流れ 3.2 データの前処理 前処理では圧電セラミックセンサから得られた波形に重ね合わせ,累積積分,移動平均の 3 種類の処理を行う.まず重ねあわせ処理では頭部側の左右 2 つのセンサの信号を加算,減算し 2 種類の波形を作成する.つぎの累積積分処理では,重ねあわせによって得られた加算,減算 波形に対し累積積分処理を行う.ベッド上において患者が動作を行う際,ベッドは振動するた め,センサから得られる波形も振動する.累積積分処理を行った波形をみることで,動作時に 各センサのチャネルにおいて圧力が相対的にかかる状態にあるのか,あるいは緩む状態にある のかを判断することができる.Fig. 3 の上段に圧電セラミックセンサから得られた累積積分処 理前の信号を,下段にこの信号に累積積分処理を行った信号を示す.累積積分前の信号は振動 しており,相対的に圧力がかかる状態にあるのか,緩む状態にあるのか判断できない.累積積 分処理を行うことで増加していることがわかり,圧力が相対的にかかる状態にあることがわか る.前処理の最後の処理として,平滑化処理である移動平均処理を 0.3 秒の窓をずらしながら 行った. 26 Fig. 3 累積積分処理による相対圧力 3.3 状態推定システムにおける特徴量 就床,離床,寝返りの方向の識別には累積積分波形の増減量を特徴量として識別を行った. 以下に,各動作と累積積分波形の増減量との関係を示す. 3.3.1 就床波形 就床動作において積分処理を行った波形を Fig. 4 に示す.就床時,全チャネルにおいて圧 力がかかるため,全てのチャンネルは正の電位をもつ.したがって,和における重ね合わせ波 形は正の値をもつ. Fig. 4 就床動作 3.3.2 離床波形 離床動作において積分処理を行った波形を Fig. 5 に示す.振幅が減少を示した理由として, 右方向への寝返りをしたためだといえる.したがって,和における重ね合わせ波形は負の値を もつ. Fig. 5 離床動作 27 3.3.3 寝返り波形 左方向への寝返り,右方向の寝返りにおいて,CH1 の信号から CH2 を引き前処理を行った 波形を Fig. 6 に示す.右方向への寝返りでは寝返り時に波形の振幅が増加し,その後得られ た波形は一定値を取り続ける.これは右方向への寝返り時,CH1 において圧力がかかるため CH1 は正の電位をもつ.また CH2 は圧力が緩むため負の電位を持つためである.左方向への 寝返りでは寝返り時に波形の振幅が減少し,その後得られた波形は一定値を取り続ける.これ は左方向への寝返り時,CH2 において圧力がかかるため CH2 は正の電位をもつ.また CH1 は圧力が緩むため負の電位を持つためである.これらのことから,被験者から見て右側から左 側に移動すると振幅が減少,左側から右側に移動すると増加するといえる. (a) 左方向の寝返り (b) 右方向への寝返り Fig. 6 寝返り動作 3.4 特徴量抽出 特徴量抽出として累積積分波形から増減量の抽出を行った.増減量の抽出方法として,0.3ms の窓を設け,窓を移動させながらその窓内のサンプルにおける回帰直線を求める.この回帰直 線の傾きを微分係数とみなし,累積積分波形の増減開始点,終了点を求め,この差分をとるこ とで増減量を抽出した.Fig. 7 にこの手法を用いて取得した増加開始点,終了点を示す.回帰 直線の傾きを用いることでノイズの影響を減らし局所的な増減を取ることを防ぎ,取得した い動作による増減値を得ることができる. Fig. 7 回帰直線を用いた増減量の取得 28 3.5 決定木を用いた識別 2 つの圧電セラミックセンサの加算により得られた波形を就床,離床検知波形とし,減算に より得られた波形を右方向への寝返り,左方向への寝返り検知波形とした.得られた増減量を 加算波形においては就床,離床,ノイズ,減少波形においては右方向への寝返り,左方向への 寝返り,ノイズの識別を行う.また,決定木の作成には C4.5 アルゴリズムを用いた. 評価実験 4 4.1 評価方法 本システムの評価には適合率 (Precision),再現率 (Recall),F 尺度 (F-Measur) を用いた. 適合率とは,システムが返した動作数とその動作数に含まれる正解動作数の割合で定義され, 正確性を表す割合である.適合率はシステムが拾いこぼした動作を考慮しない識別率となって いる.また再現率とは,システムがどの程度拾いこぼしがなく対象動作を検出しているかを示 す割合と定義され,網羅性を表す割合である.再現率はシステムの正確性は考慮されていな い.そのため本システムの識別率は適合率と再現率を考慮し算出された F 尺度とした.以下 に正,負の 2 クラスの分類における適合率,再現率,F 尺度の定義式を示す.正例を正しく正 例と判定した数を TP (True Positive),負例を正しく負例と判定した数を TN,誤って正例と 判定された負例数を FN,誤って負例と判定された正例数を FP とした.本システムでは,例 えば就床の識別であれば正例を就床,負例を離床や寝返り,ノイズ,離床の識別であれば正例 を離床,負例を就床や寝返り,ノイズとした. P recision = 4.2 (1) TP TP + FN Recall = F − measure = TP TP + FP (2) 2Recall ∗ P recision Recall + P recision (3) 識別結果 被験者 9 人,就床 31 回,離床 23 回,左方向への寝返り 69 回,右方向への寝返り 69 回の データにおいて識別を行った.全動作において,累積積分波形の増減,減少が見られ,回帰直 線を用いた微分により増減量を取得することができた.またノイズや検知対象外動作による 増減量は 413 箇所において見られた. Table. 1 提案システムにおける各動作の識別率 識別対象 適合率 再現率 F-Measure 就床 87.1 87.1 87.1 離床 97.2 75.0 97.2 95.7 97.2 84.1 85.2 93.35 75.4 88.25 80.0 92.25 右方向への寝返り 左方向への寝返り ノイズ 5 将来の展望 本実験ではベッドにおける患者の就床,離床,右方向への寝返り,左方向への寝返りの検知 を行った.就床,離床の検知により患者の徘徊を看護者に早期に知らせることはできるが,徘 徊を防ぐことはできない.そこで,今後はベッドの振動から生体情報を抽出し離床,就床の予 知を行う.また,寝返りの検知はベッド転落の予知につながると考えているため,寝返りと転 落の関係性に関しても検討を行っていく. 29 参考文献 1) 稲吉啓, 鐘科, 田中征夫. A 病院における転倒転落アセスメント・スコア・シートの改善に 関する研究. 朝日大学経営論集, Vol. 24, pp. 1–11, 2010. 2) 山下茂子, 井坂茂夫, 田中美代子, 藤田敬子, 松田浩子, 山本利子, 市村小百合, 中村早苗, 秋 元恵子. 転倒転落防止に対する看護師の意識調査. 日本農村医学会雑誌, Vol. 55, No. 5, pp. 472–479, 2007. 3) 奥津康祐. 医療事故遭遇患者・家族のもつ感情: 訴訟事例から. 2011. 4) 荒井秀典, 長尾能雅, 森本剛, 坪山直生. 3. 大学病院における転倒対策と転倒原因の解析. 日 本老年医学会雑誌, Vol. 48, No. 1, pp. 36–38, 2011. 5) 厚生労働省. 身体拘束ゼロへの手引き, 2001. 6) 株式会社メディカルプロジェクト. 離床センサー分類. http://www.medicpro.co.jp/ posey01.html(2013.12.10). 7) 株式会社ホトロン. 離床センサー 体動コール うーご君. http://www.hotron.co.jp/ product02_3.php-i=92(2013.12.10). 30 第 36 回 月例発表会(2014 年 07 月 31 日) 医療情報システム研究室 fNIRS から得られた脳血流変化量に対する Deep Leaning を用いた被験者分類の検討 塙 賢哉 Kenya HANAWA 背景:近年,脳機能をマッピングする装置が発達したが,脳血流変化量から被験者の特徴や状態を推定することは困難 研究目的:脳血流変化量より被験者の特徴あるいは状態を推定するシステムの開発 発表の位置づけ:Deep Learning を用いた被験者の分類により,脳血流の違いが見受けられる部位を推定するための検討 方法:ホワイトノイズ音環境下における数字記憶課題時の脳血流データより男性と女性の脳血流の違いを識別器を用いて検討 結果:前頭前野背外側部付近の識別率が最も高く,本実験課題において男女の脳活動の違いが見受けられた可能性を示唆 はじめに 1 近年,非侵襲である脳機能イメージング装置の一つとして fNIRS(functional Near Infrared Spectroscopy) 装置が注目を集めている.fNIRS 装置は近赤外光を用いて血液中のヘモグロビ ン濃度変化を計測する装置である.fNIRS 装置を利用することで,特定の課題における脳血 流変化量を測定し,その脳血流変化量から脳の賦活部位の解析が行われている.しかし,脳血 流時系列データと脳機能の関連性については未だに解明されていないことが多く,脳血流変化 量から被験者の特徴や状態を推定することは困難である.そこで,脳血流時系列データに対し て機械学習の一種である Deep Learning による分類と識別を行うことで脳血流変化から被験 者の特徴あるいは状態を分類し,脳血流時系列データと脳機能の関連性を検討することを考 える.本稿では,脳血流時系列データより被験者分類を行うために fNIRS 装置で計測する課 題内容は血流変化に関係が深いことが報告されている音環境における脳血流データを用いる. 音環境が知的活動に与える影響についての研究は数多くある 1, 2, 3) .先行研究では,音環境 が知的作業に及ぼす影響の男女差について検討している.音環境には,静音,ピンクノイズ, ホワイトノイズを用い,知的作業には数字記憶課題を用いている.その結果,ホワイトノイズ の音環境において,課題成績への影響に男女差が見られたことが報告されており 4) ,課題時 の男女の脳機能には何らかの違いがあると考えられる.そこで本稿では,Deep Learning を用 いて,ホワイトノイズ音環境下における数字記憶課題時の脳血流時系列データに対して男女 の識別を行うことで,男女の脳血流変化量の違いを検討することを目的とする. 2 Deep Learning Deep Learning とは,多くの層を持った NN を用いる機械学習のアルゴリズムである.Deep Learning の学習は主に pre-trainig と fine-training に分かれる.pre-trainig とは,入力層に近 い層から順に各層において教師なし学習を用いて重みの初期化を行う前処理のことである.ま た,fine-training では主に誤差逆伝搬法 (Back Propagation) を用いる. 前処理を行うことで入力側の特徴量を効率よく出力側に伝搬できると考えられている 5) . そして,その後に誤差逆伝搬法を用いたときに出力層の誤差の拡散を防ぎ,より良い解を得る ことができる 6) .本稿では pre-training の手法として,Denoising Autoencoder を用いる. 2.1 Denoising Autoencoder Denoising Autoencoder とは入力の一部をランダムに破損させて,それを元の入力に修復さ せるために再構築を行うことで訓練される.これは,最初に確率的マッピング Cr(e x|x) によっ て,元の入力 x を x e に破損させる事によって行われる.その後,破損した入力 x e は,シグモ イド関数 f s を用いて y に写像される.またこの写像は encode と呼ばれる. y = fs (W x e + b) 31 (1) ここで,W は d’ 次元× d 次元の重み行列であり,b は d’ 次元ユニットのバイアスである.そ して写像された y は再びシグモイド関数を用いて再構築するために z に写像される.この写 像は decode と呼ばれる. z = fs (W 0 y + b0 ) (2) W’ にはよく W の転置行列が用いられる.また,b’ は d 次元ユニットのバイアスである.パ ラメータ (W,b,b ’) を再構築した際の z を元の入力 x 近づくような値に設定する.すなわ ち,学習データによって再構築した際の z と元の入力 x の誤差が最小になるように学習する. 誤差関数には交差エントロピー LH (x, z) が用いられる 7) . LH (x, z) = −x log z − (1 − x)(1 − log z) (3) パラメータをランダムに初期化した後,確率的勾配降下法 (Stochastic Gradient Descent) に よって誤差が最小になるように最適化される. W new = W old − bnew = bold − 0new b = 0old b N η ∑ ∂LH N n=1 ∂W N η ∑ ∂LH N n=1 ∂b N η ∑ ∂LH − N n=1 ∂b0 (4) (5) (6) なお,η は学習係数,N は入力データ数を表している 8) .図 1 に Denoising Autoencoder の 処理の流れを示す.また,Denoising Autoencoder を用いて,全ての層の重みの初期値を設定 する手法は Stacked Denoising Autoencoders と呼ばれる.このようにあらかじめ教師なし学 習で重みとバイアスを調整することで NN よりも遥かに巧妙な学習を行うことができる. Fig. 1 Denoising Autoencoder 2.2 Deep Learning の処理の流れ 次に Deep Learning を行う際の処理の流れを示す. step.1 各層の初期化 任意の K 層のネットワークを構築し,乱数を用いて各層間の重みを初期化する. step.2 pre-training(Stacked Denoising Autoencoders) 初めに,入力側に最も近い中間層である第 2 層目と第 3 層目の間の重みの調整を行う. 重みの調整には前節で示した教師なし学習である Denoising Autoencoder を用いる.次 に,第 2 層目と第 3 層目の重みを固定し,同じように第 3 層目と第 4 層目の間の重みの 調整を行う.第 3 層目の入力信号には,固定した際の重みを用いた第 3 層目の出力信号 を用いる.以降同じ処理を K-1 層まで行う. step.3 fine-training(Back Propagation) 最後に誤差逆伝搬法によりネットワーク全体の重みの調整を教師あり学習を用いて 行う. 32 Fig. 2 step1.ネットワークの構築 Deep Learning を用いた脳血流変化量による男女の識別 3 本稿では,ホワイトノイズ音環境下における短期数字記憶課題において男女の脳血流変化の 違いから機械学習の一種である Deep Learning を用いて男女の分類の検討を行うことを目的 とする. 3.1 使用データ 使用する fNIRS データを以下に述べる.fNIRS 装置 (ETG-7100,日立メディコ製,サンプ リング周波数:10Hz) を用いて脳血流変化を計測した.被験者は成人男性 11 名 (平均年齢: 22.5 ± 1.5 歳,利き手:右,1 名のみ左),成人女性 11 名 (平均年齢:22.5 ± 1.5 歳,利き手: 右) である.なお,計測は室温 22.4∼25.1 ℃,湿度 40∼61 %の環境で 11:00 ∼17:00 の時間帯 に行った.fNIRS 装置のプローブは国際 10-20 法に従い配置した.また,本稿ではホワイトノ イズ (音圧レベル 65.0 ± 0.5[dB]) を音刺激として与えたときの数字記憶課題に対する脳血流 変化より男女を分類するため,先行研究で男女の脳血流変化の違いが報告されている左側頭 部(計 24CH)の酸素化ヘモグロビン濃度変化のデータを使用する 4) .また,データ区間は 途中で体動と考えられるノイズが見受けられたので,比較的安定していた課題開始時から 60 秒間の脳血流変化を用いる. 計測の流れ 3.1.1 計測は,知的作業時にホワイトノイズを提示し,安静時は静音状態を保つようにした.課題 の提示は,ノートパソコンに接続した液晶ディスプレイで行い,ディスプレイの左右に設置し たスピーカを通して音を出力した.知的作業として行った数字記憶課題は,被験者により知的 作業の終了時間が異なるため,イベントデザインで設定した.計測の流れを Flow1-6 と図 3 に 示す. Flow1.安静:30 秒間画面を注視しながら指を動かす. Flow2.作業 (記憶):ランダムに円形に表示される 8 個の数字を 3 秒間で記憶する. Flow3.作業 (保持):1 秒間記憶を保持する. Flow4.作業 (入力):記憶した数字を 順番通りに 7 秒以内に入力する. Flow5.作業 (繰り返し):Flow2-5 を 30 回繰り返す. Flow6.安静:30 回秒間画面を注視しながら指を動かす. ここで,計測の流れにおいての Flow2-5 の課題時をタスク区間,Flow1,6 の安静時をレスト 区間とする.ローパスフィルタは 1.0Hz,移動加算平均処理のサンプルは 10 秒間に設定した. 3.2 データセット 左側頭部の 24CH 分の酸素化ヘモグロビン濃度変化から全被験者 22 人分の特徴量を抽出し た.1 人分の特徴量の抽出には,数字記憶課題時の時系列データにおいて,各チャンネルの課 題開始から 60 秒間の 1 秒間隔の平均値 (60 サンプル) を用いた.また,各チャンネルごとに 33 静音 30s ホワイトノイズ呈示 180~330s 記憶(3s) 解答(7s以内) 9 2 5 6 4 1 0 3 レスト 静音 30s 92630145 タスク レスト Fig. 3 数字記憶課題の計測の流れ min-max 正規化を行った.図 4 に抽出した被験者 1 人分の特徴量の例を示す.また,特徴量 に対して識別を行うために男性を 0.0,女性を 1.0 の値でラベリングした. Fig. 4 被験者 1 人分の特徴量の例 3.3 Deep Learning を用いた脳血流による男女分類 上記で示した脳血流変化量の特徴量を用いて,CH ごとに男女の識別を行った.入力層の各 ニューロンには被験者 1 人分の抽出した特徴量 1CH 分を用い,出力層でラベリングされた値 に近づくように重みの学習を行う.その様子を図 5 に示す. Fig. 5 各ニューロンへの入力の様子 識別する際の妥当性を検証するために被験者 22 人に対して leave one out cross validation 1 により交差検定を行った.本稿で利用した各パラメータ等を表 1 に示す. 1 標本群から一つを抜き出し,その 1 つをテスト事例とし,残りを訓練事例とする.その後,残りの標本群をそれ ぞれテスト事例としてデータセットの個数回検証を行い,結果を平均して 1 つの推定を得る 34 Table. 1 Data information Type Parameters Total dataset 22 Pre-training Fine-training Stacked Denoting Autoencoders Back Propagation Cross validation Threshold function leave one out cross validation Sigmoid function Fig. 6 ネットワークの構造 3.4 結果・考察 図 6 に本稿で用いたネットワークの構造を示す.各層のニューロンの数は入力層を 60,中 識別率[%] 間層は 2 層構造で入力側から 80,80 とし,出力層は 1 と設定した. CH Fig. 7 各チャンネル (CH) ごとの識別率 Fig. 8 左側頭部のチャンネル (CH) の配置 図 7 に各 CH の識別率の結果を示す.図 7 より,5,11,13,14,17,21CH で 65%以上の 識別率を得た.また,図 8 にこれらの CH の配置を示す.図 8 より,識別率が高い CH は前頭 前野背外側部付近に集中していることがわかる.この結果,本実験課題において男性と女性で 前頭前野背外側部の脳活動に違いが存在する可能性が示唆された. 35 4 まとめ fNIRS 装置で計測した脳血流時系列データに対して,Deep Learning を用いることによって 被験者の分類を行った.本稿では,ホワイトノイズ音環境下における数字記憶課題時の脳血流 時系列データから男性と女性の識別を行うことで.脳血流の違いが見られる部位を推定した. その結果,左側頭部の前頭前野背外側部において 65%以上の確率で男性と女性を正しく識別 することができた.これより,本実験課題において男性と女性で前頭前野背外側部の脳活動に 違いが存在する可能性が示唆された. 参考文献 1) 中山実, 清水康敬: 音環境が与える音読速度への影 響と瞳孔面積変化, 日本音響学会誌, Vol. 45, pp.368-373,1989. 2) 中山実, 清水康敬: 数字記憶課題における脳波への音環境の影響, 電子情報通信学会論文 誌, Vol. J87-D-I, pp.420-423,2004. 3) 相馬洋平, 松永哲雄, 曽我仁, 内山尚志, 福本一朗: 音楽環境の違いによる作業効率に関す る人間工学的基礎研究, 電子情報通信学会技術研究報告, Vol. 105, pp.43-46,2005. 4) A. Masadumi: Gender differences in influence of sound environments on performance of the memorizing numerical string task and cerebral blood flow changes, NeuroScience, 2013. 5) D. Erhan, Y. Bengio, A. Courville, P. Manzagol, P. Vincent, and S. Bengio: Why Does Unsupervised Pre-training Help Deep Learning?, The Journal of Machine Learning Research, Vol. 11, pp.625-660,2010. 6) S. Rifai, G. Mesnil, P. Vincent, X. Muller, Y. Bengio, Y. Dauphin, and X. Glorot: Higher Order Contractive Auto-Encoder, Machine Learning and Knowledge Discovery in Databases Lecture Notes in Computer Science, Vol. 6912, pp.645-660,2011. 7) P. Vincent, H. Larochelle, I. Lajoie, Y. Bengio, and P. Manzagol: Stacked denoising autoencoders: Learning useful representations in a deep network with a local denoising criterion, The Journal of Machine Learning Research, Vol. 11, pp.3371-3408,2010. 8) P. Vincent, H. Larochelle, Y. Bengio, and P. Manzagol: Extracting and composing robust features with denoising autoencoders, ICML ’08 Proceedings of the 25th international conference on Machine learning, Vol. 307, pp.1096-1103,2008. learning, The Journal of Machine Learning Research, Vol. 15, pp.215-223,2011. 36 第 36 回 月例発表会(2014 年 07 月 31 日) 医療情報システム研究室 Gabor フィルタを用いた内視鏡画像における 早期胃癌の解析手法の検討 林沼 勝利 Katsutoshi HAYASHINUMA 背景:内視鏡画像における早期胃癌の進展範囲の診断は医師の熟練度に依存してしまう. 研究目的:内視鏡画像を定量的に解析することにより医師の診断の支援を行う. 発表の位置づけ:テクスチャ解析を用いた内視鏡画像の領域分割を行う. 方法:Gabor フィルタを用いた領域分割を行い,正常部位と病変部位の境界線検出を行う. 結果:一部の画像で正常部位と病変部位の境界線が得られた. はじめに 1 近年,早期胃癌に対する治療法の選択肢の一つに内視鏡による治療が挙げられる.内視鏡治 療は開腹手術よりも低侵襲で胃の機能を温存できるため,患者の QOL(Quality of Life)を 高める治療として注目を集めている.現在,早期胃癌の内視鏡治療では腫瘍を一括切除するこ とが原則とされている 1) .そのため,術前の進展範囲診断は極めて重要とされている. 内視鏡画像において病変範囲を識別する手法としては,八尾らが VS classification system を提唱している 2) .これは内視鏡で観察される微小血管構築像および表面微細構造を判断す ることにより病変範囲を特定している.しかし,この指標は表在血管の配列が規則的である か,胃粘膜の模様が規則的てあるかなどといった視覚的な基準である.そのため,医師の主観 による影響や熟練度による判断基準の差異が問題となる. この問題点を解決する手法としては,画像の特徴量を用いて領域分割を行うことにより定量 的に病変範囲を特定する手法が考えられる.画像の領域分割を行う手法としてはテクスチャ解 析を用いる手法が一つとして挙げられる.これまでにテクスチャ解析を用いた領域分割の方法 として同時生起行列 3) やマルコフ場モデル 4) ,Gabor フィルタ 5) を用いた手法などが提案 されている.中でも Gabor フィルタは第一次視覚野の単純型細胞をモデル化できることが知 られており 6) ,虹彩認証や掌紋認証,顔認識など様々な分野で用いられている 7, 8, 9) . そこで本研究では,正常部位と病変部位で模様のパターンが異なることに注目し,テクス チャ解析を用いた領域分割により,胃癌の病変範囲を特定する手法を提案する.本実験では, Gabor フィルタを用いて NBI(Narrow Band Imaging)内視鏡画像から特徴量を抽出し,得 られた特徴量のクラスタリングを行うことにより内視鏡画像の病変部位の境界線を検出する 手法の検討を行う. Gabor フィルタを用いた領域分割手法 2 Gabor フィルタを用いた領域分割手法の流れを Fig. 1 に示す.Gabor フィルタを用いた領 域分割では,入力画像に対して Gabor フィルタでフィルタリングを行い,フィルタリングを 行った画像の特徴量抽出をする.そしてこの特徴量のクラスタリングを行うことにより領域分 割を行う. 2.1 Gabor フィルタ 2 次元 Gabor フィルタは 2 次元ガウス関数と複素正弦波の掛け合わせで表現される.2 次元 ガウス関数のスケールを σ ,中心周波数を u0 , フィルタの回転角度を θ とすると,Gabor フィ ルタ h(x, y) は以下の式で表現される. h(x, y) = ( { }) 1 x′2 + y ′2 1 exp − exp(j2πu0 x′ ) 2πσ 2 2 σ2 37 (1) Fig. 1 Gabor フィルタを用いた領域分割の流れ [ ] [ x′ cos θ = ′ y − sin θ sin θ cos θ ][ ] x y (2) ここで j は虚数単位である.また,Gabor フィルタのフーリエ変換 H(u, v) は以下の式で表さ れる. H(u, v) = exp{−2π 2 σ 2 [(u′ − u0 )2 + v ′2 ]} [ ] [ ][ ] u′ cos θ sin θ u = v′ − sin θ cos θ v (3) (4) これより,Gabor フィルタは特定の周波数,方向に対してのみ反応するバンドパスフィルタと なっていることが分かる.フィルタリング後の画像 G(x, y) は入力画像 I(x, y) と Gabor フィ ルタ h(x, y) の畳み込み演算により得られる. G(x, y) = I(x, y) ∗ h(x, y) (5) フィルタバンクを用いた特徴抽出では,フィルタの設計が重要とされている 10) .フィルタ を設計する際,中心周波数 u0 やフィルタの回転角度 θ,ガウス関数のスケール σ を決定する 必要がある.Jain と Farrokhnia は中心周波数に以下のものを用いている 5) . √ √ √ √ u0 = 1 2, 2 2, 4 2, · · · , (Nc /4) 2 [cycles/width] (6) ここで Nc は画像の幅で,2 の冪乗とする.フィルタの回転角度に関しては,以下のものが用 いられることがある. θ = 0◦ , 30◦ , 60◦ , 90◦ , 120◦ , 150◦ (7) これは,Hubel と Wiesel が単純型細胞は 30◦ の帯域幅で敏感に反応すると推定していること による 11) .また,ガウス関数のスケール σ は周波数帯域幅 B [octave] により以下の式で決定 する. √ ln 2(2B + 1) σ=√ 2πu0 (2B − 1) (8) Pollen と Ronner は単純型細胞の周波数帯域幅が約 1 octave であることを示している 12) . 2.2 フィルタリング画像からの特徴抽出 Gabor フィルタは完全な帯域制限を行わないため,エイリアシングが発生する場合がある. そこで,Bovik らはフィルタリング画像から強度画像を算出し,ガウス平滑化を行うことにより クラスタリングの結果の改良を行っている 13) .フィルタリング後の実部の画像を Re[G(x, y)], 虚部の画像を Im[G(x, y)] とすると強度画像 E(x, y) は以下の式で求められる. E(x, y) = √ Re[G(x, y)]2 + Im[G(x, y)]2 この強調画像に対してガウシアン平滑化を行うことにより特徴抽出を行う. 38 (9) (a) img 1 (b) img 2 (c) img 3 (d) img 4 (e) img 5 (f) img 6 (g) img 7 (h) img 8 Fig. 2 使用した NBI 内視鏡画像. 黒の波線は正常部位と病変部位の境界線. (提供:京都府立 医科大学) 2.3 特徴量のクラスタリング Gabor フィルタを用いた領域分割における特徴量のクラスタリングの手法の一つとして, 非 階層型クラスタリングの k-means 法が用いられている 14) .以下に k-means 法のアルゴリズ ムを示す. Step1. 各データに対してランダムにクラスを割り当てる. Step2. 割り振られたクラスをもとに各クラスの重心を求める. Step3. 各データと各クラスの重心の距離を求め,最も重心に近いクラスに更新する. Step4. クラスの更新が収束するまで Step2. と Step3. を繰り返す. 3 実験概要 本実験では Fig. 2 に示す 8 枚の NBI 内視鏡画像に対して Gabor フィルタと用いた領域分割 を行った.部位は img1・2 が胃前庭部小弯,img3・4 が残胃小弯縫合線上,img5・6 が胃角部 大弯後壁,img7・8 が体中部小弯である.img3・4 は IIa+IIb 型と診断され,他の画像は IIc 型の早期胃癌と診断されている.画像のサイズは 256 × 256 [pixel] である.また,Gabor フィ ルタバンクを設計する際のパラメータは,中心周波数および回転角度は式 (6) および式 (7) を 用い,周波数帯域幅は 1 [octave] とした. 4 実験結果 Fig. 2 に対して Gabor フィルタバンクを用いて 2 クラスの領域分割を行い,領域の境界線 を描画したものを Fig. 3 に示す.img3 や img4 においては目標とする正常部位と病変部位と の境界線が得られていることが分かる.しかし,他の画像に関しては影やハレーションの領域 と他の領域との分割結果となってしまった. 5 考察と今後の課題 前章の結果で述べた通り,影やハレーションを含む画像ではそれらの領域と他の領域に分割 されてしまった.これは,影やハレーションの領域では画素の変化がほとんどないため,他の 領域と周波数が大きく異なっていることが原因と考えられる.Gabor フィルタは特定の周波 数のみに応答して特徴量を抽出するため,影やハレーションに偏ったクラスタリングが行われ 39 (a) img 1 (b) img 2 (c) img 3 (d) img 4 (e) img 5 (f) img 6 (g) img 7 (h) img 8 Fig. 3 2 クラス領域分割の結果.白色の線は領域分割結果の境界線. てしまった.そのため,今後は Gabor フィルタをかける前にこれらの領域に対して画像の前 処理を行う必要があると考えられる.また,k-means 法は画像上の位置情報に関係なくクラス タリングを行うため,連続した領域でなくても同じクラスに分類されてしまう可能性がある. この点に関しても今後,位置情報に基づいたクラスタリング手法を検討する必要がある. 6 まとめ 本稿では,内視鏡画像における正常部位と病変部位の境界線検出を目標として,内視鏡画像 に対してテクスチャ解析手法の一つである Gabor フィルタを用いた領域分割を行った.本手 法では Gabor フィルタバンクを構築し,特徴量を抽出した後,クラスタリングを行う.実験 としては,8 枚の NBI 内視鏡画像に対して Gabor フィルタを用いた境界線検出を行った.そ の結果,一部の画像では正常部位と病変部位の境界線を検出することができた.しかし,影や ハレーションを含む画像ではそれらの領域とそれ以外の領域の境界線が得られた.今後は,画 像の前処理やクラスタリング手法の検討が必要である. 参考文献 1) 日本胃癌学会(編). 胃癌治療ガイドライン. 金原出版, 2010. 2) K. Yao, G. K. Anagnostopoulos, and K. Ragunath. Magnifying endoscopy for diagnosing and delineating early gastric cancer. Endoscopy, Vol. 41, No. 5, pp. 462–467, 2009. 3) A. Baraldi and F. Parmiggiani. An Investigation of the Textural Characteristics Associated with Gray Level Cooccurrence Matrix Statistical Parameters. IEEE Trans. Geoscience and Remote Sensing, Vol. 33, No. 2, pp. 293–304, 1985. 4) B. S. Manjunath and R. Chellappa. Unsupervised Texture Segmentation Using Markov Random Field Models. IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 13, No. 5, pp. 478–482, 1991. 5) A. K. Jain and F. Farrokhnia. Unsupervised Texture Segmentation Using Gabor Filters. Pattern Recognition, Vol. 24, No. 12, pp. 1167–1186, 1991. 6) J. P. Jones and L. A. Palmer. An Evaluation of the Two-Dimensional Gabor Filter Model of Simple Receptive Fields in Cat Striate Cortex. Journal of Neurophysiology, Vol. 58, No. 6, pp. 1233–1258, 1987. 40 7) J. G. Daugman. High Confidence Visual Recognition of Persons by a Test of Statistical Independence. IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 15, No. 11, pp. 1148–1161, 1993. 8) D. Zhang, W. Kong, J. You, and M. Wong. Online Palmprint Identification. IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 25, No. 9, pp. 1041–1050, 2003. 9) L. Wiskott, J. M. Fellous, N. kr¨ uger, and C. Malsburg. Face Recognition by Elastic Bunch Graph Matching. IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 19, No. 7, pp. 775–779, 1997. 10) D. A. Clausi and M. E. Jernigan. Designing Gabor filters for optimal texture separability. Pattern Recognition, Vol. 33, No. 11, pp. 1835–1849, 2000. 11) D. H. Huble and T. N. Wiesel. RECEPTIVE FIELDS AND FUNCTIONAL ARCHITECTURE IN TWO NONSTRIATE VISUAL AREAS (18 AND 19) OF THE CAT. Journal of Neurophysiology, Vol. 28, No. 2, pp. 229–289, 1965. 12) D. A. Pollen and S. F. Ronner. Visual cortical neurons as localized spatial frequency filters. IEEE Trans. Systems, Man and Cybernetics, Vol. SMC-13, No. 5, pp. 907–916, 1983. 13) A. C. Bovik, M. Clark, and W. S. Geisler. Multichannel texture analysis using localized spatial filters. IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 12, No. 1, pp. 55–73, 1990. 14) A. Khanna, M. Sood, and S. Devi. Us image segmentation based on expectation maximization and gabor filter. International Journal of Modeling and Optimization, Vol. 2, No. 3, pp. 230–233, 2012. 41 第 36 回 月例発表会(2014 年 7 月 31 日) 医療情報システム研究室 問診アプリケーションのための LOD の検討 三島 康平 Kohei MISHIMA 背景: 近年医療機関において様々な箇所で電子化が進んでいる.その代表的なものとして電子カルテが挙げられる 研究目的: 動的にすることにより汎用性を高め,患者の症状に合わせた情報を柔軟に抽出できる問診票アプリケーションの開発 発表の位置づけ: LOD を用いて情報を統合的することにより,病状の詳しい情報や視覚的にも分かりやすい電子カルテの提案 方法: SPARQL を用いて情報を引きだし,HTML 上でその情報を表示する 結果: SPARQL 問い合わせによって得られたデータを D3.js を用いて可視化した 1 はじめに 近年医療機関において様々な箇所で電子化が進んでいる.その代表的なものとして電子カル テが挙げられる.電子カルテとは,従来紙媒体であったカルテの代わりに,コンピュータに患 者の医療情報を書き込んでいくシステムである.電子カルテを使用することにより,データの やり取りや保管が容易になることや患者の待ち時間を減らすなどの利点がある.また,電子カ ルテ作成において必要な情報は問診から得られた情報が多くを占めているため,問診票も紙 媒体ではなく電子化されてきている.電子化された問診票アプリケーションを利用することに より,患者が入力を行うと,医師のコンピュータに情報が届き,スムーズに診断が可能になる ことが挙げられる.さらに,データとして得られた患者の症状を処理することによって,疑わ しき病名を出力するシステムを構築することも可能になる.問診票とカルテの電子化は医療 の質の向上にとても有効であり,様々な病院に適用されている. しかし,既存の問診票アプリケーションは静的な質問に対する限定的な情報しか扱えなかっ た.そのため,用途に合わせた問診票アプリケーションを選択する必要があることや,患者の 詳しい情報を抽出することが困難であった.また,問診票アプリケーションによって得られた 電子カルテは,カルテの形式や専門用語など医療に素人である患者には分かりづらいもので あった.そこで,より患者のことを考えた問診票アプリケーションが必要である.そのため に,問診票アプリケーションを動的にすることにより汎用性を高め,患者の症状に合わせた情 報を柔軟に抽出できる.その詳しい情報により,生成される電子カルテも患者によって見やす い形に表示形式を変えていくことによって,患者のための問診票アプリケーションを作成可能 である. 本稿では,患者にも分かりやすい電子カルテ作成の提案を行う.そのためには,問診の質 問項目に関するデータや病院に関するデータ,また疾患に関するデータが必要になってくる. その必要なデータは web 上の蓄積されているデータを活用することによって補える.そこで, web 上に蓄積されたデータを使うために LOD ( Linked Open Data ) を用いる.LOD を用い て情報を統合的に表示することにより,病状の詳しい情報や視覚的にも分かりやすい電子カル テの作成が可能になる. 2 LOD ( Linked Open Data ) LOD とは,Linked Data の方法を Open Data に適用したものである.それにより,web 上 で情報を統合的に利用することが出来る.この Linked Data はセマンティック web の概念を もった形式であり,この概念をもつことによりデータを構造化し,web 上で相互的にリンク付 けなど情報を利用しやすくすることが出来る. 42 2.1 セマンティック web セマンティック web は web 上の情報を機械的に処理するための枠組みである.セマンティッ ク web では,HTML1 文書を人工知能的に解析して内容を機械に理解させるのではなく,機械 的に処理可能なメタデータを HTML 文書に反映させることができる.W3C2 によって web リ ソースのためのメタデータ記述形式として RDF3 が策定されており,主語 ( Subject ) と述語 ( Predict ) と目的語 ( Object ) の RDF トリプル ( RDF Triple ) の集まりとして定義されて いる.このトリプルはグラフ理論におけるグラフで表現できる.通常のリソースを丸で示し, テキストノードを四角で示す.トリプルの関係はこれらのノードを述語を重みとしたエッジ で結ぶことで表現する.問診票の質問項目を例に挙げて説明すると,主語は「部位」,述語は 「具合の悪い箇所」,目的語は「頭」となり,Fig. 1 のような構造で表現する.LOD では,あ らゆる事物に対して URI ( Uniform Resource Identifier ) を付与することを原則としている ので,Fig. 2 のように URI を用いて表現する. Fig. 2 Example of RDF Triple with URI Fig. 1 Example of RDF Triple 2.2 LOD の利点 LOD の一種である Linked Data はセマンティック web の概念をもつ形式であり,構造化さ れたデータを web 上で相互的にリンクづけして,それらを公開できる一連の仕組みを提供す る実践的方法である 1) .その方法を Open Data4 に適用することにより情報を多くの人々へ 広くかつ迅速に伝えることが可能になる.例えば,地図のデータと交通事故などのデータをリ ンクさせることにより,通行止めになっている場所を地図上で確認することができ,目的地ま での最適なルートを迅速に確認することが出来る.このように,web 上の情報を統語的に把握 することにより新たな情報の使い方や価値が見いだされるといったメリットがある. 提案アプリケーションの概要 3 本章では提案アプリケーションとして,動的な質問に対応した問診アプリケーションと,LOD を用いて分かりやすい電子カルテの作成過程の概要を述べる. 3.1 動的な質問へのアプローチ 静的な問診アプリケーションでは,あらかじめ質問項目や答え方が決まっていたため,患者 のより詳しい診断は困難であった.そこで,動的な問診アプリケーションのために質問項目や 答え方を決めておくのではなく,患者自身によって好きなように答えてもらって,それを解析 し新たな質問を提示していく.そのことにより,患者のより詳しい情報を診ることができ,精 度の良い診断が行えると考えられる. 3.2 患者のための電子カルテ作成へのアプローチ 2 章で述べた LOD を用いることによって,電子カルテから視覚的かつ分かりやすい情報を 提供できると考えている.そこで,問診アプリケーションによって得られた電子カルテの情報 から患者にとって有益な情報を付与する.参考として以下に示すようなアプリケーションを考 えている.具合の悪い箇所として, 「頭」と選択されたらその箇所に関する画像を表示すると いものである. 1 Hyper Text Markup Language の略.web 上の文書を記述するためのマークアップ言語である. Wid Web Consortium の略.web で利用できる技術の標準化をすすめる国際的な非営利団体 3 Resource Description Framework の略.情報についての情報(メタデータ)の表現方法についての枠組み 4 特定のデータが,一切の著作権や特許などの制限なしに,全ての人が利用・掲載できるデータ 2 World 43 4 提案アプリケーション開発の状況 現状では,LOD を用いて画像表示を行った.今回は SPARQL5 と HTML での動作確認のた め,リファレンスを参考に検索しやすいロックスターの画像に絞った.方法としては,DBpedia Japanese6 にある SPARQL エンドポイント7 から SPARQL を用いて,ロックスターに関連し た画像を検索する.その SPARQL 問い合わせには,対象となる RDF データから指定した条 件のデータを取り出す SELECT 文から,主語と述語と目的語の形式を用いて情報を引き出す. Fig. 3 に DBpedia Japanese の SPARQL エンドポイントを示している.これを用いてロック スターに関した画像検索の方法の一例を Fig. 4 に,その結果を Fig. 5 示す.SPARQL 問い合 わせによって得られたデータを D3.js を用いて可視化した.その結果を Fig. 6 に示す. Fig. 4 Example of RDF Triple with URI Fig. 3 Example of RDF Triple Fig. 5 A Part of Result by Searching Fig. 6 Rock Stars from DBpedia Japanese 5 Simple Protocol and RDF Query Language の略.RDF グラフに対する標準化されたクエリ言語である からの構造化コンテントを抽出したものであり,抽出された構造化情報は web 上で利用可能である. 7 RDF Store(RDF を格納するデータベース)への SPARQL クエリを受け付ける URI のこと 6 wikipedia 44 5 今後の展望 SPARQL を用いたデータの検索方法や抽出したデータの取り扱いができるようになった. 今後は医療データに関連した画像や症状に関連する情報などを統合的に表示できるようにす る.医療データの画像は BodyParts3D がなどが提供しているものを使うと,Fig. 7 のように 視覚的にも分かりやすい画像を提示することができる.Fig. 7 は, 「show head」ボタンを押す と BodyParts3D から頭部の画像を表示するという LOD を用いたアプリケーションのイメー ジ図である.今後,これをカルテ情報から詳しい図を提示できるようにする.症状に関連する 情報は DBpedia japanese から抽出できる.LOD のデータを取り扱う際に,SPARQL を用い て欲しい情報を入手可能だが,SPARQL の簡単な使い方を学んだ段階なので,これからもっ と SPARQL の使い方を学んでデータを自由に取り扱えるようにする. Fig. 7 Image of Application using LOD 参考文献 1) T. Heath and C. Bizer. Linked Data: Evolving the Web into a Global Data Space. Morgan and Claypool Publishers, 2011. 45
© Copyright 2024